説明

熱可塑性樹脂押出発泡断熱板

【課題】 熱伝導率が小さく長期に亘り断熱性に優れる熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリスチレン樹脂に対し、JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル系樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)である、非晶性または低結晶性ポリエステル樹脂が比較的多量に配合された混合物を基材樹脂とし、ポリスチレン樹脂に対する透過速度が速い物理発泡剤を使用した熱可塑性樹脂押出発泡断熱板であり、押出発泡時の生産安定性に優れ、発泡体表面に凹凸状の波うちがなく外観が良好であり、十分な厚み、発泡倍率および独立気泡率が高く、熱伝導率が小さく長期に亘り断熱性に優れ、特に輻射断熱性に優れ、耐熱性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が小さく長期間に亘り断熱性に優れ、高度な難燃性を有し、機械的強度にも優れる熱可塑性樹脂押出断熱板に関し、建築物の壁、床、屋根等の断熱材等の断熱材として有用な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン樹脂押出発泡体は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、板状に成形されたものが断熱材等として広く使用されている。このような発泡体は、一般に押出機中でポリスチレン樹脂を加熱溶融したのち、該溶融物に物理発泡剤を混練して得られる発泡性溶融混練物を、押出機先端に付設されたフラットダイなどから低圧域に押出発泡することにより製造されている。
【0003】
上記のようなポリスチレン樹脂押出発泡体の製造に使用される物理発泡剤は、従来は、ジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(以下、CFCという)が広く使用されてきたが、CFCはオゾン層を破壊する危険性が大きいことから、オゾン破壊係数の小さい水素原子含有塩化フッ化炭化水素(以下、HCFCという)がCFCに替わって用いられてきた。しかしながら、HCFCもオゾン破壊係数が0(ゼロ)でないことから、オゾン層を破壊する危険性が全くないわけではない。そこで近年においては、オゾン層破壊係数が0(ゼロ)であり、分子中に塩素原子を持たないフッ化炭化水素(以下、HFCという)を発泡剤として使用してきた。
【0004】
ところがこのHFCは地球温暖化係数が大きいため、地球環境保護の観点からは未だ改善の余地を残すものであった。このためオゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、地球温暖化係数も小さい環境にやさしい発泡剤を使用するポリスチレン樹脂押出発泡断熱板の製造法が検討されている。物理発泡剤として、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、シクロペンタンやイソペンタンなどの脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素(以下、これらをHCということがある)は、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であり、地球温暖化係数も小さく、地球環境の観点からは好ましい発泡剤である。現状において、HCは上記フロン類の代替発泡剤として一部使用されているものである。確かに、HCはポリスチレン樹脂に対する透過速度が空気よりも遅い。しかしながら、HCはフロン類と比べるとポリスチレン樹脂に対する透過速度が相対的に速いことから、発泡体中に残存する発泡剤に大きく依存する発泡体の熱伝導率も速く上昇してしまう。
【0005】
従って、物理発泡剤としてHCを使用して得られるポリスチレン樹脂押出発泡断熱板において、長期間に亘り断熱性を維持することにおいて改善の余地を残すものであった。
【0006】
ポリスチレン樹脂押出発泡断熱板の断熱性を改良する方法として、ガスバリアー性の高い樹脂をポリスチレン樹脂中に分散させた発泡体については、イソブタンを含む発泡剤を使用しポリスチレン樹脂にニトリル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂を添加して押出発泡断熱板を製造する方法(特許文献1、2)が提案されている。
【0007】
また発泡体製造後1ヶ月以内に、ポリスチレン樹脂押出発泡断熱板の表面に非ハロゲン系物質のガスバリアー性被膜を形成させることにより、ポリスチレン樹脂押出発泡断熱板からの物理発泡剤の散逸を抑制する技術(特許文献3)も提案されている。
【0008】
特許文献1、2に記載の発泡体は、ニトリル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂をポリスチレン樹脂に混合することにより、イソブタン等の熱伝導率の低い発泡剤の発泡体からの逸散を抑制させることにより押出発泡断熱板の断熱性を維持させる効果については記載されているが、それはガスバリアー性に優れる周知の樹脂を選択しポリスチレン樹脂に混合することにより発泡剤の逸散を抑制し、発泡断熱板の気泡内への空気の流入を遅延させることにより押出直後の断熱性を向上させる技術に関する。
【0009】
更に、特許文献3に記載のスチレン樹脂押出発泡断熱板をガスバリアー性被膜で被覆する方法においては、製造するために特別な装置を必要とするうえに、押出発泡断熱板の切断加工や、釘などの金具により押出発泡断熱板の施工時に被膜が傷つけられると断熱性能が維持できなくなるため、実用性に劣るといった問題があった。
【0010】
一方、ポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂との混合物を押出発泡してなる発泡シート(特許文献4)も提案されている。特許文献4に記載の発泡体は、容器等に成形される熱成形用の発泡シートに係り、発泡体の厚みが薄く、発泡倍率も小さなものであって、本発明の長期の断熱性を維持することを目的とする高厚み、高発泡倍率のものではない。ポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂を単に混合しても高厚み、高発泡倍率の良好な発泡成形体を得ること自体が困難であることは周知の通りであり、特許文献4に記載の発泡シートにおいて、ポリエステル樹脂とポリスチレン樹脂とを混合する目的は、ポリスチレン樹脂発泡シートの耐油性の向上を目的とするものにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−131719号公報
【特許文献2】特開2006−131757号公報
【特許文献3】特開2002−144497号公報
【特許文献4】特開2000−136258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、前記のポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂との混合物の押出発泡技術について種々の検討を重ねた結果、ポリスチレン樹脂とポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とする押出発泡技術において、ポリエステル系樹脂の結晶化開始温度がポリスチレン系樹脂の発泡温度よりも高く、結晶化速度も速いことから押出機内にて基材樹脂を発泡温度まで冷却する前にポリエステル樹脂の結晶化が開始してしまい高厚み、高発泡倍率の押出発泡成形性の悪化を招いていたという知見を得、更に鋭意研究を重ねた結果、ポリスチレン樹脂と、非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とすることにより、ポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とする高厚み、高発泡倍率の良好な発泡成形体を得るこができると共に、フィルムのガス透過性データからガスバリアー性樹脂として扱われることのない非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂が、驚くべきことにポリスチレン樹脂と混合され高厚み、高発泡倍率の発泡成形体が形成されることにより発泡体からの発泡剤の逸散と発泡体への空気の流入を抑制する良好なガスバリアー性を示すことを見出した。
ポリスチレン樹脂と非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とする熱可塑性樹脂押出発泡体について、更に検討を重ねたところ、非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂の配合割合が比較的多い場合には、特に輻射断熱性に優れ耐熱性を有する押出発泡体が得られることが見出された。
【0013】
本発明は、ポリスチレン樹脂に対する透過速度が速い物理発泡剤を使用した場合にも、基材樹脂の熱伝導率を低下させ、熱伝導率が小さく長期に亘り断熱性に優れ、特に輻射断熱性に優れ、耐熱性を有する熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)ないし(5)に記載する発明を要旨とする。
(1)熱可塑性樹脂押出発泡断熱板において、該押出発泡断熱板を構成する熱可塑性樹脂がポリスチレン樹脂と、下記の条件を満足するポリエステル樹脂との混合物であり、該ポリエステル樹脂の配合量がポリスチレン樹脂100重量部に対して30〜400重量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
条件:JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル系樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)。
【0015】
(2)前記ポリエステル樹脂の配合量が、ポリスチレン樹脂100重量部に対して150重量部超、300重量部以下であることを特徴とする上記(1)記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【0016】
(3)前記熱可塑性樹脂押出発泡板の厚み方向平均気泡径が0.05〜0.3mmであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【0017】
(4)前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜80モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体から選択されるものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【0018】
(5)前記ポリエステル樹脂が、ネオペンチルグリコールを10〜40モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体から選択されるものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【発明の効果】
【0019】
本発明による熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、ポリスチレン樹脂にポリエステル樹脂が配合された混合樹脂からなるものであるにもかかわらず、押出発泡時の生産安定性に優れ、発泡体表面に凹凸状の波うちがなく外観が良好であり、十分な厚み、発泡倍率および独立気泡率が高く良好な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板である。
そして、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、ポリスチレン樹脂に非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂が混合されることにより、基材樹脂自体の熱伝導率が低下しており、特に輻射断熱効果に優れているため、低い熱伝導率が長期に亘って維持され優れた断熱性能を保持することができ、省エネ、環境対応技術として、建築、土木用断熱材として有用である。
【0020】
また、前記非晶性または低結晶性ポリエステル樹脂が、特に環状エーテル骨格を有するグリコールを特定量含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるものであることにより、特に耐熱性の優れた発泡体となり、高温時の寸法安定性が要求される屋根や外壁などの外張り断熱工法用の断熱材として好適なものとなる。
【0021】
また、前記非晶性または低結晶性ポリエステル樹脂が、特にネオペンチルグリコールを特定量含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体からなるものであることにより、特に発泡体を構成する基材樹脂のガスバリアー性に優れたものとなるため更に優れた長期断熱性を示す断熱材となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板について説明する。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板(以下、発泡断熱板ともいう。)は、ポリスチレン樹脂(A)と非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂(以下、ポリエステル樹脂(B)ともいう。)との混合物を基材樹脂とする。
【0024】
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の気泡膜部断面において、ポリスチレン樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)が連続相をなし、連続相中に他方が分散相をなして海島構造を形成していること、特に、分散相が、連続相中で層状に分散していることが、より一層優れた長期断熱性を達成する上で望ましい。また、本発明の発泡断熱板は、海島構造ではなくてもポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)が両連続相構造をなす場合もある。
【0025】
なお、発泡断熱板の気泡膜内に層状にポリエステル樹脂の分散相を形成させた熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を得るためには、例えば該ポリエステル樹脂(B)がポリスチレン樹脂(A)との相溶性に優れ、両者の溶融粘度が近い値を示し、かつ得られる熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の見かけ密度が20〜50kg/m程度の高発泡倍率となるように調整される。
【0026】
一般に、ポリスチレン樹脂と、本発明における非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂との熱伝導率を非発泡状態、すなわちポリマー同士で比較すると、ポリスチレン樹脂に比べ該ポリエステル樹脂の方が熱伝導率は高いことから、ポリスチレン樹脂に前記ポリエステル樹脂を混合した場合には、その混合物の熱伝導率はポリスチレン樹脂単独の熱伝導率よりも高くなる。それに対して、発泡体においては、ポリスチレン樹脂単独発泡体と、ポリスチレン樹脂に非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂を混合した混合樹脂発泡体とを比較すると、混合樹脂発泡体の方がポリスチレン樹脂単独発泡体に比べ熱伝導率が低くなり、さらに、混合樹脂発泡体中の該ポリエステル樹脂の含有量が増すにしたがって熱伝導率が低下する傾向があることが見出されたことも本発明の特有の効果の一つである。
【0027】
前記混合樹脂発泡体の方が、ポリスチレン樹脂単独発泡体に比べ熱伝導率が低くなる理由は定かではないが、おそらく、ポリスチレンの赤外領域の吸収帯にさらに該ポリエステル樹脂の吸収帯が付加され、すなわち赤外領域の吸収帯が増し、混合樹脂が赤外線を吸収するためと推測される。一般的に固体状態の非発泡の樹脂では、熱は主に熱伝導の形で固体中を伝わる。そのため、非発泡の樹脂の熱伝導率は樹脂自体の熱伝導率により決定される。それに対して、発泡体では樹脂自体の熱伝導のほかに、発泡体の気泡中の気体(残存発泡剤及び大気成分)による熱伝導及びその対流によっても熱が伝わり、さらに、発泡体において気泡は幾重にも亘って形成されていることから気泡膜間の赤外線の輻射によっても熱が伝わる。ポリスチレン樹脂に前記ポリエステル樹脂を混合した混合樹脂発泡体では、前記ポリエステル樹脂の赤外線の吸収により、この輻射による伝熱を低減する効果が向上し輻射伝熱を小さくすることで断熱性を向上させるものと推測される。
【0028】
また、ポリスチレン樹脂に前記ポリエステル樹脂を混合した場合、ポリスチレン樹脂と該ポリエステル樹脂との屈折率が異なり、また混合物は完全な相溶系を呈しないために白濁を生じる。この白濁化は赤外領域まで影響し、赤外線を乱反射し、輻射による伝熱を低減する効果が向上して輻射伝熱を小さくすることで熱伝導率を低下させることにより、発泡体としたときにのみ断熱性を向上させているものとも推測される。
【0029】
本発明により得られる熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は主に建築用断熱板として使用されることから、JIS A9511(2006年)5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足する高度な難燃性が要求される。一方、本発明により得られる熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、JIS A9511(2006年)4.2で規定される熱伝導率の規格を満足することが望ましい。したがって、本発明における物理発泡剤としての熱伝導率の向上に寄与し、難燃性を阻害する炭化水素系物理発泡剤の添加は、難燃性と熱伝導率が両立するように行われ、発泡断熱板中に前記物理発泡剤(C1)が上記難燃性と上記熱伝導率の規格を両立する残存量に調整されることが一般に行われる。さらに、前記の物理発泡剤(C2)は、所望の見かけ密度を達成するために、必要な物理発泡剤量の内、難燃性を阻害する前記物理発泡剤(C1)の量を低減させるため適宜使用されている。
【0030】
前記JIS A9511(2006年)5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格と熱伝導率の規格を満足する高度な断熱性能が要求される熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、前記物理発泡剤の調整に加えて難燃剤を添加することにより調整されてきたが、本発明においては、上述の通り、基材樹脂の輻射断熱調整と考えられる効果が得られており、この効果は、発泡断熱板中の発泡剤残存量に依存しない断熱性向上効果を生むものであり長期断熱性を達成する上で有効である。
【0031】
(1)基材樹脂
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の基材樹脂には、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)が含まれる。基材樹脂中のポリエステル樹脂(B)の含有量は、ポリスチレン樹脂(A)100重量部に対し、30〜400重量部であり、好ましくは75〜400重量部、さらに好ましくは100〜350重量部、特に好ましくは150重量部超、300重量部以下である。
【0032】
本発明の特徴は、基材樹脂としてポリスチレン樹脂に非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂を配合することにある。周知のとおり、非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂の酸素、窒素、炭化水素などのガス透過速度は、結晶性ポリエステル樹脂よりも数倍高く、延伸によるガスバリアー性向上効果も殆ど期待できないことから、通常は、本発明の目的とする発泡体からの発泡剤の散逸および発泡体への空気の流入の抑制には、非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂をポリスチレン樹脂に配合することが効果的とは考え難い。また、ポリスチレン樹脂と代表的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレートとの混合物を基材樹脂として押出発泡を行うと、安定して押出発泡を行うことができないうえに、得られる発泡体も機械的物性や独立気泡率に劣るものとなる。
【0033】
しかしながら、本発明のように基材樹脂としてポリスチレン樹脂に非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂を配合した場合には、上述した発泡適性の悪化を招くことなく安定して高厚み、高発泡倍率の良好な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を製造することができる。また、ポリスチレン樹脂と該非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂との混合樹脂は、発泡体からの発泡剤の散逸および発泡体への空気の流入を抑制するに足る十分なガスバリアー性を発現することができる。なお、このガスバリアー性の発現については定かではないが、ポリスチレン樹脂と該ポリエステル樹脂とが比較的混練性に優れることから、該ポリエステル樹脂が良好に微分散することにより起こるガス透過遮蔽効果によるものと考えられる。このことは、発泡断熱板を構成する気泡膜部断面における該ポリエステル樹脂の分散状態が層状に分散した構造を示すものが、特に優れた前記ガスバリアー性能を発揮することからも裏づけられる。
【0034】
(i)ポリスチレン樹脂(A)
本発明において使用されるポリスチレン樹脂(A)としては、例えばスチレンホモポリマーやスチレンを主成分とするスチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポニフェニレンエーテル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレンアクリレート共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体、ハイインパクトポリスチレン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用される。なお、上記スチレン系共重合体におけるスチレン成分含有量は50モル%以上が好ましく、特に好ましくは80モル%以上である。
【0035】
前記ポリスチレン樹脂の中でも、スチレンホモポリマー、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポニフェニレンエーテル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体が好ましく、なかでも、スチレン単独重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体が好適である。
【0036】
本発明において用いるポリスチレン樹脂(A)は、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度(η)が500〜10000Pa・s、更に700〜8000Pa・s、特に1000〜6000Pa・sのものが好ましい。ポリスチレン樹脂(A)の溶融粘度(η)が上記範囲内であることにより、発泡断熱板を製造する際の押出成形性に優れると共に、得られる発泡断熱板が機械的強度に優れるものとなり、ポリエステル樹脂(B)との混練性に優れる観点からも好ましく、発泡体を構成するポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物がより一層良好な前記ガスバリアー性を発現することにもつながる。
【0037】
(ii)非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂(B))
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)としては、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合させる方法やポリエステル単独重合体及び/又はポリエステル共重合体のエステル交換反応等により製造されるポリエステル共重合体が挙げられる。
【0038】
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)のジカルボン酸成分について詳述する。該ジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体を使用できる。エステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1〜4程度のアルキルエステルなどのエステル誘導体、ジアンモニウム塩などの塩、ジクロリドなどの酸ハロゲン化物などを挙げることができる。ポリエステル樹脂(B)中のジカルボン酸成分単位としては、テレフタル酸、イソフタル酸、 2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、 4,4’−ジフェニルジカルボン酸、 3,4’−ジフェニルジカルボン酸、 1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、 2,5−ナフタレンジカルボン酸、 2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物等の誘導体、又はシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体、又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、 1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸,テトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で使用してもよく2種以上の複合使用でもよい。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂(B)は、主たるジカルボン酸成分単位として芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物またはその誘導体からなる酸成分単位、例えば、テレフタル酸成分単位,イソフタル酸成分単位,ナフタレンジカルボン酸成分単位、これらのジカルボン酸成分を一種類以上含むことが好ましい。
【0040】
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)のジオール成分について詳述する。該ジオール成分としては、脂肪族系及び芳香族系ジオール(二価のフェノールを含む)或いはそのエステル形成性誘導体を使用することができる。ポリエステル樹脂中のジオール成分単位としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、 1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、又は1,4−シクロヘキサンジメタノール、 1,3−シクロヘキサンジメタノール、 1,6−シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族ジオール、又は3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、スピログリコールという)等の環状エーテル骨格を有するジオールを挙げることができる。これらのジオール成分は、単独使用でもよく2種以上の複合使用でもよい。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂(B)は、主たるジオール成分単位として、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール成分単位、ネオペンチルグリコール成分単位、スピログリコールの環状エーテル骨格を有するジオール成分単位、これらのジオール成分を一種類以上含むことが好ましい。また、これらのジオール成分の合計量はジオール成分中10モル%以上、更に10〜80モル%含有することが好ましい。
【0042】
また、ポリエステル樹脂(B)が、スピログリコールの環状エーテル骨格を有するジオール成分単位、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオールから誘導される成分単位を含有する場合は耐熱性を向上させることができ、スピログリコール成分単位はジオール成分中10〜80モル%、更に20〜60モル%、特に25〜50モル%、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール成分単位はジオール成分中25〜60モル%含有することが好ましい。またネオペンチルグリコール成分単位を含有する場合は、ガスバリアー性の高いものが得られる。ネオペンチルグリコール成分単位はジオール成分中10〜40モル%好ましくは、20〜40モル%含有することが好ましい。
【0043】
本発明にけるポリエステル樹脂(B)は、例えば少量の安息香酸,ベンゾイル安息香酸,メトキシポリエチレングリコール等のごとき単官能化合物から誘導される成分単位によって分子末端を封止されていてもよい。また、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される成分単位を少量含んでいてもよい。
【0044】
ポリエステル樹脂の結晶性の程度は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸等2種以上使用してそれらジカルボン酸成分単位のモル比を変える方法や、ジオール成分としてエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノール等2種以上使用してそれらジオール成分単位のモル比を変える方法等により調整することができる。
【0045】
本発明において使用される非晶性または低結晶性のポリエステル樹脂は、JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置(以下、DSC装置という。)を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)の条件を満足するものである。なお、上記ポリエステル樹脂の吸熱ピーク熱量は、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物の発泡適性の観点から更に2J/g未満(0も含む。)が好ましい。
【0046】
本発明における発泡断熱板の気泡膜部断面において、ポリエステル樹脂(B)を層状に分散させるためには、ポリエステル樹脂(B)の溶融粘度は、ポリスチレン樹脂(A)の溶融粘度に近いほど好ましく、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度(η)が500〜10000Pa・s、更に700〜8000Pa・s、特に1000〜6000Pa・sの範囲内であることが好ましい。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の基材樹脂におけるポリエステル樹脂(B)の配合量は、ポリスチレン樹脂(A)100重量部に対し30〜400重量部、好ましくは、75〜400重量部、さらに好ましくは100〜350重量部、特に好ましくは150重量部超、300重量部以下である。ポリエステル樹脂(B)の配合割合が多い場合には、ポリエステル樹脂(B)とポリスチレン樹脂(A)との混合樹脂において、発泡断熱板として使用される一般的な厚み範囲、見かけ密度範囲のものを製造するうえで、溶融張力と溶融粘度とのバランスを調整して良好な発泡体を得る発泡成形が困難になる懸念があるが、上記の配合範囲内であれば発泡適性を維持することができ、断熱板として押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする熱伝導率の規格を満足する良好な発泡断熱板が得られる。得られる発泡断熱板の耐熱性は、従来の一般的なポリスチレン樹脂押出発泡断熱板と比べ大きく劣らなく、特にポリエステル樹脂(B)として、環状エーテル骨格を有するグリコールを含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体を選択することにより耐熱性の低下を抑制できる。
【0048】
また本発明の目的を阻害しない範囲内で、基材樹脂中に、ポリオレフィン樹脂やスチレン系エラストマーやポリフェニレンエーテル樹脂のような他の重合体を配合目的に応じて混合して使用することもできるが、そのような他の重合体の使用量は、基材樹脂中に、30重量%を上限とすることが好ましく、20重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
【0049】
(2)物理発泡剤(C)
本発明おいて、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を発泡成形する際に使用する物理発泡剤(C)としては、オゾン破壊係数がゼロ又は極めて低く、且つ温暖化係数の低いものであることが好ましい。一方、物理発泡剤(C)として、発泡断熱板の長期断熱性を考慮すると、発泡断熱板中に残存し易い物理発泡剤を該発泡剤100モル%に対して10モル%以上(100モル%も含む)、更に好ましくは20モル%以上(100モル%も含む)含有されていることが好ましい。発泡断熱板中に残存し易い物理発泡剤としては、ポリスチレン樹脂に対してガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤(C1)が好適に使用できる。なお、本発明における基材樹脂はポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂との混合樹脂であることによりガスバリアー性が向上されているので基材樹脂に対する物理発泡剤(C1)のガス透過速度は一層遅くなり、その結果断熱性能は一層向上する。
【0050】
上記のガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤(C1)の具体例としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等の炭素原子数3〜5の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭素原子数3〜6の脂環式炭化水素、trans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、cis−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィンが挙げられる。これらの物理発泡剤は単独または2種以上を併用することもできる。これらの中でも、ガス透過速度が遅く発泡剤として好適な、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタンが好ましく、イソブタンが特に好ましい。
【0051】
また、物理発泡剤(C)として、上記物理発泡剤(C1)以外にガス透過速度が比較的速い物理発泡剤(C2)も使用することができ、更に、物理発泡剤(C1)と物理発泡剤(C2)とを併用することもできる。
上記のガス透過速度が比較的速い物理発泡剤(C2)の具体例としては、塩化アルキル、アルコール類、エーテル類、ケトン類、蟻酸メチル、二酸化炭素、水等が挙げられる。
これらの発泡剤の中でも炭素原子数1〜3の塩化アルキル、炭素原子数1〜4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素原子数が1〜3のエーテル類、二酸化炭素、水等が物理発泡剤として好適なものである。炭素原子数1〜3の塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル,塩化エチル等が挙げられる。炭素原子数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等が挙げられる。アルキル鎖の炭素原子数が1〜3のエーテル類としては例えばジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチレンジメチルエーテル等が挙げられる。特に、発泡倍率向上効果などが期待できるものとして、塩化メチル、ジメチルエーテル、メタノール、エタノール、二酸化炭素、水が挙げられる。これらの物理発泡剤は単独または2種以上を併用することもできる。
【0052】
上記の物理発泡剤は優れた発泡剤であることから、得られる発泡断熱板の見かけ密度を低下させる効果があると共に、物理発泡剤(C1)は断熱性能維持に効果的であり、物理発泡剤(C2)は発泡断熱板から早期に逸散して発泡断熱板の断熱性能及び難燃性能を早期に安定化させるのに効果的である。また、二酸化炭素を使用すると、得られる発泡断熱板の気泡を小さくする効果があるので気泡調整剤の添加量を減らすことができる効果や断熱性能を向上させる効果が期待できるので好ましい。
【0053】
更に、得られる押出発泡体の製造時の安全性、押出発泡体の難燃性、断熱性の長期に亘る安定性の点から、物理発泡剤として、上記のガス透過速度が比較的速い物理発泡剤(C2)のみの使用、或いは該物理発泡剤(C2)50モル%以上と上記のガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤(C1)50モル%以下とを併用した混合発泡剤を使用することが好ましい。このような発泡剤を使用することにより、物理発泡剤(C1)の添加量を削減でき、かつ物理発泡剤(C2)は発泡直後に発泡断熱板中からその殆どが散逸してしまう。そして得られる発泡断熱板は十分な発泡倍率を確保でき、発泡断熱板中の可燃性ガス(物理発泡剤(C1))残存量を少なくすることができるため基材樹脂中に少量の難燃剤を添加することにより、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板に所望の難燃性を付与することができ、発泡断熱材中の発泡剤残存量も発泡体製造後早い時期に安定する。
【0054】
これら物理発泡剤の基材樹脂に対する添加量は所望する発泡倍率との関連で適宜選択されるが、見かけ密度が20〜50kg/cmの発泡断熱板を得るには、通常、基材樹脂1kg当たり、混合発泡剤として概ね0.5〜3モル添加され、好ましくは0.6〜2.5モルが添加される。
【0055】
(3)難燃剤
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の製造において使用できる難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく使用される。臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(アリルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルオキサイド、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、N−2,3−ジブロモプロピル−4,5−ジブロモヘキサヒドロフタルイミド、臭素化ポリスチレン、臭素化ビスフェノールエーテル誘導体などが挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。上記の臭素系難燃剤の中でも、その熱安定性が高く、高い難燃効果が得られることから、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが特に好ましい。
【0056】
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板中における難燃剤の含有量は、難燃性を向上させるとともに、発泡性の低下および機械的物性の低下を抑制するうえで、基材樹脂100重量部当たり1〜10重量部が好ましく、1.5〜7重量部がより好ましく、2〜5重量部が更に好ましい。
【0057】
さらに、本発明おいては、発泡断熱板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記臭素系難燃剤と併用して使用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物、トリフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。難燃助剤の添加量は基材樹脂100重量部に対し、ジフェニルアルカンやジフェニルアルケンの場合は好ましくは0.05〜1重量部、更に好ましくは0.1〜0.5重量部の範囲で使用され、その他の難燃助剤の場合は好ましくは0.5〜5重量部、更に好ましくは1〜4重量部の範囲で使用される。
【0058】
(4)断熱性向上剤
本発明においては基材樹脂に、断熱性向上剤を添加してさらに断熱性を向上することができる。断熱性向上剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミ等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛等の微粉末、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイトなどが例示される。これらは1種又は2種以上を使用することができる。断熱性向上剤の添加量は基材樹脂100重量部に対し、好ましくは0.5〜5重量部、更に好ましくは1〜4重量部の範囲で使用される。
【0059】
(5)その他の添加剤
また、本発明においては基材樹脂に、必要に応じて、気泡調整剤、顔料,染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を適宜添加することができる。前記気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤などを用いることができる。なかでも難燃性を阻害することがなく気泡径を調整することが容易であるタルクが好適である。特にJIS Z8901(2006年)に規定される粒径が0.1〜20μm、更に0.5〜15μmの大きさのタルクが好ましい。気泡調整剤の添加量は、該調整剤の種類、目的とする気泡径等によって異なるが、基材樹脂100重量部に対し、概ね、0.01〜8重量部、更に0.01〜5重量部、特に0.05〜3重量部が好ましい。
【0060】
気泡調整剤も他の添加剤と同様にマスターバッチを調製して使用することが添加剤の分散性の点から好ましい。気泡調整剤のマスターバッチの調製は、例えば、気泡調整剤としてタルクを使用した場合、基材樹脂に対してタルクの含有量が20〜80重量%となるように調製されることが好ましく、30〜70重量%となるように調整されることがより好ましい。
【0061】
以下、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の諸物性について詳述する。
(i)見かけ密度
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の見かけ密度は、20〜50kg/cmのものが好ましい。見かけ密度が小さすぎる場合は、発泡断熱板を製造すること自体かなり困難であり、用途によっては機械的強度が不十分なものとなる。一方、見かけ密度が大きすぎる場合は、発泡断熱板の厚みを相当厚くしない限り、充分な断熱性を発揮させることが困難であり、また軽量性の点からも好ましくない。
【0062】
(ii)厚み
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、その使用目的から厚みが10〜150mmのものが好ましい。厚みが薄すぎる場合は、断熱材として使用する場合に要求される断熱性が不十分となる虞がある。一方、押出機の大きさにもよるが、厚みが厚すぎる場合には発泡成形が難しくなる虞がある。なお、厚みは15〜120mmのものがより好ましい。
【0063】
(iii)平均気泡径
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の厚み方向平均気泡径は、好ましくは0.05〜2mmであり、より好ましくは0.06〜0.8mmであり、さらに好ましくは0.06〜0.3mmである。平均気泡径が上記範囲内にあることにより気泡膜の厚みが調整され、赤外線透過を抑制することができるなどの理由からより一層高い断熱性を有する発泡断熱板を得ることができるなどの利点がある。
【0064】
本明細書における平均気泡径の測定方法は次の通りである。
すなわち、発泡断熱板厚み方向の平均気泡径(D:mm)及び発泡断熱板幅方向の平均気泡径(D:mm)は発泡断熱板の幅方向垂直断面(発泡断熱板の押出方向と直交する垂直断面)を、発泡断熱板押出方向の平均気泡径(D:mm)は発泡断熱板の押出方向垂直断面(発泡断熱板の押出方向に平行に、幅方向の中央部で二等分する垂直断面)の顕微鏡拡大写真を得る。次いで、該拡大写真上において測定しようとする方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(当然のことながら、この長さは拡大写真上の直線の長さではなく、写真の拡大率を考慮した直線の真の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各々の方向における平均気泡径を求める。
【0065】
平均気泡径の測定方法について詳述すると、厚み方向の平均気泡径(D:mm)の測定は幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、厚み方向に発泡断熱板の全厚みに亘る直線を引き各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0066】
幅方向の平均気泡径(D:mm)は幅方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、発泡断熱板を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を幅方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を幅方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0067】
押出方向の平均気泡径(D:mm)は、発泡断熱板の幅方向を二等分する位置で、発泡断熱板を押出方向に切断して得られた押出方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、発泡断熱板を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を押出方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を押出方向の平均気泡径(D:mm)とする。また、発泡断熱板の水平方向の平均気泡径(D:mm)は、DとDの相加平均値とする。
【0068】
(iv)気泡変形率
更に本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板においては、気泡変形率が0.7〜2.0であることが好ましい。気泡変形率とは、上記測定方法により求められたDをDで除すことにより算出される値(D/D)であり、該気泡変形率が1よりも小さいほど気泡は扁平であり、1よりも大きいほど縦長である。気泡変形率が小さすぎる場合は、気泡が扁平なので圧縮強度が低下する虞れがあり、扁平な気泡は球形に戻ろうとする傾向が強いので、押出発泡体の寸法安定性も低下する虞がある。気泡変形率が大きすぎる場合は、厚み方向における気泡数が少なくなるので、気泡形状による断熱性向上効果が小さくなる。そのような観点から、上記気泡変形率は、0.8〜1.5であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましい。気泡変形率が上記範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、かつ更に高い断熱性を有する熱可塑性樹脂押出発泡断熱板となる。
【0069】
(v)独立気泡率
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率が高い程、高い断熱性能を維持することができる。独立気泡率S(%)は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定された発泡断熱板の真の体積Vxを用い、下記式(1)により算出される。
【0070】
本明細書において発泡断熱板の独立気泡率は、下記式(1)から求められる。発泡断熱板の中央部および幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を採用する。なお、カットサンプルは発泡断熱板から縦25mm×横25mm×厚み20mmの大きさに切断された、発泡断熱板表皮を有しないサンプルとし、厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば縦25mm×横25mm×厚み10mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定する。
【0071】
【数1】

ただし、Vx:上記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(発泡断熱板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見かけ上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:発泡断熱板を構成する樹脂の密度(g/cm
【0072】
(vi)熱伝導率
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の熱伝導率は、発泡断熱板から縦200mm×横200mm×厚み25mmの発泡断熱板表皮が存在しない試験片を切り出し、該試験片についてJIS A 1412−2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定される。なお、厚み25mmの試験片を切り出せない場合は複数枚(できるだけ少ない枚数)の厚みの薄い試験片を積層して厚み25mmの試験片とする。
【0073】
(vii)残存物理発泡剤
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板においては、難燃性を阻害しない範疇で優れた断熱性を得るために、発泡断熱板中の炭素原子数3〜5の炭化水素系有機物理発泡剤の残存量は、発泡断熱板製造後100日経過時において発泡断熱板1kg当たり0.1〜0.9モル、更に0.4〜0.9モルの範囲を維持していることが好ましい。本明細書における発泡断熱板中の炭化水素等の発泡剤残存量は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定される値である。具体的には、発泡断熱板から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し発泡断熱板中の発泡剤をトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って発泡断熱板中の発泡剤残存量を求める。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例により本発明の効果について具体的に説明するが本発明の権利範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(1)実施例及び比較例で基材樹脂に使用した原材料を以下に示す。
(i)基材樹脂
基材樹脂を構成するポリスチレン樹脂を表1に、ポリエステル樹脂を表2に示す。
表2において、融解に伴う吸熱ピーク熱量を「融解ピーク熱量」と表記。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
(ii)マスターバッチ
気泡調整剤マスターバッチ:ポリスチレン樹脂をベースレジンとし、タルク(松村産業(株)製、商品名:ハイフィラー#12)60重量%を含有するタルクマスターバッチを用いた。
【0079】
難燃剤マスターバッチ:ヘキサブロモシクロドデカン93重量%を含有する難燃剤マスターバッチを用いた。
【0080】
(2)以下に評価方法を記載する。
(i)発泡成形性
表3〜6における発泡成形性の評価は、下記評価基準により評価した。
○:発泡状態が良好であり、表面に波うちなどがない良好な板状熱可塑性樹脂押出発泡断熱板が安定して得られる。
×:発泡状態が悪く、表面に波うちなどが発生し良好な板状熱可塑性樹脂押出発泡断熱板が得られない。
【0081】
(ii)発泡断熱板外観
表3〜6における発泡断熱板外観の評価は、下記評価基準により評価した。
○:表面美麗。
△:表面に小さな裂けがみられる。
×:表面に著しい裂けがみられる。
【0082】
(iii)見かけ密度
見かけ密度の測定は、JIS K 6767(1999年)に準拠して行なう。試料は、発泡断熱板の幅方向中央部および幅方向両端部付近の計3箇所から厚みが全厚みの直方体のサンプルを切り出して各々のサンプルについて見かけ密度を測定し、3箇所の測定値の相加平均値を見かけ密度とする。
【0083】
(iv)断面積
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の断面積は、発泡断熱板の押出方向と直交する垂直断面(幅方向垂直断面)の断面積とする。
【0084】
(v)厚み
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の厚みは、発泡断熱板の幅方向垂直断面の幅方向の一方の端から他方の端までを6等分して両端を除く5箇所に測定点を定め、続いて、前記5箇所の測定点における発泡断熱板の厚みをそれぞれ測定し、5箇所の測定値の相加平均値とする。
【0085】
なお、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、平均気泡変形率、熱伝導率の測定方法、発泡断熱板中のイソブタン量は前述の通りである。
【0086】
実施例1〜15、比較例1〜3
内径65mmの第1押出機と内径90mmの第2押出機と内径150mmの第3押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第1押出機の終端付近に設けられており、間隙1mm×幅90mmの幅方向断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第3押出機の出口に連結された製造装置を用いた。
【0087】
更にフラットダイの樹脂出口には、これと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された賦形装置(ガイダー)が付設されている。表3〜6中に示す配合量となるように、樹脂、難燃剤及び気泡調整剤を、前記第1押出機に供給し、220℃まで加熱し、これらを溶融、混練し、第1押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から表中に示す配合組成の物理発泡剤を表中に示す割合で溶融物に供給し溶融混練した溶融樹脂組成物を、続く第2押出機及び第3押出機に供給して樹脂温度を表中に示すような発泡適性温度(表中では発泡樹脂温度と表記した。この発泡樹脂温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性溶融樹脂組成物の温度である)に調整した後、吐出量50kg/hrでダイリップからガイダー内に押出し、発泡させながら押出発泡体の厚み方向に28mmの間隙で平行に配置されたガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)し板状の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を製造した。評価結果を表3〜6にまとめて示す。
【0088】
表3〜6中のポリスチレン樹脂及びポリエステル樹脂の配合比率は、ポリスチレン樹脂混合物100重量%に対する割合であり、表5中の実施例8のPS1/MSが25/25、S30が50は、ポリスチレン樹脂としてPS1を25重量%とMSを25重量%、ポリエステル樹脂としてS30を50重量%の割合で配合したことを意味する。
【0089】
また、表3〜6中の発泡剤種類のMeClは塩化メチル、i−Bはイソブタン、COは二酸化炭素を意味する。なお、発泡剤添加量の比率はモル比であり、添加量はポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂との混合樹脂からなる基材樹脂1kgに対するモル数である。表6中の実施例13の種類MeCl/i−B、配合85/15、添加量1.2モル/kgは、基材樹脂1kgあたりに塩化メチル1.02モルとイソブタン0.18モルとを添加したことを意味する。
【0090】
[評価結果]
実施例1〜7は、本発明のポリエステル樹脂(B)の配合率を変えて実施した。その結果、ポリスチレン樹脂に対するポリエステル樹脂(B)の配合割合が多くなると熱伝導率の低下することが分かる。特にポリエステル樹脂(B)の配合量が100重量部以上で熱伝導率が高くなる傾向が見られ。また、実施例1〜7の範囲において、たとえポリエステル樹脂(B)の配合量が多い場合であっても、発泡成形性が損なわれることなく得られた発泡断熱板の熱伝導率はいずれも低く、断熱性を有し、発泡倍率、独立気泡率も高く、外観良好なものであった。
【0091】
実施例8、9では、基材樹脂の内、ポリスチレン樹脂を変更した以外は実施例1と同様にして発泡断熱板を得た。その結果、基材樹脂構成成分のポリスチレン樹脂を変更しても良好な発泡断熱板が得られ、熱伝導率は実施例1よりも小さなものとなった。
【0092】
実施例10〜13では、基材樹脂の内、ポリエステル樹脂(B)を変更した以外は実施例1と同様にして発泡断熱板を得た。その結果、基材樹脂構成成分のポリエステル樹脂(B)を変更しても、熱伝導率など良好な発泡断熱板が得られた。特に、ポリエステル樹脂(B)の中でも、環状エーテル骨格を有するグリコールを含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体は、熱伝導率が小さなものとなった。また、ポリエステル樹脂(B)の中でもS45やS30は、表2に示すとおりTgが他のポリエステル樹脂よりも高いことから、S45やS30を基材樹脂構成成分とする発泡断熱板は、従来のスチレン樹脂押出発泡断熱板との比較で同等の耐熱性を有するものとなった。
【0093】
実施例14は、物理発泡剤としてCOを使用して気泡調整剤を減量し、実施例15は発泡剤としてMeCl/i−Bを使用した以外は実施例1と同様にして発泡断熱板を得た。実施例14、15から、発泡剤の異なる条件でも良好な発泡断熱板が得られ、熱伝導率は実施例1よりも優れていることが判る。また、実施例14から、物理発泡剤としてCOを使用することにより得られる発泡体の気泡径が小さくなることが確認できた。
【0094】
比較例1は、基材樹脂にポリエステル樹脂を含まない従来のポリスチレン樹脂押出発泡断熱板の例である。比較例1にて得られたものは本発明の実施例のものよりも相対的に熱伝導率の高いものであることが判る。また、比較例2〜3は基材樹脂に本発明のポリエステル系樹脂(B)以外のポリエステル樹脂を使用した例である。
【0095】
比較例2、3はポリエステル樹脂として、結晶性のポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレートを使用し、比較例3はポリスチレン樹脂として耐熱性樹脂を使用した以外は実施例1と同様にして押出発泡を行った例である。これらの比較例の場合は発泡成形性が悪く良好な発泡断熱板は得られなかった。
【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板において、該発泡断熱板を構成する熱可塑性樹脂がポリスチレン樹脂と下記の条件を満足するポリエステル樹脂との混合物であり、該ポリエステル樹脂の配合量がポリスチレン系樹脂100重量部に対して30〜400重量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
条件:JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル系樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の配合量が、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して150重量部超、300重量部以下であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の厚み方向平均気泡径が0.05〜0.3mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜80モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体から選択されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂が、ネオペンチルグリコールを10〜40モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体から選択されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。

【公開番号】特開2012−7094(P2012−7094A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144995(P2010−144995)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】