説明

α−アミラーゼ阻害剤

【課題】安価な天然物を原材料とし、α‐アミラーゼ活性を強力に阻害する、薬理効果の高いα-アミラーゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】本発明のα-アミラーゼ阻害剤は、ジカフェオイルキナ酸を含有することを特徴とする。前記において、ジカフェオイルキナ酸は、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物またはモチノキ科植物の植物体から抽出されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規α-アミラーゼ阻害剤に関し、特に、糖尿病、肥満、高脂血症など疾患の予防、改善、治療等に有効な飲食品ならびに医薬品の有効成分として有用である。
【背景技術】
【0002】
糖類は、糖質分解酵素(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、マルターゼ、スクラーゼなど)により消化され、消化された糖類が血液中に吸収され、血液中でブドウ糖(血糖)となる。血糖はすい臓から分泌されるインスリンのはたらきで体の細胞内に取り込まれ、エネルギーに変わり、人間の活動を支えている。また、インスリンは不要なブドウ糖を中性脂肪に変えたり、細胞組織に送り込むはたらきも担っている。血糖は生活する上で必要であるが、血糖の量(血糖値)が増え過ぎる「高血糖」状態は、糖尿病、肥満(病)等を引き起こす原因となる。
【0003】
平成15年に公表された厚生労働省の糖尿病実態調査によると、糖尿病予備軍を含め、糖尿病の危険性があるのは約1620万人にのぼり、およそ6万人に1人が糖尿病患者、若しくは予備軍ということになる。さらに、この数値は5年前の調査から約250万人増加している。我が国の糖尿病患者、若しくは予備軍は増加の一途をたどっており、特に予備軍の増加が著しい。また、動脈硬化から引き起こされる冠動脈疾患の発症は予備軍でも見られることからも、たとえ糖尿病予備軍であっても早い段階から血糖値を正常に保つことが重要とされている。
【0004】
このような状況のもと、糖尿病予防の重要性がクローズアップされており、特定保健用食品としても、糖尿病の一次予防の観点から、血糖値改善作用を有する食品が許可を受けている。また、それ以外の食品や食品素材でも血糖値改善作用の報告がなされており、糖尿病予防の一助として科学的裏付けのある食品や食品素材の利用が注目視されている。特に糖質分解酵素阻害物質は、血糖値改善作用があることが知られており、これらの食品や医薬品への利用が期待されている。
【0005】
糖質分解酵素阻害物質の検索や阻害機構の研究分野では、近年ヒトや家畜の唾液、すい臓および昆虫消化液中の糖質分解酵素に対する阻害作用を対象にした研究が進められている。その多くは、米麦、雑穀、各種豆類、イモ類などから抽出精製した蛋白性の阻害物質が主なものであり、これ以外の植物成分ではポリフェノール、フィチン酸、食物繊維などがあげられるに過ぎず、ポリフェノール類ではタンニンに関するものが大部分である。
【0006】
最近では、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸(5-カフェオイルキナ酸)に糖類分解酵素阻害活性があることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、プロポリスに含まれるジカフェオイルキナ酸やトリカフェオイルキナ酸に糖質分解酵素阻害活性があることが明らかにされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−22994号公報
【非特許文献1】日本食品保蔵科学会誌、Vol. 30, No. 5, 223-229、(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、クロロゲン酸(5-カフェオイルキナ酸)はα‐アミラーゼ阻害活性が低く、これを用いて所望の阻害作用を得るためにはかなりの量のクロロゲン酸が必要となる。また、前記トリカフェオイルキナ酸は天然物における含有量が低く、容易かつ安価にα‐アミラーゼ阻害剤を製造することができない。さらに、前記特許文献1では、3,4−および3,5−ジカフェオイルキナ酸は、マルターゼやスクラーゼ活性を阻害するが、α‐アミラーゼ活性を阻害しないとされている。
そこで、本発明の目的は、安価な天然物を原材料とし、α‐アミラーゼ活性を強力に阻害する、薬理効果の高いα-アミラーゼ阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、安価な天然物資源から得られる桂皮酸ジエステル誘導体とα‐アミラーゼ活性との関係について鋭意研究を重ねた結果、従来α-アミラーゼ阻害活性を有しないと考えられていたジカフェオイルキナ酸に強力なα-アミラーゼ阻害活性があることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のα-アミラーゼ阻害剤は、ジカフェオイルキナ酸またはその薬学上許容される塩を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明者らは、ジカフェオイルキナ酸に強力なα-アミラーゼ阻害作用があることを初めて見出したものであり、本発明の阻害剤によれば、強力にα-アミラーゼの糖質分解活性を抑制することができる。
【0011】
また、前記ジカフェオイルキナ酸は、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、モチノキ科植物の植物体から抽出されることが好ましい。前記植物体は桂皮酸ジエステル誘導体の含有量が高く、これらの天然物を原材料として用いることにより、容易かつ安価に、生体に対する安全性に優れたα‐アミラーゼ阻害剤を製造することができる。
【0012】
さらに、本発明の飲食品または医薬は、上記ずれかに記載のα-アミラーゼ阻害剤を含有することを特徴とする。本発明の阻害剤を飲食品、医薬等に使用すれば、生体における糖分の吸収を抑制して、糖尿病、肥満症およびこれらに起因する疾患の予防、改善、治療することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の阻害剤によれば、強力にα-アミラーゼの糖質分解活性を抑制することができる。またジカフェオイルキナ酸は、トリカフェオイルキナ酸に比べて、天然物中における含有量が高い。このため、従来に比べてより簡便かつ安価にα‐アミラーゼ阻害剤を製造することができる。さらに、本発明の阻害剤は、天然物に由来するものであるため、人体および生体に対する安全性が高い。したがって、日常的に飲食品または医薬として摂取または投与することにより、α‐アミラーゼが関与する種々酵素反応を抑制し、糖の吸収をおだやかにして、糖尿病、肥満(病)等の状態を改善または予防できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明において、桂皮酸ジエステル誘導体とは、ベンゼン環に炭素3個のプロパン(C3)が結合した基本骨格をもつ化合物群(フェニルプロパノイド)の一種で、フェニルプロパノイドのジエステル化合物をさす。桂皮酸ジエステル誘導体には、ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、カフェオイルフェルロイルキナ酸が含まれる。これら桂皮酸ジエステル誘導体のなかでも、特にα-アミラーゼ阻害活性が優れているのが、カフェー酸のジエステル誘導体であるジカフェオイルキナ酸である。
【0016】
本発明のα-アミラーゼ阻害剤は、ジカフェオイルキナ酸またはその薬学上許容される塩を含有することを特徴とする。本発明においてジカフェオイルキナ酸には、3,4‐ジカフェオイルキナ酸(3,4‐diCQA)、3,5‐ジカフェオイルキナ酸(3,5‐diCQA)、4,5‐ジカフェオイルキナ酸(4,5‐diCQA)またはこれらの組み合わせが含まれる。また、前記ジカフェオイルキナ酸の薬学上許容される塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ(土類)金属との塩が挙げられるが、特にこれらに限定されない。天然物中においては、ジカフェオイルキナ酸等の桂皮酸ジエステル誘導体は塩としても存在している。
【0017】
本発明に用いるジカフェオイルキナ酸等の桂皮酸ジエステル誘導体を得るための原材料としては、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科、モチノキ科植物など、また本化合物類を含有している植物体自体若しくはその粉砕物の抽出物、その精製物又は部分精製物などを挙げることができる。前記ジカフェオイルキナ酸は、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物またはモチノキ科植物の植物体から抽出されることが好ましい。これらの植物体は、ジカフェオイルキナ酸の含有量が比較的高く、より簡便で短時間にジカフェオイルキナ酸を抽出でき、本発明の阻害剤を製造することができる。なお、これら植物の部位は果実、種子(胚乳部)、葉、樹木、樹皮などいずれも用いることができる。
【0018】
アカネ科植物に属するCoffea arabica(以下、コーヒーと略称)の栽培種はアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種の三原種とそれをもとにした数十品種がある。アカネ科植物に属するコーヒー生豆には、特に桂皮酸ジエステル誘導体の含有量が高く、ジカフェオイルキナ酸を得るための原材料として好適である。日本の植物の中ではサツマイモが最も桂皮酸ジエステル誘導体の含有量が多いとされており、3.5%程度桂皮酸ジエステル誘導体が含まれている。コーヒー生豆では5〜10%程度桂皮酸ジエステル誘導体が含まれており、多いものでは含有量が10%を越える。
【0019】
ロブスタ種のコーヒー生豆は、アラビカ種のコーヒー生豆より桂皮酸ジエステル誘導体の含有量が高く、さらにロブスタ種の中でも低等級のコーヒー生豆(低品質のコーヒー生豆)に桂皮酸ジエステル誘導体の含有量が高い。よって、ロブスタ種の低等級のコーヒー生豆は、低価格で購入でき、通常飲用しない低品質のコーヒー生豆を有効利用することができる点でジカフェオイルキナ酸を得るための原材料として好適である。
【0020】
本発明に用いるジカフェオイルキナ酸等の桂皮酸ジエステル誘導体の原料としては、生のまま、あるいは天日乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥されたものでもよいが、桂皮酸ジエステル誘導体は、焙煎される温度、すなわちアミノ−カルボニル反応(メイラード反応)が進行し得る温度では分解されてしまい、目的とする桂皮酸ジエステル化合物の収率が低下してしまう。したがって、原料としては高温で加熱等されておらず、メイラード反応が進行していないことが好ましい。
【0021】
本発明に用いるジカフェオイルキナ酸の製造方法としては、前記植物体を水または有機溶媒などで抽出することで、ジカフェオイルキナ酸類の濃度を高める方法が好適である。使用する有機溶媒としては、例えばメタノ−ル、エタノ−ル、プロパノール、酢酸エチル、又はそれらの含水物などを挙げることができる。これらの有機溶媒を用いて抽出物を得るには、公知の方法に従えばよく、例えば前記した植物の葉、樹木、樹皮を適当に破砕した後、それらの粉砕物、また該植物の樹液を前記した有機溶媒で公知の方法を用いて処理する。具体的には、原料の1〜100倍(質量比)、好ましくは3〜20倍(質量比)の有機溶媒で温度0℃以上、好ましくは10℃からその有機溶媒の沸点以下の温度条件下で、1分〜8週間、好ましくは10分〜1週間抽出処理をする。
【0022】
上記のごとくして得られた抽出処理物自体を精製に用いてもよいが、好ましくは有機溶媒を通常の方法、例えば、ロータリエバポレーターなどを使用して除去するのがよい。或いは更に、凍結乾燥や加熱乾燥処理を施してもよい。
【0023】
上記抽出物からジカフェオイルキナ酸を精製するには、公知の天然有機化合物類の分離・精製法を採用すればよい。例えば、活性炭、シリカ、化学修飾シリカ、ポリマー系担体などを用いた吸脱着、あるいはクロマトグラフィー、液−液抽出、分別沈澱などの手法により、不純物を除き精製する。具体的には、上記抽出物をODS−シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、60〜100%(以下全て質量%)メタノール溶液または適宜の濃度のエタノール或いはプロパノールを溶離液として溶出・分画する。これらのクロマトグラフィーによって分離される成分を集め、濃縮・結晶化することによりジカフェオイルキナ酸を得ることができる。
【0024】
本発明に用いるジカフェオイルキナ酸は、天然物に由来する、安全性の高いα-アミラーゼ阻害剤であり、溶解性、安定性に優れ、飲食品等に悪影響を与えることなく飲食品、医薬品等に添加することができ、所望のα-アミラーゼ阻害作用を発揮することができる。
【0025】
本発明のα‐アミラーゼ阻害剤は、生体におけるα‐アミラーゼの糖質分解活性を強力に阻害することにより、糖質の消化吸収を抑えて、血糖上昇を抑制し、血糖上昇に伴う種々の疾患および症状を改善もしくは予防できると考えられる。血糖上昇に伴う種々の疾患および症状としては、例えば、糖尿病、肥満(症)、高脂血症、脂肪肝、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、神経障害、腎症、網膜症およびこれらの合併症等を挙げることができる。なお、本発明の適用対象はこれらに限定されない。
【0026】
本発明のα‐アミラーゼ阻害剤におけるジカフェオイルキナ酸またはその塩の含有量は作用発現の観点から適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、阻害剤100重量部当たり、好ましくは0.01〜50重量部以上、より好ましくは0.1〜10重量部である。
【0027】
本発明によれば、本発明のα‐アミラーゼ阻害剤を含有する飲食品が提供される。本発明の飲食品は、ジカフェオイルキナ酸のα‐アミラーゼ阻害活性により、生体における、血糖上昇に伴う疾患等の改善もしくは予防に極めて有用である。
【0028】
本発明の飲食品の製造法は特に限定されるものではなく、調理、加工および一般に用いられている飲食品の製造法による製造を挙げることができ、製造された飲食品に本発明に係るα‐アミラーゼ阻害剤が含有、添加または希釈されていればよい。
【0029】
本発明の飲食品には、通常の飲食品、例えば、穀物加工品(小麦粉加工品、デンプン類加工品、プレミックス加工品、麺類、マカロニ類、パン類、あん類、そば類、麩、ビーフン、はるさめ、包装餅等)、油脂加工品(可塑性油脂、てんぷら油、サラダ油、マヨネーズ類、ドレッシング等)、大豆加工品(豆腐類、味噌、納豆等)、食肉加工品(ハム、ベーコン、プレスハム、ソーセージ等)、水産製品(冷凍すりみ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、つみれ、すじ、魚肉ハム、ソーセージ、かつお節、魚卵加工品、水産缶詰、つくだ煮等)、乳製品(原料乳、クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、練乳、粉乳、アイスクリーム等)、野菜・果実加工品(ペースト類、ジャム類、漬け物類、果実飲料、野菜飲料、ミックス飲料等)、菓子類(チョコレート、ビスケット類、菓子パン類、ケーキ、餅菓子、米菓類等)、アルコール飲料(日本酒、中国酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ブランデー、ジン、ラム酒、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュール等)、嗜好飲料(緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、清涼飲料、乳酸飲料等)、調味料(しょうゆ、ソース、酢、みりん等)、缶詰・瓶詰め・袋詰め食品(牛飯、釜飯、赤飯、カレー、その他の各種調理済み食品)、半乾燥または濃縮食品(レバーペースト、その他のスプレッド、そば・うどんの汁、濃縮スープ類)、乾燥食品(即席麺類、即席カレー、インスタントコーヒー、粉末ジュース、粉末スープ、即席味噌汁、調理済み食品、調理済み飲料、調理済みスープ等)、冷凍食品(すき焼き、茶碗蒸し、うなぎかば焼き、ハンバーグステーキ、シュウマイ、餃子、各種スティック、フルーツカクテル等)、固形食品、液体食品(スープ等)、香辛料類等の農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品等が含まれる。
また、本発明の飲食品には、上記通常の飲食品のほか、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品、例えば、健康食品、機能性食品、サプリメントあるいは厚生労働省の定める特別用途食品、例えば特定保健用食品、栄養機能食品、病者用食品、病者用組合わせ食品、高齢者用食品が含まれる。
【0030】
本発明の飲食品における本発明に係るα‐アミラーゼ阻害剤の含有量は特に限定されず、作用発現の観点から適宜選択できるが、例えば、飲食品100重量部当たり、好ましくは0.01〜50重量部以上、より好ましくは0.1〜10重量部である。
【0031】
本発明のα‐アミラーゼ阻害剤、飲食品は、その薬理作用を発現させるための有効量が含有されていれば、特にその形態に限定はなく、ハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤;錠剤;丸剤;あるいは粉末状、顆粒状、茶状、ティーバッグ状、飴状、液体、またはペースト状などの当業者が通常用いる形態で摂取することができる。これらは、形状または好みに応じて、そのまま摂取してもよく、あるいは水、湯、牛乳などに溶いて飲んでもよく、成分を浸出させたものを摂取してもよい。
【0032】
また、上記α‐アミラーゼ阻害剤、飲食品には、他の有効成分や賦形剤、色素や香料等を適宜組み合わせて用いることができる。たとえば、本発明の効果を損なわない範囲内で、飲食品に配合し得る油脂類、界面活性剤、水溶性高分子類、色素、防腐剤、抗酸化剤等を含有させることができる。具体的には、グリチルリチン酸、塩酸ジフェンヒドラミン、アズレン、dl−α−トコフェロールおよびその誘導体、ビタミンB2及びB6などを用いてもよい。
【0033】
さらに本発明によれば、本発明のα‐アミラーゼ阻害剤を含有する医薬が提供される。本発明のα‐アミラーゼ阻害剤は、α‐アミラーゼの糖質分解活性を抑制することによって、血糖上昇に伴う種々の疾患、例えば、糖尿病、肥満(症)、高脂血症、脂肪肝、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、神経障害、腎症、網膜症およびこれらの合併症等の予防剤、治療剤などの安全な医薬として使用することができる。なかでも、糖尿病、肥満(症)の予防・治療剤が好ましい。
【0034】
本発明の阻害剤は、一般的な医薬製剤の形態で用いられ、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤等を用いて調製される。この医薬製剤としては各種の形態が使用目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)および坐剤等が挙げられる。
【0035】
さらに必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を医薬製剤中に含有させることもできる。本発明のこれらの医薬製剤中に含有されるべき有効成分の量は、特に限定されずに広範囲から適宜選択されるが、通常製剤組成物中に約0.01〜50重量%、好ましくは約0.1〜10重量%とするのがよい。
【0036】
上記薬剤の投与方法には特に制限はなく、各種製剤の形態、患者の性別、年齢、疾患の程度およびその他の条件により適宜選択される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、注射剤の場合は、単独でまたはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、さらに必要に応じて単独で筋肉内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤の場合は直腸内投与される。
【0037】
上記薬剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度およびその他の条件により適宜選択されるが、通常、有効成分化合物の量として、1日当たり0.01〜100mg/kg程度が好ましく、0.1〜10mg/kgがより好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
−ジカフェオイルキナ酸類含有画分の調製−
まず、コーヒー豆(Coffea canephora)から、ジカフェオイルキナ酸含有画分を調製した。コーヒー生豆中のクロロゲン酸類は瓜谷らの方法(Uritani, I.; Muramatsu, K. Phytopathological chemistry of black-rotted sweet potato. part 4. Isolation and identification of polyphenols from injured sweet potato. Nippon Nougeikagaku kaisi. 27, 29-33(1952))に準じて単離した。供試生豆(Indonesia WIB)100gを粉砕し、70%(v/v)メタノール水溶液1Lを加えて80℃で20分間、3回抽出を繰り返した。抽出液は50mLまで減圧濃縮後、4℃に48時間保ってクロロゲン酸類とカリウムイオン、カフェインが等モルずつ会合した黄褐色の沈殿を得た。この沈殿物に飽和酒石酸溶液を加えて生成した酒石酸カリウムの白色沈殿を除去した。つぎにクロロホルムを添加してクロロホルム層に移行したカフェインを除去した。水層を分取HPLC PLC−561システム(GL Sciences Inc.)を用いて目的のピークを分取した。分取は、カラム;Inertosil ODS-3(250×19mm、GL Sciences Inc.)、カラム温度40℃、流速15mL/分、検出326nmで行った。325nmに吸収をもつ7種類の物質(物質1〜7)のHPLCクロマトグラムを図1に示す。各ピークフラクションはSephadex LH−20カラムクロマトグラフィーをおこない、メタノールで溶出することによって精製した。精製クロロゲン酸類は凍結乾燥を行ってから−20℃で保存した。
【0040】
<実施例2>
−ジカフェオイルキナ酸類の同定−
次に、上記精製クロロゲン酸類の同定を行った。生豆から単離した7種類の物質のHPLC分析結果と最大吸収波長、FAB−MSおよびMS−MSデータを表1に、H−NMRデータを表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
物質1、2および3はFAB−MS分析でm/z354に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z163に、ネガティブイオンモードでm/z191にフラグメントピークが出現した。m/z163フラグメントは陽イオン化にともなうカフェオイル基由来のカルボニル酸素と、m/z191フラグメントはキナ酸由来のフラグメントと同定した。これらのMS分析結果から、3種類の物質をクロロゲン酸と同定した。
【0044】
上記のように同定された3種類のクロロゲン酸(物質1、2および3)のH‐NMRスペクトルは、カフェー酸とキナ酸のスペクトルを合わせたもので、キナ酸のC‐3、C‐4およびC−5プロトンのいずれかのケミカルシフト値が低磁場側にシフトしていた。従って、物質1、2および3をそれぞれ、3‐カフェオイルキナ酸(3‐CQA)、クロロゲン酸(5‐CQA)および4‐カフェオイルキナ酸(4‐CQA)と同定した。
【0045】
物質4はFAB‐MS分析でm/z354に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z177に、ネガティブイオンモードではm/z191と194にフラグメントを与えた。m/z177フラグメントは、フェルロイル基に由来し、m/z191フラグメントはキナ酸由来、m/z194
はフェルロイル基由来のフラグメントと同定した。また物質4のH−NMRスペクトルはMorishitaらの文献(Morishita, H.; Iwashita, H.; Osaka, N.; Kido, R. Chromatographic separation and identification of naturally occurring chlorogenic acids by 1H nuclear magnetic resonance spectroscopy and mass spectrometry. J. Chromatogr. 315, 253-260(1984))に酷似していたことから、物質4を5‐FQAと同定した。
【0046】
物質5〜7はFAB−MSでm/z516に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z355と163に、ネガティブイオンモードではm/z353、191、179、173、135にフラグメントが出現した。m/z355と166のフラグメントはカフェオイル基が遊離して生成したクロロゲン酸とカフェオイル基由来のカルボニル酸素と考えられる。一方、m/z353のフラグメントはカフェオイル基が遊離したクロロゲン酸、m/z191と173はキナ酸由来、m/z179と135はカフェー酸に由来すると同定した。これらのMS分析結果から、物質5〜7はジカフェオイルキナ酸の異性体と同定した。さらにH−NMRスペクトルでキナ酸のC−3、C−4およびC−5位のプロトンのケミカルシフト値が低磁場側にシフトしていたことから、物質5、6、7をそれぞれ3,4−diCQA、3,5−diCQA、4,5−diCQAと同定した。
【0047】
<実施例3>
−α-アミラーゼ活性阻害試験−
次に、ジカフェオイルキナ酸類のα-アミラーゼ阻害活性を測定した。α-アミラーゼ活性阻害試験に使用したジカフェオイルキナ酸は、3,4−diCQA、3,5−diCQA、4,5−diCQAである。また、diCQA混合物とはジカフェオイルキナ酸3種類(3,4−diCQA、3,5−diCQA、4,5−diCQA)をそれぞれ混合したものである。diCQA混合物の重量比は、27:46:27で、クロロゲン酸の単離に用いたコーヒー豆(Indonesia WIB)に含まれているdiCQAの重量比と同じとした。
【0048】
ジカフェオイルキナ酸類(3,4−diCQA、3,5−diCQA、4,5−diCQA)のα-アミラーゼ阻害活性試験は、ネオ・アミラーゼテスト「第一」(第一化学薬品株式会社製)を使用して、Arakiらの方法(Araki, H.; Yamamoto, N. Effects of Polyphenols on the Activities of Salivary and Pancreatic α-Amylases. 聖徳栄養短期大学紀要. 25, 15-20, 1994)に準じて実施した。
【0049】
ネオ・アミラーゼテスト「第一」は、基質である不溶性青色澱粉ポリマーにα-アミラーゼが作用すると、加水分解をうけて可溶化され青色の溶液となる。この青色の吸光度はα-アミラーゼ活性に比例するので、一定時間加温した後に遠心分離して、上清の吸光度を波長620nmで測定すれば、α-アミラーゼ阻害活性を求めることができる。
【0050】
アミラーゼ活性の測定には、還元力増加やヨウ素-澱粉反応の呈色度の減少など測定する方法が広く用いられているが、これらの反応はクロロゲン酸類の還元力が影響を及ぼすため、クロロゲン酸類が混在しているときには正しく測定することができないことがわかった。ネオ・アミラーゼテスト「第一」は、クロロゲン酸類の還元力の影響を受けないため今回の実験に用いた。α‐アミラーゼ阻害活性は下記式から算出した。
α-アミラーゼ阻害活性(%)=[(A-B)-(C-D)]/(A-B)×100
A=供試試料を添加していない反応液の吸光度(コントロール)
B=酵素を添加していない反応液の吸光度(ブランク)
C=試料溶液の吸光度
D=供試試料、酵素を添加していない反応液の吸光度(試料ブランク)
【0051】
クロロゲン酸類の濃度を変えてα-アミラーゼ阻害活性をもとめ、横軸にクロロゲン酸類濃度を、縦軸に糖質分解酵素α-アミラーゼ阻害活性をプロットしてグラフを描いた。酵素に対して阻害剤を添加すると、その濃度が高くなるにつれ、阻害率は高くなった。阻害剤濃度を対数でx軸に、阻害率をy軸にプロットすると、グラブはシグモイド曲線を描いた。50%を挟む2点の濃度とその時の阻害率から直線式を作成し、α-アミラーゼ活性を50%阻止するのに必要なクロロゲン酸類濃度を下記式により算出した(50%阻害)。また、比較対照にはクロロゲン酸(5‐CQA)を用いた。
IC50=10(LOG(A/B)*(50-C)/(D-C)+LOG(B))
A=50%を挟む高い濃度
B=50%を挟む低い濃度
C=Bでの阻害率
D=Aでの阻害率
クロロゲン酸類のα-アミラーゼ阻害活性(IC50)の測定結果を表3および図2に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
クロロゲン酸(5−CQA)における阻害活性(IC50)は1.490〜1.548mMであった。一方、ジカフェオイルキナ酸のα-アミラーゼ阻害活性(IC50)は0.008〜0.139mMであり、クロロゲン酸(5−CQA)と比較して有意に優れた阻害活性が認められた(p<0.01)。
【0054】
表3および図2に示すように、従来α‐アミラーゼ阻害活性を有しないと考えられていた3,4-ジカフェオイルキナ酸、3,5-ジカフェオイルキナ酸、4,5-ジカフェオイルキナ酸には、強力なα-アミラーゼ阻害活性があることが初めて確認された。また、ジカフェオイルキナ酸を異性体ごとに比較した場合、顕著な差異は認められず(図2参照)、すべて非常に強い阻害活性が認められた。また、3,4-ジカフェオイルキナ酸、3,5-ジカフェオイルキナ酸、4,5-ジカフェオイルキナ酸を混合することによる相乗効果は認められないが、混合して使用した場合でもクロロゲン酸に比べて強力な阻害作用が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】コーヒー豆の70%(v/v)エタノールより抽出された抽出物のHPLCクロマトグラムを表す図。
【図2】ジカフェオイルキナ酸のα‐アミラーゼ阻害活性(IC50)を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカフェオイルキナ酸またはその薬学上許容される塩を含有することを特徴とするα-アミラーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記ジカフェオイルキナ酸が、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物またはモチノキ科植物の植物体から抽出されることを特徴とする請求項1に記載のα-アミラーゼ阻害剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のα-アミラーゼ阻害剤を含有する飲食品。
【請求項4】
請求項1または2に記載のα-アミラーゼ阻害剤を含有する医薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−77117(P2007−77117A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270414(P2005−270414)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【Fターム(参考)】