説明

α−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するガラクトシダーゼ

本発明は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムから単離されたガラクトース転移活性を有するβ−ガラクトシダーゼに関する。前記β−ガラクトシダーゼは、ラクトースをβ結合したオリゴ糖混合物に変換することが可能であり、またα結合した二糖であるガラクトビオースを産生する予期せざる効果を奏する。前記混合物は、腸内のビフィズス菌の増殖を促進して病原性微生物叢の増殖を抑制することにより腸内健康を改善するための、種々の食品または動物飼料に取り込ませることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
製品及び方法
本発明は、ラクトースをβ結合したオリゴ糖の混合物へと変換することが可能なガラクトース転移活性を有し、α結合した二糖であるα1−6ガラクトビオースを作り出す予測されなかった効果を奏するβ−ガラクトシダーゼに関する。特に、本発明は、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)の最近発見された系統株から単離されたβ−ガラクトシダーゼに関する。
【0002】
本発明は特に、単離されたβ−ガラクトシダーゼ酵素をコードするDNA配列、このようなDNA配列にコードされる酵素、及び前記DNA配列または前記DNA配列を組み込んだ組換えベクターを含む宿主細胞に関する。また、本発明は、オリゴ糖を生産するための、DNA配列にコードされた酵素、またはDNA配列もしくは組換えベクターを含む宿主細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ビフィズス菌は、天然状態では下部消化管にコロニーを形成し、そこは、宿主及び上部消化管に存在する微生物が単糖及び二糖を優先的に消費するため、単糖及び二糖が少ない環境である。下部消化管で生存するために、ビフィズス菌は、細胞表面結合型、及び/または細胞外型の種々のエキソグリコシダーゼ及びエンドグリコシダーゼを生産し、これによって、多様な炭水化物を利用することができる。
【0004】
加水分解酵素活性に加え、ビフィズス菌由来のいくつかの酵素は、トランスフェラーゼ活性も示す。グリコシダーゼのこの糖鎖転移活性は、種々のオリゴ糖の酵素合成に広範囲に使用されており、該オリゴ糖がビフィズス菌増殖促進因子として作用することが証明されている。
【0005】
ビフィズス菌は、ラクトースの細菌代謝に関与するβ−ガラクトシダーゼ酵素を作り出すことが知られている。Mφller、 P.L.らは、Appl& Environ.Microbial.、 (2001)、 62、 (5)、 2276−2283において、ビフィドバクテリウム・ビフィダムの一系統株由来の3種類のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の単離と特性について記載している。彼らは、これら3種類のβ−ガラクトシダーゼ全てが、ガラクトース転移によって、β結合したガラクトオリゴ糖の形成を触媒できることを見出した。
【0006】
Dumortierらは、Carbohydrate Research、 201、 (1990)、 115−123において、ビフィドバクテリウム・ビフィダムDSM 20456のラクトース加水分解におけるガラクトース転移反応によるβ結合したオリゴ糖の形成について記載した。産生されたオリゴ糖混合物の構造についての分析により、β−(1→3)、 β−(1→6)及びβ−(1→4)−D−ガラクトシル結合であることが示された。Dumortierは、ビフィドバクテリウム・ビフィダムによって産生される化合物が、大腸における細菌の接着に関与していることを示唆した。
【0007】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムの一系統株は、ラクトースをガラクトオリゴ糖の新規混合物へと変換するガラクトシダーゼ酵素活性を産生するものとして発見され、該混合物は、予期せぬことに、ガラビオース(Gal(α1−6)−Gal)を含む二糖類を最大35%まで含む。該二糖は、志賀毒素のような毒素や大腸菌(E.coli)などの病原体が腸壁へ接着することを防ぎ得る、接着防止剤として知られている(Paton、 J C and Paton、 A W (1998)、 Clin.Microbiol.Revs.、11、450−479; Carlsson、 K A (1989)、 Ann.Reviews Biochem.、58、309−350、を参照)。
【0008】
前記B.ビフィダム株は、2003年3月31日に、受託番号NCIMB 41171として、National Collection of Industrial&Marine Bacteria(アバディーン、英国)に寄託されている。該株については、英国特許第2 412 380号にも記載されている。
【0009】
該B.ビフィダム株は、数種類のβ−ガラクトシダーゼを産生し、そのうち1種類が予期せぬことにα−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を示すことが発見された。この酵素は、β結合した数多くの異なるオリゴ糖を作り出すのみならず、α結合した二糖であるガラビオースも作り出す。
【特許文献1】英国特許第2 412 380号
【非特許文献1】Mφller、 P.L.他、Appl&Environ.Microbial.、 (2001)、 62、 (5)、 2276−2283
【非特許文献2】Dumortier他、Carbohydrate Research、 201、 (1990)、 115−123
【非特許文献3】Paton、 J C and Paton、 A W (1998)、 Clin.Microbiol.Revs.、11、450−479
【非特許文献4】Carlsson、 K A (1989)、 Ann.Reviews Biochem.、58、309−350
【発明の開示】
【0010】
本発明は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA配列、または該タンパク質をコードする該DNA配列に厳しい条件下でハイブリダイズするDNA配列を提供する。該DNA配列は、配列番号1に示される配列であるか、その断片もしくは縮重配列(degenerative)を含み得る。
【0011】
前記「縮重配列(degenerative)」という用語は、配列番号1に対して少なくとも50%の相同性、好ましくは、50〜98%の相同性、最も好ましくは75〜95%の相同性を示すDNA配列を意味するものとして解釈される。
【0012】
このようなDNA配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列に、60%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは25%未満の変化を生じさせるような、ヌクレオチドの置換、付加または欠失を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、上記DNA配列によりコードされる酵素が提供される。該酵素は、配列番号2に示すアミノ酸配列またはその断片を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、上記DNA配列を含む組換えベクター、好ましくは発現ベクターが提供される。該ベクターは、細菌、酵母または真菌細胞等の宿主細胞内に取り込まれてもよい。もしくは、該DNA配列が、このような宿主細胞内に取り込まれてもよい。適切な宿主細胞は、ビフィドバクテリウム属、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilus)またはバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)等のバチルス属、エシェリキア属(Escherichia)及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等のアスペルギルス属から選択され得る。
【0015】
上記DNA配列によりコードされる酵素は、ラクトースを基質として用いて、Gal(β1−3)Glc、Gal(β1−3)Gal、Gal(β1−6)Gal及びGal(α1−6)Galを含む二糖の混合物を産生する。また、該オリゴ糖混合物には、三糖であるGal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、Gal(β1−3)Gal(β1−4)Glc、四糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、及び五糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glcも存在する。
【0016】
上記の酵素または宿主細胞は、腸内の健康を向上するための製品の一部を構成しうる、Gal(α1−6)Gal(ガラビオース)を含む二糖の混合物の産生に用いることができる。このような製品は、乳製品(例えば、液乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、脂肪補充粉乳(fat filled milk powder)、ホエイパウダー等の乾燥粉乳、乳幼児用ミルク、粉ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、発酵乳製品等)、フルーツジュース等の飲料、乳児食、シリアル、パン、ビスケット、菓子類、ケーキ、食品サプリメント、栄養サプリメント、シンバイオティック食品(synbiotic comestible product)、プレバイオティック食品(prebiotic comestible product)、動物飼料、家禽飼料または他のあらゆる食料もしくは飲料から選択してもよい。
【0017】
もしくは、産生されたオリゴ糖は、病原体または病原体によって産生された毒素の腸壁への接着を防ぐための錠剤またはカプセルの形態を有する薬剤の調製に用いることもできる。このような薬剤は、例えば、しばしば通常の健康な腸内細菌叢を変化もしくは破壊してしまう場合がある一連の抗生物質療法に続いて、患者に投与される。
【0018】
本発明の更なる態様によれば、上記酵素を発現させる条件下で、上記宿主細胞を適切な培養培地中で培養すること、および、該培養で産生された酵素を該培養物から回収することを含む、該酵素の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明は、上記酵素または上記宿主細胞を、二糖であるGal(α1−6)−Gal(ガラビオース)を含むオリゴ糖混合物の製造方法であって、該オリゴ糖混合物を形成させる条件下でラクトース含有物質と接触させることを含む該方法にも関する。
【0020】
適切なラクトース含有物質は、市販のラクトース、全乳、セミスキムミルク、スキムミルク、ホエイミルク、脂肪補充乳(fat filled milk)、ホエイ透過物から選択することができる。このような乳製品は、乳牛、水牛、ヒツジまたはヤギから得ることができる。脂肪補充乳は、全乳を脱脂して乳脂肪を取り除き、次いで、乳脂肪の代わりに植物脂肪または植物油を添加したものとして定義される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
ゲノムDNAは、Lawson et al. (1989) Fems Microbiol Letters、65、 (1−2)、41−45、に記載の方法を用いて前記ビフィドバクテリウム・ビフィダム株(NCIMB 41171)から単離した。DNAを制限酵素で処理し、最長で15 kbpのサイズを有する断片を、同一の制限酵素で処理したpSP72ベクターにライゲーションした。Pstl、Eco RI、Bam HI、Kpnl、SmalまたはHindIIIで処理したB.ビフィダム由来の染色体DNAから成るインサートを含むベクターを用いて、大腸菌細胞を形質転換した。β−ガラクトシダーゼ活性を有するクローンは、p−ニトロフェニル、X−β−Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)及びイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を含むLuria Bertaniアガープレート上でセレクションされた。Bam HI処理した染色体DNAを含むライゲーションミックスからは、7個のβ−ガラクトシダーゼ陽性クローンが得られ、これらのうち1つをpB1とした。
【0022】
BigDye Terminator V.3.0 cycle sequencing kit (Applied Biosystems、米国)を用いて、Sangerのジデオキシチェーンターミネーション法(Russel P.、2002 iGenetics、Pearson Education、Inc.、San Francisco、187−189)により、挿入したDNA断片B1のDNA配列決定を行った。B1のDNA配列を図1に示す(配列番号1)。
【0023】
オープンリーディングフレーム(ORF)は、NCBI(National Center of Biotechnology Information)のORF finderを用いて位置同定した。図1に示されるヌクレオチド配列を、6種類のオープンリーディングフレーム候補の全てについて翻訳し、β−ガラクトシダーゼと推定される配列をコードする1052残基のアミノ酸からなる1種類のオープンリーディングフレームが同定された。該翻訳配列を図2に示す(配列番号2)。
【実施例】
【0024】
以下の実施例を参照し、本発明を更に説明する。
【0025】
実施例1
材料及び方法
本試験において使用した全ての試薬及び培地は、Sigma(ドーセット、英国)、Invitrogen(ペイズリー、英国)、Oxoid(ベイジングストーク、英国)、Qiagen(ウェストサセックス、英国)及びPromega(サウザンプトン、英国)から入手した。
【0026】
菌株
ビフィドバクテリウム・ビフィダム株(NCIMB 41171)は、Microbankチューブ中の低温ビーズ上で−70℃にて維持した。後の実験のため、該株を、Wilkinson Chalgren(WC)アガー(Oxoid、英国)及びTPY培地(トリプチケースファイトン酵母エキス培地)上で回復させ、嫌気的条件下(CO2およびN2がそれぞれ80%および20%)にて37℃で48時間増殖させた。グラム染色によりコロニーの形態およびコンタミネーションがないことを確認した。
【0027】
E. coli株
本試験で用いた大腸菌(Escherichia coli)DH5a株は、常法に従い、Luria Bertani(LB)アガーまたはLBブロス中で37℃の好気的条件下でインキュベートし(Sambrook J.and Russell W. D.(2001). Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York)、必要な場合には、抗生物質(100μg/mlのアンピシリン及び/または15μg/mlのクロラムフェニコール)及び40μlの2% X−β−Gal、7μlの20% IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)を、事前に作製した90mmアガープレート上に塗付することにより補充した。
【0028】
大腸菌DH5a株(Invitrogen、ペイズリー、英国)(遺伝子型:F- φ80lacZΔMΔ(lacZYA−argF)U169 recA1 endA1 hsdR17(rk-、 mk-)phoA supE44 thi−1 gyrA96 relA1λ-)は、α−ガラクトシダーゼ陽性株であり、発現実験及びその他の遺伝子操作に用いた。
【0029】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムからのゲノムDNA抽出
以下の方法により、ビフィドバクテリウム・ビフィダム株(NCIMB 41171)からゲノムDNAを単離した。当該方法において、染色体DNAは、100 mlのWC嫌気性菌培養液から回収した細胞ペレットより調製した。細胞を10 ml のTESバッファー(10 mM Tris−HCl、10 mM EDTA、10 mM NaCl、pH8)に再懸濁し、200μlのリゾチーム/ムタノリシン混合液(4:1、リゾチーム10 mg/ml、ムタノリシン1 mg/ml)で37℃にて30分間処理した。次いで、該細胞を、200μlのプロテイナーゼK(20 mg/ml)および200μlのRNase混合液(いずれも10 mg/ml)で処理し、65℃で1時間インキュベートした。最後に該細胞を、2 mlの10% SDSで処理して、65℃で15分間インキュベートした。12 mlのフェノール/クロロホルムを添加し、水相が中間相から容易に分離できるようになるまで抽出を繰り返した。イソプロパノールを用いてゲノムDNAを沈殿させ、10 mM Tris−HCl、1 mM EDTA(pH8)に再懸濁した。次いで、該ゲノムDNAを制限酵素で処理し、同一の酵素で処理し、アルカリホスファターゼ処理を施したpSP72にライゲーションした。B.ビフィダムのゲノムDNAの制限酵素処理は、EcoRI、PstI、BamHI、SmaI及びKpnIを用いて行った。ライゲーションミックスを用いて大腸菌 DH5aを形質転換し、β−ガラクトシダーゼ陽性クローンを、X−Gal含有プレート上の青色のコロニーとして同定した。
【0030】
ベクターDNAの調製
本試験において、クローニングと発現にはpSP72ベクターを用いた(Promega、英国)(Krieg、P.A.and Melton、 D.A.(1987). In vitro RNA synthesis with SP6 RNA polymerase.Methods in Enzymology.155:397−415)。
【0031】
pSP72には、β−ガラクトシダーゼのα断片がコードされておらず、これを補完する活性が欠けていることから、該ベクターが選択された。該ベクターは、β−ガラクトシダーゼの調節配列および最初の146残基のアミノ酸のコーディング情報を含む大腸菌DNAの短いセグメントを保持していない。該セグメントは、β−ガラクトシダーゼのカルボキシ末端部分を発現する大腸菌株(即ち、DH5a)と組み合わせた場合に活性なβ−ガラクトシダーゼを生じさせる(α相補)。
【0032】
該ベクターは、以下の制限酵素を用いて処理した:PstI、BamHI、HindIII、SmaI、KpnI及びEcoRI;製造元の説明書に従い、DNAに対して10倍過剰量の酵素を用いた(酵素のユニット数:DNAのμgは、プラスミドDNA1μgあたり酵素10ユニット、または、プラスミドDNA0.5pmolあたり酵素10ユニットである)。酵素を熱で不活性化(65℃で20分間)した後に、水平ゲル電気泳動解析により制限酵素処理パターンを解析した。ゲル中の単一断片の存在は、ベクターの完全消化、及びベクターの制限酵素消化が一箇所で起こったことを示す。
【0033】
ベクターの制限酵素処理が十分であることは、ライゲーションを行っていない分子で大腸菌DH5aのコンピテント細胞を形質転換することによってもテストした。アンピシリン(100μg/ml)を補充したLBアガープレート上に形成されたコロニー数は、未消化分子及び後の実験において予想されるバックグラウンドの指標である。
【0034】
更に、仔牛腸管由来アルカリホスファターゼCIAP(Promega、サウザンプトン、英国)を製造元の説明書に従って用いてベクターを脱リン酸化した。脱リン酸化処理の効率は、セルフライゲーション(バクテリオファージT4 DNAリガーゼを製造元の説明書に従って用いた)後に、DH5a細胞を形質転換することにより試験した。形成されたコロニーの数は、再び環状化された分子(インサートがクローニングされていないベクター)の数を示すので、CIAPによるベクター処理無しで形成されたコロニーの数から上記の数を引くと脱リン酸化されていないベクターの数が示される。
【0035】
ゲノムDNAライブラリーの構築
原核生物のDNA内に高頻度に現れる6個のヌクレオチドから成る配列を認識する6種類の制限酵素を用いて、ゲノムDNAを部分的に消化した。EcoRI、BamHI、PstI、KpnI、SmaI及びHindIIIは、それぞれ5’G/AATTC’3、5’G/GATCC’3、5’CTGCA/G’3 、5’GGTAC/C3’、5’CCC/GGG3’及び5’A/AGCTT3’の配列を特異的に認識するタイプII制限エンドヌクレアーゼであり、これらの配列内で2本鎖を切断し、EcoRI、BamHI及びHindIIIについては、それぞれ、4個のヌクレオチドAATT、GATC、AGCTから成る5’突出を生じさせ、PstI及びKpnIは、それぞれACGT、GTACから成る3’突出を生じさせ、SmaIは、平滑末端を生じさせる。
【0036】
これらの酵素は、全て活性を有しており、2価のマグネシウムイオンの存在下でのみDNAを切断することができる。これらのイオンは、唯一必要とされる補因子であった。
【0037】
DNAの制限酵素処理
ゲノムDNAサンプルの制限酵素処理物の全てを37℃で2時間インキュベートし、最後に65℃で20分間インキュベートして熱により不活性化させた。次いで、反応物を室温にて冷まし、適当量のローディングバッファーを加え、密封ガラスキャピラリーを用いて穏やかに混和した。次いで、この溶液を0.8%アガロースゲルのウェルにローディングし(4−5ボルト/cmの電力供給で14−16時間)、処理したDNAのサイズを、1kbpのDNAスタンダード(Promega、英国)のサイズを用いて推計した(Sambrook J.Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2002))。
【0038】
制限酵素処理後に生じた断片の精製
前記反応混合物及びアガロースゲルからの断片の精製は、Qiagen製(ウェストサセックス、英国)のQIAEX gel extraction kitを用いて行った。プロトコルは、製造元のマニュアルに詳細に記載されている。
【0039】
DNAのライゲーション及び形質転換
QIAEX gel extraction kitを用いてDNA断片を精製した後、これらの断片をCIAP処理したpSP72ベクターにライゲーションした。ライゲーションの際には、表1に示すように、適切量のDNAを滅菌した0.5mlマイクロチューブに移した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1:ライゲーション混合物。チューブAは、セルフライゲーションを起こしたベクターDNAの数を表し、この数を、形質転換後の形質転換体の総数から引かなければならない。チューブBは、DNA断片とベクターとのライゲーションを表し、チューブCは、形質転換効率を計算するための対照区を表す。
【0042】
各ライゲーションの前に、断片精製過程で再アニーリングした粘着末端を融解するために、DNA断片を45℃で5分間温めた。全てのライゲーション反応において、ベクター:インサートDNAモル比を1:1とし、反応液は、Promegaの説明書に従って調製した。
【0043】
チューブAおよびBに、1.0μlの10倍濃度ライゲーションバッファーと0.5 WeissユニットのT4 DNAリガーゼ(Promega、英国)を添加し、分子生物学グレードの水でライゲーション体積を10μlに調節した。チューブCには1.0μlの10倍濃度ライゲーションバッファーを添加し、分子生物学グレードの水でライゲーション体積を10μlに調整した。
【0044】
水と共にDNA断片をチューブに加え、次いで、調整過程で再アニーリングした粘着末端を融解するために、DNA断片を45℃で5分間温めた。残りのライゲーション試薬を添加する前に、該DNAを0℃に冷却し、その後、反応混合液を16℃で一晩インキュベートした(Sambrook and Russell、2001)。
【0045】
(形質転換効率を低下させる原因となるライゲーション混合液を取り除くため)ライゲーションした断片のエタノール沈殿および精製を行った後、Hanahanの説明書に従って形質転換を行った。5μl中に約50ngのライゲーションされたDNAを含む溶液を100μlの大腸菌DH5aコンピテント細胞に加えた。熱処理およびアンピシリン耐性遺伝子を発現させた後に、細胞を、アンピシリン(100μg/ml)、X−β−Gal(40μlの2% X−β−Gal)及びIPTG(7μlの20% IPTG)を含むLBプレート表面に播種した。
【0046】
各ライゲーション反応系による形質転換体の数を測定した。チューブCから通常得られる形質転換体の数は、2×105〜1×106cfu/μgであり、一方でチューブAから得られる形質転換体の数は、500〜600cfu/μgであった。チューブAにおける形質転換体の数は、ベクターDNAの効率的な処理を示すものであった。チューブBでの形質転換体の数は、2〜4×104cfu/μgの範囲内にあった。
【0047】
形質転換体の数
PstI処理した染色体DNAのライゲーション混合液からは、スクリーニングを行った約2500個の形質転換体の中から13個のβ−ガラクトシダーゼ陽性クローンが得られ、BamHI処理の場合には(スクリーニングを行った約1500個の形質転換体の中から)7個の陽性クローン、EcoRIの場合には(スクリーニングを行った約1300個の形質転換体の中から)3個の陽性クローン、KpnIの場合には(スクリーニングを行った約2000個の形質転換体の中から)7個の陽性クローン、SmaIの場合には(スクリーニングを行った約1600個の形質転換体の中から)3個の陽性クローン、そしてHindIIIの場合には(スクリーニングを行った約1200個の形質転換体の中から)2個の陽性クローンが得られた。
【0048】
陽性クローンの制限酵素処理
異なる種類のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を同定するため、以下の表に従って、陽性クローンから単離したプラスミドを消化した。
【0049】
【表2】

【0050】
消化後に生じた断片のゲル電気泳動解析により、pB1、pP1、pP2及びpP11の各プラスミドが、異なるβ−ガラクトシダーゼをコードするインサートを有していることが示された。pB1を含むクローンを更なる解析に用いた。
【0051】
DNA配列決定
DNA配列決定は、BigDye Terminator V.3.0 cycle sequencing kit(Applied Biosystems、米国)を用いて、Sangerのジデオキシチェーンターミネーション法により行い、キャピラリー電気泳動が組み込まれた、蛍光に基づくDNA解析システムであるABI Prism 3100を用いて解析を行った。
【0052】
インサートされたDNA断片の5’末端及び3’末端は、ベクターに特異的なプライマーを用いて配列決定された。インサートは、Genome Priming System(GPS−1)(New England Biolabs、英国)を用いて更に配列決定された。GPS−1は、TN7トランスポゾンに基づくin vitroシステムであり、TnsABCトランスポサーゼを用いて、DNA標的内にランダムにトランスポゾンを挿入する。製造元の説明書に従い、ドナー:標的DNAを1:4の質量比で用いた。標的プラスミドにトランスプライマーを挿入した後に配列決定用に単離されたプラスミドの数は、25個であった。この数は、製造元の説明書に従って計算したものであり、5倍のカバー率であると推測される。
【0053】
プラスミドpB1の場合、使用したベクターのマルチプルクローニングサイトから973bp下流の位置に約1699bpのトランスポゾンインサートが挿入していることにより、β−ガラクトシダーゼ活性が完全に失われることから、開始コドンがベクターのMCS(マルチプルクローニングサイト)とトランスポゾン挿入部位の間に位置していたことが示され、一方で、MCSの841bp下流へのインサートの挿入では、活性なβ−ガラクトシダーゼが形成されたので、開始コドンが、MCSの841bp〜973bp下流部位に存在することが示された。MCSの3565bp下流の位置へのインサートの挿入により、酵素活性が完全に失われたことは、終止コドンがこの位置より下流にあることを示す。更に、1239bp、1549bp、1683bp、1832bp、2108bp、2189bp、2270bp、2340bp、2414bp、2574bp、2648bp、2734bp、2807bp及び3410bpの位置への挿入によっても、完全に酵素活性が失われた。
【0054】
配列決定反応混合液は、約400〜600ngのプラスミドDNA、3.2pmolのプライマー溶液及び4μlのBigDye Terminator溶液を含む。
【0055】
オープンリーディングフレームの同定
B1のオープンリーディングフレーム(ORF)は、NCBIのORF finderを用いて位置特定した。細菌の遺伝暗号を用い、フレームの長さを100bpと定めた。ヌクレオチド配列は、6種類の全てのフレーム候補を翻訳し、β−ガラクトシダーゼと推定される配列をコードする1052個のアミノ酸から成るオープンリーディングフレームを同定した(翻訳産物を図2に示す)。
【0056】
実施例2
ビフィドバクテリウム・ビフィダムNCIMB 41171から単離してクローニングしたβ−ガラクトシダーゼ酵素を用いた、大腸菌宿主(DH5a株)内における合成
他に記載のない限り、以下に記載する合成は、細胞透過性を増加させ、その細胞膜を破壊することにより細胞を増殖不能にするために、大腸菌試料(10、000gの遠心により回収)を2000ppmの濃度のトルエンで処理した大腸菌DH5a宿主細胞を用いて行った。該大腸菌試料は、実施例1「大腸菌株」に記載の通りに調製した。
【0057】
クローニングした酵素を用いた合成
β−ガラクトシダーゼを用いた合成は、初期のラクトース濃度を40% (w/w)とした基質で行った。合成溶液は、pH6.8の0.1Mリン酸バッファー(またはpH 6.2の0.1Mクエン酸バッファーまたはpH6.8の0.1Mリン酸カリウムバッファー)中に調整した。合成は、150 rpmの振とう水浴中で40℃にて行った。特定の酵素試料の異なるpH値での活性測定(基質としてo−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシドを使用)に基づいて、特定の酵素の最適pHを選択した。
【0058】
ガラクトオリゴ糖の合成には、5 mlの大腸菌DH5a細胞懸濁液(2.2 U/mlの活性を有する)を遠心(10、000 g)して、大腸菌試料を回収し、上清を捨てた。合成を行うため、該大腸菌試料を10gの40%(w/w)基質溶液に再懸濁した。
【0059】
合成において、混合液中に存在した種々の糖の濃度を図3に示す。B.ビフィダムNCIMB 41171からクローニングしたβ−ガラクトシダーゼにより合成されたガラクトオリゴ糖混合物のパルスアンペロメトリック検出器と連結した高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−PAD)のクロマトグラムを図4に示す。最適な合成時点におけるガラクトオリゴ糖混合物の糖濃度を表1に示す。
【0060】
表1. 40 % (w/w)の 初期ラクトース濃度でのガラクトオリゴ糖合成における、最高のオリゴ糖濃度が観察された時点における炭水化物組成。
【表3】

【0061】
Lac:ラクトース、Glc:グルコース、Gal:ガラクトース、DP: 重合度
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明のビフィドバクテリウム・ビフィダム由来β−ガラクトシダーゼのヌクレオチド配列(配列番号1)を示す。
【図2】図2は、配列番号1のヌクレオチド配列に対応するアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図3】図3は、β−ガラクトシダーゼおよび基質として0.1Mリン酸バッファー(pH 6.0)中の40%(w/w)のラクトースを用いたガラクトオリゴ糖合成における経時的反応を示すグラフである。
【図4】図4は、基質として0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)中の40% (w/w)のラクトースを用いて、B.ビフィダムNCIMB 41171由来のβ−ガラクトシダーゼによって合成したガラクトオリゴ糖混合物の高速陰イオン交換クロマトグラフである。(Glc=グルコース、Gal=ガラクトース、Lac=ラクトース、α(1−6) ガラクトビオース、DP=重合度)。
【図1−1】

【図1−2】

【図1−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA配列であって
a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするか、または、
b)a)に記載する配列に厳しいハイブリダイゼーション条件下でバイブリダイズするか、または、
c)a)またはb)に記載する配列の縮重配列(degenerative)である、
該DNA配列。
【請求項2】
前記配列が、配列番号1に示される配列、またはその断片である、請求項1に記載のDNA配列。
【請求項3】
前記配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列、またはその断片に、60%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは25%未満の変化を生じさせる、ヌクレオチドの置換、付加または欠失を含む、請求項1または請求項2に記載のDNA配列。
【請求項4】
前記配列が、保存的アミノ酸置換を生じさせるヌクレオチドの置換を含む、請求項1または請求項2に記載のDNA配列。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNA配列にコードされる酵素。
【請求項6】
配列番号2に示されるアミノ酸配列、またはその断片を含む酵素。
【請求項7】
配列番号2に定められる配列を有するβ−ガラクトシダーゼ。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNA配列を含む組換えベクター。
【請求項9】
前記ベクターが、発現ベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNA配列を含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
前記細胞が、細菌細胞、酵母細胞または真菌細胞である、請求項10または請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
前記細胞が、ビフィドバクテリウム属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、エシェリキア属、バチルス属、及びアスペルギルス属から成る群より選択される、請求項12に記載の宿主細胞。
【請求項14】
前記細胞が、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、バチルス・スブチリス、バチルス・サーキュランス及びアスペルギルス・ニガーから成る群から選択される、請求項13に記載の宿主細胞。
【請求項15】
オリゴ糖混合物の製造のための、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素または請求項10〜14のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項16】
前記混合物が、二糖であるGal(β1−3)Glc、Gal(β1−3)Gal、Gal(β1−6)Gal及びGal(α1−6)Galを含む、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記混合物が、三糖であるGal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、Gal(β1−3)Gal(β1−4)Glc、四糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、及び五糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glcを含む、請求項15または請求項16に記載の使用。
【請求項18】
液乳、乾燥粉乳、乳幼児用ミルク、粉ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、発酵乳製品等の乳製品、フルーツジュース等の飲料、乳児食、シリアル、パン、ビスケット、菓子類、ケーキ、食品サプリメント、栄養サプリメント、プロバイオティック食品、プレバイオティック食品、動物飼料、家禽飼料及び薬剤から成る群より選択される製品の一部となるオリゴ糖混合物の製造のための、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素または請求項10〜14のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項19】
前記混合物が、二糖であるGal(β1−3)Glc、Gal(β1−3)Gal、Gal(β1−6)Gal及びGal(α1−6)Gal、三糖であるGal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、Gal(β1−3)Gal(β1−4)Glc、四糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、並びに五糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glcを含む、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
液乳、乾燥粉乳、乳幼児用ミルク、粉ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、発酵乳製品等の乳製品、フルーツジュース等の飲料、乳児食、シリアル、パン、ビスケット、菓子類、ケーキ、食品サプリメント、栄養サプリメント、プロバイオティック食品、プレバイオティック食品、動物飼料、家禽飼料及び薬剤から成る群より選択される製品の製造のための、請求項10〜14のいずれか1項に記載の宿主細胞の使用。
【請求項21】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の宿主細胞を、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素を発現させる条件下で、適切な培養培地中で培養すること、および、前記培養により生じた酵素を前記培養物から回収することを含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素の製造方法。
【請求項22】
二糖であるGal(β1−3)Glc、Gal(β1−3)Gal、Gal(β1−6)Gal及びGal(α1−6)Gal、三糖であるGal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、Gal(β1−3)Gal(β1−4)Glc、四糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glc、並びに五糖であるGal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−6)Gal(β1−4)Glcを含むオリゴ糖混合物の製造方法であって、請求項5〜7のいずれか1項に記載の酵素または請求項10〜14のいずれか1項に記載の宿主細胞を、ラクトース含有物質と接触させることを含む該方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−525037(P2009−525037A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552872(P2008−552872)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000178
【国際公開番号】WO2007/088324
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(508187045)クラサド インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】