説明

α3β置換構造のポルフィリン化合物もしくはその金属錯体、およびそれを含有する酸素輸液

【課題】酸素輸液として有効に作用する安定な酸素錯体をより少ない工程数で効率よく製造し得るポルフィリン化合物を提供する。
【解決手段】下記式[I]で示されるポルフィリン化合物またはその金属錯体。式[I]において、R1は、置換基を有してもよい脂環式炭化水素基、R2は、下記式[II]または式[III]で示される軸塩基配位基。ここで、R3はアルキレン基、R4は周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の遷移金属イオンMへの配位を許容する基、R5は、アミノ酸のカルボキシル基のα位の炭素上の基、R6は疎水性基、xは0または1。
【化1】


【化2】


【化3】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工酸素運搬体として利用され得るポルフィリン化合物もしくはその金属錯体、およびそれを含有する包接化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で酸素の運搬・貯蔵の役割を担うヘモグロビンやミオグロビンの活性中心であるヘム、すなわちポルフィリン鉄(II)錯体は、分子状酸素を酸素分圧に応答して可逆的に吸脱着できる。このような天然のヘムと類似の酸素結合解離能を合成のポルフィリン鉄(II)錯体で実現しようとする研究は、古くから数多く報告されてきている。例えば、非特許文献1、非特許文献2等が代表的であり、近年の研究例は非特許文献3や非特許文献4にまとめられている。
【0003】
特に、室温条件下で安定な酸素錯体を生成できると報告されているポルフィリン鉄(II)錯体としては、テトラキス−o−アミノフェニルポルフィリンのアミノ基にピバイロイル基をポルフィリン平面に対して同じ向きに導入したα4構造の5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン鉄(II)錯体(以下、FeTpivPP錯体と呼ぶ)(非特許文献5)が知られている。FeTpivPP錯体は過剰の軸塩基、例えば、1−アルキルイミダゾール、1−アルキル−2−メチルイミダゾールなどが共存すると、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒中、室温で酸素分子を可逆的に吸脱着できる。また、この錯体をリン脂質から成る二分子膜小胞体に包埋させれば、生理条件下(水相系、pH7.4、37℃)でも同様の酸素結合解離能が発揮される(例えば、非特許文献6等)。
【0004】
しかし、FeTpivPP錯体が酸素を可逆的に結合するためには、上述したように過剰モル数の軸塩基配位子を外部から添加する必要がある。軸塩基配位子として広く用いられているイミダゾール誘導体には薬理作用を持つものがあり、体内毒性の高い場合が多い。また、リン脂質小胞体を利用する場合、過剰に共存させたイミダゾール誘導体がその形態を不安定化させる要因ともなり得る。この軸塩基配位子の添加量を極限的に少なくする方法は、分子内に共有結合でイミダゾール誘導体を導入することに他ならない。
【0005】
本発明者らは、ポルフィリン鉄(II)錯体の分子内へ、側鎖置換基としてイミダゾール誘導体を共有結合すれば、軸塩基を外部添加することなく安定な酸素運搬体を供給できるものと考え、ポルフィリン環の2位に置換基を有するFeTpivPP類縁体を合成し、さらにこれをリン脂質小胞体中やヒト血清アルブミンに包含させた包接化合物を調製し、酸素の可逆的吸脱着が可能な人工酸素運搬体として提供している(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。また、ポルフィリン2位に軸配位配位子ヒスチジン誘導体を導入したポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物は、その酸素錯体の安定度が、イミダゾリルアルキル基の場合に比べ、大きく上昇することも解明している(非特許文献7)。
【0006】
しかし、このようなポルフィリン鉄(II)錯体を合成するためには、ポルフィリン環の2位置に軸塩基として機能する置換基を構築する必要があり、しかもその際、計5段階の合成過程を経るため、これが調製に時間をかける原因となるばかりでなく、総収率を低下させる最大の要因となっていた。
【0007】
さらには、テトラキス−o−アミノフェニルポルフィリンのアミノ基の1つに軸塩基配位子となるイミダゾリルアルキル基を結合させ、他の3つのアミノ基に疎水性置換基を結合させたポルフィリン金属錯体の例として、非特許文献8に5−(イミダゾリルアルキレンアミドフェニル)−10,15,20−トリス(ピバルアミドフェニル)ポルフィリナト鉄が記載されている。しかし、これらのポルフィリン誘導体は、テトラキス−o−α,α,α,α-アミノフェニルポルフィリンにまず3つのピバロイル基を結合させた後、残り1つのアミノ基をアトロプ異性化させた後(すなわちα3β構造となる)、イミダゾリル基を順次結合させる方法で合成しており、総収率は5%以下と低い。また、このポルフィリン金属錯体疎水性置換基はピバロイル基であるため、3つだけでは酸素配位座近傍を十分に覆うことができず、そのために少量でも水が共存すると直ちに酸化され、酸素錯体を形成することができない。
【非特許文献1】J. P. Collman, Acc. Chem. Res., 10, 265 (1977)
【非特許文献2】F. Basolo, B. M. Hoffman, J. A. Ibers, Acc. Chem. Res., 8, 384 (1975)
【非特許文献3】Momenteau et al., Chem. Rev., 94, 659 (1994)
【非特許文献4】J. P. Collman et al., Chem. Rev., 104, 561 (2004)
【非特許文献5】J. P. Collman, et al., J. Am. Chem. Soc., 97, 1427 (1975)
【非特許文献6】E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1984, 1147 (1984)
【非特許文献7】T. Komatsu, et al., Bioconjugate Chem., 13, 397 (2002)
【非特許文献8】J. P. Collman et al., J. Am. Chem. Soc., 102, 4182 (1980)
【特許文献1】特開昭59−164791号公報
【特許文献2】特開昭59−162924号公報
【特許文献3】特開平6−271577号公報
【特許文献4】特開平8−301873号公報
【特許文献5】特開2003−040893号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、酸素輸液として有効に作用する安定な酸素錯体をより少ない工程数で効率よく製造するため、テトラキス−o−アミノフェニルポルフィリンの1つのアミノ基に軸塩基配位子を、残りの3つのアミノ基に疎水性置換基を導入した新規なα3β置換構造のポルフィリン金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、安定な酸素錯体を形成するポルフィリン金属錯体をより簡便に得るため、その分子設計と合成工程の改良に鋭意研究を重ねた結果、テトラキス−o−アミノフェニルポルフィリンの1つのアミノ基に軸塩基配位子を、残り3つのアミノ基に脂環式炭化水素基を導入したα3β置換構造のポルフィリン金属錯体は、これまでに比べはるかに短縮された合成工程で、従来通り軸塩基と疎水性置喚基を持つという構造要件を満たしたポルフィリン金属錯体ができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の側面によれば、式[I]:
【化4】

(ここで、R1は、置換基を有してもよい脂環式炭化水素基、R2は、式[II]:
【化5】

(ここで、R3はアルキレン基、R4は周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の遷移金属イオンMへの配位を許容する基)または式[III]:
【化6】

(ここで、R5は、アミノ酸のカルボキシル基のα位の炭素上の基、R6は、疎水性基、xは0または1)で示される軸塩基配位基)で示されるポルフィリン化合物、または第4〜5周期の遷移金属イオンが配位したその金属錯体が提供される。
【0011】
本発明の第2の側面によれば、本発明のポルフィリン金属錯体をアルブミンに包接させてなるポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物が提供される。
【0012】
さらに、本発明の第3の側面によれば、本発明のポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物を有効成分として含む人工酸素運搬体が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポルフィリン金属錯体は、ポルフィリン金属錯体に軸塩基配位子を簡便に導入して、優れた酸素運搬能を持たせたものである。総収率は約20%であり、従来報告されているα3β構造の軸塩基結合型ポルフィリン金属錯体よりも効率よく目的物を得ることができるようになった。当該ポルフィリン金属錯体をヒト血清アルブミンに包接させたポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物は人工酸素運搬体として生体内投与を考慮した場合、生体適合性に優れた有用な材料となり得る。また、本発明のポルフィリン金属錯体は前記した人工酸素運搬体のほか、ガス吸着剤、酸素吸脱着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒などとしても有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のポルフィリン化合物は、上記式[I]で示される。
【0015】
式[I]において、R1は置換基を有してもよい脂環式炭化水素基である。かかる脂環式炭化水素基としては、比較的嵩高く、ポルフィリン化合物の中心部位を有効に疎水性雰囲気にもたらし得る1位に置換基を有する脂環式炭化水素基であることが好ましい。そのような1位に置換基を有する脂環式炭化水素基の例を挙げると、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、2−置換ノルボルニル基、1−アダマンチル基であり、1位置換基としては、メチル基、アルキルアミド基(RCONH−)、アルキルエステル基(ROOC−)、アルキルエーテル基(RO−)を例示することができる。ここで、Rで表されるアルキル基としては、C1〜C6アルキル基が好ましい。
【0016】
式[I]において、R2は上記式[II]または上記式[III]で示される軸塩基配位基である。
【0017】
式[II]において、R3はアルキレン基、好ましくは、C2〜C18アルキレン基である。R4は式[I]のポルフィリン化合物に周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンMへの配位を許容する(配位を阻害しない)基である。かかるR4の例を挙げると、水素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基である。
【0018】
式[III]において、R5は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン等のアミノ酸(HOOCC(R5)NH2)のカルボキシル基のα位の炭素上の基である。R6は疎水性基であり、例えば、水素、アセチル基、ベンジルオキシカルボニル(Boc)基、t−ブチルオキシカルボニル(Z)基である。
【0019】
本発明は、式[I]のポルフィリン化合物に周期律表第4〜第5周期の遷移金属イオンMが配位したポルフィリン金属錯体をも提供する。遷移金属イオンMとしては、FeまたはCoが好ましい。Feの原子価は+2または+3であり得、またCoの原子価は+2であり得る。このポルフィリン金属錯体は、式[IV]で示すことができる。
【0020】
【化7】

【0021】
式[IV]において、X-は、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを表し、X-の個数nは、遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0022】
本発明のポルフィリン金属錯体では、中心金属イオンMが+2価であると、分子内に結合したイミダゾール基が近位塩基としてポルフィリン中心金属Mに配位する。この状態は、下記式[V]で示すことができる。なお、式[V]において、中心金属Mに配位しているイミダゾール基は、式[II]または式[III]におけるイミダゾール基に相当し、簡便のため、式[II]におけるR4基は除いてある。また、フェニルのオルソ位に結合した窒素と当該イミダゾール基を結ぶ波線は、式[II]または式[III]においてイミダゾール環を除いた残基を表す。
【0023】
【化8】

【0024】
このイミダゾール基が中心金属Mに配位することにより、当該ポルフィリン錯体分子のみで酸素結合能を発揮できる。これにより、軸塩基配位子としてイミダゾール誘導体を過剰に添加する必要がない。さらに、ポルフィリン2位に置換基を導入しなくても、イミダゾール基を分子内に結合することができる。この金属錯体は、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体等のアルブミンに包接させると、水中で安定な酸素錯体を形成できることから、人工酸素運搬体としての機能を発現できる。金属錯体のアルブミンへの包接は、前記特許文献4に記載の手法を用いて行うことができる。
【0025】
加えて、ポルフィリンが例えば第4周期に属する金属イオンの錯体である場合、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての付加価値も高い。従って、本発明のポルフィリン金属錯体は、人工酸素運搬体のほか、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としての特徴も持つことになる。
【0026】
人工酸素運搬体の適応は、輸血用血液の代替物の他、術前血液希釈液、人工心肺などの体外循環回路の補充液、移植臓器の灌流液、虚血部位への酸素供給液、慢性貧血治療剤、液体換気の灌流液、がん治療用増感剤、再生組織細胞の培養液、さらに稀少血液型患者への利用、宗教上の理由による輸血拒否患者への対応、動物医療への応用が期待される。人工酸素運搬体は、本発明のポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物が生理食塩水に分散したものである。ポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物の濃度は、その用途によって異なるが、代用血液としてはヘム濃度で9.2mM/L程度、その他では、それ以上の濃度を用いることができる。
【0027】
本発明のポルフィリン化合物の製造方法には特に制限はないが、例えば、下記式[VI]で示されるメソ−テトラキス(α,α,α,α−o−アミノフェニル)ポルフィリンを出発物質として合成することができる。
【0028】
【化9】

【0029】
具体的には、メソ−テトラキス(α,α,α,α−o−アミノフェニル)ポルフィリンを適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフランなど)に溶解し、そこにトリチルブロマイドおよびトリエチルアミンを加え、さらに10分〜1時間撹拌後、溶媒を減圧除去する。得られたポルフィリンのトルエン溶液を活性アルミナおよびヘプタンの入った容器に加え、90℃、遮光下にて12〜24時間撹拌する。ガラスフィルターでアルミナを濾別し、シリカゲルカラムによりメソ−トリ(α,α,α−o−アミノフェニル)−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを分画精製する。得られたポルフィリンと適当な塩基(ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)に溶解した溶液を式R1COCl(ここで、R1は、上記定義の通り)で示される酸クロライドに滴下し、窒素雰囲気下、室温で2〜15時間撹拌する。溶媒を減圧除去後、クロロホルム、水を添加、水層をクロロホルムで洗浄後、有機層を回収し、溶媒を減圧除去する。得られた残渣をシリカゲルカラムで分画精製し、真空乾燥することで、メソ−トリ(α,α,α−o−(シクロアルカンアミド))−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを固体として得る。得られたポルフィリンと適当な塩基(ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)に溶解した溶液を下記式[VII]または式[VIII]で示されるω−イミダゾリルカルボン酸(式[VII]または式[VIII]において、R3〜R6は、上記定義の通り)の酸クロライドに滴下し、窒素雰囲気下、室温で2〜15時間撹拌する。
【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
ついで、溶媒を減圧除去後、クロロホルム層を水洗し、溶媒を減圧除去する。得られた残渣をシリカゲルカラムで分画精製し、真空乾燥することで、式[I]で示されるポルフィリン化合物を得ることができる。
【0033】
こうして得られたポルフィリン化合物への中心金属導入は、例えば D. Dolphin 編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社などに記載の一般法により達成され、相当のポルフィリン金属錯体として得られる。一般に、鉄錯体の場合にはポルフィリン鉄(III)錯体が、コバルト錯体の場合にはポルフィリンコバルト(II)錯体が得られる。
【0034】
上記ポルフィリン金属錯体の内、鉄(III)錯体の形を有する場合は、適当な還元剤(亜二チオン酸ナトリウム、アスコルビン酸等)を用い、常法により中心金属を3価から2価へ還元すれば酸素結合活性が付与できる。これらのポルフィリン鉄(II)錯体をヒト血清アルブミンに包接した系、組換えヒト血清アルブミンに包接した系、アルブミン多量体に包接した系、いずれの場合も酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を生成する。また、これらの錯体は酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。この酸素結合解離は可逆的に繰り返し行うことができ、酸素吸脱着剤、酸素運搬体として作用する。
【0035】
酸素以外にも金属に配位性である気体の場合、相当する配位錯体を形成できる(例えば、一酸化炭素、一酸化窒素など)。これらの理由から、本発明のポルフィリン金属錯体は、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒およびガス吸着剤としての応用が可能となるばかりでなく、体内毒性の高い遊離イミダゾールの存在を解消し、簡便に合成できることから、鉄(II)またはコバルト(II)錯体の場合、人工酸素運搬体としての特徴を持つ。
【実施例】
【0036】
以下、この発明をいくつかの例により詳細に説明する。なお、本発明がこれら例のものに限定されないことは、いうまでもない。
【0037】
例1
本工程はすべて遮光下で行った。500mLの3つ口フラスコに、メソ−テトラキス−o−アミノフェニル)ポルフィリンのアトロプ異性体混合物(1.99g、2.97mmol)、トリエチルアミン(1.2mL)およびクロロホルム200mLを加え、窒素雰囲気下で15分間撹拌した。そこへトリチルブロマイド(1.00g、3.10mmol)のクロロホルム溶液30mLを加え、室温で15時間撹拌後、溶媒を減圧除去した。次に、1Lの3つ口フラスコにヘプタン300mLとアルミナ116gを添加し、窒素雰囲気下、2時間還流、撹拌した。そこへ、上記トリチルブロマイドと反応させたポルフィリンのトルエン溶液(50mL)を添加し、14時間還流下に撹拌した。反応終了後、上澄みを除去し、アセトン/メタノール混合溶液(アセトン/メタノール=10/1(v/v))でアルミナを洗浄し、吸着したポルフィリンを溶出させて回収し、溶媒を減圧除去した。これをシリカゲルカラム(クロロホルム/酢酸エチル=1/1(v/v))を用いて、低極性の第一、第二成分を除去後、移動相をクロロホルム/アセトン=7/1(v/v)に変え、溶出してきた成分を真空乾燥し、紫色固体としてメソ−トリ(α,α,α−o−アミノフェニル)−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを収量840mg(収率57%)で得た。
【0038】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=1/1(容量/容量):Rf:0.33(モノスポット))。
【0039】
紫外可視吸収スペクトル(クロロホルム、λmax = 420, 517, 550, 590, 647 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z): C63H48N8に対する計算値:916.40;実測値:916.40
1H−NMRスペクトル(CDCl3、TMS基準、 δ(ppm): -2.6 (s, 2H, 内部H), 5.2 (s, 1H, -NHC(Ph)3), 6.7-7.3 (m, 12H, Ph), 8.9 (d, 8H, ピロール-β)。
【0040】
例2
500mLの3つ口フラスコに1−メチルシクロヘキサン酸(1.40g、9.88mmol)、クロロホルム5mLを加え、室温、窒素雰囲気下で20分撹拌後、塩化オキサリル4mLを加え、2時間撹拌した。赤外吸収スペクトルから酸塩化物の生成を確認後、クロロホルム、塩化オキサリルを減圧除去し、1−メチルシクロヘキサン酸クロライドを得た。そこに、例1で合成したメソ−トリ(α,α,α−o−アミノフェニル)−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリン(840mg、14mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(1.7g、14mmol)のクロロホルム溶液50mLを滴下漏斗を用いてゆっくりと滴下し、室温、窒素雰囲気下で15時間撹拌した。そこにメタノール15mLを添加し、15分撹拌後、溶液を減圧除去し、クロロホルムにて抽出し、水洗後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラム(クロロホルム/酢酸エチル=20/1)で分画精製し、真空乾燥して、紫色固体としてメソ−トリ(α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキンアミド))−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを収量787mg(収率67%)で得た。
【0041】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=20/1(容量/容量):Rf:0.55(モノスポット))。
【0042】
赤外吸収スペクトル(cm-1):1688 (νC=O, アミド)
紫外可視吸収スペクトル(クロロホルム、λmax = 416, 513, 546, 587, 642 nm)
1H−NMRスペクトル(CDCl3、δ(ppm)): -2.8 (s, 2H, 内部H), 0.0 (s, 9H, -Me), 0.0-0.5 (m, 24H, シクロヘキシル) 4.8 (s, 1H, -NH-C(Ph)3), 6.6 (m, 17H, Ph), 7.0-8.8 (m, 24H, フェニル, ピロール-β, アミド)
FAB−MSスペクトル(m/z):C87H84N8O3に対する計算値:1289.7;実測値:1289.7。
【0043】
例3
50mLの3つ口フラスコに6−ブロモヘキサン酸(1.0g、5.35mmol)とオキサリルクロライド(0.7 mL)を加え、室温で3時間撹拌後、オキサリルクロライドを減圧除去した。そこに、ビフェニルカルビノール(1.29g、7.02mmol)とトリエチルアミン(1mL)のクロロホルム(5mL)溶液を滴下し、窒素雰囲気下、60℃で2時間撹拌した。溶媒を減圧除去後、クロロホルムにて抽出し、水洗後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧除去した。これをシリカゲルカラム(CHCl3)で分画後、真空乾燥し、薄黄色液体として6−ブロモヘキサン酸ジフェニルメチルエステルを収量1.57g(収率80%)で得た。
【0044】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム):Rf:0.71(モノスポット))。
【0045】
赤外吸収スペクトル(cm-1):1730 (νC=O, エステル)
1H−NMRスペクトル(CDCl3、TMS基準、δ(ppm)): 1.3 (m, 2H, - CH2CH2-C(=O)-), 1.6 (m, 2H, Br-(CH2)2CH2-), 1.8 (m, 2H, BrCH2CH2-), 2.3 (t, 2H, Br-CH2-), 3.2 (t, 2H, -CH2-C(=O)-), 6.9 (s, 1H, -CH(Ph)2), 7.2-7.4 (m, 10H, -フェニル)
FAB−MSスペクトル(m/z):C19H21O2Brに対する計算値:360.08;実測値:360.07。
【0046】
例4
ベンゼンから再結晶精製した2−メチルイミダゾール(236mg、2.87mmol)をジメチルホルムアミド10mLに溶解し、例3で合成した6−ブロモヘキサン酸ジフェニルメチルエステル(333mg、0.921mmol)を添加して、窒素雰囲気下100℃で12時間撹拌した。溶媒を減圧除去後、クロロホルムにて抽出し、水洗後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧除去した。これをシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量))で分画し、得られた成分を真空乾燥して、6−(2−メチルイミダゾール−1−イル)ヘキサン酸ジフェニルメチルエステルを薄茶色粘稠液体として収量195mg(収率58%)で得た。
【0047】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1(容量/容量):Rf:0.49(モノスポット))。
【0048】
赤外吸収スペクトル(cm-1):1730 (νC=O, エステル)
1H−NMRスペクトル(CDCl3、TMS基準、δ(ppm)): 1.3 (m, 2H, -CH2-CH2-C(=O)-), 1.7 (m, 4H, -(CH2)2(CH2)2C(=O)-), 2.3 (s, 3H, -CH3), 2.4 (t, 2H, N-CH2-), 3.7 (t, 2H, -CH2-C(=O)-), 6.7 (s, 1H, -CH(Ph)2), 6.9 (2H, br, イミダゾール), 7.2-7.3 (m, 10H, -フェニル)
FAB−MSスペクトル(m/z):C23H26N2O2に対する計算値:362.47;実測値:363.41 [M+H]+
【0049】
例5
例4で得た6−(2−メチルイミダゾール−1−イル)ヘキサン酸ジフェニルメチルエステル(195mg、0.54mmol)を酢酸3mLに溶解させ、塩化水素ガスを通気しながら、2時間撹拌する。塩酸と酢酸を減圧除去後、残留物を水に溶解させエーテル洗浄した。水層を凍結乾燥して、薄茶色固体として6−(2−メチルイミダゾール−1−イル)ヘキサン酸を収量103mg(収率87%)で得た。
【0050】
<分析結果>
赤外吸収スペクトル(cm-1):1722 (νC=O, カルボン酸)
1H−NMRスペクトル(CD3OD、TMS基準、δ(ppm)): 1.3-1.4 (m, 2H, -CH2CH2-C(=O)-), 1.7 (m, 2H, -CH2(CH2)2-C(=O)-), 1.9 (m, 2H, N-CH2CH2-), 2.4 (t, 2H, N-CH2-), 2.7 (s, 3H, -CH3), 4.2 (t, 2H, -CH2-COOH), 7.5 (1H, m, イミダゾール), 7.6 (1H, m, イミダゾール)
FAB−MSスペクトル(m/z):C10H16N2O2に対する計算値:196.25;実測値:197.37 [M+H]+
【0051】
例6
50mLの3つ口フラスコに例5で得た6−(2−メチルイミダゾール−1−イル)ヘキサン酸(103mg、0.63mmol)および二塩化オキサリル6mLを加え、窒素雰囲気下で8時間室温撹拌後、減圧乾燥により白色固体を得た。もう一方の50mLの3つ口フラスコに例2で得たメソ−トリ(α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキンアミド))−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリン(200mg、0.155mmol)およびクロロホルム30mLを加え、塩化水素ガスを吹き込みながら15分間撹拌した。このとき溶液の色は赤紫色から緑色に変化した。純水および炭酸水素ナトリウムを添加して、pHを7に調整後、クロロホルムにて抽出し、水洗後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧除去して、紫色固体を得た。これにアセトニトリル20mL、ベンゼン2mLおよびジメチルアミノピリジン(732mg)を加え、先に調製した6−(2−メチルイミダゾール−1−イル)ヘキサン酸クロライドに滴下し、窒素雰囲気下室温で15時間撹拌した。溶媒を減圧除去後、クロロホルムにて抽出し、水洗後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧除去した。これをシリカゲルカラム(クロロホルム/酢酸エチル=10/1(容量/容量))で分画精製して、紫色粉末としてメソ−トリ(α,α,α−o−シクロヘキサンアミドフェニル)−β−o−6−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))ヘキサンアミドフェニルポルフィリンを収量158mg(収率83%)で得た。
【0052】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=8/1(容量/容量):Rf:0.46(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1686 (νC=O, アミド)
紫外可視吸収スペクトル(クロロホルム、λmax = 420, 514, 544, 588, 643 nm)
1H−NMRスペクトル(CDCl3、δ(ppm)): -2.8 (s, 2H, 内部H), -0.2 (s, 9H, メチル シクロヘキシル), -0.1-1.0 (m, 30H, シクロヘキシル), 1.2 (t, 2H, -N-CH2-CH2-), 1.4 (s, 3H, N=C(CH3)N), 1.9 (m, 4H, -N-CH2-(CH2)2-), 2.6 (m, 2H, CH2-CH2-CH2-CO-NH), 5.7 (s, 1H, イミダゾール-H), 6.0 (s, 1H, イミダゾール-H), 7.0-8.5 (m, 22H, N-H(アミド), フェニル), 8.5-8.8 (m, 8H, ピロール-β)
FAB−MSスペクトル(m/z):C78H84N10O4に対する計算値:1225.5662;実測値:1225.6794。
【0053】
例7
50mLの3つ口フラスコに47%臭化水素酸水溶液(2mL)を加え、窒素雰囲気下で30分撹拌後、電解鉄(26mg)を加え、窒素雰囲気下80℃にて2時間撹拌して、薄緑色透明溶液を得た。この溶液を130℃まで昇温し、臭化水素酸および水を蒸発除去後、オイルバスの温度が70℃になるまで放冷し、薄黄色粉末の臭化鉄(II)を得た。ここに例6で得たメソ−トリ(α,α,α−o−シクロヘキサンアミドフェニル)−β−o−6−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))ヘキサンアミドフェニルポルフィリン(34mg、0.03mmol)および2,6−ルチジン(48μL、0.41mmol)のテトラヒドロフラン溶液4mLを滴下し、窒素雰囲気下、60℃で2時間攪拌した。蛍光(ex. 420 nm, em. 650, 750 nm)の消失を確認後、溶液を室温まで放冷し、氷水に滴下し、遠心分離(7000g、20分)して、沈殿物を回収した。これをシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール=8/1(容量/容量))で分画精製し、真空乾燥して、茶色粉末としてメソ−トリ(α,α,α−o−シクロヘキサンアミドフェニル)−β−o−6−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))ヘキサンアミドフェニルポルフィリン鉄を収量24mg(収率66%)で得た。
【0054】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:8/1(容量/容量):Rf:0.28(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1686 (νC=O, アミド)
紫外可視吸収スペクトル (クロロホルム、λmax = 419, 507, 576, 647 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):C78H82N10O4Feに対する計算値:1279.4;実測値:1279.5。
【0055】
例8
例1において1−メチルシクロヘキサン酸の代わりに、1−メチルシクロペンタン酸を用い、さらに例6において6−(2−メチル−1−イミダゾリル)ヘキサン酸の代わりに4−(1−イミダゾリル)ブタン酸を用いる以外は例1〜7と全く同様な方法に従って、メソ−トリ(α,α,α−o−(1−メチル)シクロペンタンアミドフェニル)−β−o−4−(N−1−イミダゾリル)ブタンアミドフェニルポルフィリン鉄を合成した。
【0056】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1(容量/容量):Rf:0.5(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1688 (νC=O, アミド)
紫外可視吸収スペクトル(クロロホルム、λmax = 420, 508, 576, 647 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):C72H72N10O4Feに対する計算値:1197.2;実測値:1197.2。
【0057】
例9
例1において1−メチルシクロヘキサン酸の代わりに、1−アダマンタン酸を用い、さらに例6において6−(2−メチル−1−イミダゾリル)ヘキサン酸の代わりに10−(2−メチル−1−イミダゾリル)デカン酸を用いる以外は例1〜7と全く同様な方法に従ってメソ−トリ(α,α,α−o−アダマンタンアミドフェニル)−β−o−10−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))デカンアミドフェニルポルフィリン鉄を合成した。
【0058】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=20/1(容量/容量):Rf: 0.55(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1689 (νC=O, アミド)
紫外可視吸収スペクトル(クロロホルム、λmax = 419, 508, 577, 647 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):C94H110N10O4Feに対する計算値:1499.8;実測値:1499.7。
【0059】
例10
例1において1−メチルシクロヘキサン酸の代わりに、3−ノルアダマンタンカルボン酸を用い、さらに例7において2,6−ルチジンを含む乾燥テトラヒドロフラン中で、塩化コバルトと反応させる方法で、ポルフィリン中心へコバルトを導入する以外は例1〜7と全く同様な方法に従って、メソ−トリ(α,α,α−o−3−ノルアダマンタンアミドフェニル)−β−o−6−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))ヘキサンアミドフェニルポルフィリンコバルトを合成した。
【0060】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=15/1(容量/容量):Rf:0.4(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1688(νC=O, アミド)
紫外可視吸収スペクトル (クロロホルム、λmax = 403, 521, 552 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):C84H84N10O4Coに対する計算値:1356.6;実測値:1356.6。
【0061】
例11
例6において6−(2−メチルイミダゾール−1−イル)へキサン酸の代わりに、N−アセチルヒスチジンを用いた以外は例1〜7と全く同様な方法に従って、メソ−トリ(α,α,α−o−シクロヘキサンアミドフェニル)−β−o−N−アセチルヒスチジンアミドフェニルポルフィナト鉄を合成した。
【0062】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=8/1(容量/容量):Rf:0.2(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1):1686 (νC=O, アミド)
紫外可視吸収スペクトル (クロロホルム、λmax = 418, 506, 578, 645 nm)
FAB−MSスペクトル(m/z):C76H77N11O5Feに対する計算値:1280.3;実測値:1280.3。
【0063】
応用例1
例7で合成したメソ−トリ(α,α,α−o−シクロヘキサンアミドフェニル)−β−o−6−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))ヘキサンアミドフェニルポルフィリン鉄(III)0.03μmolを10mLの無水トルエン溶液を窒素置換後、亜二チオン酸水溶液と不均一系で約2時間混合攪拌し、鉄(II)へ還元した。窒素雰囲気下、トルエン層のみを抽出、無水硫酸ナトリウムで脱水乾燥後、濾別し、得られたトルエン溶液を測定セルに移し密閉した。こうして、メソ−トリ(α,α,α−o−シクロヘキサンアミドフェニル)−β−o−6−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))ヘキサンアミドフェニルポルフィリン鉄(II)錯体のトルエン溶液を得た。この溶液の可視吸収スペクトルはλmax:427, 532, 559 nmで、当該錯体はイミダゾールが1つ配位した5配位デオキシ型に相当するものであることが明らかとなった。この溶液に、酸素ガスを吹き込むと直ちにスペクトルが変化し、λmax:426, 548 nmのスペクトルが得られた。これより酸素化錯体の形成が明らかとなった。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルが酸素化型スペクトルからデオキシ型スペクトルへ可逆的に変化したことから、酸素の吸脱着が可逆的に生起することが明らかとなった。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返すことにより、酸素吸脱着を連続して行うことができた。酸素親和度(全体のポルフィリン鉄の50%が酸素化する際の酸素分圧(=P1/2))は、65Torr(25℃)であった。
【0064】
応用例2
例7に従い合成したメソ−トリ(α,α,α−o−シクロヘキサンアミドフェニル)−β−o−6−(N−(2−メチル−1−イミダゾリル))ヘキサンアミドフェニルポルフィリン鉄錯体20μMエタノール溶液を前記特許文献4に記載の手法に従って、ヒト血清アルブミン(2.5μM)に包接させたアルブミン−ヘム複合体(ポルフィリン/アルブミン:4(mol/mol))のリン酸緩衝水溶液(pH7.3)3mLを石英製分光測定用セルに移し、酸素を通気したところ、λmaxが426, 550 nm可視吸収スペクトルが得られたことから、酸素化錯体の形成が示された。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルからデオキシ型スペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆的に生起することが明らかとなった。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返し、酸素吸脱着を連続して行うことができた。酸素親和度P1/2は、60Torrであった。また、この酸素配位錯体は徐々に酸化劣化していったが、その半減期は約2時間以上(37℃)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]:
【化1】

(ここで、R1は、置換基を有してもよい脂環式炭化水素基、R2は、式[II]:
【化2】

(ここで、R3はアルキレン基、周期律表R4は第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の遷移金属イオンMへの配位を許容する基)または式[III]:
【化3】

(ここで、R5は、アミノ酸のカルボキシル基のα位の炭素上の基、R6は疎水性基、xは0または1)で示される軸塩基配位基)で示されるポルフィリン化合物、または周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMが配位したその金属錯体。
【請求項2】
1が、1位に置換基を有する脂環式炭化水素基である請求項1のポルフィリン化合物またはその金属錯体。
【請求項3】
3が、C2〜C18アルキレン基である請求項1または2に記載のポルフィリン化合物またはその金属錯体。
【請求項4】
4が、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポルフィリン化合物またはその金属錯体。
【請求項5】
6が、水素原子、またはアセチル基、ベンジルオキシカルボニル基もしくはt−ブチルオキシカルボニル基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポルフィリン化合物またはその金属錯体。
【請求項6】
Mが、FeまたはCoである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項7】
Feの価数が+2価または+3価である請求項6に記載の金属錯体。
【請求項8】
Coの価数が+2価である請求項6記載の金属錯体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の金属錯体をアルブミンに包接させてなるポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物。
【請求項10】
前記アルブミンが、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、またはアルブミン多量体である請求項9に記載のポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物。
【請求項11】
請求項10記載のポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物を有効成分として含む人工酸素運搬体。

【公開番号】特開2006−8622(P2006−8622A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190189(P2004−190189)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000218719)
【Fターム(参考)】