説明

はんだ接続部評価システム

【課題】 はんだ接続部の寿命をより迅速に予測可能とする。
【解決手段】 本システムは、データ記憶部11、入力制御部12、はんだ接続評価部13を有する。データ記憶部11内の設計ルールデータベース11には、温度変化による繰り返し負荷が与えられた場合における、はんだ接続部の寿命に関連する因子の値と当該はんだ接続部の寿命との関係を表す数式があらかじめ格納されている。このシステムにおいて、入力制御部12は、入力装置3を介して入力された、電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかを接続する検討対象はんだ接続部の寿命に関連する因子の値を受け付ける。その後、はんだ接続評価部13は、上記数式と、ユーザが入力した因子の値とに基づき、電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかを接続する検討対象はんだ接続部の寿命を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品間のはんだ接続部の寿命を予測するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ接続部の寿命予測は、通常、テストサンプルに対して、温度サイクル試験、高温高湿試験等の加速試験を行い、その結果に基づき合否を判定することによって行われている。それとともにテストサンプルまたは実構造のモデルを用いたシミュレーションを行うことにより、はんだ接続部の寿命予測が効率よく行われることもある。
【0003】
シミュレーションによってはんだ接続部の寿命を予測するシステムとして、特許文献1記載のシステムが知られている。このシステムにおいては、モデルを用いた有限要素解析によって、負荷によって生じる全歪みを表す数式(弾性歪み、塑性歪み及び粘性歪みの和)から応力−歪み関係が求められ、さらに、この応力−歪み関係に基づき、繰り返し負荷に対する破断寿命及び余寿命が算出される。
【0004】
【特許文献1】特開2003−270060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1記載のシステムにおいては、全歪みが、弾性歪み、塑性歪み及び粘性歪みの和で表されるため、モデルが詳細になるにつれ、有限要素解析の演算処理に相当の時間がかかる。また、特許文献1記載のシステムにおいては、衝撃による負荷が生じた場合のはんだ接続部の界面信頼性について考慮されていない。
【0006】
そこで、本発明は、ユーザが、はんだ接続部の熱疲労寿命をより迅速に予測することができるはんだ接続部評価システムを提供することを目的とする。また、本発明は、衝撃による負荷が生じた場合のはんだ接続部の界面信頼性を評価可能なはんだ接続部評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかが評価対象はんだ接続部で接続された構造体の前記評価対象はんだ接続部の寿命を予測するはんだ接続部評価システムであって、
温度変化による繰り返し負荷が与えられた場合における、はんだ接続部の寿命に関連する因子の値と当該はんだ接続部の寿命との関係を表すデータが格納された記憶手段と、
前記検討対象はんだ接続部について、前記因子の値の入力を受け付ける入力手段と、
前記記憶手段に格納された前記データと、前記入力手段が受け付けた因子の値とに基づき、前記検討対象はんだ接続部の予測寿命を算出するはんだ接続評価手段と、
を備えることを特徴とするはんだ接続部評価システムが提供される。
【0008】
また、本発明は、
電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかが評価対象はんだ接続部で接続された構造体の前記評価対象はんだ接続部の信頼性を評価するはんだ接続部評価システムであって、
初期接続時または温度変化時に前記配線基板または前記電子部品のメタライズと、前記はんだ接続部を形成するはんだとの間に生成される金属間化合物の厚さを算出し、衝撃による負荷が生じた場合の前記はんだ接続部の信頼性を、前記金属間化合物層の厚さに基づき評価することを特徴とするはんだ接続評価手段を備えることを特徴とするはんだ接続部評価システムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、はんだ接続部の寿命をより迅速に予測することができる。また、衝撃による負荷が生じた場合のはんだ接続部の界面信頼性を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明に係る一実施形態について説明する。
【0011】
まず、図1により、本実施形態に係るはんだ接合部寿命予測システムの全体構成について説明する。
【0012】
はんだ接合部寿命予測システムは、情報処理装置1、情報処理装置1に接続された外部装置(ディスプレイ等の出力装置2、キーボード等の入力装置3)等、を有している。
【0013】
ここで、情報処理装置1は、外部からの指示に応じてプログラムを実行可能なコンピュータとしての通常のハードウエア構成(プログラム及びデータが格納されたハードディスク、メモリ、ハードディスクからメモリにロードしたプログラムを実行するCPU、外部装置が接続されるインタフェース等)を有している。そして、この情報処理装置は、このようなハードウエア構成上における所定のプログラムの実行により、電子機器(電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかがはんだ接続部で接続された構造体)について、熱疲労を受けるはんだ接続部の寿命(熱疲労寿命)及びはんだ接続部の界面信頼性を予測する以下の機能構成を実現する。
【0014】
情報処理装置1は、はんだ接続部の熱疲労寿命及び界面信頼性の予測等に必要なデータが格納されたデータ記憶部11、ユーザからの入力データ(入力装置3からのデータ)を受け付ける入力制御部12、ユーザからの入力データ(接続構造、接続条件、要求信頼性等)及びデータ記憶部11の格納情報に基づきはんだ接続部の熱疲労寿命を予測するはんだ接続評価部13、はんだ接続評価部13にCADデータを渡すデータインポート部14、はんだ接続評価部13の演算結果(熱疲労破壊及び衝撃破壊に対する信頼性判定結果、寿命がより長い構造を得るための指針)を出力装置2に出力する出力制御部15、を実現する。
【0015】
データ記憶部11には、あらかじめ、2種類のデータベース111,112が格納されている。また、データ記憶部11には、後述のCAD解析処理で用いられるCADデータ113が格納されることもある。
【0016】
2種類のデータベースのうち、一方のデータベース(材料データベース)111には、電子機器を構成する部品または材料(プリント基板、セラミック基板、シリコンチップ、メタライズ材、はんだ材等)ごとに、部品名または材料名、構造解析に必要とされる材料物性値データが登録されている。また、材料データベース111には、さらに、はんだ熱疲労強度データ、界面破壊モードを表す界面破壊モードデータが登録されている。
【0017】
材料物性値データには、例えば、縦弾性係数、線膨張係数、ポアソン比、降伏応力、加工硬化係数、拡散定数、活性化エネルギー等が含まれる。その他、材料物性値データには、温度依存データが含まれていてもよい。
【0018】
界面破壊モードデータには、リフロー条件(保持時間、保持温度)と、そのリフロー条件で作成したサンプルの落下試験またはシェア試験により得られた界面破壊強度値と、が含まれている。この界面破壊モードデータは、後述の界面信頼性予測処理及びリフロープロファイル適正化処理において用いられる。
【0019】
他方のデータベース(設計ルールデータベース)112には、あらかじめ拘束箇所が定められた基本モデルデータ、実験で得られた寿命サイクルCb、実験に用いた構造体のS/N比、実験により求められた各種数式(はんだ熱疲労寿命予測式及び界面信頼性予測式等)が格納されている。
【0020】
また、複数の基本モデルデータのなかには、例えば、図2に示すような、はんだ接続部を含む一般的な構造のモデルを表す基本モデルデータが4タイプ含まれている。ここで挙げた4タイプの基本モデルデータは、以下のような構造のモデルを表現するものである。
タイプ1の構造:配線基板22上に配線基板または電子部品(パッケージ部品等)20が搭載され、電子部品等20と基板22との間は、複数のはんだ接続部21で接続されている。
タイプ2の構造:タイプ1の構造におけるはんだ接続部21が樹脂23で封止されている。
タイプ3の構造:配線基板22上に配線基板または電子部品20が搭載されている。電子部品20等と基板22との間は、複数のはんだ接続部21で接続されている。電子部品20等の上には、電子部品(チップ、パッケージ等)24が搭載され、電子部品24と電子部品20等との間は、はんだ25で接続されている。
タイプ4の構造:タイプ3の構造におけるはんだ接続部21が樹脂23で封止されている。
【0021】
後述の簡易解析処理及び詳細解析処理において、ユーザは、これらの基本モデルのなかから、熱疲労寿命を検討すべき構造のモデルまたはその構造に近似する構造のモデルを検討対象モデルとして選択する。なお、図2に示した構造は一例であり、必ずしも、この通りの構造のモデルを表すモデルデータが基本モデルデータとしてデータ記憶部11に格納されている必要はない。
【0022】
つぎに、本実施の形態に係るはんだ接合部寿命予測システムにおいて実行されるはんだ接合部寿命予測処理について説明する。ここでは、はんだ接合部寿命予測処理を、設計の初期段階から最終段階までの各段階に適した以下の3種類の解析処理に分類する。
【0023】
(1)簡易解析処理
設計の初期段階においては、多数のはんだ接続構造のなかから、より適切なはんだ接続構造を絞り込む必要がある。このため、ユーザは、複数のはんだ接続構造の信頼性の傾向を短時間でつかむ必要がある。このような場合には、有限要素法による演算を行わずに、複数のはんだ接続構造の信頼性を簡易かつ迅速に導出することができる簡易解析処理が用いられる。
【0024】
(2)詳細解析処理
はんだ接続構造がある程度絞り込まれた段階では、絞り込みにより得られた複数のはんだ接続構造の順位付けが行われる。このような順位付けを行うため、ユーザは、絞り込みにより得られた複数のはんだ接続部の熱疲労寿命を正確に把握する必要がある。このような場合には、複数のはんだ接続部の寿命を精度よく予測可能な詳細解析処理が用いられる。
【0025】
(3)CAD解析処理
設計の最終段階では、ユーザは、実製品に適用されるはんだ接続部の正確な熱疲労寿命を把握する必要がある。このような場合には、実製品に適用される形状のはんだ接続部の熱疲労寿命を精度よく予測することができるCAD解析処理が用いられる。
【0026】
以下、これら3種類の解析処理についてそれぞれ説明する。ここでは、情報処理装置1上においてすでに所定のプログラムが起動され、上述の機能構成が実現されていることとする。
【0027】
(1)簡易解析処理
図3に、簡易解析処理のフローチャートを示す。
【0028】
ユーザが、入力装置3を用いて、複数の基本モデルデータが表すモデル(例えば図2のモデル)のなかから、いずれかひとつのモデルを検討対象モデルとして指示すると(F1)、はんだ接続評価部13は、検討対象モデルの寸法の入力を、出力制御部15を介して要求する。ここで、ユーザが、入力装置3を用いて、例えば、基板の寸法(縦寸法×横寸法)、基板の厚さ、はんだボールの径、バンプピッチ等の、検討対象モデルの解析に必要な寸法値を入力すると、入力制御部12は、それらの寸法値をはんだ接続評価部13に与える(F2)。
【0029】
その後、はんだ接続評価部13の指示に応じて、出力制御部15が、材料データベース111の登録部品等の一覧を出力装置2に表示させる。ユーザが、この一覧のなかから、検討対象モデルに使用すべき部品または材料を選択すると、はんだ接続評価部13は、一覧のなかから選択された部品等の材料物性値データを材料データベース111から読み出し、それらの材料物性値データを、検討対象モデルに含まれる部品等の材料物性値データとして保持する。ただし、検討対象モデルに含まれる部品等として、材料データベース111に未登録の新規部品等を用いる場合には、ユーザは、その部品等の名称及び材料物性値データを、入力装置3を用いて入力すればよい。このとき、はんだ接続評価部13は、入力された材料物性値データを、検討対象モデルに含まれる部品等の材料物性値データとして保持するとともに、次回以降の演算において利用するため、入力された名称に対応付けて材料データベース111に登録する。
【0030】
つぎに、はんだ接続評価部13は、境界条件(拘束箇所、温度履歴等)及び温度条件(最高温度、最低温度及び保持時間により規定される温度サイクル条件等)の入力を、出力制御部15を介して要求する。ここで、基本モデルデータに、あらかじめ拘束箇所が定められている場合には、ユーザは、境界条件として拘束条件を入力する必要はない。
【0031】
これに応じてユーザが適当なデータを入力して(F3)、以下の解析に必要データの入力が終了すると、はんだ接続評価部13は、有限要素法を利用せずに、検討対象モデルに含まれるはんだ接合部の熱疲労寿命を算出する。具体的には、以下の通りである。
【0032】
ここでは、タグチメソッドを利用して、各部材の寸法及び材料物性値と熱疲労寿命との関係を求める場合を例に挙げる。
【0033】
まず、はんだ接続部の熱疲労寿命に影響を及ぼす可能性のある因子の値を、ユーザの入力データのなかから抽出する。例えば、そのような因子として、基板の寸法(縦寸法×横寸法)、基板の厚さ寸法、基板の縦弾性係数、基板の線膨張係数、はんだの縦弾性係数、はんだの線膨張係数、はんだの高さ、はんだのピッチ、チップのサイズ(縦寸法×横寸法)、チップの厚さ等が挙げられる。これらは、はんだ接続部の熱疲労寿命に影響を及ぼす可能性のある因子の一例であり、さらに他の因子が存在している場合には、その因子が追加されてもよい。
【0034】
まず、はんだ接続評価部13は、検討対象モデルの各はんだ接続部について、因子ごとに、S/N比を算出するための数式(η=f(x):k=1〜n)を設計ルールデータベース112から読み出し、それらの数式と各因子の値(x:k=1〜n)とから、S/N比を求める。例えば、最もコーナにあるはんだ接続部とその隣のはんだ接続部とに着目している場合には、2種類のS/N比(η〜η)が求められる。
【0035】
ここで用いられる、S/N比の算出式(η=f(x):k=1〜n)は、基本モデルごとに、それぞれ、以下のようにして求められ、設計ルールデータベース112にあらかじめ格納されたものである。
【0036】
各因子(x:k=1〜n)について適当な範囲の水準を決定し、各因子及び水準をL18またはL36の直交表に割り当てる。この直交表を用いた、各条件におけるデータ解析は、シミュレーションにより行われてもよいし、実験に基づき行われてもよい。データ解析の結果、各因子ごとに、S/N比を算出するための数式(η=f(x):k=1〜n)が得られる。これらの数式は、図4に示すような、S/N比と因子の値との関係を示す要因効果図を表している。
【0037】
はんだ接続評価部13は、ユーザの入力データにより規定される新規構造のS/N比ηnewを求めるため、次式を用いて、各注目点(ここではN個とする)におけるS/N比ηnewj(j=1〜N)を算出する。
【0038】
【数1】


これにより、N個のηnew1〜ηnewNが得られたら、はんだ接続評価部13は、これらのなかから最小値を抽出し、この最小値を新規構造のS/N比ηnewとする(F4)。すなわち、N個の着目点のうち、最も寿命の短い箇所を抽出し、その箇所のS/N比を新規構造のS/N比ηnewとする。
【0039】
その後、はんだ接続評価部13は、実験により得られた寿命サイクルCb及びS/N比ηbをデータ記憶部11から読み出し、この寿命Cbと新規構造のS/N比ηnewとから新規構造体の推定寿命Cnewを、以下のように算出する(F5)。
【0040】
ηnew−ηb =−10log(σnew)+10log(σb)
=20log(σb/σnew)
α=10(ηnew−ηb)/20
ただし、α=σb/σnew
new=αCb
このようにして、新規構造体の推定寿命Cnewを算出したら、はんだ接続評価部13は、目標寿命の入力を、出力制御部15を介してユーザに要求する(F6)。ここでは、目標寿命の入力は、はんだ接続部の推定寿命の算出後に要求されているが、はんだ接続部の推定寿命の算出前に要求されてもよい。
【0041】
はんだ接続評価部13は、新規構造体の推定寿命Cnewと目標寿命とを比較し、新規構造体の推定寿命Cnewが目標寿命を超えたか否かを判断する(F7)。
【0042】
その結果、新規構造体の推定寿命Cnewが目標寿命を超える場合には、はんだ接続評価部13は、ユーザの入力データにより規定される新規構造体が合格であると判断し、その旨を、出力制御部15を介して出力する。
【0043】
一方、新規構造体の推定寿命Cnewが目標寿命以下である場合には、はんだ接続評価部13は、新規構造体が不合格であると判断し、目標寿命を満足する構造体にするための指針を、出力制御部15を介して提示する。例えば、新規構造体の寿命を目標寿命に近づけるには、各因子の値をどのように変化させればよいかを、図4の要因効果図に示した関係を表す数式から求め、それを指針として示す(F11)。
【0044】
ユーザが、この指針に基づき、検討対象モデル、材料を再度選択すると、新たな条件下で、以上と同様な処理が実行される。これにより、最終的に、最も長寿命な構造を得ることができる。なお、ユーザが材料を再選択する際に、構造上または設計上、変更不可な因子を選択する機能があってもよい。
【0045】
このような簡易解析処理によれば、多くの時間の要する有限要素法を利用しないため、はんだ接続部の寿命を短時間で予測することができる。また、はんだ接続部の寿命を長くするための指針が提示されるため、はんだ接続の寿命予測に関する知見を有していないユーザであっても、簡単に、目標寿命を満たす構造体を得ることができる。このため、開発期間の短縮を図ることができる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、材料物性値データ、境界条件、温度条件の順番にデータ設定が行われているが、必ずしも、この順番通りにデータ設定が行われる必要はない。例えば、材料物性値データの前に温度条件の設定が行われてもよい。
【0047】
また、本実施の形態においてはタグチメソッドを利用しているが、実験計画法を利用してもよい。
(2)詳細解析処理
図5に、詳細解析処理のフローチャートを示す。
【0048】
簡易解析処理の場合と同様に、ユーザが、複数の基本モデルデータが表すモデル(例えば図2のモデル)のなかから、いずれかひとつのモデルを検討対象モデルとして指示し(F21)、さらに、検討対象モデルの寸法、部材等の材料物性値(縦弾性係数、線膨張係数、ポアソン比、降伏応力、加工硬化係数等)の設定、境界条件(拘束箇所、温度履歴等)及び温度条件(最高温度、最低温度及び保持時間により規定される温度サイクル条件等)を入力する(F22〜F23)。なお、基本モデルデータに、あらかじめ拘束箇所が定められている場合には、簡易解析処理の場合と同様、ユーザは、境界条件として拘束条件を入力する必要はない。また、材料物性値データは、簡易解析処理及びCAD解析処理と共用であってもよい。
【0049】
つぎに、はんだ接続評価部13は、以下のように推定寿命を算出する。
【0050】
ここでは、簡易解析処理よりも精度よく推定寿命を導出する必要があるため、はんだ接続評価部13は、ユーザからの入力データを用いてモデルを作成し、さらにモデルのメッシュ分割を行う。破断しやすいバンプ箇所の存在が予測される場合には、そのバンプの近傍をより詳細にモデル化するとともに、より詳細にメッシュ分割する。このモデルを用いて、有限要素法のソフトウェアにより歪み振幅が算出される(F24)。なお、有限要素法を用いた処理は、情報処理装置1で行われてもよいし、大型計算機等で行われてもよい。
【0051】
はんだ接続評価部13は、歪み振幅と寿命サイクルとの関係を表す数式(はんだ接続寿命予測式)を用いて、有限要素法により算出された歪み振幅から推定寿命を算出する(F25)。
【0052】
ここで用いられる数式は、以下のようにして求められ、設計ルールデータベース112にあらかじめ格納されたものである。
【0053】
はんだ接続部を含む任意の形状のテストサンプルに対して温度サイクル試験を行って、適当数の温度サイクルごとにはんだ接続部内のクラック進展状況を観察する。そして、温度変化に伴いはんだ接続部に発生する亀裂長さを測定し、この亀裂長さに基づいて、はんだ接続部の破断寿命を予測する。一方において、テストサンプルと同じ形状についてシミュレーションを行って、クラックの発生箇所の歪み振幅または歪み(図6参照)を算出する。以上より、温度サイクル試験により得られた破断寿命と、シミュレーションにより得られた歪み振幅または歪みとの対応データが求められる。このような対応データを複数求めることにより、図7に示すようなはんだ寿命予測曲線が得られる。このはんだ寿命予測曲線を数式化することによって、はんだ接続寿命予測式が得られる。このはんだ接続寿命予測式は、サンプルのデータに基づき作成されているため、歪みにはクリープ歪みが含まれる。
【0054】
このようなはんだ接続寿命予測式を用いることにより、新規構造のサンプルを作成しなくても、シミュレーションで歪み振幅または歪みを求めるだけで推定寿命を算出することができる。
【0055】
その後、簡易解析処理の場合と同様に、はんだ接続評価部13は、ユーザから目標寿命の入力を受け付け(F26)、この目標寿命と推定寿命とを比較することによって、推定寿命が目標寿命を超えたか否かを判断する(F27)。
【0056】
その結果、推定寿命が目標寿命を超える場合には、はんだ接続評価部13は、簡易解析処理の場合と同様、ユーザの入力データにより規定される新規構造体が合格である旨を出力する。
【0057】
一方、推定寿命が目標寿命以下である場合には、はんだ接続評価部13は、目標寿命を満足する構造体にするための指針(簡易解析処理と同様に、図4の要因効果図に示した関係を表す数式から求められた指針)を、出力制御部15を介して提示する(F28)。ユーザが、この指針に基づき、検討対象モデル及び材料を再度選択すると、新たな条件の下で再度同様な演算処理が実行される。これにより、最終的に、目標寿命を満たす構造を得ることができる。なお、ユーザが材料を再選択する際に、構造上または設計上、変更不可な因子を選択する機能があってもよい。
【0058】
このような詳細解析処理によれば、有限要素法が利用されるため、はんだ接続部の寿命をより精度よく算出することができる。
(3)CAD解析処理
図8に、CAD解析処理のフローチャートを示す。
【0059】
ユーザが別途作成した1以上の設計データ(CADデータ)が例えばデータ記憶部11に格納されている場合、データインポート部14は、ユーザが指定したCADデータをインポートし、はんだ接続評価部13に渡す(F101)。
【0060】
その後、ユーザが、CADデータが表す構造に含まれる各部材等の材料物性値データの設定、境界条件(拘束条件、温度履歴等)及び温度条件(最高温度、最低温度、保持時間等により規定される温度サイクル条件等)を入力する(F102,F103)。なお、材料物性値データの設定は、簡易解析処理及び詳細解析処理と同様、材料データベース111の登録部品等の一覧からの選択または新たな数値の入力により行うことができる。
【0061】
その後、はんだ接続評価部13は、寿命を精度よく算出するため、有限要素法等を用いて、以下のように推定寿命を算出する。
【0062】
はんだ接続評価部13は、CADデータに対してメッシュ分割を行う。このメッシュ分割は、メッシュ分割プログラムによって行われてもよいし、ユーザがメッシュを指定してもよい。
【0063】
その後、はんだ接続評価部13は、例えば、詳細解析処理の場合と同様な、歪み振幅または歪みと寿命サイクルとの関係を表す数式を用いる演算処理(F24〜F25)によって、CADデータが表す新規構造の推定寿命を算出し(F104〜F105)、その推定寿命が、ユーザ入力の目標寿命を満たすか否か判断する(F106〜F107)。
【0064】
その結果、推定寿命が目標寿命を超える場合には、はんだ接続評価部13は、詳細解析処理の場合と同様、新規構造体が合格である旨を、出力制御部15を介して出力する。
【0065】
一方、推定寿命が目標寿命以下である場合には、はんだ接続評価部13は、詳細解析処理の場合と同様な処理により、目標寿命を満足する構造体にするための指針を、出力制御部15を介して提示する(F108)。ここで、ユーザが、この指針に基づき、検討対象モデル及び材料を再度選択すれば、新たな条件の下で再度同様な演算処理が実行される。
【0066】
このようなCAD解析処理によれば、あらかじめ準備された基本モデル以外の形状の構造体、すなわち、ユーザが作成したCADデータが表す構造体の熱疲労寿命を、有限要素法を用いて精度よく算出することができる。
【0067】
ところで、はんだ接続部の主要な破壊形態には、熱疲労破壊の他、落下等により衝撃が加わったときに発生する、パッドとはんだとの間の金属間化合物の成長に起因する界面破壊がある。本実施の形態に係るはんだ接続部評価システムは、このような界面の信頼性も予測可能である。以下、図9により、界面信頼性予測処理について説明する。
【0068】
はんだ接合部の界面破壊は2つのモードに大別される。一方のモード(第1のモード)においては、リフローまたは温度サイクル時等に、はんだとパット部のメタライズとが反応して形成される金属間化合物が厚く成長することにより、はんだとメタライズとの界面の耐衝撃性が低下する。他方のモード(第2のモード)においては、そのような化合物が成長して、メタライズのすべてがはんだと反応することにより、メタライズとはんだとの界面の耐衝撃性が低下する。以下においては、両モードの界面破壊に対する、はんだ接合部の信頼性を予測する。
【0069】
ユーザが、入力装置3を用いて、はんだ材及びメタライズ材を選択または入力し、さらにメタライズの初期厚さを入力すると(S1)、はんだ接続評価部13は、ユーザが選択したはんだ材及びメタライズ材の材料物性値データ(ここでは、例えば、拡散定数、活性化エネルギー等)を材料データベース111から読み出す。なお、はんだ材及びメタライズ材として新規な材料を用いる場合には、ユーザは、それらの材料の名称及び材料物性値データを入力すればよい。このとき、はんだ接続評価部13は、入力された材料物性値データを、次回以降の演算において利用するため、入力された名称に対応付けて材料データベース111に登録する。
【0070】
その後、ユーザが、入力装置3を用いて、数種類のプロファイルや繰り返しリフローに対応可能な構成のリフロープロファイル及び温度サイクル条件を入力する(S2)。例えば、リフロープロファイルには、最高温度、溶融時間等が含まれ、温度サイクル条件には、最高温度、最低温度、保持時間等が含まれる。なお、寿命予測システムは、リフロープロファイルの適正化に対応可能であってもよいが、それについては後述する。
【0071】
はんだ接続評価部13は、以下のように、ユーザの入力データに基づき、化合物成長厚さに関する界面信頼性、及び、メタライズ残存厚さに関する界面信頼性を評価する。
【0072】
はんだ接続評価部13は、リフローによる熱付加と温度サイクルによる熱付加との和、または、それらの熱付加のうちのいづれか一方を算出する(S3)。さらに、はんだ接続評価部13は、成長した化合物の成長厚さを、保持時間及び保持温度に基づき算出する(S4)。
【0073】
また、はんだ接続評価部13は、化合物の成長厚さからメタライズ消費厚さを算出し(S5)、このメタライズ消費厚さとメタライズの初期厚さとの比較によって、メタライズ残存厚さを算出する(S6)。
【0074】
その後、はんだ接続評価部13は、S6で求めたメタライズ残存厚さから分かる、残存メタライズの有無に基づき、メタライズ残存厚さに関する界面信頼性の合否を判定する。また、はんだ接続評価部13は、材料データベース111の界面破壊モードデータと、S3で求めた熱付加値とを比較することにより、化合物成長厚さに関する界面信頼性の合否を判定する(S7)。その後、はんだ接続評価部13は、界面信頼性の評価結果、及び、化合物成長厚さを、出力制御部15を介して出力装置2に表示させる。その後、必要に応じて改善指針を提示する(S8)。例えば、実環境または試験環境の温度変化により成長する化合物厚さと初期パッド厚さとを比較し、必要な初期パッド厚さを提示したり、次述のリフロープロファイル適正化処理により得られる適正なリフロー条件を提示してもよい。
【0075】
最後に、リフロープロファイル適正化処理について説明する。
【0076】
ユーザが入力した構造について、材料データベース111に登録された界面破壊強度データに基づき界面破壊強度の判定を行う。そして、界面破壊強度が低下しないリフロー条件を抽出し、それを提示する。
【0077】
本発明により、電子部品と配線を有する基板または複数の電子部品をはんだにより接続した構造体のはんだ接続部の寿命予測を行う解析システムに関して、温度変化、衝撃が生じた際の接続寿命を計算により導出して表示する機能を備え、あらかじめ蓄積しておいたデータをもとに合否判断及び長寿命化指針を提示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施形態に係るはんだ接続部評価システムの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基本モデルデータが表すモデルの構造例を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る簡易解析処理のフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る要因効果図の例を示した図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る詳細解析処理のフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る、応力と歪みまたは歪み振幅との関係図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る寿命予測曲線の例を示した図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るCAD解析処理のフローチャートである。
【図9】本発明の一実施形態に係る界面信頼性予測処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1…情報処理装置、2…出力装置、3…入力装置、11…データ記憶部、12…入力制御部、13…はんだ接続評価部、14…データインポート部、15…出力制御部、111…材料データベース、112…設計ルールデータベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかが評価対象はんだ接続部で接続された構造体の前記評価対象はんだ接続部の寿命を予測するはんだ接続部評価システムであって、
温度変化による繰り返し負荷が与えられた場合における、はんだ接続部の寿命に関連する因子の値と当該はんだ接続部の寿命との関係を表すデータが格納された記憶手段と、
前記検討対象はんだ接続部について、前記因子の値の入力を受け付ける入力手段と、
前記記憶手段に格納された前記データと、前記入力手段が受け付けた因子の値とに基づき、前記検討対象はんだ接続部の予測寿命を算出するはんだ接続評価手段と、
を備えることを特徴とするはんだ接続部評価システム。
【請求項2】
請求項1記載のはんだ接続部評価システムであって、
出力手段を有し、
前記はんだ接続評価手段は、
前記記憶手段に格納された前記データに基づき、前記予測寿命よりも寿命を長くするための指針を前記出力手段から出力させることを特徴とするはんだ接続部評価システム。
【請求項3】
請求項1または2記載のはんだ接続部評価システムであって、
前記記憶手段に格納された前記データは、タグチメソッドまたは実験計画法により導かれたデータであることを特徴としたはんだ接続部評価システム。
【請求項4】
請求項1、2及び3のいずれか1項に記載のはんだ接続部評価システムであって、
前記はんだ接続評価手段は、第1の解析処理または2の解析処理により、前記検討対象はんだ接続部の予測寿命を算出可能であり、
前記第1の解析処理においては、前記はんだ接続評価手段は、前記データと前記因子の値とに基づき、前記検討対象はんだ接続部の予測寿命を算出し、
前記第2の解析処理においては、前記はんだ接続評価手段は、温度変化による繰り返し負荷が生じた場合の前記評価対象はんだ接続部の予測寿命を有限要素法により算出する、
ことを特徴とするはんだ接続部評価システム。
【請求項5】
請求項4記載のはんだ接続部評価システムであって、
前記はんだ接続評価手段は、さらに、第3の解析処理により、前記検討対象はんだ接続部の予測寿命を算出可能であり、
前記第3の解析処理において、前記入力手段は、前記構造体の構造データ及び材料データ、境界条件の入力を受け付け、前記はんだ接続評価手段は、前記構造データ、前記材料データ及び前記境界条件に基づきモデルを生成して、温度変化による繰り返し負荷が生じた場合の前記評価対象はんだ接続部の予測寿命を、当該モデルを用いた有限要素法により算出する、
ことを特徴とするはんだ接続部評価システム。
【請求項6】
請求項4または5記載のはんだ接続部評価システムであって、
はんだ接続部の歪みまたは歪み振幅及び寿命の関係を表す情報が格納された記憶手段を有し、
前記第2及び第3の評価処理において、前記はんだ接続評価手段は、前記評価対象はんだ接続部の歪みまたは歪み振幅を算出し、当該算出結果と前記記憶手段に格納された情報とに基づき、前記評価対象はんだ接続部の予測寿命を算出することを特徴とするはんだ接続部評価システム。
【請求項7】
電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかが評価対象はんだ接続部で接続された構造体の前記評価対象はんだ接続部の信頼性を評価するはんだ接続部評価システムであって、
初期接続時または温度変化時に前記配線基板または前記電子部品のメタライズと、前記はんだ接続部を形成するはんだとの間に生成される金属間化合物の厚さを算出し、衝撃による負荷が生じた場合の前記はんだ接続部の信頼性を、前記金属間化合物層の厚さに基づき評価することを特徴とするはんだ接続評価手段を備えることを特徴とするはんだ接続部評価システム。
【請求項8】
請求項7記載のはんだ接続部評価システムであって、
出力手段を備え、
前記はんだ接続評価手段は、前記算出した金属間化合物層の厚さと前記メタライズの初期厚さとに基づき、前記配線基板または前記電子部品に必要なメタライズの厚さを求め、前記出力手段に出力させる、
ことを特徴とするシステム。
【請求項9】
電子部品と配線基板との間、2つの電子部品の間、及び、2枚の基板の間のいずれかが評価対象はんだ接続部で接続された構造体の前記評価対象はんだ接続部の寿命を、情報処理装置が予測するはんだ接続部評価方法であって、
前記情報処理装置は、
温度変化による繰り返し負荷が与えられた場合における、はんだ接続部の寿命に関連する因子の値と当該はんだ接続部の寿命との関係を表すデータが格納された記憶手段と、
入力手段と、
はんだ接続評価手段と、
を備え、
当該はんだ接続部評価方法は、
前記入力手段が、前記検討対象はんだ接続部について、前記因子の値の入力を受け付ける処理と、
前記はんだ接続評価手段が、前記記憶手段に格納された前記データと、前記入力手段が受け付けた因子の値とに基づき、前記検討対象はんだ接続部の予測寿命を算出する処理と、
を含むことを特徴とするはんだ接続部評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−313127(P2006−313127A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136458(P2005−136458)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】