説明

ほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法

【課題】 ほうろう層の表面に開口する欠陥である爪飛びの発生を防止または抑制することができるほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】 アルミめっき前処理として、水素ガスが含まれる還元雰囲気の形成された還元熱処理炉2中で加熱される際に鋼板4中へ吸蔵された水素を、還元熱処理炉2の下流側に設けられるスナウト3の内部空間3aに形成された窒素雰囲気中で加熱することによって鋼板4から放出させた後、めっきポット6中のアルミ合金の溶湯5に浸漬してほうろう用アルミめっき鋼板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほうろう被覆製品の素材として用いられるほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほうろう製品は、金属酸化物を含む釉薬を金属素材の表面に塗布し焼付けたものであり、優れた光沢を有し、耐食性にも優れることから、金属の表面処理の一つとして多用されている。ほうろう製品に用いられる金属素材は、古くは鋳鉄が主であったけれども、ほうろう製品重量軽減の要求および加工性の要求から鋼板が用いられるようになっている。
【0003】
また、ほうろう釉薬としても多種のものが使用されるけれども、アルミニウム、アルミニウム合金およびアルミめっき鋼板を金属素材として用いられるアルミニウムほうろうは、以下の利点を有するので、ほうろう黒板(いわゆるホワイトボード)、トンネル内装板、キッチンパネルなど種々のほうろう製品に用いられている。すなわち、アルミニウムほうろうは、ほうろう焼成温度が600℃以下でガラス化する低融点ほうろう組成なので、焼成ひずみが少なく製品の平坦性に優れ、またほうろうとアルミニウムとが化学的に結合するので、衝撃などに対する耐剥離性に優れる。さらに、金属素材としてアルミめっき鋼板が用いられる場合、ほうろう層の一部にき裂または剥離が生じても、アルミめっき層の防錆効果によって鉄錆を防止することができる。
【0004】
しかしながら、ほうろう用金属素材としてアルミめっき鋼板を用いる場合、特に厚さが0.5mm以上のアルミめっき鋼板を用いる場合、アルミめっき鋼板にほうろう被覆処理を施した後、ほうろう層に爪飛びと呼ばれるピンホール状の窪み疵が発生し、表面外観を損ねるという問題がある。
【0005】
爪飛びは、アルミめっき鋼板中に侵入した水素が、ほうろう焼成時または冷却時もしくは冷却後、水素ガスとなってほうろう層とアルミめっき鋼板との界面に集中し、ほうろう層を跳ね飛ばすことによって生じると考えられる。この爪飛びは、鋼中に水素をトラップする不純物およびその化合物を比較的多く含むリムド鋼では発生しにくいが、清浄度が高いキルド鋼では水素のトラップ源が少ないので、発生しやすいとされている。
【0006】
したがって、アルミキルド鋼において、硫黄(S)を添加してマンガン(Mn)硫化物(MnS)を形成し、MnSと地鉄との界面に生じるクラックを水素トラップ源として爪飛びを抑制する方法、また炭素含有量が0.005%以下になるように脱炭焼鈍することによってセメンタイトが脱炭されて生じるボイドを水素トラップ源として爪飛びを抑制する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示される方法では、介在物であるMnSが増加して清浄度が悪化するので、加工時にMnSが欠陥発生の起点となり、加工性が悪化するという問題があり、また炭素含有量が低下することによって、軟質化するので、平坦度を出しにくくなり、キッチンパネルなどの平坦性を要する用途に適さなくなるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−192727号公報
【特許文献2】特開平6−279864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ほうろう処理を施したときほうろう層の表面に開口する欠陥、いわゆる爪飛びの発生を防止または抑制することができるほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ほうろう被覆処理を施すための素鋼板として用いられるほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法において、
水素ガスが含まれる還元雰囲気中で鋼板を加熱する還元加熱工程と、
還元加熱された鋼板を窒素雰囲気中で加熱する窒素雰囲気加熱工程と、
窒素雰囲気加熱された鋼板をアルミニウムまたはアルミニウム合金浴に浸漬してめっきするめっき工程とを含むことを特徴とするほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法である。
【0011】
また本発明は、鋼板が、アルミキルド鋼であることを特徴とする。
また本発明は、鋼板が、0.10質量%以下の炭素を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミめっきの前処理として行われる水素ガスが含まれる還元雰囲気中で鋼板を加熱する還元加熱工程の後に、還元加熱された鋼板を窒素雰囲気中で加熱する窒素雰囲気加熱工程を含むので、還元加熱工程で鋼板中に侵入した水素が、窒素雰囲気加熱工程において、窒素が鋼板中の水素と置換する形で水素を鋼板中から放出させることができる。このことによって、アルミめっき後のほうろう被覆処理時およびほうろう被覆処理後の冷却時もしくは冷却後においても、アルミめっき鋼板から水素が放出されることが無いので、ほうろう層に爪飛びの発生することが防止または抑制される。
【0013】
また本発明によれば、アルミめっき鋼板の素鋼板が清浄度の高いアルミキルド鋼板の場合、特に爪飛び防止効果が発現される。清浄度の高いアルミキルド鋼板では、従来あえてMnSなどの介在物を形成し水素をトラップすることによって爪飛びを抑制していたけれども、本発明の方法は、清浄度を悪化させることなく、還元加熱工程の後に窒素雰囲気加熱工程を行うことによって爪飛びを防止または抑制するので、清浄度が高いアルミキルド鋼に対して好適に用いることが可能である。
【0014】
また本発明によれば、0.10質量%以下の炭素を含有する鋼板がアルミめっきの素鋼板として用いられるので、平坦性に優れたほうろう用アルミめっき鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の製造方法を用いるのに好適な溶融アルミめっき鋼板製造装置1の要部構成を簡略化して示す図である。図1を参照して溶融アルミめっき鋼板製造装置1(以後、アルミめっき装置1と略称する)の主要部分の構成を説明する。
【0016】
アルミめっき装置1は、還元熱処理炉2と、還元熱処理炉2に連なって設けられるスナウト3と、還元熱処理炉2およびスナウト3中を通過した鋼板4(ここでは鋼帯を含む意味に用いる)が浸漬されるアルミニウム合金の溶湯5を収容するめっきポット6と、めっきポット6中の溶湯5に浸漬されて回転可能に設けられる浸漬ロール7と、溶湯5の上方であって、めっきポット6中の浸漬ロール7を周回して溶湯5から出た鋼板4を挟むようにして設けられるめっき付着量制御手段8と、スナウト3の内部空間3aへ窒素(N)ガスを供給するNガス供給手段9とを含んで構成される。
【0017】
アルミめっき装置1は、鋼板4に対して溶融アルミめっき処理を施して、ほうろう被覆処理の素鋼板となるほうろう用アルミめっき鋼板を製造することに用いられる。本実施の形態では、ほうろう用アルミめっき鋼板の素材となる鋼板4には炭素(C)含有量が0.10質量%以下のアルミキルド鋼が用いられる。このような0.10質量%C以下のアルミキルド鋼が用いられる理由は、後述する加工性および調質圧延後の平坦性を得るためである。
【0018】
還元熱処理炉2は、内部空間2aを大気から遮断する構造の密封式熱処理炉であり、その内部空間2aには、還元性のガスである水素(H)ガスと不活性のNガスとが大気圧以上の圧力を有して導入される。本実施の形態において、HガスとNガスとの混合比は、たとえば容積比で50:50である。なお、図1中では、還元熱処理炉2の内部空間2a中へHガスとNガスとを導入する装置については図示を省く。
【0019】
この還元熱処理炉2へは、鋼板4の搬送方向上流側に設けられる巻戻装置によって巻戻され、さらに脱脂洗浄装置で脱脂洗浄された鋼板4が搬入され、その還元性雰囲気によって、還元加熱処理すなわちめっきの前処理として活性化処理される。還元熱処理炉2で活性化処理された鋼板4は、還元熱処理炉2中であってスナウト3との境界部分に設けられる一対のブライドルロール10a,10bを周回することによって搬送張力を付与され、スナウト3中へ搬送される。
【0020】
スナウト3は、めっきポット6に収容されるアルミニウム合金の溶湯5よりも融点が高い金属で形成されるダクト状の部材であり、一端部が還元熱処理炉2の出側に連接され、他端部が前記溶湯5中に浸漬するように設けられる。スナウト3は、活性化処理された鋼板4を大気から遮断し、溶湯5中へ導く案内部材でもある。スナウト3と還元熱処理炉2との境界部には、該境界部分に設けられるブライドルロール10a,10bのうち、スナウト3寄りに設けられるブライドルロール10bに当接するようにして、シール部材14a,14bが設けられ、還元熱処理炉2の内部空間2aと、スナウト3の内部空間3aとを隔している。
【0021】
スナウト3の略中央下面には、N供給口13が開設され、該N供給口13にはN供給配管11が接続され、N供給配管11はN供給源12に接続される。N供給源12は、たとえばN高圧ガスボンベと圧力流量調整弁とによって構成される。N供給配管11とN供給源12とがNガス供給手段9を構成する。Nガス供給手段9が備わることによって、スナウト3の内部空間3aに対して任意の圧力のNガスを供給し、満たすことができる。このスナウト3の内部空間3aに対して供給されるガスは、Hガスを含まないNガスであることが望ましい。またスナウト3の内部空間3aを満たすNガスは、還元熱処理炉2から伝導する熱およびめっきポット6中の溶湯5からの熱によって、製造するアルミめっき鋼板4aの製造仕様に応じた温度に昇温される。
【0022】
めっきポット6は、金属製の容器である。このめっきポット6には、不図示の加熱手段と、加熱手段に電力を供給する電源と、電源の電力供給動作を制御する制御装置と、溶湯5の温度を検出する温度センサとが付帯され、収容されるアルミニウム合金が溶融されるとともに所定の温度に維持される。本実施の形態では、めっきポット6中に収容される溶湯5を構成するアルミニウム合金としてアルミニウム(Al)とシリコン(Si)との合金が用いられる。
【0023】
浸漬ロール7は、鉄合金ロールであり、めっきポット6の外部に設けられる駆動手段に連結されて回転駆動される。スナウト3の内部空間3aを通って溶湯5中に浸漬される鋼板4は、浸漬ロール7に当接しながら周回し、搬送方向を変えて上方へ向い、溶湯5から外部空間へ出る。溶湯5から出たアルミめっき鋼板4aを挟むようにして設けられるめっき付着量制御手段8は、圧力を高めた空気を供給する不図示の空気供給源と、空気供給源から供給される空気をアルミめっき鋼板4aの表裏面に吹付ける一対の空気ノズル15a,15bとを含んで構成される。めっき付着量制御手段8は、空気ノズル15a,15bからアルミめっき鋼板4aの表裏面に対して空気を吹付けることによって、めっき付着量を所望の値になるように調整する。めっき付着量が調整されたアルミめっき鋼板4aは、その搬送方向下流側に設けられる冷却装置および調質圧延装置を経て巻取装置に巻取られる。
【0024】
このアルミめっき装置1を用いて行う本発明のほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法は、爪飛びの発生に関する以下の知見に基づくものであり、まず図2Aおよび図2Bを参照して爪飛び発生の概要について説明する。図2Aおよび図2Bは、爪飛び発生の概要を説明する図である。図2Aではアルミめっき鋼板製造までを示し、図2Bではほうろう被覆処理までを示す。
【0025】
熱延鋼板が酸洗され、さらに冷間圧延された鋼板が、アルミめっき装置に装入される。アルミめっき装置では、鋼板が脱脂洗浄され、アルミめっき前に活性化のために還元加熱処理が行われる。このとき、還元性雰囲気を構成するために含まれる雰囲気中のHガスが、鋼板中に吸蔵される。還元加熱処理された鋼板は、アルミめっき処理が施され、さらに調質圧延される。図2A(b)には調質圧延後のアルミめっき鋼板21の構成を示す。
【0026】
アルミめっき鋼板21は、素地である鋼板22(鉄(Fe)ベースの鋼であるので図2A中ではFeと表記する)と、Alめっき層24(厳密にはAl−Si合金めっき層)と、Alめっき層24と素地(Fe)22との間に、Alめっき層24とFe22との反応によって形成されるFe−Al合金層23とで構成される。このとき、Alめっき層24中では、Siが針状組織25を形成して存在する。また調質圧延が施されることによって、Fe−Al合金層23には、微細なクラック26が形成される。なお、図2Aに示すように、アルミめっき鋼板21の平坦性を向上するためにトリーム後さらに調質圧延すると、Fe−Al合金層23に形成されるクラック26の数が増大する。
【0027】
図2Bのホーロー被覆処理においては、図2B(a)に示すようにアルミめっき鋼板21を加熱する空焼工程と、アルミめっき鋼板21に釉薬を塗布する施釉工程と、塗布した釉薬をアルミめっき鋼板21に焼付ける焼付(焼成)工程とを含む。
【0028】
空焼工程では、アルミめっき鋼板21がたとえば600〜700℃に加熱されるので、Fe22中に吸蔵されている水素(H)は、拡散速度が増大し、Fe−Al合金層23に形成される層貫通クラック26を通り、さらにAlめっき層24中のSi針状組織25を通りHガスとして放出される。ただし、空焼の温度および時間は、Fe22中のHをすべて放出させるには充分ではない。したがって、空焼後のFe22中には吸蔵水素が残留する。なお、この空焼によってSi針状組織25は、その一部がSi球状組織25aに変化する。
【0029】
施釉後の焼付工程においても、Fe22中に残留するHの放出は継続して行われる。このとき、図2B(c)に示すように、Alめっき層24中のSiが球状組織化してHの放出経路が閉ざされると、Alめっき層24が持ちあがるブリスター現象が発生する。ほうろう層27が未固化の状態で、かつAlめっき層24中にHの経路となるSi針状組織25が存在すると、図2B(d)に示すようにFe22中のHが、Fe−Al合金層23に形成される層貫通クラック26を通り、Alめっき層24のSi針状組織25を通り、未固化のほうろう層27を跳ね飛ばして窪み状の爪飛び28を発生する。
【0030】
本発明者らは、このような爪飛び発生の機構を鑑みるに、ほうろう被覆処理の前に、アルミめっき鋼板中に吸蔵されているHを放出させてその吸蔵量を減少させておくことによって、爪飛びの発生を防止し得るとの知見を得た。
【0031】
本発明のほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法は、上記知見に基づくものであり、水素ガスが含まれる還元雰囲気中で鋼板を加熱する還元加熱工程と、還元加熱された鋼板を窒素雰囲気中で加熱する窒素雰囲気加熱工程と、窒素雰囲気加熱された鋼板をアルミニウム合金浴に浸漬してめっきするめっき工程とを含むものである。
【0032】
還元加熱工程は、前述のアルミめっき装置1の還元熱処理炉2で実行される。すなわち、巻戻装置から巻戻され、脱脂洗浄装置で脱脂洗浄された鋼板4が、たとえば750℃に昇温され、NガスとHガスとを含み大気圧以上の圧力の還元性雰囲気ガス中に装入されて、鋼板4を活性化するための還元加熱処理が行われる。この還元加熱工程において、雰囲気中のHが、鋼板4へ侵入し吸蔵される。
【0033】
窒素雰囲気加熱工程は、還元加熱された鋼板4が、ブライドルロール10a,10bを介して装入されるスナウト3の内部空間3aにおいて行われる。スナウト3内は、N供給手段9によって供給された大気圧以上の圧力を有するNガスによって満たされ、その内部空間3aの温度は、めっきポット6内のAl−Si合金の溶湯5によって昇温され、たとえば650℃である。この窒素雰囲気加熱工程を設けることによって、鋼板4は、ほぼNガス100%の雰囲気内でたとえば650℃に加熱されるので、還元加熱工程において吸蔵されたHが、Nに置換される形で強制的に放出され、そのH吸蔵量は激減する。
【0034】
以下スナウト3内の鋼板4が、上記のようにたとえば650℃に昇温される場合について、H放出に要する時間を例示する。鋼板4をフェライト鉄であると仮定すると、フェライト鉄中のHの拡散移動時間Tは、式(1)で与えられる。
T=t/D …(1)
【0035】
ここで、tは鋼板4の板厚(ただし、Hが鋼板の両面から放出される場合には板厚の2分の1)、Dはフェライト鉄中におけるHの拡散係数である。鋼板4の板厚を1mm(=0.1cm)、650℃でのHの拡散係数Dを2×10−4(cm/sec)とすると、式(1)に従い、拡散移動時間Tは、(0.05cm)/2×10−4(cm/sec)で与えられ、12.5秒となる。すなわち、鋼板4がスナウト3の内部空間3aを12.5秒以上かけて通過し、溶湯5に浸漬されるように、スナウト3の鋼板搬送方向の長さを設定することによって、鋼板4中に吸蔵されたHを充分に放出することが可能である。
【0036】
めっき工程は、窒素雰囲気加熱工程を経ることによってH吸蔵量の減少した鋼板4が、めっきポット6に収容されるAl−Si合金溶湯5中へ浸漬されて溶融アルミめっき処理が施されることによって行われる。
【0037】
めっき工程を終えてアルミめっき鋼板4aとなった鋼板は、冷却工程を経て、通常調質圧延装置によって調質圧延が施される。調質圧延工程は、本発明の製造方法において必須のものではないけれども、ほうろう被覆処理が施された後のほうろう製品が、たとえばキッチンパネルなどの平坦性が要求される用途に充当される場合、めっき工程の後に設けられる。調質圧延は、伸び率が0.5〜3.0%の範囲になるように施されることが望ましい。
【0038】
伸び率が0.5%未満では、降伏点伸びに起因する腰折れ現象の発生が懸念され、また形状(平坦度)の確保が難しくなる。伸び率が3.0%を超えると、鋼板の板幅が広がり、所定の幅スペックを超える懸念がある。
【0039】
また鋼板のC含有量は、0.10質量%以下であることが好ましい。C含有量が0.10質量%を超えると、鋼板の硬さが高く加工性に乏しくなるので、調質圧延を施しても形状修正が難しくなり、平坦性を要する用途のほうろう用素鋼板として適さなくなる。なお、鋼板のC含有量の下限は、特に限定されないけれども、C含有量が低過ぎると、鋼板が逆に軟質に過ぎ、軟質過ぎる場合も所望の平坦性を得ることが難しくなる恐れがあるので、好ましくは0.01質量%以上とする。
【実施例】
【0040】
以下本発明の実施例について説明する。
図1に示すアルミめっき装置1を使用し、0.10質量%以下のCを含有するアルミキルド鋼を素鋼板として、本発明の製造方法にてアルミめっき鋼板を製造し、その後ほうろう被覆処理を施してほうろう製品を作製し、該製品における爪飛びの発生が防止されるか否かを試験した。
【0041】
めっき原板として、C:0.05質量%を含有し、板厚:0.72mm(=0.072cm)の日本工業規格(JIS)G3141に規定されるSPCC−1Dを使用した。この鋼板を、120m/minの搬送速度で、アルミめっき装置1中を通板させて、JISG−3314に規定されるSA2C−200相当品のアルミめっき鋼板を作製した。
【0042】
還元加熱工程を実行する還元熱処理炉2における還元雰囲気を、容積比で50:50のHガスとNガスとの混合ガス雰囲気とし、還元加熱工程における鋼板の加熱温度を750℃、鋼板の加熱時間を30秒とした。
【0043】
窒素雰囲気加熱工程を実行するスナウト3の長さを14mに設定し、雰囲気をNガス100%とし、雰囲気温度を上記溶湯の温度である650℃になるようにした。鋼板の搬送速度は、上記のように120m/minなので、長さ14mのスナウト3中における鋼板の滞在時間は、60秒×14/120=7秒である。一方、窒素雰囲気加熱工程における厚さ:0.72mmの鋼板の窒素放出に要する時間Tは、上記式(1)に従い、(0.072/2)/2×10−4=6.48秒である。したがって、還元加熱工程で鋼板に吸蔵されたHは、Nガスで満たされた長さ14mのスナウト3を通過中に、充分に放出される。
【0044】
アルミニウム合金めっき浴には、Al−10質量%Si合金浴を使用し、めっき浴(溶湯)温度を650℃に設定し、めっき付着量を片面40μm、すなわち両面めっき後のアルミめっき鋼板の厚みを0.8mmとした。めっき工程を経た後、さらに冷却工程を経たアルミめっき鋼板に、伸び率2.0%で調質圧延を施した。
【0045】
調質圧延後のアルミめっき鋼板に対し、空焼、施釉、焼成の各工程処理を施してほうろう被覆を行いほうろう製品を作製した。
【0046】
作製されたほうろう製品の表裏面を目視観察し、爪飛び発生の有無および発生状態を評価した。本発明の製造方法によるほうろう用アルミめっき鋼板を用いて作製したほうろう製品は、爪飛びが全く発生していないか、または発生してもその数が極めて少なくかつ散発的であり、表面品質に優れることが明らかであった。
【0047】
一方、窒素雰囲気加熱工程の代わりに、還元熱処理工程の雰囲気条件と同じ条件に設定されたスナウト中を通板させてアルミめっき鋼板を製造、すなわち窒素雰囲気加熱工程を含まないことを除いて上記の実施例と同じ工程を経て製造されたアルミめっき鋼板を素鋼板として、ほうろう被覆処理を施した比較例のアルミほうろう製品について爪飛び発生の有無を評価したところ、爪飛びが数多く発生し、かつ集合して発生し、表面品質が劣るという結果であった。
【0048】
以上に述べたように、本実施の形態では、アルミめっきの溶湯が、Al−Si合金であるけれども、これに限定されることなく、Alのみからなるものであってもよく、またSi以外の合金元素を含むものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の製造方法を用いるのに好適な溶融アルミめっき鋼板製造装置1の要部構成を簡略化して示す図である。
【図2A】爪飛び発生の概要を説明する図である。
【図2B】爪飛び発生の概要を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
1 溶融アルミめっき鋼板製造装置
2 還元熱処理炉
3 スナウト
4 鋼板
5 溶湯
6 めっきポット
7 浸漬ロール
8 めっき付着量制御手段
9 Nガス供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほうろう被覆処理を施すための素鋼板として用いられるほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法において、
水素ガスが含まれる還元雰囲気中で鋼板を加熱する還元加熱工程と、
還元加熱された鋼板を窒素雰囲気中で加熱する窒素雰囲気加熱工程と、
窒素雰囲気加熱された鋼板をアルミニウムまたはアルミニウム合金浴に浸漬してめっきするめっき工程とを含むことを特徴とするほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
鋼板が、
アルミキルド鋼であることを特徴とする請求項1記載のほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
鋼板が、
0.10質量%以下の炭素を含有することを特徴とする請求項1または2記載のほうろう用アルミめっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2006−206956(P2006−206956A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20067(P2005−20067)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】