説明

アイソレータ分離器

アイソレータ分離器は、駆動シャフトと接続する第1のテーパー部分と、第1のテーパー部分と互いに係合するとともにプーリと摩擦係合し、第2のテーパー部分と、第2のテーパー部分とプーリとの間で機能的に配置される弾性部材とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータ分離器(Isolator Decoupler)に関し、特に、互いに協働的な第1および第2テーパー部材を備えたアイソレータ分離器に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた燃費のメリットがあることから、乗用車へのディーゼルエンジン使用が増加している。さらに、燃料効率を改善するため、ガソリンエンジンの圧縮比も上がってきている。その結果、ディーゼル、ガソリンエンジンの補機駆動システムは、エンジン仕様の変更に起因するこれまでより大きなクランクシャフト振動を克服しなければならない。
【0003】
高加速/減速の割合および大きなオルタネータ慣性に加えてクランクシャフト振動が増加するのに伴い、エンジン補機駆動システムは、しばしベルトスリップに起因するベルト鳴きに見舞われる。これによってベルトの動作寿命が縮まる。
【0004】
クランクシャフトアイソレータおよびオルタネータ分離器/アイソレータは、エンジン動作速度範囲における振動を除去するため、大きな角速度振動を伴うエンジンに対して広く使用されている。しかしながら、クランクシャフトアイソレータはエンジン走行速度範囲ではとても機能するが、エンジンの始動時もしくは停止時には、アイソレータ自身の固有振動に起因する問題をいまだ抱えている。
【0005】
オルタネータの分離器/アイソレータは、オルタネータプーリにおけるベルトの滑りを解消することはできるが、クランクシャフトプーリに生じるベルトスリップを解決することができない。いくつかのエンジンでは、クランクシャフトアイソレータとオルタネータ分離器/アイソレータを一緒に使用しなければならない。あいにく、これによって補機駆動システムのコストが顕著に増加し、自動車メーカーはたいていこのようなコストをかけようとしない。
【0006】
従来技術の代表的なものとして、米国特許第6044943号明細書には、クランクシャフト分離器が開示されており、マウントハブと、マウントハブに回転自在に取り付けられたプーリと、プーリ内にマウントされた環状キャリアと、その間に取り付けられた偏倚装置と、環状キャリアとプーリとの間でマウントされるワンウェイクラッチとを備えている。バイアス装置は、クランクシャフト脈動からのベルト駆動を緩和するとともに、ベルトシステムの角速度共振周波数を低下させる。ワンウェイクラッチは、エンジンの始動/停止あるいはエンジンの突然の減速に起因する駆動中での突発的なベルトテンションの反転を防ぎ、反転モードでのテンショナの不適切な出力の結果として瞬間的に逆方向へスリップするベルトがきしみ音を出すのを防ぐ。ワンウェイクラッチは、瞬間的に過負荷状態の間ベルトの滑りを防ぎながら伝達されることが可能なトルク最大値を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
互いに協働する第1および第2のテーパー部材を備えたアイソレータ分離器が必要とされる。本発明は、この要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主な局面は、協働的な第1、第2のテーパー部材を備えたアイソレータ分離器を提供することにある。
【0009】
本発明の他の局面は、以下の本発明の記載および添付図面によって指摘され、明らかになる。
【0010】
本発明は、駆動シャフトと接続する第1のテーパー部分と、第1のテーパー部分と互いに協働しながら係合するとともに、プーリと摩擦係合する第2のテーパー部分と、第2のテーパー部分とプーリとの間で動作的に配置される弾性部材とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アイソレータ分離器の切り出し斜視図である。
【図2】図1のアイソレータ分離器の分解組立図である。
【図3】他の実施形態の組立分解図である。
【図4】さらにその他の実施形態の組立分解図である。
【図5】図4の実施形態の切り出し断面図である。
【図6】他の実施形態の切り出し斜視図である。
【図7】図6の実施形態の分解組立図である。
【図8】図6の実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、アイソレータ分離器の切り出し斜視図である。アイソレータ分離器は、エンジンの減速に起因するベルト滑りを除去し、また、エンジンを始動/停止するときのリバース振動を取り除く。
【0013】
アイソレータ分離器100は、コンパクトなデザインになっている。アイソレータ分離器のコンポーネントは、プーリ50内に収容されている。楔状ディスク10は、協同して楔状ディスク20と係合する。楔状ディスク20は、ハブ30に取り付けられている。
【0014】
楔状ディスク10は、複数のテーパー部分11を備え、複数のテーパー部分11はディスク10の周方向付近に配置されている。各テーパー部分11は協働的に楔状ディスク20のテーパー部分21と係合する。各テーパー部分は、挟角αを有する回転軸A−Aに沿って延びている。テーパー部分11、12の数および各テーパー部分の挟角αは、補機駆動のトルク荷重要求および切り離し応答時間に基づいて選択される。角度αは、回転軸に垂直な方向に延びる垂直面を基準に決定される。角度αは、垂直面に対して垂直な方向に位置づけられている。垂直面は、実質的に表面13に平行である。
【0015】
バネ60は、楔状ディスク10と楔状ディスク20との間に配置されている。バネ60は、楔状ディスク10と楔状ディスク20との間のあらかじめ定められた関係を弾力的に維持する、すなわち、楔状10がアイソレータプレート40に接触するのを維持する。バネの形状、数は、動作要求に従って変えることが可能であり、例えば、リーフスプリング、ゴム部材、コイルスプリングなどが使用される。
【0016】
楔状ディスク10は、プラスチック材料、あるいは金属を組み合わせたプラスチック、あるいは十分な強度をもつ他の適切な金属インサート成型によって構成することが可能である。楔状ディスク20は、プレス加工されたシート状金属、鋳造鉄、流し込み成型アルミニウム、プラスチックあるいは同様の材料から成型可能である。
【0017】
楔表面12、22は、摺動しながら互いに接触する。楔表面12、22各々は、およそ0.2より小さい非常に低い摩擦係数(COF)を有し、相対的移動を容易にする。一方、表面13は、およそ0.5〜3.0の範囲内の高摩擦係数材料でコーティングあるいは成形されている。表面13は、金属やプラスチックなどの耐久材料からなる。
【0018】
楔状ディスク表面13は、アイソレータプレート40と摺動しながら係合する。弾性ばね部材70が、アイソレータ40とプーリとの間に配置されている。弾性ばね部材70が、アイソレータ40とプーリとの間に取り付けられている。ばね部材70は、天然ゴム、合成ポリマー、金属ばね、あるいはそれら2つ以上の組み合わせから成る。ばね部材70は、プーリならびにベルト被駆動アクセサリー(図示せず)に伝達されようとするクランクシャフトのパルスを分断、吸収する。
【0019】
ハブ30は、穴31を通してボルトなどの固定具(図示せず)を使ったエンジンクランクシャフト(図示せず)に取り付けられる。ハブ30は、エンジンハブ部材32に押し込まれながら嵌合可能である。
【0020】
以下の表は、デザインの一例を示す。

テーパー部分(11、21)の数:4
楔角(α):25°
ばね定数:3〜10N/m
ばね(60)の数:4
トルク荷重要求:100Nm
楔状ディスク切り離し応答時間:<0.1秒
【0021】
クランクシャフトがエンジン回転方向へ楔状ディスク20を回転させるエンジン始動時において、楔状ディスク10は、テーパー部分11、21の相互作用によってアイソレータプレート40に押される。楔状ディスク10は、アイソレータプレート40に伝えられ、そして弾性部材70を通じてプーリ50に伝達される摩擦力によって、プーリ50を駆動する。そしてプーリ50は、図2に示すように、プーリ表面51に係合するベルトを通じてエンジン補機システムを駆動する。
【0022】
エンジンの減速あるいは停止時、ベルトを介したベルト駆動システムの勢いによって、プーリ50が逆方向に駆動されようとする。楔状ディスク10、20は、テーパー部分11が互いにスライドするのに伴って同軸的に動く。楔状ディスク20に対する楔状ディスク10の相対的な軸動きは、表面13がアイソレータ40から引き離すのを生じさせ、これによってプーリが一時的にクランクシャフトと係合しなくなる。このトルク伝達方向の瞬間的な反転によって、プーリが一時的にクランクシャフト回転をオーバーランすることを可能にする。ばね60は、逆進あるいは停止時の間、楔状ディスク10とアイソレータプレート40との間の柔らかい係合を可能にする。
【0023】
図2は、図1のアイソレータの正面側分解図である。楔状ディスク20は、ハブ30内にきっちりと収められている。楔状ディスク10は、協同的に楔状ディスク20と係合する。スプリング60は、楔状ディスク10、20の間のテーパー部分11、12それぞれの端部に配置されている。
【0024】
表面13は、摩擦しながらアイソレータ40と係合している。ばね部材70は、アイソレータプレート40とプーリ50に取り付けられている。低摩擦ブッシュ80が、ハブ30とプーリ50との間に配置されており、アライメント保持および瞬間的な相互間での相対移動を可能にする。プーリ50は、ベルト(図示せず)に係合するのに適した表面51を有する。
【0025】
ハブ部材32は、固定具33によって、あるいはくい打ち、溶接、リベットなどの適切な他の手段によって、ハブ30に取り付けられる。ハブ部材32のリム34は、プーリ50、ブッシュ80、弾性部材70、アイソレータプレート40、ブッシュ82、楔状ディスク10、楔状ディスク20を、ハブ部材32とハブ30との間で捕捉する。低摩擦ブッシュ81が、ハブ部材32とプーリ50との間に配置されており、アライメントを維持し、そして相互間での相対的移動を可能にする。ブッシュ82は、プーリ50とアイソレータプレート40との間に配置されており、アライメントを維持し、そして相互間での相対的移動を可能にする。ブッシュ83は、アイソレータプレート40とハブ30との間に配置されており、アライメントを維持し、そして相互間での相対的移動を可能にする。これらブッシュは、低摩擦ブッシュあるいは整備に良好なベアリングによって構成できる。
【0026】
図3は、他の実施形態の分解組立図である。この実施形態の構成要素は、バネ61を除いて図1、2に記載されたものと同じである。本実施形態では、バネ61が、動作中に楔状ディスク10と楔状ディスク20との間で圧縮されるコイルスプリングを備える。凹部62は、各バネ61を受ける。
【0027】
図4は、他の実施形態の分解組立図である。本実施形態では、楔状ディスク10、20が、円形状楔部分200、300と協働しながら離れている。円形状楔部分200、300各々は、テーパー部分を有する。バネ700が、円形状楔部分200、300の間に配置されている。各バネ700は、円形状楔部分200を支持し、各楔部分300を付勢してハブプレート面403に接触させる。
【0028】
各楔部分は、角度αを有する。回転軸A−Aに垂直に延びる平面に対して平行になるように位置づけられている。ハブ部分320は固定具330を使ってハブ301に取り付けられている。弾性部材402は、プーリ500とハブプレート400に取り付けられている。ブッシュ401は、ハブプレート400とハブ部分301との間に配置されている。ブッシュ404は、ハブ部分301とプーリ500との間に配置されている。ブッシュ601、602、603各々は、低摩擦であって、隣接するコンポーネントとの間の相対的動きを可能にする。
【0029】
楔面304は、約0.5から3.0の範囲にある高摩擦係数をもってコーティングあるいは成形され、金属やプラスチックなどの耐久材料から成る。楔部分200、300の数および各楔部分の角度αは、アクセサリードライブのトルク荷重要求および切り離し応答時間に基づいて選択される。各楔部分200、300は、およそ0.2よりも小さい摩擦係数を有する。
【0030】
円形状楔部分200は、ハブ301に固定され、その一部を形成する。楔部分300は、ハブ301に取り付けられていない。各楔部分300は、隣接する楔部分200と表面403との間で“遊動し”、その間で動きが抑えられる。円形状楔部分については、楔部分200と楔部分300との間の相対的な動き(押し込み)の結果として、摩擦駆動力が楔部分300の表面304と外径補湯面401との間で生じる。ハブ301の回転によって起こる楔部分300に対する楔部分200の動きの結果として、楔部分300が径方向内側のアイソレータ表面403に向けて押され、ハブ301からのトルクが楔部分300を通じてアイソレータプレート400に伝わる。そしてトルクは、通常運転、すなわち非加速走行中の間、弾性部材402を通じてプーリ500に伝達される。プーリ500は、ベルト(図示せず)を駆動する。
【0031】
エンジンがオーバーラン状態になる減速中、楔部分300は楔部分200に対して相対移動し、楔部分300が表面403から離れる。これは、楔部分300と表面403との間の摩擦力を開放し、これによって、減速(停止)あるいは始動の間、アイソレータがベルトをクランクシャフトから分断、分離させ、クランクシャフトをオーバーランさせる。
【0032】
図5は、図4に示す実施形態の切り出し断面図である。ハブ部分301は、明確な構成を示すため省略されている。バネ部材501は、各楔部分300をハブ部分301から離して保持する。ハブ部分301が楔部材300に関して相対的動きがわずかであるため、バネ部材501の間隔空け効力が、楔部材300とハブ部分301との間の不適切なこすれ、擦り切れ、摩擦熱、そしてダンピングを防ぐ。
【0033】
図6は、他の実施形態の切り出し斜視図である。この実施形態では、弾性バネ部材70が使用されない。本実施形態のコンポーネントは、図6において特別に提供されたもの以外は図1から図5に記載されたものと同じである。
【0034】
低摩擦ブッシュ502が、フランジ501とプーリフランジ503との間に配置されている。フランジ501は、例えば押し嵌めによって、ハブ300の端部301に固定接続されている。楔状ディスク20は、ハブ300に対して回転しない。テーパー部分11と楔状ディスク20は、図1〜図5に記載されたように動作する。テーパー部分11の表面13は、摩擦しながら楔状ディスク20およびフランジ503と係合する。ベルト係合面504は、ベルト(図示せず)係合用である。
【0035】
図7は、図6における他の実施形態の分解組立図である。ハブ300は、オルタネータ軸(図示せず)のような軸に固定されている。楔状ディスク20はハブ300に合わせて回転する。楔状ディスク10と楔状ディスク20とテーパー部分11は、図1〜図5に記載されたように動作する。
【0036】
図8は図6における他の実施形態の斜視図である。切り欠き201がハブ300における協同的タブ301と係合し、楔状ディスク20がハブ300に固定して回転することを確実にする。
【0037】
発明の実施形態の構成がここに記載されたが、ここに記載した本発明の精神及び範囲から離れることなく、構成および関連するパーツにおいて他のバリエーションが作り出されることは、当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動シャフトと接続する第1のテーパー部分(10)と、
前記第1のテーパー部分と協働しながら係合するとともに、プーリ(50)と摩擦係合する第2のテーパー部分(20)と、
前記第2のテーパー部分と前記プーリとの間で動作的に配置される弾性部材(70)と
を備えたことを特徴とするアイソレータ分離器。
【請求項2】
前記第1のテーパー部分と前記第2のテーパー部分との間に配置されるバネ(60)をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ分離器。
【請求項3】
前記バネが、コイルスプリングを有することを特徴とする請求項2に記載のアイソレータ分離器。
【請求項4】
前記第1のテーパー部分の角度αが、回転軸(A−A)に対し垂直に延びる平面に対し垂直な方向に定められることを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ分離器。
【請求項5】
角度αが、回転軸(A−A)に対し垂直に延びる平面に対し平行に定められることを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ分離器。
【請求項6】
前記第1のテーパー部分、前記第2のテーパー部分、そして前記弾性部材が、前記プーリに収容されていることを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ分離器。
【請求項7】
前記第1のテーパー部材に取り付けられる第2のハブ部材をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ分離器。
【請求項8】
駆動シャフトと接続する第1のテーパー部分(10)を備え、
前記第1のテーパー部分の角度αが、回転軸(A−A)に対し垂直に延びる平面に対し垂直な方向に定められており、そして、
前記第1のテーパー部分と協働しながら係合するとともに、プーリ(50)と摩擦係合する第2のテーパー部分(20)を備えたことを特徴とするアイソレータ分離器。
【請求項9】
前記第1のテーパー部分と前記第2のテーパー部分との間に配置されるバネをさらに有することを特徴とする請求項8に記載のアイソレータ分離器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−501077(P2011−501077A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531012(P2010−531012)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/011896
【国際公開番号】WO2009/054919
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(504005091)ザ ゲイツ コーポレイション (103)
【Fターム(参考)】