説明

アイドリングストップ制御装置

【課題】アイドリングストップによって自動停止したエンジンを再始動する際の操作性,応答性を向上させたアイドリングストップ制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンが、アイドリングストップの状態にある場合に、ドライバの実際の操作を表すブレーキ踏込量の履歴を取得し、予め記憶されている操作パターンから生成された複数の部分パターンのそれぞれについて、ブレーキ踏込量の履歴(実際の操作)と部分パターン(判断基準)との類似度を表す距離Dijを算出する(S110〜S130)。算出された距離Dijの中で最小のもの(即ち、類似度が最も高いもの)を、実際のドライバの操作と操作パターンとの距離Dmin として抽出し、その抽出した距離Dmin が、予め設定された閾値Dthより小さければ、ドライバは発進行動を行うものと予測して、エンジンを再始動させるためのエンジン始動指令を送信する(S140〜S170)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリング時にエンジンを自動停止させるアイドリングストップ制御装置に関わり、特に自動停止後のエンジンの再始動に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の燃料消費を削減して、地球温暖化の大きな原因となるCO2 を削減するために奨励されているエコドライブの一つの運転術として、交差点等で停車した際に、エンジンを停止させるアイドリングストップが知られている。
【0003】
しかし、停車するたびにドライバ自身がエンジンを停止、再始動するのは煩わしいため、停車後に予め設定された時間が経過すると、エンジンを自動停止することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、右左折や一旦停止時等に、ドライバの意図に反してエンジンが自動停止することを回避するために、ウインカーの作動中は、エンジンの自動停止を禁止することも提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
一方、エンジンの再始動については、ブレーキが踏まれ、かつシフトレバーがニュートラルに移動した場合(特許文献1参照)、エンジン停止状態でブレーキを強く踏み込んだ場合(特許文献3参照)、ドライバの足がアクセルペダルにのったことを検知した場合(特許文献4参照)にエンジンを始動すること等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−264926号公報
【特許文献2】特開2006−194141号公報
【特許文献3】特開2004− 52617号公報
【特許文献4】特開2002−364402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1,3に記載の再始動方法では、普段の運転とは異なる特別な操作をドライバに強いることになり、操作が煩わしいという問題があった。
【0008】
一方、特許文献4に記載の再始動方法では、特別な操作をドライバに強いることはないものの、一般的に、アクセルペダルへの足乗せとアクセルペダルの踏み込みは一連の動作として行われることから、アクセルペダルを踏み込みこんだ瞬間は、エンジンの始動が完了していない可能性が高く、ドライバの期待するタイミングで発進できない場合があるという問題があった。
【0009】
このような発進タイミングの遅れは、スムーズな交通の流れを妨げ、トータルで見た交通全体の燃料消費に悪影響を与える可能性もある。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するために、アイドリングストップによって自動停止したエンジンを再始動する際の操作性,応答性を向上させたアイドリングストップ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明のアイドリングストップ制御装置では、停止制御手段が、車両のエンジンのアイドリング時に、予め設定された停止条件が成立するとエンジンを停止させる。また、再始動制御手段が、停止制御手段によるエンジンの停止後に、予め設定された再始動条件が成立するとエンジンを再始動させる。
【0012】
そして、再始動制御手段では、ブレーキ操作状況取得手段が、車両のブレーキペダルの操作状況を取得すると共に、その取得した操作状況に従って、予測手段が、車両のドライバの行動を予測し、この予測手段による予測結果が車両を発進させる時に行う発進行動であることを再始動条件の一つとしている。
【0013】
即ち、ドライバは車両を発進させる時、例えば、まずブレーキを緩め、ブレーキからアクセルへ足をのせ変えた後、アクセルを踏むといった一連の操作を行う。従って、ドライバが発進の意図を持った際に最初に行うブレーキベダルの操作状況から、ドライバの行動が発進行動であるか否かを予測することが可能となる。
【0014】
このように本発明のアイドリングストップ制御装置によれば、ドライバが普段の運転で行うブレーキペダルの操作から発進行動を予測してエンジンを再始動しているため、ドライバがアクセルの踏み込みを開始するまでに、エンジンの再始動を完了させることができ、その結果、ドライバが意図するタイミングで車両をスムーズに発進させることができる。しかも、普段の運転時に行う操作とは異なる特別な操作をドライバに強いることがないため、ドライバの操作負担を軽減することもできる。
【0015】
本発明のアイドリングストップ制御装置において、予測手段は次のように構成されていてもよい。即ち、パターン記憶手段が、発進行動に対応づけられたブレーキペダルの操作パターンを少なくとも一つ記憶し、照合手段が、ブレーキ操作状況取得手段が取得した操作状況の履歴と、前記パターン記憶手段に記憶された操作パターンのそれぞれとを照合し、操作状況の履歴が操作パターンのいずれかに類似する場合に、ドライバの行動を発進行動であると予測する。
【0016】
なお、発進行動の前に行うブレーキペダルの操作が、ドライバによって異なっていたとしても、パターン記憶手段に、典型的ないくつかの操作パターンを記憶させておくことによって、発進行動の予測精度を向上させることができる。
【0017】
本発明のアイドリングストップ制御装置において、予測手段は、ブレーキ操作状況取得手段が取得した操作状況の履歴に基づいて、パターン記憶手段に記憶された操作パターンを更新する更新手段を備えていてもよい。
【0018】
この場合、ドライバが実際に行ったブレーキペダルの操作に基づいて、操作パターンが更新される(パターン記憶手段に記憶される)ことになるため、当該装置を搭載する車両を実際に運転したことのあるドライバの発進行動の予測精度を向上させることができる。
【0019】
本発明のアイドリングストップ制御装置において、予測手段は、ドライバを識別するための識別情報を取得する識別情報取得手段を備え、パターン記憶手段には、予め登録されたドライバ毎に操作パターンを記憶させ、照合手段は、識別情報取得手段により取得されえた識別情報に従って、パターン記憶手段の記憶内容の中から、操作状況の履歴との照合に用いる操作パターンを選択するように構成されていていることが望ましい。
【0020】
このように構成された本発明のアイドリングストップ制御装置によれば、当該装置を搭載する車両を複数のドライバが運転し、ドライバ毎に発進行動の際に行うブレーキペダルの操作の仕方が異なっている場合でも、各ドライバに適した操作パターンを用いて発進行動を予測することができるため、予測精度をより向上させることができる。
【0021】
なお、識別手段は、車両のキーに記憶された該キーの所有者を特定する情報(例えばID情報)を読み取ることによって、ドライバを識別するように構成されていてもよい。
【0022】
また、識別手段は、ドライバのバイオメトリックス情報を読み取り、予め登録された情報と照合することによって、ドライバを識別するように構成されていてもよい。なお、バイオメトリクス情報としては、例えば、指紋,虹彩,網膜,血管,音声,顔,耳形等が考えられる。
【0023】
また、識別手段は、登録したドライバ毎に割り当てられる操作ボタンからの入力に従って、ドライバを識別するように構成されていてもよい。なお、操作ボタンとしては、当該装置専用に設けたものであってもよいし、例えば、電動シートにおける複数ドライバのシートポジションを選択する等のために既に設けられているものを兼用してもよい。また、ハードウェア的に設けられたものであってもよいし、ナビ画面等に表示させるソフトスイッチであってもよい。
【0024】
本発明のアイドリングストップ制御装置において、再始動制御手段は、データを記憶可能に構成された車両のキーに対するデータの書き込み、及び読み出しを行うキーインタフェース手段が動作可能となったタイミング、又はエンジンが始動したタイミングで、キーインタフェース手段を介して、キーから読み出したデータを、操作パターンとしてパターン記憶手段に記憶させる操作パターン設定手段を備えていてもよい。
【0025】
この場合、発進行動の予測に必要な操作パターンが、ドライバに所持されたキーからその都度取得されるため、複数のドライバの操作パターンをパターン記憶手段に予め記憶させておく必要がなく、パターン記憶手段の容量を削減することができる。
【0026】
本発明のアイドリングストップ制御装置において、再始動制御手段は、エンジンが停止したタイミングで、パターン記憶手段に記憶されている操作パターンをキーインタフェース手段を介してキーに書き込む操作パターン保存手段を備えていてもよい。
【0027】
この場合、特に、上述した更新手段を備えていれば、その更新手段によって更新された操作パターンを、次回以降の運転に有効利用することができる。
【0028】
本発明のアイドリングストップ制御装置において、再始動制御手段は、アクセルペダルの操作状況を取得するアクセル操作状況取得手段を備え、その取得した操作状況からアクセルペダルの操作が検出されることを再始動条件の一つとするように構成されていることが望ましい。
【0029】
この場合、ブレーキペダルの操作状況からドライバの発進行動を予測することに失敗したとしても、アクセルペダルが操作されればエンジンが再始動するため、車両を確実に発進させることができる。
【0030】
なお、ブレーキ操作状況取得手段、及びアクセル操作状況取得手段は、車両ネットワークを介してブレーキペダルやアクセルペダルの操作状況を取得するように構成されていることが望ましい。この場合、操作状況を取得するために個別の配線を行う必要がなく、また、車両ネットワークの配線がある場所であればどこにでも配置できるため、車両内における当該装置の配置の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態に係るアイドリングストップシステムの全体構成図。
【図2】第1実施形態のアイドリングストップ制御装置の再始動制御部の構成を示すブロック図。
【図3】パターン記憶部に記憶される操作パターンを例示するグラフ。
【図4】操作パターンと照合に使用する部分パターンの関係を示す説明図。
【図5】再始動判定処理の内容を示すフローチャート。
【図6】照合部の動作を示す説明図。
【図7】第2実施形態のアイドリングストップ制御装置の再始動制御部の構成にを示すブロック図。
【図8】第3実施形態に係るアイドリングストップシステムの全体構成図。
【図9】第3実施形態のアイドリングストップ制御装置の再始動制御部の構成にを示すブロック図。
【図10】第4実施形態に係るアイドリングストップシステムの全体構成図。
【図11】第4実施形態のアイドリングストップ制御装置の再始動制御部の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0033】
[第1実施形態]
<構成>
図1は、本発明が適用されたアイドリングストップシステムの全体構成図である。
【0034】
図1に示すように、アイドリングストップシステムは、エンジンを始動させるエンジン始動装置2と、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキペダルセンサ3と、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルペダルセンサ4と、エンジンの運転状態を検出及び制御するエンジンECU5と、ブレーキペダルセンサ3,アクセルペダルセンサ4,エンジンECU5からから取得した情報に基づき、エンジン始動装置2及びエンジンECU5を制御して、エンジンのアイドリング時にエンジンを停止、再始動させるアイドリングストップ制御装置1とを備えている。
【0035】
そして、アイドリングストップシステムを構成する各装置類1〜5は、車両ネットワーク(例えばCAN)6を介して、相互に接続されている。つまり、各装置類1〜5は、いずれも、車両ネットワーク6を介した通信を可能とする通信コントローラを少なくとも備えている。
【0036】
なお、ブレーキペダルセンサ3及びアクセルペダルセンサ4は、いずれも、ペダルの操作状況としてペダルの踏込量(0%〜100%)を検出し、その検出結果を、車両ネットワーク6を介して、少なくともアイドリングストップ制御装置1及びエンジンECU5に送信する。
【0037】
エンジンECU5は、車両ネットワーク6を介して、エンジンの運転に関わる各種情報を車両各部から取得して、エンジンの運転状態を制御すると共に、エンジンの運転状態を示すエンジン状態情報(停止/運転/アイドリング等)をアイドリングストップ制御装置1に送信する。また、エンジンECU5は、車両ネットワーク6を介してエンジン停止指令を受信した場合は、エンジンを停止させる。以下では、アイドリングストップ制御装置1からのエンジン停止指令によってエンジンを停止させること及びその停止した状態をアイドリングストップと言う。
【0038】
エンジン始動装置2は、車両ネットワーク6を介して、エンジン始動指令を受信すると、エンジンを始動させる。
【0039】
<アイドリングストップ制御装置>
アイドリングストップ制御装置1は、エンジンECU5から受信するエンジン状態情報に示されたエンジンの運転状態が“アイドリング”であり、且つ、予め設定された停止条件が成立している場合に、エンジンECU5に対してエンジン停止指令を出力する制御を実行する停止制御部10と、停止制御部10の制御によるエンジンの停止後(即ち、アイドリングストップ中)に、予め設定された再始動条件が成立すると、エンジン始動装置2に対してエンジン始動指令を出力する制御を実行する再始動制御部20とを備えている。
【0040】
なお、停止制御部10で使用される停止条件としては、例えば、エンジンがアイドリング状態になってから予め設定された猶予時間が経過することを用いることができる。但し、停止条件は、これに限るものではなく、周知のアイドリングストップ制御装置において使用されている停止条件であればいずれを使用してもよい。
【0041】
また、停止制御部10が実行する制御では、再始動制御部20によらないエンジン始動(例えばドライバ乗車後の最初の始動)直後のアイドリング時には、アイドリングストップを禁止するようにされている。
【0042】
<再始動制御部の詳細>
再始動制御部20は、図2に示すように、車両ネットワーク6を介してブレーキベダルの踏込量(以下、ブレーキ踏込量という),アクセルペダルの踏込量(以下アクセル踏込量という),エンジン状態情報を繰り返し取得する情報取得部21と、情報取得部21が取得した情報に基づいて、ドライバが発進行動を行うか否かを予測して、発進行動を行うと予測した場合は、車両ネットワーク6を介して、エンジン始動装置2にエンジン始動指令を送信する発進行動予測部22とからなる。
【0043】
このうち、情報取得部21は、ブレーキ踏込量を、予め設定された期間分だけ更新しながら時系列的に蓄積すると共に、アクセル踏込量、及びエンジン状態情報については、最新の情報のみを保持するように構成されている。
【0044】
一方、発進行動予測部22は、ドライバが車両を発進させる際にブレーキペダルに対して行う一連の操作(ブレーキ踏込量を時系列的に並べたもの)を表す操作パターンを記憶するパターン記憶部221と、情報取得部21が取得した情報とパターン記憶部221に記憶された操作パターンとを照合することによってドライバの動作を予測する処理を実行する照合部222とを備えている。
【0045】
なお、アイドリングストップ制御装置1は、CPU,ROM,RAMを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成されており、停止制御部10及び再始動制御部20の情報取得部21,照合部222は、CPUが実行する処理によって実現され、また、パターン記憶部221は、ROM,RAM、或いは、CPUが読み取り可能なその他記憶装置によって実現される。
【0046】
<操作パターン>
図3は、パターン記憶部221に記憶される操作パターンを例示したものである。
【0047】
ここでは、操作パターンは、ドライバの発進行動においてアクセルペダルが踏み込まれるタイミングを基準(時間0秒)として、それ以前の0.5秒間に検出されるブレーキ踏込量の変化を表している。
【0048】
なお、操作パターンは、ドライバ毎のくせ(発進行動前に行うブレーキペダルの操作の仕方の違い)を考慮して複数種類用意されている。具体的には、例えば図3(a)に示すように、既に踏んでいるブレーキペダルを徐々に緩める操作、図3(b)に示すように、既に踏んでいるブレーキペダルを階段状に緩める操作、図3(c)に示すように、ブレーキペダルを一旦強く踏み込んだ後で緩める操作、図3(d)に示すように、ブレーキペダルを一旦踏んで離す操作等がある。
【0049】
また、各操作パターンは、図4に示すように、互いに重なり合う区間を有するように一定時間長Tc(ここではTc=2.5秒)でn分割(ここではn=3:前半,中盤,後半に分割)してなる部分パターンの単位で使用される。
【0050】
つまり、操作パターンがm個用意されている場合、合計でm×n個の部分パターンが使用されることになる。
【0051】
<再始動判定処理>
次に、アイドリングストップ制御装置1のCPUが、照合部222としての制御を実現するために実行する再始動判定処理を、図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0052】
なお、本処理は、アイドリングストップ制御装置1以外からの要求(例えば、車両のキー操作に基づく始動要求)によってエンジンが始動されると起動され、同じく、アイドリングストップ制御装置1以外からの要求(例えば、車両のキー操作に基づく停止要求)によってエンジンが停止するまでの間、一定時間間隔(但し、Tc以下)毎に繰り返し実行される。
【0053】
まず、S110では、エンジンが、アイドリングストップの状態にあるか否かを判断し、アイドリングストップの状態であればS120に進み、アイドリングストップの状態でなければ、エンジンを再始動する必要がないため、そのまま本処理を終了する。
【0054】
具体的には、停止制御部10によってエンジン停止指令が出力されており、且つエンジンECU5から取得したエンジン状態情報がエンジン停止となっている場合に、アイドリングストップの状態であると判断する。なお、エンジン停止指令が出力されたか否かの情報は、停止制御部10もCPUが実行する処理であるため、例えば、停止制御部10に、その旨を表すフラグを設定させること等によって簡単に取得できる。
【0055】
S120では、情報取得部21によって蓄積されたブレーキ踏込量の履歴を、最新のものから部分パターンの時間幅Tc(以下、単位時間幅という)分だけ取得する。
【0056】
S130では、取得したブレーキ踏込量の履歴を、パターン記憶部221に記憶されたm個の操作パターンから生成されるm×n個の部分パターンのそれぞれと照合する。
【0057】
具体的には、i(i=1,2,…,m)番目の操作パターンのj(j=1,2,…,n)番目の部分パターンから抽出した時刻tにおけるブレーキ踏込量をPm,n,t 、ブレーキ踏込量の履歴から抽出した時刻tにおけるブレーキ踏込量をIt として、部分パターンのそれぞれについて、(1)式に従って、ブレーキ踏込量の履歴(実際の操作)と部分パターン(判断基準)との類似度を表す距離Dijを算出する。
【0058】
【数1】

つまり、類似度が高いほど、距離Dijは小さな値となる。
【0059】
S140では、全ての部分パターンについて算出された距離Dijの中で最小のものを、実際のドライバの操作と操作パターンとの距離Dmin として抽出する。
【0060】
S150では、抽出した距離Dmin が、予め設定された閾値Dthより小さいか否かを判断し、否定判断した場合(即ち、Dmin ≧Dth)は、ドライバは発進行動を行わないものと予測して、S160に進み、肯定判断した場合(即ち、Dmin <Dth)は、ドライバは発進行動を行うものと予測して、S170に進む。
【0061】
S160では、情報取得部21が取得したアクセル踏込量に基づいて、ドライバがアクセル操作をした(アクセルペダルを踏んだ)か否かを判断する。
【0062】
具体的には、アクセル踏込量が予め設定された閾値以下であれば、アクセル操作は行われていない、即ち、ドライバは発進行動を起こしていないものとして、本処理を終了する。一方、アクセル踏込量が閾値より大きければ、アクセル操作が行われたもの、即ち、ドライバは発進行動を起こしているものとして、S170に進む。
【0063】
S170では、車両ネットワーク6を介してエンジン始動装置2にエンジン始動指令を送信して本処理を終了する。
【0064】
このエンジン始動指令を受信したエンジン始動装置2は、直ちにエンジンを再始動し、以後、エンジンECU5は、アクセル踏込量等に応じてエンジンの運転状態を制御する。
【0065】
ここで、図6は、発進前に検出された実際のブレーキ踏込量と、図3に示した操作パターンを使用して実際に距離Dmin を算出した結果を表すグラフである。
【0066】
図6において、例えば、距離Dmin を評価する閾値をDth=20とすると、時刻T2でDmin <Dthとなり、ドライバが時間0秒で発進行動を起こす前に、その発進行動を予測できることがわかる。
【0067】
<効果>
以上説明したように、アイドリングストップ制御装置1では、アイドリングストップが行われた時に、ドライバが普段の運転で行うブレーキペダルの操作(ブレーキ踏込量の履歴)からドライバが発進行動を行うのか否かを予測して、エンジンを再始動している。
【0068】
従って、アイドリングストップ制御装置1によれば、ドライバがアクセル操作を開始するまでに、エンジンの再始動を完了させることができ、その結果、ドライバが意図するタイミングで車両をスムーズに発進させることができる。しかも、普段の運転時に行う操作とは異なる特別な操作をドライバに強いることがないため、ドライバの操作負担を軽減することもできる。
【0069】
また、アイドリングストップ制御装置1では、ブレーキ踏込量の履歴との照合のために、複数の操作パターンを用いている。従って、発進行動の前に行うブレーキペダルの操作が、ドライバによって異なっていたとしても、これに対応して、精度のよい予測を行うことができる。
【0070】
また、アイドリングストップ制御装置1では、ブレーキ踏込量の履歴を、操作パターンを時間軸方向に分割して生成した部分パターンと照合するようにされている。従って、操作パターンそのものと照合する場合と比較して、発進行動の予測をより早いタイミングで行うことができる。
【0071】
更に、アイドリングストップ制御装置1では、アイドリングストップ中に、アクセルペダルが操作された場合は、直ちにエンジンを再始動するようにされている。従って、ブレーキペダルの操作に基づくドライバの発進行動の予測に失敗したとしても、アクセルペダルを操作する実際の発進行動が開始されればエンジンが再始動するため、車両を確実に発進させることができる。
【0072】
また、アイドリングストップ制御装置1では、制御に必要な情報や指令を、車両ネットワーク6を介して送受信するように構成されている。従って、これらの情報を収集したり、指令を伝達したりするために個別の配線を行う必要がなく、エンジン始動装置2やエンジンECU5等から物理的に離れた場所に設置することも可能であるため、車両への実装を容易に行うことができる。
【0073】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
【0074】
本実施形態では、第1実施形態とは、再始動制御部20aの構成が異なるだけであるため、以下、共通部分についての詳しい説明は省略し、異なる部分を重点的に説明する。
【0075】
<再始動制御部>
図7は、本実施形態における再始動制御部20aの構成を示すブロック図である。
【0076】
図7に示すように、再始動制御部20aは、情報取得部21が取得したブレーキ踏込量の履歴、及び照合部222での照合結果に従って、パターン記憶部221に記憶されている操作パターンを更新するパターン更新部223を備えている。
【0077】
なお、パターン更新部223が操作パターンの更新を行うタイミングは、照合部222での照合結果が得られる毎でもよいし、予測に失敗する毎でもよいし、一定量の情報が蓄積される毎でもよい。
【0078】
また、更新の方法としては、情報取得部21にて蓄積されたブレーキ踏込量の履歴を、そのまま操作パターンと入れ替えることが考えられる。この場合、入れ替える操作パターンの選択方法としては、照合部222で求めた距離Dij(又は過去複数回の累積値)が最も大きかった(類似度が最も低かった)操作パターンを選択することが考えられる。
【0079】
この他にも、更新方法としては、特開2008−126908号公報に記載されているパターンに予め付けられた重みを変更する方式等を用いてもよい。
【0080】
<効果>
以上説明したように、本実施形態では、パターン記憶部221に記憶されている操作パターンを、実際のブレーキ踏込量の履歴を用いて更新するようにされている。
【0081】
従って、パターン記憶部221に用意されている操作パターンの中にドライバに適合したものが存在しなかったとしても、そのドライバが運転を行えば、そのドライバに適合した操作パターンに更新されるため、どのようなドライバであっても十分な予測精度を確保することができる。
【0082】
[第3実施形態]
次に第3実施形態について説明する。
【0083】
図8は、本実施形態におけるアイドリングストップシステムの全体構成図である。
【0084】
図8に示すように、ドライバ認証装置7が追加されている以外は、第1実施形態と同様の構成を有している。
【0085】
但し、ドライバ認証装置7の追加に伴って、再始動制御部20bの構成の一部が異なっているため、以下では、この追加されたドライバ認証装置7と、再始動制御部20bの変更点を中心に説明する。
【0086】
<ドライバ認証装置>
ドライバ認証装置7は、車両に乗車したドライバの認証を行い、認証結果として、ドライバを特定するドライバ特定情報を、車両ネットワーク6を介してアイドリングストップ制御装置1に送信するように構成されている。
【0087】
なお、ドライバ認証装置7は、各ドライバが所持する車両のキーに記憶された該キーの所有者を特定する情報(例えばID情報)を、キーがシリンダに差し込まれた時に読み取り、このID情報をドライバ特定情報として送信するように構成されている。
【0088】
なお、キーがスマートキーである場合、ドライバ認証装置7は、キーとの通信が可能となり、車両のロックが解除されたタイミングでID情報を読み取るように構成されていてもよい。
【0089】
また、これに限らず、ドライバ認証装置7は、乗車時にドライバのバイオメトリックス情報(例えば、指紋,虹彩,網膜,血管,音声,顔,耳形等)を読み取り、予め登録された情報と照合することによって、ドライバを特定するように構成されていてもよい。
【0090】
更に、ドライバ認証装置7は、登録したドライバ毎に割り当てられる操作ボタンからの入力に従って、ドライバを特定するように構成されていてもよい。なお、操作ボタンとしては、当該装置専用に設けたものであってもよいし、例えば、電動シートにおける複数ドライバのシートポジションを選択する等のために既に設けられているものを兼用してもよい。また、操作ボタンは、ハードウェア的に設けられたものであってもよいし、ナビ画面等に表示させるソフトスイッチであってもよい。
【0091】
また更に、ドライバのそれぞれに割り当てたパスワード(数字や記号)を、ドライバに入力させることで、ドライバを特定するように構成されていてもよい。
【0092】
<再始動制御部>
図9(a)は、本実施形態における再始動制御部20bの構成を示すブロック図である。
【0093】
図9(a)に示すように、再始動制御部20bは、パターン記憶部221に、登録されたドライバ毎に1又は複数の操作パターンが記憶されていること、及び、車両ネットワーク6を介してドライバ認証装置7からドライバ特定情報を受信すると、そのドライバ特定情報に従って、照合部222に使用させる操作パターン(ドライバ特定情報にて特定されるドライバに対応付けられた操作パターン)を選択するパターン選択部23が追加されていること以外は、第1実施形態の再始動制御部20と同様に構成されている。
【0094】
<効果>
本実施形態によれば、車両が複数のドライバによって運転される場合であっても、その都度対象となるドライバに適合した操作パターンを用いて、発進行動の予測が行われるため、予測精度を向上させることができる。
【0095】
<変形例>
なお、本実施形態における再始動制御部20bは、第1実施形態の再始動制御部20にパターン選択部23を追加する構成としたが、第2実施形態の再始動制御部20aにパターン選択部23を追加する構成としてもよい。
【0096】
[第4実施形態]
次に第4実施形態について説明する。
【0097】
図10は、本実施形態におけるアイドリングストップシステムの全体構成図である。
【0098】
図10に示すように、キーインタフェース(以下、キーI/Fという)8が追加されている以外は、第2実施形態と同様の構成を有している。
【0099】
但し、キーI/F8の追加に伴って、再始動制御部20cの構成の一部が異なっているため、以下では、この追加されたキーI/F8と、再始動制御部20cの変更点を中心に説明する。
【0100】
なお、車両のキーには、メモリが内蔵されており、そのメモリには、キーを所有するドライバ用に生成された1又は複数の操作パターンが記憶されているものとする。
【0101】
<キーI/F>
キーI/F8は、キーが、車中に設けられたキーシリンダ(図示せず)に挿入されると、キーに内蔵されたメモリの内容を自動的に読み込んで、その読み込んだ内容(即ち、操作パターン情報)を、車両ネットワーク6を介してアイドリングストップ制御装置1に送信すると共に、キーがキーシリンダに挿入された状態に保持されている間に、車両ネットワーク6を介してアイドリングストップ制御装置1から操作パターン情報を受信した場合は、その操作パターン情報を、キーに内蔵されたメモリに書き込むように構成されている。
【0102】
なお、キーがスマートキーである場合、キーI/F8は、キーとの通信が可能となって、車両のロックが解除されたタイミングでメモリの内容を読み出し、キーとの通信が可能である間、操作パターン情報の書き込み要求を受け付けるように構成されていてもよい。
【0103】
また、操作パターン情報の書き込みタイミングは、要求を受け付ける毎に行ってもよいし、アイドリングストップ制御装置1以外からの要求によってエンジンが停止したタイミング、又は降車施錠のタイミングで一括して書き込むようにしてもよい。
【0104】
<再始動制御部>
図11は、本実施形態における再始動制御部20cの構成を示すブロック図である。
【0105】
図11に示すように、再始動制御部20cは、車両ネットワーク6を介してキーI/F8から操作パターン情報を受信すると、その操作パターン情報を、パターン記憶部221に書き込むと共に、パターン更新部223によってパターン記憶部221に記憶された操作パターンが更新されると、その更新された操作パターンを操作パターン情報として、車両ネットワーク6を介してキーI/F8に送信するパターン設定保存部24が追加されていること以外は、第2実施形態の再始動制御部20aと同様に構成されている。
【0106】
<効果>
本実施形態によれば、車両が複数のドライバによって運転される場合であっても、その都度対象となるドライバに適合した操作パターンを用いて、発進行動の予測が行われるため、予測精度を向上させることができるだけでなく、パターン記憶部221には複数のドライバの操作パターンを常に記憶させておく必要がないため、パターン記憶部221の記憶容量を削減することができる。
【0107】
しかも、本実施形態では、パターン更新部223によって更新された操作パターンをキーに保存しており、その更新された操作パターンが次回以降の予測に有効利用されるため、発進行動の予測精度を更に向上させることができる。
【0108】
<変形例>
なお、本実施形態における再始動制御部20cは、第2実施形態の再始動制御部20aにパターン設定保存部24を追加する構成としたが、第1実施形態の再始動制御部20にパターン設定保存部24を追加する構成としてもよい。
【0109】
但し、この場合、パターン記憶部221に記憶されている操作パターンは更新されることがないため、操作パターンのキーへの書き込みは行う必要はない。
【0110】
[他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様にて実施可能である。
【0111】
例えば、上記実施形態では、アイドリングストップ制御装置1は、ブレーキ踏込量,アクセル踏込量,エンジン運転状態,エンジン停止指令,エンジン始動指令を、車両ネットワークを介して入出力するように構成したが、その全部または一部を、エンジン始動装置2,ブレーキペダルセンサ3,アクセルペダルセンサ4,エンジンECU5との間でそれぞれ直接的に入出力するように構成してもよい。
【0112】
[発明との対応]
なお、上記実施形態において、停止制御部10が停止制御手段、再始動制御部20a〜20cが再始動制御手段、情報取得部21がブレーキ操作状況取得手段およびアクセル操作状況取得手段、発進行動予測部22,22aが予測手段、パターン記憶部221がパターン記憶手段、照合部222が照合手段、パターン更新部223が更新手段、パターン選択部23が特定情報取得手段、ドライバ認証装置7が識別手段、パターン設定保存部24が操作パターン設定手段および操作パターン保存手段に相当する。
【符号の説明】
【0113】
1…アイドリングストップ制御装置 2…エンジン始動装置 3…ブレーキペダルセンサ 4…アクセルペダルセンサ 5…エンジンECU 6…車両ネットワーク 7…ドライバ認証装置 8…キーI/F 10…停止制御部 20,20a〜20c…再始動制御部 21…情報取得部 22,22a…発進行動予測部 23…パターン選択部 24…パターン設定保存部 221…パターン記憶部 222…照合部 223…パターン更新部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンのアイドリング時に、予め設定された停止条件が成立すると前記エンジンを停止させる停止制御手段と、
前記停止制御手段による前記エンジンの停止後に、予め設定された再始動条件が成立すると前記エンジンを再始動させる再始動制御手段と、
を備えたアイドリングストップ制御装置において、
前記再始動制御手段は、
前記車両のブレーキペダルの操作状況を取得するブレーキ操作状況取得手段と、
前記ブレーキ操作状況取得手段が取得した操作状況に従って、前記車両のドライバの行動を予測する予測手段と、
を備え、前記予測手段による予測結果が車両を発進させる時に行う発進行動であることを前記再始動条件の一つとすることを特徴とするアイドリングストップ制御装置。
【請求項2】
前記予測手段は、
前記発進行動に対応づけられた前記ブレーキペダルの操作パターンを少なくとも一つ記憶するパターン記憶手段と、
前記ブレーキ操作状況取得手段が取得した操作状況の履歴と、前記パターン記憶手段に記憶された操作パターンのそれぞれとを照合し、前記操作状況の履歴が前記操作パターンのいずれかに類似する場合に、前記ドライバの行動を前記発進行動であると予測する照合手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項3】
前記予測手段は、
前記ブレーキ操作状況取得手段が取得した操作状況の履歴に基づいて、前記パターン記憶手段に記憶された操作パターンを更新する更新手段を備えることを特徴とする請求項2に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項4】
前記予測手段は、
前記ドライバを識別する識別手段から前記ドライバを特定する特定情報を取得する特定情報取得手段を備え、
前記パターン記憶手段には、予め登録されたドライバ毎に前記操作パターンを記憶させ、
前記照合手段は、前記特定情報取得手段によって取得された特定情報に従って、前記パターン記憶手段の記憶内容の中から、前記操作状況の履歴との照合に用いる操作パターンを選択することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項5】
前記識別手段は、前記車両のキーに記憶された該キーの所有者を特定する情報を読み取ることによって、前記ドライバを識別することを特徴とする請求項4に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項6】
前記識別手段は、前記ドライバのバイオメトリックス情報を読み取り、予め登録された情報と照合することによって、前記ドライバを識別することを特徴とする請求項4に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項7】
前記識別手段は、登録したドライバ毎に割り当てられる操作ボタンからの入力に従って、ドライバを識別することを特徴とする請求項4に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項8】
前記再始動制御手段は、
データを記憶可能に構成された前記車両のキーに対するデータの書き込み、及び読み出しを行うキーインタフェース手段が動作可能となったタイミング、又は前記エンジンが始動したタイミングで、前記キーインタフェース手段を介して、前記キーから読み出したデータを、前記操作パターンとして前記パターン記憶手段に記憶させる操作パターン設定手段を備えることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項9】
前記再始動制御手段は、
前記エンジンが停止したタイミングで、前記パターン記憶手段に記憶されている操作パターンを前記キーインタフェース手段を介して前記キーに書き込む操作パターン保存手段を備えることを特徴とする請求項8に記載のアイドリングストップ制御装置。
【請求項10】
前記再始動制御手段は、
アクセルペダルの操作状況を取得するアクセル操作状況取得手段を備え、前記アクセル操作状況取得手段が取得した操作状況から前記アクセルペダルの操作が検出されることを前記再始動条件の一つとすることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のアイドリングストップ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−185437(P2010−185437A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31606(P2009−31606)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】