説明

アクチュエータ、バンドブレーキ装置及びモータ制御方法

【課題】制動力が発生するタイミングを簡易に把握することができるアクチュエータ、バンドブレーキ装置及びモータ制御方法を提供する。
【解決手段】アクチュエータは、弾性変形部材が回転体の制動を開始してから制動力が発生するまでにおける被駆動機構が変位する区間である空走期間Sと、弾性変形部材の制動によって回転体の回転が停止している状態から弾性変形部材の制動を解除するように被駆動機構が変位し、かつ回転体が回転してからの被駆動機構が変位する区間である解放区間Wと、のうち少なくとも1つの区間において、被駆動機構の変位量を電流リップル成分Irから演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、バンドブレーキ装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、摩擦係合要素の係合油圧を適正化するよう制御し変速ショックの悪化や摩擦係合要素の耐久性能の悪化を防止する技術が記載されている。この技術は、自動変速機の実際の変速時間を変速時間検出手段にて検出し、その検出結果を比較手段で標準設定時間と比較している。
【0003】
また、特許文献2には、ブレーキ係合圧とブレーキ解放圧(ダイレクトクラッチの作動圧)の立ち上がりを滑らかにする技術が記載されている。この技術は、ソレノイドバルブに代えて、作動ロッドの外周面にその長手方向に沿って溝を設ける。
【0004】
また、特許文献3には、アキューム弁によってバンドブレーキサーボを駆動する自動変速機の変速制御装置において、信号圧のオーバーシュートによる変速ショックを抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−067354号公報
【特許文献2】特開平7−305736号公報
【特許文献3】特開平10−288254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に記載の技術はいずれも油圧制御されたアクチュエータに関する技術である。また特許文献1に開示される技術では、標準設定時間に基づいた制御だけで制御する場合、係合の立ち上がりがばらついてしまうことについて考慮されていない。これら特許文献1から3に記載の技術に対して、油圧アキュームレータ等を設ける必要がない電動アクチュエータの技術がある。
【0007】
例えば、電動アクチュエータは、電動モータのロータの慣性分の回転が被駆動機構を指令荷重以上で駆動し、又は被駆動機構が惰走するおそれがある。このため、ブレーキバンド等の弾性変形部材が回転体であるブレーキドラムを制動する制動力を生じさせるタイミングを簡易に把握することが望まれている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、制動力が発生するタイミングを簡易に把握することができるアクチュエータ、バンドブレーキ装置及びモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し目的を達成するために、本発明のアクチュエータは、回転体を制動する弾性変形部材を弾性変形させるため、前記弾性変形部材に荷重を加える被駆動機構の変位を制御するアクチュエータであって、モータと、前記モータの出力シャフトからの回転運動を直線運動に変換し、前記直線運動によって発生する変位を前記被駆動機構に与える直線運動機構と、前記モータへ供給する電流を検出する電流検出器と、前記弾性変形部材が前記回転体の制動を開始してから制動力が発生するまでにおける前記被駆動機構の変位量と、前記弾性変形部材の制動によって前記回転体の回転が停止している状態から前記弾性変形部材の制動を解除するように前記被駆動機構が変位し、かつ前記回転体が回転してからの前記被駆動機構の変位量と、のうち少なくとも1つの前記被駆動機構の変位量を前記電流検出器から抽出した電流リップル成分から演算する制御装置と、を含むことを特徴とする。
【0010】
この構造により、ブラシ付きモータのブラシが整流子セグメント(整流子片)を通過する際の電流リップル成分から被駆動機構の変位量を検出することができる。このため制動力が発生するタイミングを簡易に把握することができる。例えば、把握したタイミングにおける制動力のショックを緩和するモータ制御をすることができる。また、上述の構造により、ブラシ付きモータのブラシが整流子セグメントを通過する際の電流リップル成分に基づき、回転が停止している回転体が弾性変形部材の制動が解除され回転体が回転してからの被駆動機構の変位量を演算することもできる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記出力シャフトと連結されたアーマチュアコアと、前記アーマチュアコアに巻回された励磁コイルと、着磁され、かつ前記アーマチュアコアに対して相対的に位置が変化する永久磁石部材と、前記アーマチュアコアに巻回され閉回路となるように環状に接続されたブレーキコイルと、を含み、前記励磁コイルの通電により回転する前記アーマチュアコアの回転方向と逆回転方向の力を、前記アーマチュアコアに与えることが好ましい。この構造により、慣性による出力シャフトの回転は、早期に抑制される。また、ロータの回転による被駆動機構の慣性荷重増加を抑制することができる。
【0012】
上述した課題を解決し目的を達成するために、本発明のバンドブレーキ装置は、前記モータの出力シャフトからの回転運動を直線運動に変換する直線運動機構と、弾性変形可能なブレーキバンドに対して荷重を加え、ブレーキドラムの回転運動を前記ブレーキバンドの弾性変形に応じてブレーキドラムを制動するために、前記直線運動よって変位する作動ロッドと、前記モータへ供給する電流を検出する電流検出器と、前記電流検出器から電流リップル成分を抽出し、前記ブレーキバンドが前記ブレーキドラムの制動を開始してから制動力が発生するまでにおける前記作動ロッドの変位量と、前記ブレーキバンドの制動によって前記ブレーキドラムの回転が停止している状態から、ブレーキバンドの制動を解除するように前記作動ロッドが変位し、かつ前記ブレーキドラムが回転してからの前記作動ロッドの変位量と、のうち少なくとも1つの前記作動ロッドの変位量を前記電流リップル成分から演算する制御装置と、を含むことを特徴とする。この構造により、制動力が発生するタイミングを簡易に把握できるので、制動力のショックを緩和するモータ制御をすることができる。これにより、運転者に与える変速ショック又は違和感を低減することができる。
【0013】
本発明の望ましい態様として、前記直線運動機構は、ボールねじ機構であり、前記出力シャフトと前記ボールねじ機構のねじ軸との間に設けられ、かつ前記出力シャフトから前記ねじ軸へ伝達される回転速度を減速する減速ギヤ機構をさらに含むことが好ましい。
【0014】
この構造により、減速ギヤ機構の減速比を高めることによりモータの無通電時のフリクションを、ブレーキバンドがブレーキドラムの回転の停止状態を保持する制動力よりも大きくすることができる。このため、ブレーキバンドから作動ロッドに加わる反力によりモータが逆回転しない。そして、アクチュエータは、モータを通電し続けることなく、ブレーキバンドがブレーキドラムの回転を停止させ、回転の停止状態を保持することができる。その結果、ブレーキバンドがブレーキドラムの回転の停止状態を保持する制動力を保持するモータの電力を低減することができる。また、ボールねじ機構は伝達効率が高く、効率よく回転を直線運動として変換できる。ボールねじ機構を使用しても、減速ギヤ機構の減速比を高めることによりブレーキバンドがブレーキドラムの回転を停止する状態を保持することができる。
【0015】
上述した課題を解決し目的を達成するために、本発明のモータ制御方法は、回転体を制動する弾性変形部材を弾性変形させるため、前記弾性変形部材に荷重を加える被駆動機構の変位させるモータを制御する方法であって、前記弾性変形部材が前記回転体の制動を開始してから制動力が発生するまでにおける前記被駆動機構が変位する区間である空走区間、又は前記弾性変形部材の制動によって前記回転体の回転が停止している状態から前記弾性変形部材の制動を解除するように前記被駆動機構が変位し、かつ前記回転体が回転してからの前記被駆動機構が変位する区間である解放区間、を検出するステップと、検出した前記空走区間又は前記解放区間では、前記モータへ供給する電流を検出し、検出した前記電流から電流リップル成分を抽出し、前記電流リップル成分をパルスとして積算するステップと、前記パルスの積算値を前記被駆動機構の変位量にする演算を行うステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
この方法により、ブラシ付きモータのブラシが整流子セグメントを通過する際の電流リップル成分から被駆動機構の変位量を検出することができる。このため、制動力が発生するタイミングを簡易に把握することができる。例えば、把握したタイミングにおける制動力のショックを緩和するモータ制御をすることができる。また、この方法により、ブラシ付きモータのブラシが整流子セグメントを通過する際の電流リップル成分に基づき、回転が停止している回転体が弾性変形部材の制動が解除され回転体が回転してからの被駆動機構の変位量を演算することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制動力が発生するタイミングを簡易に把握することができるアクチュエータ、バンドブレーキ装置及びモータ制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1−1】図1−1は、本実施形態に係るバンドブレーキ装置の模式図である。
【図1−2】図1−2は、本実施形態に係るバンドブレーキ装置の模式図である。
【図1−3】図1−3は、本実施形態に係るバンドブレーキ装置の模式図である。
【図2】図2は、バンドブレーキ装置の負荷特性を説明する説明図である。
【図3】図3は、本実施形態に係るアクチュエータの構成図である。
【図4】図4は、モータのロータを説明する説明図である。
【図5】図5は、モータのロータとステータとの関係を説明する説明図である。
【図6】図6は、本実施形態に係るモータの整流子とブラシとの関係を説明する説明図である。
【図7】図7は、本実施形態に係るモータの動作を説明する説明図である。
【図8】図8は、本実施形態に係るモータの動作を説明する説明図である。
【図9】図9は、本実施形態に係るモータの励磁コイルの巻線を説明する説明図である。
【図10】図10は、本実施形態に係るモータのブレーキコイルの巻線を説明する説明図である。
【図11】図11は、本実施形態に係るモータ制御装置を説明するブロック図である。
【図12】図12は、本実施形態に係るアクチュエータの動作をモータ電流と時間との関係で説明する説明図である。
【図13】図13は、アクチュエータの制御ブロックを説明するブロック図である。
【図14】図14は、アクチュエータの制御手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
一般に、自動変速機は、流体継手としてのトルクコンバータと、プラネタリギヤユニットを含む補助変速機とを備えている。補助変速機では、プラネタリギヤユニットの中で回転しているギヤの組み合わせを選択し変速比を変えるために、クラッチとブレーキが使用される。このブレーキとして、バンドブレーキ装置が用いられる。
【0021】
<バンドブレーキ装置>
図1−1、図1−2及び図1−3は、本実施形態に係るバンドブレーキ装置の模式図である。バンドブレーキ装置110は、ブレーキドラム160を囲むストラップ131と、ストラップ131のブレーキドラム160側に位置するライニング132と、ストラップ131の一端に取り付けられたアンカー用ブラケット137と、ストラップ131の他端に取り付けられたアプライ用ブラケット136とを含むブレーキバンド130と、アプライ用ブラケット136と接触し締め付け荷重を加えるアプライ手段151と、アンカー用ブラケット137にかかる反力を受けて支持するアンカー手段152とを含む。
【0022】
ブレーキドラム160は、ブレーキ非作動時に、例えば回転方向Rへ回転する回転体である。ブレーキバンド130は、略C字形状となっている。ストラップ131は、例えば鋼製であり弾性変形できる帯状板部材である。ライニング132は、摩擦材であり、ストラップ131の内側、すなわちブレーキドラム160側に接着等により固定されている。アプライ用ブラケット136と、アンカー用ブラケット137とは、ストラップ131の両端に、かしめ加工、溶接、リベット等によりそれぞれ固定されている。
【0023】
アプライ手段151は、例えば作動ロッド155と呼ばれるピン又は棒状部材と、作動ロッド155が連結するアクチュエータ100とを含んでいる。アクチュエータ100は、作動ロッド155を矢印X方向に、または矢印X方向と逆方向に移動させることができる。
【0024】
アクチュエータ100は、例えば図1−1に示す作動ロッドを、図1−2に示す作動ロッドの位置へ移動させることができる。また、アクチュエータ100は、例えば図1−2に示す作動ロッド155を、図1−3に示す作動ロッド155の位置へ移動させることができる。このように、ストローク(変位量)の変化した作動ロッド155はアプライ用ブラケット136に荷重を加え、作動ロッド155とアプライ用ブラケット136とが一体として移動する。そして、移動するアプライ用ブラケット136と連動してストラップ131がたわむ。弾性変形できるストラップ131を含むブレーキバンド130は、弾性変形部材である。作動ロッド155は、ストラップ131をたわませることで、ブレーキバンド130を弾性変形させることができる。
【0025】
アンカー手段152は、ケース等の基準面に固定されたアンカーピン156を含む。そして、アンカー用ブラケット137は、アンカーピン156により位置決めされている。次に、バンドブレーキ装置110の動作について図1−1、図1−2、図1−3及び図2を用いて説明する。
【0026】
図2は、バンドブレーキ装置の負荷特性を説明する説明図である。図2には、アプライ手段151からブレーキバンド130に押圧される荷重が縦軸に示されており、作動ロッド155のストロークが横軸に示されている。
【0027】
図2に示すように、作動ロッド155のストロークは、空走区間Sと、たわみ区間Tbと、保持区間Uとを含んでいる。空走区間Sでは、図1−1に示すように、アクチュエータ100は、作動ロッド155をアクチュエータ100側に寄せて、ブレーキバンド130がブレーキドラム160の外周よりも大きな弧を描くように広がる位置とする。このため、ブレーキドラム160とライニング132との間にクリアランスが保たれた(非締結)状態となる。その結果、ブレーキドラム160は空転した状態で回転し、補助変速機おけるブレーキが非作動状態となる。なお、アクチュエータ100は、空走区間Sの開始位置Jを、後述する記憶手段に作動ロッド155のストロークの基準値(例えば、0)として記憶している。アクチュエータ100は、図2に示す空走区間Sの開始位置Jから、図1−1に示すように作動ロッド155をX方向へ移動させることで、ブレーキバンド130がブレーキドラム160の制動を開始することになる。
【0028】
たわみ区間Tbでは、アクチュエータ100は、図1−2に示すように、作動ロッド155をX方向へ移動させ、ブレーキバンド130のストラップ131がブレーキドラム160を囲むようにする。作動ロッド155と一体でアプライ用ブラケット136がX方向へ移動すると、アプライ用ブラケット136とアンカー用ブラケット137との距離が短くなり、ストラップ131がたわむ。例えば、ブレーキバンド130の一端と他端との距離は、Bxtである。そして、アクチュエータ100は、ブレーキドラム160をブレーキバンド130の弾性変形で締め付けていくと、ブレーキドラム160とライニング132との間にあるクリアランスが小さくなる。そして、ブレーキバンド130は、ブレーキドラム160に沿った形状に変形する。このため、ライニング132がブレーキドラム160を囲むように摺接する。その結果、ブレーキバンド130のライニング132がブレーキドラム160に回転方向Rと逆向きに摩擦力を与える。
【0029】
ブレーキバンド130が摩擦力により、ブレーキドラム160を締め付ける締め付け力が発生する状態を係合という。たわみ区間Tbは、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を制動する摩擦力を生じさせてから、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を締め付けることでブレーキドラム160の回転を止めるまで、作動ロッド115が変位する区間である。つまり、たわみ区間Tbは、ブレーキバンド130がブレーキドラム160への制動力を発生してからブレーキドラム160の回転を止めるまでの区間である。空走区間Sとたわみ区間Tbとの境界である初動制動領域Pは、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を囲むように、例えば真円に近い形に変形し、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を締め付ける制動力が発生し始める接触開始領域である。空走区間Sの開始位置Jから初動制動領域Pまでは、図2に示すように、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を締め付ける荷重は増加しない。作動ロッド155をX方向へ移動させ、初動制動領域Pを越えるとブレーキバンド130がブレーキドラム160を制動する摩擦力を生じ始める。バンドブレーキ装置110では、初動制動領域Pにおいて発生する制動力の反動を運転者がショックとして感じやすい。このため、初動制動領域Pにおける作動ロッド155のストロークの速度を減速することが好ましい。
【0030】
また、保持区間Uでは、図1−3に示すようにアクチュエータ100は、作動ロッド155をさらにX方向へ移動させる。例えば、ブレーキバンド130の一端と他端との距離は、図1−2に示すBxtからより短くなったBxuとなる。図2に示すように、アクチュエータ100が作動ロッド155に荷重を加えてもストラップ131のたわむ余地が小さいので、作動ロッド155のストロークの増加は小さくなる。アクチュエータ100は、作動ロッド155に荷重を加えることで、ライニング132がブレーキドラム160を締め付け、ブレーキドラム160の回転が止まる。つまり、ブレーキバンド130の制動によって、ブレーキドラム160の回転が停止する状態(回転体の締結)となる。そして、アクチュエータ100は、作動ロッド155がアプライ用ブラケット136を押圧し続け、ブレーキドラム160の締結状態を維持する。
【0031】
たわみ区間Tbと保持区間Uとの境界である締結境界Gでは、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を締め付け、ライニング132が与える摩擦力がブレーキバンド130とブレークドラム160との接触面における駆動力を上回ると、ブレーキドラム160が回転を止める。つまり、締結境界Gでは、ブレーキドラム160の回転が停止する。この場合、補助変速機におけるブレーキが作動状態となる。以上説明したように、アクチュエータ100は、作動ロッド155を変位させることで、ブレーキドラム160の回転を制動することができる。次に、アクチュエータについて説明する。
【0032】
<アクチュエータ>
図3は、本実施形態に係るアクチュエータの構成図である。アクチュエータ100は、モータ1と、駆動軸117と、駆動機構であるねじ軸107、円筒状のナット115、第1ギヤ103、第2ギヤ105、第3ギヤ106、伝達軸104と、を筒状のハウジング101内に含んでいる。
【0033】
また、上述した作動ロッド155は、駆動軸117と連結されて被駆動機構となっている。このため、駆動軸117の変位と作動ロッド155の変位とは同期する。
【0034】
円筒状のハウジング101は、例えばアルミニウム製のハウジング本体101Aと、その端面に対してボルト等により組み付けられた樹脂製のカバー部材101Bと、ハウジング本体101Aには、アルミニウム等の金属で形成される位置決めプレート101Cとを含んでいる。
【0035】
ハウジング101は、ハウジング本体101Aと、樹脂製のカバー部材101BとをOリング120を介して固定することが好ましい。その結果、ハウジング101の防水性が高まる。また、ハウジング本体101Aの内部には、袋穴状のモータ室101aと貫通穴状のねじ軸室101bとが形成されている。
【0036】
モータ室101a内には、モータ1が配置され、モータ1が位置決めプレート101Cを介してハウジング本体101Aに取り付けられている。この構造により、モータ1の出力シャフト102は、カバー部材101B側に配置される。モータ1の出力シャフト102は、周囲に凹凸を形成した樹脂製の第1ギヤ103に挿入され固定されており、出力シャフト102が回転すると第1ギヤ103も回転する。
【0037】
位置決めプレート101Cは、位置決め孔101jを含み、モータ1の出力シャフト102と平行な方向に延出する伝達軸104を回転可能なように位置決め孔101jに位置決めする。伝達軸104は、ブッシュ等を介して樹脂製の第2ギヤ105を周囲に固定している。周囲に凹凸を形成した第2ギヤ105は、樹脂製のカバー部材101B内に回転自在に配置される。また、第1ギヤ103と第3ギヤ106とは、第2ギヤ105を介して互いに噛み合うように配置される。
【0038】
ねじ軸室101b内には、ねじ軸107が配置され、ねじ軸107が位置決めプレート101Cに取り付けた玉軸受114により回転自在に支持されている。ねじ軸107は、外周面に雄ねじ溝107aを形成している。また、ねじ軸107は、ねじ軸室101b内の円筒状のナット115を貫通している。
【0039】
ナット115の内周面には、雄ねじ溝107aに対向して、雌ねじ溝115aが形成されている。雄ねじ溝107a及び雌ねじ溝115aによって形成される螺旋状の空間(転走路)には、多数のボール116が転動自在に配置されている。ナット115は、ねじ軸室101b内において、ねじ軸107の延長方向と平行な軸線方向に相対移動可能であり、かつねじ軸107の回転と同期してねじ軸107の周囲を回転しない回り止めが施されている。なお、軸線方向の移動要素であるナット115と、回転要素であるねじ軸107と、転動体であるボール116とでボールねじ機構を構成する。
【0040】
ねじ軸107の端部は、丸軸状の駆動軸117に形成された袋孔117a内に侵入している。駆動軸117は、ナット115に対して同軸に嵌合しピン又はコッターで連結されて一体的に移動するようになっている。ハウジング本体101Aに対して、駆動軸117はブッシュ118により軸線方向に移動可能に支持されている。また、ブッシュ118の外部側にはシール119が配置されている。シール119は、ハウジング本体101Aと駆動軸117との間から水分や塵埃等の異物が侵入することを防止している。なお、ハウジング本体101Aから突出した駆動軸117の端部には、上述した作動ロッド155に連結するための孔が形成されている。
【0041】
樹脂製の第3ギヤ106は、ねじ軸107の端部に、セレーション結合で相対回転不能に取り付けられている。第3ギヤ106の一部を覆うようにして、支持部材108が位置決めプレート101Cに取り付けられている。また、第2ギヤ105と第3ギヤ106とは、互いに噛み合うように配置される。これにより、第1ギヤ103、第2ギヤ105、第3ギヤ106が動力伝達機構を構成する。この動力伝達機構は、第1ギヤ103、第2ギヤ105、第3ギヤ106の噛み合いにより、モータ1の回転が減速して、ねじ軸107の回転となる減速ギヤ機構となっている。
【0042】
カバー部材101Bは、第1ギヤ103、第2ギヤ105、第3ギヤ106に異物が侵入しないように密閉するギヤカバーとして作用する。なお、第1ギヤ103、第2ギヤ105、第3ギヤ106は、噛合するギヤの樹脂素材を互いに異なるものにすると、摩滅を抑制できるので好ましい。
【0043】
<モータ>
モータ1は、出力シャフト102を回転させる電動機である。上述した減速ギヤ機構は、モータ1の出力シャフト102の回転速度を減速させてボールねじ機構へ伝達する。ボールねじ機構は、出力シャフト102の回転を直線運動に変換し、ねじ軸72を移動させる。減速ギヤ機構及びボールねじ機構は、駆動軸117の駆動機構となる。次に、図4及び図5を用いてモータ1の内部構造について説明する。
【0044】
図4は、モータのロータを説明する説明図である。図5は、本実施形態に係るモータのロータとステータとの関係を説明する説明図である。本実施形態に係るモータ1は、いわゆるブラシ付きモータであり、アーマチュア(電機子)コア21が回転するロータ20となり、永久磁石部材11N、11Sがステータ10となる。
【0045】
図4に示すロータ20は、アーマチュアコア21と、整流子22と、出力シャフト102と、後述する励磁コイル及びブレーキコイルとを含んでいる。アーマチュアコア21は、図5に示すように、ステータ10の永久磁石部材11N、11S間に、出力シャフト102を中心に回転自在に配置されている。
【0046】
アーマチュアコア21には、外周に突出するコアスロット(磁極)A1〜A10が形成されている。アーマチュアコア21は、軟磁性材料で形成され、例えば純鉄、ケイ素鋼鈑等で形成されている。整流子22には、コアスロット(磁極)A1〜A10と同数の整流子セグメントC1〜C10が形成されている。整流子22は、ブラシ25A、25Bと接触し、モータ1外の電源より給電を受け、定期的に電流方向を変化させる導電部材である。
【0047】
ステータ10は、モータケース12の内壁に、ロータ20を介して対向するように配置した永久磁石部材11N、11Sを含んでいる。永久磁石部材11Nは、ロータ20側がN極に着磁されており、永久磁石部材11Sは、ロータ20側がS極に着磁されている。モータケース12は軟磁性材料であることが好ましく、例えば純鉄で形成されている。これにより、モータ1は、永久磁石部材11N、11Sの漏洩磁界を低減できる。
【0048】
<電磁ブレーキ機構>
図6は、本実施形態に係るモータの整流子とブラシとの関係を説明する説明図である。図7及び図8は、本実施形態に係るモータの動作を説明する説明図である。ここで、図5に示すアーマチュアコア21は、コアスロット(磁極)A1〜A10が形成されているが、動作原理を説明するためコアスロットが3つの場合について、図6から図8を用いて模式的に説明する。
【0049】
ロータ20に相当するロータ20Aは、コアスロット22a1、22a2、22a3と、整流子22aと、励磁コイル23b1、23b2、23b3と、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3とを含んでいる。永久磁石部材11n、11sは、永久磁石部材11N、11Sに相当する。ブラシ25a、25bは、ブラシ25A、25Bに相当する。
【0050】
図6に示すように、整流子22aは、電源Vにより給電されたブラシ25a、25bに接触する。図7に示す励磁コイル23b1、23b2、23b3は、銅等の導電体で形成され、コアスロット22a1、22a2、22a3のそれぞれを巻回する。励磁コイル23b1、23b2、23b3は、整流子22aに電気的に接続されている。また、コアスロット22a1、22a2、22a3のそれぞれには、銅等の導電体で形成され、閉回路となるように環状に接続されたブレーキコイル24L1、24L2、24L3が巻回されている。
【0051】
図7に示すように、電源Vの通電を開閉するスイッチSwを具備する外部回路に上述したブラシ25a、25bを接続する。スイッチSwにより、電源Vからの電流iがブラシ25a、25bから通電される。ブラシ25a、25bから整流子22aを介して通電された励磁コイル23b1、23b2は、コアスロット22a1、22a2を磁化する。磁化されたコアスロット22a1、22a2は、永久磁石部材11n、11sのそれぞれと反発、又は吸引し、回転力Frを生じさせる。
【0052】
図7に示すように、通電される直流電流iは、ブラシ25a、25bが整流子22aの整流子片間を通過するたびに脈動する。この脈動による直流電流iの交流成分を電流リップルという。直流電流iは、縦軸に電圧をとり横軸に時間をとると、モータ1への通電方向によりモータ起動時に正か負のどちらかの起動電流が流れる。その後、モータ1が一定の回転数で回転する場合、直流電流iは、一定の電流がモータ1に流れる。この場合、直流電流iには、脈流が含まれる。この脈流を電流リップル波形という。例えば、ロータ20Aの1回転の電流リップル波形は、整流子22aの整流子片の数と同じ、3つの波形が発生する。なお、直流電流iは後述するPWM制御されていても上述した電流リップル波形を含む。
【0053】
図8に示すように、スイッチSwにより、電源Vからの電流iを遮断する。励磁コイル23b1、23b2は、コアスロット22a1、22a2を磁化しなくなり、回転力Frは消滅するが、慣性力によりロータ20Aが回転し続ける。ブレーキコイル24L1、24L2、24L3は、永久磁石部材11n、11s間の磁界を順次通過する。永久磁石部材11n、11sの磁界は、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3に電圧Eを生じさせる。ここで電圧Eは下記式(1)で示される誘起電圧の式で求めることができる。
【0054】
【数1】

【0055】
ここで、pは磁極数、aは並列導体数、Zはブレーキコイルの巻数、Nはモータの回転数、φは永久磁石部材11n、11sの磁束である。これにより、慣性力によってロータ20Aが速く回転しているほど、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3に電圧Eが生じる。その結果、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3によって磁化されたコアスロット22a1、22a2、22a3のそれぞれには、慣性で回転している方向と逆回転方向の力Fbが生じる。つまり、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3は、電磁ブレーキ機構となり、ロータ20Aの回転を抑制する。
【0056】
なお、モータ1の特性カーブはブレーキコイル24L1、24L2、24L3がない場合のモータの特性に対して、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3の電圧Eを電源電圧より差し引いた電圧が無負荷時の電圧になる。モータ拘束時は回転がないのでブレーキコイル電圧はE=0で電源電圧時の拘束トルクとなる。なお、無負荷電流も同様にトルクが発生するので上昇する。ここで、モータ1のトルクTは、下記の式(2)で求めることができる。なお、Iは、励磁コイル23b1、23b2、23b3に流れる電流である。
【0057】
【数2】

【0058】
モータ1のトルクTは、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3があることで、回転数Nとの比は低減するが、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3の巻数が励磁コイル23b1、23b2、23b3の巻数よりも小さければ、ロータ20Aは回転できる。
【0059】
コアスロットが3つの場合について、図6から図8を用いて模式的に説明してきた。次に、上述した励磁コイル23b1、23b2、23b3に相当する励磁コイルB1〜B10について図9を用いて説明する。図9は、本実施形態に係るモータの励磁コイルの巻線を説明する説明図である。
【0060】
図9に示すコアスロットA1〜A10には、励磁コイルB1〜B10が巻回されている。励磁コイルB1〜B10の巻線は、励磁コイルB1、B2を代表して説明する。励磁コイルB1は、励磁コイルB1の端部が整流子セグメントC1に電気的に接続されている。励磁コイルB1は、整流子セグメントC1からコアスロットA10、A1の間を通過し、また、コアスロットA4、A5の間へ延びている。励磁コイルB1は、コアスロットA4、A5の間から整流子セグメントC2へ電気的に接続する。
【0061】
次に、励磁コイルB2は、励磁コイルB2の端部が整流子セグメントC2に電気的に接続されている。その結果、励磁コイルB2は、励磁コイルB1と接続する。励磁コイルB2は、整流子セグメントC2からコアスロットA1、A2の間を通過し、また、コアスロットA5、A6の間へ延びている。励磁コイルB2は、コアスロットA5、A6の間から整流子セグメントC3へ電気的に接続する。
【0062】
励磁コイルB1、B2と同様に、励磁コイルB3〜B10が隣り合うコアスロットA1〜A10のいずれかの間を巻回し、整流子セグメントC1〜C10のいずれかと接続する。また、コアスロットA1〜A10には、励磁コイルB1〜B10のそれぞれが複数巻回されている。
【0063】
本実施形態の励磁コイルB1〜B10は、いわゆる重ね巻と呼ばれる鼓状巻のコイル巻線である。本実施形態の励磁コイルB1〜B10は、いわゆる波巻と呼ばれる鼓状巻のコイル巻線であってもよい。
【0064】
また、ブレーキコイル24L1、24L2、24L3に相当するブレーキコイルL1〜L10について図10を用いて説明する。図10は、本実施形態に係るモータのブレーキコイルの巻線を説明する説明図である。
【0065】
図10に示すコアスロットA1〜A10には、ブレーキコイルL1〜L10が巻回されている。ブレーキコイルL1〜L10の巻線は、ブレーキコイルL1、L2を代表して説明する。ブレーキコイルL1は、ブレーキコイルL1の端部が整流子セグメントC1に電気的に接続されている。ブレーキコイルL1は、整流子セグメントC1からコアスロットA10、A1の間を通過し、また、コアスロットA4、A5の間へ延びている。ブレーキコイルL1は、コアスロットA4、A5の間から整流子セグメントC1へ電気的に接続する。その結果、ブレーキコイルL1はアーマチュアコア21に巻回され閉回路となるように環状に接続される。
【0066】
次に、ブレーキコイルL2は、ブレーキコイルL2の端部が整流子セグメントC2に電気的に接続されている。ブレーキコイルL2は、整流子セグメントC2からコアスロットA1、A2の間を通過し、また、コアスロットA5、A6の間へ延びている。ブレーキコイルL2は、コアスロットA5、A6の間から整流子セグメントC2へ電気的に接続する。その結果、ブレーキコイルL2はアーマチュアコア21に巻回され閉回路となるように環状に接続される。
【0067】
ブレーキコイルL1、L2と同様に、ブレーキコイルL3〜L10が隣り合うコアスロットA1〜A10のいずれかの間を巻回し、整流子セグメントC3〜C10のいずれかとそれぞれ接続する。上述したように、コアスロットA1〜A10には、励磁コイルB1〜B10のそれぞれが複数巻回されているので、ブレーキコイルL1〜L10は、励磁コイルB1〜B10と重なり合いアーマチュアコア21に巻き付けられる。ブレーキコイルL1〜L10のそれぞれの巻数は、励磁コイルB1〜B10のそれぞれの巻数よりも少なくなっている。
【0068】
<モータ制御装置>
図11は、本実施形態に係るモータ制御装置を説明するブロック図である。図11に示すように、モータ制御装置9では、モータ1と制御装置40とが接続されている。また、モータ制御装置9では、制御装置40と電流検出器453とが接続されている。
【0069】
制御装置40は、マイコン等のコンピュータシステムである。例えば、図11に示すように、入力インターフェース40aと、出力インターフェース40bと、CPU(Central Processing Unit)40cと、ROM(Read Only Memory)40dと、RAM(Random Access Memory)40eと、内部記憶装置40fと、を含んでいる。入力インターフェース40a、出力インターフェース40b、CPU40c、ROM40d、RAM40e及び内部記憶装置40fは、内部バスで接続されている。
【0070】
入力インターフェース40aは、電流検出器453からの出力信号SAを受け取り、CPU40cに出力することができる。出力インターフェース40bは、CPU40cから指示信号を受け取り、モータ1にモータ制御信号SMを出力する。モータ制御信号SMは、例えばPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)出力である。又は、モータ制御信号SMは、例えば直流電源の出力としてもよい。
【0071】
ROM40dには、BIOS等のプログラムが記憶されている。内部記憶装置40fは、例えばHDD(Hard disk drive)やフラッシュメモリ等であり、内部記憶装置40fはオペレーティングシステムプログラムやアプリケーションプログラムを記憶している。CPU40cは、RAM40eをワークエリアとして使用しながらROM40dや内部記憶装置40fに記憶されているプログラムを実行することにより、種々の機能を実現する。なお、内部記憶装置40f又はRAM40eは、記憶手段40Eとなる。
【0072】
以上説明したように、モータ制御装置9では、制御装置40が出力信号SAに基づきモータ1のモータ制御信号SMを演算する。次に、制御装置40は、演算したモータ制御信号SMに基づいて、モータ1を制御することができる。次に、本実施形態に係るアクチュエータの動作について説明する。
【0073】
<アクチュエータの動作>
図12は、本実施形態に係るアクチュエータの動作をモータ電流と時間との関係で説明する説明図である。図12は、モータ電流と時間との関係をモータ電流曲線Imで示す。図12には、アクチュエータ100が駆動する作動ロッド155の位置する区間として上述した、空走区間Sと、たわみ区間Tbと、保持区間Uと、を表示している。図12では、図1−1、図1−2及び図1−3に示す矢印Xの方向に実荷重である推力を示す推力曲線Mnと、電流検出器453が検出する電流リップル成分を示す電流リップルIrと、をモータ電流曲線Imの時間軸に合わせて表示している。なお、図12は、この電流リップルIrの電流リップル波形パルス数を計測した電流リップルパルスIrpも表示している。さらに図12には、アクチュエータ100が駆動する作動ロッド155の位置する区間として解放区間Wを表示している。
【0074】
図12に示す解放区間Wは、図1−3に示す作動ロッド155が矢印Xの方向と逆方向に移動し、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を締め付けることにより回転を止めていたブレーキドラムへの制動力を解放する方向に作動ロッド155が変位する。解放区間Wでは、回転を止めていたブレーキドラム160が回転している。解放境界Qは、ブレーキバンド130とブレーキドラム160との間に働く摩擦力が低下し、ブレーキドラム160が回転する動作の開始位置を示している。例えば、解放区間Wは、解放境界Qから基準位置となる空走区間Sの開始位置Jまでの区間とすることができる。
【0075】
上述したモータ制御装置9は、図12に示す空走区間Sにおいてモータへの電流供給を増やし、自動変速機の変速時間を短縮することが好ましい。空走区間Sにおいて、モータ1は、作動ロッド155をブレーキバンド130から加わる反力の変動が少ない状態で、空走区間Sの開始位置Jから初動制動領域Pまで変位させる。
【0076】
次に、初動制動領域Pでは、作動ロッド155がアプライ用ブラケット136と共に変位し、ブレーキバンド130がブレーキドラム160への制動力を発生する。この制動力によるショックを低減するために、モータ制御装置9は、初動制動領域Pの位置を把握し初動制動領域Pの直前にモータ1の回転速度を減速することが好ましい。従来の油圧制御アクチュエータでは、作動油がダンパーとなる。これに対して、モータ制御によるブレーキバンド装置110では、モータ1の慣性回転による押圧が、作動ロッド155を介して、ブレーキバンド130に伝達されやすい。
【0077】
例えば、電磁ブレーキ機構であるブレーキコイルL1〜L10を含まないモータ1の場合、初動制動領域Pで減速しようとすると、モータ1への電力供給を減らしても慣性力の作用でアーマチュアコア21が回転し、図1−2に示す矢印Xの方向に実荷重である推力が増加する。つまり、慣性によるロータ20の回転による慣性荷重増加が生じるおそれがある。
【0078】
電磁ブレーキ機構(ブレーキコイルL1〜L10)を含む本実施形態のモータ1は、初動制動領域Pで減速しようとする。この場合、慣性力の作用でアーマチュアコア21が回転するが、この回転によりブレーキコイルL1〜L10がアーマチュアコア21に回転方向と逆回転方向の力を与え、矢印Xの方向の実荷重である推力が増加することが抑制される。その結果、指令荷重と実荷重との乖離が抑制され、指令荷重と実荷重との関係は理想的な荷重曲線に沿う傾向となる。
【0079】
たわみ区間Tbにおいて、作動ロッド155のストロークが大きくなるにつれて、作動ロッド155に加わるブレーキバンド130からの反力は大きくなる。
【0080】
例えば、バンドブレーキ装置110は、反力の上昇率が大きくなると運転者にショックとして違和感を与えるおそれもある。このため、モータ1への電流を緩やかに増やし、作動ロッド155が徐々にブレーキバンド130を押す荷重を増加させ、推力を高めていくことが好ましい。例えば、モータ制御装置9は、図12に示すたわみ区間Tbにおいて、モータ1への電流曲線Imが一定の電流増加率となるように制御する。モータ1への電流Imの電流増加に伴い、図12に示す推力曲線Mnの推力も増加する。
【0081】
また、図12に示す保持区間Uにおいて、モータ制御装置9は、作動ロッド155がアプライ用ブラケット136を押圧し続けて保持するための電流をモータ1へ供給する。これにより、アクチュエータ100は、ブレーキバンド130が発生する制動力を保持し、ブレーキドラム160の回転の停止を維持することができる。
【0082】
上述したように、本実施形態のアクチュエータ100は、初動制動領域Pにおいて作動ロッド155がアプライ用ブラケット136と共に変位し、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を制動する摩擦力を生じさせる。ブレーキドラム160を制動する制動力によるショックを低減するために、モータ制御装置9が初動制動領域Pを正確に検出してモータ1を制御することが重要となる。
【0083】
<アクチュエータの制御ブロック>
図13は、アクチュエータの制御ブロックを説明するブロック図である。図13に示すように、制御ブロックは、自動変速機における変速の指令に基づき、ブレーキバンド130とブレーキドラム160とを締結(ブレーキドラム160の回転が停止)する指令と、ブレーキバンド130とブレーキドラム160とを非締結(ブレーキドラム160が回転する状態)にする指令とを選択して指令する締結非締結指令部41に従って制御を行う。
【0084】
制御ブロックは、締結非締結指令部41に基づいてアクチュエータ100への指令を生成する区間指令生成部42と、生成された区間に切替を行う指令切替部43と、切替えられた区間に相当する推力となるようにモータ1への電流を変換する推力−電流変換部44と、モータ1への電流を制御する電流制御部45と、電流制御部45で検出した電流値を増幅する電流増幅部461と、ハイパスフィルタ(HPF:High Pass filter)462と、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass filter)463と、リップル成分増幅部464と、リップル電圧閾値部471と、コンパレータ472と、パルス積算部473とを含む。
【0085】
区間指令生成部42は、空走区間指令421と、たわみ区間指令422と、保持区間指令423と、解放区間指令424とを含む。
【0086】
空走区間指令421は、上述した空走区間Sのモータ1を制御する指令である。たわみ区間指令422は、上述した、たわみ区間Tbのモータ1を制御する指令である。保持区間指令423は、上述した保持区間Uのモータ1を制御する指令である。解放区間指令424は、上述した解放区間Wのモータ1を制御する指令である。
【0087】
区間指令生成部42は、締結非締結指令部41による制御指令と、後述するパルス積算部473の情報に基づいて、空走区間指令421と、たわみ区間指令422との切替、保持区間指令423と、解放区間指令424との切替を選択して出力する。
【0088】
指令切替部43は、区間指令生成部42で出力された指令を必要に応じて切替えながら推力−電流変換部44へ指令を伝達する。なお、たわみ区間指令422と保持区間指令423との切替の出力は、区間指令生成部42で予め記憶したたわみ区間指令422の積算時間の情報に基づいて処理することができる。次に、推力−電流変換部44は、指令された推力となるモータ電流目標値を電流制御部45へ出力する。
【0089】
電流制御部45は、PI制御器451と、PWM出力452と、電流検出器453と、フィードバック加算点D1とを含む。フィードバック加算点D1は、推力−電流変換部44から伝達されたモータ電流目標値と、電流検出器453で検出した電流値との偏差をPI制御器451へ出力する。PI制御器451は、前記偏差に応じて、比例制御又は積分制御のいずれか1以上を処理する。PI制御器451で応答した制御出力は、PWM出力452でPWM出力となり、アクチュエータ100のモータ1へ電流供給(モータ通電)される。電流検出器453は、前記PWM出力された電流を検出し、上述したフィードバック加算点D1へフィードバックする。
【0090】
電流検出器453は、シャント抵抗又は磁気式電流センサを用いることができる。例えば、磁気式電流センサは、ホール素子である。電流検出器453は、モータ1の電流値を検出する。モータ1は、整流子22がブラシ25A、25Bと接触する。このため、電流検出器453が検出する電流には、モータ1のロータ20の1回転あたりの整流子片である整流子セグメントC1〜C10の数に相当する電流リップルが発生する。整流子セグメントC1〜C10は、モータ軸102に固定されているため、電流リップルの数を計測すれば、モータ軸102の回転角度を算出することができる。
【0091】
電流増幅部461は、電流検出器453で検出した電流値を増幅する。増幅された電流値は、ハイパスフィルタ(HPF)462により直流成分を除去し、ローパスフィルタ(LPF)463により電流リップル成分を抽出する。リップル成分増幅部464は、抽出した電流リップル成分を増幅する。リップル電圧閾値部471は、上述した記憶手段40Eで構成し、リップル電圧の閾値情報を記憶している。コンパレータ472は、リップル成分増幅部464で増幅した電流リップル成分と、リップル電圧閾値部471で記憶するリップル電圧の閾値情報により、例えば図12に示す電流リップル成分IrをリップルパルスIrpへ変換する。パルス積算部473は、リップルパルスIrpの数を積算し、リップル積算値を算出する。
【0092】
パルス積算部473は、例えば、下記に示す式(3)のように、リップル積算値Riを用いてアクチュエータのストロークStを演算し、区間指令生成部42へ伝達する。なお、Srは整流子片(整流子セグメント)の数である。gは減速ギヤ機構の減速比である。ボールねじリードlは、ねじ軸107が1回転した場合に駆動軸117及び作動ロッド117がストロークする変位量である。
【0093】
【数3】

【0094】
上述した記憶手段40Eは、整流子片の数Sr、減速ギヤ機構の減速比g、ボールねじ
リードのlの情報を予め記憶している。また、記憶手段40Eは、例えば、空走区間Sの開始位置Jを基準として、空走区間S又は解放区間Wに相当するストロークStを記憶している。
【0095】
区間指令生成部42は、CPU40cで演算したストロークStが空走区間Sに相当するストローク内にあるかどうか比較する。モータ制御装置9は、演算したストロークStから、空走区間指令421とたわみ区間指令422との切替のタイミングを容易に判断することができる。あるいは、区間指令生成部42は、CPU40cで演算したストロークStが解放区間Wに相当するストローク内にあるかどうか比較する。モータ制御装置9は、演算したストロークStから、解放区間指令424の終了のタイミングを容易に判断することができる。
【0096】
締結非締結指令部41は、たわみ区間Tbと保持区間Uとにおいてパルス積算部473に対し、パルスクリア指令を送出することが好ましい。これにより、たわみ区間Tbと保持区間Uとでは、リップルパルスIrpを生成する手順を省略することができる。
【0097】
例えば、たわみ区間Tbでは、ブレーキバンド130から受ける弾性力に対して、推力を緩やかに上昇させていくことが好ましい。これにより、モータ電流曲線Imが増加することになる。そして、電流リップルIrは、モータ電流Imによって振幅が変化する。このため、モータ電流Imの量によって、抽出するときのハイパスフィルタ(HPF)462又はローパスフィルタ(LPF)463の設定を変更しなければ、一部の電流リップルの抽出を欠落させてしまうおそれがある。あるいは、リップル電圧閾値部471で記憶している閾値を変更しなければ、一部の電流リップルの抽出を欠落させてしまうおそれがある。
【0098】
空走区間Sと解放区間Wとでは、ブレーキバンド130がブレーキドラム160を制動する摩擦力が生じていない、又は作動ロッド155への反力として影響の少ない程度にしか生じていない。このため、モータ1に加わる負荷の変動が少ない。その結果、図12に示すモータ電流曲線Imがほぼ一定の範囲内の電流値に収まる。これにより、リップル電圧閾値部471で記憶している閾値を設定しやすくなり、抽出される電流リップル成分の抽出精度を維持することができる。また、電流リップル成分の抽出精度を高めることにより、パルス積算部473は、リップルパルスIrpの数を積算し、リップル積算値から確度の高いストロークStを算出することができる。なお、空走区間Sの開始位置J、及び解放境界Qでは、起動電流Imsがモータ1に流れるが、時間が短い。また、起動電流Ims分のストロークが全体のストロークに対して占める割合が十分小さく分解能が十分であれば、モータ制御装置9は、起動電流Ims分の作動ロッド155のストロークを無視してもよい。又はモータ制御装置9は、起動電流Imsの流れる時間を記憶手段に記憶しておき、電流リップル成分の抽出の際、起動電流Ims分の作動ロッド155のストロークを付加する演算をしてもよい。
【0099】
また、保持区間Uでは、モータ1に電流を加えているが、ロータ20の回転はしないか、ほとんど回転しないのでリップル積算値を算出しなくてもよい。次に、アクチュエータ100の制御手順について説明する。
【0100】
図14は、アクチュエータの制御手順を説明するフローチャートである。まず、ステップS101において、モータ制御装置9は、現時点で記憶手段40Eに記憶するストロークStの情報に基づき、図12に示す空走区間S又は解放区間Wであるか否かを検出する。
【0101】
空走区間S又は解放区間Wである場合(ステップS101、Yes)、モータ制御装置9は、処理をステップS102へ進める。ステップS102においては、モータ制御装置9は、電流リップル成分IrをリップルパルスIrpへ変換し、パルス積算部473がリップルパルスIrpの数を積算(パルス積算)し、リップル積算値を算出する。
【0102】
空走区間S又は解放区間Wでない場合(ステップS101、No)、モータ制御装置9は、処理をステップS103へ進める。ステップS103においては、モータ制御装置9は、電流検出器453においてモータ1を制御する電流値を検出し、かつたわみ区間指令422又は保持区間指令423の指令した制御時間を検出している。制御時間は、例えばモータ1を制御する電流値に応じて初動制動領域P又は締結境界Gから作動ロッド155が変位する標準的な積算時間である。
【0103】
次に、モータ制御装置9は、ステップS102又はステップS103の処理後に、処理をステップS104へ進める。空走区間S又は解放区間Wである場合、ステップS104においては、上述した式(3)に示すように、モータ制御装置9がリップル積算値Riを用いてアクチュエータのストロークStを演算し、記憶手段40Eに記憶する。たわみ区間Tb又は保持区間Uである場合、ステップS104では、モータ1を制御する電流値と、たわみ区間指令422又は保持区間指令423の指令した制御時間とから、アクチュエータ100のストロークを演算し、記憶手段40Eに記憶する。
【0104】
次に、モータ制御装置9は、処理をステップS105へ進める。モータ制御装置9は、自動変速機における変速の指令に基づき、ブレーキバンド130をアクチュエータ100により締結する指令とブレーキバンド130をアクチュエータ100により非締結状態にする指令とのどちらかが完了しているか否かを検出する。
【0105】
具体的には、モータ制御装置9が保持区間Uにおけるモータ1の電流制御をしている場合、締結指令が完了したとする。
【0106】
なお、アクチュエータ100は、減速ギヤ機構の減速比を高めることによりモータ1の無通電時のフリクションを、ブレーキバンド130がブレーキドラム160の回転を停止する状態を維持する制動力(バンドブレーキ締結保持力)よりも大きくすることが好ましい。
【0107】
アクチュエータ100は、例えば、バンドブレーキ締結保持力に対して下記式(4)を満たすようにすることが好ましい。
【0108】
【数4】

【0109】
ここで、直動部の摺動静摩擦及び外乱静摩擦の値は、式(4)の左側全体の値に対し小さい。ボールねじリードは、ボールねじ機構のストロークを確保し、効率を担保する必要がある。このため、式(4)を満たすようにするために、無通電時のボールねじ軸の保持トルクを増加することが好ましい。無通電時のボールねじ軸の保持トルクは、下記式(5)で示すことができる。
【0110】
【数5】

【0111】
式(5)から無通電時のボールねじ軸の保持トルクは、減速ギヤ機構の減速比を大きくすることで、大きくすることができることが分かる。
【0112】
上述のように、式(4)の関係を満たすことにより、このため、ブレーキバンド130から作動ロッド155に加わる反力によりモータ1が逆回転しない。そして、アクチュエータ100は、モータ1を通電し続けることなく、ブレーキバンド130がブレーキドラム160の回転を停止する状態を維持することができる。例えば、図12に示す保持区間Uにおいて、モータ電流曲線Imをみるとモータ電流は流れていないが推力曲線Mnの推力はモータ電流が供給されている状態とほぼ同じ推力を維持することができる。また、ボールねじ機構は伝達効率が高く、効率よく回転を直線運動として変換できる。ボールねじ機構を使用しても、減速ギヤ機構の減速比を高めることによりブレーキバンド130がブレーキドラム160を停止する状態を維持することができる。モータ1が無通電となることから、モータ1の発熱が抑制されると共に、アクチュエータ100の消費電力を抑制することができる。
【0113】
あるいは、被締結指令により、保持区間指令423の指令した制御時間が終了する場合、モータ制御装置9は、上述したリップル積算値をクリアする。モータ制御装9は、図1−3に示す矢印X方向と逆方向にモータを回転する。モータ制御装置9は、解放区間Wにおける、作動ロッド155の目標位置、例えば空走区間Sの開始位置Jのとなる作動ロッド155のストロークを記憶手段40Eに記憶しておくことが好ましい。モータ制御装9は、ブレーキバンド130がブレーキドラム160の締結を解放する解放境界Qを検出した場合、解放境界Qからの作動ロッド155のストロークStを前記電流リップル成分から演算することができる。モータ制御装9は、演算した作動ロッド155のストロークStが上述した目標位置となった場合、非締結指令が完了したとする。締結指令又は非締結指令が完了した場合(ステップS105、Yes)、モータ制御装置9は、処理を終了する。
【0114】
締結指令又は非締結指令が完了していない場合(ステップS105、No)、モータ制御装置9は、処理をステップS101へ戻す。この手順により、ステップS101において、モータ制御装置9は、空走区間Sからたわみ区間Tbへの切替を検出することができる。
【0115】
空走区間Sからたわみ区間Tbへの切替境界である初動制動領域Pを検出した場合、ブレーキバンド130が制動力を発生させる。制動力の発生によるショックを与えないように、モータ制御装置9は、モータ1への電流を図12に示すように急激に低減することができる。
【0116】
また、電磁ブレーキ機構(ブレーキコイルL1〜L10)を含む本実施形態のモータ1は、初動制動領域Pでモータ1を減速すると、慣性力の作用でロータ20が回転しつづけようとする。この回転によりブレーキコイルL1〜L10はロータ20に回転方向と逆回転方向の力を与え、矢印Xの方向に実荷重である推力の増加が抑制される。その結果、図12の初動制動領域Pにおいて、ストローク量が突出することなく推力の増加が抑制されていくことになる。
【0117】
以上説明したように本実施形態に係るアクチュエータ100は、回転体であるブレーキドラム160を制動するブレーキバンド130に弾性変形させるため、荷重を加える作動ロッド155の変位を制御するアクチュエータである。アクチュエータ100は、モータ1と、モータ1の出力シャフト102からの回転運動を直線運動に変換し、前記直線運動によって発生する変位を作動ロッド155に与える直線運動機構と、モータ1へ供給する電流を検出する電流検出器453と、制御装置40とを含む。制御装置40は、電流検出器453から電流リップル成分を抽出する。制御装置40は、ブレーキバンド130がブレーキドラム160の制動を開始してから制動力が発生するまでの空走区間Sにおける、作動ロッド155の変位量であるストロークStを前記電流リップル成分から演算することができる。このため、制御装置40は、初動制動領域Pにおいて制動力が生じるタイミングを簡易に把握することができる。
【0118】
また、制御装置40は、ブレーキバンド130の制動によってブレーキドラム160の回転が停止している状態から作動ロッド155の制動を解除するように作動ロッド155が変位し、かつブレーキドラム160が回転してからの解放区間Wにおける、作動ロッド155の変位量であるストロークStを前記電流リップル成分から演算することができる。このため、制御装置40は、解放区間Wにおける作動ロッド155の位置を簡易に把握することができる。このため、解放区間Wにおいて、作動ロッド155を確実に戻すこともできる。
【0119】
また、モータ1内に又はアクチュエータ100のハウジング101内に、回転センサ、荷重センサ、位置センサ等を含まなくても、制御装置40は、電流検出器453から電流リップル成分を抽出し、空走区間S又は解放区間Wにおける作動ロッド155の変位量であるストロークStを演算することができる。回転センサ、荷重センサ、位置センサ等を省略した場合、コストダウンに寄与し、モータ1又はアクチュエータ100のハウジング101を小型にすることもできる。
【0120】
また、アクチュエータ100のモータ1は、アーマチュアコア21に巻回された励磁コイルB1〜B10及びブレーキコイルL1〜L10と、着磁された永久磁石部材11N、11Sと、アーマチュアコア21とともに回転する出力シャフト102とを含んでいる。
【0121】
励磁コイルB1〜B10の通電により回転するアーマチュアコア21は、ロータ20となり、永久磁石部材11N、11Sと相対的に位置が変化する。そして、永久磁石部材11N、11Sの磁界を通過するブレーキコイルL1〜L10は、アーマチュアコア21に巻回され環状に接続され、回転するアーマチュアコア21に慣性によりロータ20(出力シャフト102)が回転する回転方向と逆回転方向の力を与えることができる。
【0122】
これにより、励磁コイルB1〜B10の通電をオフにした場合、慣性による出力シャフト102の回転が早期に抑制される。つまり、モータ1は、励磁コイルB1〜B10の通電のオフに追随して、出力シャフト102の回転が早期に停止する。また、いわゆるブラシ付きモータの慣性による出力シャフトの回転は、早期に抑制される。また、モータ1が高回転であっても、慣性で出力シャフト102が回転し続けることが抑制される。その結果、モータが高速回転で駆動されても制御しやすくなる。
【0123】
バンドブレーキ装置110は、初動制動領域Pにおいて制動力が生じるタイミングにおいて、制動力の発生によるショックを緩和するモータ制御をすることができる。これにより、運転者に与える変速ショック又は違和感を低減することができる。
【0124】
また、直線運動機構には、軸線方向の移動要素であるナット115と、ねじ軸107と、転動体であるボール116とを含むボールねじ機構を含むことが好ましい。これにより、出力シャフト102の回転運動をねじ軸107の直線運動に変換することができる。アクチュエータ100は、ボールねじ機構を備えているので、モータ1の小さな力(トルク)を大きな力である軸72の推力へ変換することができる。アクチュエータ100は、ボールねじ機構のボール116の転がりによって起動トルクが極めて少なくできるので、精密な微動送りにより、所定の駆動軸117の推力を与えることができる推力発生装置となる。
【0125】
また、ボールねじ機構は、回転運動を直線運動に変換する直線運動機構であるとともに、直線運動によって発生する変位を作動ロッド155に与え、大きな変位(回転)を小さな変位(直線運動)に変換する減速作用を有する。
【0126】
減速ギヤ機構は、第1ギヤ103、第2ギヤ105、第3ギヤ106の噛み合いにより、モータ1の出力シャフト102の回転速度を減速させたねじ軸107の回転とする。つまり、減速ギヤ機構は、出力シャフト102と前記ボールねじ機構のねじ軸107との間に設けられ、かつ出力シャフト102からねじ軸107へ伝達される回転速度を減速する。これにより、モータ1が小型モータであっても高出力を取り出すことができる。また、モータ1とねじ軸107とが配置されるハウジング101内のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0127】
以上説明した本実施形態のアクチュエータ100はバンドブレーキ装置110に適用した。アクチュエータ100は、一般産業用電動機、自動車及び船舶等に使用されている電動式のアクチュエータに適している。例えば、アクチュエータ100は、圧力又は推力を加える油圧制御機構の置き換えることができる。また、アクチュエータ100は、上述した空走区間のように反力による負荷の変動の少ないストローク区間と、たわみ区間のように被駆動機構が弾性変形部材に荷重を加えるストローク区間とを含む、圧力又は推力を加える制御機構に適用することが好ましい。
【符号の説明】
【0128】
1 モータ
9 モータ制御装置
10 ステータ
11N、11S、11s、11n 永久磁石部材
21 アーマチュアコア
23b1、23b2、23b3、B1〜B10 励磁コイル
24L1、24L2、24L3、L1〜L10 ブレーキコイル
20、20A ロータ
22a1、22a2、22a3、A1〜A10 コアスロット
22、22a 整流子
25A、25B、25a、25b ブラシ
40 制御装置
453 電流検出器
100 アクチュエータ
102 出力シャフト
107 ねじ軸
110 バンドブレーキ装置
115 ナット
117 駆動軸
130 ブレーキバンド
131 ストラップ
132 ライニング
136 アプライ用ブラケット
151 アプライ手段
155 作動ロッド
156 アンカーピン
C1〜C10 整流子セグメント(整流子片)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を制動する弾性変形部材を弾性変形させるため、前記弾性変形部材に荷重を加える被駆動機構の変位を制御するアクチュエータであって、
モータと、
前記モータの出力シャフトからの回転運動を直線運動に変換し、前記直線運動によって発生する変位を前記被駆動機構に与える直線運動機構と、
前記モータへ供給する電流を検出する電流検出器と、
前記弾性変形部材が前記回転体の制動を開始してから制動力が発生するまでにおける前記被駆動機構の変位量と、前記弾性変形部材の制動によって前記回転体の回転が停止している状態から前記弾性変形部材の制動を解除するように前記被駆動機構が変位し、かつ前記回転体が回転してからの前記被駆動機構の変位量と、のうち少なくとも1つの前記被駆動機構の変位量を前記電流検出器から抽出した電流リップル成分から演算する制御装置と、
を含むことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記モータは、
前記出力シャフトと連結されたアーマチュアコアと、前記アーマチュアコアに巻回された励磁コイルと、着磁され、かつ前記アーマチュアコアに対して相対的に位置が変化する永久磁石部材と、前記アーマチュアコアに巻回され閉回路となるように環状に接続されたブレーキコイルと、を含み、
前記励磁コイルの通電により回転する前記アーマチュアコアの回転方向と逆回転方向の力を、前記アーマチュアコアに与える請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
モータと、
前記モータの出力シャフトからの回転運動を直線運動に変換する直線運動機構と、
弾性変形可能なブレーキバンドに対して荷重を加え、ブレーキドラムの回転運動を前記ブレーキバンドの弾性変形に応じてブレーキドラムを制動するために、前記直線運動よって変位する作動ロッドと、
前記モータへ供給する電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器から電流リップル成分を抽出し、前記ブレーキバンドが前記ブレーキドラムの制動を開始してから制動力が発生するまでにおける前記作動ロッドの変位量と、前記ブレーキバンドの制動によって前記ブレーキドラムの回転が停止している状態から、ブレーキバンドの制動を解除するように前記作動ロッドが変位し、かつ前記ブレーキドラムが回転してからの前記作動ロッドの変位量と、のうち少なくとも1つの前記作動ロッドの変位量を前記電流リップル成分から演算する制御装置と、
を含むことを特徴とするバンドブレーキ装置。
【請求項4】
前記直線運動機構は、ボールねじ機構であり、
前記出力シャフトと前記ボールねじ機構のねじ軸との間に設けられ、かつ前記出力シャフトから前記ねじ軸へ伝達される回転速度を減速する減速ギヤ機構をさらに含む請求項3に記載のバンドブレーキ装置。
【請求項5】
回転体を制動する弾性変形部材を弾性変形させるため、前記弾性変形部材に荷重を加える被駆動機構の変位させるモータを制御する方法であって、
前記弾性変形部材が前記回転体の制動を開始してから制動力が発生するまでにおける前記被駆動機構が変位する区間である空走区間、又は前記弾性変形部材の制動によって前記回転体の回転が停止している状態から前記弾性変形部材の制動を解除するように前記被駆動機構が変位し、かつ前記回転体が回転してからの前記被駆動機構が変位する区間である解放区間、を検出するステップと、
検出した前記空走区間又は前記解放区間では、前記モータへ供給する電流を検出し、検出した前記電流から電流リップル成分を抽出し、前記電流リップル成分をパルスとして積算するステップと、
前記パルスの積算値を前記被駆動機構の変位量にする演算を行うステップと、
を含むことを特徴とするモータ制御方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−19518(P2013−19518A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155172(P2011−155172)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】