説明

アクティブフェーズドアレイレーダ

【課題】空中線モジュールにおける出力の制約を解消してより高い電力の出力を可能にすることで、状況に応じてより有効なアンテナビームを形成できるアクティブフェーズドアレイレーダを提供する。
【解決手段】空中線モジュール20において送信用可変減衰器6aを電力増幅器7の入力側に配置することで出力の制約を解消しより高い電力の出力を可能にし、制御装置8が、各空中線モジュール20の電力増幅器7、可変減衰器6a,6bおよび回路切換え機構2〜4を制御してアンテナ開口面での波源分布特性を、送信時には均一分布特性又は密度テーパ分布特性に切換え、受信時には均一分布特性又は振幅テーパ分布特性に切換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアクティブフェーズドアレイレーダ、特に空中線(アンテナ)モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
陸上(車両を含む)、航空機又は艦船のプラットフォームに搭載するレーダについては、レーダの多機能化、即応性等の能力から、レーダから照射するビームを電子的に走査することができるアクティブフェーズドアレイレーダ方式が採用される趨勢となっている。
【0003】
アクティブフェーズドアレイレーダが、反射電波の散乱が大きくなるような、有効反射面積の小さい目標を探知・追尾するためには、有効反射面積の小さい目標から反射される小さな電力を受信することが要求され、それ故、レーダから照射するビームの高出力化が求められる。また、有効反射面積の小さい目標から反射される小さな電力を受信し目標として検出するためには、クラッタ(海面や雨による反射)又はジャミング(妨害電波)からの不要信号の影響によって小さな電力を受信できないことのないよう、ビームの低サイドローブ化が要求される。さらに、プラットフォームにレーダを搭載するためには、レーダの小型・軽量化が必要となり、特に、レーダを構成するアンテナの小型・軽量化が必要である。他方、小さな電力を受信し目標として検出するためには、アンテナの大型化が必要となる。
【0004】
アクティブフェーズドアレイレーダのアンテナ出力を高出力化し、かつ、アンテナの小型化を図る方式として、全ての放射素子を同出力のアンテナモジュールで給電するような、アンテナ開口面の波源分布を均一分布特性としたアンテナ制御方式がある。しかし、アンテナ開口面を均一分布特性とした場合、ビームのサイドローブレベルが約−13dBと大きな値となり、クラッタ又はジャミングからの不要信号の影響を受ける。それ故、受信時には、ビームのサイドローブレベルが約−30dBと小さな値をとるような、例えばアンテナ開口面の波源分布をテーパ分布特性として、受信ビームを形成する必要がある。
【0005】
アクティブフェーズドアレイレーダにて、アンテナ開口面の波源分布を送信時及び受信時で切換える方式として、アンテナモジュール内回路に可変減衰器を組み込み、可変減衰器を用いてアンテナ開口面の波源分布を制御するといった従来技術があった(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−107335号公報(特に第4頁、図1)
【0007】
ただし、該従来技術ではアンテナモジュール内回路にて、電力増幅器の後段に可変減衰器が接続されているため、送信電力が高出力化されるレーダでは、可変減衰器の耐電力に限界が生じ、アンテナ開口面の波源分布を切換えて利用することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように従来のアクティブフェーズドアレイレーダにおいては、アンテナモジュール内の可変減衰器の耐電力性能を向上する必要があるが、その性能には限界があった。
【0009】
また、アンテナモジュール内には送信用可変減衰器と受信用可変減衰器の2つの可変減衰器が存在しており、アンテナモジュール内の回路構成が複雑であった。その結果、小型・軽量、低価格化を図ることが困難であった。
【0010】
この発明は、係る問題を解消するためになされたものであり、空中線(アンテナ)モジュールにおける出力の制約を解消しより高い電力の出力を可能にすることで、状況に応じてより有効なアンテナビームを形成できるアクティブフェーズドアレイレーダを提供することを目的とする。
【0011】
より詳細には、より高い電力の出力が可能な空中線モジュールの実現により、アンテナ開口面の波源分布を、送信時には均一分布特性又は密度テーパ分布特性に切換え、また受信時には均一分布特性又は振幅テーパ分布特性に切換えることができるアクティブフェーズドアレイレーダを提供する。また空中線モジュール内の回路構成の簡素化を実現した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、アンテナ開口面に沿って配置された複数の放射素子と、前記放射素子と電力分配合成装置との間に接続され放射素子の送受信の電力制御を行うそれぞれの放射素子に設けられた空中線モジュールと、前記各空中線モジュールに接続され前記放射素子によるアンテナ開口面での波源分布特性制御を行う制御装置と、を備え、前記各空中線モジュールが、送信のための電力増幅器と、少なくとも1つの可変減衰器と、送信時には前記電力増幅器の入力側に前記可変減衰器が接続されるように、前記電力分配合成装置と放射素子の間で送信時と受信時で回路接続を切り換える回路切換え機構とを設け、前記制御装置が、各空中線モジュールの前記電力増幅器、可変減衰器および回路切換え機構を制御してアンテナ開口面での波源分布特性を、送信時には均一分布特性又は密度テーパ分布特性に切換え、受信時には均一分布特性又は振幅テーパ分布特性に切換えることを特徴とするアクティブフェーズドアレイレーダにある。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、より高出力化された空中線モジュールの実現等により、状況に応じてより有効なアンテナビームを形成できるアクティブフェーズドアレイレーダを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明を図を用いて実施の形態に従って説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明によるアクティブフェーズドアレイレーダ全体の概略的な構成を示す図である。直線や任意の曲線形状のアンテナ開口面に沿って設けられ、空中線モジュール20から入力された電力信号を電波として放射し、また外部からの電波を受信して電力信号に変換する放射素子9の各放射素子9には、放射素子9の送受信の電力制御を行う空中線モジュール20がそれぞれ接続され、各空中線モジュール20には、各空中線モジュール20への電力の分配、各空中線モジュール20からの電力の合成を行う電力分配合成装置1、複数の放射素子9によるアンテナ開口面での波源分布特性制御を行う制御装置8が接続されている。また電力分配合成装置1には送信のための信号源22と受信のための受信装置23がサーキュレータ21を介して接続されている。
【0015】
図2は図1の各空中線モジュール20の構成を示す図である。放射素子9と電力分配合成装置1の間に接続されている各空中線モジュール20は、送信時にT、T、T側に接続される送受切換スイッチ2,3,4(回路切換え機構)、送信時及び受信時に、送信電力信号又は受信電力信号の位相を制御する可変移相器5、送信時の送信電力信号量を可変に減衰できる送信用可変減衰器6a、受信時の受信電力信号量を可変に減衰できる受信用可変減衰器6b、入力した送信電力信号量を増幅する電力増幅器7、送信時には送信電力信号を放射素子9に送信し、受信時には放射素子9からの受信電力信号を受信するように切換えるサーキュレータ10、入力した受信電力信号を飽和させないように受信電力量を制限するよう制御するリミッタ11、入力した受信電力信号を増幅させる低雑音増幅器12を備える。
【0016】
制御装置8は、送受切換スイッチ2,3,4、送信用可変減衰器6a、受信用可変減衰器6b、電力増幅器7に接続され、送受切換スイッチ2,3,4の切り換え制御や、電力増幅器7のON/OFF切換えや、送信用可変減衰器6a、受信用可変減衰器6bの減衰量調整制御を行う。
【0017】
次に図2の動作について説明する。電波を送信するときは、送受切換スイッチ2〜4は図示のように端子T,T,T側にそれぞれ切り換えられ、送信電力信号が電力分配合成装置1から送信され、送受切換スイッチ2内のT側、送受切換スイッチ3内のT側を通って、可変移相器5にて位相制御され(可変移相器5の移相量は図示されない別系統の制御装置で制御される)、位相制御された送信電力信号は送受切換スイッチ4内のT側に接続される。電力増幅器7の電力増幅性能には個体差が多いため、送信用可変減衰器6aにてその個体差が調整される。送信用可変減衰器6aおよび受信用可変減衰器6bは、制御装置8により減衰量が制御される。
【0018】
制御装置8では、アンテナ開口面の波源分布を均一分布特性とする場合には、全ての空中線モジュール20の電力増幅器7をONにし、アンテナ開口面の波源分布を密度テーパ分布特性とする場合には一部の空中線モジュール20で電力増幅器7をOFFに設定するように制御する。電力増幅器7がONの場合、電力増幅器7からの送信電力信号の強度を均一に高出力化して、サーキュレータ10を介して放射素子9から送信電波が出力される。電力増幅器7がOFFの場合は送信電波は出力されない。
【0019】
電波を受信するときは、放射素子9から入力した電波が受信電力信号としてサーキュレータ10に入力され、受信電力信号を検出できるようリミッタ11及び低雑音増幅器12により受信電力信号が形成される。送受切換スイッチ2〜4は端子R,R,Rに側に切り換えられ、形成された受信電力信号は送受切換スイッチ3内のR側から可変移相器5に導かれ、可変移相器5で移相制御され、位相制御された受信電力信号が送受切換スイッチ4内のR側に導かれ、受信用可変減衰器6bにおいて、アンテナ開口面が均一分布特性又は振幅テーパ分布特性となるように受信電力信号の強度が制御され、最後に送受切換スイッチ2内のR側から電力分配合成装置1に導かれ。
【0020】
ここで、アンテナ開口面の波源分布とそれによって形成されるアンテナビーム形状の関係について、図4を用いて説明する。図4の(a)はアンテナ開口面における放射素子9の配列の一例、(b)〜(d)はそれぞれ均一分布、振幅テーパ分布、密度テーパ分布における(a)のアンテナ開口面(アレー面)に沿った放射電力を示す。各空中線モジュール20の電力増幅器7からの送信電力信号の強度を均一にしてそれぞれの放射素子9に給電すれば、アンテナ開口面の波源分布は図4の(b)に示す均一分布13となり、このときアンテナビーム形状はビーム幅が小さく利得が大きな鋭いビームとなる。ただし、サイドローブレベルは約−13dBと大きな値である。
【0021】
サイドローブ抑圧のためには、給電電力を放射素子9毎に変えて供給する必要がある。低サイドローブのビーム形成のための波源分布として、図4の(c)(d)に示す振幅テーパ分布14や密度テーパ分布15などが知られている。振幅テーパ分布14は、放射素子9毎の給電電力強度を可変減衰器(6a,6b)での減衰量(減衰率)を制御装置8により制御することによって実現できる。また、密度テーパ分布15は、制御装置8にて一部の空中線モジュール20の電力増幅器7をOFFに設定することにより実現できる。ただし、振幅テーパ分布及び密度テーパ分布時には、ビーム幅が大きく利得が比較的小さなビームとなる。
【0022】
以上のように、電力増幅器7の入力側に送信用可変減衰器6aを設けることで、高出力化されたアクティブフェーズドアレイレーダにおいて、アンテナ開口面の波源分布を、送信時には均一分布特性又は密度テーパ分布特性に切換えることができ、また、受信時には均一分布特性又は振幅テーパ分布特性に切換えることができる。また、送信用可変減衰器6aを電力増幅器7の前段に設けているので、電力増幅器7の後段に設ける場合に比べて送信用可変減衰器6aにダメージを与える心配なく電力増幅器7の出力を大きくすることができる。
【0023】
実施の形態2.
図3はこの発明の別に実施の形態によるアクティブフェーズドアレイレーダにおける空中線モジュールの構成を示す図である。アクティブフェーズドアレイレーダ全体の構成は図1のものと同じである。図3において上記実施の形態と同一もしくは相当部分は同一符合で示し説明を省略する。図3の空中線モジュール20では、1つの可変減衰器6を可変移相器5と直列に接続し、送信時と受信時で共有する構成にされている。
【0024】
次に図3の動作について説明する。電波を送信するときは、送受切換スイッチ2〜4は図示のように端子T,T,T側にそれぞれ切り換えられ、送信電力信号が電力分配合成装置1から送信され、送受切換スイッチ2内の端子T側に導かれ、送受切換スイッチ3内の端子T側に導かれ、可変移相器5にて位相制御され、可変減衰器6にて振幅も制御されて、送受切換スイッチ4内の端子T側に導かれる。可変減衰器6は、制御装置8により減衰量が制御される。制御装置8では、アンテナ開口面の波源分布を均一分布特性とする場合には全ての空中線モジュール20の電力増幅器7をONにし、アンテナ開口面の波源分布を密度テーパ分布特性とする場合には一部の空中線モジュール20の電力増幅器7をOFFに設定するように制御する。電力増幅器7がONの場合、送信電力信号量に対して電力増幅器7にて送信電力信号を高出力化して、サーキュレータ10を介して放射素子9から送信電波が出力される。電力増幅器7がOFFの場合は送信電波は出力されない。
【0025】
電波を受信するときは、送受切換スイッチ2〜4は端子R,R,R側にそれぞれ切り換えられ、放射素子9から入力した電波が受信電力信号としてサーキュレータ10に入力され、受信電力信号を検出できるようリミッタ11及び低雑音増幅器12により受信電力信号が形成され、形成された受信電力信号が送受切換スイッチ3内のR側に導かれ、可変移相器5にて移相制御され、位相制御された受信電力信号は可変減衰器6にて、アンテナ開口面が均一分布特性又は振幅テーパ分布特性となるように強度が制御され、さらに送受切換スイッチ4内のR側に導かれ、送受切換スイッチ2内のR側に導かれて電力分配合成装置1に入力される。
【0026】
アンテナ開口面の波源分布とそれによって形成されるアンテナビーム形状の関係については、図4で説明したとおりである。
【0027】
以上により、送信用可変減衰器6aと受信用可変減衰器6bとを一つの可変減衰器6で構成することにより、アンテナモジュール内の回路構成が簡略化しつつ、実施の形態1と同様な特長を有することができる。また、部品点数の削減に繋がり、結果、小型・軽量、低価格化を図ることができる。
【0028】
実施の形態3.
また、上記各実施の形態1、2の構成において、送信時のアンテナ開口面の波源分布を、外部装置からの指令によって、ロングレンジとショートレンジの各運用時に各々独立して制御し、加えて受信時のアンテナ開口面の波源分布についても、ロングレンジとショートレンジの各運用時に各々独立して制御するようにしてもよい。
【0029】
すなわち、制御装置8が、外部からのレンジ指定信号RCに従って、送信時および受信時のアンテナ開口面の波源分布を、ロングレンジとショートレンジの各運用時に各々独立して制御する。
【0030】
例えば制御装置8は、ロングレンジモードでは、最大探知距離延伸のためにエネルギーが必要なため、送受信均一分布とし、ショートレンジモードでは、エネルギーが余っており、クラッタの影響を除くために送信密度テーパ分布、受信振幅テーパ分布とするように各空中線モジュール20を動作させる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明によるアクティブフェーズドアレイレーダ全体の概略的な構成を示す図である。
【図2】図1の各空中線モジュールの構成の一例を示す図である。
【図3】図1の各空中線モジュールの構成の別の例を示す図である。
【図4】この発明におけるアンテナ開口面の波源分布を説明するための図である。
【符号の説明】
【0032】
1 電力分配合成装置、2,3,4 送受切換スイッチ、5 可変移相器、6 可変減衰器、6a 送信用可変減衰器、6b 受信用可変減衰器、7 電力増幅器、8 制御装置、9 放射素子、10 サーキュレータ、11 リミッタ、12 低雑音増幅器、20 空中線モジュール、21 サーキュレータ、22 信号源、23 受信装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ開口面に沿って配置された複数の放射素子と、
前記放射素子と電力分配合成装置との間に接続され放射素子の送受信の電力制御を行うそれぞれの放射素子に設けられた空中線モジュールと、
前記各空中線モジュールに接続され前記放射素子によるアンテナ開口面での波源分布特性制御を行う制御装置と、
を備え、
前記各空中線モジュールが、送信のための電力増幅器と、少なくとも1つの可変減衰器と、送信時には前記電力増幅器の入力側に前記可変減衰器が接続されるように、前記電力分配合成装置と放射素子の間で送信時と受信時で回路接続を切り換える回路切換え機構とを設け、
前記制御装置が、各空中線モジュールの前記電力増幅器、可変減衰器および回路切換え機構を制御してアンテナ開口面での波源分布特性を、送信時には均一分布特性又は密度テーパ分布特性に切換え、受信時には均一分布特性又は振幅テーパ分布特性に切換える、
ことを特徴とするアクティブフェーズドアレイレーダ。
【請求項2】
各空中線モジュールが、送信用可変減衰器と受信用可変減衰器を設け、前記送信用可変減衰器が電力増幅器の入力側に固定的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のアクティブフェーズドアレイレーダ。
【請求項3】
各空中線モジュールが送受信用可変減衰器を設け、制御装置が、各空中線モジュールの回路切換え機構を、送信時に電力分配合成装置、送受信用可変減衰器、電力増幅器、放射素子の順で接続する回路を構成し、受信時に放射素子、送受信用可変減衰器、電力分配合成装置の順で接続する回路を構成するように制御することを特徴とする請求項1に記載のアクティブフェーズドアレイレーダ。
【請求項4】
制御装置が、外部からのレンジ指定信号に従って、送信時および送信受信時のアンテナ開口面の波源分布をロングレンジとショートレンジの各運用時に各々独立して制御することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載のアクティブフェーズドアレイレーダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−145246(P2010−145246A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322805(P2008−322805)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】