説明

アクリル樹脂組成物及びそれを用いた成形物

【課題】多層シート成形時の剥離性向上とロール付着物を低減させたアクリル樹脂組成物、およびそれを用いた生産性が良く耐環境性のよいアクリル/ポリカーボネート多層シートを提供する。
【解決手段】アクリル樹脂に下記一般式(1)(R1はアルキレン基、R2〜R8は水素、アルキル基、アリール基等を表す。aは1〜1000の整数)で表される末端基を有する末端変性ポリカーボネート樹脂を0.1〜10重量%配合してアクリル樹脂組成物とし、これをポリカーボネート樹脂とともに共押出成形などによって多層シートに成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の末端シリコーン変性ポリカーボネート樹脂を配合したアクリル樹脂組成物に関する。さらには、そのアクリル樹脂組成物を用いた良好な剥離性や低摩擦性を有するフィルム又はシート、及び他の樹脂との多層シート等の成形物、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は透明性、耐擦傷性に優れることから光学レンズ、液晶パネル保護部材、水槽等、様々な分野に応用されている。中でも、表面が硬く耐擦傷性に優れることから、他樹脂への被覆(ハードコート)用途に用いられることが多い。特に、同様に透明性に優れ、高い耐衝撃性を有するポリカーボネートと組み合わせた多層シート等の樹脂積層体は、各種窓ガラス、透明屋根、透明パネル部材等耐擦傷性と耐衝撃性が求められる分野に非常に好適で、需要も大きい。
【0003】
ポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂を積層する手法としては、(1)ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を共押出して多層シートにする方法や、(2)ポリカーボネート樹脂シート基材にアクリル樹脂のモノマーを塗布し、光や熱で硬化させる方法が知られている。このうち、(2)の手法は、アクリルモノマーの揮散による作業環境汚染や塗布・硬化装置の管理が煩雑であることから、(1)の手法が近年多く用いられている。しかしながら、(1)の手法では、共押出時のシート成形用ロールからのアクリル樹脂剥離性が悪く、成形不良、外観不良につながることがあった。
【0004】
この問題を解決するため種々の滑剤を添加したアクリル樹脂組成物を使用することが開示されている(特許文献1、特許文献2)。これら脂肪酸エステルや脂肪酸アミド等の滑剤を用いる方法では、ロール剥離性が向上するものの、ロールへの滑剤の蓄積や、高温高湿環境下での白化を招く場合があり、改善する余地があった。
【0005】
一方、シリコーン構造を主鎖に有する変性ポリカーボネートが知られている(特許文献3)。この変性ポリカーボネートは、高分子であるため揮散性は改善されるが、剥離性についてはかならずしも十分でなく改善の余地があった。
【0006】
また、分子末端にシリコーン構造を有する変性ポリカーボネート自体は知られている(特許文献4)が、屈折率や相溶性の異なるアクリル樹脂への応用事例はなく、透明性、滑性、環境安定性についての知見はなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−225018号
【特許文献2】特開2006−205478号
【特許文献3】特開平5−200827号
【特許文献4】特開平7−258398号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決し、アクリル樹脂シート製造時の成形用ロールからの剥離性を格段に向上しうるアクリル樹脂組成物を提供することにある。特に、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との多層シート製造時のアクリル樹脂の成形用ロールからの剥離性を向上させると共に、ロールへの滑剤蓄積が少なく(低ロール蓄積性)、かつ高温高湿環境下でも良好な外観が維持できる(環境安定性に優れた)アクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂の多層シート及びかかる多層シートを形成しうるアクリル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記問題解決のため、アクリル樹脂組成物に配合する新たな滑剤、特にポリカーボネート樹脂との積層用アクリル樹脂組成物に適した滑剤を探索し、鋭意検討を重ねた結果、特定の末端シリコーン変性ポリカーボネート樹脂が優れた離型性と高温高湿下での安定性、低ロール蓄積性を有する滑剤であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すアクリル樹脂組成物及びその製造方法、それからなる成形物と多層積層体並びにその製造方法に関する。
【0011】
1)
アクリル樹脂を主体とし、下記一般式(1)で表される末端基を有する末端変性ポリカーボネート樹脂を含有してなることを特徴とする、アクリル樹脂組成物。
【0012】
【化6】

【0013】
(式(1)中、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2〜R6は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R7〜R8は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。aは1〜1000の整数を表す。)
【0014】
2)
前記末端変性ポリカーボネート樹脂の含有量が0.1〜10重量%である、1)記載のアクリル樹脂組成物。
3)
前記末端変性ポリカーボネート樹脂の極限粘度が0.05〜1.5dl/gである、1)又は2)記載のアクリル樹脂組成物。
【0015】
4)
前記一般式(1)中のR2〜R6が、水素、メチル基、ブチル基又はフェニル基である、1)〜3)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
5)
前記一般式(1)中のR1が、炭素数1〜6のアルキレン基である、1)〜4)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【0016】
6)
前記一般式(1)中のaが4〜100である、1)〜5)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
7)
前記末端変性ポリカーボネート樹脂が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するものである、1)〜6)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【0017】
【化7】

【0018】
(式(2)中、R9〜R12は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基である。Xは下記式で表される二価の有機基からなる群から選択される基である。)
【0019】
【化8】

【0020】
(式中、R13〜R14は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数6〜12のアリール基を表すか、R13〜R14が一緒に結合して、炭素環または複素環を形成する基を表す。R15〜R18は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R19〜R20は炭素数1〜20のアルキレン基を表す。bは0〜20の整数、cは1から1000の整数を表す。)
【0021】
8)
前記一般式(2)で表される繰り返し単位が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ビフェニルジオール、又はα,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンから誘導されたものである、7)記載のアクリル樹脂組成物。
【0022】
9)
前記一般式(2)で表される繰り返し単位の平均重合度が7〜200である、7)又は8)記載のアクリル樹脂組成物。
10)
前記アクリル樹脂がアクリル酸類、アクリレート類、及びメタクリレート類からなる群から選択されるアクリル系モノマーを主成分とするモノマーから誘導されたものである、1)〜9)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【0023】
11)
前記アクリル樹脂がポリメチルメタクリレート共重合体である、10)記載のアクリル樹脂組成物。
12)
さらに脂肪酸アミド及び/または高級アルコールが配合されていることを特徴とする、1)〜11)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【0024】
13)
1)〜12)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物を成形して得られる成形物。
14)
フィルムまたはシート状成形物である、13)記載の成形物。
【0025】
15)
1)〜12)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物からなる層と、他の樹脂からなる層とを少なくとも含むことを特徴とする、多層積層体。
【0026】
16)
前記他の樹脂としてポリカーボネート樹脂を用い、前記アクリル樹脂組成物からなる層が該ポリカーボネート樹脂からなる層の片面又は両面に積層されたポリカーボネート樹脂積層体であることを特徴とする、15)記載の多層積層体。
【0027】
17)
さらに、ハードコート層を含むことを特徴とする、15)又は16)記載の多層積層体。
18)
1)〜12)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物を製造する方法であって、アクリル系モノマーと下記一般式(1)で表される末端基を有する末端変性ポリカーボネート樹脂とを混合した後、熱または光によって前記アクリル系モノマーを重合させる工程を含むことを特徴とする、アクリル樹脂組成物の製造方法。
【0028】
【化9】

【0029】
(式(1)中、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2〜R6は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R7〜R8は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。aは1〜1000の整数を表す。)
【0030】
19)
1)〜12)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物からなる層と、他の樹脂層とを少なくとも含む多層積層体の製造方法であって、前記他の樹脂層を形成する樹脂とアクリル樹脂組成物とを共押出成形することを特徴とする、多層積層体の製造方法。
【0031】
20)
1)〜12)のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物からなる層と、他の樹脂からなる層とを少なくとも含む多層積層体の製造方法であって、前記他の樹脂層上に、アクリル系モノマーと下記一般式(1)で表される末端基を有する末端変性ポリカーボネート樹脂との混合物を塗布した後、熱又は光によって前記混合物中のアクリル系モノマーを重合させる工程を含むことを特徴とする、多層積層体の製造方法。
【0032】
【化10】

【0033】
(式(1)中、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2〜R6は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R7〜R8は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。aは1〜1000の整数を表す。)
【発明の効果】
【0034】
本発明のアクリル樹脂組成物に配合される末端変性ポリカーボネート樹脂は、従来のアクリル樹脂用滑剤に比べ、高分子であるため揮散性が低い。また、主鎖にシリコーン構造を有する変性ポリカーボネートに比べ、末端にポリシロキサン基を有するためポリシロキサン基の自由度が高く樹脂表面における滑り性が予想外に良好となり、少量で優れた滑剤効果を得ることができる。
したがって、かかる末端変性ポリカーボネート樹脂を配合したアクリル樹脂組成物は、滑剤の揮散や多量使用によるロール汚れ(ロールへの滑剤の蓄積)や滑り性の低下を伴うことなく、優れたロール剥離性を発揮することができ、このアクリル樹脂組成物からなる成形物は、高温高湿環境下でも白化しにくく、かつ良好な滑り性を保持することができる。
【0035】
特に、ポリカーボネート樹脂と共押出により多層積層体に成形する場合、アクリル樹脂層のロール剥離性が向上すると共に、ロール付着物が著しく減少することから、本発明のアクリル樹脂組成物を用いたポリカーボネート樹脂積層体は、高温高湿環境下での白化がなく、良好な外観を保持する。よって、各種窓ガラス材、光学部材、LCDやEL表示用保護シート等の耐擦傷性と耐衝撃性が要求される分野に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明のアクリル樹脂組成物は、アクリル樹脂を主体とし、これに末端変性ポリカーボネート樹脂を含有してなるものである。
【0037】
(1)アクリル樹脂
本発明の樹脂組成物の主成分であるアクリル樹脂は、主にアクリル系モノマー(単量体)からなる樹脂であれば特に限定されない。具体的には、(メタ)アクリル酸類、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類等のアクリル系モノマーが挙げられる。
【0038】
(メタ)アクリル酸類としては、メタクリル酸及びアクリル酸が挙げられる。(メタ)アクリレート類としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等の、炭素1〜20のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等の炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルアクリレート類、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等のグリシジル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。(メタ)アクリルアミド類としては、メタクリルアミド及びアクリルアミドが挙げられる。
これらのアクリル系モノマーは単独で用いても複数同時に用いてもよい。中でも、メチルメタアクリレートが好ましい。
【0039】
上記アクリル系モノマーからなるアクリル樹脂としては、上記アクリル系モノマー一種のみからなる単独重合体であっても、アクリル系モノマーを複数組み合わせた共重合体であっても、あるいはアクリル系モノマーを主成分として50重量%未満の他のビニル系単量体との共重合体であってもよい。他のビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、ブタジエン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0040】
本発明で用いられるアクリル樹脂として好ましいものは、ポリメチルメタクリレートやメチルメタクリレートを主成分とする共重合体などであり、特に好ましいものはメチルメタクリレートを主成分とし、メタクリレートを共重合成分として組み合わせてなるメチルメタクリレート共重合体である。
【0041】
本発明で用いられるアクリル樹脂の分子量は特に限定されないが、加熱溶融して押出成形可能なものが好ましい。具体的には、ポリスチレン換算重量平均分子量が5万〜50万の範囲であるものが好ましく、7万〜30万のものがより好ましい。
【0042】
アクリル樹脂の製造方法は一般的に、乳化重合法、懸濁重合法、及び連続重合法に大別される。本発明に使用されるアクリル樹脂はいずれの重合法により製造された樹脂でも使用することができるが、好ましくは懸濁重合法や連続重合法で製造されたものであり、更に好ましくは、連続重合法により製造されたものである。そして、連続重合法は、連続塊状重合法と連続溶液重合法とに分けられるが、本発明においてはどちらの製法で得られたアクリル樹脂でも用いることができる。
【0043】
連続塊状重合法及び連続溶液重合法においては、重合助剤としての乳化剤や、懸濁分散剤のような添加剤は一切使用されておらず、ただ単に、重合を開始するための重合開始剤及び分子量を調節するための連鎖移動剤が添加されているに過ぎない。連続溶液重合法では、溶媒としてトルエン、エチルベンゼン、キシレン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができるがこれらに限定されるものではなく、重合反応をより有効に実施でき、得られたアクリル樹脂中に残存することがなければよい。
【0044】
重合開始剤としては、一般的なアゾ系重合開始剤、またはパーオキサイド系重合開始剤を選択することが可能である。例えば、アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などを、パーオキサイド系重合開始としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイドなどを例示することができるがこられに限定されるものではない。連鎖移動剤としては、メルカプタン類の使用が一般的であり、メルカプタン類としては、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
(2)末端変性ポリカーボネート樹脂
本発明で用いられる末端変性ポリカーボネート樹脂は、下記一般式(1)で表される末端ポリシロキサン構造を持つものである。
【0046】
【化11】

【0047】
上記式(1)中、R1は炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。具体的には、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基等が挙げられる。
【0048】
2〜R6は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。これらは各々同じでも異なっていても良い。炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などや、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基が挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、トリル基などが挙げられる。炭素数2〜10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。なかでも水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基及びフェニル基が好ましい。
【0049】
7〜R8は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜4)のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基及び炭素数7〜17(好ましくは炭素数7)のアラルキル基からなる群から選択される基を表す。これらR7〜R8は各々同じでも異なっていても良い。R7〜R8の特に好ましいものは、炭素数1〜9のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基である。より具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基等が挙げられ、特に好ましいものはメチル基、ブチル基又はフェニル基である。
【0050】
上記一般式(1)に含まれるポリシロキサン基については、具体的には、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリビニルメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等から誘導されるものが挙げられる。これらは2種類以上組み合わせて含まれていても良い。
【0051】
ポリシロキサン基の長さは、一般式(1)中の重合度aで表されている。aは1〜1000であり、好適には4〜100、さらに好ましくは6〜50である。十分なシロキサンによる滑り性の特性を得るためには、ある程度aが大きい方がよいが、aが1000を越えるようなものでは、後述するように末端変性ポリカーボネート樹脂の製造効率が低くなるため、あまり実用的ではない。また、重合度aはあくまで平均重合度であり、通常は重合度は分布をもって存在する。
【0052】
上記一般式(1)で表される末端基を有する本発明の末端変性ポリカーボネート樹脂の主鎖を形成するポリカーボネート樹脂は、一般的なポリカーボネート樹脂であれば特に限定されないが、好ましくは、下記一般式(2)で表される繰り返し単位(カーボネート単位)を有するものである。
【0053】
【化12】

【0054】
上記式(2)中、R9〜R12は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基である。R9〜R12として特に好ましいものは、水素又はメチル基である。
Xは下記式で表される二価の有機基からなる群から選択される基である。
【0055】
【化13】

【0056】
上記式中、R13〜R14は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基を表すか、R13〜R16が一緒に結合して、炭素環または複素環を形成する基を表す。
【0057】
上記式中、R15〜R18は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。これらは各々同じでも異なっていても良い。炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などや、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基が挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、トリル基などが挙げられる。炭素数2〜10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。なかでも水素原子、メチル基、ビニル基及びフェニル基が好ましい。
【0058】
19〜R20は炭素数1〜20、好ましく炭素数2〜8のアルキレン基を表し、具体的にはエチレン基、n−プロピレン基及びn−ブチレン基等である。bは0〜20の整数を表す。cは1から1000、好適には4〜100、さらに好ましくは6〜50の整数を表す。
【0059】
上記一般式(2)で表される繰り返し単位の特に好ましいものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ビフェニルジオール、又はα,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンから誘導される構成単位を挙げることができる。
【0060】
本発明で用いられる末端変性ポリカーボネート樹脂として好ましいものは、上記一般式(2)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネート樹脂であって、その末端が上記一般式(1)で表される構造となっているものである。より具体的には、下記一般式(2’)で表される構造を有するものである。なお、下記式(2’)中、R9〜R12及びX並びにnは、上記一般式(2)におけるのと同様の意味を表し、(A)は上記一般式(1)の末端基を表す。
【0061】
【化14】

【0062】
上記式(2’)中、n(平均重合度)は1以上の整数を表し、好ましくは平均で7〜200となる数であり、さらには平均で20〜100の範囲が好ましい。
末端変性ポリカーボネート樹脂の平均分子量は特に限定されないが、好ましくは、極限粘度[η]が0.05〜1.5[dl/g]の範囲のものが望ましい。極限粘度がこの範囲内であれば、アクリル樹脂と容易に混合添加でき、取り扱いやすい。極限粘度から粘度平均分子量(Mv)への換算は、極限粘度[η]=1.23×10-4Mv0.83で換算することが可能である。
【0063】
また、長時間連続成形時のロール汚れを考慮した場合、末端変性ポリカーボネート樹脂の1%加熱減量温度は230〜490℃が好ましく、280〜490℃が更に好ましい。末端変性ポリカーボネート樹脂の1%加熱減量温度が230℃未満では、成形中の揮発が多くなりロール剥離の効果が不安定になりやすい。
【0064】
本発明で用いられる末端変性ポリカーボネート樹脂を製造する方法は特に限定されないが、例えば特開平7―258398号に開示されている方法で製造することが可能である。具体的には、下記一般式(3)で表されるビスフェノール類と一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノールとを炭酸エステル形成性化合物と反応させて製造することができる。なお、下記式(3)中のR9〜R12及びXは、それぞれ一般式(2)中のR9〜R12及びXと同様の意味を表す。また、下記一般式(4)中、R1〜R8およびaはそれぞれ一般式(1)中のR1〜R8およびaと同様の意味を表す。
【0065】
【化15】

【0066】
【化16】

【0067】
上記一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノールは、公知のヒドロシリル化反応による製造法、例えば不飽和基を持つ一価フェノール(以下、「不飽和基含有一価フェノール」)に、片末端にSi−H基を有するポリシロキサン(以下、単に「ハイドロジェンポリシロキサン」)を白金触媒下で付加反応させる方法によって製造される。
【0068】
ポリシロキサン基含有一価フェノールの製造に用いられるハイドロジェンポリシロキサンとしては、片末端にSi−H基を有する、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリビニルメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。これらは2種類以上組み合わせて含まれていても良い。
【0069】
ハイドロジェンポリシロキサンの分子量は一般式(4)中の重合度aで表される。aは1〜1000であり、好適には4〜100、さらに好ましくは6〜50である。十分なシロキサンの特性を得るためにある程度aが大きい方がよいが、aが1000を越えるようなものでは、不飽和基含有一価フェノールとの反応性が劣り、あまり実用的ではない。また、ハイドロジェンポリシロキサンはポリマーでありポリマー鎖の短長混ざりあった混合物となることから、重合度aはあくまで平均重合度を表し、通常は重合度は分布をもって存在する。
【0070】
ハイドロジェンポリシロキサンと反応する不飽和基含有一価フェノールは、具体的には、p−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、o−アリルフェノール、p−アリルフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、2,6−ジメチル−4−アリルフェノール、4−(1−ブテニル)フェノール、4−(1−ペンタニル)フェノール、4−(1−ヘキサニル)フェノール、4−(1−オクタニル)フェノール、4−(1−デカニル)フェノール、4−(1−ドデカニル)フェノール、4−(1−テトラデカニル)フェノール、4−(1−ヘキサデカニル)フェノール、4−(1−ノナデカニル)フェノールなどが例示される。これらの化合物は2種類以上併用して使用することも可能である。これらのうちで、特に好ましいものはo−アリルフェノールである。
【0071】
ヒドロシリル化(ハイドロジェンポリシロキサンと不飽和基含有一価フェノールとの反応)に使用される触媒は均一系、不均一系のいずれでもよく、具体的には塩化白金酸などに代表される白金錯体、金属白金、オクタカルボニル2コバルト、パラジウム錯体、ロジウム錯体等が挙げられる。
【0072】
反応は、本発明に使用される不飽和基含有一価フェノールが溶解する溶媒中で行われる。具体的には、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、モノクロルベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化物、メチルエチルケトン、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ピリジン等を挙げることができるが、溶解性や触媒との相性により、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が望ましい。また、反応温度は60℃以上が好ましい。
【0073】
上記一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノールの具体例としては、以下の構造式を有する化合物が挙げられる。なお、下記構造式中、aは1〜1000の整数で、(a+d)≦1000である。
【0074】
【化17】

【0075】
上記ポリシロキサン基含有一価フェノールは、2種類以上併用して使用することも可能である。さらに、一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノール以外に、フェノールやp−t−ブチルフェノールなどのアルキル置換フェノール、パラヒドロキシフェニル安息香酸ブチルなどのアルキルエステル置換フェノール等の末端停止剤を併用することも可能であるが、重量比で一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノールの50%未満までに制限することが好ましい。
【0076】
上記一般式(3)で表されるビスフェノール類としては、具体的には4,4‘−ビフェニルジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1-ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA;BPA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−アリルフェニル)プロパン、3,3,5−トリメチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチル−5−t−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメブロモフェニル)プロパン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルジフェニルランダム共重合シロキサン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノールなどが例示される。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。
【0077】
これらの中でも特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ビフェニルジオール、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンから選ばれることが好ましい。
【0078】
炭酸エステル形成性化合物としては、例えばホスゲンや、ジフェニルカーボネート、ジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなどのビスアリルカーボネートが挙げられる。
【0079】
本発明で用いられる末端変性ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、ビスフェノールAからポリカーボネートを製造する際に用いられている公知の方法、例えばビスフェノール類とホスゲンとの直接反応(ホスゲン法)、あるいはビスフェノール類とビスアリールカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)などの方法を採用し、ビスフェノール類とポリシロキサン基含有一価フェノールとを炭酸エステル形成性化合物と反応させて製造することができる。
【0080】
ホスゲン法とエステル交換法では、一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノールの耐熱性やエステル交換率を考慮した場合、ホスゲン法の方が好ましい。またホスゲン法においては、前記ポリシロキサン基含有一価フェノールの反応性の観点から、該ポリシロキサン基含有一価フェノールは全ビスフェノールに対し80重量%以下の割合で使用することが好ましい。
【0081】
ホスゲン法においては、通常酸結合剤および溶媒の存在下において、一般式(3)で表されるビスフェノール類及び一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノールとホスゲンを反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、キシレンなどが用いられる。
【0082】
さらに、縮重合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を、また重合度を調節には、前記ポリシロキサン基含有一価フェノールが分子量調節剤としての役割を果たす。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノールなど分岐化剤を小量添加してもよい。
【0083】
反応は通常0〜150℃、好ましくは5〜40℃の範囲とするのが適当である。反応時間は反応温度によって左右されるが、通常0.5分〜20時間、好ましくは1分〜2時間である。また、反応中は、反応系のpHを10以上に保持することが望ましい。
【0084】
エステル交換法においては、前記一般式(3)で表されるビスフェノール類と一般式(4)で表されるポリシロキサン基含有一価フェノールとビスアリールカーボネートとを混合し、減圧下において高温で反応させる。反応温度は通常150〜350℃、好ましくは200〜300℃の範囲の温度において行われ、また減圧度は最終で好ましくは1mmHg以下にして、エステル交換反応により生成した該ビスアリールカーボネートから由来するフェノール類を系外へ留去させる。反応時間は反応温度や減圧度などによって左右されるが、通常1〜12時間程度である。反応は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、また、所望に応じ、酸化防止剤や分岐化剤を添加して反応を行ってもよい。
【0085】
これらの反応で合成された末端変性ポリカーボネート樹脂は、アクリル樹脂と容易に混合添加できるが、取り扱いやすい範囲として極限粘度[η]が0.05〜1.5[dl/g]の範囲のものが望ましい。極限粘度から粘度平均分子量(Mv)への換算は、極限粘度[η]=1.23×10-4Mv0.83で換算することが可能である。また、長時間連続成形時のロール汚れを考慮した場合、末端変性ポリカーボネート樹脂の1%加熱減量温度は230〜490℃が好ましく、280〜490℃が更に好ましい。末端シリコーン変性ポリカーボネート樹脂の1%加熱減量温度が230℃未満では、成形中の揮発が多くなりロール剥離の効果が不安定になりやすい。
【0086】
また、本発明の末端変性ポリカーボネート樹脂を合成する際には、ポリシロキサン基含有一価フェノールの不純物や重合時の未反応物等の存在により、必ずしもポリカーボネート末端全量(100%)が一般式(1)で表される末端基となる訳ではない。しかし、不純物の残量や反応率から考えると、少なくともポリカーボネート末端の80%以上が一般式(1)で表される末端基として存在し、さらに少なくとも末端に1つ以上のシロキサンを有するものは90%以上得られると考えられる。なおここで、一般式(1)で表される末端基以外の構造を有する末端としては、未反応のフェノール末端及びクロロホルメート末端が挙げられる。また、環状体を形成し末端が存在しないものもある。
【0087】
本発明の末端変性ポリカーボネート樹脂のシリコーン成分は、該末端変性ポリカーボネート樹脂全量に対して、Si元素として平均1〜50重量%含まれることが好ましく、さらには5〜40重量%含まれることが好ましい。主鎖にシリコーン構造を有するポリカーボネート樹脂を用いる場合など、末端以外にもSi元素が含まれる場合は、全Si元素分の内、末端シリコーン由来のSi元素分(末端Si元素分)が40重量%以上含まれることが好ましい。
【0088】
(3)アクリル樹脂組成物
本発明のアクリル樹脂組成物は、アクリル樹脂に末端変性ポリカーボネート樹脂を配合してなるものである。末端変性ポリカーボネート樹脂の配合量は、0.1〜10重量%が好適である。さらに、他樹脂と共押出成形する際の成形ロール剥離性の改善には、0.5〜5重量%が好ましい。添加量が0.1重量%未満の場合、剥離性や表面改質効果は不十分となり、10重量%を超えて配合した場合、透明性や外観が劣化する場合がある。
【0089】
また、本発明のアクリル樹脂組成物には、種々の要望に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤等の公知の添加剤を添加することが可能である。さらに、末端変性ポリカーボネート樹脂に加えて、他の滑剤を併用することもできる。特に、少量の脂肪酸アミド及び/又は高級アルコールを併用すると、さらに剥離性が向上する場合がある。併用可能な脂肪酸アミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等が挙げられ、高級アルコールとしてはステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ベヘニルアルコール、パルミチルアルコール等が挙げられる。
【0090】
このような他の滑剤を併用する場合は、アクリル樹脂組成物に対して0.05〜1.0重量%の範囲で使用することが好ましい。また、末端変性ポリカーボネート樹脂100重量部に対して1〜40重量部の割合で使用することが好ましい。
【0091】
(4)アクリル樹脂組成物の製造方法
本発明のアクリル樹脂組成物の製造方法としては、アクリル樹脂の単量体(アクリル系モノマー)に本発明の末端変性ポリカーボネート樹脂を混合したのち、該アクリル系モノマーを重合してアクリル樹脂とする方法と、アクリル樹脂に末端変性ポリカーボネート樹脂を添加する方法とが挙げられる。
【0092】
アクリル系モノマーに末端変性ポリカーボネート樹脂を混合したのち該アクリル系モノマーを重合する方法としては、具体的には、アクリル系モノマーに末端変性ポリカーボネートを溶解または分散させた状態で、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾフェノン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン等のラジカル開始剤を加え、さらに熱又は光を加えて重合(硬化)する方法が用いられる。重合方法としては懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合等が用いられる。熱による場合、加熱温度20〜160℃、加熱時間0.1〜24時間程度の条件とするのが好ましい。光による場合、波長200〜500nm、照射時間0.1〜30分程度の条件で行うのが好ましい。
【0093】
アクリル系モノマーと末端変性ポリカーボネート樹脂との混合方法は特に限定されないが、例えば円筒回転式ブレンダーや攪拌機による混合方法を採用することができる。また、アクリル系モノマーに架橋剤としてのジビニル化合物、例えばN,N’−メチレンビスアクリルアミドやエチレングリコールジメタクリレート等を添加してもよい。
【0094】
アクリル樹脂と末端変性ポリカーボネート樹脂とを混合する場合は、アクリル樹脂に末端変性ポリカーボネート樹脂及び必要に応じて用いられる他の添加剤を添加した後、公知の方法で混練する。混練は、回転容器型、固定容器型、ロール型等の混練機を用い、常温〜270℃の温度で、1〜120分程度の時間行うのが好ましい。
【0095】
他の樹脂層上にアクリル樹脂組成物層をハードコートとして後で積層する場合は、アクリル系モノマーと末端変性ポリカーボネート樹脂とを混合した後にアクリルモノマーを重合する方法が好ましい。一方、他の樹脂とアクリル樹脂組成物とを共押出で同時に層形成して多層積層体(多層シート)を成形する場合は、アクリル樹脂に末端変性ポリカーボネート樹脂を添加する方法が好ましい。
【0096】
本発明のアクリル樹脂組成物は、公知の成形方法により成形可能であり、湿式成形、圧縮成形、真空圧縮成形、押出成形、射出成形、インフレーション成形等に用いることができる。アクリル樹脂組成物単独で押出成形や射出成形する場合、成形物の厚みは0.1mm〜2cm程度が好ましいが、他樹脂と共押出等により多層成形する場合は、10〜100μm程度の厚みが好ましい。
【0097】
(5)成形物
本発明の成形物は、上述した本発明のアクリル樹脂組成物を成形して得られるものである。成形物を得るための成形方法は特に限定されず、湿式成形、圧縮成形、真空圧縮成形、押出成形、射出成形、インフレーション成形等を採用することができる。
【0098】
成形物の形状も特に制限はなく、用途に応じて様々な形状の成形物とすることができるが、本発明においてはフィルム又はシート状成形物が好ましい。
押出成形や射出成形によって得られるアクリル樹脂組成物単独の成形物、あるいは単層のフィルム又はシート状成形物の場合、該成形物の厚みは用途に応じて適宜設定することができるが、0.1mm〜2cm程度が好ましい。
なお、本発明の成形物としては、上述したフィルム又はシート状成形物以外では、例えば射出成形物、圧縮成形物、真空圧縮成形物、インフレーション成形物、注型成形物等が挙げられる
【0099】
(6)多層積層体
本発明のアクリル樹脂組成物は、他の樹脂と組み合わせて多層積層体を形成することができる。すなわち、本発明の多層積層体は、上述した本発明のアクリル樹脂組成物からなる層を少なくとも含むことを特徴とする。
【0100】
多層積層体の形成方法は特に限定されず、本発明のアクリル樹脂組成物と他の樹脂とを共押出により多層成形する方法、本発明のアクリル樹脂組成物をフィルム又はシート状に成形し、次いで他の樹脂からなるフィルム又はシート状成形物と積層する方法、他の樹脂からなるフィルム又はシート状成形物上にアクリル樹脂組成物を押出成形する方法、他の樹脂からなるフィルム又はシート状成形物上にアクリル系モノマーを塗布した後、熱又は光照射による硬化によってアクリル樹脂組成物層を形成させる方法等が挙げられる。特に好ましい方法は共押出成形である。
【0101】
アクリル樹脂組成物と他の樹脂との多層積層体の場合、アクリル樹脂組成物層の厚みは用途に応じて適宜設定することができるが、好ましくは10〜100μm程度であり、より好ましくは15〜80μm程度である。また、他の樹脂層との厚みの比率としては、好ましくはアクリル樹脂組成物層:他の樹脂層=1:1〜1:200程度である。
【0102】
本発明のアクリル樹脂組成物と他の樹脂とを共押出により多層成形する場合においては、積層体の数、組み合わせ及び積層順序等について特に制限はないが、少なくとも本発明のアクリル樹脂組成物層が多層積層体の最表面層(スキン層)を形成するのが好ましい。
【0103】
本発明において、アクリル樹脂組成物と多層積層体を形成しうる他の樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリスチレン、ABS、MS、AS、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、PTFE、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、TPX、ポリシクロオレフィン、ポリビニルアダマンタン等が挙げられるが、中でも透明性と耐衝撃性に優れたポリカーボネートとの組み合わせが好適である。
【0104】
本発明の多層積層体の製造方法を、共押出による多層シート製造工程の具体例としてポリカーボネート樹脂を基材にする場合を例に以下に記す。
多層シートの製造に用いられる押出装置としては、基板層を構成するポリカーボネート樹脂を押出す一つのメイン押出機と、基板層の片面あるいは両面を被覆するアクリル樹脂組成物を押出す1台または2台のサブ押出機により構成され、通常サブ押出機はメイン押出機より小型のものが採用される。
【0105】
メイン押出機の温度条件は、通常230〜290℃、好ましくは240〜280℃であり、またサブ押出機の温度条件は通常220〜270℃、好ましくは230〜260℃である。
【0106】
2種以上の溶融樹脂を被覆する方法としては、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式などの公知の方法を用いることができる。この場合、フィードブロックで積層された溶融樹脂はTダイなどのシート成形ダイに導かれ、シート状に成形された後、表面を鏡面処理された成形ロール(ポリッシングロール)に流入して、バンクを形成する。このシート状成形物は、成形ロール通過中に鏡面仕上げと冷却が行われ、積層体が形成される。
【0107】
また、マルチマニホールドダイの場合は、該ダイ内で積層された溶融樹脂は同様にダイ内部でシート状に成形された後、成形ロールにて表面仕上げおよび冷却が行われ、積層体が形成される。ダイの温度としては、通常250〜320℃、好ましくは270〜300℃であり、成形ロール温度としては、通常100〜190℃、好ましくは110〜180℃ある。ロールは縦型ロールまたは、横型ロールを適宜使用することができる。
【0108】
また、アクリル樹脂組成物中の微細異物を除去するために、サブ押出機のTダイの前に目開き10μmのポリマーフィルターを設置することも本発明の好ましい実施形態の1つである。また、サブ押出機の清浄度が確保されている場合には、ペレット化工程に目開き10μmのポリマーフィルターを設置することも本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0109】
上述した本発明の多層積層体には、さらにハードコート層を設けることができる。ハードコート層は、多層積層体の最表面に設けられる。したがって、ハードコートは、好ましくは本発明のアクリル樹脂組成物層の表面に施される。
【0110】
アクリル樹脂組成物層に施すハードコート処理は、耐擦傷性を向上させるために熱硬化あるいは活性エネルギー線によって硬化したハードコート層を積層するものである。活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能のアクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物に硬化触媒として光重合開始剤が加えられた樹脂組成物が挙げられる。熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。このような樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すれば良い。
【0111】
これらの塗料には、必要に応じて、有機溶剤の他、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種安定剤やレベリング剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、防曇剤などの界面活性剤等を適宜添加してもよい。
【0112】
また、積層体の共押出していないポリカーボネート樹脂面に施すハードコート処理は、耐擦傷性を向上させるために施され、活性エネルギー線によって硬化したハードコート層を積層する。活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能のアクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物に硬化触媒として光重合開始剤が加えられた樹脂組成物が挙げられる。熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂用ハードコート剤として市販されており、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すれば良い。
【0113】
これらの塗料には、必要に応じて、有機溶剤の他、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種安定剤やレベリング剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、防曇剤などの界面活性剤等を適宜添加してもよい。
【0114】
アクリル樹脂組成物層に活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、重量平均分子量300以下の2官能の(メタ)アクリレート系化合物2〜80重量%と共重合可能な6官能ウレタンアクリレートオリゴマー20〜98重量%とからなる光重合性組成物(A)100重量部に対し、光重合開始剤(B)を1〜10重量部添加したものが挙げられる。
【0115】
分子量300以下の2官能の(メタ)アクリレート系化合物の具体例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングルコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−(2‘−ビニロキシエトキシ)エチル、1,4−ブタンジオールジアクリレート、などが例示できる。
【0116】
また、6官能ウレタンアクリレートオリゴマーの具体例としては、商品名「EB−220」(ダイセルサイテック社製)、商品名「UN−3320HC」(根上工業製)、商品名「UN−3320HA」(根上工業製)、商品名「UV−7600B」(日本合成化学社製)、商品名「UV−7640B」(日本合成化学社製)、などが例示できる。
【0117】
光重合開始剤(B)の具体例としては、一般に知られているものが使用できる。具体的には、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。
【0118】
アクリル樹脂層に熱硬化型樹脂塗料を用いて硬化させる具体例として、(i)、(ii)及び(iii)を配合した組成物が挙げられる。
(i)式「R1Si(OR23」(式中、R1は置換基または非置換の一価の炭化水素基、R2はアルキル基を表す。)で示されるオルガノトリアルコキシシ
ラン(C);1〜98重量部
(ii)無水ケイ酸含有量が10〜50重量%で、粒径が4〜20nmのコロイダ
ルシリカ(D)溶液50〜100重量部からなる組成物;1〜98重量部
(iii)アミンカルボキシレート及び/又は第4級アンモニウムカルボキシレート
(E);1.0〜5.0重量部
【0119】
前記オルガノトリアルコキシシラン(C)中のR1は、好ましくは炭素数1〜8の置換基又は非置換の一価の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基などのアルキル基、その他γ−クロロプロピル基、ビニル基、3,3,3−トリフロロプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、フェニル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基などが挙げられる。
また、前記オルガノトリアルコキシシラン(C)中のR2は、炭素数1〜5のアルキル基あり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
【0120】
これらのオルガノトリアルコキシシラン(C)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができ、好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランである。
【0121】
上記組成物を構成するコロイダルシリカ(D)には無水ケイ酸が10〜50重量%含有されており、かつコロイダルシリカの平均粒径は4〜20nmである。このようなコロイダルシリカ(D)の分散剤は、水または有機溶媒、さらに親水性有機溶媒(たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体;ジアセトンアルコール等)の少なくとも1種と水との混合溶媒を用いることができる。これらの水系溶媒の中でも、水または水−メタノール混合溶媒が、分散安定性と、塗布後の分散媒の乾燥性の点で好ましい。
【0122】
コロイダルシリカを塩基性水溶液中で分散させた商品としては、商品名「スノーテックス30」、「スノーテックス40」(いずれも日産化学工業(株)製)、商品名「カタロイドS30」、「カタロイドS40」(いずれも触媒化成工業(株)製)、酸性水溶液中で分散させた商品として商品名「スノーテックスO」(日産化学工業(株)製)、有機溶剤に分散させた商品として商品名「MA−ST」、「IPA−ST」、「NBA−ST」、「IBA−ST」、「EG−ST」、「XBA−ST」、「NPC−ST」、「DMAC−ST」(いずれも日産化学工業(株)製)等がある。
【0123】
アミンカルボキシレート及び/又は第4級アンモニウムカルボキシレート(E)としては、ジメチルアミンアセテート、エタノールアミンアセテート、ジメチルアニリンホルメート、テトラエチルアンモニウムベンゾエート、トリメチルベンジルアンモニウムアセテート、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラ−n−ブチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムアセテート、2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムアセテートなどを挙げることができる。
【0124】
アクリル樹脂が共押出されていないPC層に活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1,9−ノナンジオールジアクリレート(b1)20〜60重量%と、前記(b1)と共重合可能な他の化合物(b2)40〜80重量%とからなる光重合性組成物(F)100重量部に対し、光重合開始剤(G)を1〜10重量部添加してなる紫外線硬化型樹脂被覆用組成物が挙げられる。
【0125】
(b1)と共重合可能な他の化合物(b2)としては、2官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(以下、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーという)、2官能以上の多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー(以下、多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーという)、2官能以上の多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー(以下、多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーという)などが挙げられる。(メタ)アクリレートモノマー及びオリゴマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0126】
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマ−が挙げられる。
2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ハロゲン置換アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、脂肪酸ポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAまたはビスフェノールFのアルキレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート類、ビスフェノールAまたはビスフェノールFのエポキシジ(メタ)アクリレート類等が代表的なものであるが、これらに限定されるものではなく種々のものが使用できる。
【0127】
2官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロリレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0128】
3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物トリアクリレート、グリセリンプロピレンオキシド付加物トリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0129】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとポリイソシアネートとのウレタン化反応生成物等が挙げられる。多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオール類をポリイソシアネートと反応させて得られるイソシアネート化合物と1分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとのウレタン化反応生成物が挙げられる。
【0130】
ウレタン化反応に用いられる1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基および水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0131】
ウレタン化反応に用いられるポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、これらジイソシアネートのうち芳香族のイソシアネート類を水素添加して得られるジイソシアネート(例えば水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチレントリフェニルトリイソシアネートなどのジまたはトリのポリイソシアネート、あるいはジイソシアネートを多量化させて得られるポリイソシアネートが挙げられる。
【0132】
ウレタン化反応に用いられるポリオール類としては、一般的に芳香族、脂肪族および脂環式のポリオールのほか、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が使用される。通常、脂肪族および脂環式のポリオールとしては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジメチロールヘプタン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブチリオン酸、グリセリン、水添ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0133】
ポリエステルポリオールとしては、前記のポリオール類と多塩基性カルボン酸(無水物)との脱水縮合反応により得られるものである。多塩基性カルボン酸の具体的な化合物としては(無水)コハク酸、アジピン酸、(無水)マレイン酸、(無水)トリメリット酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また、ポリエーテルポリオールとしてはポリアルキレングリコールのほか、前記ポリオールまたはフェノール類とアルキレンオキサイドとの反応により得られるポリオキシアルキレン変性ポリオールが挙げられる。
【0134】
また、多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーは、(メタ)アクリル酸、多塩基性カルボン酸(無水物)およびポリオールの脱水縮合反応により得られる。脱水縮合反応に用いられる多塩基性カルボン酸(無水物)としては(無水)コハク酸、アジピン酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また、脱水縮合反応に用いられるポリオールとしては1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールヘプタン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブチリオン酸、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0135】
多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との付加反応により得られる。ポリグリシジルエーテルとしては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0136】
本発明に使用される光重合開始剤としては、一般に知られているものが使用できる。具体的には、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド等が挙げられるがこの限りではない。
【0137】
本発明に係るアクリル樹脂組成物層上および共押出していないポリカーボネート樹脂層に塗料を塗布する方法は、刷毛、ロール、ディッピング、流し塗り、スプレー、ロールコーター、フローコーターや特開2004−130540号公報に提案された方法などが適用できる。熱硬化あるいは活性エネルギー線によって硬化したハードコート層の厚さは1〜20μm、好ましくは2〜15μm、さらに好ましくは3〜12μmである。ハードコート層の厚さが1μm未満であると表面硬度の改良効果が不十分になりやすく、逆に20μmを超えても表面硬度の改良効果は更には向上し難く、コスト的に不利で、耐衝撃性の低下を招くこともある。
【0138】
アクリル樹脂が20〜120μmで積層されていない面、すなわち製品として使用する際の内面側のハードコートは20MPaの応力下でクラックが発生しないことが望ましい。
20MPa以下の応力でクラックが発生すると製品として使用したときに内面にクラックが発生し、使用に耐えないことがある。
【0139】
ハードコートには反射防止層を設けることができる。反射防止層としては、高屈折率層と低屈折率層とが、低屈折率層が最表面となるように2層又はそれ以上積層してなるものが好ましい。高屈折率層を構成する材料としては特に限定されず、例えば、TiO2、Y23、La23、ZrO2、Al23等の金属酸化物が挙げられる。
また、低屈折率層を形成する材料としては特に限定されず、例えば、SiO2、MgF2、LiF、3NaF・AIF3、AIF3、Na3AIF6等の金属酸化物又は金属フッ化物が挙げられる。
【0140】
反射 防止層の厚さとしては、反射 防止層の設計にもよるが、通常、下限が10nm、上限が300nmの範囲で使用されることが多い。
【0141】
反射 防止層をハードコート 層上へ形成する方法としては特に限定されず、例えば、スパッタリング、蒸着、プラズマCVD、塗工等の公知の方法を用いることができる。
【0142】
(7)ポリカーボネート樹脂積層体
本発明のアクリル樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂との多層積層体とすることができる。かかる多層積層体(ポリカーボネート樹脂積層体)においては、本発明のアクリル樹脂組成物層は、ポリカーボネート樹脂層の片面又は両面に設けられる。
【0143】
このようなポリカーボネート樹脂積層体は、本発明のアクリル樹脂組成物とポリカーボネート樹脂との共押出による多層成形によって製造するのが好ましい。
【0144】
ポリカーボネート樹脂積層体におけるアクリル樹脂組成物層(スキン層)の膜厚は、10〜100μmが好ましく、より好ましくは15〜80μm、更に好ましくは20〜70μmである。10μm未満では積層界面の乱れにより透明性や外観が損なわれ、100μmを超えるとポリカーボネート樹脂層の耐衝撃性を著しく低下させる場合があり、さらには経済性においても不利である。
【0145】
本発明の多層シート(ポリカーボネート樹脂積層体)の基材として使用可能なポリカーボネート樹脂としては、上述したポリカーボネート樹脂の公知の製造法で得られるものであれば特に制限はなく、炭酸エステル形成化合物と二価フェノール(ビスフェノール類)とを反応させたものが挙げられる。
【0146】
ビスフェノール類としては、4,4‘−ビフェニルジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1-ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA;BPA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−アリルフェニル)プロパン、3,3,5−トリメチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチル−5−t−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメブロモフェニル)プロパン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルジフェニルランダム共重合シロキサン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノールなどが例示される。
【0147】
これらは、2種類以上併用して用いてもよい。これらの中でも特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されたポリカーボネート樹脂を基材に用いることが好ましい。
【0148】
本発明の多層積層体(ポリカーボネート樹脂積層体)の基材であるポリカーボネート樹脂の分子量は、通常、粘度平均分子量が15,000〜40,000、より好ましくは18,000〜30,000のものである。ポリカーボネート樹脂には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良い。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、難燃剤、着色剤などが挙げられる。
【0149】
ポリカーボネート樹脂層の厚さは、薄肉・軽量化、打ち抜き加工性などが求められる本発明に関わる用途には0.04〜2.0mmが好適である。ポリカーボネート樹脂層の厚さが0.04mm未満では成形に必要な最小限の強度が不足するため共押出によるポリカーボネート樹脂積層体の製造が困難である。2.0mmを超える場合には、従来の滑剤を使用したアクリル樹脂組成物でも成形条件の最適化によって充分なロール剥離性を持たせることが可能であるため、本発明のアクリル樹脂組成物の必要性が少なくなる。当然のことながら、2.0mmを超える厚みであっても本発明のアクリル樹脂組成物の使用は可能である。
【実施例】
【0150】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、特に断らない限り、以下に記す「%」は「重量%」を意味する。
【0151】
(合成例1)
特開平7―258398号の実施例1と同様に末端変性ポリカーボネート樹脂を合成した。具体的には、8.0%(w/w%)の水酸化ナトリウム水溶液8リットルに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下BPAと略称:三井化学株式会社製)912gとハイドロサルファイト5gを加え溶解した。これに、メチレンクロライド3.6リットルを加え攪拌し、溶液温度を15℃に保ちつつ、ホスゲン500gを60分かけて吹き込んだ。吹き込み終了後、下記構造
【0152】
【化18】

【0153】
のポリシロキサン一価フェノール(以下S1と略称:信越化学工業株式会社製)を608g添加し、激しく攪拌して、反応液を乳化させ、乳化後5ミリリットルのトリエチルアミンを加え、約1時間攪拌し重合させた。
【0154】
重合液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液のpHを中性になるまで水洗を繰り返した後、有機層を60℃の温水に滴下して、重合物を沈澱させた。沈澱物を濾過後、乾燥して粉末状重合体を得た。
この重合体は、塩化メチレンを溶媒とする濃度0.5g/dlの溶液の温度20℃における極限粘度[η]が0.42[dl/g]であった。
【0155】
得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1770cm-1の位置にカルボニル基による吸収、1240cm-1の位置にエーテル結合による吸収が認められ、カーボネート結合を有することが確認された。また、3650〜3200cm-1の位置に水酸基由来の吸収はほとんど認められなかった。しかも、1100〜1020cm-1のシロキサン由来のピークも確認された。また、蛍光X線分析(Cr管球)により、この重合体中にはシリコン(Si)元素が含まれていることが確認された。よって、この重合体は下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この分析の結果、この重合体中の末端Si元素分の割合は、重合体全量に対し13.4重量%であった。
【0156】
【化19】

【0157】
(合成例2)
合成例1のポリシロキサン一価フェノールの代わりに、下記構造
【0158】
【化20】

【0159】
のポリシロキサン含有一価フェノール(以下S2と略称:信越化学工業株式会社製)608gを用いた以外は、合成例1と同様に行った。得られた重合体の極限粘度[η]は0.22[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中の末端Si元素分の割合は、重合体全量に対し13.0重量%であった。
【0160】
【化21】

【0161】
(合成例3)
BPA912gの代わりに、BPA912gと下記構造の
【0162】
【化22】

【0163】
α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製)152gに変更し、さらにS2を456gに変更した以外は合成例2と同様に行った。得られた重合体の極限粘度[η]は0.33[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中のSi元素分の割合は、重合体全量に対し12.9重量%であった。
【0164】
【化23】

【0165】
(合成例4)
S2を304gに変更し、下記構造の
【0166】
【化24】

【0167】
ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製)152gをS2と同時に添加した以外は合成例3と同様に行った。得られた重合体混合物の極限粘度[η]は0.33[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は合成例3と同様な構造を有するポリカーボネート重合体混合物と判断された。なお、この重合体中のSi元素分の割合は、重合体全量に対し13.1重量%であった。
【0168】
(合成例5)
BPAを1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(本州化学工業株式会社製)に変更した以外は合成例1と同様に行った。得られた重合体の極限粘度[η]は0.40[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は、下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中の末端Si元素分の割合は、重合体全量に対し13.5重量%であった。
【0169】
【化25】

【0170】
(合成例6)
BPAを2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(株式会社エーピーアイコーポレーション製)に変更した以外は合成例1と同様に行った。得られた重合体の極限粘度[η]は0.43[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は、下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中の末端Si元素分の割合は、重合体全量に対し13.5重量%であった。
【0171】
【化26】

【0172】
(合成例7)
BPA912gの代わりに、BPA775gと4,4’−ビフェニルジオール(本州化学工業株式会社製)137gに変更した以外は合成例1と同様に行った。得られた重合体の極限粘度[η]は0.42[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は、下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中の末端Si元素分の割合は、重合体全量に対し13.3重量%であった。
【0173】
【化27】

【0174】
(合成例8)
BPA912gの代わりに、BPA638gとビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(三光株式会社製)274gに変更した以外は合成例1と同様に行った。得られた重合体の極限粘度[η]は0.42[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は、下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中の末端Si元素分の割合は、重合体全量に対し13.3重量%であった。
【0175】
【化28】

【0176】
(合成例9)
合成例1のポリシロキサン一価フェノールの代わりに、下記構造
【0177】
【化29】

【0178】
のポリシロキサン含有一価フェノール(以下S3と略称:信越化学工業株式会社製)608gを用いた以外は、合成例1と同様に行った 。得られた重合体の極限粘度[η]は0.17[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中の末端Si元素分の割合は、重合体全量に対し11.6重量%であった。
【0179】
【化30】

【0180】
(合成例10)
α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンを608g、S1の代わりにp−t−ブチルフェノール28g(大日本インキ化学工業株式会社製)用いた以外は、合成例3と同様に行った。得られた重合体の極限粘度[η]は0.43[dl/g]であった。赤外吸収スペクトル分析および蛍光X線分析より、この重合体は下記構造を有するポリカーボネート重合体と判断された。なお、この重合体中のSi元素分の割合は、重合体全量に対し11.9重量%であった。
【0181】
【化31】

【0182】
本合成例で得た末端シリコーン変性ポリカーボネートを用いた実施例で行った評価及び試験方法を以下に示す。
【0183】
1)ロール汚れ評価:1番ロールへの滑剤蓄積の程度を目視で評価した。
○:8時間多層シートを製造中にロール汚れによるシート外観不良が発生せず。
△:1時間多層シートを製造中にロール汚れによるシート外観不良が発生せず、かつ
8時間多層シートを製造中にロール汚れによるシート外観不良が発生した。
×:1時間多層シートを製造中にロール汚れによるシート外観不良が発生した。
【0184】
2)高温高湿試験
実施例、比較例で得られたシートを80℃、85%RH下で、200時間保持した場合のアクリル層の白濁度合いを厚み方向から目視で判定した。
○:白濁観察できず。
△:わずかに白濁が認められる。
×:明らかに白濁が確認できる。
【0185】
3)剥離性評価:8時間連続成形した時の3番ポリッシングロールでの剥離位置の安定性を評価した。
○:非常に安定しており、8時間連続成形しても剥離位置に変化がない。
△:8時間連続成形すると剥離位置が下がり不安定となるため、剥離位置の変動に起因する外観不良(剥離マーク)が発生した。
×:8時間連続成形中に剥離位置が下がり、シートが第3ポリッシングロールに巻きつ
いて停止した。
【0186】
4)表面滑り性評価:多層シートのアクリル樹脂表面をメタノールを含んだ綿棒で軽く拭いた後、静摩擦係数を新東科学株式会社製ミューズ94iIIで測定、評価した。
【0187】
5)撥水性評価:多層シートのアクリル樹脂表面をメタノールを含んだ綿棒で軽く拭いた後、風乾し、純水にて接触角を測定し評価した。
【0188】
実施例および比較例で用いた滑剤、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂を以下に示す。
【0189】
1)滑剤
SPC1:合成例1の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC2:合成例2の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC3:合成例3の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC4:合成例4の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC5:合成例5の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC6:合成例6の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC7:合成例7の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC8:合成例8の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC9:合成例9の末端シリコーン変性ポリカーボネート
SPC10:合成例10の主鎖シリコーン変性ポリカーボネート
滑剤A:エチレンビスステアリン酸アミド(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアマイドWEF)。
滑剤B:ステアリン酸モノグリセライド:(キシダ化学(株)製)
滑剤C:シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、商品名KF−96−30cs)
滑剤D:ステアリルアルコール(和光純薬工業株式会社製)
【0190】
2)ポリカーボネート樹脂
三菱ガス化学社製、商品名「ユーピロンE−2000」(粘度平均分子量;27,000、ビスフェノール類の種類;ビスフェノールA、なお「ユーピロン」は登録商標)を使用した。
【0191】
3)アクリル樹脂
アルケマ社製、Altuglas V020(ポリメチルメタクリレート;重量平均分子量100,000)を使用した。また、滑剤とアクリル樹脂は押出前にブレンドしたものを用いた。
【0192】
<実施例1〜11および比較例1〜7>
ポリカーボネート樹脂用押出機は、バレル直径65mm、スクリュウのL/D=35で、シリンダー温度270℃に設定した。また、ポリカーボネート樹脂の両面に被覆層を形成するためのアクリル樹脂組成物用押出機は、バレル直径32mm、スクリュウのL/D=32で、シリンダー温度250℃に設定した。2種類の樹脂を同時に溶融押出し、積層する際にはフィードブロックを使用し、ポリカーボネート樹脂の両面にアクリル樹脂組成物からなる被覆層を積層した。
【0193】
ダイヘッド内温度は260℃とし、ダイ内で積層一体化された樹脂は、水平に配置された3本の鏡面仕上げポリッシングロールに導かれ、1番ロール温度110℃、2番ロール温度140℃、3番ロール温度180℃に設定した。最初に流入するロール間隔にて、バンクを形成した後、2番、3番ロールを通過させた。1番ロール及び2番ロールの引き取り速度は2.5m/分、3番ロールの引き取り速度は2.6m/分、引き取り用ピンチロール速度2.7m/分とした。
【0194】
得られた多層シートは、厚さ0.5mm、アクリル樹脂組成物からなる被覆層は両面とも20μmであった。多層シートの各種評価結果を表1に示した。また、実施例1〜11と比較例1〜7のアクリル樹脂組成物に配合した滑剤の配合率は表1に示した。表1から、本発明のアクリル樹脂組成物/ポリカーボネート樹脂多層シートは剥離性、耐高温高湿性、表面滑り性に優れていることが明らかである。
【0195】
<実施例12〜13および比較例8〜9>
メタクリル酸メチル(三菱ガス化学株式会社製)99重量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ダイセル・サイテック株式会社製)0.5重量部、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(イルガキュア907:チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)0.5重量部を混ぜた混合液に、さらに本発明中の滑剤を添加した混合液を、0.5mm厚(縦30cm×横30cm)のポリカーボネート樹脂シート(三菱ガス化学株式会社製)の表面に、バーコーターにて約20μm厚(縦20cm×横20cm)で塗布した。塗布後、表面を80W/cmの照射エネルギーを持つメタルハライドランプ(MAL−250NL;日本電池株式会社製)でUV照射を30秒間行い、硬化させた。なお実施例12〜13と比較例8〜9のメタクリル酸メチル混合液に配合した滑剤の配合率は表2に示した。表2から、本発明のアクリル樹脂組成物/ポリカーボネート樹脂多層シートは表面滑り性、撥水性に優れていることが明らかである。
【0196】
【表1】

【0197】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明のアクリル樹脂組成物からなる成形物は、高温高湿環境下でも白化しにくく、かつ良好な滑り性を保持することができる。特に、ポリカーボネート樹脂との共押出による多層積層体とすることにより、アクリル樹脂層のロール剥離性が向上すると共に、ロール付着物が著しく減少することから、高温高湿環境下での白化がなく、良好な外観及び滑り性を保持しうる、生産性、環境安定性に優れた多層積層体が得られる。よって、このようにして得られる多層積層体は、各種窓ガラス材、光学部材、LCDやEL表示用保護シート等の耐擦傷性と耐衝撃性が要求される分野に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂を主体とし、下記一般式(1)で表される末端基を有する末端変性ポリカーボネート樹脂を含有してなることを特徴とする、アクリル樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2〜R6は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R7〜R8は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。aは1〜1000の整数を表す。)
【請求項2】
前記末端変性ポリカーボネート樹脂の含有量が0.1〜10重量%である、請求項1記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記末端変性ポリカーボネート樹脂の極限粘度が0.05〜1.5dl/gである、請求項1又は2記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のR2〜R6が、水素、メチル基、エチル基、ブチル基及びフェニル基である、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)中のR1が、炭素数1〜6のアルキレン基である、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)中のaが4〜100である、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項7】
前記末端変性ポリカーボネート樹脂が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するものである、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、R9〜R12は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基である。Xは下記式で表される二価の有機基からなる群から選択される基である。)
【化3】

(式中、R13〜R14は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数6〜12のアリール基を表すか、R13〜R14が一緒に結合して、炭素環または複素環を形成する基を表す。R15〜R18は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R19〜R20は炭素数1〜20のアルキレン基を表す。bは0〜20の整数、cは1から1000の整数を表す。)
【請求項8】
前記一般式(2)で表される繰り返し単位が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ビフェニルジオール、又はα,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンから誘導されたものである、請求項7記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項9】
前記一般式(2)で表される繰り返し単位の平均重合度が7〜200である、請求項7又は8記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項10】
前記アクリル樹脂がアクリル酸類、アクリレート類、及びメタクリレート類からなる群から選択されるアクリル系モノマーを主成分とするモノマーから誘導されたものである、請求項1〜9のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項11】
前記アクリル樹脂がポリメチルメタクリレート共重合体である、請求項10記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項12】
さらに脂肪酸アミド及び/または高級アルコールが配合されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物を成形して得られる成形物。
【請求項14】
フィルムまたはシート状成形物である、請求項13記載の成形物。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物からなる層と、他の樹脂からなる層とを少なくとも含むことを特徴とする、多層積層体。
【請求項16】
前記他の樹脂としてポリカーボネート樹脂を用い、前記アクリル樹脂組成物からなる層が該ポリカーボネート樹脂からなる層の片面又は両面に積層されたポリカーボネート樹脂積層体であることを特徴とする、請求項15記載の多層積層体。
【請求項17】
さらに、ハードコート層を含むことを特徴とする、請求項15又は16記載の多層積層体。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物を製造する方法であって、アクリル系モノマーと下記一般式(1)で表される末端基を有する末端変性ポリカーボネート樹脂とを混合した後、熱または光によって前記アクリル系モノマーを重合させる工程を含むことを特徴とする、アクリル樹脂組成物の製造方法。
【化4】

(式(1)中、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2〜R6は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R7〜R8は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。aは1〜1000の整数を表す。)
【請求項19】
請求項1〜12のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物からなる層と、他の樹脂層とを少なくとも含む多層積層体の製造方法であって、前記他の樹脂層を形成する樹脂とアクリル樹脂組成物とを共押出成形することを特徴とする、多層積層体の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜12のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物からなる層と、他の樹脂からなる層とを少なくとも含む多層積層体の製造方法であって、前記他の樹脂層上に、アクリル系モノマーと下記一般式(1)で表される末端基を有する末端変性ポリカーボネート樹脂との混合物を塗布した後、熱又は光によって前記混合物中のアクリル系モノマーを重合させる工程を含むことを特徴とする、多層積層体の製造方法。
【化5】

(式(1)中、R1は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、R2〜R6は水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数2〜10のアルケニル基を表す。R7〜R8は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。aは1〜1000の整数を表す。)

【公開番号】特開2009−221386(P2009−221386A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68605(P2008−68605)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(597003516)MGCフィルシート株式会社 (33)
【Fターム(参考)】