説明

アクリル系重合体とその製造方法ならびにアクリル樹脂組成物、位相差フィルムおよび画像表示装置

【課題】式(1)または(2)の構成単位と環構造を有しながら、異物の含有量が少ないアクリル系重合体を提供する。
【解決手段】式(1)または(2)の構成単位を有し、主鎖に環構造を有し、Tgが110℃以上であり、濃度15重量%のクロロホルム溶液としたときに、測定光透過距離が1cmの測定セルに収容、測定した溶液の濁度が2%以下のアクリル系重合体とする。R1-R4は水素または有機残基、R5はO1に結合する炭素が2または3級の有機残基、Arはアリール基。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系重合体とその製造方法に関する。また、本発明は、当該重合体を含むアクリル樹脂組成物および位相差フィルムと、当該位相差フィルムを備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系重合体は、高い透明性、表面光沢、耐候性を有するとともに、機械的強度、成形加工性、表面硬度などの諸特性のバランスに優れるため、光学材料として好適である。しかし、アクリル系重合体として代表的なポリメタクリル酸メチル(PMMA)を例にとれば、そのガラス転移温度は100℃前後であり、必ずしも耐熱性に優れるとはいえない。また、その延伸フィルムを位相差フィルムに用いようとしても、延伸による位相差の発現性が低いため、薄さと位相差との両立が困難である。
【0003】
アクリル系重合体における位相差の発現性および耐熱性を向上させる方法の一つに、主鎖への環構造の導入がある。特開2008-189886号公報では、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種の環構造が、アクリル系重合体の主鎖に導入されている。例えば主鎖へのラクトン環構造の導入によって、アクリル系重合体のガラス転移温度が上昇し、その耐熱性が向上する。また、導入量にもよるが、大きな正の位相差を示す位相差フィルムを実現できる。ラクトン環構造をはじめとするこれらの環構造は、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する前駆体(アクリル系高分子)に対して、脱アルコール環化縮合反応を進行させて形成できる。脱アルコール環化縮合反応は、前駆体の構成単位が有する、カルボキシル基またはヒドロキシ基とエステル基(カルボン酸エステル基)との反応、あるいは前駆体の構成単位が有する2つのエステル基(カルボン酸エステル基)と、反応系に加えられたイミド化剤との反応に基づく。前駆体の構成単位は、この反応によって上述した環構造が形成されるように、また、アクリル系重合体として望む組成に応じて、選択すればよい。特開2008-189886号公報にも記載されているが、脱アルコール環化縮合反応の触媒には主に有機リン化合物が使用される。
【0004】
ところで、主鎖への環構造の導入によって、アクリル系重合体の耐熱性および位相差の発現性が向上する一方で、分子鎖が剛直となることでその成形性ならびにフィルムとしたときの可撓性が低下する。特開2008-189886号公報には、ベンジルメタクリレート(BzMA)単位などの特定の構造を有する構成単位をさらに導入することにより、位相差性能を維持したまま、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体の成形性が向上することが記載されている。
【0005】
これとは別に、フィルムとしたときの可撓性を向上させるために、アクリル系重合体への弾性有機微粒子の添加が広く行われている。特開2008-242421号公報には、アクリル系重合体への弾性有機微粒子の添加について記載されているとともに、両者の屈折率差に起因してフィルムの透明性が低下する場合があること、BzMA単位などの特定の構造を有する構成単位のアクリル系重合体への導入によって、位相差性能を維持したまま両者の屈折率差が低減し、フィルムとしての透明性の低下が抑制されること、が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-189886号公報
【特許文献2】特開2008-242421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、主鎖に環構造を有するとともに、BzMA単位を有するアクリル系重合体とした場合、当該重合体から製造した成形体に異物が観察されることがある。異物は、アクリル系重合体を光学材料として用いる場合、特に光学フィルムとして用いる場合に光学的な欠点となるため、その含有量ができるだけ少ないことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討した結果、この異物は、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体であって、BzMA単位に限られず、以下の式(1)、(2)に示す構成単位を有するアクリル系重合体に特徴的に見られることがわかった。この点に着目し、本発明者らがさらに検討を続けたところ、主鎖に環構造を導入するための脱アルコール環化縮合反応に使用する触媒が鍵となっていることが判明した。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
式(1)、(2)において、R1〜R4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、R5は、酸素原子O1に結合する炭素原子が2級または3級である炭素数1〜20の有機残基であり、Arはアリール基である。
【0012】
主鎖に環構造を有するとともに、式(1)、(2)に示す構成単位を有するアクリル系重合体は、通常、導入したい環構造を形成可能な(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位と、式(1)または(2)に示す構成単位とを有する共重合体(前駆体であるアクリル系高分子)に対して、上述した脱アルコール環化縮合反応を進行させて形成する。その際に用いる触媒(主に有機リン化合物)が、異物形成の理由になっていると考えられる。本発明者らは、異物の形成に以下の反応機構を推定している。
【0013】
式(1)または(2)に示す構成単位はカルボン酸エステル単位であり、当該構成単位を有する、前駆体であるアクリル系高分子に対して脱アルコール環化縮合反応を進行させた場合、当該単位の一部が脱アルコール環化縮合反応を起こすことで、式ArCR2(R3)OHまたは式R5OHで示されるアルコールが生成する。例えば、アクリル系高分子が、式(1)に示す構成単位として以下の式(3)に示すベンジルメタクリレート(BzMA)単位を有するとき、以下の式(4)に示すベンジルアルコールが生成する。
【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
次に、生成したベンジルアルコールは、脱アルコール環化縮合反応の触媒である有機リン化合物から誘導されたリン酸ならびに反応系に加えられた熱によって、以下の式(5)に示す反応を経て、カルボカチオンの一種であるベンジルカチオンとなる。
【0017】
【化5】

【0018】
生成したベンジルカチオンは、未だ式(5)に示す反応を経ていないベンジルアルコールを攻撃し、求電子置換反応により、以下の式(6)に示すアルコール、即ち、ベンジルアルコールにさらにベンジル基(C65−CH2基)が付加したアルコールが生成する。このベンジルカチオンの生成ならびに生成したベンジルカチオンによる芳香環への求電子置換反応は、リン酸をルイス酸とする、フリーデル−クラフツ(Friedel-Crafts)アルキル化反応の変形であると考えられる。
【0019】
【化6】

【0020】
次に、生成した式(6)に示すアルコールに対しても、再びリン酸および熱による以下の式(7)に示す反応が生じ、新たなカルボカチオンが生じる。生成したカルボカチオンは、やはりベンジルアルコールを攻撃するため、ベンジルアルコールに対するベンジル基の付加が連鎖的に進行することとなる。これにより、連鎖的にベンジル基が付加した化合物が生じ、当該化合物の分子量がある程度以上になると上述した異物となる。
【0021】
【化7】

【0022】
ところで、カルボカチオンによる芳香環への求電子置換反応が進行するためには、当該カチオンの化学的安定性が非常に重要となる。式ArCR2(R3)OHまたは式R5OHで示されるアルコールから形成されたカルボカチオンは、ArC基(例えばベンジル基)が存在するために、あるいは基R5におけるカルボカチオンとなる炭素原子(カチオンとなる前のアルコール分子の状態において、ヒドロキシ基の酸素原子に結合している炭素原子)が2級または3級であるために、化学的安定性が高い。このため、式(1)または(2)に示す構成単位を前駆体であるアクリル系高分子が有する場合に、特徴的に上記異物が生じると考えられる。一方、特開2008-189886号公報に開示があるように、メチルメタクリレート(MMA)および2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)の共重合体(この共重合体は、式(1)または(2)に示す構成単位を有さない)に対する脱アルコール環化縮合反応の進行により、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体が形成されるが、MMA単位およびMHMA単位から熱によってアルコール(R6OH)が生成し、さらにルイス酸および熱によってカルボカチオンが形成されたとしても、基R6におけるカルボカチオンとなる炭素原子が1級であるために当該カチオンの化学的安定性が低く、芳香環への求電子置換反応がほとんど生じない、即ち、上記異物が発生しない、と考えられる。
【0023】
このような発明者らの検討に基づいて初めて実現された本発明のアクリル系重合体は、脱アルコール環化縮合反応時に特徴的に異物が発生する要因となる構成単位、即ち、以下の式(1)または(2)に示す構成単位を有するにも関わらず、含有する異物の量が少ない。具体的には、以下の式(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、環構造を主鎖に有し、ASTM−D−3418の規定に準拠して測定したガラス転移温度が110℃以上であり、濃度15重量%のクロロホルム溶液としたときに、測定光の透過距離が1cmである測定セルに収容して測定した当該溶液の濁度が2%以下である。
【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
式(1)、(2)におけるR1〜R4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、R5は、酸素原子O1に結合する炭素原子が2級または3級である炭素数1〜20の有機残基であり、Arはアリール基である。
【0027】
本発明のアクリル樹脂組成物は、本発明のアクリル系重合体を主成分とし、弾性有機微粒子を5重量%以上の含有率で含む。
【0028】
本発明の位相差フィルムは、本発明のアクリル系重合体を含む。
【0029】
本発明の画像表示装置は、本発明の位相差フィルムを備える。
【0030】
本発明のアクリル系重合体の製造方法は、以下の式(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体の製造方法であって、(I)前記アクリル系重合体の前駆体となる、前記(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、カルボキシル基またはヒドロキシ基とエステル基とを分子鎖に有するアクリル系高分子に対して、前記カルボキシル基またはヒドロキシ基と前記エステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させるか、または(II)前記アクリル系重合体の前駆体となる、前記(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、エステル基を分子鎖に有するアクリル系高分子に対して、2つの前記エステル基および反応系に加えたイミド化剤の間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、前記高分子の主鎖に前記環構造を形成して前記重合体とし、前記反応の進行に用いる触媒が亜鉛化合物である。
【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
式(1)、(2)におけるR1〜R4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、R5は、酸素原子O1に結合する炭素原子が2級または3級である炭素数1〜20の有機残基であり、Arはアリール基である。
【発明の効果】
【0034】
本発明のアクリル系重合体は、主鎖に環構造を有することで110℃以上の高いガラス転移温度を有し、耐熱性に優れる。また、本発明のアクリル系重合体は、式(1)または(2)に示す構成単位を有することで、例えば成形性、フィルムとしたときの可撓性に優れるなど、当該構成単位を有さないアクリル系重合体に対する特性の向上が可能となる。式(1)または(2)に示す構成単位は、主鎖に環構造を導入するための脱アルコール環化縮合反応時に特徴的に異物が発生する原因となるが、本発明のアクリル系重合体は、このような構成単位を有するにも関わらず、含有する異物の量が少ない。
【0035】
本発明のアクリル系重合体の製造方法では、前駆体であるアクリル系高分子の主鎖に環構造を形成してアクリル系重合体とするための脱アルコール環化縮合反応の触媒に、亜鉛化合物を使用する。これにより、上記特徴を有する本発明のアクリル系重合体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[アクリル系重合体]
本発明のアクリル系重合体は、以下の式(1)または(2)に示す構成単位を有する。
【0037】
【化12】

【0038】
【化13】

【0039】
式(1)または(2)に示す構成単位によって、当該構成単位を有さないアクリル系重合体に対して、その特性(例えば、成形性、フィルムとしたときの可撓性など)が向上する。一例として、本発明のアクリル系重合体がベンジルメタクリレート(BzMA)単位(式(1)においてR1がメチル基、R2、R3が水素原子であり、Arがフェニル基である構成単位)を有する場合、アクリル系重合体としての位相差発現性を維持したまま、その成形性およびフィルムとしたときの可撓性が向上する。また、この場合、当該アクリル系重合体の屈折率が上昇するため、当該重合体に弾性有機微粒子を添加したアクリル樹脂組成物とし、この組成物を成形体(典型的にはフィルム)とした場合においても、アクリル系重合体からなるマトリクスと弾性有機微粒子との間の屈折率差が低減することで、弾性有機微粒子による可撓性向上の恩恵を得ながら、その透明性を確保できる。
【0040】
アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する重合体であり、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸の誘導体に由来する構成単位、例えば後述する環構造、を有していてもよい。アクリル系重合体の全構成単位に占める、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位および上記誘導体に由来する構成単位の割合の合計は、通常50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。本発明のアクリル系重合体は、前駆体であるアクリル系重合体に対して脱アルコール環化縮合反応を進行させて得られるが、本明細書では、この前駆体であるアクリル系重合体を、本発明のアクリル系重合体と区別するために「アクリル系高分子」と呼ぶ。
【0041】
式(1)に示す構成単位におけるR1〜R3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0042】
1は、典型的には水素原子またはメチル基である。R1が水素原子のとき、式(1)に示す構成単位はアクリル酸エステル単位の一種となり、R1がメチル基のとき、式(1)に示す構成単位はメタクリル酸エステル単位の一種となる。
【0043】
2およびR3は、水素原子であることが好ましく、このような構成単位は化学的に安定である。
【0044】
式(1)に示す構成単位におけるArは、アリール基である。アリール基は、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、メトキシフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基であり、フェニル基、、メチルフェニル基が好ましい。
【0045】
式(1)に示す構成単位の具体的な例は、ベンジルメタクリレート単位、メチルベンジルメタクリレート単位、1−フェニルエチルメタクリレート単位、2−フェニルプロパン−2−イルメタクリレート単位であり、成形性およびフィルムとしたときの可撓性に優れるアクリル系重合体が得られることから、ベンジルメタクリレート単位が好ましい。なお、ベンジルメタクリレート単位は、R1がメチル基、R2およびR3が水素原子、Arがフェニル基である。
【0046】
式(2)に示す構成単位におけるR4は、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。有機残基は、例えば、式(1)における有機残基と同様の基である。R4は、典型的には水素原子またはメチル基である。
【0047】
式(2)に示す構成単位におけるR5は、酸素原子O1に結合する炭素原子が2級または3級である炭素数1〜20の有機残基である。このような有機残基は、例えばsec−ブチル基、シクロヘキシル基、t−ブチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、1−フェニルプロパン−2−イル基、4−フェニルブタン−2−イル基である。
【0048】
ところで、上述したように、アクリル系高分子の脱アルコール環化縮合反応時にカルボカチオンが形成されることが、異物形成の理由と推定される。その際、カルボカチオンの化学的安定性が高いほど、より多くの異物が形成されると考えられる。式(1)または(2)に示す構成単位から形成されるカルボカチオンの化学的安定性は、式(1)に示す構成単位から形成されるカルボカチオンが最も高く(カルボカチオンとなる炭素原子がAr基に結合しており、電荷が非局在化して共鳴状態となるため)、次いで、式(2)に示す構成単位において酸素原子O1に結合する炭素原子が3級である場合、最後に、式(2)に示す構成単位において酸素原子O1に結合する炭素原子が2級である場合である。なお、当該炭素原子が1級である場合、形成されるカルボカチオンの化学的安定性が非常に低く、異物が形成されるほど求電子置換反応が進行しないのは既に述べたとおりである。
【0049】
このため、本発明の効果は、前駆体であるアクリル系高分子が式(1)に示す構成単位を有する場合(環化縮合後も式(1)に示す構成単位の多数が残存するため、即ち、アクリル系重合体が式(1)に示す構成単位を有する場合)に、特に顕著となる。
【0050】
本発明のアクリル系重合体において、全構成単位に占める式(1)または(2)に示す構成単位の割合(アクリル系重合体における式(1)または(2)に示す構成単位の含有率)は特に限定されず、アクリル系重合体として望む特性に応じて調整すればよいが、例えば5〜50重量%であり、10〜30重量%が好ましい。
【0051】
本発明のアクリル系重合体は、主鎖に環構造を有する。これにより、本発明のアクリル系重合体は高いガラス転移温度(Tg)、具体的にはASTM−D−3418の規定に準拠して測定したときに110℃以上のTgを有し、耐熱性に優れる。このような高い耐熱性を有するアクリル系重合体を成形して得たフィルムは、例えば、液晶表示装置などの画像表示装置において、光源などの発熱部に近接した配置が可能である。
【0052】
本発明のアクリル系重合体のTgは、環構造の種類およびアクリル系重合体における環構造の含有率によっては、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。
【0053】
また、本発明のアクリル系重合体は、主鎖に環構造を有することにより、環構造の種類およびその含有率にもよるが、当該環構造がない場合に比べて成形体としたときの光学特性が向上している。
【0054】
環構造は、典型的には、アクリル系重合体の前駆体であるアクリル系高分子における脱アルコール環化縮合反応を経て形成された環構造である。このとき、前駆体であるアクリル系高分子は上記式(1)または(2)に示す構成単位を有する。
【0055】
脱アルコール環化縮合反応は、例えば、(i)カルボキシル基またはヒドロキシ基とエステル基とを分子鎖に有するアクリル系高分子における、当該カルボキシル基またはヒドロキシ基とエステル基との反応、または(ii)エステル基を分子鎖に有するアクリル系高分子における、2つの当該エステル基と当該反応の反応系に加えられたイミド化剤との反応である。ヒドロキシ基、カルボキシル基およびエステル基は、それぞれ、直接あるいはいくつかの原子を介してアクリル系高分子の主鎖に結合していればよい。
【0056】
(i)の反応の具体例は、(i−1)アクリル系高分子が構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル単位のエステル基と、同じく構成単位として有する(メタ)アクリル酸単位のカルボキシル基との間の反応、あるいは(i−2)アクリル系高分子が構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル単位のエステル基と、同じく構成単位として有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル単位の当該ヒドロキシ基との間の反応、である。(ii)の反応の具体例は、アクリル系高分子が構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル単位のエステル基が2つと、イミド化剤との反応である。なお、これらの反応は、通常、主鎖上で隣り合う構成単位間で生じる。
【0057】
環構造の具体例は、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも一種である。波長分散性など、光学的特性の制御の自由度が高い成形体が得られることから、環構造は、ラクトン環構造および無水グルタル酸構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。
【0058】
ラクトン環構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(8)に示す構造である。
【0059】
【化14】

【0060】
式(8)におけるR7、R8およびR9は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基と同様の基である。
【0061】
式(8)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)単位と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)単位とを有するアクリル系高分子に対して、脱アルコール環化縮合反応を進行させて形成できる。このときの環化縮合反応は、上記(i−2)の反応であり、形成したラクトン環構造のR7はH、R8はCH3、R9はCH3となる。なお、前駆体であるアクリル系高分子が有する式(1)または(2)に示す構成単位の一部とMHMA単位との間にも脱アルコール環化縮合反応が進行し、式(8)に示すラクトン環構造が形成される。
【0062】
式(8)に示すラクトン環構造が重合体の主鎖に存在する場合、存在しない場合に比べて、当該重合体の固有複屈折が正に大きくなる。その他の構成単位の種類およびその含有量との兼ね合いにもよるが、式(8)に示すラクトン環構造を主鎖に有する本発明のアクリル系重合体は、例えば、正の位相差フィルムに好適である。
【0063】
以下の式(9)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
【0064】
【化15】

【0065】
式(9)のR10、R11は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR12は存在せず、X1が窒素原子のとき、R12は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0066】
1が酸素原子のとき、式(9)に示す環構造は無水グルタル酸構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位と(メタ)アクリル酸単位とを有するアクリル系高分子に対して、脱アルコール環化縮合反応を進行させて形成できる。このときの環化縮合反応は、上記(i−1)の反応である。なお、アクリル系高分子が有する式(1)または(2)に示す構成単位の一部と(メタ)アクリル酸単位との間にも脱アルコール環化縮合反応が進行し、無水グルタル酸構造が形成される。
【0067】
1が窒素原子のとき、式(9)に示す環構造はグルタルイミド構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位を有するアクリル系高分子に対して、イミド化剤の存在下で脱アルコール環化縮合反応を進行させて形成できる。このときの環化縮合反応は、上記(ii)の反応である。なお、アクリル系高分子が有する式(1)または(2)に示す構成単位の一部が関与する脱アルコール環化縮合反応も進行し、グルタルイミド構造が形成される。イミド化剤は、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミンなどの脂肪族炭化水素基含有アミン;アニリン、トルイジン、トリクロロアニリンなどの芳香族炭化水素基含有アミン;シクロヘキシルアミンなどの脂環式炭化水素含有アミン;アンモニアである。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素など、加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物をイミド化剤として用いてもよい。
【0068】
無水グルタル酸構造が重合体の主鎖に存在する場合、存在しない場合に比べて、当該重合体の固有複屈折が正に大きくなる。グルタルイミド構造が重合体の主鎖に存在する場合、R12の種類によっては、当該構造が存在しない場合に比べて、当該重合体の固有複屈折が正に大きくなる。
【0069】
本発明のアクリル系重合体が主鎖に有する環構造の含有率は特に限定されず、アクリル系重合体として望む特性に応じて調整すればよいが、例えば5〜90重量%であり、10〜80重量%が好ましく、20〜60重量%がより好ましい。
【0070】
ラクトン環構造の含有率は、ダイナミックTG法により、以下のようにして求めることができる。最初に、ラクトン環構造を有するアクリル系重合体に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃の間の重量減少率を測定して、得られた値を実測重量減少率(X)とする。150℃は、重合体に残存するヒドロキシ基およびエステル基が環化縮合反応を開始する温度であり、300℃は、アクリル系重合体の熱分解が始まる温度である。これとは別に、前駆体であるアクリル系高分子に含まれる全てのヒドロキシ基が脱アルコール環化縮合反応を起こしてラクトン環が形成されたと仮定して、その反応による重量減少率(即ち、前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%であったと仮定した重量減少率)を算出し、理論重量減少率(Y)とする。具体的には、理論重量減少率(Y)は、前駆体における、脱アルコール環化縮合反応に関与するヒドロキシ基を有する構成単位の含有率から求めることができる。前駆体の組成は、アクリル系重合体の組成から導くことが可能である。次に、式[1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))]×100(%)、により、アクリル系重合体の脱アルコール反応率を求める。アクリル系重合体では、求めた脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられる。そこで、前駆体における、脱アルコール環化縮合反応に関与するヒドロキシ基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の重量に換算することで、アクリル系重合体におけるラクトン環構造の含有率を求めることができる。
【0071】
無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
【0072】
本発明のアクリル系重合体が構成単位として有していてもよい、式(1)または(2)に示す構成単位以外の(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ナフチル、アクリル酸アントラセニルなどのアクリル酸エステル単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸アントラセニルなどのメタクリル酸エステル単量体の重合により形成される構成単位である。
【0073】
本発明のアクリル系重合体が構成単位として有していてもよい、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)メタクリル酸t−ブチルの各単量体の重合により形成される構成単位である。
【0074】
高い耐熱性および透明性を有するアクリル系重合体が得られることから、本発明のアクリル系重合体は、メタクリル酸メチル(MMA)単位を有することが好ましい。また、主鎖にラクトン環構造を有する場合、MMA単位とともに2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)単位を有することが好ましい。
【0075】
本発明のアクリル系重合体は、式(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、主鎖に環構造、典型的にはアクリル系高分子における脱アルコール環化縮合反応を経て形成された環構造、を有するにもかかわらず、異物の含有量が少ない。本発明のアクリル系重合体は、濃度15重量%のクロロホルム溶液としたときに、測定光の透過距離が1cmである測定セルに収容して測定した当該溶液の濁度が2%以下である。当該濁度は、アクリル系重合体が有する構成単位の種類とその含有率、ならびにアクリル系重合体の製造条件によっては、1.5%以下、1%以下、さらには0.5%以下となる。
【0076】
本発明のアクリル系重合体は、本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位およびこれらの単位の誘導体に由来する構成単位(ラクトン環構造などの環構造を含む)ならびに式(1)または(2)に示す構成単位以外の構成単位を有していてもよい。このような構成単位は、例えばスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルの各単量体の重合により形成された構成単位である。
【0077】
本発明のアクリル系重合体は、例えば、本発明のアクリル系重合体の製造方法により製造できる。
【0078】
[アクリル系重合体の製造方法]
<アクリル系高分子>
本発明の製造方法では、(I)前駆体であるアクリル系高分子の分子鎖にあるヒドロキシ基またはカルボキシル基と、同じくアクリル系高分子の分子鎖にあるエステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させるか、または(II)前駆体であるアクリル系高分子の分子鎖にある2つのエステル基と、反応系に加えたイミド化剤との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、アクリル系高分子の主鎖に環構造を形成して、本発明のアクリル系重合体を形成する。ここで、脱アルコール環化縮合反応の進行に用いる環化触媒が、亜鉛化合物である。
【0079】
前駆体であるアクリル系高分子は、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位およびこれらの単位の誘導体に由来する構成単位の含有率について上述した条件を満たし、式(1)または(2)に示す構成単位を有し、上記(I)または(II)に示す脱アルコール環化縮合反応によって主鎖に環構造が形成される限り、特に限定されない。反応に関与するヒドロキシ基、カルボキシル基およびエステル基は、それぞれ、直接あるいはいくつかの原子を介してアクリル系高分子の主鎖に結合していればよい。脱アルコール環化縮合反応の具体例ならびに当該反応により形成される環構造の具体例は、本発明のアクリル系重合体の説明において述べたとおりである。
【0080】
一例として、本発明の製造方法では、前駆体であるアクリル系高分子に対して脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、当該高分子の主鎖に、環構造としてラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種を形成してもよい。より具体的な例として、ヒドロキシ基とエステル基とを分子鎖に有するアクリル系高分子に対して、当該ヒドロキシ基とエステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、環構造としてラクトン環構造を形成してもよい。
【0081】
本発明の製造方法では、前駆体であるアクリル系高分子に対する脱アルコール環化縮合反応により、ヒドロキシ基およびエステル基の少なくとも一部、カルボキシル基およびエステル基の少なくとも一部、あるいはエステル基と反応系に加えられたイミド化剤の少なくとも一部が縮合環化して、その主鎖に環構造が形成される。
【0082】
上記(I)の反応を進行させるアクリル系高分子では、ヒドロキシ基またはカルボキシル基とエステル基とが互いに近接して存在することが好ましく、この場合、脱アルコール環化縮合反応の進行が促進され、環構造が形成されやすくなる。
【0083】
上記(I)の反応を進行させるアクリル系高分子は、ヒドロキシ基およびカルボキシル基の双方を有していてもよい。
【0084】
上記(II)の反応を進行させるアクリル系高分子では、反応に関与するエステル基同士が互いに近接して存在することが好ましく、この場合、脱アルコール環化縮合反応の進行が促進され、環構造が形成されやすくなる。
【0085】
ヒドロキシ基およびエステル基を分子鎖に有するアクリル系高分子は、例えば、重合によって式(1)または(2)に示す構成単位となる単量体と、ヒドロキシ基およびエステル基の双方を分子鎖に有する単量体とを重合して形成できる。ヒドロキシ基およびエステル基の双方を有する単量体の代わりに、ヒドロキシ基を分子鎖に有する単量体と、エステル基を分子鎖に有する単量体とを用いてもよい。またアクリル系高分子は、式(1)または(2)に示す構成単位を有する重合体にヒドロキシ基を付加したり、エステル基を分子鎖に有する当該重合体を加水分解したり、カルボキシル基または酸無水物基を分子鎖に有する当該重合体をエステル化したりしても形成できる。即ち、重合体にヒドロキシ基またはエステル基を後から導入して、アクリル系高分子としてもよい。
【0086】
カルボキシル基およびエステル基を分子鎖に有するアクリル系高分子もこれと同様に、例えば、重合によって式(1)または(2)に示す構成単位となる単量体と、カルボキシル基およびエステル基の双方を分子鎖に有する単量体とを重合して形成できる。カルボキシル基およびエステル基の双方を分子鎖に有する単量体の代わりに、カルボキシル基を分子鎖に有する単量体と、エステル基を分子鎖に有する単量体とを用いてもよい。
【0087】
エステル基を分子鎖に有し、反応系に加えられたイミド化剤と2つの当該エステル基とが脱アルコール環化縮合反応による縮合環化をおこすアクリル系高分子は、例えば、重合によって式(1)または(2)に示す構成単位となる単量体と、エステル基を分子鎖に有する単量体とを重合して形成できる。
【0088】
アクリル系高分子が有する(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、本発明のアクリル系重合体の説明において上述した(メタ)アクリル酸エステル単位である。
【0089】
アクリル系高分子は、本発明のアクリル系重合体が得られる限り、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位およびこれらの単位の誘導体に由来する構成単位ならびに式(1)または(2)に示す構成単位以外の構成単位を有していてもよい。このような構成単位は、例えばスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルの各単量体の重合により形成された構成単位である。
【0090】
アクリル系高分子を得る具体的な重合方法は特に限定されないが、溶液重合が好ましい。この場合、重合によりアクリル系高分子を得た後に、続いて当該高分子の脱アルコール環化縮合反応を実施可能となる。
【0091】
溶液重合によりアクリル系高分子を形成した場合、アクリル系高分子以外に、重合に用いた重合溶媒が重合生成物に含まれるが、必ずしも当該溶媒を除去して、アクリル系高分子を固体として取り出さなくてもよい。上述したように、溶媒を含んだ状態のまま、重合生成物を脱アルコール環化縮合工程に導入できる。もちろんアクリル系高分子を固体として取り出した後、重合時に用いた溶媒よりも好適な溶媒を改めて加えて、脱アルコール環化縮合反応を進行させてもよい。
【0092】
溶液重合によりアクリル系高分子を形成する場合、用いる重合溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランなどである。なかでも、重合溶媒として芳香族炭化水素、ケトン類を用いることが好ましく、特に、トルエン、メチルイソブチルケトンを用いることが好ましい。
【0093】
アクリル系高分子の重合時には、必要に応じて重合開始剤を使用できる。重合開始剤は特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;である。重合開始剤は、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、重合に用いる単量体の組み合わせ、あるいは重合条件などに応じて適宜設定すればよい。
【0094】
本発明の製造方法では、アクリル系高分子の構成によっては(具体的には、アクリル系高分子を重合形成する条件と、形成したアクリル系高分子を脱アルコール環化縮合する条件とが重なっている場合には)、アクリル系高分子の重合形成を進めながら、形成したアクリル系高分子を同時に縮合環化させることも可能である。
【0095】
<脱アルコール環化縮合反応>
本発明の製造方法における脱アルコール環化縮合反応は、加熱により、アクリル系高分子の分子鎖に存在するヒドロキシ基またはカルボキシル基の少なくとも一部とエステル基の少なくとも一部とが縮合環化して(上記反応(I))、あるいはアクリル系高分子の分子鎖に存在するエステル基の少なくとも一部と反応系に加えられたイミド化剤の少なくとも一部とが縮合環化して(上記反応(II))、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造などの環構造が当該高分子の主鎖に形成される反応である。この反応はエステル交換反応の一種であり、その名のとおり、アルコールが副生する。
【0096】
本発明の製造方法では、この反応の触媒に亜鉛化合物を用いる。これにより、当該反応により形成されたアクリル系重合体に含まれる異物の量が低減される。異物の量が低減される理由は、亜鉛化合物を触媒に用いることによって、従来の触媒である有機リン化合物を用いたときに見られる、式(1)または(2)に示す構成単位から生じるアルコールの付加反応が連鎖的に進行しないためと推定される。
【0097】
また、亜鉛化合物の使用によって、脱アルコール環化縮合反応の速度向上、ならびにアクリル系高分子間の縮合環化反応、即ち、ポリマー間架橋の発生、の抑制が期待される。
【0098】
亜鉛化合物は、例えば、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛などの有機亜鉛化合物;酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの無機亜鉛化合物;トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛などのフッ素を含む有機亜鉛化合物;である。
【0099】
脱アルコール環化縮合反応の触媒として用いる亜鉛化合物の量は特に限定されないが、好ましくは、前駆体であるアクリル系高分子の重量に対して、0.005〜0.5重量%であり、0.01〜0.3重量%がより好ましく、0.02〜0.1重量%がさらに好ましい。亜鉛化合物の使用量が0.005重量%未満では、環化反応率が十分に向上しない。一方、亜鉛化合物の使用量が0.5重量%を超えると、得られたアクリル系重合体に着色が生じたり、得られたアクリル系重合体がゲルを含んだりすることがある。
【0100】
アクリル系高分子の脱アルコール環化縮合反応は加熱により開始させることができる。このため、触媒を加えるタイミングは特に限定されず、例えば、反応前あるいは反応の初期段階において加えてもよいし、反応が開始した後の任意の時点で加えてもよい。
【0101】
反応条件は特に限定されないが、反応温度は80℃以上が好ましく、80〜150℃が好ましい。反応温度が過度に高くなると、得られたアクリル系重合体に着色またはゲルが生じることがある。
【0102】
アクリル系高分子に対する脱アルコール環化縮合反応を進行させるための、上述した以外のその他の具体的な方法および条件などは、特開2008-189886号公報(特許文献1)に開示されている方法など、公知の方法を応用すればよい。
【0103】
[アクリル樹脂組成物]
本発明のアクリル樹脂組成物は、本発明のアクリル系重合体を主成分として含む。本発明のアクリル樹脂組成物は、本発明のアクリル系重合体を主成分として含有することにより、含まれる異物の量が少ない。また、アクリル系重合体が主鎖に環構造を有することにより、耐熱性に優れる樹脂組成物となる。環構造の種類および含有率によっては、成形体としたとき、典型的には光学フィルムとしたときの光学特性に優れる樹脂組成物となる。なお、主成分とは、組成物における含有率が最大の成分のことであり、その含有率は通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0104】
本発明のアクリル樹脂組成物は、本発明の効果が得られる限り、本発明のアクリル系重合体以外の任意の材料を含むことができる。このような材料は、例えば、他の重合体、弾性有機微粒子、添加剤である。
【0105】
他の重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミドである。
【0106】
添加剤は、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤、無機充填剤;可塑剤;滑剤である。
【0107】
例えば、本発明のアクリル樹脂組成物は、弾性有機微粒子を5重量%以上の含有率でさらに含んでもよい。弾性有機微粒子のさらなる含有により、フィルムとしたときの可撓性がさらに向上する。
【0108】
弾性有機微粒子は、例えば、共役ジエン単量体の重合により形成される構成単位(例えば、ブタジエン単位、イソプレン単位)を有する弾性有機微粒子である。弾性有機微粒子として、特開2008-242421号公報(特許文献2)に開示の弾性有機微粒子を使用できる。また、弾性有機微粒子の製造方法は、当該公報に開示がある。
【0109】
本発明のアクリル樹脂組成物が弾性有機微粒子を含む場合、当該樹脂組成物における弾性有機微粒子の含有率は、例えば5〜50重量%であり、5〜30重量%が好ましく、10〜20重量%がより好ましい。
【0110】
本発明のアクリル樹脂組成物は、本発明のアクリル系重合体を使用して、公知の方法により製造できる。
【0111】
本発明のアクリル樹脂組成物は、任意の形状に成形し、任意の用途に用いることができる。含まれる異物の量の少なさから、本発明のアクリル樹脂組成物は、光学部材の用途に好適である。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム(シート)、具体的には各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板の保護フィルム、あるいは液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。また例えば、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどの光学フィルム、あるいは拡散板、導光体、位相差板、プリズムシートなどの光学シートである。
【0112】
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、本発明のアクリル系重合体を主成分として含む。これにより、含まれる異物の量が少なく、光学的な欠点が少ない位相差フィルムとなる。また、アクリル系重合体が主鎖に環構造を有することで耐熱性に優れ、環構造の種類および含有率によっては、光学特性にも優れる。さらにアクリル系重合体が上述した式(1)または(2)に示す構成単位を有することで、可撓性にも優れる。
【0113】
本発明の位相差フィルムは、本発明のアクリル系重合体を主成分として含む樹脂組成物を押出成形などの手法によりフィルムとし、得られたフィルムを延伸して形成できる。フィルムへの成形方法ならびに得られたフィルムの延伸方法は、公知の手法を応用すればよい。
【0114】
本発明の位相差フィルムにおける本発明のアクリル系重合体の含有率は、上述した効果をより確実に得るために、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0115】
本発明のアクリル系重合体が式(8)に示すラクトン環構造を主鎖に有する場合、本発明の位相差フィルムは、当該重合体におけるラクトン環構造の含有率ならびに位相差フィルムにおける本発明のアクリル系重合体の含有率にもよるが、典型的には正の位相差フィルムとなる。
【0116】
本発明の位相差フィルムの用途は特に限定されない。本発明の位相差フィルムは、上述した優れた特性に基づき、液晶表示装置などの画像表示装置に好適である。
【0117】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置の構造は、上記本発明の位相差フィルムを備える限り、特に限定されない。本発明の画像表示装置は、例えば液晶表示装置(LCD)であり、当該LCD装置の画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライトなどの部材とともに、本発明の位相差フィルムを備える。本発明の画像表示装置は、典型的には、光学補償フィルムとして本発明の位相差フィルムを備える。偏光板の偏光子保護フィルムとして、本発明の位相差フィルムを備えていてもよい。
【実施例】
【0118】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0119】
(製造例1:弾性有機微粒子の製造)
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水120重量部、ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(平均粒子径240nm)50重量部(固形分換算)、オレイン酸カリウム1.5重量部およびソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6重量部を投入し、重合容器内を窒素ガスで十分に置換した。
【0120】
次に、容器内の温度を70℃に上昇させた後、スチレン36.5重量部およびアクリロニトリル13.5重量部からなる混合モノマー溶液と、クメンハイドロキシパーオキサイド0.27重量部および脱イオン水20.0重量部からなる重合開始剤溶液とを、個別に、2時間かけて連続滴下させながら重合を進行させた。滴下終了後、容器内の温度を80℃とし、さらに2時間重合を継続させた。次に、容器内の温度を40℃に下げた後、内容物を300メッシュの金網を通過させて、弾性有機微粒子の乳化重合液を得た。
【0121】
得られた弾性有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムを用いて塩析、凝固させ、凝固物を水洗、乾燥して、粉体状の弾性有機微粒子(G1)(平均粒子径0.260μm、軟質重合体層の屈折率1.516)を得た。弾性有機微粒子の平均粒子径は、NICOMP社製粒度分布測定装置(Submicron Particle Sizer NICOMP380)により評価した。
【0122】
なお、弾性有機微粒子の製造に用いたブタジエン系ゴム重合体ラテックスは、以下の方法により作製した。耐圧反応容器に、脱イオン水70重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、オレイン酸カリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.005重量部、デキストロース0.2重量部、p−メンタンハイドロパーオキシド0.1重量部および1,3−ブタジエン28重量部からなる反応混合物を加え、容器内を65℃に昇温して、2時間重合を進行させた。次に、この重合によって得られた容器内の混合物に、p−ハイドロパーオキシド0.2重量部をさらに加えた後、1,3−ブタジエン72重量部、オレイン酸カリウム1.33重量部および脱イオン水75重量部の混合物を2時間かけて連続滴下した。その後、重合開始の時点から21時間が経過するまで重合を進行させて、ブタジエン系ゴム重合体ラテックスを得た。
【0123】
(実施例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)2500g、メタクリル酸メチル(MMA)5200g、メタクリル酸ベンジル(BzMA)2300gおよび重合溶媒としてトルエン10000gを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として6.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富社製、商品名:ルパゾール570)を添加するとともに、100gのトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート12.0gを溶解した溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の加温、熟成を行った。得られた重合体(前駆体)の反応率は96.4%であり、前駆体の全構成単位に占めるMHMA単位の割合(MHMA単位の含有率)は25.1重量%、BzMA単位の割合(BzMA単位の含有率)は23.2重量%であった。
【0124】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒としてオクチル酸亜鉛20gを加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。次に、オートクレーブにより、加圧下(ゲージ圧にして最高1.6MPa)、240℃で90分間さらに加熱した。得られた重合溶液を、バレル温度250℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算にして2.0kg毎時の処理速度で導入し、押出機内においてさらなる環化縮合反応と脱揮とを行った。その後、押出機から内容物を押出して、主鎖にラクトン環構造を有するとともに、MMA単位、MHMA単位およびBzMA単位を構成単位として有するアクリル系重合体からなる透明なペレット(P1)を得た。
【0125】
得られたペレット(P1)に対してダイナミックTGの測定を行ったところ、0.15重量%の重量減少を検知した。また、ペレット(P1)を構成する重合体の重量平均分子量は135,000であり、ガラス転移温度(Tg)は130℃、ペレット(P1)のメルトフローレート(MFR)は30g/10分であった。1H−NMR測定から求めた、ペレット(P1)を構成する重合体の全構成単位に占めるBzMA単位の割合は(BzMA単位の含有率は)23.6重量%であった。1H−NMR測定は、溶媒に重クロロホルム、内標にメシチレンを用い、Varian社製、FT−NMR UNITY plus400(400MHz)をにより行った。プレスフィルムを作製して測定した当該重合体の屈折率は1.517であった。
【0126】
ペレット(P1)を構成する重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである;
システム:東ソー製
カラム:TSK-GEL SuperHZM-M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK-GEL SuperHZ-L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK-GEL SuperH-RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃。
【0127】
ペレット(P1)を構成する重合体のガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、DSC−8230)を用い、窒素フロー(50mL/分)下において、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して得られたDSC曲線から、中点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0128】
ペレット(P1)に対するダイナミックTGの測定は以下のように行った。作製したペレット(P1)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた後、過剰のヘキサンまたはメタノールを用いてアクリル系重合体を沈殿させた。次に、沈殿物を真空乾燥(圧力1.33hPa、80℃、3時間以上)して揮発成分を除去し、得られた白色固体状の樹脂に対して以下の測定条件でダイナミックTG測定を実施した;
測定装置:リガク製、Thermo Plus 2 TG-8120 Dynamic TG
試料重量:5〜10mg
昇温速度:10℃/分
雰囲気:窒素フロー(200ml/分)下
測定方法:階段状等温制御法(60〜500℃の間で、重量減少速度値を0.005%/秒以下として制御)。
【0129】
ペレット(P1)のMFRは、JIS K6874の規定に準拠して、試験温度240℃、試験荷重10kgで測定した。
【0130】
以降の比較例1,2で作製した各ペレットの特性についても、ペレット(P1)に対する評価方法と同じ方法により評価した。
【0131】
(比較例1)
環化縮合反応の触媒として、オクチル酸亜鉛の代わりにリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学製、Phoslex A-8)20gを用いた以外は実施例1と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有するとともに、MMA単位、MHMA単位およびBzMA単位を構成単位として有するアクリル系重合体からなる透明なペレット(P2)を得た。
【0132】
得られたペレット(P2)に対してダイナミックTGの測定を行ったところ、0.15重量%の重量減少を検知した。また、ペレット(P2)を構成する重合体の重量平均分子量は150,000であり、Tgは130℃、ペレット(P2)のMFRは20g/10分であった。1H−NMR測定から求めた、ペレット(P2)を構成する重合体の全構成単位に占めるBzMA単位の割合は(BzMA単位の含有率は)23.6重量%であった。プレスフィルムを作製して測定した当該重合体の屈折率は1.517であった。
【0133】
(比較例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積30Lの反応釜に、MHMA3000g、MMA7000gおよび重合溶媒としてトルエン6667gを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として6.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富社製、商品名:ルパゾール570)を添加するとともに、3315gのトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート12.0gを溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約95〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。得られた重合体(前駆体)の反応率は94.5%であり、前駆体の全構成単位に占めるMHMA単位の割合(MHMA単位の含有率)は29.7重量%であった。
【0134】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒としてリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学製、Phoslex A-8)20gを加え、約85〜100℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。次に、オートクレーブにより、加圧下(ゲージ圧にして最高2MPa)、240℃で90分間さらに加熱した。得られた重合溶液を、実施例1と同じベントタイプスクリュー二軸押出機に、樹脂量換算にして2.0kg毎時の処理速度で導入し、押出機内においてさらなる環化縮合反応と脱揮とを行った。その後、押出機から内容物を押出して、主鎖にラクトン環構造を有するとともに、MMA単位およびMHMA単位を構成単位として有するアクリル系重合体からなる透明なペレット(P3)を得た。
【0135】
得られたペレット(P3)に対してダイナミックTGの測定を行ったところ、0.25重量%の重量減少を検知した。また、ペレット(P3)を構成する重合体の重量平均分子量は127,000であり、Tgは140℃、ペレット(P3)のMFRは6.5g/10分であった。プレスフィルムを作製して測定した当該重合体の屈折率は1.504であった。
【0136】
実施例1、比較例1,2で作製した各ペレット3gをクロロホルム17gに十分に溶解させて濃度15重量%の溶液とし、当該溶液を測定光の透過距離が1cmである測定用の石英セルに収容して、ヘイズメーター(日本電色製、NDH5000)によりセル内の溶液の濁度を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
(実施例2)
実施例1で作製したペレット(P1)を、30mmφのスクリュウを有する一軸押出機を用いて幅150mmのT型ダイから溶融押出しして、厚さ約140μmのフィルムを作製した。得られた未延伸のフィルムを、オートグラフ(島津製作所製、AGS−100D)を用いて延伸温度130℃、延伸速度400%/分、延伸倍率2倍で一軸延伸して、厚さ100μmの延伸フィルム(FP1)を得た。
【0139】
(実施例3)
実施例1で作製したペレット(P1)と、製造例1で作製した弾性有機微粒子(G1)とを、P1:G1=80:20の重量比となるようにフィーダーを用いてフィードしながら、シリンダー径20mmの二軸押出機を用いて240℃で混練し、P1のマトリクス中にG1が分散した構造を有する樹脂組成物からなるペレット(B1)を得た。得られたペレット(B1)を、実施例2と同様に溶融押出して厚さ140μmの未延伸フィルムとした後、さらに実施例2と同様に一軸延伸して、厚さ98μmの延伸フィルム(FB1)を得た。
【0140】
実施例2,3で作製した延伸フィルムに対して、その面内方向の位相差(フィルム厚さ100μmあたり)を全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)により評価したところ、実施例2で作製した延伸フィルム(FP1)が251nm、実施例3で作製した延伸フィルム(FB1)が254nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明のアクリル系重合体は、位相差フィルムなどの光学部材に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、環構造を主鎖に有し、
ASTM−D−3418の規定に準拠して測定したガラス転移温度が110℃以上であり、
濃度15重量%のクロロホルム溶液としたときに、測定光の透過距離が1cmである測定セルに収容して測定した当該溶液の濁度が2%以下であるアクリル系重合体。
【化16】

【化17】

式(1)、(2)におけるR1〜R4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、R5は、酸素原子O1に結合する炭素原子が2級または3級である炭素数1〜20の有機残基であり、Arはアリール基である。
【請求項2】
前記式(1)に示す構成単位を有する請求項1に記載のアクリル系重合体。
【請求項3】
2、R3が水素原子である請求項1または2に記載のアクリル系重合体。
【請求項4】
1がメチル基であり、Arがフェニル基である請求項3に記載のアクリル系重合体。
【請求項5】
前記環構造は、前記アクリル系重合体の前駆体であるアクリル系高分子における脱アルコール環化縮合反応を経て形成される環構造であり、
前記アクリル系高分子が、前記式(1)または(2)に示す構成単位を有する請求項1に記載のアクリル系重合体。
【請求項6】
前記脱アルコール環化縮合反応が、
(i)カルボキシル基またはヒドロキシ基とエステル基とを分子鎖に有する前記アクリル系高分子における、前記カルボキシル基またはヒドロキシ基と前記エステル基との反応、または
(ii)エステル基を分子鎖に有する前記アクリル系高分子における、2つの前記エステル基と当該反応の反応系に加えられたイミド化剤との反応、である請求項5に記載のアクリル系重合体。
【請求項7】
前記環構造が、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のアクリル系重合体。
【請求項8】
前記環構造が、ラクトン環構造である請求項1に記載のアクリル系重合体。
【請求項9】
請求項1に記載のアクリル系重合体を主成分として含むアクリル樹脂組成物。
【請求項10】
弾性有機微粒子を5重量%以上の含有率でさらに含む請求項9に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のアクリル系重合体を主成分として含む位相差フィルム。
【請求項12】
請求項11に記載の位相差フィルムを備える画像表示装置。
【請求項13】
以下の式(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体の製造方法であって、
(I)前記アクリル系重合体の前駆体となる、前記(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、カルボキシル基またはヒドロキシ基とエステル基とを分子鎖に有するアクリル系高分子に対して、前記カルボキシル基またはヒドロキシ基と前記エステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させるか、または
(II)前記アクリル系重合体の前駆体となる、前記(1)または(2)に示す構成単位を有するとともに、エステル基を分子鎖に有するアクリル系高分子に対して、2つの前記エステル基および反応系に加えたイミド化剤の間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、
前記高分子の主鎖に前記環構造を形成して前記重合体とし、
前記反応の進行に用いる触媒が亜鉛化合物である、アクリル系重合体の製造方法。
【化18】

【化19】

式(1)、(2)におけるR1〜R4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基であり、R5は、酸素原子O1に結合する炭素原子が2級または3級である炭素数1〜20の有機残基であり、Arはアリール基である。
【請求項14】
前記環構造が、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種である請求項13に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項15】
ヒドロキシ基とエステル基とを分子鎖に有する前記アクリル系高分子に対して、前記ヒドロキシ基と前記エステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、前記環構造としてラクトン環構造を形成する、請求項13に記載のアクリル系重合体の製造方法。


【公開番号】特開2010−235731(P2010−235731A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84337(P2009−84337)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】