説明

アクロレイン及びアクリル酸の製造方法

【課題】化石資源由来のプロピレンの酸化によらず、大気中の二酸化炭素由来の植物性油脂および動物性油脂に含まれるグリセリンから効率的にアクロレイン及びアクリル酸を製造する方法の提供。
【解決手段】本発明は、電離したときに共通の陰イオンを生成する塩及び酸の存在下にグリセリンを脱水反応させてアクロレインを得る工程を有するアクロレインの製造方法、及びその方法で得られたアクロレインを分子状酸素で酸化するアクリル酸の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンからアクロレイン及びアクリル酸を製造する方法に関する。さらに詳しく言えば、電離したときに共通の陰イオンを生成する塩及び酸の存在下にグリセリンを脱水反応させる工程を有するアクロレインの製造方法、その方法で得られたアクロレインを酸化するアクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アクロレイン及びアクリル酸は、化石資源であるプロピレンの酸化により製造されているが、化石資源に依存した製造方法では、大気中の二酸化炭素の増加が懸念される。また、化石資源は将来的に枯渇することが懸念されている。
【0003】
そこで、植物性油脂または動物性油脂からバイオディーゼル燃料を製造する際に、または石鹸を製造する際に副生物として生成するグリセリンを利用することが検討されている。すなわち、副生したグリセリンを脱水してアクロレインを製造する方法が検討されている。
【0004】
ここで、植物性油脂から生成したグリセリンは、植物由来であることから資源の枯渇の懸念がなく、しかも、その炭素源は大気中の二酸化炭素であることから、実質的に大気中の二酸化炭素の増加に寄与しないといった利点を有する。また、動物性油脂は、家畜が植物性油脂などの飼料を摂食することで作り出された資源で、その炭素源は大気中の二酸化炭素とみなすことができる。
【0005】
グリセリンからのアクロレインの製造方法としては酸性触媒を使用する方法が知られている。
例えば、特開平6−211724号公報(特許文献1)には、グリセリンを液相または気相で硫酸塩、リン酸塩などの存在下に脱水反応させてアクロレインを製造する方法が開示されている。しかしながら、収率が低いという問題点があった。
特開2006−290815号公報(特許文献2)にはグリセリンを溶媒に溶解または分散させて硫酸水素カリウムなど硫酸塩の存在下に反応させる方法が開示されている。しかしながら、収率が低いという問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平6−211724号公報
【特許文献2】特開2006−290815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電離したとき共通の陰イオンを生成する酸及び塩の存在下にグリセリンを脱水反応させて従来よりも高い収率でアクロレインを製造できるアクロレインの製造方法を提供することにある。
また、本発明の課題は、グリセリンからアクリル酸を従来よりも高い収率で製造できるアクリル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、電離したとき共通の陰イオンを生成する酸及び塩の存在下にグリセリンを脱水反応させることにより、脱水反応の活性低下を抑制し、収率よくアクロレインが得られることを見出した。そして、この知見に基づいて、以下のアクロレインの製造方法及びアクリル酸の製造方法を発明した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
1.電離したときに共通の陰イオンを生成する塩および酸の存在下にグリセリンを脱水反応させる工程を有することを特徴とするアクロレインの製造方法。
2.前記グリセリンの脱水反応工程(1)、前記脱水反応で生成したアクロレインを回収する工程(2)、前記工程(2)で残った塩の一部または全部を回収する工程(3)、及び前記工程(3)で回収された塩の一部または全部を前記工程(1)へ戻す工程(4)を有する前項1に記載のアクロレインの製造方法。
3.前記脱水反応工程(1)と前記アクロレインを回収する工程(2)とを同時に行う前項2に記載のアクロレインの製造方法。
4.前記脱水反応工程(1)、前記アクロレインを回収する工程(2)及び前記塩の一部または全部を回収する工程(3)を同時に行う前項2に記載のアクロレインの製造方法。
5.前記塩が、硫酸塩、ピロ硫酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である前項1に記載のアクロレインの製造方法。
6.前記酸が、硫酸、ピロ硫酸、リン酸、ピロリン酸、硝酸及びハロゲン化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種である前項1に記載のアクロレインの製造方法。
7.前項1〜6のいずれかに記載のアクロレインの製造方法により得られたアクロレインと、分子状酸素とを反応させることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクロレインの製造方法によれば、グリセリンからアクロレインを効率よく製造できる。また、本発明のアクリル酸の製造方法によれば、グリセリンからアクリル酸を効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[アクロレインの製造方法]
本発明のアクロレインの製造方法の実施形態例について説明する。
本実施形態例のアクロレインの製造方法は、電離したとき共通の陰イオンを生成する酸及び塩の存在下にグリセリン含有混合物中のグリセリンを脱水反応させてアクロレイ混合物を得る工程(以下、第1の工程という。)、前記アクロレイン混合物からアクロレインを回収する工程(以下、第2の工程という。)、前記第1の工程後に残った塩の一部または全部を回収する工程(以下、第3の工程という。)、前記第3の工程で回収された塩の一部または全部を前記第1の工程に戻す工程(以下、第4の工程という。)を有する。
【0012】
[第1の工程]
第1の工程で用いられる電離したとき共通の陰イオンを生成する塩は、好ましくは硫酸塩、ピロ硫酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硝酸塩、及び塩化物やフッ化物等のハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
塩は、そのまま使用することも可能であるし、含浸法などにより担体に担持して使用することも可能である。担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、シリカアルミナなどの酸化物や複合酸化物または活性炭、ゼオライト、リン酸アルミニウム、層状化合物、炭化ケイ素などが挙げられる。
【0014】
塩の形状については、特に限定はされない。例えば、錠剤、丸粒、押し出し品、球粒、顆粒、粉末、モノリス、網などが挙げられる。
また、塩は、予めその目的に応じて、乾燥や気体の存在下で焼成することも可能である。気体としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、空気またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0015】
電離したとき共通の陰イオンを生成する酸は、前記の好ましい塩に対応する硫酸、ピロ硫酸、リン酸、ピロリン酸、硝酸及び、塩酸やフッ酸等のハロゲン化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0016】
酸の使用量は、酸/塩のモル比で0.0001〜10が好ましい。0.0001モル比より少ないと酸添加の効果が得られない。また、10モル比より多いと過剰の酸の回収が必要になるなどの問題点がある。
【0017】
塩の使用量は、塩/グリセリンのモル比で0.001〜10が好ましい。0.001モル比より少ないと収率が低い。また、10モル比より多いと過剰の塩の回収が必要になるなどの問題点がある。
【0018】
電離したとき共通の陰イオンを生成する酸の添加効果は必ずしも明らかではないが、電離したとき共通の陰イオンを生成する塩がその陰イオンの消失によって活性が低下するのを抑制する効果があることによると考えられる。
【0019】
グリセリンは、精製グリセリンでも粗製グリセリンでもよい。バイオディーゼル燃料や石鹸を製造する際に副生するグリセリンを使用することも可能である。また、脂肪酸、脂肪酸塩、グリセリド、脂肪酸エステル、アルカリ化合物、アルカリ化合物塩、アルコール及び水よりなる群から選ばれる1種以上の化合物を含んでいてもよい。また、グリセリンは反応を阻害しない溶媒(後述する。)によって希釈されたものでもよい。
【0020】
脱水反応は液相反応、気相反応のいずれであってもよく、反応形式は、回分式、半回分式、連続式のいずれであってもよい。
【0021】
電離したとき共通の陰イオンを生成する塩は、予め反応器に仕込むことができる。また、脱水反応の進行に応じて反応器に供給することも可能である。
【0022】
電離したとき共通の陰イオンを生成する酸も、予め反応器に仕込むことができる。また、脱水反応の進行に応じて反応器に供給することも可能である。
【0023】
電離したとき共通の陰イオンを生成する塩及び酸を予め混合しておき、脱水反応の進行に応じて反応器に供給することも可能である。
【0024】
グリセリンは、予め反応器に仕込むこともできる。また、脱水反応の進行に応じて反応器に供給することも可能である。
【0025】
脱水反応の温度は、0〜500℃にすることができる。反応の効率が高いことから、100〜500℃が好ましく、150〜400℃がより好ましい。
グリセリンの脱水反応はモル数が増加する反応であるため、圧力が低い程、アクロレインの収率が高くなる。具体的には、圧力は0.01〜10.0MPaが好ましく、0.05〜5MPaがより好ましい。
【0026】
ただし、液相反応の場合には、グリセリンが液体として存在できる温度及び圧力を選択し、気相反応の場合には、グリセリンが気体として存在できる温度及び圧力を選択する。
【0027】
液相反応の場合には、溶媒を使用することが可能である。溶媒としては、反応を阻害しないもので、かつ反応温度で安定であるものが好ましく、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等の飽和炭化水素、ジベンジル等の芳香族炭化水素、ジフェニルエーテル、スルホラン、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0028】
気相反応の場合には、不活性ガスで希釈してもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、希ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン等)、水蒸気等を用いることができる。
【0029】
第1の工程によって得られるアクロレイン混合物に含まれるアクロレインの含有量は、グリセリン含有混合物に含まれるグリセリン含有量、脱水反応の収率等に応じて決まるが、具体的には、5〜60質量%であることが好ましい。
【0030】
[第2の工程]
第1の工程からアクロレインを回収する方法としては、公知の分離・回収方法を適用することができるが、工業的に回収するためには、アクロレイン混合物を蒸留する方法が好ましい。
【0031】
蒸留の具体例としては、単蒸留、多段蒸留、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留などが挙げられる。蒸留の方式は、回分式、半回分式、連続式のいずれであってもよい。
【0032】
多段蒸留を適用した場合には、例えば、アクロレインより低沸点の成分を塔頂部から留出させ、中間部からアクロレインを留出させ、塔底部から未反応のグリセリン、脂肪酸、脂肪酸塩、グリセリド、脂肪酸エステル、アルカリ化合物、アルカリ化合物塩などを留出させることができる。
【0033】
多段蒸留で使用される蒸留塔としては、棚段式蒸留塔、充填蒸留塔などの公知の蒸留塔を使用することができる。
【0034】
棚段式蒸留塔の棚段の構造としては、例えば、泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バルブトレイ、スーパーフラックトレイ、マックスフラクトレイなどが挙げられる。
充填蒸留塔の充填物としては、規則充填物や不規則充填物が挙げられる。規則充填物としては、例えば、金属板型、金網型、グリッド型などが挙げられる。不規則充填物としては、例えば、ラシヒリング、レッシングリング、ベルルサドル、インタロックスサドル、テラレット、ポールリング、フレキシリング、カスケードリングなどが挙げられる。
【0035】
蒸留における条件としては、塔底部の温度を0〜500℃にすることができる。中でも、0〜100℃とすることが好ましく、5〜80℃とすることがより好ましく、10〜60℃とすることがさらに好ましい。塔底部の温度が500℃より高いと、アクロレインが重合することがあり、塔底部の温度が0℃より低いと、冷却に要するエネルギー量が増えてしまう傾向にある。なお、蒸留時の圧力は、温度との関係で決まる。
【0036】
アクロレインを蒸留する際には、アクロレインの重合を防止するために、重合防止剤を予め添加することが好ましい。重合防止剤としては、例えば、フェノチアジン、フェノール、ハイドロキノン、メトキノン、カテコール、クレゾール等のフェノール化合物が挙げられる。重合防止剤を添加する場合の重合防止剤添加量は、アクロレインを100質量%とした際の1質量ppm〜1質量%であることが好ましい。
【0037】
第2の工程は第1の工程の後に行ってもよいし、第1の工程と同時に行ってもよい。
第2の工程を第1の工程と同時に行う具体的態様としては、例えば、液相反応で、蒸留塔を備えた反応器にグリセリン混合物を供給し、脱水反応を行ってアクロレインを製造すると共に、生成したアクロレインを蒸留塔の塔頂部または側塔部から回収してもよい。
【0038】
第2の工程を第1の工程と同時に行う際には、第1の工程の反応における反応温度を第2の工程の蒸留における塔底温度とすることができる。例えば、塔底部の温度は、高い反応効率を維持するという観点から、100〜500℃であることが好ましく、150〜400℃であることがより好ましい。なお、蒸留時の圧力は、温度との関係で決まる。
【0039】
第2の工程によって得られたアクロレインは、例えば、アクリル酸、メチオニン、1,3−プロパンジオール、アリルアルコール等の原料として用いることができる。
【0040】
[第3の工程]
第2の工程で残った塩の一部または全部を回収する方法としては、公知のいかなる方法をも適用することができる。塩が固体として析出している場合には、例えば、ろ過、圧搾、遠心分離、沈降分離、浮上分離などの公知の方法を用いることができる。例えば、ろ過による分離では、自然ろ過、加圧ろ過、減圧ろ過のいずれの方法で行ってもよく、沈降分離による分離では、清澄分離、沈降濃縮のいずれの方法で行ってもよく、浮上分離による分離では、加圧浮上、電離浮上のいずれの方法で行ってもよい。
【0041】
塩が液体に溶解している場合には公知のいかなる方法をも適用することができる。例えば、固体を分離したあとの液体を回収し、蒸留などにより溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0042】
第3の工程では塩を回収するのと併せて酸を回収することが可能である。回収された酸は第1の工程に戻して再利用することが可能である。
また、回収された塩は必要に応じて酸処理を行うことが可能である。酸処理の酸としては、第1の工程で使用した酸を挙げることができる。
【0043】
[第4の工程]
第3の工程で回収された塩の一部または全部を前記第1の工程へ戻す方法としては、公知のいかなる方法をも適用することができる。また、その際に、新たに塩を添加することも可能である。
[0042]
[アクリル酸の製造方法]
次に、本発明のアクリル酸の製造方法の一実施形態例について説明する。
本実施形態例のアクリル酸の製造方法は、上記アクロレインの製造方法により得たアクロレインを分子状酸素で酸化してアクリル酸を得る方法である。
【0044】
この酸化反応では、反応速度を高める点で、酸化反応用触媒を用いることが好ましい。酸化反応用触媒としては、例えば、金属酸化物及びそれらの混合物や複合酸化物などを含む固体触媒が挙げられる。金属酸化物を構成する金属としては、鉄、モリブデン、チタン、バナジウム、タングステン、アンチモン、錫、及び銅からなる群から選ばれる1種以上の金属が挙げられる。
【0045】
酸化触媒は、上記酸化物を担体に担持した担持型触媒であってもよい。担体としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びこられの混合物または複合酸化物、炭化珪素などが挙げられる。
【0046】
触媒の形状については、特に限定はされない。例えば、粉体状、球状、円柱状、鞍状、ハニカム状などが挙げられる。
触媒の調製方法としては、例えば、含浸法、沈殿法、イオン交換法などが挙げられる。
【0047】
また、触媒は、予め気体中で焼成することも可能である。気体としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、空気などが挙げられる。
【0048】
酸化反応は、例えば、固定床の気相反応、流動床の気相反応などが適用される。
酸化反応の温度は、反応の効率が高いことから、150〜400℃が好ましく、200〜350℃がより好ましい。
【0049】
圧力は0.01〜10MPaであることが好ましく、0.05〜10MPaであることがより好ましい。
【0050】
酸化反応における分子状酸素としては、酸素ガスそのものを供給してもよく、空気として供給してもよい。
【0051】
酸化反応の際には、不活性ガスを添加することもできる。不活性ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、希ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン等)、水蒸気などが挙げられる。
【0052】
酸化反応におけるガス組成は爆発範囲内にならないように調整する必要がある。そのような組成としては、例えば、アクロレイン1〜15体積%、酸素0.5〜25体積%、水蒸気0〜50体積%、窒素20〜80体積%の組成が挙げられる。
【0053】
酸化反応においては、通常、第2の工程で得たアクロレインが用いられるが、第1の工程で得たガス状のアクロレインをそのまま、分子状酸素及び水蒸気などの不活性ガスと混合して反応に供してもよい。この場合には、プロピレンからの二段気相酸化によるアクリル酸の製造で用いられているようなタンデムあるいはシングル反応器を用いることができる。
【0054】
酸化反応により得たアクリル酸には、重合を防止するために、重合防止剤を添加することが好ましい。重合防止剤としては、アクロレインに添加するものと同様のものが使用される。重合防止剤を添加する場合の重合防止剤添加量は、アクリル酸を100質量%とした際の1質量ppm〜1質量%であることが好ましい。
【0055】
また、酸化反応により得たアクリル酸は、各種化成品やポリマーの原料として用いられるから、精製することが好ましい。精製方法としては、アクロレインの精製方法と同様であり、蒸留が好ましい。蒸留方法も、アクロレインの蒸留と同様の方法が適用される。
【0056】
アクリル酸を多段蒸留する場合、蒸留条件としては、塔底部の温度を0〜120℃とすることが好ましく、5〜100℃とすることがより好ましく、10〜80℃とすることがさらに好ましい。塔底部の温度が120℃より高いと、アクリル酸が重合することがあり、塔底部の温度が0℃より低いと、冷却に要するエネルギー量が増えてしまう傾向にある。なお、蒸留の圧力は、温度との関係で決まる。
【0057】
以上説明したアクリル酸の製造方法によれば、アクロレインの製造方法と同様に、グリセリン混合物からアクリル酸を少ないエネルギー消費量で効率よく製造できる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
実施例1:
単蒸留管、温度計及び撹拌器を備えた500mlの四つ口フラスコに触媒として硫酸銅(II)・5水和物を9.2g、溶媒としてスルホランを150g仕込み、窒素雰囲気下で激しく撹拌させ、油浴に浸漬させて280℃に加温した。温度が安定してから定量ポンプにて、1時間当りグリセリン30g、水3.3g、硫酸(無水物換算)0.32gからなる組成物をフラスコに供給し反応を行った。3時間供給した後、更に1時間反応させた。単蒸留管より留出したガス及び液は冷却し凝縮させた。留出液と反応後のフラスコのボトム残存液をガスクロマトグラフィーにて分析した。グリセリン転化率は98%であり、グリセリン基準のアクロレイン収率は61%であった。グリセリン転化率及びアクロレイン収率は以下の式より求めた。
【数1】

【数2】

【0060】
比較例1:
硫酸を供給しなかった以外は実施例1と同様に反応を行ったところ、グリセリン転化率は97%、アクロレイン収率は60%であった。
【0061】
実施例2:
触媒として硫酸銅(II)・5水和物9.2gの代わりに硫酸水素カリウム5.0gとした以外は実施例1と同様に反応を行ったところ、グリセリン転化率は55%、アクロレイン収率は26%であった。
【0062】
比較例2:
硫酸を供給しなかった以外は実施例2と同様に反応を行ったところ、グリセリン転化率は83%、アクロレイン収率は14%であった。
【0063】
比較例3:
硫酸(無水物換算)0.32gの代わりにリン酸(無水物換算)0.32gとしたとした以外は実施例2と同様に反応を行った。
グリセリン転化率は81%であり、グリセリン基準のアクロレイン収率は8%であった。
【0064】
実施例3:
単蒸留管、温度計及び撹拌器を備えた500mlの四つ口フラスコに触媒としてリン酸鉄(II)・4水和物を8.2g、溶媒として流動パラフィンを150g仕込み、窒素雰囲気下で激しく撹拌させ、油浴に浸漬させて320℃に加温した。温度が安定してから定量ポンプにて、1時間あたりグリセリン30g、水3.3g、リン酸(無水物換算)0.32gからなる組成物をフラスコに供給し反応を行った。3時間供給した後、更に1時間反応させた。単蒸留管より留出したガス及び液は冷却し凝縮させた。留出液と反応後のフラスコのボトム残存液をガスクロマトグラフィーにて分析した。グリセリン転化率は95%であり、グリセリン基準のアクロレイン収率は63%であった。
【0065】
比較例4:
リン酸を供給しなかった以外は実施例3と同様に反応を行ったところ、グリセリン転化率は89%、アクロレイン収率は57%であった。
【0066】
実施例4:アクリル酸の気相反応
パラモリブデン酸アンモニウム7.0g、メタバナジン酸アンモニウム2.1g、パラタングステン酸アンモニウム0.89g、水50mlをフラスコに仕込み、撹拌しながら90℃に加熱して溶解させた。これにより得た溶解液に、硝酸銅1.8gを水15mlに溶解させて予め調製した硝酸銅水溶液を添加し、触媒調製用溶液を得た。
この触媒調製用溶液をα−アルミナ20gに含浸させ、次いで、蒸発乾固させた。乾燥後、空気雰囲気下において400℃で3時間焼成して、α−アルミナ担持のモリブデン−バナジウム−タングステン−銅の酸化物からなる酸化反応用触媒を得た。
内径10mm×長さ300mmのステンレス製反応管に、上記酸化反応用触媒5mlを充填した。そして、その反応管に、実施例1で得たアクロレインを用いて、アクロレイン3体積%、酸素3体積%、水蒸気30体積%、窒素64体積%を含む混合ガスを、空間速度3000/時間で導入した。また、反応管を280℃に電気炉により加熱して、酸化反応させた。その際、反応管出口を冷却し、反応ガスを凝縮させて、捕集した。捕集液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、アクロレイン転化率は98%、アクロレイン基準のアクリル酸収率は90%であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば化石資源由来であるプロピレンに依存することなく、炭素源を大気中の二酸化炭素とする植物性油脂由来のグリセリン、また植物性油脂などを飼料とする家畜等の動物性油脂由来のグリセリンから効率的にアクロレイン及びアクリル酸を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離したときに共通の陰イオンを生成する塩及び酸の存在下にグリセリンを脱水反応させる工程を有することを特徴とするアクロレインの製造方法。
【請求項2】
前記グリセリンの脱水反応工程(1)、
前記脱水反応で生成したアクロレインを回収する工程(2)、
前記工程(2)で残った塩の一部または全部を回収する工程(3)、及び
前記工程(3)で回収された塩の一部または全部を前記工程(1)へ戻す工程(4)を有する請求項1に記載のアクロレインの製造方法。
【請求項3】
前記脱水反応工程(1)と前記アクロレインを回収する工程(2)とを同時に行う請求項2に記載のアクロレインの製造方法。
【請求項4】
前記脱水反応工程(1)、前記アクロレインを回収する工程(2)及び前記塩の一部または全部を回収する工程(3)を同時に行う請求項2に記載のアクロレインの製造方法。
【請求項5】
前記塩が、硫酸塩、ピロ硫酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のアクロレインの製造方法。
【請求項6】
前記酸が、硫酸、ピロ硫酸、リン酸、ピロリン酸、硝酸及びハロゲン化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のアクロレインの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のアクロレインの製造方法により得られたアクロレインと、分子状酸素とを反応させることを特徴とするアクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−292774(P2009−292774A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148097(P2008−148097)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】