説明

アスベスト無害化処理時の加熱温度判定方法

【課題】アスベスト含有材料の無害化処理時に到達した加熱温度を正確かつ容易に評価することができる加熱温度判定方法を提供する。
【解決手段】アスベスト含有材料を加熱して無害化処理するにあたり、クリソタイルとカルシウムとを含むアスベスト含有検体を加熱して得られるオケルマナイト生成量と加熱温度との関係に基づいて、アスベスト含有材料が無害化処理時に到達する加熱温度を判定する。例えば、オケルマナイト生成量はX線回折によって測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有材料を加熱して無害化する際の加熱温度を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石綿スレートや石綿セメント板などといったアスベスト(石綿)を含有する材料の廃棄にあたっては、アスベストの無害化が必要とされる。これらの材料におけるアスベストの無害化のためには、主として加熱処理が採用されている。すなわち、これらの材料が加熱されることで、この材料中のアスベストが熱変性して無害化される。アスベストは針状結晶を有することで障害を引き起こすものであるが、アスベストは一定温度まで加熱されると結晶性が変性して無害化することが知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−60789号公報
【特許文献2】特開平7−171536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建材などの一定の大きさの部材を粉砕等することなくそのまま加熱する無害化処理においては、部材内の温度を均一化することは難しい。特にアスベストを含有する部材においては、アスベスト自体が高い断熱性を有し、しかもこの部材がセメント硬化物である場合には部材に含まれているセメントや充填材なども熱伝導性が低い材料であるため、温度の不均一が生じやすい。したがって、建材などの部材を加熱する場合、部材の表面の温度がアスベスト変性温度を超えていたとしても、部材内部の温度がアスベスト変性温度に到達していない可能性がある。加熱処理した部材に、加熱時の到達温度がアスベスト変性温度よりも低くなる箇所が生じると、その箇所における無害化がされなくなってしまう。加熱処理時間を長くしたり、加熱温度を高温にしたりして、部材内のアスベストを完全に無害化できる処理条件にすることも考えられるが、加熱処理時間を長くすると処理効率が低下し、また、加熱温度を必要以上に過剰に高温にすると処理装置を老朽化させるといった問題が生じ得る。そこで、無害化処理は、なるべく低い温度で短い処理時間で行うことが望まれる。
【0005】
アスベストが無害化されたかどうかを確認する方法として、JIS A 1481「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」及びTEM(透過型電子顕微鏡)による確認方法がある。しかしながら、建材などの部材については、これらの方法で無害化を確実に確認することは容易ではない。建材など一定の大きさの部材では、加熱処理時に温度の不均一が生じるので、無害化を確認するためには、部材内のあらゆる位置においてサンプリングをして分析試験を行わなければならず、分析に手間と時間がかかり、また、サンプリングが多くなるほど分析費用も高くなるからである。そのため、加熱温度により無害化を確認することがより重要となっている。
【0006】
ところで、板状の部材などにおいては処理効率を高めるために積み重ねて加熱することがある。この場合、積載された部材は積載物となって体積がより大きくなり、積載物の中心部(芯部)においてはアスベスト変性温度にさらに到達しにくくなる。また、積み重ねられた部材間において熱が十分に伝達されなくなって、積載物の中心部では温度上昇が抑制される可能性もある。そして、積載物の端部と中心部とにおける加熱温度のバラツキにより無害化が十分に行われないといった問題が生じ得る。
【0007】
このような問題に対処するために、無害化処理にあたっては、マイクロ波発振により部材の内部を加熱することが考えられる。この場合、マイクロ波発振により部材を内部から加熱することが可能となり、より効率的に無害化処理をすることができる。しかしながら、マイクロ波発振を用いた場合、外部からの加熱と、部材内部での発熱とにより部材が加熱されるため、部材内部の温度がどの程度まで到達したのかを確認することはより難しくなってしまう。
【0008】
温度評価の方法としては、高温加熱処理時の温度評価にしばしば採用されているリファサーモ、ゼーゲルコーン、シース熱電対等を使用する方法が考えられる。
【0009】
しかし、リファサーモは、相当の時間加熱がされなければ温度の評価が困難であること、並びに部材との間で反応が生じるおそれがあるためにリファサーモと部材との間にアルミナ等を介在させるなどの必要が生じることから、非常に使い勝手が悪い。また、ゼーゲルコーンは、その形状のため、部材間などに配置することは困難である。また、シース熱電対は、ローラハースキルンなどの移動式トンネル炉での高温加熱処理においては、部材と共に移動させることが困難である。そして、これらの方法では、マイクロ波発振によって部材を加熱する場合、マイクロ波対策が必要となるため、常時計測は困難である。
【0010】
また、温度評価の方法として放射温度計を使用した温度測定も考えられる。放射温度計には、接触式の放射温度計と、非接触式の放射温度計とがある。しかし、接触式の放射温度計は、シース熱電対の場合と同様に、部材と共に移動させることが困難である。また、非接触式の放射温度計では、表面温度が計測されるものの測定可能な箇所が表面に制限されるため、部材内部や積載物の中心部の温度は計測することができない。
【0011】
このように既存の温度測定方法による部材の到達温度の評価には、大きな制約が伴っている。そして、温度計測器を使用して温度測定できたとしても、部材や積載物の表面の温度を判定できる程度であり、部材の内部や積載物の中心部の温度まで判定することは難しかった。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、アスベスト含有材料の無害化処理時に到達する加熱温度を正確かつ容易に評価することができる加熱温度判定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アスベスト含有材料を加熱して無害化処理するにあたり、クリソタイルとカルシウムとを含むアスベスト含有検体を加熱して得られるオケルマナイト生成量と加熱温度との関係に基づいて、アスベスト含有材料が無害化処理時に到達する加熱温度を判定することを特徴とする、アスベスト無害化処理時の加熱温度判定方法である。
【0014】
本発明にあっては、オケルマナイト生成量がX線回折によって測定されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無害化処理時に到達するアスベスト含有材料の加熱温度を正確且つ容易に判定することができるものであり、本発明の方法によって温度判定を行うことにより、アスベスト含有材料を安全で効率よく低コストで確実に無害化処理することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】加熱温度判定の一例を示すグラフである。
【図2】アスベスト含有検体の加熱処理物の一例を示すX線回折チャートである。
【図3】オケルマナイト生成量と加熱温度との関係の一例を示すグラフである。
【図4】アスベスト無害化処理の工程の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
アスベスト含有材料としては、アスベストを含有する部材が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、部材とは、粉末などの不定形の形態ではなく、一定の形状に成形されたものをいう。アスベスト含有材料としては、例えば、建築資材である石綿スレート、石綿セメント板、石綿セメントサイディングなどが挙げられる。具体的には、屋根材、壁材などの建築材料(建築板)が例示される。アスベスト含有材料は、アスベストが混合して成形されたものであっても、成形物にアスベストが吹きつけられたものであってもよい。
【0018】
図4に、アスベスト含有材料の無害化処理の工程の一例を示す。この無害化処理工程では、加熱炉2によりアスベスト含有材料である部材1を加熱し、部材1を無害化処理する。図4の形態では、部材1を搬送しながら加熱するものを示しているが、静置して加熱するものであってもよい。
【0019】
加熱炉2は、一端に入口21、他端に出口22をそれぞれ備えており、細長いトンネル炉として形成されている。このような加熱炉2としては、例えば、ローラハースキルンが挙げられる。加熱炉2の入口21から部材1が加熱炉2に導入される。
【0020】
ここで、部材1は、加熱炉2による加熱処理の前に複数積み重ねられ、積載物3となっていてもよい。積載して処理することによって処理効率を高めることができる。複数の部材1が積み重ねられて形成された部材1の集合が積載物3となる。一つの積載物3を構成する部材1の数は、加熱炉2の能力や処理効率等を考慮して適宜決定されるものであって、特に限定されない。そして、加熱処理時には、この積載物3が入口21から加熱炉2内に導入され、コンベアなどの搬送装置の上で所定の速度で送られ、加熱炉2内を通過した後に、出口22から加熱炉2外へ送り出される。
【0021】
搬送装置は、ローラコンベアやベルトコンベアなどの適宜の装置を用いることができる。コンベア上に部材1を直接載せて搬送してもよいし、部材1を載置して移動する搬送台を用い、この搬送台を搬送するようにしてもよい。また、レール上に台車を走らせるレール方式の搬送装置であってもよい。搬送台や台車によって部材1を載置すれば、加熱により部材1が脆くなったとしても、搬送装置から落下するようなことを防ぐことができる。搬送台や台車に部材1を載置する場合、従来の方法では搬送台や台車と接触する部分における加熱温度の判定が難しくなるが、本発明によれば、温度の判定を簡単に行うことができる。
【0022】
加熱炉2内には、加熱手段が設けられている。加熱手段としては外部加熱手段と内部加熱手段のうち、外部加熱手段のみが設けられてもよく、あるいは内部加熱手段のみが設けられてもよいが、好ましくは、外部加熱手段と内部加熱手段との両方が設けられる。これらの加熱手段によって部材1をアスベスト変性温度まで加熱することが可能となる。
【0023】
外部加熱手段は、それ自体が熱を放出することによって、部材1に外側から熱を加えて、部材1を外部から加熱させる手段である。外部加熱手段の具体例としては、電気ヒータなどのヒータが挙げられる。
【0024】
内部加熱手段は、それ自体が熱を放出することなく、部材1を内部から加熱させる手段である。内部加熱手段の具体例としては、マイクロ波発振器などのエネルギー付与装置が挙げられる。マイクロ波発振器が使用されると、マイクロ波(高周波)による高周波誘電加熱によって部材1自体が発熱し、部材1が内部から加熱される。マイクロ波の周波数としては、日本の電波法で許可されている915MHz帯、及び2.45GHz帯が挙げられる。
【0025】
加熱炉2内は、複数の加熱ゾーンに区切られていてもよい。加熱ゾーンを複数に区切ることによって効率よく部材1を加熱することができ、また温度制御をしやすくすることができる。また、加熱炉2内の出口22側には、冷却ゾーンが設けられていてもよい。冷却ゾーンが設けられることにより、部材1を外部温度に近づけて出口22から導出することが可能となる。
【0026】
例えば、第1〜3の加熱ゾーンと冷却ゾーンとを備えた加熱炉2の加熱においては、次のような処理工程にすることができる。
【0027】
まず、第1加熱ゾーンでは、部材1が加熱されることにより、部材1中の自由水及び結晶水が飛散する。第1加熱ゾーンでは内部加熱手段が比較的小さな出力で作動すると、部材1の内部での昇温速度が緩やかになり、このため、部材1から自由水や結晶水が徐々に蒸発するようになる。自由水とは、部材1に取り込まれている、結露水、気中水分、雨水等や、水硬化反応により部材1が作製される場合の反応の余剰水などを指す。これにより、部材1の内部での自由水及び結晶水の急激な蒸発が抑制され、急激な水の蒸発による部材1の爆裂が抑制される。
【0028】
次に、第2加熱ゾーンでは、部材1が更に加熱される。第2加熱ゾーンでは、例えば、内部加熱手段の出力が第1加熱ゾーンよりも高くされることで、部材1の内部の温度上昇が大きくなり、部材1の内部と表面の温度とが近づけられる。このように段階的に内部加熱手段の出力を上げることにより、部材1を効率よく加熱することができる。
【0029】
そして、第3加熱ゾーンでは、部材1がアスベストの結晶性が変性する温度まで加熱される。これにより、部材1の無害化がなされる。
【0030】
最後に、冷却ゾーンにおいて、部材1が冷却される。冷却ゾーンは、加熱ゾーンよりも低い温度のゾーンであり、加熱された部材1の温度を緩やかに下げるゾーンである。この冷却ゾーンにより、部材1が急激に冷却して部材1に過剰な負荷がかかることを低減し、衝撃を和らげて部材1を加熱炉2から導出することができる。また、冷却ゾーンが加熱ゾーンと外部との温度障壁となって、加熱ゾーンの温度が容易に外部に逃げないようにすることができる。
【0031】
以上の処理工程は一例であり、本発明は、この処理工程に限定されるものではない。
【0032】
そして、本発明では、アスベスト含有材料を加熱して無害化処理するにあたり、クリソタイルとカルシウムとを含むアスベスト含有検体を加熱して得られるオケルマナイト生成量と加熱温度との関係に基づいて、アスベスト含有材料が無害化処理時に到達する加熱温度を判定する。
【0033】
アスベスト含有検体は、アスベスト含有材料が無害化処理時に到達する加熱温度を判定するための検体である。アスベスト含有検体は、クリソタイルとカルシウムとを含むものであればよく、アスベスト含有材料と同一の組成のものであってもよく、あるいは異なる組成のものであってもよい。アスベスト含有検体においてはクリソタイルがアスベスト成分となる。また、アスベスト含有検体とアスベスト含有材料とに含まれるアスベストにおいては、アスベストの種類が同じあってもよく、異なっていてもよい。温度判定の正確性の観点からは、アスベスト含有材料とアスベスト含有検体の組成とが同一、すなわち、アスベストの種類及び含有量を含む組成全体が両者で同一であることが好ましい。また、アスベスト含有材料が、アスベスト含有検体とは異なる種類のアスベストを含むものであることも好ましく、この場合、オケルマナイトが生成しないようなアスベスト含有材料であっても、加熱温度を正確に判定することができる。ただし、より正確な温度判定のためには、アスベストの種類が異なっていたとしても、アスベストの含有量が同一であるか、あるいは、アスベスト以外の成分が同じであるか、又は、その両方であることが好ましい。
【0034】
アスベスト含有検体としては、加熱処理される際のアスベスト含有材料(部材又は積載物)よりも小さい体積のものを用いることができる。それにより、アスベスト含有検体にかけられる温度が不均一となることを防止し、アスベスト含有検体によるアスベスト含有材料の温度の判定性を高めることができる。アスベスト含有検体としては、例えば、上記のように複数の部材が積み重ねられて積載物の状態となって加熱処理される場合は、一つの部材をアスベスト含有検体として用いることができる。また、部材を切断又は破砕等して得た破片をアスベスト含有検体として用いてもよい。
【0035】
ここで、アスベスト(石綿)の種類について主要なものを列記する。なお、分解温度とは、結晶構造が崩壊して脱水和物または脱水素をきたし、強度を失う温度をいう。
【0036】
(クリソタイル)
化学式は、3MgO・2SiO・2HO又はMgSi10(OH)である。温石綿、白石綿とも呼ばれる。分解濃度は450〜700℃程度である。
【0037】
(アンソフィライト)
化学式は、(Mg,Fe2+Si22(OH,F)である。直閃石綿とも呼ばれる。分解温度は620〜960℃程度である。
【0038】
(アモサイト)
化学式は、(Mg,Fe2+Si22(OH)である。茶石綿とも呼ばれる。分解温度は600〜800℃程度である。
【0039】
(トレモライト)
化学式は、Ca(Mg,Fe2+Si22(OH,F)である。透角閃石綿とも呼ばれる。分解温度は600〜850℃程度である。
【0040】
(アクチノライト)
化学式は、Ca(Mg,Fe2+Si22(OH,F)である。陽起石綿とも呼ばれる。分解温度は950〜1040℃程度である。
【0041】
(クロシドライト)
化学式は、NaFe2+Fe3+Si22(OH,F)である。青石綿とも呼ばれる。分解温度は400〜600℃程度である。
【0042】
アスベスト含有検体は、これらのアスベストのうち、クリソタイルを含有するものである。
【0043】
また、アスベスト含有材料としては、クリソタイル、アンソフィライト、アモサイト、トレモライト、アクチノライト、クロシドライトのいずれかのアスベストを含むものを用いることができる。ただし、Mg源のないクロシドライトよりも、それ以外のアスベスト種の方が好適に用いられる。
【0044】
アスベスト含有検体はカルシウムを含むものであるが、このカルシウムはセメント系材料に由来するものとすることができる。例えば、石綿スレート、石綿セメント板、石綿セメントサイディングなどにおいては、セメント材料由来のカルシウムが含まれている。アスベスト含有検体及びアスベスト含有材料におけるアスベスト以外の成分としては、珪酸カルシウム(xCaO・ySiO・zHO)、α−クオーツ(SiO)、炭酸カルシウム(CaCO)などを例示することができる。
【0045】
本発明による温度判定においては、アスベスト含有検体を加熱することにより、アスベスト含有検体中のクリソタイルと、カルシウムを含むクリソタイル以外の成分とが反応してオケルマナイトが生成する。例えば、クリソタイル、珪酸カルシウム、α−クオーツ及び炭酸カルシウムを含むアスベスト含有検体を加熱すると、オケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)、ワラストナイト(CaO・SiO)、メルウィナイト(3CaO・MgO・2SiO)、フォルステライト(2MgO・SiO)及びα−クオーツ(SiO)が生成する。
【0046】
アスベスト含有検体を加熱する際の加熱条件は、アスベスト含有材料を無害化処理する際の加熱条件と同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、電気ヒータで所定の雰囲気温度にした加熱炉内にアスベスト含有検体を所定時間放置することにより、アスベスト含有検体を加熱することができる。あるいは、アスベスト含有材料の無害化処理に用いるローラハースキルンによってアスベスト含有検体を加熱してもよい。この際、マイクロ波を発振しても発振しなくてもよい。
【0047】
オケルマナイトは、X線回折チャートにより分析することができ、その生成量は温度依存性がある。すなわち、アスベスト含有検体を加熱すると850℃程度でオケルマナイトが生成し、さらに加熱するほど、X線回折チャートにおけるオケルマナイトのピークが大きくなる。
【0048】
図2にX線回折チャートの一例を示す。このX線回折チャートは、住宅屋根用化粧石綿スレートを検体として電気炉(電気ヒータを設けた加熱炉)にて雰囲気温度850〜1100℃で加熱処理して得られたものである。この検体は、クリソタイル、珪酸カルシウム、α−クオーツ、炭酸カルシウムを含んでいる。各チャートは、下から順に、850℃での加熱(第1番目)、850℃での加熱(第2番目)、1000℃での加熱、1100℃での加熱を示している。なお、チャートを見やすくするために、850℃の第1番目、850℃の第2番目、1000℃、1100℃のチャートのベースラインをそれぞれ、1000、3000、5000、8000(cps)に変換して表示している。850℃での加熱は、同条件で2検体行っている。
【0049】
チャート中のアルファベット記号は各ピークにおける生成物の帰属を示し、A:オケルマナイト、W:ワラストナイト、M:メルウィナイト、F:フォルステライト、Q:α−クオーツを表している。このチャートに示すように、オケルマナイト(A)は加熱温度が高くなるほどピーク強度及びピーク面積が大きくなっている。
【0050】
図3に、図2のX線回折チャートで得られたオケルマナイトのピーク強度と温度との関係をグラフで示す。グラフにおける各点は、オケルマナイトのピーク強度(ピークの高さ)を横軸にし、温度を縦軸にしてプロットしたものである。またグラフにおける直線は、このプロットに電子演算による近似直線処理を施して得られたものである。このように、ピーク強度と温度との関係は直線状になる。このとき、相関係数はR=0.9935となっており、加熱温度とオケルマナイト生成量との間には高い相関性が得られている。そして、この直線を検量線として利用することができる。なお、図3では、ピーク強度と温度との関係を示したが、ピーク強度の代わりにピーク面積を用いても、同様の関係が得られる。
【0051】
このようにして得られたアスベスト含有検体の加熱温度とオケルマナイト生成量との関係から、アスベスト含有材料の無害化処理における加熱温度を判定することができる。すなわち、アスベスト含有材料を加熱して無害化処理して得られたアスベスト含有材料加熱処理物のX線回折チャートのピーク強度(又はピーク面積)の値から、上記の検量線を用いて無害化処理時に到達した加熱温度を算出できる。X線回折においては、アスベスト含有材料加熱処理物の判定したい部位をサンプリングし、そのサンプルについてX線回折する。例えば、図3の関係においては、サンプルのピーク強度が3000(cps)であったとすると、検量線の関係式y=0.0398x+835.09に、x=3000を代入し、y=955が得られ、到達温度が955℃であったと判定できる。このサンプルについては、JIS A 1481「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」及びTEM(透過型電子顕微鏡)により、アスベストが無害化されたかどうかを確認することもできる。
【0052】
さらに、本発明では、加熱温度の判定が可能であるため、クリソタイル以外のアスベスト種を含有するアスベスト含有材料について、変性温度に到達可能かどうか、つまり無害化処理可能かどうかを判断することができる。次にその一例を示す。まず、クリソタイルとカルシウムとを含むアスベスト含有検体を用い、上記と同様の方法にて、オケルマナイト生成量と加熱温度との関係を得る。次に、クリソタイルとカルシウムとを含むアスベスト含有材料を加熱処理し、サンプリングによって得たオケルマナイトの生成量からそのサンプリング部位における到達温度を判定する。その到達温度が、目的とするアスベスト種のアスベスト変性温度に到達していれば、前記アスベスト含有材料と少なくとも同様の条件下での加熱において、目的とする他のアスベスト含有材料の無害化処理が可能となることが分かる。例えば、到達温度が950℃よりも大きいと、アクチノライトの分解温度は950〜1040℃であるため、アクチノライトの分解が可能となる。
【0053】
なお、上記においては、オケルマナイトの生成量をX線回折によって測定したが、本発明はこれに限られるものではなく、オケルマナイトの生成量を測定できるのであれば、X線回折以外の適宜の測定方法を用いてもよい。
【0054】
以上のように、本発明によれば、アスベストの無害化処理にあたり、アスベストの変性完了の確認だけではなく、到達温度の予測及び判定が可能となる。この方法は、Mgを含む石綿種(クリソタイル、アンソフィライト、アモサイト、トレモナイト、アクチノライト)と、珪酸カルシウムなどのカルシウムとを混合した石綿含有部材の無害化処理における温度判定に好適に利用できる。そして、アスベスト含有材料として、石綿材料を吹き付け等した飛散性部材でも、石綿材料を含有させて建築板等に成形した非飛散性部材でも、いずれにも利用が可能である。
【0055】
また、石綿種によって分解温度が異なるものであるが、無害化処理時における到達温度が分かるため、石綿種が異なっている場合であっても、分解温度以上に加熱温度が到達していることを確認することができ、無害化を迅速に簡単に確認することが可能となる。
【0056】
また、到達温度の判定結果に基づいて、加熱炉における加熱条件や、加熱時間の条件を設定し、無害化処理の条件を好適化することができるので、安全に処理効率よく低コストでアスベスト含有材料を無害化処理することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0058】
マイクロ波発振器と電気ヒータを備えたハイブリッド式のローラハースキルンにおいて、雰囲気温度1100℃、マイクロ波出力30kWの条件にて、住宅屋根用化粧石綿スレート(板状の部材)を6〜9枚積載して加熱による無害化処理を施した。なお、住宅屋根用化粧石綿スレートとしては、図2、3の例で使用したものと同一のものを使用した。加熱処理後の住宅屋根用石綿スレートについて、積載物の中心部(3〜5枚目の石綿スレートの中央部)を積載芯部としてサンプリング(採取)し、サンプリングによって得たサンプルをX線回折した。
【0059】
図1に、X線回折によって得たピーク強度に基づき、上記の図3の検量線によって算出した温度を積載枚数ごとにプロットしたグラフを示す。この各温度が、各積載物の積載芯部が無害化処理時に到達した加熱温度となる。
【0060】
図1のグラフに示すように、積載枚数が9枚までは、積載芯部の到達温度が835℃よりも高くなっている。この住宅屋根用石綿スレートに含まれる石綿の石綿種はクリソタイルであり、いずれの積載枚数でも分解温度よりも高温となっていることから、積載芯部までアスベストの無害化処理が行われていることが確認された。また、各サンプルについて、JIS A 1481「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」にて判定を行ったところ、石綿の存在は認められなかった。よって、到達温度により無害化処理の可否が判定されていることが分かる。
【0061】
図1のグラフから、積載枚数が多くなるほど部材内部の到達温度は低くなっており、同種の部材を用いる方法では、積載枚数は9枚までにすることが好ましいことが確認された。このように、上記の方法によれば、部材の積載枚数など、アスベスト含有材料の処理量を決定することができる。
【0062】
また、図1のグラフから、石綿種がアクチノライトであるアスベスト含有材料である場合、アクチノライトの分解温度は950〜1040℃であるため、積載枚数は7枚までが適切であり、積載枚数が8枚及び9枚では、分解温度に到達せず、無害化処理が完全でなくなって石綿が検出されるものと推定できる。
【0063】
この実施例で示すように、本発明によれば、無害化の判定だけではなく、無害化処理時の加熱温度の判定も可能となる。そして、部材を積載した場合であっても、サンプリングした部位の温度を判定することができるので、温度を直接測定することが困難な部材内部や積載芯部における温度の判定が可能となり、アスベスト含有材料内部における温度のバラツキ確認も可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 部材
2 加熱炉
3 積載物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有材料を加熱して無害化処理するにあたり、クリソタイルとカルシウムとを含むアスベスト含有検体を加熱して得られるオケルマナイト生成量と加熱温度との関係に基づいて、アスベスト含有材料が無害化処理時に到達する加熱温度を判定することを特徴とする、アスベスト無害化処理時の加熱温度判定方法。
【請求項2】
オケルマナイト生成量がX線回折によって測定されたものであることを特徴とする、請求項1に記載のアスベスト無害化処理時の加熱温度判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24278(P2012−24278A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164971(P2010−164971)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(503367376)ケイミュー株式会社 (467)
【Fターム(参考)】