説明

アナターゼ型酸化チタンおよび透明導電薄膜

【課題】均質性が期待でき、耐湿性の高い、新規導電体または新規透明導電薄膜を提供する。
【解決手段】ホウ素のドープ量を1×1019cm−3〜5×1022cm−3としたアナターゼ型酸化チタンである。また、ホウ素のドープ量を5×1020cm−3〜5×1022cm−3としたアナターゼ型酸化チタンを用いた透明導電薄膜である。これらは、ターゲットを直径100mmの酸化チタンとし、この上に5mm角のホウ素(B)チップを均一に配置し、RFマグネトロンスパッタ法により得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素をドープしたアナターゼ型酸化チタンまたはこれを用いた透明導電薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PDP(プラズマディスプレイパネル)やELパネルなどに適用するために、透明電極の研究開発が進んでいる。実際、ITOやZnOの研究開発が進められITOを用いたものは製品化されている。
【0003】
また、Nb(ニオブ)をドープした酸化チタンも透明導電性を有することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】一杉 太郎ほか「ガラス状におけるNbドープ二酸化チタン薄膜の透明伝導性」 セラミックス 42(2007)No.1 pp32〜36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
すなわち、ITOを用いたパネルが盛んに製造されているが、Inが希少金属であり、資源枯渇問題が深刻化しつつある。また、Inの健康への影響も指摘されている。すなわち、ITO代替の素材が求められている。
【0006】
ここで、ITOは10−4[Ω・cm]のオーダーの導電性があるため、代替素材は、これ以上の導電性を持つことが一つの要求値とされる。しかしながら、非特許文献1に記載のNbドープチタニアでは透明性は確保されるものの、ニオブはイオン化エネルギーが小さいためイオン化しやすく、均質な膜形成の点において必ずしも拡散性が十分でない可能性がある。
【0007】
また、たとえば、透明電極の応用例として、太陽電池の配線があるが、太陽電池は種々の環境で用いられるため、要求性能が厳しい。ここで、ZnOは、耐湿性が劣るため代替素材が求められている。また、ZnOは、透明電極形成の上で汎用技術であるウェットエッチを採用しがたく、また、電極の微細化により耐湿性の観点から耐久性に限界が生じるという製造上および採用上の問題点がある。同様に、薄膜として用いる場合も、100nm程度の要求値の場合では、耐湿性・耐久性に問題が生じやすい。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、均質性が期待でき、耐湿性の高い、新規導電体または新規透明導電薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の酸化チタンは、ホウ素のドープ量を1×1019cm−3〜5×1022cm−3としたアナターゼ型酸化チタンである。
【0010】
また、請求項2に記載の酸化チタンは、抵抗値が10−3[Ω・cm]以下である、ホウ素がドープされたアナターゼ型酸化チタンである。ここで、10−3[Ω・cm]以下とは、10−3[Ω・cm]のオーダー〜10−4[Ω・cm]のオーダーの抵抗値を含むものである。
【0011】
また、請求項3に記載の透明導電薄膜は、ホウ素のドープ量を5×1020cm−3〜5×1022cm−3としたアナターゼ型酸化チタンを用いた透明導電薄膜である。
【0012】
また、請求項4に記載の透明導電薄膜は、抵抗値が10−3[Ω・cm]以下である、ホウ素がドープされたアナターゼ型酸化チタンを用いた透明導電薄膜である。ここで、10−3[Ω・cm]以下とは、10−3[Ω・cm]のオーダー〜10−4[Ω・cm]のオーダーの抵抗値を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば均質性が期待でき、耐湿性の高い、新規導電体または新規透明導電薄膜を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
ニオブの原子半径は0.145nmであり、チタンの原子半径(0.140nm)とほぼ同じである。このため非特許文献1のように酸化チタンへのニオブドープは技術的にも十分可能であると予見でき、また、得られたものを物性評価するのは自然な流れといえる。
【0015】
一方、ホウ素の原子半径が0.085nmでありチタンの原子半径と著しく相違し価数も異なるため、ドープが実現しないと予想される。本願発明者らは、あえてホウ素の酸化チタンへのドープをスパッタ法により試みた。すると、予想に反して、ホウ素がドープされ、驚くべきことに高い導電性を有する薄膜であった。
【0016】
より詳細な製法を説明する。ここでは、RFマグネトロンスパッタ法で石英ガラス基板上に薄膜形成を試みた。ターゲットは、直径100mmの酸化チタン(TiO)とし、この上に5mm角のホウ素(B)チップを均一に配置した複合ターゲットとし、スパッタリングガスとしてArガス(またはAr−10体積%Oガス)を5Paに固定して、次の条件でおこなった。
【0017】
RF周波数: 13.56MHz
プレート電圧: 200V
RF電力: 200W
なお、アナターゼ型の結晶を形成することを試み、基板は加熱しなかった(ただし、成膜中は80℃程度まで基板温度が上昇した)。
【0018】
得られた結晶を、X線回折により測定したところ、図1に示すように、アナターゼ型を示す結晶構造であることを確認した。
【0019】
また、ホウ素(B)のドープ量は、SIMS(二次イオン質量分析)により定量分析したところ、Bが5×1021cm−3ドープされていることが確認できた。また、四端子法を用いて、電気抵抗を調べたところ、350℃における抵抗率が1.5×10−3[Ω・cm]であった。なお、膜厚は、200nm〜300nmであった。
【0020】
このほか、種々条件を変え、ホウ素(B)をドープしたアナターゼ型酸化チタンを形成した。この結果、ホウ素のドープ量を1×1019cm−3〜5×1022cm−3としたアナターゼ型酸化チタンである場合に、透明性および導電性のある、良好な素材が得られることを確認した。導電性の目安としては、10−3[Ω・cm]以下であり好ましくは10−4[Ω・cm]オーダーである。ただし、Bを多くすると導電性の観点からは好ましいが、透明性の観点からはBが少ない方が好ましいので、要求される膜厚の仕様から、適宜ドープ量を決定すればよい。
【0021】
なお、ホウ素の薄膜中での定量分析は、難しく、微量である場合には特に難しい。そこで、SIMS(二次イオン質量分析)により定量分析した結果を、Bチップ面積と残りのTiOターゲット面積を一つの指標とし、横軸をB/TiO面積比、縦軸を1cmを単位体積としたBの個数として、プロットし、この点と原点とを結んだ線を検量線として比定することとした。すなわち、均一に配置するBチップの配置量(載置数量)を異ならせ、B/TiO面積比に対して、検量線に基づいて単位体積中のB数を決定した。
【0022】
なお、比較のためにホウ素がドープされたルチル型酸化チタンをガラス基板上に成膜した。成膜条件は、基板温度を400℃として、他の条件は同様とした。
【0023】
得られたものは、ホウ素のドープ量は1〜5×1022cm−3であり、電気抵抗率は10−1〜10−2[Ω・cm]オーダーであり、アナターゼ型の方が透明電極素材としては好適であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
膜質を向上させるために、DCスパッタを用い、また、基板を後熱処理(ポストアニール)することにより、更に低抵抗化し、実用性を向上させる方法を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アナターゼ型の結晶構造を確認したX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素のドープ量を1×1019cm−3〜5×1022cm−3としたアナターゼ型酸化チタン。
【請求項2】
抵抗値が10−3[Ω・cm]以下である、ホウ素がドープされたアナターゼ型酸化チタン。
【請求項3】
ホウ素のドープ量を5×1020cm−3〜5×1022cm−3としたアナターゼ型酸化チタンを用いた透明導電薄膜。
【請求項4】
抵抗値が10−3[Ω・cm]以下である、ホウ素がドープされたアナターゼ型酸化チタンを用いた透明導電薄膜。


【図1】
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【公開番号】特開2010−13309(P2010−13309A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173787(P2008−173787)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】