説明

アミノ基含有化合物の加熱中のアクリルアミド形成の低減方法

本発明は、還元物質の存在下、アミノ基含有化合物を加熱している間に形成されるアクリルアミドを低減する方法であって、加熱前にアミノ基含有化合物をアスコルビン酸および/またはビタミンEと混合することを含む該方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元物質の存在下、アミノ化合物を加熱している間に形成されるアクリルアミドを低減する方法であって、加熱前に、アミノ化合物をアスコルビン酸および/またはビタミンEと混合することを含んでなる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、特にポテト製品および穀物製品などの高炭水化物食品の熱応力の結果として、アクリルアミドが形成することは、ここしばらくの間、公開討論の主題となっている。動物実験の結果では、アクリルアミドは発癌性であり、大量投与において神経毒性となり得ることが発表されている。
【0003】
アクリルアミド形成の機構は現在のところ、相対的にはっきりしないままである。しかしながら、α-アミノ酸と還元糖のMaillard反応が中心的な役割を果たしていることを示す証拠が幾つかある。
【0004】
Nature 2002, 419, 448 (D. Mottramら)では、Maillard反応およびその関連するアクリルアミド形成が、モデル実験に基づきより詳細に記載されている。特に、グルコースとアミノ酸であるアスパラギンの反応により、かなり多くの量のアクリルアミド(アミノ酸1モル当たり100mg超)が、弱酸緩衝液の環境下、高温(例えば180℃)にて生成する。
【0005】
同様の結果がR. H. Stadlerらによって見出されている(Nature 2002; 419, 449)。
【0006】
Deutsche Lebensmittel Rundschau, Number 11, 2002, 397ff., R. WeisshaarおよびB. Gutscheには同様に、還元糖の存在下、アスパラギンの熱分解によるアクリルアミドの形成が記載されている。また、還元化合物として、とりわけ、アスコルビン酸も当研究者らに用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アミノ酸、還元糖およびアスコルビン酸を同時に使用することについてはこれまで、前掲の先行技術において記載がない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、アミノ化合物熱処理中に形成するアクリルアミドを有意に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、本発明の目的が冒頭で述べた方法により達成されることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の目的において、用語「アスコルビン酸」には、L-アスコルビン酸(ビタミンC)だけでなく、D-アスコルビン酸(イソアスコルビン酸)ならびにこれら2種のジアステレオ異性体の塩および脂肪酸エステルも含まれる。
【0011】
アスコルビン酸塩の例としては、アスコルビン酸ナトリウム,アスコルビン酸カリウムまたはアスコルビン酸カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩があるが、アスコルビン酸コリンまたはアスコルビン酸L-カルニチンなどのアスコルビン酸と有機アミン化合物の塩も含まれる。好ましくはアスコルビン酸アルカリ金属塩、特に好ましくはアスコルビン酸ナトリウムの使用である。
【0012】
アスコルビン酸の脂肪酸エステルは、例えば、L-アスコルビン酸パルミテートまたはL-アスコルビン酸ステアレートである。
【0013】
本発明の目的において、用語「ビタミンE」には、ビタミンE、ビタミンE誘導体またはその混合物が含まれる。本明細書において、用語「ビタミンE」は、天然のもしくは人工の、α-、β-、γ-もしくはδ-トコフェロールならびにトコトリエノールを意味する。ビタミンE誘導体は、例えば酢酸トコフェリルまたはパルミチン酸トコフェリルなどのC1-C20-アルカン酸のトコフェリルエステルである。
【0014】
本発明の方法における好ましい実施形態において、アクリルアミドの形成を低減するために、L-アスコルビン酸およびその塩、特にL-アスコルビン酸ナトリウムが用いられる。したがって、用語「アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩」は以下において、L体を意味する。
【0015】
アミノ化合物は、例えば、アスパラギン、グルタミン、メチオニン、システイン、トリプトファン、ヒスチジンまたはリジンなどのアミノ酸ならびにこれらアミノ酸を含むタンパク質である。好ましいアミノ酸は、アスパラギンであり、好ましいタンパク質はアスパラギン含有タンパク質である。
【0016】
本発明の方法に適切な還元物質は、好ましくは還元糖、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、リボース、ガラクトース、ラクトース、セロビオースまたはマルトースである。
【0017】
さらに本発明の方法の特徴は、90℃超、好ましくは120〜250℃の範囲、特に好ましくは150〜200℃の範囲の温度で、アミノ化合物を加熱している間に形成されるアクリルアミドを低減することである。
【0018】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態は、食品および動物飼料の加熱中、特に好ましくは澱粉食品の加熱中、さらに特に好ましくはポテト含有食品および穀物含有食品を焼く、(少量の油で)炒める(pan-frying)、煮込む(boiling)または(多量の油で)揚げる(deep-fat frying)間に形成されるアクリルアミドの低減をもたらす。
【0019】
ポテト含有食品および穀物含有食品の例は、とりわけ、ポテトチップ、フレンチフライ、焼きポテト(pan-fried potato)、ポテトパンケーキ、パン、ビスケット(crispbread)、ラスク(rusk)、朝食用穀物食品、クッキーおよびクラッカーである。
【0020】
本発明の方法を用いると、アスコルビン酸および/またはビタミンEを添加しない反応生成物と比較して、アクリルアミドの形成を60〜99%、好ましくは75〜90%低減することができる。
【0021】
使用するアスコルビン酸および/またはビタミンEの量は、アミノ化合物の量を基準として5〜150mol%の範囲である。
【0022】
本発明の方法の特に好ましい実施形態は、アスパラギンもしくはアスパラギン含有タンパク質を含むポテト含有食品または穀物含有食品を、150〜200℃の範囲における温度で加熱する間に形成されるアクリルアミドを低減する方法であって、加熱前にL-アスコルビン酸またはL-アスコルビン酸ナトリウムを当該食品に添加することを含んでなる方法に関する。
【実施例】
【0023】
本発明の方法を、以下の実施例を参照してより詳細に説明する。
【0024】
実施例1
1.32g(10mmol)のアスパラギンおよび1.98g(10mmol)のグルコース一水和物の混合物を、オートクレーブ中、10gの0.5Mのリン酸緩衝液(pH5.5)中で、180℃にて30分間加熱した。ガスクロマトグラフ分析によると、得られた混合物にはアスパラギン1モル当たり133mgのアクリルアミドが含まれていた。
【0025】
実施例2
実施例1と類似の方法にて、1.76g(10mmol)のアスコルビン酸を、1.32g(10mmol)のアスパラギンと共に加熱した。アスパラギン1モル当たり26mgのアクリルアミドを形成した。
【0026】
実施例3
実施例1と類似の方法にて、1.32gのアスパラギン、1.98gのグルコース一水和物および1.76gのアスコルビン酸を加熱した。アスパラギン1モル当たり31mgのアクリルアミドを形成した。
【0027】
実施例4
実施例1と類似の方法にて、1.32gのアスパラギン、1.98gのグルコース一水和物および0.88g(5mmol)のアスコルビン酸を加熱した。アスパラギン1モル当たり36mgのアクリルアミドを形成した。
【0028】
実施例5
アスコルビン酸を使用した焼きクッキー製造におけるアクリルアミド形成の低減
a. 配合済みの生地1g当たりアスパラギン含有量が1.4mgである85部の調製されたクッキー生地配合物(Greens「Ready to Mix Cookies」)を、15部の水と混合し、練り合わせた。次いでこの生地を伸ばし、厚さを約0.5cmとし、直径が約7cmのものを6つ打ち抜いた。
【0029】
b. 5aと類似の方法にて、調製された生地配合物1g当たり7mgのアスコルビン酸を追加混合した別のクッキー生地のものを6つさらに調製した。
【0030】
12個全てのサンプルを、190℃で、12.5分間焼いた。
【0031】
ベーキング工程後、これらサンプルのアクリルアミド含有量を分析した。以下の表に示された値は明確に、ベーキング工程前にアスコルビン酸に富んだクッキー生地を焼いている間に形成されるアクリルアミドが低減することを示している。
【表1】

【0032】
実施例6
アスコルビン酸を使用して油で揚げたポテトケーキ中のアクリルアミド形成の低減
a.ポテトフレーク(Vico S. A. 「Mr.Mash Real Potato Flakes」)1g当たりアスパラギン含有量が12.9mgである22部の乾燥させた無水ポテトフレークを、78部の沸騰水と混合し、しばらく放置した。得られたポテト生地の各30gを3つ、185℃のヒマワリ油で6.5分揚げた。
【0033】
b. 6aと類似の方法にて、用いたポテトフレーク1g当たり65mgのアスコルビン酸を追加混合した別のポテト生地のものを3つさらに調製した。
【0034】
油で揚げた後、全サンプルのアクリルアミド含有量を分析した。下記の表にて示された値は明確に、アスコルビン酸に富んだポテト生地を油で揚げている間に形成されるアクリルアミドが低減することを示している。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元物質の存在下アミノ化合物を加熱している間のアクリルアミドの形成を低減する方法であって、加熱前に該アミノ化合物とアスコルビン酸および/またはビタミンEを混合することを含んでなる該方法。
【請求項2】
アミノ化合物を還元糖の存在下で加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノ化合物がアミノ酸またはタンパク質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アスパラギンまたはアスパラギン含有タンパク質を加熱している間のアクリルアミドの形成を低減する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
90℃を超える温度でアクリルアミドの形成を低減する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
温度範囲が120〜250℃である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
食品および動物飼料を加熱している間のアクリルアミドの形成を低減するための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
澱粉食品の加熱における、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ポテト含有食品および穀物含有食品を、焼く、炒める、煮込む、または揚げる間のアクリルアミドの形成を低減するための、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アクリルアミドの形成が60〜99%低減する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
加熱前に、アミノ化合物をL-アスコルビン酸またはL-アスコルビン酸ナトリウムと混合することを含んでなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2006−522593(P2006−522593A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505035(P2006−505035)
【出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003692
【国際公開番号】WO2004/089111
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】