説明

アモルファス状炭素皮膜の形成方法及びアモルファス状炭素皮膜

【課題】耐熱サイクル特性、耐熱応力特性に優れたアモルファス状炭素皮膜の形成を可能とするアモルファス状炭素皮膜の形成方法及びアモルファス状炭素皮膜を提供する。
【解決手段】基材表面に、アモルファス状炭素皮膜を形成させる方法であって、前記基材のアモルファス状炭素皮膜形成面に、前記基材よりも炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を分散させ、化学蒸着法又は物理蒸着法により前記粒子上にアモルファス状炭素を成長させて、柱状のセグメントの集合体からなるアモルファス状炭素皮膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱サイクル特性に優れたアモルファス状炭素皮膜の形成方法及びアモルファス状炭素皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
主に炭素と水素から構成されるアモルファス状炭素皮膜(ダイヤモンドライクカーボン;DLC)は低摩擦、耐摩耗、ガスバリア性、透光性、耐食性等の多機能性を有しており様々な産業分野で使用されている。このような多機能性はダイヤモンドのSP3構造と、グラファイトのSP2構造がショートレンジで混在したアモルファス構造であることに加えて、炭素原子の一部が水素と結合していることに起因しており、製造プロセスや製造条件により皮膜中のSP3構造とSP2構造の構成比を変えたり、水素結合量を増減させることにより上記の特性をコントロールできるという特徴も有している。
【0003】
一般に上述のようなアモルファス状炭素皮膜の形成方法は、メタン等のガスを原料に用いる方法と、固体カーボンを原料に用いる方法とに大別でき、前者としてはプラズマCVD法やイオン化蒸着法、後者としてはスパッタリング法やアークイオンプレーティング法等が知られている。その特性としては、皮膜の硬さがHV2000〜HV6000程度とダイヤモンドに近い硬さの皮膜を製造することが可能で、低摩擦係数(μ=0.1程度)と相まって自動車の低フリクション化による燃費向上等が推進されている。
【0004】
上記のアモルファス状炭素皮膜は硬いが故に靭性が低く、その靭性改善方法として数多くの提案がなされている。一般的には硬質の金属やセラミックス層を下地層として設けることにより、表面のアモルファス状炭素皮膜の変形を抑制する方法が取られているが、脆い硬質の皮膜と柔らかい軟質の皮膜とを交互に積層することによりアモルファス状炭素皮膜全体の靭性の向上を図ることが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−261618号公報
【特許文献2】特開2002−322555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の積層構造のアモルファス状炭素皮膜は、偏荷重や局部荷重等により皮膜に局所的なひずみが生じた場合には有効であるが、熱応力のように皮膜の全体にひずみが発生するような場合には効果がない。すなわち、熱応力は皮膜の厚さ方向に対して垂直方向に作用するが、上記した積層構造のアモルファス状炭素皮膜では厚さ方向に硬質皮膜と軟質皮膜を積層しているため、熱応力のように皮膜の膜厚方向に対して垂直方向に作用する応力に関しては緩和作用がないためである。
【0007】
本発明は上記課題に対処してなされたもので、高い温度と低い温度とが繰り返し作用するような熱サイクル場においても熱応力により皮膜が損傷する可能性を低減することのできる、耐熱サイクル特性、耐熱応力特性に優れたアモルファス状炭素皮膜の形成を可能とするアモルファス状炭素皮膜の形成方法及びアモルファス状炭素皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアモルファス状炭素皮膜の形成方法の一態様は、基材表面に、アモルファス状炭素皮膜を形成させる方法であって、前記基材のアモルファス状炭素皮膜形成面に、前記基材よりも炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を分散させ、化学蒸着法又は物理蒸着法により前記粒子上にアモルファス状炭素を成長させて、柱状のセグメントの集合体からなるアモルファス状炭素皮膜を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明のアモルファス状炭素皮膜の一態様は、基材表面に、化学蒸着法又は物理蒸着法を用いて形成されたアモルファス状炭素皮膜であって、前記基材のアモルファス状炭素皮膜形成面に分散された、前記基材より炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子上に、アモルファス状炭素を成長させることによって形成された柱状のセグメントの集合体からなることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るアモルファス状炭素皮膜の形成方法を模式的に示す図。
【図2】本発明の実施例に係るアモルファス状炭素皮膜の表面及び断面の走査電子顕微鏡写真。
【図3】アモルファス状炭素皮膜の形成状態を模式的に示す図。
【図4】アモルファス状炭素皮膜の形成状態を模式的に示す図。
【図5】比較例のアモルファス状炭素皮膜の表面及び断面の走査電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のアモルファス状炭素皮膜の形成方法及びアモルファス状炭素皮膜の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
前述したとおり、従来、アモルファス状炭素皮膜においては皮膜の厚さ方向に積層構造とした例は多数あるが、この構造では熱応力を緩和することができず、熱応力を緩和するためには皮膜の厚さ方向に対して垂直方向に緩和機能を付与することが重要である。
【0013】
本発明者等は、従来から種々の有機材料や無機材料についてのアモルファス状炭素皮膜のコーティングの研究を行っており、この結果、以下の事項が判明した。すなわち、炭素と結合し易い物質(炭化物生成自由エネルギーの小さい物質)、例えばタングステン、モリブデン、チタン、ジルコニウム、シリコン、クロム、及び、これらの酸化物、炭化物、窒化物の表面には、アモルファス状炭素の核が形成され易く、この核を起点に皮膜が成長する。一方、アルミニウムや銅のように炭化物を形成し難い物質(炭化物生成自由エネルギーの大きい物質)からなる材料の表面には、アモルファス状炭素の核が形成し難いか、または、形成できず、その結果、皮膜の成長が非常に遅いか、成長しても密着強度が著しく低く剥離し易い。
【0014】
そこで、本実施形態では、図1に示すように、炭素と結合し難い材料(炭化物生成自由エネルギーの大きい物質)からなる基材1中に、基材1より炭素と結合し易い材料(炭化物生成自由エネルギーの小さい物質)からなる粒子2を分散させる(図1(a))。そしてこの状態で、アモルファス状炭素皮膜の形成を行うと、炭素と結構し易い材料からなる粒子2の表面にアモルファス状炭素の核3が優先的に形成され(図1(b))、その核3を起点にアモルファス状炭素4が成長し(図1(c))、やがて表面が一様にアモルファス状炭素皮膜5で覆われる(図1(d))。
【0015】
得られたアモルファス状炭素皮膜は、図2に示す走査型電子顕微鏡写真のように、アモルファス状炭素皮膜の厚さ方向と垂直な方向(皮膜形成面に水平な方向)に対して分割された均一な大きさの柱状のセグメントの集合体からなる構造を有しており、熱応力の緩和に最適な皮膜構造となっている。
【0016】
すなわち、上記構成のアモルファス状炭素皮膜の製造方法では、アモルファス状炭素皮膜の核3が粒子2上に優先的に形成され、その核3を起点にアモルファス状炭素4が成長するため、皮膜の厚さ方向に対して垂直方向に分割されたセグメント構造を有するアモルファス状炭素皮膜5が形成できる。その結果、皮膜の厚さ方向に対して垂直方向に作用する熱応力が負荷された場合でも、セグメント間で熱歪みを吸収することで熱応力を低減することが可能となる。
【0017】
さらに、アモルファス状炭素皮膜の成長速度を制御することにより緻密なアモルファス状炭素で構成されたセグメント構造が得られ、皮膜の熱伝導率も大幅に向上させることができる。その結果、アモルファス状炭素皮膜の表裏面に生じる温度差も小さくすることが可能となり、アモルファス状炭素皮膜に作用する熱応力も低減できる。
【0018】
上記基材1が有機材料である樹脂等の場合、樹脂マトリクス中に炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる金属またはセラミックスからなる粒子2を分散した複合材料を基材1として用いることができる。このように、予め粒子2が分散された基材1を用いることにより、均一な構造および膜厚のアモルファス状炭素皮膜を形成することが可能となる。例えば硬化前の樹脂に粒子2を添加し、十分な攪拌により混合した後に硬化させることにより容易に所望の基材1を製造することができる。
【0019】
また、上記基材1が無機材料である金属またはセラミックスの場合、金属またはセラミックスマトリクス中に、炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる金属またはセラミックスの粒子2を分散した複合材料を基材1として用いることができる。このように、予め粒子2が分散された基材1を用いることにより、均一な構造および膜厚のアモルファス状炭素皮膜を形成することが可能となる。例えばマトリックスとなる金属粉末またはセラミックス粉末に粒子2を添加し、機械的な混合方法により均一に分散した後、焼結、押出し等のプロセスにより固化することによって容易に所望の基材1を製造することができる。
【0020】
次に、粒子2の大きさ及び含有量について説明する。粒子2の大きさを変えてコーティング試験を行ったところ、図3に示すように、粒径の小さな粒子2aが密に分布した基材1の表面には、核生成の起点が数多く存在しているため、微細な柱状構造(針状構造)のアモルファス状炭素4aが成長し、明瞭なセグメント構造が得られなかった。一方、粒径の小さな粒子2aが疎に分布した場合では皮膜の水平方向の成長が足りず、皮膜の厚さが不均一になり、場合によってはコーティングされない間隙部が形成される可能性がある。
【0021】
一方、図4に示すように、粒径の大きな粒子2bが疎に分布した基材1の表面では、粒径の大きな粒子2b上に多数の核が形成され、やはり針状構造が混在したアモルファス状炭素4bが成長する傾向があるため、良好なセグメント構造が得られなかった。したがって、分散させる粒子2の大きさと、粒子2が表面を占める割合には、好適な範囲が存在する。この範囲については後述する。
【0022】
次に、実施例について説明する。実施例では、基材1としては、有機材料基材としてエポキシ樹脂、無機材料基材としてアルミニウムを選定した。粒子2としては、混合条件や焼結条件、反応性を考慮して、エポキシ樹脂基材には、SiO(実施例1)、WC(実施例2)、Cr(実施例3)、TiC(実施例4)、C(実施例5)を使用し、アルミニウム基材には、W(実施例6)、WC(実施例7)、TiC(実施例8)、SiO(実施例9)を使用した。また、アルミニウム基材には、比較例として、銅(比較例3)、を使用した。分散粒子の平均粒径は約20μmである。
【0023】
エポキシ樹脂基材については、エポキシ樹脂の中に約60体積%の粒子2(SiO、WC、Cr、TiC、C)と硬化剤を十分混合し、脱泡処理を行った後に金型にモールドし凝固させた。アルミニウム基材については、平均粒径が約12μmのアルミナ粉末に対して、平均粒径が約20μmのW粒子、WC粒子、TiC粒子、SiO粒子(比較例3ではCu粒子)を各々約50体積%添加し、ボールミルを用いて十分混合した後、ホットプレス装置を用いて焼結させた。得られたエポキシ樹脂複合材とアルミニウム複合材は機械加工により50mm×50mm×t5mmの大きさに加工しコーティング試験に供した。
【0024】
アモルファス状炭素皮膜のコーティングは、スパッタリング法により実施した。エポキシ樹脂基材の場合のスパッタリング電圧とスパッタリング電流はエポキシ樹脂の耐熱温度以下になるように制御し、試験片表面で放電が起こらないようにバイアス電圧を調整して行った。アモルファス状炭素皮膜の目標厚さは1μmとし、成膜速度は約1μm/hとした。
【0025】
コーティングした試験片は、フィールドエミッションタイプの走査型電子顕微鏡を用いて皮膜の微細構造や皮膜の均一性、膜厚等を観察するとともに、一部の試験片については熱サイクル試験を実施した。なお、比較例として炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を添加しないエポキシ樹脂(比較1)、アルミニウム(比較例2)についても同条件でコーティング試験を実施した。
【0026】
コーティング試験結果を表1に示す。表1ではセグメント構造を有したアモルファス状炭素皮膜が形成されたもの:○、セグメント構造ではないが均質なアモルファス状炭素皮膜が形成されたもの:△、アモルファス状炭素皮膜が全く形成されなかったもの:× の3段階で評価した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示されるように、エポキシ樹脂単体の基材(比較例1)にはアモルファス状炭素皮膜が形成できたが、その形態は、図5((a)は表面、(b)は断面)に示す顕微鏡写真のように連続構造となり、セグメント構造とはならなかった。一方、炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子をエポキシ樹脂に添加した実施例1〜5においては、図2((a)は表面、(b)は断面)に示す顕微鏡写真のように、全てセグメント構造を有するアモルファス状炭素皮膜が形成できた。
【0029】
また、アルミニウム単体の基材を用いた比較例2では、全くアモルファス状炭素皮膜が形成できなかったが、炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を添加した実施例6〜9においてはセグメント構造を有するアモルファス状炭素皮膜が形成できた。さらに、Cuを添加した比較例3においてはアルミニウム単体の場合と同様にアモルファス状炭素皮膜が形成できなかった。
【0030】
以上のように、炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を基材の表面に分散させることにより、この粒子を起点にアモルファス状炭素皮膜が成長し、熱応力緩和効果が大きいセグメント構造の皮膜を形成することができた。ここで、上記の結果から、基材に分散させる粒子の炭化物生成自由エネルギーは、コーティング温度、雰囲気で負の値(ΔG<0kJ/mol)を有することが好ましい。
【0031】
次に、基材1としてエポキシ樹脂、粒子2としてSiOを用い、粒子2の粒径及び含有率(体積%)を変化させた実施例1,10〜19について説明する。コーティング試験片は前述した実施例の場合と同じ要領で作製したが、その際、粒子2の大きさと添加する割合を変えて作製した。具体的には平均粒径が約1μm(実施例10)、約3μm(実施例11)、約12μm(実施例13)、約20μm(実施例1)、約50μm(実施例13)のものを使用し、添加量は60体積%で一定とした。ここで、上記の平均粒径は、粒径の小さいものについては気体吸着BET法(JIS R 1626)、粒径の大きいものについてはSEM観察像を画像解析することにより測定した。
【0032】
また、平均粒径が約20μmのSiO粒子を用い、添加量を30体積%(実施例14)から80体積%(実施例18)まで10体積%毎に変えた試験片も作製した。なお、70体積%以上の試験片の製作においては、単一粒子径のSiO粒子では不可能なため、粒径の小さいものも添加して作製した。
【0033】
さらに、市販のブラスト装置を用い、エポキシ樹脂の表面にSiO粒子を吹き付けて定着させた試験片も製作した(実施例19)。SiO粒子は平均粒子径が約3μmのものを用い、圧力は5kgf/cmでエポキシ樹脂表面が一様にSiO粒子で覆われるまで実施した。
【0034】
アモルファス状炭素皮膜のコーティングはスパッタリング法により実施した。スパッタリング電圧とスパッタリング電流はエポキシ樹脂の耐熱温度以下になるように制御し、試験片表面で放電が起こらないようにバイアス電圧を調整して行った。アモルファス状炭素皮膜の目標厚さは1μmとし、成膜速度は約1μm/hとした。
【0035】
コーティングした試験片はフィールドエミッションタイプの走査型電子顕微鏡を用いて皮膜の微細構造や皮膜の均一性、膜厚等を観察するとともに、一部の試験片については熱サイクル試験を実施した。熱サイクル試験は、昇温レート:20℃/min、降温レート20℃/min、保持温度および時間を−30℃と130℃で各5分間とし、1000サイクルまで実施し目視および走査型電子顕微鏡により皮膜の損傷状態を評価した。
【0036】
コーティング試験結果を表2に示す。表2では観察した全表面がセグメント構造を有したアモルファス状炭素皮膜でコーティングできたもの:○、観察した表面の一部がセグメント構造のアモルファス状炭素皮膜でコーティングできたもの:△、アモルファス状炭素皮膜が全く形成されなかったもの:×の3段階で評価した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示すように、いずれの試験片においてもセグメント構造を有したアモルファス状炭素皮膜が形成できたが、平均粒径が約1μmのSiO粒子を用いた実施例10と約50μmのSiO粒子を用いた実施例13においては均一な厚さのアモルファス状炭素皮膜が得られなかった。前者は図3に示したように皮膜厚さの水平方向の成長が遅く、添加粒子の直上ではセグメント構造が得られたが、粒子と粒子の間は図5に示した均質なアモルファス状炭素皮膜が生成した。また、後者においては図4に示したように、粒子の直上ではセグメント構造が得られたが、粒子と粒子の間は図5に示した均質なアモルファス状炭素皮膜が生成した。これは粒子径が大きい場合には一つの粒子表面で同時に多数の核が形成されるためと考えられる。
【0039】
一方、SiO粒子の添加量についても同様な結果を示しており、添加量が30体積%と少な過ぎる場合は、粒子間の距離が大きくなり、粒子間はセグメント構造にならず均質なアモルファス状炭素皮膜が形成された。逆に、添加量が80体積%と多すぎる場合は、核生成の場所が多すぎて粒子の直上では針状の皮膜が形成され、上部では均質なアモルファス状炭素皮膜が生成した。
【0040】
以上の結果から、添加する粒子の大きさは、平均粒径を1μm以上、50μm以下とすることが好ましく、3μm以上、20μm以下とすることがさらに好ましい。また、粒子の含有率は、30体積%以上、80体積%以下とすることが好ましく、40体積%以上、70体積%以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
また、エポキシ樹脂表面にブラストによりSiO粒子吹き付けて定着させた(打ち込んだ)場合(実施例19)でも比較的良好なセグメント構造を持ったアモルファス状炭素皮膜が形成できるので、基材の材質を変えずに表面のみに炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を分布させるには好適である。上記のように、基材の表面のみに粒子を分散させる方法としては、例えば粒子の硬さがコーティングする基材に比べて低い場合には、市販のブラスト装置を用いることにより短時間で簡便に分散させることが可能である。その際、ブラスト圧力が高過ぎると粒子により基材の表面が切削されるので、粒子と基材材料の硬さから適正なブラスト条件を選定することが好ましい。
【0042】
以上説明したように、有機材料や無機材料からなる基材の表面にアモルファス状炭素皮膜を形成する方法において、予め基材の皮膜形成面に炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を分散させておくことにより、皮膜の厚さ方向に対して垂直方向に不連続性を持ったセグメント構造の皮膜を形成させることができ、これによって熱応力を効果的に緩和でき、耐熱サイクル特性を著しく向上させたアモルファス状炭素皮膜の形成方法及びアモルファス状炭素皮膜を提供することができる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1……基材、2……粒子、3…… アモルファス状炭素皮膜の核、4……アモルファス状炭素、5……セグメント構造を有したアモルファス状炭素皮膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、アモルファス状炭素皮膜を形成させる方法であって、
前記基材のアモルファス状炭素皮膜形成面に、前記基材よりも炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子を分散させ、
化学蒸着法又は物理蒸着法により前記粒子上にアモルファス状炭素を成長させて、柱状のセグメントの集合体からなるアモルファス状炭素皮膜を形成することを特徴とするアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記粒子が、タングステン、モリブデン、チタン、ジルコニウム、シリコン、クロムのいずれかを主成分とする金属、酸化物、窒化物、炭化物のいずれかからなることを特徴とする請求項1記載のアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記粒子の平均粒径が1μm以上、50μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記粒子の平均粒径が3μm以上、20μm以下であることを特徴とする請求項3記載のアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項5】
前記粒子が占める体積比が40%以上、70%以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項6】
前記基材が、樹脂マトリクス中に前記粒子を分散させた複合材料からなることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項7】
前記基材が、金属またはセラミックスマトリクス中に、前記粒子を分散させた複合材料からなることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項8】
前記基材の表面に、前記粒子を吹き付けて定着させること特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のアモルファス状炭素皮膜の形成方法。
【請求項9】
基材表面に、化学蒸着法又は物理蒸着法を用いて形成されたアモルファス状炭素皮膜であって、
前記基材のアモルファス状炭素皮膜形成面に分散された、前記基材より炭化物生成自由エネルギーの小さい物質からなる粒子上に、アモルファス状炭素を成長させることによって形成された柱状のセグメントの集合体からなることを特徴とするアモルファス状炭素皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−219278(P2012−219278A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82763(P2011−82763)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】