説明

アルカリ性電解水の洗浄力維持方法及びその装置

【課題】 洗浄室を密閉したり、この密閉した洗浄室に窒素ガス等のパージガスを導入したりすることなく、洗浄槽内に収容した洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、理想のpHになるようにコントロールして、アルカリ性電解水の洗浄力を維持できるようにした方法と装置を提供する。
【解決手段】 洗浄に先立ち、洗浄槽10内の洗浄水としてのアルカリ性電解水ADのpHを検出し、この洗浄水のpHを理想のpHにするために上記洗浄槽10に注水する洗浄水の仮のpHと生成量を計算し、この計算値に従って電解水生成装置1に生成させて洗浄槽10に注水する。洗浄水のpHが理想とするpHになったら、洗浄運転を開始し、一定時間経過後に再度洗浄水の生成条件を調整して、洗浄水のpHを理想とするpHに維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水として使用するアルカリ性電解水の洗浄力を維持するための方法と、その装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば特許文献1に見られるように、アルカリ性電解水による各種機械類、電気部品、光学部品等に対する脱脂を目的とした洗浄が、従来の有機溶剤に代わる新しい洗浄方法として見直されている。
【0003】
上記特許文献1に記載の「フェライト加工品の洗浄方法およびその装置」は、水道水を電気分解して生成されるアルカリ性電解水を利用して、フェライト加工品に付着している油やチリ等を洗浄して洗い落とすものである。
【0004】
しかし、アルカリ性電解水は洗浄に用いることによって劣化するため、pH計でアルカリ性電解水のpH値を確認することになるが、加工品から離脱した油分が洗浄槽内に充満し、これがpH計の検知部に付着して直ぐに検知不能になってしまう問題があった。
【0005】
そこで、例えば特許文献2に記載されている如き「洗浄装置」が開発された。この洗浄装置は、洗浄槽内にアルカリ系洗浄剤を収容し、洗浄剤の劣化を防止するために窒素ガス等のパージガスを導入して洗浄室内を大気圧より高く設定する。その結果、洗浄剤は大気中の酸素や二酸化炭素と接しないので劣化を防止できる仕組みになっている。
【0006】
ところが、上記特許文献2に記載の洗浄装置は、上述した如く、アルカリ系洗浄剤の劣化を防止するために窒素ガス等のパージガスを密閉した洗浄室内に導入する必要があるため、管理が頗る面倒でコストが嵩んでしまう問題があった。
【特許文献1】特開平7−73409号公報
【特許文献2】特開2001−286835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の技術的課題は、洗浄室を密閉したり、この密閉した洗浄室に窒素ガス等のパージガスを導入したりすることなく、洗浄槽内に収容した洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、理想のpHになるようにコントロールして、アルカリ性電解水の洗浄力を維持できるようにした方法と装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記の技術的課題を解決するために、本発明の前記請求項1に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法は、電解水生成装置より洗浄槽に注水された洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、洗浄に最適な理想のpHに維持するための方法であって、洗浄に先立ち、洗浄槽内の上記アルカリ性電解水のpHを直接測定するか、若しくは、前回洗浄終了後からの経過時間から現在の推定pHを計算することにより、現在の上記洗浄槽内におけるアルカリ性電解水のpHを検出する工程と、これ等測定又は計算することによって検出した現在のアルカリ性電解水のpHを前記理想のpHにするために、上記洗浄槽に注水するアルカリ性電解水の仮のpHと生成量を計算する工程と、前記電解水生成装置を制御して、上記計算した仮のpHと生成量にてアルカリ性電解水を生成して、上記洗浄槽に注水する工程と、上記計算した仮のpHと生成量によるアルカリ性電解水の注水によって、上記洗浄槽内のアルカリ性電解水のpHが理想とするpHになったら、洗浄運転を開始する工程と、上記洗浄運転を開始して一定時間経過後に、流量計のデータから上記洗浄槽からの排水量を抽出して、前記電解水生成装置の生成量とこの排水量との差から、前記アルカリ性電解水の実際の蒸発量を算出する工程と、この蒸発量と、洗浄によるpHの降下係数と、洗浄による一定時間経過毎のpHの降下係数とを勘案して、上記洗浄槽内における現在の上記アルカリ性電解水の推定pHを再計算する工程と、この再計算された推定pHの計算値に基づいて、前記電解水生成装置が生成する新たなアルカリ性電解水の生成条件を調整する工程と、当該新たなアルカリ性電解水の注水によって、前記洗浄槽内における前記洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、前記理想とするpHに維持するための工程と、から成ることを特徴としている。
【0009】
(2) また、本発明の前記請求項2に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法は、前記アルカリ性電解水の推定pHを再計算する工程において、前記算出されたアルカリ性電解水の実際の蒸発量と、前記洗浄槽の容積と洗浄水の温度及び蒸発係数から算出された基準の蒸発量とを比較して、実際の蒸発量の方が多い場合は、前記電解水生成装置によって生成されるアルカリ性電解水の注水量を増やしてpHを下げ、実際の蒸発量の方が少ない場合は、前記電解水生成装置によって生成されるアルカリ性電解水の注水量を減らしてpHを上げると共に、次回からは前記基準蒸発量を使わずに、実際の蒸発量を使って前記アルカリ性電解水の推定pHを再計算することを特徴としている。
【0010】
(3) また、本発明の前記請求項3に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法は、前記実際の蒸発量と基準の蒸発量とを比較することにより、前記電解水生成装置によるアルカリ性電解水の生成条件を変更する場合に、上記電解水生成装置を制御する制御装置に、予め、一定時間当たりの最大排水量と、アルカリ性電解水の生成における最適なpHの数値と、注水量を優先、若しくは、生成水のpH優先、の区分が設定されていて、排水処理設備の処理能力に制限がある場合は、上記注水量が優先して決められ、次いで、生成水のpHを決めてアルカリ性電解水の生成条件が造られ、一方、上記排水処理設備の処理能力に制限がない場合は、少なくとも上記電解水生成装置の生成効率が考慮されて、上記生成水のpHが優先して決められ、次いで、注水量を決めて上記アルカリ性電解水の生成条件が造られるように構成されていて、これ等2つの生成条件のいずれか一方を選択して、前記洗浄槽内のアルカリ性電解水のpHを維持することを特徴としている。
【0011】
(4) 更に、本発明の前記請求項4に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持装置は、電解水生成装置より洗浄槽に注水される洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、洗浄に最適な理想のpHに維持するための洗浄力維持装置であって、上記電解水生成装置によるアルカリ性電解水の生成量及びpHを制御可能に構成した制御装置が、前回洗浄終了後からの経過時間から現在の推定pHを計算することにより、現在の上記洗浄槽内におけるアルカリ性電解水のpHを検出するpH検出手段と、上記検出したアルカリ性電解水のpHを上記理想のpHにするために、上記洗浄槽に注水するアルカリ性電解水の仮のpHと生成量を計算する計算手段と、上記の電解水生成装置を制御して、上記計算した仮のpHと生成量にてアルカリ性電解水を生成して、上記の洗浄槽に注水する注水手段と、上記計算した仮のpHと生成量によるアルカリ性電解水の注水によって、上記洗浄槽内のアルカリ性電解水のpHが理想とするpHになったら、洗浄運転を開始する洗浄運転手段と、上記洗浄運転を開始して一定時間経過後に、上記洗浄槽に設けた流量計のデータから上記洗浄槽からの排水量の積算値を抽出して、上記電解水生成装置の生成量とこの排出量との差から、上記アルカリ性電解水の蒸発量を算出する蒸発量算出手段と、この蒸発量と、洗浄によるpHの降下係数と、洗浄による一定時間経過毎のpHの降下係数とを勘案して、上記洗浄槽内における現在の上記アルカリ性電解水の推定pHを再計算するpH再計算手段と、上記新たなアルカリ性電解水の注水によって、上記洗浄槽内における上記洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、上記理想とするpHに維持するためのpH維持手段と、を備えて成ることを特徴としている。
【0012】
上記(1)で述べた請求項1に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法によれば、先ず洗浄に先立ち、最初に洗浄槽内の洗浄水としてのアルカリ性電解水(以下単に洗浄水という)のpHを把握し、設定した理想のpHになる様に洗浄水のpHと生成量を計算して、電解水生成装置による生成と注水を行なう。次いで、洗浄を開始し、一定時間後に推定のpHを算出し、算出値に基づき、新たに生成する洗浄水のpHと生成量を算出して洗浄水のpHが設定値、即ち、理想の状態になるように生成及び注水を行なうことによって、洗浄水の洗浄力を維持することができる。
【0013】
上記(2)で述べた請求項2に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法によれば、上記洗浄槽内の洗浄水の変動要素で大きく誤差が表れるのが蒸発量であるから、蒸発量のみを考慮して洗浄水のpHの維持を図ることが出来る。即ち、初期の蒸発量の基準値よりも注水量−排水量で得られた実際の蒸発量の方が多ければ、注水量を増やしてpHを下げ、少ない場合は、注水量を減らしてpHを上げる。次回からは基準蒸発量の替わりに実際の蒸発量を使って新たな洗浄水の生成条件の算出を行なって、洗浄水のpHを理想の状態に維持する。
【0014】
上記(3)で述べた請求項3に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法によれば、排水処理設備の処理能力に制限がある場合は、注水量を優先し、次にpHを決めて生成条件を決定して洗浄水を生成し、電解水生成装置の生成効率等を考慮する場合は、洗浄水のpHを優先し、次に注水量を決めて生成条件を決定して生成することにより、洗浄水のpHを理想の状態に維持する。
【0015】
上記(4)で述べた請求項4に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持装置によれば、上述の如く洗浄水のpHを理想の状態に維持することによって、洗浄力を維持して優れた洗浄効果を発揮することを可能にする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法及びその装置は、以上述べた如き構成であるから、自動的に洗浄槽内の洗浄水のpHと水量の維持を可能にする。また、従来のpH計による測定方法では、洗浄槽内に油脂が混入しpH計の検知部が汚れ、すぐに測定が出来なくなってしまい、その都度pH計の校正をしなければならなかったが、本発明によって、最低限の洗浄開始前の測定だけで洗浄水のpH管理が出来、無駄な工数が省けると共に、計算手法を用いればpH計を使用しなくても良いから、洗浄水のpHを比較的低コストにて維持しつつ、優れた洗浄効果を発揮することができる。
【0017】
また、本発明によれば、設定したpHに対して誤差が大きく表れるのは蒸発量であり、蒸発量は室温、換気の状態によって大幅に変動するので、実際の蒸発量を測定することにより初期推定値との違いが分かる。また、次回からは実際の蒸発量を使用するので洗浄水のpHの精度が向上する利点を発揮することができる。
【0018】
更に本発明によれば、洗浄水を排水処理設備の処理能力に合わせて生成することが出来、処理能力を考慮する必要がない場合は電解水生成装置に最適のpHで生成できるため、洗浄槽内の洗浄水のpHを最適な状態に維持できるものであって、アルカリ性電解水の洗浄力を最適な状態に維持して、優れた洗浄効果を発揮できるものであって、各種機械類、電気類、光学部品類等の脱脂を目的とする洗浄に利用して頗る好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、上述した本発明に係るアルカリ性電解水の洗浄力維持方法及びその装置の実施の形態を図面と共に説明すると、図1は本発明が実施された洗浄装置の一例を示した構成図であって、本発明を構成する主な機器類は以下の通りである。
【0020】
電解水生成装置1は水道水、もしくは純水に炭酸カリウム等の電解質を添加した被電解水を電気分解して生成される洗浄水としてのアルカリ性電解水(以下洗浄水ADという)を洗浄槽10に供給する装置であり、制御装置5の指示により生成を行なうものである。尚、電解水生成装置1の具体例としては、例えば特開2004−358349号公報に記載のものがある。
【0021】
洗浄槽10は電解水生成装置1から注水パイプ2を通して洗浄水ADの供給を受け、ポンプ13で洗浄水ADを汲み上げてシャワー14で籠15に入れた物品Tに付着している油脂等を洗浄する為の装置であり、ポンプ13のスイッチ13Sと籠15の操作はすべて作業者が行なうものである。他の洗浄方法としては、物品Tをそのまま洗浄槽10に入れる浸漬洗浄がある。また、ヒーター12の電源スイッチ12SのON−OFF操作も作業者が行なうが、その後の温度管理は制御装置5が行なう。
【0022】
洗浄槽10には、生成した洗浄水ADを洗浄槽10(の底部)に注水する注水パイプ2、洗浄水ADを加温するためのヒーター12、水温計11、上部の劣化した洗浄水ADを排水するオーバーフローによる排水部10Z、排水量を計測する流量計16が備えられ、水温と排水量を制御装置5にそれぞれ送信できる様に接続されている。制御装置5は受信した排水量と時計装置から時間当たりの排水量を計算する。
【0023】
そのほかに、本発明には関連がないが、浮遊している油脂を吸引して除去し、清浄化された洗浄水ADを再度洗浄槽10に戻す油水分離装置17が付設されている。また、洗浄槽10の次工程には、洗浄槽10からの排水を一時的に貯留する排水槽20が備えられ、更にその後段には、排水を法令等に定められた排水基準値内に処理して放流するための排水処理装置30がある。
【0024】
制御装置5は、常に洗浄水ADの洗浄力を維持する為に、電解水生成装置1やヒーター12を制御する装置であり、各種設定値及び測定値に基づいて好適な条件の洗浄水ADを算出し生成の指示及び管理を行なう本発明の算式や各機能(手段)が格納された装置である。
【0025】
尚、図1において22は前記排水槽20内に設けたフロート20Xの高低によってポンプ21を動作して、排水を上述した排水処理装置30に送ったり、排水槽20に送り戻したりする移送ポンプユニットを示す。
【0026】
図2は、上記制御装置5と各種機器の関連を示した本発明に係る装置のブロック図である。制御装置5はCPU5A、メモリー5Bとインターフェイス5Cとバス5Dからなり、各種機器がインターフェイス5Cに接続されている。メモリー5Bには洗浄槽10内の洗浄水ADや、生成する生成水のpHを算出する算式、係数、各種設定値が記憶され、CPU5Aがこれらの計算や各種機器に指示を行っている。
【0027】
上記のインターフェイス5Cには、上述した電解水生成装置1と、ヒーター12、水温計11、流量計16に加えて、運転開始スイッチ及び表示灯41、運転停止スイッチ及び表示灯42、強制終了スイッチ及び表示灯43といった、夫々の役目を果たすスイッチと表示灯に加えて、前述した各種の設定値を入力可能にした各種設定入力部44と、各種の表示を行う各種表示部45と、時計装置46と、ヒーター12が洗浄槽10内の洗浄水ADを加温している時に点灯するヒーター加温中表示灯47と、洗浄槽10内の洗浄水ADが設定したpH及び温度になった時に点灯する洗浄可表示灯48と、例えば洗浄水ADの蒸発量が極めて多い場合や、pHや注水量が極端に多いといった各種異常発生時に点灯するアラーム表示灯49が接続されていて、夫々がCPU5Aの監視下で、メモリー5Bに格納されたプログラムに従って制御作動される仕組みに成っている。
【0028】
尚、上述した時計装置46は時間を計時するためのものであるが、CPU5A周辺のクロックに含まれることもある。また、ヒーター加熱中表示灯47は、洗浄槽10内の洗浄水ADの加熱中に点灯する。洗浄可表示灯48は洗浄槽10内の洗浄水ADが設定したpHと温度になった場合に点灯し、アラーム表示灯49は異常時の表示で、蒸発量が極めて多い場合、或いは、前述のようにpHや注水量が極端に多い場合等に表示される。
【0029】
以上の如く構成した本発明を上述した図面の説明と共に更に詳しく説明すると、本発明は洗浄水ADとしてのアルカリ性電解水を洗浄に使用する場合の洗浄力を維持するための方法とその装置であり、アルカリ性電解水は洗浄中に性状が変化するので、洗浄中は洗浄力を維持しなければならない。
【0030】
前記本発明の請求項1はその方法として、先ず最初に、洗浄槽10内の洗浄水ADのpHを設定値に調整する。そのためには、前回(昨日以前)、洗浄に使用した洗浄水ADを今回も使用する場合は、pH計で洗浄水ADのpHを測定もしくは、pHが降下しているので洗浄後の経過時間から推定pHを計算する。(ここでpHの降下とは:洗浄に適したアルカリ性電解水のpHが11の場合に10や9にダウンすることであって、従って洗浄能力が劣化する。)
【0031】
また、洗浄水ADとしてのアルカリ性電解水は放置しただけでもpHが降下するので、一定時間経過毎のpHの降下係数を使用してpHを計算する。現在の洗浄槽10内に於ける洗浄水ADのpHが分かり、設定したpHを保つためのpHと注水量を(制御装置5が)計算する。
計算に必要な入力値は次の通りである。
a. 洗浄槽10内の洗浄水ADのpH(設定値)
b. 洗浄槽10の容積(洗浄水量)
c.洗浄槽10内の洗浄水ADの温度
d.蒸発係数:基準(仮の)蒸発量を算出するための実験値から得られた係数。基準(仮の)蒸発量は洗浄槽10の容積と洗浄水の温度及び蒸発係数から算出できるので上記b、c、dを入力すると自動的に計算され設定される。
その他に、制御装置5内には上記入力値に基づいてpHと生成量を算出する算式が格納されている。
【0032】
その結果、制御装置5が電解水生成装置1に、アルカリ性電解水(洗浄水AD)を上記算出値のpHと生成量で生成して注水するように指令し、洗浄槽10内の洗浄水ADが設定したpHと生成量、及び温度になると洗浄を開始する。
【0033】
そして、一定時間経過後に、流量計16のデータから排水量の積算値を抽出し、現在の洗浄槽10に於ける洗浄水ADの推定pHの計算を下記の要素に基づいて行なう。(洗浄槽10内の洗浄水ADのpHは下記e、f、gの要因で決まる。) e. 実際の蒸発量=注水量−排水量。
f.洗浄手法によるpHの降下。(洗浄の手法:シャワー洗浄、浸漬洗浄:物品の量:洗浄頻度:油脂の付着や汚れ具合いにより実験値から係数を決定する)
g.一定時間経過毎のpHの降下。(実験により降下係数を決定する)。
上記の計算値に基づき生成条件を変更して、生成及び注水。
以上の手順によって洗浄槽内の洗浄水のpHを維持することができる。
【0034】
次に、前記本発明の請求項2に係る発明を説明すると、設定値と実際の洗浄水ADのpHの誤差の原因は蒸発量の変動が大きいので、実際の蒸発量と基準蒸発量を比較する。比較の結果、
* 実際の蒸発量の方が多かったら、注水量を増やしてpHを下げ、
* 実際の蒸発量の方が少なかったら、注水量を減らしてpHを上げる。
次回から基準蒸発量の替わりに実際の蒸発量を使って算出を行なう。
【0035】
更には、生成条件を変更するに当り、前述した本発明の請求項3では、制御装置5に、事前に「一定時間当たりの最大排水量」、及び「生成に於ける最適pH」の数値と「注水量を優先」もしくは「生成水のpH優先」の区分を設定しておき、好適な条件で生成及び注水を行なう。
【0036】
図3(1)と(2)は、生成条件の変更の実施例を表にして示したものであり、図3(1)は「注水量の変更」すなわち排水量に制限がある場合であり、洗浄槽10のpHを10.8 、蒸発量46.5 リットル/時間、洗浄槽10への注水量を86.5 リットル/時間で設定したところ、蒸発量が40 リットル/時間で設定値と相違したので、制御装置5は注水量を80リットル/時間から90リットル/時間に変更したら、pHが10.8になり設定どおりになった場合である。
【0037】
また、図3(2)は「生成pHの変更」を表に示したものであり、上記の例と同様に洗浄槽10のpHを11.0 、蒸発量46.5 リットル/時間、洗浄槽10への注水量を56.5リットル/時間で設定したところ、蒸発量が30リットル/時間で設定値と相違したのでpHを11.5から12.00に変更したら、洗浄槽10内のpHが設定値の11.00 になった例である。
【0038】
尚、各図に示した設定項目の「洗浄槽からの排水量は」注水量と蒸発量の差であり、「生成水のpH」は電解水生成装置1に好適な理想値であり、「洗浄槽への注水量」は経験から得られた仮の数値であり、少量でも連続的に注水したほうが良い。
【0039】
図4 は請求項1に係る本発明の動作を説明したフロー図であり、概要は下記の通りである。
ステップS1:先ず、最初に現在の洗浄槽10に於ける洗浄水ADのpHを確 認する。
方法は、最初だけはpH計を使用して測定。もしくは、前回の洗浄時の推定pHをベースに経過時間よりpHの降下を算出して現在値を求める。
ステップS2:現在のpHが確認できたので、洗浄水ADが設定したpHになる様に注水する洗浄水ADのpHと注水量を計算する。
計算は、洗浄槽10の容量が設定され、現在のpHが分かったので新たに注水するpHと注水量が決まる。
ステップS3:計算値に基づき生成及び注水する。
ステップS4:洗浄可能表示灯48点灯(水温も考慮し、設定温度を確認する)
ステップS5:一定時間運転する。(替わりに、一定の生成量もしくは一定の排水量を基準に考えても良い)
ステップS6:排水量を確認する。
排水量が分かると、注水量−排水量=蒸発量により実際の蒸発量が算出できる。
ステップS7:現在の洗浄槽10の推定pHを算出する。
洗浄手法によるpH降下係数と、一定時間経過毎のpHの降下係数と、予め設定した設定値に基づき算出。
ステップS8:洗浄水ADを設定pHに保つために、注水pH及び注水量計算。
ステップS9:新たな生成条件に変更して洗浄水ADを生成及び注水。
ステップS10:洗浄を中止するか確認。中止しないで継続する場合はステップS4の洗浄可能表示灯点灯の次にる。
ステップS11:中止する場合は洗浄可表示灯48を消灯する。(ヒーター12もOFF)
【0040】
図5は、前記請求項2における注水洗浄水ADのpH再計算のフロー図であり、概要は下記の通りである。
ステップS20: 注水量−排水量で算出した実際の蒸発量が初期の基準蒸発量に比べ、大きい場合は、ステップS21に進んで生成する生成水の注水量を増やしてpHを下げる。
ステップS22:小さい場合は、注水量を減らしてpHを上げる。
ステップS23:次回からは、基準蒸発量の替わりに注水量−排水量で算出した実際の蒸発量を使用して算出する。
【0041】
図6は、本発明の第2実施例を示した構成図であって、図1に示した第1実施例との相違点は、排水を、オーバーフロー方式の替わりに排水ポンプ16Xを使用した例である。洗浄槽10内に水位センサ18を設け、上位を検出したら排水ポンプ16Xが作動し、下位を検出したら停止する仕組みに成っていて、その他の構成は図1の第1実施例と同一であるため、同一の部材は同一の符号を付してその説明を省略する。
尚、排水方式で洗浄槽10の底部にバルブを設置し、バルブの操作により排水するバルブ方式もあるが、排水ポンプ方式と同様であり図は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施例に係るシステム構成を説明した構成図。
【図2】本発明に係るシステムの電気構成を説明したブロック図。
【図3】本発明における洗浄水の生成条件の変更状態を表にして示した説明図で、(1)は注水量の変更を示し、(2)は生成pHの変更を示す。
【図4】本発明の請求項1における洗浄力維持の動作を説明したフローチャート。
【図5】本発明の請求項2における洗浄量維持の動作を説明したフローチャート。
【図6】本発明の第2実施例に係るシステム構成を説明した構成図。
【符号の説明】
【0043】
AD 洗浄水としてのアルカリ性電解水
1 電解水生成装置
5 制御装置
10 洗浄槽
11 水温計
12 ヒーター
13 ポンプ
14 シャワー
15 カゴ
T 部品
16 流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解水生成装置より洗浄槽に注水された洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、洗浄に最適な理想のpHに維持するための方法であって、
洗浄に先立ち、洗浄槽内の上記アルカリ性電解水のpHを直接測定するか、若しくは、前回洗浄終了後からの経過時間から現在の推定pHを計算することにより、現在の上記洗浄槽内におけるアルカリ性電解水のpHを検出する工程と、
これ等測定又は計算することによって検出した現在のアルカリ性電解水のpHを前記理想のpHにするために、上記洗浄槽に注水するアルカリ性電解水の仮のpHと生成量を計算する工程と、
前記電解水生成装置を制御して、上記計算した仮のpHと生成量にてアルカリ性電解水を生成して、上記洗浄槽に注水する工程と、
上記計算した仮のpHと生成量によるアルカリ性電解水の注水によって、上記洗浄槽内のアルカリ性電解水のpHが理想とするpHになったら、洗浄運転を開始する工程と、
上記洗浄運転を開始して一定時間経過後に、流量計のデータから上記洗浄槽からの排水量を抽出して、前記電解水生成装置の生成量とこの排水量との差から、前記アルカリ性電解水の実際の蒸発量を算出する工程と、
この蒸発量と、洗浄によるpHの降下係数と、洗浄による一定時間経過毎のpHの降下係数とを勘案して、上記洗浄槽内における現在の上記アルカリ性電解水の推定pHを再計算する工程と、
この再計算された推定pHの計算値に基づいて、前記電解水生成装置が生成する新たなアルカリ性電解水の生成条件を調整する工程と、
当該新たなアルカリ性電解水の注水によって、前記洗浄槽内における前記洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、前記理想とするpHに維持するための工程と、
から成ることを特徴とするアルカリ性電解水の洗浄力維持方法。
【請求項2】
前記アルカリ性電解水の推定pHを再計算する工程において、
前記算出されたアルカリ性電解水の実際の蒸発量と、前記洗浄槽の容積と洗浄水の温度及び蒸発係数から算出された基準の蒸発量とを比較して、
実際の蒸発量の方が多い場合は、前記電解水生成装置によって生成されるアルカリ性電解水の注水量を増やしてpHを下げ、
実際の蒸発量の方が少ない場合は、前記電解水生成装置によって生成されるアルカリ性電解水の注水量を減らしてpHを上げると共に、
次回からは前記基準蒸発量を使わずに、実際の蒸発量を使って前記アルカリ性電解水の推定pHを再計算することを特徴とする請求項1に記載のアルカリ性電解水の洗浄力維持方法。
【請求項3】
前記実際の蒸発量と基準の蒸発量とを比較することにより、前記電解水生成装置によるアルカリ性電解水の生成条件を変更する場合に、
上記電解水生成装置を制御する制御装置に、予め、一定時間当たりの最大排水量と、アルカリ性電解水の生成における最適なpHの数値と、注水量を優先、若しくは、生成水のpH優先、の区分が設定されていて、排水処理設備の処理能力に制限がある場合は、上記注水量が優先して決められ、次いで、生成水のpHを決めてアルカリ性電解水の生成条件が造られ、
一方、上記排水処理設備の処理能力に制限がない場合は、少なくとも上記電解水生成装置の生成効率が考慮されて、上記生成水のpHが優先して決められ、次いで、注水量を決めて上記アルカリ性電解水の生成条件が造られるように構成されていて、
これ等2つの生成条件のいずれか一方を選択して、前記洗浄槽内のアルカリ性電解水のpHを維持することを特徴とする請求項2に記載のアルカリ性電解水の洗浄力維持方法。
【請求項4】
電解水生成装置より洗浄槽に注水される洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、洗浄に最適な理想のpHに維持するための洗浄力維持装置であって、
上記電解水生成装置によるアルカリ性電解水の生成量及びpHを制御可能に構成した制御装置が、
前回洗浄終了後からの経過時間から現在の推定pHを計算することにより、現在の上記洗浄槽内におけるアルカリ性電解水のpHを検出するpH検出手段と、
上記検出したアルカリ性電解水のpHを上記理想のpHにするために、上記洗浄槽に注水するアルカリ性電解水の仮のpHと生成量を計算する計算手段と、
上記の電解水生成装置を制御して、上記計算した仮のpHと生成量にてアルカリ性電解水を生成して、上記の洗浄槽に注水する注水手段と、
上記計算した仮のpHと生成量によるアルカリ性電解水の注水によって、上記洗浄槽内のアルカリ性電解水のpHが理想とするpHになったら、洗浄運転を開始する洗浄運転手段と、
上記洗浄運転を開始して一定時間経過後に、上記洗浄槽に設けた流量計のデータから上記洗浄槽からの排水量の積算値を抽出して、上記電解水生成装置の生成量とこの排出量との差から、上記アルカリ性電解水の蒸発量を算出する蒸発量算出手段と、
この蒸発量と、洗浄によるpHの降下係数と、洗浄による一定時間経過毎のpHの降下係数とを勘案して、上記洗浄槽内における現在の上記アルカリ性電解水の推定pHを再計算するpH再計算手段と、
上記新たなアルカリ性電解水の注水によって、上記洗浄槽内における上記洗浄水としてのアルカリ性電解水のpHを、上記理想とするpHに維持するためのpH維持手段と、
を備えて成ることを特徴とするアルカリ性電解水の洗浄力維持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−413(P2010−413A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159325(P2008−159325)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000101617)アマノ株式会社 (174)
【Fターム(参考)】