説明

アルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜

【課題】
本発明は、従来の真空蒸着設備を用い成膜することの出来る、導電性、透明性、及び外観に優れたアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を提供する。
【解決手段】
不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムを0.01〜10重量%の割合で含む酸化亜鉛焼結体をターゲット材料とした真空蒸着法により、基板上に成膜されることを特徴とするアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、資源枯渇が危惧され、且つ高コストな錫添加酸化インジウムを使用することなく、従来の真空蒸着法を用い成膜することの出来る、導電性、透明性、及び外観に優れたアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を提供することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
現在、透明導電膜としては、優れた導電性、透明性、及び外観を有する錫添加酸化インジウム系透明導電膜が主として用いられている。
【0003】
しかしながら、近年、レアメタルであるインジウムに対する資源枯渇の危惧、及びそれによる高コスト化の側面から代替材料の要求が強まっており、資源として豊富であり、且つ低コストな亜鉛から製造される酸化亜鉛焼結体をターゲット材料として用いた酸化亜鉛系透明導電膜の開発が行われている。
【0004】
一般に、酸化亜鉛系透明導電膜を成膜する場合、酸化亜鉛系透明導電膜中にガリウムやアルミニウムが不純物ドーパントとして添加され、なかでもその導電性やコストの理由からアルミニウムが多く用いられている。
【0005】
例えば、酸化亜鉛系透明導電膜中にアルミニウムを不純物ドーパントとして添加する方法として、特開平07−286055号(特許文献1)では酸化アルミニウムを不純物ドーパントとして添加した酸化亜鉛焼結体をターゲット材料として用い、真空蒸着法、スパッタリング法、またはイオンプレーティング法等のPVD法により、プラスチックフィルム基板にアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を成膜する方法が、また特開2007−113110号(特許文献2)では、酸化亜鉛に不純物ドーパントとしてアルミニウム、ガリウム、ホウ素、ケイ素、スズ、インジウム、ゲルマニウム、アンチモン、イリジウム、レニウム、セリウム、ジルコニウム、スカンジウム、またはイットリウムから選ばれる少なくとも1種が含まれる酸化亜鉛系透明導電膜を、圧力勾配型プラズマガンを用いたイオンプレーティング法によってアクリル系プラスチック透明基板上に成膜する方法が、また特開2005−068544号(特許文献3)では、アルミニウムや酸化アルミニウムを添加しない酸化亜鉛焼結体を蒸発材料として用い、成膜装置の任意の場所からアルミニウムを含むアセチルアセトネート等の化合物を気体の状態で導入し、アルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を成膜する方法が示唆されている。
【0006】
しかしながら、アルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を成膜する上記例のいずれの場合においても、導電性、透明性、及び外観がその全てにおいてバランス良く十分なアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜として満足出来るものは得られていない。
【0007】
例えば、特開平07−286055号(特許文献1)では不純物ドーパントとしてアルミニウムまたは酸化アルミニウムを所定の割合で配合した酸化亜鉛焼結体をターゲット材料として用い、スパッタリング法でのプラスチックフィルム基板上へのアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜の成膜方法、及び結果が実施例として挙げられているが、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法を用いた成膜結果については述べられていない。
【0008】
また、特開2007−113110号(特許文献2)では不純物ドーパントとして酸化ガリウムを添加した酸化亜鉛焼結体をターゲット材料として用い、圧力勾配型プラズマガンを用いたイオンプレーティング法でのアクリル系樹脂透明基板上へのガリウム添加酸化亜鉛系透明導電膜の成膜方法、及び結果が実施例として述べられているが、技術的に難しいとされるアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜の成膜方法、及び結果については述べられていない。
【0009】
また、特開2005−068544号(特許文献3)では成膜において特別な設備を必要とし、また安定生産性、及び汎用性に欠けるものである。
【0010】
【特許文献1】特開平07−286055号
【特許文献2】特開2007−113110号
【特許文献3】特開2005−068544号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、従来の真空蒸着設備を用い成膜することの出来る、導電性、透明性、及び外観に優れたアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意努力した結果、不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムを0.01〜10重量%の割合で含む酸化亜鉛焼結体をターゲット材料として用いた真空蒸着法により、基板上に導電性、透明性、及び外観に優れ、且つ従来の真空蒸着設備を用い成膜することが出来るアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を得ることが出来ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち、本発明は不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムを0.01〜10重量%の割合で含む酸化亜鉛焼結体をターゲット材料として用いた真空蒸着法により、基板上に成膜されることを特徴とするアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムを0.01〜10重量%の割合で含む酸化亜鉛焼結体をターゲット材料として用いた真空蒸着法により、基板上に導電性、透明性、及び外観に優れ、且つ従来の真空蒸着設備を用い成膜することが出来るアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に使用される不純物ドーパントとしては、フッ化アルミニウムが必須成分である必要がある。フッ化アルミニウムの蒸発温度は酸化亜鉛の蒸発温度よりも低く、真空蒸着法に於ける加熱によりフッ化アルミニウムは酸化亜鉛と共に蒸発する為、酸化亜鉛系透明導電膜中に不純物ドーパントとしてアルミニウムを添加することが可能となる。不純物ドーパントとして、現在、一般的に用いられているアルミニウムまたは酸化アルミニウムを用いた場合、蒸発温度が酸化亜鉛の蒸発温度に比べ大幅に高温である為、酸化亜鉛の蒸発温度では均一に蒸発せずスプラッシュの発生原因となる。
【0016】
なお、スプラッシュとは、蒸発材料を真空中でプラズマビームや電子ビーム照射により加熱した際に、原子状態の均一な蒸発ガス発生と同時に、直径約数μm〜1000μmの飛沫が蒸発材料から飛び出し透明導電膜に衝突する現象のことであり、この現象が起こると透明導電膜にピンホール欠陥が発生し、導電性や透明性の低下に繋がる。
【0017】
不純物ドーパントとしてのフッ化アルミニウムの含有量は、ターゲット材料としての酸化亜鉛焼結体中、0.01〜10重量%の割合である。0.01重量%未満の場合は成膜されるアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜として十分な導電性が得られず、10重量%を超える場合は蒸発材料のスプラッシュによるピンホール欠陥発生の原因となり、所定の導電性や透明性が得られない。
【0018】
本発明に使用される不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムが添加された酸化亜鉛焼結体としては、フッ化アルミニウム以外に一般的な不純物ドーパントを添加したものであっても良く、具体的には3B族、4B族、及び7B族から選択される元素であるガリウム、ホウ素、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の内、1種以上を添加したものが使用され、それらの元素の添加量は、元素の種類や求められる導電性の程度によっても変わる為、一概には言えないが0.003〜15重量%である。
【0019】
本発明に使用される真空蒸着法としては、抵抗加熱(RF)法、電子ビーム加熱(EB)法、及びイオンプレーティング法等が好ましく、なかでもイオンプレーティング法が最も好ましい。イオンプレーティング法とは、成膜室に配設した電極部としてのハース等に、蒸発材料として不純物ドーパントを含有した酸化亜鉛焼結体ターゲットを配置し、この焼結体ターゲットに例えばアルゴンプラズマを照射して酸化亜鉛を加熱蒸発させ、プラズマを通過した酸化亜鉛の各粒子を電極部に対向する位置に設置された基板に成膜する方法である。
【0020】
イオンプレーティング法を好適に実施することが出来る成膜装置の一例について、図1により説明する。
【0021】
図1に示すイオンプレーティング装置は、圧力勾配型プラズマガン1からプラズマビーム(PB)が成膜室2中に照射される。成膜室2の下部にはハース3が設置されており、ハース3の貫通孔(TH)に焼結体ターゲット4が挿入される。プラズマビーム(PB)はハース3に入射するが、このときハース3が適当な正電位に制御されることにより、プラズマビーム(PB)は確実にハース3に導かれる。プラズマビーム(PB)によって加熱された焼結体ターゲット4は、上端が蒸発しながら供給装置5によって徐々に上昇される。ハース3と対向した成膜室2の上部には、搬送機構(WH)によって搬送された基板(W)が配置される。蒸発した粒子はプラズマビーム(PB)中でイオン化され、イオン化した蒸発粒子が基板(W)の表面に成膜される。
【0022】
次に、本発明に使用される不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムを含む酸化亜鉛焼結体ターゲット材料の製造方法について説明する。
【0023】
酸化亜鉛粉末にフッ化アルミニウム粉末を適量添加し、ボールミル、ホモジェナイザー、ヘンシルミキサー等、公知の混合装置を用いて均一に混合した後、機械プレス等により予備成形し、600〜1600℃で加熱焼結する。焼結温度が600℃未満では十分な焼結が起こらず、結果、得られる焼結体が崩れやすくなり、また焼結温度が1600℃を超えると焼結炉内で酸化亜鉛の蒸発が起こって炉内を汚染してしまう為、好ましくない。
【0024】
本発明に使用される基板としては特に限定されるものではないが、ガラスやプラスチック製の成形品が好ましい。
【0025】
ガラス製の成形品としては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、及び無アルカリガラス製の成形品等が好ましく、なかでも無アルカリガラス製の成形品が最も好ましい。
【0026】
プラスチック製の成形品としては、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及び環状ポリオレフィン製の成形品等が好ましく、なかでもアウトガスが少なく、耐熱性が高いという理由から、環状ポリオレフィン製の成形品が最も好ましい。プラスチックからのアウトガスを防止する、または反射防止機能を付与し透過率を向上させる為に、珪素の酸化物や窒化物等の各種アンダーコート層を単層あるいは複数層設けても良い。
【0027】
ガラスやプラスチック製の成形品の厚さは、ガラスやプラスチック成形品の強度や用途に応じて適宜選択される。
【0028】
成膜されたアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚は、特に限定されるものではないが10nm〜1μmが好ましい。膜厚が10nm未満の場合は得られるアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜の抵抗率が高く、また抵抗率の経時変化が発生する。一方、膜厚が1μmを超える場合は抵抗率の飽和が起こる為、好ましくない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例、比較例により、本発明におけるアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜の詳細について説明する。
【0030】
使用したフッ化アルミニウムを含む酸化亜鉛焼結体、及び基板は、以下の通りである。
<フッ化アルミニウムを含む酸化亜鉛焼結体>
酸化亜鉛粉末(ハクスイテック製「酸化亜鉛1種」)とフッ化アルミニウム粉末(三和研磨工業製「顆粒、3Nup」)を表1に示す割合で混合し、ボールミルを用いて十分混合した。その後、機械プレスを用いてプレス圧力20MPaで成形した後、900℃で5時間焼結することにより、直径30mmφ、高さ20mmの酸化亜鉛焼結体を製造した。
<基板>
無アルカリガラス、厚さ0.7mm(NHテクノグラス製「NA35」)
【0031】
<実施例1〜3、比較例1〜5>
表1に示した割合で不純物ドーパントを含む酸化亜鉛焼結体をターゲット材料とし、200℃に予備加熱した基板をアルゴン100sccm、または酸素15sccmの雰囲気下、0.1Paの圧力下で酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚が200nmとなる様に成膜を行った。
【0032】
得られた酸化亜鉛系透明導電膜の導電性、透明性、及び外観を、以下の方法により評価した。
<導電性>
JIS K7194−1994に準拠し、三菱化学株式会社製のロレスタEPを用いて体積抵抗率を測定し、1.0×10−3Ω・cm以下のものを○、超えるものを×とした。
<透明性>
ASTM D1003−1992に準拠し、株式会社村上色彩技術研究所製のHM−100を用いて全光線透過率を測定し、80%以上のものを○、未満のものを×とした。
<外観>
酸化亜鉛系透明導電膜を目視で観察し、ピンホールの発生が観察されないものを○、観察されるものを×とした。
【表1】

【0033】
表1の結果より、本発明の範囲の通りの不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムを0.01〜10重量%の割合で含む酸化亜鉛焼結体をターゲット材料とした真空蒸着法により、基板上に成膜されたアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜である実施例1〜3においては、導電性、透明性、及び外観に良好な結果を示している。これに対し、本発明の技術範囲を逸脱する比較例1〜5においては、導電性、透明性、及び外観のいずれかに劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のイオンプレーティング法を好適に実施することが出来る成膜装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 プラズマガン
PB プラズマビーム
2 成膜室
3 ハース
TH 貫通孔
4 焼結体ターゲット
5 供給装置
WH 搬送機構
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物ドーパントとして少なくともフッ化アルミニウムを0.01〜10重量%の割合で含む酸化亜鉛焼結体をターゲット材料とした真空蒸着法により、基板上に成膜されることを特徴とするアルミニウム添加酸化亜鉛系透明導電膜。

【図1】
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【公開番号】特開2009−1835(P2009−1835A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160982(P2007−160982)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】