アルミニウム系ターゲット及びその製造方法
【課題】 ブローホールのような内部欠陥を極力減少し、反りのない大面積のアルミニウム系ターゲットを提供することを目的とする。
【解決手段】 複数のアルミニウム合金ターゲット部材からなるアルミニウム系ターゲットにおいて、摩擦撹拌接合法によりアルミニウム合金ターゲット部材を接合した接合部を備えるものとした。また、この接合部は、アルミニウム母材中に径10μm以下の金属間化合物析出物が分散した組織であり、径500μm以下のブローホールが0.01〜0.1個/cm2存在するものである。
【解決手段】 複数のアルミニウム合金ターゲット部材からなるアルミニウム系ターゲットにおいて、摩擦撹拌接合法によりアルミニウム合金ターゲット部材を接合した接合部を備えるものとした。また、この接合部は、アルミニウム母材中に径10μm以下の金属間化合物析出物が分散した組織であり、径500μm以下のブローホールが0.01〜0.1個/cm2存在するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム合金によるアルミニウム系ターゲットに関し特に、大面積を有する大型のアルミニウム系ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミニウム系ターゲットにより形成されるアルミニウム合金薄膜は、液晶ディスプレーの薄膜トランジスターなどのような半導体素子を構成する際の配線形成に用いられている。このアルミニウム系ターゲットの需要は、近年の電子・電気製品の需要増加に伴い、さらに増加する傾向である。そして、半導体素子製造においては、非常に精密な構造を有する半導体素子を、一度に大量に製造する技術の進行が著しい。具体的には、非常に大きな面積を有するターゲットを用いてスパッタリングを行い、配線形成用の薄膜を大面積に形成し、一度に大量の半導体素子を製造する技術が進展している。
【0003】
現在、この半導体素子の製造分野においては、1150mm×980mmの面積を備えるターゲット(第4世代)を用いて製造することが行われているが、今後はおよそ2500mm×2500mm級の大面積のターゲットを用いる計画が目標とされている。このような半導体製造技術の進展を実現するには、非常に大面積の大型ターゲットを提供できることが必須となる。
【0004】
このターゲットの大型化(大面積化)への対応としては、例えば、大型の連続鋳造装置や圧延機などにより、広幅のターゲット部材を製造する方法や所定の厚みに圧延したターゲット部材を複数接合する方法が採用されている。
【0005】
しかしながら、大型の連続鋳造装置や圧延機を使用すると、設備コストの増大は避けられず、多品種ターゲットの製造、即ち所望の組成を有する様々な種類のターゲット材を製造することが困難である。
【0006】
他方、小面積のターゲット部材を複数接合することによって大面積のターゲット材を製造する場合は、接合部分を瞬時に溶融して溶接可能な電子ビーム溶接が行われている(特許文献1参照)。この電子ビーム溶接は、ターゲット部材の接合部分を溶融するため、合成組成によってはスプラッシュが多発して溶接部にブローホールと呼ばれる空洞を形成し易い傾向がある。このようなブローホールのある接合部を有するターゲットを用いて薄膜形成を行うと、スパッタリング時における放電安定性が悪くなり、安定した薄膜形成に影響することが想定される。また、電子ビーム溶接によって接合したターゲットでは、溶融凝固の影響により、ターゲット自体に反りが生じやすいという問題もある。
【0007】
さらに、ターゲットの大型化に伴ってターゲット厚も厚くなる傾向になるが、溶接エネルギーの観点から電子ビーム溶接での対応がより困難になるものと予想される。くわえて、この電子ビーム溶接では、溶接時に雰囲気を真空にする必要があり、大面積のターゲットを製造するためには好適でなく、製造コストの低廉化も難しく、大型化のターゲットを低コストで供給することは難しい。
【0008】
【特許文献1】特開平11−138282号公報
【発明の開示】
【0009】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、次世代の大型のターゲットを提供すること目的としており、特に、低コストで、且つブローホールのような内部欠陥を極力減少し、反りない大面積のアルミニウム系ターゲット及びその製造方法を提供するものである。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは複数のターゲットを接合して大型のターゲット材を製造する技術を鋭意検討した結果、大面積のアルミニウム系ターゲット材を低コストで、且つ内部欠陥の非常に少ないものが製造可能な技術を見出し、本発明を想到した。
【0011】
本発明は、複数のアルミニウム合金ターゲット部材からなるアルミニウム系ターゲットにおいて、摩擦撹拌接合法によりアルミニウム合金ターゲット部材を接合した接合部を備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係るアルミニウム系ターゲットは、その接合部において内部欠陥、即ちブローホールのような空洞が極めて少なく、接合部におけるひずみが少ないため、ターゲット自体に反りが発生しにくい。そして、摩擦撹拌接合法を採用しているので製造コストが比較的安く済み、本発明に係る大面積のアルミニウム系ターゲットは安価に提供可能となる。そして、接合部においてブローホールが少ないので、スパッタリング時における放電は安定し、形成した薄膜の組成や厚みを大面積においても均一に実現することが可能となる。また、接合時の雰囲気は大気中で行えるので、大型のターゲットを容易に提供できる。
【0013】
本発明における摩擦撹拌接合法とは、材料を固相状態で接合するものである。具体的には、ターゲット部材同士を当接した状態にし、その当接した部分にスターロッドと呼ばれる円柱状物体(プローブ)を所定深さ挿入した状態で回転させながら、接合線に沿って移動させることによりターゲット部材を接合するものである。
【0014】
そして、本発明に係るアルミニウム系ターゲットは、その接合部には、径10μm以下の析出物が分散した組織となる。従来の電子ビーム溶接では、溶接部において偏析が生じやすく、母材の組成と溶接部の組成とが異なる傾向があり、このような電子ビーム溶接したターゲットをスパッタリングして形成した薄膜では、薄膜の均一性の問題、すなわち薄膜の組成や厚みが不均一になるという懸念を生じる。一方、本発明に係るアルミニウム系ターゲットのアルミニウム母材は、例えば、金属間化合物や炭化物などの析出物を分散した組織を呈するものであるが、その接合部にも、0.1μm〜10μm径の同程度の析出物が分散した組織となり、接合部以外のターゲット母材の組織とほぼ同一となり、均一性の高い薄膜の形成が行えるものとなる。
【0015】
本発明に係るアルミニウム系ターゲットは、アルミニウム合金として、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を含有し、残部がアルミニウムのものを用いることが好ましい。また、炭素をさらに含有してもよい。さらに、シリコンやネオジウムを含有してもよい。ニッケル、コバルト、鉄またはシリコンやネオジウムを含むアルミニウム合金であると、摩擦撹拌接合際に好適な粘度を有し、スターロッドの回転運動等に適当な摩擦状態となる、析出物が分散したターゲット部材となるからである。このニッケル、コバルト、鉄またはシリコンやネオジウムの含有量は、0.1〜10at%が好ましいが、特に、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を含有する場合は、0.5〜7.0atであることが望ましい。また、シリコンの含有量は0.5〜2.0at%で、或いはネオジウムの含有量0.1〜3.0at%であることが好ましい。また、炭素を含有すると、炭化物が析出し、この炭化物が潤滑剤の役割を果たすという効果を有すると思われるターゲット部材となる。炭素の含有量は、0.1〜3.0at%であることが好ましい。尚、この炭素と同様にシリコンやネオジウムについても、その析出物が潤滑剤として役割を果たすものと考えられる。或いは、シリコンを含有する場合は、形成したアルミニウム合金薄膜とシリコンとの相互拡散を効果的に防止することが可能となる。さらに、上記した元素を含有するアルミニウム合金であれば、耐熱性、低抵抗性などの優れた膜特性を備えた薄膜を形成できるアルミニウム系ターゲットとなる。
【0016】
また、本発明に係る、複数のアルミニウム合金ターゲット部材を接合させてなるアルミニウム系ターゲットは、その接合部が径500μm以下のブローホールを0.01〜0.1個/cm2を有するものが好ましい。本発明ようにブローホールが極力少ない接合部を有するターゲットであると、スパッタリング時における放電安定性が良好となり、均一性の高い薄膜形成を安定して行える。加えて、この接合部には、径500μmを超えるブローホールを有しないであることが好ましい。このような内部欠陥の少ない接合部を有するアルミニウム系ターゲットによれば、アーキング現象やスプラッシュ現象が抑制された、より安定したスパッタリングを実現できるものとなる。
【0017】
上述した本発明のアルミニウム系ターゲットは、アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接し、当接部に摩擦撹拌溶接用のプローブを配置して、プローブと当接部との間に相対的な循環運動を起こし、発生した摩擦熱により当接部分に塑性流動を生じさて、アルミニウム合金ターゲット部材を接合することで製造することができる。
【0018】
そして、この接合処理は、アルミニウム合金ターゲット部材における表面及び裏面の両面側より行うことが望ましい。アルミニウム系ターゲットの形状としては、矩形板状、円形板状、円筒形状などのものが知られるが、形状の相違に関係なく、当該部材の表面及び裏面に接合処理を行うことが好ましい。
【0019】
本発明における摩擦撹拌接合法は、その接合部において内部欠陥が極めて少なく、接合部のひずみが少ないため、従来から行われている電子ビーム溶接などと比較すると、ターゲット自体に反りが発生しにくい。そのため、例えば、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を接合して、一つのターゲットを製造する場合、その矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接して形成される当接部に対して、その片面(アルミニウム合金ターゲット部材の表面)側から接合処理を行うだけで、ターゲット自体の反りは小さなものとなる。そして、この片面(アルミニウム合金ターゲット部材の表面)側から接合処理を行った当接部に対し、その反対面(アルミニウム合金ターゲット部材の裏面)側から再び接合処理を行うと、製造されるターゲットの反りが更に抑制することができるものとなる。
【0020】
また、本発明のアルミニウム系ターゲットの製造方法では、複数の当接部が存在する場合、隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を同一方向にすることが好ましい。
【0021】
例えば、大面積の大型アルミニウム系ターゲットを製造する場合、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を複数接合することが一般的に行われる。このような大型アルミニウム系ターゲットを製造するには、次のように行うことが望ましいのである。それは、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を並列に配置し、各矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接することにより、平行に並んだ2以上の当接部を形成し、当接部に摩擦撹拌溶接用の円柱状物体(プローブ)を配置し、このプローブを当接部の基端から終端まで移動させるとともに、プローブと当接部との間に相対的な循環運動を起こし、発生した摩擦熱により当接部分に塑性流動を生じさてアルミニウム合金ターゲット部材を接合処理する際、隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を同一方向にするのである。このようにすると、形成される大型アルミニウム系ターゲットの反りを非常に小さくすることができるのである。これは、接合処理における摩擦熱の影響を、各当接部の基端部分側から終端部分側に向けて、同様な状態にできることによるものと推測される。
【0022】
さらに、本発明のアルミニウム系ターゲットの製造方法では、複数の当接部が存在する場合、隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を逆方向にすることも望ましい。
【0023】
上述したように、例えば、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を並列に配置して接合し、大型のアルミニウム系ターゲットを製造する場合、各矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接することにより、平行に並んだ2以上の当接部を接合処理する際、基端から終端までのプローブの移動方向を逆方向にすることも有効なのである。上述した同一方向へのプローブの移動に比べ、形成される大型アルミニウム系ターゲットの反りをさらに抑制することができ、接合処理の際の発生熱による熱影響も抑制できるようになる。
【0024】
上述した本発明に係るアルミニウム系ターゲットの製造方法においては、接合処理の際、プローブの1回転あたり移動距離が0.5〜1.4mmとすることが好ましい。このプローブの1回転あたり移動距離が0.5mm未満になっても、1.4mmを超えても、接合部にブローホールのなどの内部欠陥が発生しやすく、ノジュールやパーティクルの発生も引き起こす傾向が強くなる。
【0025】
本発明に係るアルミニウム系ターゲットの製造方法においては、アルミニウム合金ターゲット部材の相対密度が95%以上であるものを用いることが好ましい。この相対密度は、実際に測定して得られるターゲットの実測密度がターゲットの理論密度を占める割合であるが、この相対密度が小さなアルミニウム合金ターゲット部材を接合すると、その接合部にブローホールなどの内部欠陥を多く発生する可能性が高くなる。また、相対密度値が95%未満のアルミニウム合金ターゲット部材を接合すると、接合部とそれ以外の部分での密度差が大きくなる傾向となり、良好なスパッタリング特性を実現できなくなるのである。よって、95%以上の相対密度を有するアルミニウム合金ターゲット部材を用いることで、アーキング現象やスプラッシュ現象が抑制された、良好なスパッタリングが行えるアルミニウム系ターゲットを形成できるのである。
【0026】
以上のように、本発明によれば、ブローホールのような内部欠陥を極力減少した、反りのない大面積のアルミニウム系ターゲットとなるので、大面積の薄膜をスパッタリングにより形成しても、その薄膜組成や厚みが大面積に亘り極めて均一性の高いものを実現できる。また、本発明では、設備面からの制約が少ないため、次世代の大型アルミニウム系ターゲットを低コストで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0028】
第一実施形態:この第一実施形態では、アルミニウム−ニッケル−炭素合金のアルミニウム系ターゲットを、摩擦撹拌接合法による場合(実施例1)と、電子ビーム溶接法による場合(比較例1)により製造し、その特性を比較したものである。
【0029】
本実施例1で用いたターゲット部材は、次のようにして製造した。まず、カーボンルツボ(純度99.9%)に、純度99.99%のアルミニウムを投入して、1600〜2500℃の温度範囲内に加熱してアルミニウムを溶解した。このカーボンルツボによるアルミニウムの溶解は、アルゴンガス雰囲気中で雰囲気圧力は大気圧として行った。この溶解温度で約5分間保持し、カーボンルツボ内にアルミニウム−炭素合金を生成した後、その溶湯を炭素鋳型に投入して、放置することにより自然冷却して鋳造した。
【0030】
この炭素鋳型に鋳造したアルミニウム−炭素合金の鋳塊を取り出し、純度99.99%のアルミニウムとニッケルとを所定量加えて、再溶解用のカーボンルツボに投入して、800℃に加熱することで再溶解し、約1分間撹拌を行った。この再溶解も、アルゴンガス雰囲気中で、雰囲気圧力は大気圧にして行った。撹拌後、溶湯を銅水冷鋳型に鋳込むことにより、板形状の鋳塊を得た。さらに、この鋳塊を圧延機により、厚さ10mm、幅400mm×長さ600mmの長方形板状ターゲット部材を複数形成した。
【0031】
そして、このターゲット部材の側面をフライス加工により平面出しを行い、摩擦撹拌接合を行った。摩擦撹拌接合は、図1(A)に示すような状態で行った。2つターゲット部材Tの側面を当接した状態にし、市販の摩擦撹拌接合装置のスターロッド1をその当接部分の上部に配置した。図1(B)には、使用したスターロッド1の断面概略図を示しているが、ターゲット部材に当接される先端部2は、先端径φ10mmであった(図1(B)中、各径として記載した数値の単位はmmである)。摩擦撹拌接合条件は、スターロッド1の先端部2(鋼製)を回転速度500rpm及び移動速度300mm/min(一回転あたりの移動距離0.6mm)に設定し操作した。尚、このスターロッドの先端部は、ターゲット部材表面に対して垂直(先端部傾斜0°)に当接して行った
【0032】
また、比較として、側面をフライス加工して平面出した2つのターゲット部材を電子ビーム溶接で溶接をしたターゲット材も作製した(比較例1)。電子ビーム溶接の条件は、加速電圧120kV、ビーム電流18mA、溶接速度10mm/secである。
【0033】
このようにして得られた幅800mm×長さ600のターゲット材について、その接合部のSEM観察、組織観察、反り特性、エロージョン観察及び放電特性について調査を行った。
【0034】
SEM観察は、図2に示す接合部の断面について行った。図2には、接合部の側面側から見た斜視図を示している。SEM観察(倍率1000倍)を行った部分は、ターゲット部材Tの一部A、接合部の上方部B及び下方部Cである。また、比較例1のターゲットは、溶接部とターゲット部材との境界面をSEMにて観察した。実施例1についてのSEM観察の結果を図3〜図5に示す。
【0035】
図3は図2のA部分、図4は図2のB部分、図5は図2のC部分を観察したものであるが、これらを見るとわかるように、ターゲット部材T側と接合部Jにおいて、金属間化合物の析出物であるAl3Ni(写真中に白い斑点状に見える部分)のサイズの大きさにほとんど差がなかった。この金属間化合物の析出物(Al3Ni)の大きさは、0.1〜10μm径のものであった。また、炭化物であるAl4C3(10〜100μm)についても、ほぼ同様な分布傾向であった。一方、図6には、電子ビーム溶接を行ったターゲット材(比較例1)の溶接部の境界を観察したものを示しているが、溶接部(写真中央から左側部分)と、その近傍のターゲット材(写真中央から右側部分)、即ち母材との組織は大きく異なっているのが確認された。
【0036】
次に、接合部Jの組織観察について説明する。この組織観察は、図2で示した接合部位を、塩化第二銅溶液により所定時間エッチングをして、金属顕微鏡にてターゲット材の上部側と側面側とから、その表面を観察したものである。その組織観察結果を図7及び図8に示す。
【0037】
図7に上部側表面の組織を、図8に側面側表面の組織を示している。この観察結果より、ターゲット部材側と接合部においてはその組織に大きな変化は見られなかった。
【0038】
また、本実施例1のターゲット材を水平面に載置してその反り状態を調査したところ、ターゲット材の反りはほとんど無いことが判明した。また、上記組織観察と接合部の目視観察により、摩擦撹拌接合により部材割れも発生していないことが確認された。
【0039】
続いて、エロージョン観察結果について説明する。このエロージョン観察は、図9に示すように、ターゲット材10から円板(直径203.2mm×厚さ10mm)のターゲット11を切り出し、市販のスパッタリング装置(図示せず)に装着して、直流4kWの電力で6時間のスパッタリングを行った後、ターゲット11を取り出して、スパッタによって材料が最もえぐられた部分Eを上方から観察することにより行った。そのエロージョン観察結果を図10及び図11に示す。
【0040】
図10が実施例1で、図11が比較例1のものを示している。本実施例1のターゲットにおけるエロージョン観察では、接合部分にはブローホールのような欠陥はほとんど確認できなかった。一方、比較例1のターゲットでは、多量のブローホール(中央にある黒い溶接部分内に見られる白い斑点状の欠陥)が存在していた。また、実施例の接合部におけるブローホールの量を測定したところ、約9cm2の面積に相当する部分には一つも存在しないことが判明した。その他のエロージョン部分を調査した結果、実施例1のターゲットでは、500μmを超えるような大きな径のブローホールは存在しなく、径500μm以下のブローホール存在は0.06個/cm2程度であることが判った。また、複数のターゲット材を調べた結果、実施例1のターゲット材では、径500μm以下のブローホールが0.01個/cm2〜0.1個/cm2の量で接合部に存在していることが判明した。一方、比較例1のターゲットの溶接部では、同面積を調査した結果、径500μm以下のブローホールが10個/4.5cm2(2.2個/cm2)存在することが確認された。なお、このブローホールの量は、スパッタリング処理(12.3W/cm2、6時間)後のエロージョン部を金属顕微鏡にて観察することにより測定したもので、観察できるブローホールの大きさは1μm以上のものである。
【0041】
さらに、スパッタリング時におけるアーキング発生について調査した結果について説明する。このアーキング発生調査は、上述した実施例1と比較例1のターゲットを、市販のスパッタリング装置(図示せず)にそれぞれ装着し、投入電力密度12.3W/cm2の電力で所定時間スパッタリングを行い、そのスパッタ時に発生したアーキングをカウント(電圧変化)することによって行ったものである。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、実施例1のターゲットでは、アーキング現象があまり確認されず、良好なスパッタリングを行えることが判明した。一方、比較例1では、貫通溶接、両面溶接のどちらのターゲットであっても、実施例1に比べると、スパッタ中にかなりのアーキングが発生していることが確認された。尚、表1中の比較例1の貫通溶接とは、上記した電子ビーム溶接条件で、片面側のみから電子ビーム溶接接合をしたターゲットを示し、両面溶接とは、同電子ビーム溶接条件で、両面に電子ビーム溶接接合をしたターゲットを示している。
【0044】
第二実施形態:ここでは、上述した第一実施形態における実施例1の摩擦撹拌接合に関し、その条件を検討した結果について説明する。表2に、検討した摩擦撹拌接合条件を示す。その他の条件については、実施例1と同様にした。
【0045】
【表2】
【0046】
また、摩擦撹拌接合条件の評価は、各条件で接合したターゲットのスパッタリング時におけるアーキング発生を調べることにより行った。その結果を表2に示す。表2を見ると判るように、回転速度を固定して、スターロッドの移動速度を変化させたところ、一回転あたりの移動距離が0.50〜1.40mm/回転であると、アーキングの発生が非常に少ない結果となった。この結果より、摩擦撹拌接合の条件としては、スターロッドの回転と移動速度との関係が重要で、一回転あたりの移動距離が0.50mm/回転より小さくても、逆に1.40mm/回転よりも大きくても、ブローホールのなどの内部欠陥が発生しやすく、ノジュールやパーティクルの発生も引き起こす傾向が強くなるものと考えられた。
【0047】
第三実施形態:この第三実施形態では、複数のターゲット部材を組み合わせて大型ターゲットを製造する場合における接合処理方法を検討した結果について説明する。
【0048】
まず、製造したアルミニウム系ターゲットの反りについて調べて結果を、以下に示す実施例2及び比較例2に基づいて説明する。
【0049】
この実施例2及び比較例2は、上記第一実施形態における実施例1及び比較例1と、その組成、製造方法、接合処理方法は同じ条件である(以下に示す実施例3〜5及び比較例3も同様)。但し、ターゲット部材の大きさは、厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mmとし、その長辺側を接合して幅600mm×長さ1200mmの大型ターゲットを形成した。
【0050】
そして、得られた実施例2及び比較例2の各ターゲットを、水平定盤上に載せ、ターゲット端の中で、定盤面と最も隙間が生じている部分を特定し、その隙間の長さを測定して、そのターゲットの反り値とした。この反り測定は、接合直後と、矯正処理後の二回に分けて行った。その結果を表3に示す。尚、この矯正処理は、ターゲットの凸状に反った部分を上にして、ターゲット両端を枕木に載せた状態にして、冷間プレス機にて、上方から押圧してその反りを矯正するものである。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、実施例2のターゲットは、反りが非常に小さいことが確認された。また、ルーペを用いて接合部分を肉眼観察したところ、実施例2では何ら欠陥を確認できなかったが、比較例2のターゲットの溶接部には小さな割れが認められた。
【0053】
次に、摩擦撹拌溶接法に関する接合処理手順について検討した結果を説明する。ここでは、図12に示すように、摩擦撹拌溶接法に関する接合処理手順として、図12(A)と図12(B)の2通りの接合処理手順を行った。
【0054】
一つ目の手順は、図12(A)のように、3枚の長方形状のターゲット部材(厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mm)を準備し、各部材の長辺側を当接させ、接合処理をすることにより、幅900mm×長さ1200mmの大型ターゲット(実施例3)を製造したものである。これに対して、図12(B)のように、4枚の正方形状のターゲット部材(厚さ10mm、幅450mm×長さ600mm)を準備し「田」の字状に配置して組み合わせた、同面積の大型ターゲット(比較例3)を製造した。接合処理条件は、第一実施形態で示した条件と同じである。また、実施例3の接合処理は、図12(A)の矢印で示すように、同一方向にスターロッドを移動させて当接部の接合をしたものであり、先にターゲット部材T1とT2とを接合し、その後T2にT3を並べて接合した。一方、比較例3の接合処理は、まず、ターゲット部材T1及びT2とターゲット部材T3及びT4とを、矢印方向にスターロッドを移動させて接合し、その後、長方形状の2つの部材(T1−T2、T3−T4)を当接して、図に示した矢印方向にスターロッドを移動させて接合した。尚、この実施例3及び比較例3の接合処理では、片面側からだけ摩擦撹拌溶接を施した。この接合処理手順を変えたターゲットの反りを測定した結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
この表4で示した反りの測定、矯正処理は表3の場合と同様である。表4を見ると判るように、実施例3の接合処理手順の方が小さい反りであることが確認された。また、比較例3の場合、矯正処理を行う際、T1及びT2とT3及びT4の長方形状の部材を接合処理した後に1回目の矯正処理を行い、さらに、この矯正処理した2つの部材を接合して大型ターゲットを形成した後に矯正処理を行う必要があった。これに対して、実施例3の手順では大型ターゲットを形成した後に、1度だけの矯正処理を行うだけで十分であった。
【0057】
次に、摩擦撹拌溶接におけるスターロッドの移動方向にについて検討した結果を説明する。ここでは、図12(A)で説明した3枚の長方形状のターゲット部材(厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mm)を並列に配置して組み合わせた、幅900mm×長さ1200mmの大型ターゲットを製造した。スターロッドの移動方向としては、図13(C)のように、2つの当接部に対して同一方向(図12(A)と同じ)とした場合(実施例4)と、図13(D)のように、T1及びT2の当接部と、T2及びT3の当接部とでは、スターロッドの移動が逆方向になるようにして接合処理を行った(実施例5)ものである。この実施例4及び5について、その反りを測定した結果を表5に示す。尚、この実施例4及び5の接合処理では、片面側からだけ摩擦撹拌溶接を施した。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、同一形状の大型ターゲットでは、スターロッドを同一方向に移動させた場合よりも、逆方向に移動させた場合の方が反りの小さいことが判明した。
【0060】
さらに、接合処理を両面側に施した場合と片面側に施した場合ついて検討した結果を説明する。ここでは、図2に示したように、2枚のターゲット部材(厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mm)の当接部に対して、片面側(表面側)のみ接合処理をした場合(実施例6)と、両面(表面及び裏面)に対して接合処理をした場合(実施例7)とで、それぞれターゲットを形成し、その反りを測定した。その結果を表6に示す。
【0061】
【表6】
【0062】
表6の結果より、両面側から接合処理を行った方がターゲットの反りが小さくなることが判明した。また、両面側から接合処理を行ったものは、接合後の反り自体が小さいので、矯正処理が容易に行えた。
【0063】
第四実施形態:この第四実施形態では、摩擦撹拌接合して得られるターゲットにおけるターゲット部材の製造方法の相違について検討した結果を説明する。
【0064】
この第四実施形態では、以下に示す6つの製造方法によりターゲット部材を2枚(厚さ8mm、幅152.4mm×長さ508mm)形成し、片面側のみの接合処理(上記実施例1の場合と同じ条件)を行い、各タ−ゲットを作製した。また、ターゲット部材の組成としては、Al−3at%Ni−0.3at%C−2at%Si、Al−2at%Ti、Al−2at%Ndの三種類とした。
【0065】
溶解法:上記実施例1で示したものと同様の条件にて、組成Al−3at%Ni−0.3at%C−2at%Siのターゲット部材を製造し、それを接合処理した。Al−2at%Tiと、Al−2at%Ndとの組成のターゲット部材は、真空溶解により、材料の溶解を行った以外は、実施例1と同様にしてターゲット部材を製造した。
【0066】
熱間プレス法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmのカーボン型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、575℃、圧力200kg/cm2、Ar雰囲気中で、1時間、熱間プレスを行った。そして、プレス後に所定形状に加工した。
【0067】
熱間等方圧成型法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmのHIP用型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、575℃、圧力1000kg/cm2、1時間、熱間等方圧成型を行った。そして、その後所定形状に加工した。
【0068】
冷間等方圧成型法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmのCIP用型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、室温、圧力1000kg/cm2、1時間、冷間等方圧成型を行った。そして、その後所定形状に加工した。
【0069】
プレス法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmの金型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、室温、圧力1000kg/cm2、5分間、プレス成型を行った。そして、プレス後に所定形状に加工した。
【0070】
プレス−熱間等方圧成型法:この製法は、上記プレスと熱間等方圧成型法とを組み合わせてターゲット部材を製造するものである。具体的には、サイズ157.4mm×513.0mm×10mmの金型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、室温、圧力1000kg/cm2、5分間、プレス成型を行った。続いて、575℃、圧力1000kg/cm2、1時間、熱間等方圧成型を行った。そして、その後所定形状に加工した。
【0071】
表7には、上記した6つの製法により得られたターゲット部材を実施例1と同じ条件で接合したターゲットをその外観及びスパッタリング性を評価した結果を示す。また、表6には、各ターゲットの相対密度を示しているが、この相対密度は、下記式で算出される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率として定義されるもので、具体的には、実際に得られたスパッタリングターゲットの重量/体積として求められる実測密度が理論密度に占める割合(%)を意味するものである。従って、この相対密度が100%に近いほど、内部にブローホールなどの空孔が少なく、密に詰まった材料となっていることを示す。
【0072】
【表7】
【0073】
【数1】
【0074】
表7に示す評価結果は、◎が非常に良好なスパッタリング性で、接合部に全く問題が無いターゲットであること、○が良好なスパッタリング性で、接合部には特に問題が無いターゲットであること、×は接合部に欠陥があるとともに密度ムラもあり、さらにスパッタリング性も悪いものであったこと、を表している。
【0075】
表7の結果より、冷間等方圧成形や単なるプレス法によりターゲット部材を製造した場合では、摩擦撹拌溶接法によっても、良好なターゲットを製造できないことが判明した。従って、ターゲット部材の相対密度が高いものを摩擦撹拌溶接法により接合してアルミニウム系ターゲットを形成すると、アーキング現象やスプラッシュ現象が抑制され、良好なスパッタリング性を実現できること判った。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】摩擦撹拌接合の状態を示す概略図(A)及びスターロッド断面概略図(B)。
【図2】接合部の断面を示す概略斜視図。
【図3】実施例1の接合部のSEM観察写真。
【図4】実施例1の接合部のSEM観察写真。
【図5】実施例1の接合部のSEM観察写真。
【図6】比較例1の溶接部のSEM観察写真。
【図7】接合部の組織観察写真。
【図8】接合部の組織観察写真。
【図9】ターゲット材の概略斜視図。
【図10】実施例1のエロージョン部の観察写真。
【図11】比較例1のエロージョン部の観察写真。
【図12】接合処理手順を示す概略斜視図
【図13】接合処理でのスターロッドの移動方向を示す概略斜視図
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム合金によるアルミニウム系ターゲットに関し特に、大面積を有する大型のアルミニウム系ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミニウム系ターゲットにより形成されるアルミニウム合金薄膜は、液晶ディスプレーの薄膜トランジスターなどのような半導体素子を構成する際の配線形成に用いられている。このアルミニウム系ターゲットの需要は、近年の電子・電気製品の需要増加に伴い、さらに増加する傾向である。そして、半導体素子製造においては、非常に精密な構造を有する半導体素子を、一度に大量に製造する技術の進行が著しい。具体的には、非常に大きな面積を有するターゲットを用いてスパッタリングを行い、配線形成用の薄膜を大面積に形成し、一度に大量の半導体素子を製造する技術が進展している。
【0003】
現在、この半導体素子の製造分野においては、1150mm×980mmの面積を備えるターゲット(第4世代)を用いて製造することが行われているが、今後はおよそ2500mm×2500mm級の大面積のターゲットを用いる計画が目標とされている。このような半導体製造技術の進展を実現するには、非常に大面積の大型ターゲットを提供できることが必須となる。
【0004】
このターゲットの大型化(大面積化)への対応としては、例えば、大型の連続鋳造装置や圧延機などにより、広幅のターゲット部材を製造する方法や所定の厚みに圧延したターゲット部材を複数接合する方法が採用されている。
【0005】
しかしながら、大型の連続鋳造装置や圧延機を使用すると、設備コストの増大は避けられず、多品種ターゲットの製造、即ち所望の組成を有する様々な種類のターゲット材を製造することが困難である。
【0006】
他方、小面積のターゲット部材を複数接合することによって大面積のターゲット材を製造する場合は、接合部分を瞬時に溶融して溶接可能な電子ビーム溶接が行われている(特許文献1参照)。この電子ビーム溶接は、ターゲット部材の接合部分を溶融するため、合成組成によってはスプラッシュが多発して溶接部にブローホールと呼ばれる空洞を形成し易い傾向がある。このようなブローホールのある接合部を有するターゲットを用いて薄膜形成を行うと、スパッタリング時における放電安定性が悪くなり、安定した薄膜形成に影響することが想定される。また、電子ビーム溶接によって接合したターゲットでは、溶融凝固の影響により、ターゲット自体に反りが生じやすいという問題もある。
【0007】
さらに、ターゲットの大型化に伴ってターゲット厚も厚くなる傾向になるが、溶接エネルギーの観点から電子ビーム溶接での対応がより困難になるものと予想される。くわえて、この電子ビーム溶接では、溶接時に雰囲気を真空にする必要があり、大面積のターゲットを製造するためには好適でなく、製造コストの低廉化も難しく、大型化のターゲットを低コストで供給することは難しい。
【0008】
【特許文献1】特開平11−138282号公報
【発明の開示】
【0009】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、次世代の大型のターゲットを提供すること目的としており、特に、低コストで、且つブローホールのような内部欠陥を極力減少し、反りない大面積のアルミニウム系ターゲット及びその製造方法を提供するものである。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは複数のターゲットを接合して大型のターゲット材を製造する技術を鋭意検討した結果、大面積のアルミニウム系ターゲット材を低コストで、且つ内部欠陥の非常に少ないものが製造可能な技術を見出し、本発明を想到した。
【0011】
本発明は、複数のアルミニウム合金ターゲット部材からなるアルミニウム系ターゲットにおいて、摩擦撹拌接合法によりアルミニウム合金ターゲット部材を接合した接合部を備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係るアルミニウム系ターゲットは、その接合部において内部欠陥、即ちブローホールのような空洞が極めて少なく、接合部におけるひずみが少ないため、ターゲット自体に反りが発生しにくい。そして、摩擦撹拌接合法を採用しているので製造コストが比較的安く済み、本発明に係る大面積のアルミニウム系ターゲットは安価に提供可能となる。そして、接合部においてブローホールが少ないので、スパッタリング時における放電は安定し、形成した薄膜の組成や厚みを大面積においても均一に実現することが可能となる。また、接合時の雰囲気は大気中で行えるので、大型のターゲットを容易に提供できる。
【0013】
本発明における摩擦撹拌接合法とは、材料を固相状態で接合するものである。具体的には、ターゲット部材同士を当接した状態にし、その当接した部分にスターロッドと呼ばれる円柱状物体(プローブ)を所定深さ挿入した状態で回転させながら、接合線に沿って移動させることによりターゲット部材を接合するものである。
【0014】
そして、本発明に係るアルミニウム系ターゲットは、その接合部には、径10μm以下の析出物が分散した組織となる。従来の電子ビーム溶接では、溶接部において偏析が生じやすく、母材の組成と溶接部の組成とが異なる傾向があり、このような電子ビーム溶接したターゲットをスパッタリングして形成した薄膜では、薄膜の均一性の問題、すなわち薄膜の組成や厚みが不均一になるという懸念を生じる。一方、本発明に係るアルミニウム系ターゲットのアルミニウム母材は、例えば、金属間化合物や炭化物などの析出物を分散した組織を呈するものであるが、その接合部にも、0.1μm〜10μm径の同程度の析出物が分散した組織となり、接合部以外のターゲット母材の組織とほぼ同一となり、均一性の高い薄膜の形成が行えるものとなる。
【0015】
本発明に係るアルミニウム系ターゲットは、アルミニウム合金として、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を含有し、残部がアルミニウムのものを用いることが好ましい。また、炭素をさらに含有してもよい。さらに、シリコンやネオジウムを含有してもよい。ニッケル、コバルト、鉄またはシリコンやネオジウムを含むアルミニウム合金であると、摩擦撹拌接合際に好適な粘度を有し、スターロッドの回転運動等に適当な摩擦状態となる、析出物が分散したターゲット部材となるからである。このニッケル、コバルト、鉄またはシリコンやネオジウムの含有量は、0.1〜10at%が好ましいが、特に、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を含有する場合は、0.5〜7.0atであることが望ましい。また、シリコンの含有量は0.5〜2.0at%で、或いはネオジウムの含有量0.1〜3.0at%であることが好ましい。また、炭素を含有すると、炭化物が析出し、この炭化物が潤滑剤の役割を果たすという効果を有すると思われるターゲット部材となる。炭素の含有量は、0.1〜3.0at%であることが好ましい。尚、この炭素と同様にシリコンやネオジウムについても、その析出物が潤滑剤として役割を果たすものと考えられる。或いは、シリコンを含有する場合は、形成したアルミニウム合金薄膜とシリコンとの相互拡散を効果的に防止することが可能となる。さらに、上記した元素を含有するアルミニウム合金であれば、耐熱性、低抵抗性などの優れた膜特性を備えた薄膜を形成できるアルミニウム系ターゲットとなる。
【0016】
また、本発明に係る、複数のアルミニウム合金ターゲット部材を接合させてなるアルミニウム系ターゲットは、その接合部が径500μm以下のブローホールを0.01〜0.1個/cm2を有するものが好ましい。本発明ようにブローホールが極力少ない接合部を有するターゲットであると、スパッタリング時における放電安定性が良好となり、均一性の高い薄膜形成を安定して行える。加えて、この接合部には、径500μmを超えるブローホールを有しないであることが好ましい。このような内部欠陥の少ない接合部を有するアルミニウム系ターゲットによれば、アーキング現象やスプラッシュ現象が抑制された、より安定したスパッタリングを実現できるものとなる。
【0017】
上述した本発明のアルミニウム系ターゲットは、アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接し、当接部に摩擦撹拌溶接用のプローブを配置して、プローブと当接部との間に相対的な循環運動を起こし、発生した摩擦熱により当接部分に塑性流動を生じさて、アルミニウム合金ターゲット部材を接合することで製造することができる。
【0018】
そして、この接合処理は、アルミニウム合金ターゲット部材における表面及び裏面の両面側より行うことが望ましい。アルミニウム系ターゲットの形状としては、矩形板状、円形板状、円筒形状などのものが知られるが、形状の相違に関係なく、当該部材の表面及び裏面に接合処理を行うことが好ましい。
【0019】
本発明における摩擦撹拌接合法は、その接合部において内部欠陥が極めて少なく、接合部のひずみが少ないため、従来から行われている電子ビーム溶接などと比較すると、ターゲット自体に反りが発生しにくい。そのため、例えば、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を接合して、一つのターゲットを製造する場合、その矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接して形成される当接部に対して、その片面(アルミニウム合金ターゲット部材の表面)側から接合処理を行うだけで、ターゲット自体の反りは小さなものとなる。そして、この片面(アルミニウム合金ターゲット部材の表面)側から接合処理を行った当接部に対し、その反対面(アルミニウム合金ターゲット部材の裏面)側から再び接合処理を行うと、製造されるターゲットの反りが更に抑制することができるものとなる。
【0020】
また、本発明のアルミニウム系ターゲットの製造方法では、複数の当接部が存在する場合、隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を同一方向にすることが好ましい。
【0021】
例えば、大面積の大型アルミニウム系ターゲットを製造する場合、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を複数接合することが一般的に行われる。このような大型アルミニウム系ターゲットを製造するには、次のように行うことが望ましいのである。それは、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を並列に配置し、各矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接することにより、平行に並んだ2以上の当接部を形成し、当接部に摩擦撹拌溶接用の円柱状物体(プローブ)を配置し、このプローブを当接部の基端から終端まで移動させるとともに、プローブと当接部との間に相対的な循環運動を起こし、発生した摩擦熱により当接部分に塑性流動を生じさてアルミニウム合金ターゲット部材を接合処理する際、隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を同一方向にするのである。このようにすると、形成される大型アルミニウム系ターゲットの反りを非常に小さくすることができるのである。これは、接合処理における摩擦熱の影響を、各当接部の基端部分側から終端部分側に向けて、同様な状態にできることによるものと推測される。
【0022】
さらに、本発明のアルミニウム系ターゲットの製造方法では、複数の当接部が存在する場合、隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を逆方向にすることも望ましい。
【0023】
上述したように、例えば、複数の矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材を並列に配置して接合し、大型のアルミニウム系ターゲットを製造する場合、各矩形板状アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接することにより、平行に並んだ2以上の当接部を接合処理する際、基端から終端までのプローブの移動方向を逆方向にすることも有効なのである。上述した同一方向へのプローブの移動に比べ、形成される大型アルミニウム系ターゲットの反りをさらに抑制することができ、接合処理の際の発生熱による熱影響も抑制できるようになる。
【0024】
上述した本発明に係るアルミニウム系ターゲットの製造方法においては、接合処理の際、プローブの1回転あたり移動距離が0.5〜1.4mmとすることが好ましい。このプローブの1回転あたり移動距離が0.5mm未満になっても、1.4mmを超えても、接合部にブローホールのなどの内部欠陥が発生しやすく、ノジュールやパーティクルの発生も引き起こす傾向が強くなる。
【0025】
本発明に係るアルミニウム系ターゲットの製造方法においては、アルミニウム合金ターゲット部材の相対密度が95%以上であるものを用いることが好ましい。この相対密度は、実際に測定して得られるターゲットの実測密度がターゲットの理論密度を占める割合であるが、この相対密度が小さなアルミニウム合金ターゲット部材を接合すると、その接合部にブローホールなどの内部欠陥を多く発生する可能性が高くなる。また、相対密度値が95%未満のアルミニウム合金ターゲット部材を接合すると、接合部とそれ以外の部分での密度差が大きくなる傾向となり、良好なスパッタリング特性を実現できなくなるのである。よって、95%以上の相対密度を有するアルミニウム合金ターゲット部材を用いることで、アーキング現象やスプラッシュ現象が抑制された、良好なスパッタリングが行えるアルミニウム系ターゲットを形成できるのである。
【0026】
以上のように、本発明によれば、ブローホールのような内部欠陥を極力減少した、反りのない大面積のアルミニウム系ターゲットとなるので、大面積の薄膜をスパッタリングにより形成しても、その薄膜組成や厚みが大面積に亘り極めて均一性の高いものを実現できる。また、本発明では、設備面からの制約が少ないため、次世代の大型アルミニウム系ターゲットを低コストで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0028】
第一実施形態:この第一実施形態では、アルミニウム−ニッケル−炭素合金のアルミニウム系ターゲットを、摩擦撹拌接合法による場合(実施例1)と、電子ビーム溶接法による場合(比較例1)により製造し、その特性を比較したものである。
【0029】
本実施例1で用いたターゲット部材は、次のようにして製造した。まず、カーボンルツボ(純度99.9%)に、純度99.99%のアルミニウムを投入して、1600〜2500℃の温度範囲内に加熱してアルミニウムを溶解した。このカーボンルツボによるアルミニウムの溶解は、アルゴンガス雰囲気中で雰囲気圧力は大気圧として行った。この溶解温度で約5分間保持し、カーボンルツボ内にアルミニウム−炭素合金を生成した後、その溶湯を炭素鋳型に投入して、放置することにより自然冷却して鋳造した。
【0030】
この炭素鋳型に鋳造したアルミニウム−炭素合金の鋳塊を取り出し、純度99.99%のアルミニウムとニッケルとを所定量加えて、再溶解用のカーボンルツボに投入して、800℃に加熱することで再溶解し、約1分間撹拌を行った。この再溶解も、アルゴンガス雰囲気中で、雰囲気圧力は大気圧にして行った。撹拌後、溶湯を銅水冷鋳型に鋳込むことにより、板形状の鋳塊を得た。さらに、この鋳塊を圧延機により、厚さ10mm、幅400mm×長さ600mmの長方形板状ターゲット部材を複数形成した。
【0031】
そして、このターゲット部材の側面をフライス加工により平面出しを行い、摩擦撹拌接合を行った。摩擦撹拌接合は、図1(A)に示すような状態で行った。2つターゲット部材Tの側面を当接した状態にし、市販の摩擦撹拌接合装置のスターロッド1をその当接部分の上部に配置した。図1(B)には、使用したスターロッド1の断面概略図を示しているが、ターゲット部材に当接される先端部2は、先端径φ10mmであった(図1(B)中、各径として記載した数値の単位はmmである)。摩擦撹拌接合条件は、スターロッド1の先端部2(鋼製)を回転速度500rpm及び移動速度300mm/min(一回転あたりの移動距離0.6mm)に設定し操作した。尚、このスターロッドの先端部は、ターゲット部材表面に対して垂直(先端部傾斜0°)に当接して行った
【0032】
また、比較として、側面をフライス加工して平面出した2つのターゲット部材を電子ビーム溶接で溶接をしたターゲット材も作製した(比較例1)。電子ビーム溶接の条件は、加速電圧120kV、ビーム電流18mA、溶接速度10mm/secである。
【0033】
このようにして得られた幅800mm×長さ600のターゲット材について、その接合部のSEM観察、組織観察、反り特性、エロージョン観察及び放電特性について調査を行った。
【0034】
SEM観察は、図2に示す接合部の断面について行った。図2には、接合部の側面側から見た斜視図を示している。SEM観察(倍率1000倍)を行った部分は、ターゲット部材Tの一部A、接合部の上方部B及び下方部Cである。また、比較例1のターゲットは、溶接部とターゲット部材との境界面をSEMにて観察した。実施例1についてのSEM観察の結果を図3〜図5に示す。
【0035】
図3は図2のA部分、図4は図2のB部分、図5は図2のC部分を観察したものであるが、これらを見るとわかるように、ターゲット部材T側と接合部Jにおいて、金属間化合物の析出物であるAl3Ni(写真中に白い斑点状に見える部分)のサイズの大きさにほとんど差がなかった。この金属間化合物の析出物(Al3Ni)の大きさは、0.1〜10μm径のものであった。また、炭化物であるAl4C3(10〜100μm)についても、ほぼ同様な分布傾向であった。一方、図6には、電子ビーム溶接を行ったターゲット材(比較例1)の溶接部の境界を観察したものを示しているが、溶接部(写真中央から左側部分)と、その近傍のターゲット材(写真中央から右側部分)、即ち母材との組織は大きく異なっているのが確認された。
【0036】
次に、接合部Jの組織観察について説明する。この組織観察は、図2で示した接合部位を、塩化第二銅溶液により所定時間エッチングをして、金属顕微鏡にてターゲット材の上部側と側面側とから、その表面を観察したものである。その組織観察結果を図7及び図8に示す。
【0037】
図7に上部側表面の組織を、図8に側面側表面の組織を示している。この観察結果より、ターゲット部材側と接合部においてはその組織に大きな変化は見られなかった。
【0038】
また、本実施例1のターゲット材を水平面に載置してその反り状態を調査したところ、ターゲット材の反りはほとんど無いことが判明した。また、上記組織観察と接合部の目視観察により、摩擦撹拌接合により部材割れも発生していないことが確認された。
【0039】
続いて、エロージョン観察結果について説明する。このエロージョン観察は、図9に示すように、ターゲット材10から円板(直径203.2mm×厚さ10mm)のターゲット11を切り出し、市販のスパッタリング装置(図示せず)に装着して、直流4kWの電力で6時間のスパッタリングを行った後、ターゲット11を取り出して、スパッタによって材料が最もえぐられた部分Eを上方から観察することにより行った。そのエロージョン観察結果を図10及び図11に示す。
【0040】
図10が実施例1で、図11が比較例1のものを示している。本実施例1のターゲットにおけるエロージョン観察では、接合部分にはブローホールのような欠陥はほとんど確認できなかった。一方、比較例1のターゲットでは、多量のブローホール(中央にある黒い溶接部分内に見られる白い斑点状の欠陥)が存在していた。また、実施例の接合部におけるブローホールの量を測定したところ、約9cm2の面積に相当する部分には一つも存在しないことが判明した。その他のエロージョン部分を調査した結果、実施例1のターゲットでは、500μmを超えるような大きな径のブローホールは存在しなく、径500μm以下のブローホール存在は0.06個/cm2程度であることが判った。また、複数のターゲット材を調べた結果、実施例1のターゲット材では、径500μm以下のブローホールが0.01個/cm2〜0.1個/cm2の量で接合部に存在していることが判明した。一方、比較例1のターゲットの溶接部では、同面積を調査した結果、径500μm以下のブローホールが10個/4.5cm2(2.2個/cm2)存在することが確認された。なお、このブローホールの量は、スパッタリング処理(12.3W/cm2、6時間)後のエロージョン部を金属顕微鏡にて観察することにより測定したもので、観察できるブローホールの大きさは1μm以上のものである。
【0041】
さらに、スパッタリング時におけるアーキング発生について調査した結果について説明する。このアーキング発生調査は、上述した実施例1と比較例1のターゲットを、市販のスパッタリング装置(図示せず)にそれぞれ装着し、投入電力密度12.3W/cm2の電力で所定時間スパッタリングを行い、そのスパッタ時に発生したアーキングをカウント(電圧変化)することによって行ったものである。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、実施例1のターゲットでは、アーキング現象があまり確認されず、良好なスパッタリングを行えることが判明した。一方、比較例1では、貫通溶接、両面溶接のどちらのターゲットであっても、実施例1に比べると、スパッタ中にかなりのアーキングが発生していることが確認された。尚、表1中の比較例1の貫通溶接とは、上記した電子ビーム溶接条件で、片面側のみから電子ビーム溶接接合をしたターゲットを示し、両面溶接とは、同電子ビーム溶接条件で、両面に電子ビーム溶接接合をしたターゲットを示している。
【0044】
第二実施形態:ここでは、上述した第一実施形態における実施例1の摩擦撹拌接合に関し、その条件を検討した結果について説明する。表2に、検討した摩擦撹拌接合条件を示す。その他の条件については、実施例1と同様にした。
【0045】
【表2】
【0046】
また、摩擦撹拌接合条件の評価は、各条件で接合したターゲットのスパッタリング時におけるアーキング発生を調べることにより行った。その結果を表2に示す。表2を見ると判るように、回転速度を固定して、スターロッドの移動速度を変化させたところ、一回転あたりの移動距離が0.50〜1.40mm/回転であると、アーキングの発生が非常に少ない結果となった。この結果より、摩擦撹拌接合の条件としては、スターロッドの回転と移動速度との関係が重要で、一回転あたりの移動距離が0.50mm/回転より小さくても、逆に1.40mm/回転よりも大きくても、ブローホールのなどの内部欠陥が発生しやすく、ノジュールやパーティクルの発生も引き起こす傾向が強くなるものと考えられた。
【0047】
第三実施形態:この第三実施形態では、複数のターゲット部材を組み合わせて大型ターゲットを製造する場合における接合処理方法を検討した結果について説明する。
【0048】
まず、製造したアルミニウム系ターゲットの反りについて調べて結果を、以下に示す実施例2及び比較例2に基づいて説明する。
【0049】
この実施例2及び比較例2は、上記第一実施形態における実施例1及び比較例1と、その組成、製造方法、接合処理方法は同じ条件である(以下に示す実施例3〜5及び比較例3も同様)。但し、ターゲット部材の大きさは、厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mmとし、その長辺側を接合して幅600mm×長さ1200mmの大型ターゲットを形成した。
【0050】
そして、得られた実施例2及び比較例2の各ターゲットを、水平定盤上に載せ、ターゲット端の中で、定盤面と最も隙間が生じている部分を特定し、その隙間の長さを測定して、そのターゲットの反り値とした。この反り測定は、接合直後と、矯正処理後の二回に分けて行った。その結果を表3に示す。尚、この矯正処理は、ターゲットの凸状に反った部分を上にして、ターゲット両端を枕木に載せた状態にして、冷間プレス機にて、上方から押圧してその反りを矯正するものである。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、実施例2のターゲットは、反りが非常に小さいことが確認された。また、ルーペを用いて接合部分を肉眼観察したところ、実施例2では何ら欠陥を確認できなかったが、比較例2のターゲットの溶接部には小さな割れが認められた。
【0053】
次に、摩擦撹拌溶接法に関する接合処理手順について検討した結果を説明する。ここでは、図12に示すように、摩擦撹拌溶接法に関する接合処理手順として、図12(A)と図12(B)の2通りの接合処理手順を行った。
【0054】
一つ目の手順は、図12(A)のように、3枚の長方形状のターゲット部材(厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mm)を準備し、各部材の長辺側を当接させ、接合処理をすることにより、幅900mm×長さ1200mmの大型ターゲット(実施例3)を製造したものである。これに対して、図12(B)のように、4枚の正方形状のターゲット部材(厚さ10mm、幅450mm×長さ600mm)を準備し「田」の字状に配置して組み合わせた、同面積の大型ターゲット(比較例3)を製造した。接合処理条件は、第一実施形態で示した条件と同じである。また、実施例3の接合処理は、図12(A)の矢印で示すように、同一方向にスターロッドを移動させて当接部の接合をしたものであり、先にターゲット部材T1とT2とを接合し、その後T2にT3を並べて接合した。一方、比較例3の接合処理は、まず、ターゲット部材T1及びT2とターゲット部材T3及びT4とを、矢印方向にスターロッドを移動させて接合し、その後、長方形状の2つの部材(T1−T2、T3−T4)を当接して、図に示した矢印方向にスターロッドを移動させて接合した。尚、この実施例3及び比較例3の接合処理では、片面側からだけ摩擦撹拌溶接を施した。この接合処理手順を変えたターゲットの反りを測定した結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
この表4で示した反りの測定、矯正処理は表3の場合と同様である。表4を見ると判るように、実施例3の接合処理手順の方が小さい反りであることが確認された。また、比較例3の場合、矯正処理を行う際、T1及びT2とT3及びT4の長方形状の部材を接合処理した後に1回目の矯正処理を行い、さらに、この矯正処理した2つの部材を接合して大型ターゲットを形成した後に矯正処理を行う必要があった。これに対して、実施例3の手順では大型ターゲットを形成した後に、1度だけの矯正処理を行うだけで十分であった。
【0057】
次に、摩擦撹拌溶接におけるスターロッドの移動方向にについて検討した結果を説明する。ここでは、図12(A)で説明した3枚の長方形状のターゲット部材(厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mm)を並列に配置して組み合わせた、幅900mm×長さ1200mmの大型ターゲットを製造した。スターロッドの移動方向としては、図13(C)のように、2つの当接部に対して同一方向(図12(A)と同じ)とした場合(実施例4)と、図13(D)のように、T1及びT2の当接部と、T2及びT3の当接部とでは、スターロッドの移動が逆方向になるようにして接合処理を行った(実施例5)ものである。この実施例4及び5について、その反りを測定した結果を表5に示す。尚、この実施例4及び5の接合処理では、片面側からだけ摩擦撹拌溶接を施した。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、同一形状の大型ターゲットでは、スターロッドを同一方向に移動させた場合よりも、逆方向に移動させた場合の方が反りの小さいことが判明した。
【0060】
さらに、接合処理を両面側に施した場合と片面側に施した場合ついて検討した結果を説明する。ここでは、図2に示したように、2枚のターゲット部材(厚さ10mm、幅300mm×長さ1200mm)の当接部に対して、片面側(表面側)のみ接合処理をした場合(実施例6)と、両面(表面及び裏面)に対して接合処理をした場合(実施例7)とで、それぞれターゲットを形成し、その反りを測定した。その結果を表6に示す。
【0061】
【表6】
【0062】
表6の結果より、両面側から接合処理を行った方がターゲットの反りが小さくなることが判明した。また、両面側から接合処理を行ったものは、接合後の反り自体が小さいので、矯正処理が容易に行えた。
【0063】
第四実施形態:この第四実施形態では、摩擦撹拌接合して得られるターゲットにおけるターゲット部材の製造方法の相違について検討した結果を説明する。
【0064】
この第四実施形態では、以下に示す6つの製造方法によりターゲット部材を2枚(厚さ8mm、幅152.4mm×長さ508mm)形成し、片面側のみの接合処理(上記実施例1の場合と同じ条件)を行い、各タ−ゲットを作製した。また、ターゲット部材の組成としては、Al−3at%Ni−0.3at%C−2at%Si、Al−2at%Ti、Al−2at%Ndの三種類とした。
【0065】
溶解法:上記実施例1で示したものと同様の条件にて、組成Al−3at%Ni−0.3at%C−2at%Siのターゲット部材を製造し、それを接合処理した。Al−2at%Tiと、Al−2at%Ndとの組成のターゲット部材は、真空溶解により、材料の溶解を行った以外は、実施例1と同様にしてターゲット部材を製造した。
【0066】
熱間プレス法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmのカーボン型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、575℃、圧力200kg/cm2、Ar雰囲気中で、1時間、熱間プレスを行った。そして、プレス後に所定形状に加工した。
【0067】
熱間等方圧成型法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmのHIP用型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、575℃、圧力1000kg/cm2、1時間、熱間等方圧成型を行った。そして、その後所定形状に加工した。
【0068】
冷間等方圧成型法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmのCIP用型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、室温、圧力1000kg/cm2、1時間、冷間等方圧成型を行った。そして、その後所定形状に加工した。
【0069】
プレス法:サイズ157.4mm×513.0mm×10mmの金型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、室温、圧力1000kg/cm2、5分間、プレス成型を行った。そして、プレス後に所定形状に加工した。
【0070】
プレス−熱間等方圧成型法:この製法は、上記プレスと熱間等方圧成型法とを組み合わせてターゲット部材を製造するものである。具体的には、サイズ157.4mm×513.0mm×10mmの金型に、Al粉、Ni粉、C粉、Si粉、Ti粉、Nd粉を用いて、適宜、所定組成となるようにした混合粉を充填し、室温、圧力1000kg/cm2、5分間、プレス成型を行った。続いて、575℃、圧力1000kg/cm2、1時間、熱間等方圧成型を行った。そして、その後所定形状に加工した。
【0071】
表7には、上記した6つの製法により得られたターゲット部材を実施例1と同じ条件で接合したターゲットをその外観及びスパッタリング性を評価した結果を示す。また、表6には、各ターゲットの相対密度を示しているが、この相対密度は、下記式で算出される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率として定義されるもので、具体的には、実際に得られたスパッタリングターゲットの重量/体積として求められる実測密度が理論密度に占める割合(%)を意味するものである。従って、この相対密度が100%に近いほど、内部にブローホールなどの空孔が少なく、密に詰まった材料となっていることを示す。
【0072】
【表7】
【0073】
【数1】
【0074】
表7に示す評価結果は、◎が非常に良好なスパッタリング性で、接合部に全く問題が無いターゲットであること、○が良好なスパッタリング性で、接合部には特に問題が無いターゲットであること、×は接合部に欠陥があるとともに密度ムラもあり、さらにスパッタリング性も悪いものであったこと、を表している。
【0075】
表7の結果より、冷間等方圧成形や単なるプレス法によりターゲット部材を製造した場合では、摩擦撹拌溶接法によっても、良好なターゲットを製造できないことが判明した。従って、ターゲット部材の相対密度が高いものを摩擦撹拌溶接法により接合してアルミニウム系ターゲットを形成すると、アーキング現象やスプラッシュ現象が抑制され、良好なスパッタリング性を実現できること判った。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】摩擦撹拌接合の状態を示す概略図(A)及びスターロッド断面概略図(B)。
【図2】接合部の断面を示す概略斜視図。
【図3】実施例1の接合部のSEM観察写真。
【図4】実施例1の接合部のSEM観察写真。
【図5】実施例1の接合部のSEM観察写真。
【図6】比較例1の溶接部のSEM観察写真。
【図7】接合部の組織観察写真。
【図8】接合部の組織観察写真。
【図9】ターゲット材の概略斜視図。
【図10】実施例1のエロージョン部の観察写真。
【図11】比較例1のエロージョン部の観察写真。
【図12】接合処理手順を示す概略斜視図
【図13】接合処理でのスターロッドの移動方向を示す概略斜視図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアルミニウム合金ターゲット部材からなるアルミニウム系ターゲットにおいて、
摩擦撹拌接合法によりアルミニウム合金ターゲット部材を接合した接合部を備えることを特徴するアルミニウム系ターゲット。
【請求項2】
接合部には、径10μm以下の析出物が分散したものである請求項1に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項3】
アルミニウム合金は、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を0.5〜7.0at%含有し、残部がアルミニウムである請求項1または請求項2に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項4】
アルミニウム合金は、0.1〜3.0at%の炭素を更に含むものである請求項3に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項5】
アルミニウム合金は、0.5〜2.0at%のシリコンを更に含むものである請求項3または請求項4に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項6】
アルミニウム合金は、0.1〜3.0at%のネオジウムを更に含むものである請求項3〜請求項5いずれかに記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項7】
複数のアルミニウム合金ターゲット部材を接合させてなるアルミニウム系ターゲットにおいて、
接合部は、径500μm以下のブローホールを0.01〜0.1個/cm2有することを特徴とするアルミニウム系ターゲット。
【請求項8】
複数のアルミニウム合金ターゲット部材を接合させてなるアルミニウム系ターゲットにおいて、
接合部は、径500μmを超えるブローホールを有しないことを特徴とするアルミニウム系ターゲット。
【請求項9】
接合部には、径10μm以下の析出物が分散したものである請求項7または請求項8に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項10】
アルミニウム合金は、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を0.5〜7.0at%含有し、残部がアルミニウムである請求項7〜請求項9いずれかに記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項11】
接合部は、摩擦撹拌接合法により形成された請求項7〜請求項10いずれかに記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項12】
アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接し、
当接部に摩擦撹拌溶接用のプローブを配置して、プローブと当接部との間に相対的な循環運動を起こし、発生した摩擦熱により当接部分に塑性流動を生じさて、アルミニウム合金ターゲット部材を接合処理することを特徴とするアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項13】
接合処理は、アルミニウム合金ターゲット部材における表面及び裏面の両面側より行うものである請求項12に記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項14】
隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を同一方向にするものである請求項12または請求項13に記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項15】
隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を逆方向にするものである請求項12または請求項13に記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項16】
プローブの1回転あたり移動距離が0.5〜1.4mmである請求項12〜請求項15いずれかに記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項17】
アルミニウム合金ターゲット部材の相対密度が95%以上である請求項12〜請求項16いずれかに記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項18】
請求項12〜請求項17いずれかに記載の製造方法により得られたアルミニウム系ターゲット。
【請求項1】
複数のアルミニウム合金ターゲット部材からなるアルミニウム系ターゲットにおいて、
摩擦撹拌接合法によりアルミニウム合金ターゲット部材を接合した接合部を備えることを特徴するアルミニウム系ターゲット。
【請求項2】
接合部には、径10μm以下の析出物が分散したものである請求項1に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項3】
アルミニウム合金は、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を0.5〜7.0at%含有し、残部がアルミニウムである請求項1または請求項2に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項4】
アルミニウム合金は、0.1〜3.0at%の炭素を更に含むものである請求項3に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項5】
アルミニウム合金は、0.5〜2.0at%のシリコンを更に含むものである請求項3または請求項4に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項6】
アルミニウム合金は、0.1〜3.0at%のネオジウムを更に含むものである請求項3〜請求項5いずれかに記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項7】
複数のアルミニウム合金ターゲット部材を接合させてなるアルミニウム系ターゲットにおいて、
接合部は、径500μm以下のブローホールを0.01〜0.1個/cm2有することを特徴とするアルミニウム系ターゲット。
【請求項8】
複数のアルミニウム合金ターゲット部材を接合させてなるアルミニウム系ターゲットにおいて、
接合部は、径500μmを超えるブローホールを有しないことを特徴とするアルミニウム系ターゲット。
【請求項9】
接合部には、径10μm以下の析出物が分散したものである請求項7または請求項8に記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項10】
アルミニウム合金は、ニッケル、コバルト、鉄のうち少なくとも1種以上の元素を0.5〜7.0at%含有し、残部がアルミニウムである請求項7〜請求項9いずれかに記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項11】
接合部は、摩擦撹拌接合法により形成された請求項7〜請求項10いずれかに記載のアルミニウム系ターゲット。
【請求項12】
アルミニウム合金ターゲット部材の一辺の端面同士を当接し、
当接部に摩擦撹拌溶接用のプローブを配置して、プローブと当接部との間に相対的な循環運動を起こし、発生した摩擦熱により当接部分に塑性流動を生じさて、アルミニウム合金ターゲット部材を接合処理することを特徴とするアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項13】
接合処理は、アルミニウム合金ターゲット部材における表面及び裏面の両面側より行うものである請求項12に記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項14】
隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を同一方向にするものである請求項12または請求項13に記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項15】
隣接する当接部の接合処理は、基端から終端までのプローブの移動方向を逆方向にするものである請求項12または請求項13に記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項16】
プローブの1回転あたり移動距離が0.5〜1.4mmである請求項12〜請求項15いずれかに記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項17】
アルミニウム合金ターゲット部材の相対密度が95%以上である請求項12〜請求項16いずれかに記載のアルミニウム系ターゲットの製造方法。
【請求項18】
請求項12〜請求項17いずれかに記載の製造方法により得られたアルミニウム系ターゲット。
【図1】
【図2】
【図9】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図2】
【図9】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【国際公開番号】WO2005/059198
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516378(P2005−516378)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019004
【国際出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/019004
【国際出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】
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