説明

アルミニウム系金属の変色防止処理法

【課題】pH5以下の酸性領域で使用することができるアルミニウム系金属の変色防止処理法を提供する。
【解決手段】アルミニウム系金属の変色防止処理法は、25℃のpHが5以下の酸性環境において、配合量が、0.05質量%以上、好ましくは0.05〜10質量%、更に好ましくは0.05〜5質量%の範囲内であり、炭素数1〜30の範囲内にあり、1個以上のカルボキシル基と、1個以上のヒドロキシル基を有するヒドロキシカルボン酸化合物で、アルミニウム系金属を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系金属の変色防止処理法に関し、更に詳しくは、ヒドロキシカルボン酸化合物を使用するアルミニウム系金属の変色防止処理法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属アルミニウム及びアルミニウム合金のようなアルミニウム系金属の線材、板材、箔や、種々の部品、構造物は、加工油剤や洗浄剤と接触することにより変色する。現在、この変色防止には、アルキルリン酸エステル、リン酸アルカノールアミン塩などのリン系化合物や、ケイ酸ソーダ、珪酸カリウム、ケイ酸リチウムなどのケイ酸塩が使用されている。しかしながら、リン系化合物やケイ酸塩は、金属アルミニウムまたは多種にわたるアルミニウム合金に対して変色防止性能が不十分であり、更に、ケイ酸塩は溶解安定性に欠陥がある。また、近年の環境問題、特に排水処理において、リン系化合物は使用上難点がある。
【0003】
また、特許文献1には、(A)アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩から選ばれる少なくとも1種のアルカリ剤0.1〜400g/Lと、(B)重量平均分子量が250〜5000であるマレイン酸ホモポリマー、マレイン酸と他のエチレン性モノマーとのコポリマーであってマレイン酸単位を70モル%以上含有し重量平均分子量が250〜10000である該コポリマー、及びかかるホモポリマーもしくはコポリマーのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも1種のマレイン酸系ポリマー0.1〜100g/Lと、(C)ヒドロキシカルボン酸及びそのアルカリ金属塩から選ばれる少なくしも1種のキレート剤0.1〜100g/Lと、(D)洗浄用界面活性剤0.1〜50g/Lとを水に配合してなり、pH9〜14であるアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄剤が開示されている。
【0004】
また、アルミニウム系金属に対するエッチング力を向上させるために、ニトリロ三酢酸、1−ヒドロキシ−エチリデン−1,1−ジホスホン酸、ヘプトグルコン酸、グルコン酸、クエン酸、酒石酸などが洗浄液に配合されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−2229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載されているように、従来、アルミニウム系金属用洗浄剤は、pHが9〜14のようなアルカリ領域で使用されており、pHが5以下のような酸性領域で使用できるアルミニウム系金属の変色防止処理法はなかった。また、同様のpH範囲内で、ニトリロ三酢酸、1−ヒドロキシ−エチリデン−1,1−ジホスホン酸、ヘプトグルコン酸、グルコン酸、クエン酸、酒石酸などの成分は、エッチング力が充分ではないとされている。
【0007】
従って、本発明の目的は、pH5以下の酸性領域で使用することができるアルミニウム系金属の変色防止処理法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法は、25℃のpHが5以下の酸性環境において、ヒドロキシカルボン酸化合物でアルミニウム系金属を処理することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法は、ヒドロキシカルボン酸化合物が、炭素数1〜30の範囲内にあり、1個以上のカルボキシル基と、1個以上のヒドロキシル基を有する化合物であることを特徴とする。
【0010】
更に、本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法は、ヒドロキシカルボン酸化合物の配合量が、0.05質量%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法によれば、25℃でのpHが5以下の酸性環境において、アルミニウム系金属の変色を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本明細書に記載する述語「アルミニウム系金属」は、金属アルミニウムとアルミニウム合金を総称するものとする。ここで、アルミニウム合金としては、例えばJIS規格品ADC12、AC4CM、A1050、A2024、A3003、A5052、A6063、A7075等を挙げることができる。
【0013】
本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法に使用されるヒドロキシカルボン酸化合物としては、炭素数1〜30、好ましくは1〜6で、1個以上、好ましくは1〜6個のカルボキシル基と、1個以上、好ましくは1〜6個のヒドロキシル基をもつ化合物で、構造的に飽和でも不飽和でも良く、直鎖型でも側鎖型でも良く、構造中に環状構造(脂環、芳香環)を含んでいても良く、置換基として、酸素(カルボニル基、エーテル、エステルなど)、窒素(アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基など)を含有することができる化合物が好ましい。なお、ヒドロキシカルボン酸化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
上述のようなヒドロキシカルボン酸化合物としては、例えばグリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、グルコン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、サリチル酸、クレオソート酸、バニリン酸、シリング酸、ピロカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、没食子酸、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等が挙げられる。これらの化合物の中でも、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、グルコン酸が特に好ましい。
【0015】
本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法は、上述のようなヒドロキシカルボン酸化合物を、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸のような無機酸により調製された酸性洗浄剤に添加することによって、変色防止効果を発揮する。ここで、本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法は、25℃でのpHを5以下、好ましくは0〜3の酸性環境で使用することができる。なお、25℃でのpHが5を超えると、変色防止効果が発揮できないために好ましくない。
【0016】
また、本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法において、ヒドロキシカルボン酸化合物の配合量は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸のような無機酸によって調製された酸性洗浄剤に対して0.05質量%以上、好ましくは0.05〜10質量%、更に好ましくは0.05〜5質量%の範囲内である。ここで、ヒドロキシカルボン酸化合物の濃度が、0.05質量%未満であると、その配合効果が発現しないために好ましくない。なお、ヒドロキシカルボン酸化合物の濃度の上限は特にないが、10質量%を超えると、配合効果が飽和し、配合量の増加に見合う効果が得られず、コストの上昇につながるために好ましくない。
【0017】
上述のような構成を有する本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法は、ヒドロキシカルボン酸化合物を含有する酸性洗浄剤でアルミニウム系金属を処理するものである。処理法としては、例えばアルミニウム系金属をヒドロキシカルボン酸化合物を含有する酸性洗浄剤に浸漬する方法;アルミニウム系金属にヒドロキシカルボン酸化合物を含有する酸性洗浄剤を噴霧する方法;ヒドロキシカルボン酸化合物を含有する酸性洗浄剤を浸透させた繊維や樹脂によりアルミニウム系金属を磨く方法等を用いることができる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法を更に説明する。
本発明例1〜16
表1に記載するヒドロキシカルボン酸化合物を塩酸によって25℃でのpHを1.5に調整した水溶液100gに溶解し、試験液1〜16を調製した。
次に、アルミニウム鋳造合金[ADC−12(組成:Cu:1.5〜3.5%、Si:9.6〜12.0%、Mg:0.3%以下、Zn:1.0%以下、Ni:0.5%以下、Fe:1.3%以下、Mn:0.3%以下、Sn:0.3%以下、残Al)]の試験片(3×25×43mm)を240番研磨紙にて表面が均一になるように研磨した後、メタノールを用いて研磨粉の除去及び脱脂を行った。得られた試験片を、試験片の半分が変色防止剤に浸漬するように、サンプル管に入れた変色防止剤に浸漬した後、25℃で3時間静置した。その後、試験片を取り出し、浸漬部分の変色具合を観察した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1中、試験結果の欄の○印は、変色なし、△印は、灰色に変色、×印は、黒色に変色をそれぞれ示す。
【0021】
比較例1〜9
本発明例と同様の操作にて、比較試験液1〜8と試験片を調製し、本発明例と同様の方法にて試験を行った。得られた試験片の変色具合を本発明品と同様にした観察した。
なお、比較例9は、pH1.5の塩酸水溶液(ブランク)である。
【0022】
比較例10〜13
比較例10〜13に記載の化合物を、48%濃度の水酸化カリウム水溶液で25℃でのpHを10に調整した比較例10〜13の試験液を作製し、本発明例と同様の操作にて、上記試験片に浸漬して同様に試験を行った。得られた試験片の変色具合を本発明品と同様にした観察した。
【0023】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のアルミニウム系金属の変色防止処理法は、アルミニウム系金属の線材、板材、箔や、種々の部品、構造物の変色防止処理に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃のpHが5以下の酸性環境において、ヒドロキシカルボン酸化合物でアルミニウム系金属を処理することを特徴とするアルミニウム系金属の変色防止処理法。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸化合物が、炭素数1〜30の範囲内にあり、1個以上のカルボキシル基と、1個以上のヒドロキシル基を有する化合物である、請求項1記載のアルミニウム系金属の変色防止処理法。
【請求項3】
ヒドロキシカルボン酸化合物の配合量が、0.05質量%以上である、請求項1または2記載のアルミニウム系金属の変色防止処理法。

【公開番号】特開2010−70790(P2010−70790A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237709(P2008−237709)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(390011958)千代田ケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】