説明

アルミニウム製フィン材

【課題】不快な臭気の発生を抑制し得るアルミニウム製フィン材の提供、および、長期間に亘って優れた親水性を維持し得るアルミニウム製フィン材の提供を課題として掲げた。
【解決手段】アルミニウム板1またはアルミニウム合金板1の表面に耐食皮膜層2が形成され、この耐食皮膜層2の表面に樹脂バインダー3aと多孔質微粒子3bとを含む樹脂組成物から得られた親水性皮膜層3が形成されてなるアルミニウム製フィン材10であって、前記耐食皮膜層2は、所定の樹脂組成物からなり、前記樹脂バインダー3aは、所定の官能基を有する単量体から構成される重合体、共重合体、または、当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物からなり、前記多孔質微粒子3bは、非水溶性のアクリル系樹脂またはアルギン酸系樹脂からなるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性に優れた皮膜層が表面に形成されたアルミニウム(アルミニウム合金も含む意味である)製フィン材に関し、例えば、空調機等の熱交換器等のフィン材として使用することのできるアルミニウム製フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機の熱交換器には、熱伝導性、加工性、耐食性などに優れることから、アルミニウム材が広く使用されており、熱交換を効率的に行うため、また、スペースをコンパクトに抑えるために、アルミニウム製フィン材が狭い間隔に並設されている構造となっている。このため、空調機の運転時に、フィン材表面の温度が空気の露点以下となると、フィン材表面に付着した結露水が凝縮し、隣接するフィン同士間を閉塞させてしまうことがある。このとき、アルミニウム製フィン材表面の親水性が低いと水の接触角が大きくなるため、付着した結露水は半球状となって、フィンの閉塞状態を一層悪化させる。その結果、熱交換機能が阻害されたり、風圧で結露水が空調機外に飛散する等の問題が従来から知られている。
【0003】
上記の結露水の問題を改善するために、アルミニウム板自体の表面を親水化処理することにより、フィン材に加工して使用される際に、結露水がフィン表面にとどまることなく、除去・排出されやすいようにする技術が開発されている。
例えば、特許文献1には、合成シリカと水性塗料を併用する技術が開示されている。しかしながら、合成シリカを用いると得られる塗膜が硬くなるため、フィン材の成型加工の際に工具や金型等の磨耗が激しいという問題があった。また、シリカ独特のセメント臭や埃臭、シリカに吸着された物質あるいはシリカ微粒子の飛散に起因すると推測される臭気が、人体に不快感を与えるという問題もあった。このため、例えば特許文献2では、シリカに変えてアルミナゾルを用いた高親水性塗料が開示されている。この技術では、シリカを適用した場合に比べて軽減するものの依然として臭気が観測され、加えて長時間使用すると臭気が増大していくため、臭気抑制という点ではなお不充分である。
【0004】
一方、特許文献3には、フィン材表面に付着した結露水が長時間滞留し、水和反応や腐食反応を誘起するのを抑制するために、カルボキシメチルセルロースの塩とN−メチロールアクリルアミドを主成分とする表面処理剤を用いる技術が開示されている。また、特許文献4には、フィン材に耐食性と親水性を付与するため、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンを主成分とする表面処理剤の使用が有効であることが、開示されている。これらの従来技術では、シリカ等を用いていないため臭気や金型の磨耗といった問題は起こらない。
【0005】
また、本願出願人等は、有機系の親水性樹脂皮膜を形成した熱交換器用アルミニウム製フィン材について検討を続けており、その成果を多数出願している(例えば、特許文献5〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−164264号公報
【特許文献2】特開平10−168381号公報
【特許文献3】特開平2−258874号公報
【特許文献4】特開平5−302042号公報
【特許文献5】特許第4164049号公報
【特許文献6】特開2007−40686号公報
【特許文献7】特開2008−224204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3〜7において使用されている有機系の親水性樹脂皮膜は、理由は明確ではないが、水と接触すると経時的に親水性が低下してしまうという問題があった。このため、フィン材表面の親水性を長期間に亘って維持することは難しく、改善の余地があった。
【0008】
さらに、いずれの特許文献において開示されている技術によっても、耐食皮膜層を擁していない場合や、擁していても厚さが薄い場合には、熱交換器を長期間に亘って使用すると皮膜下腐食に起因するセメント様の不快な臭気が発生してしまうという問題があった。このため、経済性を考慮して耐食皮膜層を薄く形成しつつ臭気を抑制することは難しく、改善の余地があった。
【0009】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、空調機を使用する室内等の住環境における快適性を阻害する不快な臭気の発生を抑制し得るアルミニウム製フィン材の提供、および、地球温暖化や資源高騰問題等の顕在化によって、空調機の高効率化や小型化等の性能向上要請が高まりつつあることをも考慮して、長期間に亘って優れた親水性を維持し得るアルミニウム製フィン材の提供を解決しようとする課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係るアルミニウム製フィン材は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に耐食皮膜層が形成され、この耐食皮膜層の表面に樹脂バインダーと多孔質微粒子とを含む樹脂組成物から得られた親水性皮膜層が形成されてなるアルミニウム製フィン材であって、前記耐食皮膜層は、架橋ポリエステル系樹脂、架橋ポリオレフィン系樹脂、架橋エポキシ系樹脂、架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を含む樹脂組成物からなり、前記樹脂バインダーは、カルボン酸基、カルボン酸のアルカリ金属塩基、スルホン酸基、スルホン酸のアルカリ金属塩基、ヒドロキシ基、アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体、共重合体、または、当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物からなり、前記多孔質微粒子は、非水溶性のアクリル系樹脂またはアルギン酸系樹脂からなるものであることを特徴とする。
【0011】
このように、本発明に係るアルミニウム製フィン材は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に架橋性樹脂を含有する耐食皮膜層が形成されていることにより、フィン材の耐食性、および、親水性皮膜層の密着性を向上させることができる。
また、本発明に係るアルミニウム製フィン材は、所定の樹脂バインダーおよび多孔質微粒子を含有した親水性皮膜層が形成されていることにより、フィン材表面に付着した結露水が親水性皮膜層の内部に浸透するとともに、浸透した水は多孔質微粒子の開孔の中に取り込まれる。その結果、フィン材表面の親水性を向上させるとともに、親水性を長期間維持させることができる。
【0012】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記樹脂バインダーが、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸基含有共重合体のアルカリ金属塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、およびポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記樹脂バインダーが、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸基含有共重合体のアルカリ金属塩、およびポリビニルアルコールよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0014】
このように、親水性皮膜層の樹脂バインダーを所定のものに規定することにより、フィン材の親水性の向上と、親水性の長期間の維持を確保することができる。
【0015】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記多孔質微粒子の平均粒径が5μm以下であり、前記親水性皮膜層中に1〜80質量%含まれていることが好ましい。
【0016】
このように、親水性皮膜層の多孔質微粒子の平均粒径、および含有量を所定の範囲に規定することにより、フィン材の親水性の向上と、親水性の長期間の維持をより適切に確保することができる。
【0017】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記親水性皮膜層の表面に、さらに、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩よりなる群から選択される1種以上を含む潤滑皮膜層が形成されていることが好ましい。
【0018】
このように、親水性皮膜層の表面に潤滑皮膜層を形成させることにより、熱交換器製造時のプレス成形性を向上させることができる。
【0019】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記耐食皮膜層と前記アルミニウム板または前記アルミニウム合金板との間に、無機酸化物または有機−無機複合化合物からなる耐食性化成処理皮膜が形成されていることが好ましい。
【0020】
このように、耐食皮膜層とアルミニウム板またはアルミニウム合金板との間に、耐食性化成処理皮膜を形成させることにより、フィン材の耐食性をより向上させることができる。
【0021】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記親水性皮膜層の付着量が、片面当たり、0.05〜5.0g/mであることが好ましい。
また、本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記アルミニウム板または前記アルミニウム合金板の表面に形成されている各皮膜層(親水性皮膜層と耐食皮膜層、親水性皮膜層と潤滑皮膜層と耐食皮膜層)の合計付着量は、片面当たり、0.1〜10.0g/mであることが好ましい。
【0022】
このように、親水性皮膜層の付着量、または、各皮膜層の合計付着量を所定の範囲に規定することにより、各皮膜層に期待される効果を確保することができる。
【0023】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、前記親水性皮膜層が、架橋剤として、水溶性エポキシ樹脂、水溶性カルボジイミド化合物、水分散性カルボジイミド化合物および水溶性オキサゾリン基含有樹脂よりなる群から選択される1種以上の化合物を含むとともに、当該架橋剤によって架橋されていることが好ましい。
【0024】
このように、親水性皮膜層に所定の架橋剤を含有させることにより、フィン材の耐水性を向上させることができる。また、架橋剤を所定のものに規定することにより、フィン材の親水性の向上と、親水性の長期間の維持をより適切に確保することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、長期間の使用によって親水性を有する表面から結露水が浸透することによる皮膜下腐食に起因する臭気が発生するのを抑制できるようになる。さらに、表面の親水性を長期間に亘って維持することができるようになる。従って、人体に不快なセメント様の臭気発生を抑制可能で、かつ、結露水によるフィン材同士間の閉塞等の不都合を低減することができ、効率的に熱交換可能な熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)〜(c)は、本発明に係るアルミニウム製フィン材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
[アルミニウム製フィン材]
本発明に係るアルミニウム製フィン材10(以下、適宜、フィン材10とする)は、図1(a)に示すように、アルミニウム板1またはアルミニウム合金板1(以下、適宜、基板1とする)と、基板1表面に形成されている耐食皮膜層2と、耐食皮膜層2表面に形成されている親水性皮膜層3と、から構成される。そして、図1(b)に示すように、親水性皮膜層3の表面に潤滑皮膜層4が形成されていることが好ましく、図1(c)に示すように、基板1と耐食皮膜層2との間に耐食性化成処理皮膜5がさらに形成されていることがより好ましい。
なお、図1(c)のフィン材10は、親水性皮膜層3の表面に潤滑皮膜層4が形成されているが、潤滑皮膜層4が形成されていなくてもよい。
【0028】
また、図1では、基板1の片面にのみ耐食皮膜層2等が形成されているフィン材10を示しているが、基板1の両面に耐食皮膜層2等が形成されていてもよい。
以下、アルミニウム板1またはアルミニウム合金板1、耐食皮膜層2、親水性皮膜層3、潤滑皮膜層4、耐食性化成処理皮膜5、および、アルミニウム製フィン材10の製造方法を詳細に説明する。
【0029】
<アルミニウム板またはアルミニウム合金板>
本発明に係るフィン材10の基板1(アルミニウム板1またはアルミニウム合金板1)は、熱伝導性および加工性が優れることから、JIS H4000に規定される1000系のアルミニウム、好ましくは合金番号1200のアルミニウムが使用される。
なお、基板1の板厚は0.06〜0.3mm程度のものが好ましい。板厚が0.06mm未満では、基板1に必要とされる強度を確保することができず、一方、0.3mmを超えるとフィン材としての加工性が低下するからである。
【0030】
<耐食皮膜層>
本発明に係るフィン材10は、架橋性官能基を構造中に有する樹脂を含有する樹脂組成物から得られる耐食皮膜層2を有している。この架橋性の樹脂を含有する耐食皮膜層2が基板1の表面に形成されると、本発明に係るフィン材10の耐食性および、後述の親水性皮膜層3の密着性が一段と向上すると考えられるので、熱交換器の耐久性を高めることができる。また、耐食皮膜層2は疎水性であるため、基板2に水が浸透して、皮膜下腐食によって不快な臭気を発生するのを抑制することができる。
【0031】
本発明に係るフィン材10に耐食皮膜層2を形成するために用いられる樹脂は、架橋ポリエステル系樹脂、架橋ポリオレフィン系樹脂、架橋エポキシ系樹脂、架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂から構成される。ここで、架橋ポリエステル系樹脂、架橋ポリオレフィン系樹脂、架橋エポキシ系樹脂、架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂とは、それぞれ、構造中に架橋性の官能基を有するポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂である。
なお、架橋性の官能基としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、オキサゾリン基、メチレン基、カルボジイミド基、アジリジン基及びメラミン等が挙げられる。
【0032】
本発明に係るフィン材10の耐食皮膜層2の樹脂組成物としては、前記樹脂以外に、塗装性や作業性等や塗膜物性等を改善するために、各種の水系溶媒や塗料添加物を添加してもよく、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等の各種の溶剤や添加剤を、単独でまたは複合して配合してもよい。
【0033】
また、耐食皮膜層2は、0.01〜8.0g/mであることが好ましい。0.01g/m未満であると、フィン材10の耐食性、および、親水性皮膜層3との密着性を確保することができず、8.0g/mを超えると耐食皮膜層2が断熱層となって、熱交換の効率を悪くするからである。
【0034】
<親水性皮膜層>
本発明に係るフィン材10は、特定の樹脂バインダー3aと多孔質微粒子3bとを含有する樹脂組成物から得られる親水性皮膜層3を有している。この樹脂バインダー3aが親水性皮膜層3に優れた親水性を付与すると共に、フィン材10表面に付着した結露水の一部が親水性皮膜層3内部に浸透し、多孔質微粒子3bの開孔の中に取り込まれるため、親水性皮膜層3の水に対する接触角が小さくなり、フィン材10同士間の閉塞を抑制することが可能になったものと考えられる。また、この多孔質微粒子3bの吸湿性能は長期間に亘って発揮されるため、本発明に係るフィン材10の親水性も長期間に亘って維持される。
なお、本発明に係るフィン材10は、親水性皮膜層3に架橋剤(図示せず)を含んでいることが好ましい。架橋剤によって親水性皮膜層3が架橋されることにより、耐水性が向上するため、長期間に亘ってフィン材10の性能が維持されることとなる。
【0035】
本発明に係るフィン材10に親水性皮膜層3を形成するために用いられる樹脂バインダー3aは、カルボン酸基、カルボン酸のアルカリ金属塩基、スルホン酸基、スルホン酸のアルカリ金属塩基、ヒドロキシ基、アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の親水性の官能基を有する単量体から構成される重合体、共重合体、または、当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物である。これらの官能基の存在によって、親水性皮膜層3に親水性を付与することができる。なお、以下において、単に「カルボン酸基」、「スルホン酸基」と記載している場合、一部または全部がアルカリ金属塩になっている(Hがアルカリ金属により置換されている)カルボン酸基、スルホン酸基を含む意味である。
また、アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
【0036】
カルボン酸基(カルボキシル基)を有する樹脂バインダー3aとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸と共重合可能な他の単量体との共重合体、カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩等が挙げられる。スルホン酸基を有する樹脂バインダー3aとしては、スルホエチルアクリレート、スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体と、アクリル酸やマレイン酸との共重合体等が好ましい。ヒドロキシ基を有する樹脂バインダーとしてはポリビニルアルコールが挙げられ、ポリビニルアルコールは鹸化度が高い方が好ましい。アミド基を有する樹脂バインダー3aとしてはポリアクリルアミドやポリビニルピロリドン等が、エーテル基を有する樹脂バインダー3aとしては、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0037】
従って、樹脂バインダー3aは、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸基含有共重合体のアルカリ金属塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、およびポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。特に、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸基含有共重合体のアルカリ金属塩、および、ポリビニルアルコールよりなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
【0038】
樹脂バインダー3aは官能基を2種類以上有していることが好ましく、中でも、カルボン酸基と、スルホン酸基と、ヒドロキシ基の3種類を有していることがより好ましい。親水性皮膜3の親水性を維持する効果が一層高まるからである。複数の官能基を有する1種類の共重合体を樹脂バインダー3aとして用いることもできるが、合成が煩雑なため、樹脂バインダー3aは樹脂の混合物とすることが好ましい。本発明の好適な態様は、ポリアクリル酸またはそのアルカリ金属塩と、アクリル酸とスルホン酸基含有単量体との共重合体との混合物を樹脂バインダー3aとする態様と、ポリアクリル酸またはそのアルカリ金属塩、アクリル酸とスルホン酸基含有単量体との共重合体、およびポリビニルアルコールからなる混合物を樹脂バインダー3aとする態様である。これらの混合物を用いると、親水性皮膜層3形成用の樹脂組成物の調製が容易である。これらの混合物においては、ポリアクリル酸またはそのアルカリ金属塩:アクリル酸とスルホン酸基含有単量体との共重合体:ポリビニルアルコールを、質量比で、0.5〜2:0.5〜2:0〜2で混合することが好ましい。
【0039】
次に、多孔質微粒子3bについて説明する。本発明で用いられる多孔質微粒子3bは、非水溶性のアクリル系樹脂またはアルギン酸系樹脂からなるものである。非水溶性というのは水溶性のアクリル系樹脂またはアルギン酸系樹脂が架橋されて、非水溶性になっていることを意味する。架橋されて非水溶性になっていても、アクリル系樹脂やアルギン酸系樹脂は水との親和性が高いため、開孔の中に水を蓄える能力に優れている。この多孔質微粒子3bが親水性皮膜層3に含まれていることで、結露水が親水性皮膜層3を通して開孔の中に蓄えられるため、親水性皮膜層3の親水性の低下を抑制すると考えられる。さらに、結露水の付着や乾燥に伴って、親水性皮膜層3が湿潤・乾燥を繰り返した際も、親水性皮膜層3の構造変化を小さくすることができるため、親水性皮膜層3における欠陥の発生やひずみの蓄積等が起こりにくく、多孔質微粒子3bの脱離といった不都合も起こりにくくなる。また、本発明で用いられる多孔質微粒子3bは、吸水後に膨潤して水を粒子内部にとどめておく従来公知の高吸水性樹脂粒子とは異なり、膨潤しない。なお、高吸水性樹脂粒子では親水性低下抑制効果が発現しないことが、後述する実施例で確認されている。
【0040】
多孔質微粒子3bの平均粒径は、5μm以下が好ましい。5μmを超えると、親水性皮膜層3から脱離しやすくなる。3μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。ただし、あまり小さいと、分散性や取扱い性に劣り、また、親水性低下抑制効果が不充分となることがある。よって、多孔質微粒子3bの平均粒径は0.05μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。なお、多孔質微粒子3bの平均粒径の測定方法については特に制限はなく、レーザー回折式粒度分布測定装置等を用いた公知の方法により測定することができる。また、本発明で用いる多孔質微粒子3bは開孔を有していればよく、その比表面積は特に限定されないが、BET法による比表面積で0.5m/g以上が好ましい。
【0041】
本発明で用い得る多孔質微粒子3bは、例えば、東洋紡績株式会社製の「タフチック(登録商標)HU」シリーズ(アクリル系)や、日清紡績株式会社製の「フラビカファイン(登録商標)」(ポリアルギン酸カルシウム系)として入手可能であるが、これに限定されるものではない。
【0042】
多孔質微粒子3bは、親水性皮膜層3中、1〜80質量%含まれていることが好ましい。なお、この百分率は、樹脂バインダー3aの固形分と多孔質微粒子3bの合計を100質量%としたときの比率である。1質量%より少ないと、親水性を持続させる効果が充分発現しないおそれがある。80質量%を超えると親水性皮膜層3から脱離しやすくなる上に、耐汚染性が低下する傾向にあるため好ましくない。多孔質微粒子3bは、25質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
次に、架橋剤について説明する。本発明で用いられる架橋剤は、水溶性エポキシ樹脂、水溶性カルボジイミド化合物、水分散性カルボジイミド化合物および水溶性オキサゾリン基含有樹脂よりなる群から選択される1種以上の化合物から構成されるものである。架橋剤の官能基であるエポキシ基、カルボジイミド基あるいはオキサゾリン基は、樹脂バインダー3aの官能基であるカルボン酸基と開環反応し、架橋構造を構成する。架橋されることにより皮膜は非水溶性になるが、アクリル系樹脂やアルギン酸系樹脂は水との親和性が高いため、開孔の中に水を蓄える能力に優れている。また、皮膜が非水溶性になるため、耐水性が向上し、結露水の付着や乾燥に伴って、親水性皮膜層3が湿潤・乾燥を繰り返した際も、親水性皮膜層3の構造変化を小さくすることができるため、親水性皮膜層3における欠陥の発生やひずみの蓄積等が起こりにくい。
【0044】
本発明で用いることのできる架橋剤は、分子内にエポキシ基、カルボジイミド基及びオキサゾリン基から選ばれる1種以上の官能基を有する化合物であり、架橋剤は、親水性皮膜層3中、1〜10質量%含まれていることが好ましい。なお、この百分率は、樹脂バインダー3aの固形分と多孔質微粒子3bと架橋剤の合計を100質量%としたときの比率である。1質量%未満だと、親水性を持続させる効果が充分発現しないおそれがある。10質量%を超えると架橋密度が高すぎるため親水性が低下する可能性がある。
なお、親水性皮膜層3に架橋剤を含有させた場合における架橋剤の樹脂バインダー3aに対する含有比率は、3質量%以上がより好ましく、6質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
ここで、親水性皮膜層3の好適付着量は、基板1片面当たり、0.05g/m以上、5.0g/m以下である。0.05g/m未満であると、充分な親水性が発現しないおそれがある。しかし、付着量が5.0g/mを超えると、プレス成形の際に親水性皮膜層3の脱落が生じやすくなったり、空調機使用時に親水性皮膜層3が断熱層となって、熱交換の効率を悪くするおそれがあるため好ましくない。より好ましい付着量の範囲は、0.3g/m以上、2.0g/m以下、さらに好ましくは、0.4g/m以上、1.5g/m以下である。
【0046】
本発明に係るフィン材10における親水性皮膜層3は、樹脂バインダー3aと多孔質微粒子3b以外に、塗装性や作業性等や塗膜物性等を改善するために、各種の水系溶媒や塗料添加物を添加してもよく、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等の各種の溶剤や添加剤を、単独でまたは複合して配合してもよい。
【0047】
親水性皮膜層3の樹脂組成物の調製に関しては、特に限定されないが、本発明で用いられる樹脂バインダー3aは水溶性であるので、水と共に、常温でもしくは加温することで水溶液が得られる。よって、樹脂バインダー水溶液に、多孔質微粒子3bを直接、または多孔質微粒子3bの水分散体を混合すれば、親水性皮膜層3形成用の樹脂組成物を調製することができる。また、樹脂バインダー3aを水や有機溶剤に分散させた塗液を用いても構わない。
【0048】
<潤滑皮膜層>
本発明に係るフィン材10においては、親水性皮膜層3の表面(基板1と反対側の表面)に、成形性を向上させるための潤滑皮膜層4を形成することが好ましい(図1(b)参照)。潤滑皮膜層4の存在によって摩擦係数が低減するため、熱交換器製造時のプレス成形性が一段と向上する。潤滑皮膜層4としては、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースおよびそのアルカリ金属塩よりなる群から選択される1種以上を含むものであることが好ましい。ポリエチレングリコールとカルボキシメチルセルロースナトリウムとを併用すると、造膜性および潤滑性(プレス成形性)が一層良好となるため、より好ましい実施態様である。併用の際の比率は、質量比で、ポリエチレングリコール:カルボキシメチルセルロースナトリウムが5〜9:1〜5程度が好ましい。
なお、潤滑皮膜層4が親水性皮膜層3の表面に形成されていても、潤滑皮膜層4は親水性を有することから、親水性皮膜層3が発揮する機能(フィン材の親水性の向上、親水性の長期間の維持等)を低下させることはない。
【0049】
また、本発明に係るフィン材10において、各皮膜層の合計付着量(親水性皮膜層3と耐食皮膜層2の合計付着量、または、親水性皮膜層3と耐食皮膜層2と潤滑皮膜層4の合計付着量)の好適範囲は、基板1片面当たり、0.1g/m以上、10.0g/m以下である。0.1g/m未満であると、各皮膜層に期待される効果が充分に発現せず、さらに、各皮膜層を均一に形成することが著しく困難となる。一方、付着量が10.0g/mを超えると、プレス成形の際に各皮膜層の脱落が生じやすくなったり、空調機使用時に皮膜層が断熱層となって、熱交換の効率を悪くしたり、皮膜層を均一に形成することが困難となるおそれがあるため好ましくないからである。
【0050】
<耐食性化成処理皮膜>
さらに、より一層の耐食性向上のため、基板1表面に対し、リン酸クロメート処理や塗布型ジルコニウム処理等の無機酸化物処理や、有機−無機複合化合物による処理等の公知の化成処理を施し、耐食性化成処理皮膜5を形成させることが好ましい(図1(c)参照)。これらの処理は、耐食皮膜層2を形成する前に行い、基板1と耐食皮膜層2との間に耐食性化成処理皮膜5を形成させる。
なお、耐食性化成処理皮膜5の付着量は、Cr換算で1〜100mg/mが好ましい。
【0051】
[アルミニウム製フィン材の製造方法]
本発明に係るフィン材10の製造方法については、特に限定されないが、例えば、基板1(または、表面に耐食性化成処理皮膜5が形成されている基板1)に対し、各樹脂組成物を、ロールコート装置等を用いて、塗布、乾燥を繰り返し行うことで、耐食皮膜層2、および、親水性皮膜層3(さらに、潤滑皮膜層4)を形成させることができる。
【0052】
なお、生産性の観点から、ロール状の基板1に対し、ロールコート装置等を適用して、連続的に、脱脂、塗装、加熱、巻き取り等を行うことが推奨される。
【0053】
本発明に係るアルミニウム製フィン材10は、皮膜下腐食に起因すると考えられるセメント様等の不快な臭気が感じられない。また、従来の耐食皮膜層では、皮膜付着量が少ない場合には、長期間使用後に強い臭気の発生が認められていたが、本発明では架橋性の官能基を有する樹脂を積極的に使用していることによって、上層の親水性皮膜層3との密着性の向上が図られ、親水性皮膜層3が流失しにくくなり、結果として皮膜下腐食等による不快な臭気の発生を長期間に亘って抑制することができる。
【0054】
また、本発明に係るアルミニウム製フィン材10は、親水性皮膜層3の水に対する接触角、または親水性皮膜層3の上に潤滑皮膜層4が形成された状態での水に対する接触角が小さく、初期状態では10°以下である。従来の親水性皮膜層は水と接触すると、接触角が次第に増大する(親水性が低下する)傾向にあったが、本発明では多孔質微粒子3bの存在により、この接触角の増大を抑制することができる。このため、本発明に係るアルミニウム製フィン材10を用いて製造された熱交換器は、結露水は小さい接触角のままフィン表面に存在するか、多孔質微粒子3bの開孔に保持される。その後、重力で落下して除去されるため、長期間に亘って、通風抵抗の増大やこれに伴う熱交換性能の低下を引き起こすことがなくなる。
【実施例】
【0055】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明に包含される。
【0056】
[供試材の製造方法]
従来公知の製造方法により、純アルミニウム系のA1200(JIS H4000)からなるアルミニウム板(板厚0.10mm)を製造した。このアルミニウム板を、アルカリ性薬剤(日本ペイント社製「サーフクリーナー(登録商標)360」)で脱脂し、リン酸クロメート処理を行った。耐食性化成処理皮膜の付着量は、Cr換算で30mg/mとした。
【0057】
[親水性皮膜層用の樹脂組成物の調製]
樹脂バインダーとして、ポリアクリル酸ナトリウム(「ジュリマー(登録商標)AC-10HN」:水溶液:日本純薬社製)と、アクリル酸とスルホン酸基含有単量体との共重合体(「アクアリック(登録商標)GL」:日本触媒社製)と、ポリビニルアルコール(「クラレポバールPVA105」:完全ケン化タイプ:クラレ社製)とを、多孔質微粒子としてアクリル系樹脂微粒子A(「タフチック(登録商標)HU-707E」:水分散体:東洋紡績社製)を、それぞれ使用し、これらを表1に示した比率で混合し、純水で適宜希釈して、親水性皮膜層形成用の樹脂組成物aとした。なお、表1に示した比率は固形分である。
【0058】
同様にして、表1に示した配合組成で、樹脂組成物b〜wを調製した。表1に示した各成分は、以下のものを入手して用いた。
【0059】
ポリアクリル酸Na:ジュリマー(登録商標)AC-10HN:水溶液:日本純薬社製
ポリアクリル酸:ジュリマーAC-10S:日本純薬社製
アクリル酸とスルホン酸基含有単量体との共重合体:アクアリック(登録商標)GL:日本触媒社製
ポリビニルアルコール:クラレポバールPVA105:クラレ社製
ポリビニルピロリドン:ポリビニルピロリドンK30 試薬:Mw約40000:和光純薬工業社製
ポリアクリルアミド:ポリアクリルアミド試薬:Mw約10000:50質量%水溶液:和光純薬工業社製
カルボキシメチルセルロースNa:セロゲン(登録商標)PR:第一工業製薬社製
アクリル系多孔質微粒子A:タフチック(登録商標)HU-707E:平均粒径0.9μm:水分散体:東洋紡績社製
アクリル系多孔質微粒子B:タフチック(登録商標)HU-820E:平均粒径0.07μm:水分散体:東洋紡績社製
アルギン酸系多孔質微粒子C:フラビカファイン(登録商標)SF-W:ポリアルギン酸カルシウム:平均粒径3μm:粉体:日清紡績社製
アクリル系多孔質微粒子D:タフチック(登録商標)HU-720P:平均粒径50μm:水分散体:東洋紡績社製
高吸水性樹脂粒子E:エスペック(登録商標)L:ポリアクリル酸ナトリウム系架橋樹脂:乾燥粒径1μm:水分散体:東洋紡績社製
珪酸ソーダF:4号珪酸ソーダ:富士化学社製
水溶性エポキシ樹脂:デナコールEX1610:ナガセケムテックス製
水溶性オキサゾリン基含有樹脂:エポクロス(登録商標)WS700:日本触媒社製
水分散性カルボジイミド化合物:カルボジライト(登録商標)E-02:日清紡ケミカル社製
【0060】
上記の粒子Dについては、湿式粉砕によって粉砕することで、平均粒径を8μmに調整した。湿式粉砕は、アシザワファインテック社製スターミルラボスターミニを用いた。
【0061】
なお、各微粒子の平均粒径は、レーザー散乱回折装置(LS13 320型:ベックマン・コールター社製)を用いて、下記方法により測定した値である。
【0062】
(1)被測定物を適量100ccのビーカーに採取し、30cc程度の分散媒を加えてよく攪拌する。分散媒には、水、または0.2質量%アンモニア水を用いた。
【0063】
(2)(1)の分散体を約1分間ホモジナイザーで出力約200Wで攪拌し、粉末を均一に分散させる。
【0064】
(3)(2)の分散体を直ちに測定装置のモジュールに投入し、測定する。小容量モジュールのポンプスピードは50%とした。なお100%で、20L/分である。
【0065】
(4)0.04〜2000μmの体積統計値を測定し、中位径(D50値)を平均粒径とした。
【0066】
【表1】

【0067】
[耐食皮膜層用塗料および潤滑皮膜層用塗料の調製]
耐食皮膜層用塗料は3種類調製した。塗料Iとしては、オキサゾリン基を有するアクリル系樹脂水分散体(「エポクロスWS700」:日本触媒社製)を用いた。塗料IIとしては、カルボジイミドおよびイソシアネート成分を含有する架橋剤とアクリル樹脂の水分散体(「カルボジライトE-02」:日清紡ケミカル社製)を用いた。塗料IIIとしては、ポリエステル系樹脂水分散体(「バイロナール(登録商標)MD-1200」:東洋紡績社製)を用いた。なお、塗料I、塗料IIは、構造中に架橋性の官能基を有する樹脂であり、塗料IIIは、構造中に架橋性の官能基を有しない樹脂である。
【0068】
潤滑皮膜層用塗料は、カルボキシメチルセルロースNa(「セロゲン(登録商標)PR」:第一工業製薬社製)20質量部(固形分)と、ポリエチレングリコール(「PEG20000」:三洋化成工業社製)80質量部(固形分)とを混合して用いた。
【0069】
[各層の形成]
親水性皮膜層形成用の樹脂組成物a〜w、耐食皮膜層用塗料I〜III、上記潤滑皮膜層形成用塗料を用いて、表2および表3に示した皮膜構成となるように、上記リン酸クロメート処理後のアルミニウム板に塗工し、加熱乾燥し、アルミニウム製フィン材を製造した。各層とも塗工はバーコーターで行い、熱風乾燥炉を用いて最高到達温度200〜280℃の範囲内で適宜設定した条件で加熱乾燥した。最高到達温度はヒートシールテープで確認した。皮膜層の形成は、耐食皮膜層、親水性皮膜層、潤滑皮膜層の順序で行った。
【0070】
[性能評価方法]
下記の方法で性能評価を行い、結果を表2および表3に併記した。
【0071】
<親水性評価>
アルミニウム製フィン材を、流量が0.1リットル/分である流水に8時間浸漬した後、80℃で16時間乾燥する工程を1サイクルとして、5サイクル行った。その後、アルミニウム製フィン材を室温に戻して、表面に約0.5μlの純水を滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製:CA−05型)を用いて接触角を測定した。流水としては、水道水の場合と、純水(イオン交換水)の場合のそれぞれについて測定した。評価基準は以下の通りである。
◎(特に良好):接触角が20°未満
○(良好):接触角が20°以上、40°未満
△(概ね良好):接触角が40°以上、60°未満
×(不良):接触角が60°以上
【0072】
<加工性評価:摩擦係数>
バウデン式付着滑り試験機を用い、無塗油、荷重0.2kgf、移動速度4mm/秒の条件で測定した。
【0073】
<加工性評価:プレス加工性>
フィン成形用のプレス成形機で、アルミニウム製フィン材をフィンの形状に成形し、カラーの内面の焼き付きの有無を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。
○(良好):カラーの内面に焼き付きが全く見られない
△(概ね良好):カラーの内面に軽微な焼き付きが見られる
×(不良):カラーの内面の全面で焼き付きが見られる
【0074】
<臭気>
アルミニウム製フィン材を温度40℃、湿度98%の湿潤環境下に480時間静置した後、自然乾燥させてから、塗装面に軽く息を吹きかけ、親水性皮膜層の匂いを嗅ぎ取る方法によって評価した。評価基準は、以下の通りである。
○(良好):臭気は感知されない
×(不良):明らかな臭気が感知される
【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
表2および表3から明らかなように、本発明の実施例(No.1〜19、21、26〜31)は、流水に浸漬し、その後乾燥というサイクルを繰り返しても接触角の増大は認められなかった。また、プレス加工性も、良好(No.2、4〜14、17〜19、29〜31)または概ね良好(No.1、3、15、16、21、26〜28)という結果となった。加えて、本発明の実施例(No.1〜19、21、26〜31)は、湿潤環境静置後の臭気も感知されなかった。
【0078】
No.20は親水性皮膜層の中に多孔質微粒子が含まれていないため、親水性の低下が著しかった。No.22は多孔質微粒子ではない高吸水性樹脂粒子を用いたため、親水性の低下が認められた。No.23は珪酸ソーダを用いたので、臭気を発生した上に、プレス加工性や親水性にも劣るものであった。No.24は耐食皮膜層が架橋性官能基を有しない樹脂により形成されており、No.25は耐食皮膜層を形成されていなかったため、No.24とNo.25は、湿潤環境への静置後に明らかな臭気が感知された。
【符号の説明】
【0079】
1 アルミニウム板またはアルミニウム合金板(基板)
2 耐食皮膜層
3 親水性皮膜層
3a 樹脂バインダー
3b 多孔質微粒子
4 潤滑皮膜層
5 耐食性化成処理皮膜
10 アルミニウム製フィン材(フィン材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に耐食皮膜層が形成され、この耐食皮膜層の表面に樹脂バインダーと多孔質微粒子とを含む樹脂組成物から得られた親水性皮膜層が形成されてなるアルミニウム製フィン材であって、
前記耐食皮膜層は、架橋ポリエステル系樹脂、架橋ポリオレフィン系樹脂、架橋エポキシ系樹脂、架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂バインダーは、カルボン酸基、カルボン酸のアルカリ金属塩基、スルホン酸基、スルホン酸のアルカリ金属塩基、ヒドロキシ基、アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体、共重合体、または、当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物からなり、
前記多孔質微粒子は、非水溶性のアクリル系樹脂またはアルギン酸系樹脂からなるものであることを特徴とするアルミニウム製フィン材。
【請求項2】
前記樹脂バインダーが、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸基含有共重合体のアルカリ金属塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、およびポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項3】
前記樹脂バインダーが、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸基含有共重合体のアルカリ金属塩、およびポリビニルアルコールよりなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項4】
前記多孔質微粒子の平均粒径が5μm以下であり、前記親水性皮膜層中に1〜80質量%含まれていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項5】
前記親水性皮膜層の表面に、さらに、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩よりなる群から選択される1種以上を含む潤滑皮膜層が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項6】
前記耐食皮膜層と前記アルミニウム板または前記アルミニウム合金板との間に、無機酸化物または有機−無機複合化合物からなる耐食性化成処理皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項7】
前記親水性皮膜層の付着量が、片面当たり、0.05〜5.0g/mであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項8】
前記アルミニウム板または前記アルミニウム合金板の表面に形成されている各皮膜層の合計付着量は、片面当たり、0.1〜10.0g/mであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項9】
前記親水性皮膜層が、架橋剤として、水溶性エポキシ樹脂、水溶性カルボジイミド化合物、水分散性カルボジイミド化合物および水溶性オキサゾリン基含有樹脂よりなる群から選択される1種以上の化合物を含むとともに、当該架橋剤によって架橋されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−76456(P2012−76456A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195644(P2011−195644)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】