説明

アンカーボルト及びその施工治具

【課題】 埋込み深さが浅くてもアンカーに結合するネジ軸をねじ結合する雌ネジの長さを確保できるようにしたアンカーであり、PCコンクリート板に好適なアンカーボルト及び該アンカーを施工する施工治具を提供すること。
【解決手段】 アンカーボルト1は、先端部にスリット11を有する拡開部12を形成し、基端部の内周面に雌ネジ13を形成し、筒体内部に拡張コーン14を挿入したアンカー本体10と、断面傘形状に形成された円錐ワッシャー20とからなる。円錐ワッシャー20は、中心部にアンカー本体10が嵌合できる大きさの透孔21が設けられ、円錐ワッシャー20の透孔21から傘形状の内側に向ってアンカー本体10を挿入し、アンカー本体10の拡開部12を円錐ワッシャー20のワッシャー裾部から突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に使用するアンカーボルト及びその施工治具に関しており、さらに詳しくは、拡張コーンをアンカー本体に内蔵した内部コーン打込み式アンカー及びその施工治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部コーン打込み式アンカーは、コンクリート構造物に開けた施工穴に差し込み、施工治具を用いてアンカー本体に内蔵した拡張コーンを叩打し、アンカー本体の先端部を拡開してコンクリート構造物に固着する金属拡張アンカーである。
【0003】
内部コーン打込み式アンカーは、アンカー本体の基端部の内周面に雌ネジを設け、先端部に拡開部を設けている。ここで、アンカー本体に形成する雌ネジの長さは、ネジ強度を確保するために、最低でも雌ネジ径と等しい長さが必要とされている。なぜなら、アンカー本体の材質は、冷間鍛造材として一般的に使用されているもので引張り強さが、400N/mmの場合は、ネジの機械的性質の強度区分が4.6程度に相当するので、アンカー本体の雌ネジ入口部に形成されるネジの逃げを含めると、雌ネジの長さは、上記したように最低でも雌ネジ径と等しい長さが必要となる。
【0004】
また、アンカー本体の拡開部は、拡開角度が緩やかに形成されていないと所望する引張り力が確保できない。拡開部の拡開角度が急角度であると、通常のコンクリートでは、拡張する施工打込み力が非常に大きくなり打込み不足となることがある。このため、拡開部は、最も多用されているアンカー本体の雌ネジM10の場合において、最低でも15〜20mm程度の長さを必要としている。
【0005】
上記したように、アンカーボルトに形成する雌ネジの長さは、最低でも雌ネジ径と等しい長さが必要であるが、雌ネジM10における望ましい雌ネジ長さは、入口部のネジの逃げ及び奥部に形成される不完全ネジ部の長さを見込むと15〜18mmが必要となる。一方、拡開部の長さは、拡開角度との関連を検討すると最低でも15〜20mmが望ましい長さである。また、雌ネジの不完全ネジ部と拡開部に形成したスリットの端部とは、アンカー本体そのものの強度を考慮すれば離れている方が望ましいので、アンカーボルト本体の必要な長さは40mm以上が望ましいことになる。
【0006】
現在、アンカーボルトは、全長40mmのものが最も多く生産され使用されている。しかし、比較的薄く形成された天井板に40mm長さのアンカーを施工しようとすると、穿孔の際にドリル先端が鉄筋に当ることがあり問題であった。そこで、拡開部のスリット端部と雌ネジの不完全部分をオーバーラップさせることで、たとえアンカーの引張り強度が多少低下しても、天井用アンカー用として全長30mmのものを使用している。
【0007】
ただし、上記した30mm長さのアンカーは、施工穴の穿孔深さが制限されるため、アンカー本体の基端部にフランジを形成し、本来、打込み反力をアンカー先端の拡開部で受けるものを、あえてアンカー本体の基端部で受けるようにしている。このため、アンカーの施工穴は、アンカー長よりも若干長い32〜33mm程度の深さに形成し、アンカーを施工穴内で浮かせた状態で施工している。
【0008】
ところで、コンクリート建造物の構築において、床構造としてPCコンクリート板を敷設し、敷設されたPCコンクリート板の下面を天井とし、上面にコンクリートを打設して床面とする工法が知られている。床構造を構築するPCコンクリート板は、一般的に使用されている普及型タイプで、150〜200mm厚のものである。なお、敷設されたPCコンクリート板は構築後にアンカーボルトを施工することがある。
【0009】
PCコンクリート板は、軽量化を計るために中空構造としたものが多く使用されているので、アンカー本体の全長が30mmのものでは、PC板はコンクリートの圧縮力が高いという特性を考慮しても、中空部分と一致している場所では、穿孔の際に中空部分に孔が抜けてしまうことがあり施工上難点があった。この問題を解決するために、アンカー本体を、全長20mm程度とし、PC板の中空部分であっても施工可能なアンカーボルトが開発され提供されている。
【0010】
PCコンクリート板は、圧縮力が40N/mm以上のものが多く、通常のコンクリートが24N/mm程度であるのと比べて圧縮力が高いので、PC板の場合は、コンクリートに埋設するアンカー本体の長さが短くても施工されたアンカーが抜け落ちる虞は少ないと言える。しかし、長さ20mmのアンカーでは、施工されたアンカー自体に十分な引張り力があっても、アンカー本体の雌ネジがM10の場合は、雌ネジの長さを7〜8mmにするのが限界であるため、雄ネジとの嵌め合い長さが十分取れないことがあり、雌ネジに取り付けるネジ軸の結合力を高めることが出来ないことになる。したがって、結果として短いアンカーではネジ軸に所定の支持力が得られないと言う問題が生じている。
【0011】
また、打込み式アンカーは、アンカー本体内に収容されているコーン又はアンカー本体を叩打して施工するものであって、従来から各種の施工治具が提案されている。施工治具の従来例として、コーンをアンカー本体に内蔵した内部コーン打込み式アンカーに使用する施工治具(特許文献1,2)、取付けネジと一体に形成されたアンカー軸の外径部にスリーブが挿入されたスリーブ打込み式アンカーに使用する施工治具(特許文献3)、コーンがアンカー本体の先端に嵌め込まれた本体打込み式アンカーに使用する施工治具(特許文献4,5)等が知られている。
【0012】
【特許文献1】特開平11−10454号公報
【特許文献2】特開平2−199309号公報
【特許文献3】特開平3−155907号公報
【特許文献4】実開平5−77453号公報
【特許文献5】実開平3−102606号公報
【0013】
上記特許文献に記載された施工治具は、いずれも打込み式アンカーに適する施工治具として提案されているが、施工開始時に、施工治具に仮固定されたアンカーがふらつくので使い勝手が良いとは言えなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、コンクリートに埋設する埋込み深さを浅くしても、アンカー本体に形成する雌ネジの有効長さが確保された内部コーン打込み式アンカーであってPCコンクリート板に好適なアンカーボルトを提供すること、また、他の課題は、上記アンカーボルトを施工する施工治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
解決手段の第1は、先端部にスリットを有する拡開部を形成し、基端部の内周面に雌ネジを形成し、筒体内部に拡張コーンを挿入したアンカー本体と、断面傘形状に形成された円錐ワッシャーとを有し、該円錐ワッシャーのワッシャー頂部を上記アンカー本体の基端部に固定したことを特徴とするものである。
【0016】
解決手段の第2は、第1の手段において、円錐ワッシャーの中心部にアンカー本体が嵌合できる大きさの透孔を設け、該円錐ワッシャーの透孔から傘形状の内側に向って上記アンカー本体を挿入し、当該アンカー本体の拡開部を上記円錐ワッシャーのワッシャー裾部から突出させたことを特徴とするものである。
【0017】
解決手段の第3は、第1の手段において、円錐ワッシャーの中心部にアンカー本体が嵌合できる大きさの透孔を設け、該円錐ワッシャーの透孔から傘形状の外側に向って上記アンカー本体を挿入し、当該アンカー本体の拡開部を上記円錐ワッシャーのワッシャー頂部から突出させたことを特徴とするものである。
【0018】
解決手段の第4は、円錐ワッシャー付きアンカーボルトを施工する施工治具であって、施工治具が、打込み棒と該打込み棒に装着するコイルバネとからなり、上記打込み棒は、打込み棒基端部の先端にアンカー本体の筒体内に挿入可能な軸径を有する打込み棒先端部を形成したものであり、上記コイルバネは、上記打込み棒に摺動可能に形成したバネ小径部とアンカーボルトに設けた円錐ワッシャーが遊嵌できる口径を有するバネ大径部とを形成したものであって、該コイルバネは、上記バネ大径部の長さを上記円錐ワッシャーの高さと同一又は若干長めに形成し、上記バネ小径部の基端部を上記打込み棒の基端部に係止したことを特徴とするものである。
【0019】
解決手段の第5は、アンカーボルトを施工する施工治具であって、施工治具が、打込み棒と該打込み棒に装着するコイルバネとからなり、上記打込み棒は、打込み棒基端部の先端にアンカー本体の筒体内に挿入可能な軸径を有する打込み棒先端部を形成し、上記コイルバネは、全域を同一径に形成して上記打込み棒に摺動可能に装着し、該コイルバネの基端部を上記打込み棒の基端部に係止したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1は、アンカー本体の基端部に断面傘状の円錐ワッシャーを設けたものであるから、アンカーは、円錐ワッシャー部分がコンクリート表面から突出して施工されるので、アンカー本体は、円錐ワッシャーの高さに相当する高さ分だけ実質的に長く形成されたことになり、したがって、雌ネジは、ネジ軸をねじ結合するのに十分な長さが確保されており、コンクリートに埋設される部分は短くても支持強度が高いアンカーが得られるという効果がある。
【0021】
請求項2は、アンカー本体の拡開部を円錐ワッシャーのワッシャー裾部から突出させたものであるから、アンカー本体がコンクリートに埋設される長さは、本体全長から円錐ワッシャーの高さを減じた長さとなり、コンクリートが、PCコンクリート板であって内部に空洞を有する場合であっても、空洞部を避ける必要がなく確実に施工できるという効果がある。
【0022】
また、請求項2は、アンカー施工に際し、コンクリート面に当接している円錐ワッシャーのワッシャー裾部が打込み時の打撃により打込み反力を受け、円錐ワッシャーが叩打された瞬間スプリング作用によって僅かであるが開きまた直ぐに元の状態に戻る。円錐ワッシャーが開いた後に戻る時、アンカー本体には、円錐ワッシャーの復元力によって引張り力が加わり、このため、円錐ワッシャーを使用しない場合と異なり初期変位が発生せず、初期の引張り荷重に対し変位が比例した荷重・変位曲線が得られる。なぜなら、円錐ワッシャーを使用することにより、打込み時の打撃によってアンカー本体に引張り荷重が加えられるので初期変位がないのである。従って、アンカー本体にネジ軸を結合する時に、初期変位を除去するトルクを加える必要がなく迅速な施工が行える効果がある。
【0023】
請求項3は、アンカー本体に設けた円錐ワッシャーが、本体の基端部でラッパ状に形成されているから、アンカー施工後に雌ネジにネジ軸を結合するに際し、円錐ワッシャーのワッシャー裾部がコンクリート表面で開口しており、このため、ネジ軸先端をアンカー本体の筒部に挿入するガイドとなり施工が容易となる効果がある。
【0024】
請求項4は、施工治具が、打込み棒にアンカー本体の筒体内に挿入可能な打込み棒先端部を設けるとともに、円錐ワッシャーを遊嵌できる口径のバネ大径部を有するコイルバネを設けたものであるから、施工作業を開始する時に、アンカー本体が施工治具から突出しているが、アンカー本体の筒体内に打込み棒先端部が挿入され、円錐ワッシャーがバネ大径部に遊嵌されているので、アンカー本体が施工治具中でふらついたりしないので施工が容易かつ確実に行える効果がある。
【0025】
請求項5は、コイルバネは、全域が同一径に形成されているから、通常のストレート型アンカーボルトの施工に好適であることの効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1はアンカーボルトの第1実施例を示しており、Aは一部を破断した正面図、Bは側面図、Cは部品図、図2は第1実施例によるアンカーボルトの施工状態を示す断面図、図3はアンカーボルトの第2実施例を示しており、Aは一部を破断した正面図、Bは側面図、Cは部品図である。図4は第1実施例のアンカーボルトを施工するための施工治具を示しており、Aは正面図、Bは部品図である。図5は第1実施例によるアンカーボルトの施工開始時を示す正面図、図6は第1実施例によるアンカーボルトの施工作業を示す正面図、図7は第2実施例によるアンカーボルトの施工開始時を示す正面図、図8は第2実施例によるアンカーボルトの施工作業を示す正面図である。図9は第1及び第2実施例以外の他のアンカーボルトを施工するための施工治具を示す全体の正面図である。
【0027】
本明細書において、アンカーボルト又はアンカー本体の「基端部」とは、アンカー施工時に当該アンカーを叩打する側の端部をいい、また、「先端部」とは、拡開部を形成した側の端部をいう。
【0028】
アンカーボルトの第1実施例
図1において、第1実施例によるアンカーボルト1は、筒状に形成されたアンカー本体10と該アンカー本体10の基端部に設けられた第1の円錐ワッシャー20とからなるものである。
【0029】
アンカーボルト1は、内部コーン打込み式の金属拡張アンカーであって、アンカー本体10は、先端部から軸に沿って4本のスリット11を設けた拡開部12を形成するとともに、基端部内周面に雌ネジ13を形成したものである。14はアンカー本体10内に挿入した拡張コーンであり、中央部から先端に向って小径となるテーパー形状に形成されている。なお、アンカー本体10の拡開部12の内周面は、拡張コーン14のテーパー形状に対応して先端部が小径となるテーパー形状に形成されている。
【0030】
また、実施形態では、拡開部12の外周面にローレットが形成されているが、ローレット加工は任意である。
【0031】
なお、アンカーボルト1には、アンカー本体10の筒体に挿入した拡張コーン14の脱落を防止するために、当該拡張コーン14の基端部にパッキン15を装着している。パッキン15は、やや厚手の紙又はプラスチック板であり、アンカー本体10の雌ネジ径よりも若干大径に形成して雌ネジの谷部に圧入するものである。また、アンカー本体10の基端部には、基端部に向って大径となるフランジ16が形成されており、該フランジ16の部分に第1の円錐ワッシャー20が容易に抜けないように係合されている。
【0032】
第1の円錐ワッシャー20は、断面傘形状に形成されており、中心部にアンカー本体10が嵌合できる大きさに形成した第1の透孔21が設けられ、該第1の透孔21から傘形状内に向って上記アンカー本体10を挿入するものであって、アンカー本体10の拡開部12をワッシャー裾部から突出させて当該アンカー本体10の基端部に固定されるものである。
【0033】
図2において、50はPCコンクリート板であり、内部にPC鋼線51が配設されると共に、空洞部52が形成されているものである。PC板50は、コンクリート建造物の天井を構築するものであるから、図面上、下面が天井面となり、上面にコンクリート53を打設して床面となるものである。54はコンクリート53に埋設した鉄筋である。
【0034】
アンカーボルト1は、PCコンクリート板50に形成した施工穴にアンカー本体10を挿入し、施工穴の奥部で拡開部12を拡開する。施工に際し、PC板50に開ける施工穴の深さは、アンカー本体10の全長から第1の円錐ワッシャー20の高さを減じた長さより若干長いものとする。すなわち、アンカー本体10の先端部は、施工穴の穴底に当接しないように施工する。施工作業は、施工穴にアンカー本体10を挿入し、図示しない打込み棒を使用して本体内部に挿入した拡張コーン14を叩打して拡開部12を拡開する。
【0035】
実施形態において、アンカー本体10がPC板50に埋設される長さは、アンカー本体10の全長から第1の円錐ワッシャー20の高さを減じた長さとなるから、埋設長さが短くなり、施工に際し、PC板50に空胴部52が存在する部分であっても空洞部を避けずに施工が可能となる。ただし、アンカー本体10の全長は、PC板50から突出した長さに形成されているから、本体内部に設けた雌ネジ12は、ネジ軸の結合に必要な十分な長さが確保できるものである。
【0036】
アンカーボルトの第2実施例
図3において、第2実施例によるアンカーボルト2は、アンカー本体10の基端部に設けられた第2の円錐ワッシャー30の取付け方向が第1実施例の場合と異なるが、アンカー本体の構造並びに拡張コーンなどは、第1実施例の場合と同じであるから、同じ部品に対しては同一符号を付し特に説明は省略している。
【0037】
第2の円錐ワッシャー30は、断面傘形状に形成されており、中心部にアンカー本体10が嵌合できる大きさの第2の透孔31が確保されたアンカー保持筒32を形成したものであって、アンカー本体10の拡開部12を第2の円錐ワッシャー30のワッシャー頂部から、具体的には、アンカー保持筒32から突出させ、アンカー本体10の基端部に固定するものである。
【0038】
アンカー本体10は、第2実施例においても、第2の円錐ワッシャー30の高さ分だけPCコンクリート板50から突出して施工される。したがって、ここでも、第1実施例と同様に、雌ネジ12は、ネジ軸の結合に必要な長さを確保できるものである。なお、第2の円錐ワッシャー30の高さは、第1の円錐ワッシャー20の高さよりも高く形成されているが、アンカーの埋め込み深さは第1実施例の場合と同じである。
【0039】
なお、第2実施例は、PC板に施工された時に、第2の円錐ワッシャー30がラッパ形状になってアンカー本体10の開口部に露出しているから、施工されたアンカー2にネジ軸を結合するに際し、当該第2の円錐ワッシャー30は、ネジ軸先端をアンカー本体10の筒部に誘導するものであって、ネジ軸の取付け作業が容易となるものである。
【0040】
施工治具の第1実施例
図4において、第1の施工治具100は、打込み棒110と該打込み棒110に設けた第1のコイルバネ120からなるものである。打込み棒110は、打込み棒基端部111とバネ保持筒部112並びに打込み棒先端部113を有しており、当該打込み棒基端部111に、図示しない他の接続用打込み棒を結合するための接続用雌ネジ114が形成されている。なお、打込み棒先端部113は、アンカー本体10の筒体内に挿入可能な軸径に形成されている。また、バネ保持筒112は、打込み棒基端部111よりも小径かつ打込み棒先端部113よりも大径に形成されており、さらに、バネ保持筒112と打込み棒基端部111との間には、第1のコイルバネ120と係合する環状溝115が形成されている。
【0041】
第1のコイルバネ120は、バネ保持筒部112と摺動自在かつ伸縮自在なバネ小径部121と第1及び第2の円錐ワッシャー20,30が遊嵌できる口径を有するバネ大径部122を有しており、バネ小径部121の長さはバネ保持筒部112と略同一であり、また、バネ大径部122の長さは円錐ワッシャー20,30の高さと同一又は若干長めである。なお、第1のコイルバネ120のバネ小径部121の基端部は、口径を該バネ小径部121よりも若干小径に形成した係合環123に形成されており、該係合環123を打込み棒基端部111に形成した環状溝115に係合し、当該第1のコイルバネ120が打込み棒110から容易に抜け出ないようにしている。
【0042】
第1の施工治具100を組立てるには、打込み棒110の打込み棒先端部113を第1のコイルバネ120のバネ小径部121に挿入し、該バネ小径部121の係合環123をバネ保持筒部112の環状溝115に係合する。第1のコイルバネ120は、バネ保持筒部112の基端部に係合されて脱出不可に取付けられ、また、バネ小径部121がバネ保持筒部112の周囲で摺動自在かつ伸縮自在に装着される。なお、第1のコイルバネ120が打込み棒110に装着された時、打込み棒先端部113の先端はバネ大径部122の自由端から突出していないが、施工作業によりバネ全体が圧縮されるとバネ大径部122の自由端がバネ保持筒112に達するから、当該打込み棒先端部113は圧縮された第1のコイルバネ120から突出することになる(図6A参照)。
【0043】
アンカーボルトの施工作業
図5,6は第1実施例によるアンカーボルトの施工作業を示している。図5において、施工作業開始時に、施工治具は、打込み棒110の打込み棒先端部113をアンカー本体10の基端部に挿入し、第1のコイルバネ120のバネ大径部122に第1の円錐ワッシャー20を遊嵌して、アンカー本体10の拡開部12を当該バネ大径部122から突出させる。
【0044】
この時、打込み棒110の打込み棒先端部113は、アンカー本体10の筒体内において先端部が拡張コーン14の近傍に達している。ただし、施工作業は、打込み棒110を叩打して拡張コーン14を拡開部12に圧入させるものであるから、たとえ、施工作業の開始時に打込み棒先端部113の先端が拡張コーン14と接触していた場合でも、アンカーボルト1の第1の円錐ワッシャー20とバネ保持筒部112の先端部との間には、当該拡張コーン14を移動させる長さに等しい距離が確保されている必要がある。
【0045】
アンカーボルト1を、例えば、コンクリート60の天井部分に施工する場合は、図5に示すように、アンカー本体10の拡開部12を上方に向けてセットする。また、打込み棒110の基端部に設けられている接続用雌ネジ114に、図示しない接続用打込み棒を接続して実質的に長い打込み棒を形成する。図中、61はコンクリート60に開けたアンカーボルトの施工穴であり、埋め込まれるアンカーボルトの全長より若干長めである。
【0046】
図6において、打込み棒110に装着されたアンカーボルト1の拡開部12をコンクリート60の施工穴61に挿入し、打込み工具を使用して打込み棒110を叩打する。これにより、打込み棒110は第1のコイルバネ120を圧縮して先端部、すなわち、アンカー本体10内で打込み棒先端部113が奥部に向って進入し、拡張コーン14を拡開部12内に圧入し、当該拡開部12を拡開してアンカーボルト1をコンクリート60に固着する(図6A参照)。
【0047】
実施形態では、拡張コーン14がアンカー本体10から脱落しないようにパッキン15を設けているが、パッキン15は紙又はプラスチック板であるから、施工作業の時は、これを無視して行うことができる。
【0048】
アンカーボルト1を施工すると、打込み棒110を叩打した時に、第1のコイルバネ120が圧縮されるので、施工完了後は、打込み棒110をアンカーボルト1から容易に抜き取ることができる(図6B参照)。
【0049】
図7,8は第2実施例によるアンカーボルトの施工作業を示している。第2実施例によるアンカーボルト2は、第2の円錐ワッシャー30の取付け方向が第1の円錐ワッシャー20と異なるが、施工作業は第1実施例の場合と同じ手順で行う。
【0050】
第2実施例によるアンカーボルト2の施工時に、打込み棒110を叩打すると第1のコイルバネ120が圧縮するので、バネ大径部122も当然圧縮されるが、バネ大径部122と第2の円錐ワッシャー30は遊嵌状態なので(図8A参照)、施工完了後は、打込み棒110と第2の円錐ワッシャー30が簡単に外れるようになっている。
【0051】
第1及び第2のアンカーボルトの具体例
第1及び第2のアンカーボルト(1,2)は、アンカー本体(10)が全長30mm、スリット長さ14mm、雌ネジ径10mm、雌ネジの有効長さ15mmであり、また、第1及び第2の円錐ワッシャー(20,30)は、材質spcc、高さ10mm、最大径31mm、厚み3.2mmである。アンカーボルトをPCコンクリート板(50)に施工すると、いずれも円錐ワッシャーがPC板の表面に露出するから、アンカー本体(全長30mm)は、円錐ワッシャーの高さ(10mm)を差し引いた20mm部分がPC板に埋設施工される。
【0052】
第1の施工治具の具体例
第1の施工治具(100)に使用する第1のコイルバネ(120)は、スプリング線径が1.2mm、バネ大径部(122)の内径が35mm、高さ10mmである。
【0053】
施工治具の第2実施例
図9において、第2の施工治具200は、通常のアンカーボルトを施工するものであって、打込み棒110に設けた第2のコイルバネ220の形状が第1の施工治具100と異なるだけであり、他の構成部材及び組立て方は、第1の施工治具100の場合と同じである。なお、第2のコイルバネ220は、全域が同一径に形成されたコイル部221と、該コイル部221の先端部にコイル径よりも口径を若干大に形成した押当て環222と、基端部に口径を若干小径に形成した係合環223とからなっている。
【0054】
第2の施工治具200は、第2のコイルバネ220の自由端に押当て環222を有しているから、アンカー施工の際に、バネが施工穴に入り込むことが阻止されるので、施工し易いものとなっている。また、アンカーボルト3は、通常のストレート型又はフランジ付き(図示省略)のいずれも施工可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】アンカーボルトの第1実施例を示しており、Aは一部を破断した正面図、Bは側面図、Cは部品図。
【図2】第1実施例によるアンカーボルトの施工状態を示す断面図。
【図3】アンカーボルトの第2実施例を示しており、Aは一部を破断した正面図、Bは側面図、Cは部品図。
【図4】第1及び第2実施例のアンカーボルトを施工するための施工治具を示しており、Aは正面図、Bは部品図。
【図5】第1実施例によるアンカーボルトの施工開始時を示す正面図。
【図6】第1実施例によるアンカーボルトを施工する作業手順を示す正面図。
【図7】第2実施例によるアンカーボルトの施工開始時を示す正面図。
【図8】第2実施例によるアンカーボルトを施工する作業手順を示す正面図。
【図9】第1及び第2実施例以外の他のアンカーボルトを施工するための施工治具を示す全体の正面図。
【符号の説明】
【0056】
1,2,3 アンカーボルト
10 アンカー本体
11 スリット
12 拡開部
13 雌ネジ
14 拡張コーン
15 パッキン
16 フランジ
20 第1の円錐ワッシャー
21 第1の透孔
30 第2の円錐ワッシャー
31 第2の透孔
32 アンカー保持筒
50 PCコンクリート板
51 PC鋼線
52 空洞部
53 コンクリート
54 鉄筋
100 第1の施工治具
110 打込み棒
111 打込み棒基端部
112 バネ保持筒部
113 打込み棒先端部
114 接続用雌ネジ
115 環状溝
120 第1のコイルバネ
121 バネ小径部
122 バネ大径部
123 係合環
200 第2の施工治具
220 第2のコイルバネ
221 コイル部
222 押当て環
223 係合環

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部にスリットを有する拡開部を形成し、基端部の内周面に雌ネジを形成し、筒体内部に拡張コーンを挿入したアンカー本体(10)と、断面傘形状に形成された円錐ワッシャー(20,30)とを有し、該円錐ワッシャーのワッシャー頂部を上記アンカー本体の基端部に固定したことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項2】
円錐ワッシャー(20)は、中心部にアンカー本体(10)が嵌合できる大きさの透孔を設け、該円錐ワッシャーの透孔から傘形状の内側に向って上記アンカー本体を挿入し、当該アンカー本体の拡開部を上記円錐ワッシャーのワッシャー裾部から突出させたことを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルト。
【請求項3】
円錐ワッシャー(30)は、中心部にアンカー本体(10)が嵌合できる大きさの透孔を設け、該円錐ワッシャーの透孔から傘形状の外側に向って上記アンカー本体を挿入し、当該アンカー本体の拡開部を上記円錐ワッシャーのワッシャー頂部から突出させたことを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルト。
【請求項4】
円錐ワッシャー付きアンカーボルトを施工する施工治具であって、施工治具が、打込み棒(110)と該打込み棒に装着するコイルバネ(120)とからなり、上記打込み棒は、打込み棒基端部(111)の先端にアンカー本体(10)の筒体内に挿入可能な軸径を有する打込み棒先端部(113)を形成したものであり、上記コイルバネは、上記打込み棒に摺動可能に形成したバネ小径部(121)とアンカーボルト(1,2)に設けた円錐ワッシャー(20,30)が遊嵌できる口径を有するバネ大径部(122)とを形成したものであって、該コイルバネは、上記バネ大径部の長さを上記円錐ワッシャーの高さと同一又は若干長めに形成し、上記バネ小径部の基端部を上記打込み棒の基端部に係止したことを特徴とするアンカーボルトの施工治具。
【請求項5】
アンカーボルトを施工する施工治具であって、施工治具が、打込み棒(110)と該打込み棒に装着するコイルバネ(220)とからなり、上記打込み棒は、打込み棒基端部(111)の先端にアンカー本体(10)の筒体内に挿入可能な軸径を有する打込み棒先端部(113)を形成し、上記コイルバネは、全域を同一径に形成して上記打込み棒に摺動可能に装着し、該コイルバネの基端部を上記打込み棒の基端部に係止したことを特徴とするアンカーボルトの施工治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−314944(P2007−314944A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142477(P2006−142477)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(391004322)株式会社ファスナーエンジニアリング (2)
【Fターム(参考)】