説明

アンギュラ研削方法およびアンギュラ研削装置

【課題】アンギュラ研削において、熱変位等により砥石軸が伸縮した場合でも、ドレッシング加工の基本構成を改変することなく、また機械的構造を改変することもなく、ワークを所定の仕上がり寸法に研削するアンギュラ研削技術を提供する。
【解決手段】ワークWの内径面Wbおよび端面Wa、Wcを同時に研削するアンギュラ研削において、砥石車10の内径研削部10bおよび端面研削部10a、10cを、砥石ドレッサ20が所定の基準砥石面輪郭に沿って相対的にトラバース移動しながらドレッシング加工するとともに、このドレッシング加工時に検出した上記砥石車10の内径研削部10bと端面研削部10a、10cとのドレス量の差に基づいて、砥石車10のワークWに対する切込み量を補正することで、ワークWの内径面Wbと端面Wa、Wcを所定の仕上寸法に研削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンギュラ研削方法およびアンギュラ研削装置に関し、さらに詳細には、工作物の内径面と端面を同時に研削するアンギュラ研削において、熱変位等により砥石軸が伸縮した場合でも、砥石修正後の工作物を所定の仕上寸法に研削する砥石修正・研削技術に関する。
【背景技術】
【0002】
工作物(以下、ワークと称する。)の内径面と端面を同時に研削するいわゆるアンギュラ研削においては、ワークの被研削面に対応したプロフィールの外径砥石面、つまり内径面を研削する内径研削部(砥石面)と端面を研削する端面研削部(砥石面)を有するアンギュラ型砥石車が使用され、この砥石車を高速回転させながら、ワークの被研削面に切込み送りさせることにより、ワークの内径面と端面を同時に研削する。
【0003】
また、上記砥石車には所定のインターバルをもってあるいは適宜ドレッシング加工が施されて、常にワークの仕上がり寸法に対応したプロフィールの砥石面(内径研削部および端面研削部)が修正維持される。このドレッシング加工は、砥石ドレッサを上記砥石車の内径研削部と端面研削部の砥石面輪郭に沿って相対的にトラバース移動させながら、これら研削部に対して一定の切込み量をもって所定回数ドレッシング加工を施すことにより実施される。
【0004】
ところで、砥石車の支持回転する砥石軸は、温度の影響により伸縮する性質を持ち、この伸縮量は上記ドレッシング加工におけるドレス量さらには研削加工精度にそのまま影響する。
【0005】
特にアンギュラ型砥石車においては、例えば、研削装置の起動時や研削加工中に発生する熱により、砥石軸温度が上昇して砥石軸が伸びた場合、砥石ドレッサと砥石車の位置関係が変化して、砥石車の端面研削部のドレス量は多くなり、一方、上記内径研削部のドレス量は少なくなる。
【0006】
すなわち、砥石軸が伸びた場合、砥石車の端面研削部が砥石ドレッサと接触しても、砥石車の内径研削部は砥石ドレッサと接触しないことになり、この結果、砥石車の端面研削部のドレス量は多くなり、一方、上記内径研削部のドレス量は少なくなる。そして、この砥石車により研削加工されたワークは、所定の仕上がり寸法に対して、その幅寸法(軸方向寸法)が大きくなるとともに、内径寸法が小さくなってしまう。砥石軸が縮んだ場合は、研削加工されたワークの仕上がり寸法は、これと全く逆になる。
【0007】
このように、砥石軸の伸縮により、ドレッシング加工後のワークの仕上がり寸法が、ドレッシング加工前とで変わることになる。
【0008】
また、研削装置に対するワークの搬入搬出を行う搬送装置に関連して、搬送装置の搬入側において、前工程でのトラブル等により研削装置の加工部に搬入されるワークがない状態(ノーワーク状態)や、搬出側において、後工程へ搬送されるワークが滞ることで、研削装置の加工部からワークが排出できない状態(フルワーク状態)により、研削加工自体が待機する結果、連続して行われる研削加工に空白状態が生じてしまい、これに起因した砥石軸の縮みによるNGワークの発生も問題となっていた。
【0009】
これらの問題は、上記砥石軸の伸縮量が判明していれば、計算式等により砥石ドレッサの軌道(砥石面輪郭に沿って相対的にトラバース移動する軌跡)を修正することで解消できるが、この目的のために、砥石軸の伸び量の測定装置等を機械に取り付けて機械的構造を改変することは、設備コストの上昇や取付け場所の確保の必要性等の問題を新たに生じることになり、これらの問題の抜本的解決が要望されていた。
【0010】
なお、これらの問題を砥石車を修正するドレッシング加工自体を改良することにより解決しようとする技術は、従来種々開発され提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平06−114731号公報
【特許文献2】特開平04−348869号公報
【特許文献3】特開昭60−029276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ワークの内径面と端面を同時に研削するアンギュラ研削において、熱変位等により砥石軸が伸縮した場合でも、ドレッシング加工の基本構成を改変することなく、また機械的構造を改変することもなく、ワークを所定の仕上がり寸法に研削することができるアンギュラ研削方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的とするところは、上記アンギュラ研削方法を有効に実施することができるアンギュラ研削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のアンギュラ研削方法は、ワークの内径面を研削する内径研削部と端面を研削する端面研削部を有する砥石車を用いて、ワークの内径面および端面を同時に研削するアンギュラ研削方法であって、上記砥石車の内径研削部および端面研削部を、砥石ドレッサが所定の基準砥石面輪郭に沿って相対的にトラバース移動しながらドレッシング加工するとともに、このドレッシング加工時に検出した上記砥石車の内径研削部と端面研削部とのドレス量の差に基づいて、上記砥石車のワークに対する切込み量を補正することで、ワークの内径面と端面を所定の仕上寸法に研削するようにしたことを特徴とする。
【0015】
好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記砥石ドレッサによる上記砥石車の内径研削部および端面研削部のドレッシング加工は、上記砥石車の内径研削部および砥石研削部に対して一定の切込み量をもって、これら研削部の基準輪郭に対応する上記基準砥石面輪郭に沿った軌道を相対的にトラバース移動しながら行うドレッシング工程を所定回数繰返してなり、この一連のドレッシング工程の各工程において、上記砥石ドレッサと上記砥石車の内径研削部および端面研削部とのそれぞれの接触の有無を検出するとともに、上記砥石ドレッサとこれら研削部とのいずれかで検出した非接触状態の回数に基づいて上記内径研削部と端面研削部とのドレス量の差を検出する。
【0016】
(2)上記砥石ドレッサと上記砥石車の内径研削部および端面研削部とのそれぞれの接触の有無を検出する接触検出手段が、上記砥石ドレッサ側に設けられたAEセンサである。
【0017】
(3)上記砥石ドレッサと上記砥石車の内径研削部および端面研削部とのそれぞれの接触の有無を検出する接触検出手段が、上記砥石車側に設けられたAEセンサである。
【0018】
(4)上記砥石車のワークに対する切込み量の補正は、上記内径研削部と端面研削部とのドレス量の差から上記砥石車の砥石軸の伸縮量を算出し、この砥石軸の伸縮量に応じて上記砥石車の切込み量を補正する。
【0019】
(5)上記砥石車の砥石軸のワークの回転軸に対する傾斜角度をθとし、上記内径研削部と端面研削部とのドレス量の差をKとすると、上記砥石軸の伸縮量Zは下式で求められる。
Z=K/(tanθ+tan(90°−θ))
【0020】
本発明のアンギュラ研削装置は、ワークの内径面および端面を同時に研削するアンギュラ研削装置であって、ワークの内径面を研削する内径研削部と端面を研削する端面研削部を有し、回転駆動される砥石車と、この砥石車をワークに対して切込み送りする砥石切込み駆動部と、上記砥石車の内径研削部と端面研削部をドレッシング加工する砥石ドレッサと、この砥石ドレッサをドレッシング駆動するドレッサ駆動部と、このドレッサ駆動部による砥石ドレッサのドレッシング工程において、上記砥石車の内径研削部および端面研削部とのドレス量の差を検出測定するドレス量差測定部と、このドレス量差測定部の測定結果に基づいて上記砥石切込み駆動部を駆動制御する砥石切込み制御部とを備えることを特徴とする。
【0021】
好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記砥石切込み制御部は、請求項1から4のいずれか一つに記載の研削方法を実行するように上記切込み送り駆動部を駆動制御するように構成される。
【0022】
(2)上記砥石ドレッサは、ドレス工具として、回転駆動されるロータリ・ドレス工具を備えるロータリ・ドレッサの形態とされている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ワークの内径面を研削する内径研削部と端面を研削する端面研削部を有する砥石車を用いて、ワークの内径面および端面を同時に研削するアンギュラ研削において、上記砥石車の内径研削部および端面研削部を、砥石ドレッサが所定の基準砥石面輪郭に沿って相対的にトラバース移動しながらドレッシング加工するとともに、このドレッシング加工時に検出した上記砥石車の内径研削部と端面研削部とのドレス量の差に基づいて、上記砥石車のワークに対する切込み量を補正することで、ワークの内径面と端面を所定の仕上寸法に研削するようにしたから、熱変位等により砥石軸が伸縮した場合でも、ドレッシング加工の基本構成(基本動作)を改変することなく、また機械的構造を改変することもなく、ワークを所定の仕上がり寸法に研削することができる。
【0024】
また、研削装置に対するワークの搬入搬出を行う搬送装置に関連して、搬送装置の搬入側において、ノーワーク状態やフルワーク状態により、研削加工自体が待機して、連続して行われる研削加工に空白状態が生じてしまっても、これに起因した砥石軸の伸縮によるNGワークの発生排出を有効に防止することができる。
【0025】
さらに、装置トラブル等による機械停止後の立ち上がり時の砥石軸の伸縮により、砥石ドレッサと砥石車の位置関係が変化してしまっても、NGワークの発生排出を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る一実施形態に係るアンギュラ研削装置の全体構成の概略を示す正面図である。
【図2】同アンギュラ研削装置におけるアンギュラ砥石車とワークとの配置関係を拡大して示す一部断面正面図である。
【図3】同じく同アンギュラ研削装置におけるアンギュラ砥石車と砥石ドレッサとの配置関係を拡大して示す正面図である。
【図4】同アンギュラ砥石車の砥石軸の伸縮による位置変化の状態を示す正面模式図である。
【図5】同アンギュラ研削装置の切込み制御部の構成を示すブロック構成図である。
【図6】同アンギュラ研削装置の研削対象であるワークを拡大して示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面全体にわたって同一の符号は同一の構成部材または要素を示している。
【0028】
本発明に係るアンギュラ研削装置が図1〜図5に示されており、具体的には、図6に示すようなワークWの端面Wa、内径面Wbおよび奥端面Wcを同時に研削加工するものである。
【0029】
この研削装置は、図1に示すように、ワーク支持装置1、研削砥石装置2、砥石ドレス装置3および装置制御部4を主要部として備えてなるとともに、ワークWがその軸線(Z軸)を垂直にして回転支持される立型研削盤の形態とされている。
【0030】
ワーク支持装置1は、ワークWを回転支持するもので、装置ベッド5上に配置されている。このワーク支持装置1には、ワーク主軸6が回転可能に軸支されており、このワーク主軸6は、その軸線(Z軸)が垂直になるように配置され、主軸6の基端(下端)が図示しない回転駆動源に連結されるとともに、その先端(上端)にワークWを取外し可能にチャッキング支持するチャック装置7を備えている。このチャック装置7としては、例えば、油圧あるいはカムを使用するパワーチャックのほか、マグネットチャックやコレットチャックなどが好適に使用される。
【0031】
研削砥石装置2は、水平な装置ベッド5上に垂直起立状に設けられたコラム6に、ワーク支持装置1に回転支持されるワークWに対向配置されている。
【0032】
研削砥石装置2の主要部である砥石車10は、研削対象であるワークWの内径面を研削する内径研削部と端面を研削する端面研削部を有するアンギュラ砥石車の形態とされ、図示の実施形態の砥石車10は、図2に示すように、ワークWの端面Waを研削する端面研削部10a、内径面Wbを研削する内径研削部10bおよび奥端面Wcを研削する奥端面研削部10cを連続する外径砥石面として備える。
【0033】
このアンギュラ砥石車10は、上記ワークWの端面Wa、内径面Wbおよび奥端面Wcを同時に研削すべく、その軸線つまり砥石軸11の回転軸線(X軸)がワークWの垂直軸線(Z軸)に対し所定の傾斜角度θ(図示の実施形態においてはθ=30度)をもって傾斜して配置されている。
【0034】
砥石車10は、直交する2軸方向、つまり図1においてX軸方向とY軸方向へ移動可能とされている。具体的には、砥石車10は、砥石軸11の先端に取り外し可能に取付け固定され、この砥石軸11は、上記砥石車台12上に回転可能に軸承されるとともに、図示しない駆動モータ等の駆動源に連結されている。
【0035】
砥石車台12は、可動台14上に砥石軸11の回転軸線(X軸)方向へ移動可能に装着されている。つまり、この砥石車台12の基部スライド12aが上記可動台14のスライドレール14aに沿ってX軸方向へ移動可能とされるとともに、X軸方向切込み駆動部としての移動手段15に連結されている。
【0036】
また、上記可動台14は、上記砥石軸11の回転軸線(X軸)と直交するY軸方向へ移動可能に装着されている。つまり、この可動台14の基部スライド14bが、コラム6に設けられたスライドレール16に沿ってY軸方向へ移動可能とされるとともに、コラム6上に配設されたY軸方向切込み駆動部としての移動手段17に連結されている。この移動手段17は具体的にはサーボモータ17aとボールねじ17bからなり、サーボモータ17aが砥石切込み制御部18に電気的に接続されており、ワークWの形状寸法に対応して、砥石車10の切込み動作を行う。
【0037】
なお、具体的には図示しないが、上記X軸方向切込み駆動部としての移動手段15も、上記移動手段17と同一構成とされ、後述するように、これら両移動手段15、17により、上記砥石車10をワークWに対して切込み送りする砥石切込み駆動部19(図5参照)が構成されている。
【0038】
また、この砥石切込み駆動部19は、後述するように、砥石ドレス装置3のダイヤ切込み駆動部27としての機能を兼務する。
【0039】
そして、砥石車10は、上記砥石切込み制御部18にプログラムされた研削プログラムに従って、所定の速度で高速回転駆動されながら、上記砥石切込み駆動部19(15、17)により切込み送りされて、ワークWの端面Wa、内径面Wbおよび奥端面Wcを同時に研削する(図2参照)。
【0040】
砥石切込み制御部18は、上記のように、ワークWの形状寸法に対応して、砥石車10の切込み動作を制御するものであり、装置制御部4の一部を構成している。この砥石切込み制御部18は、後述するように、ドレス装置3のドレス制御部30と協働して、砥石軸11の伸縮による砥石車10の外径砥石面(図示の実施形態においては、端面研削部10a、内径研削部10b、奥端面研削部10c)への影響を除去すべく、上記砥石切込み駆動部19(15、17)の駆動を補正制御する。
【0041】
砥石ドレス装置3は、上記砥石車10の外径砥石面をワークWの研削加工対象である端面Wa、内径面Wbおよび奥端面Wcの形状寸法に対応するようにドレッシング(目立て・整形)を行うもので、具体的には、砥石車10の内径研削部と端面研削部(図示の実施形態においては、端面研削部10a、内径研削部10b、奥端面研削部10c)をドレッシング加工する砥石ドレッサ20を主要部として備えてなり、図1に示すように、コラム6上において研削砥石装置2の側部近傍位置に設けられている。
【0042】
砥石ドレス装置3は、具体的には、上記砥石ドレッサ20と、この砥石ドレッサ20をドレッシング駆動するドレッサ駆動部25を主要部として構成されている。
【0043】
上記砥石ドレッサ20は、具体的には、ドレス工具21として、回転駆動されるロータリ・ドレス工具を備えるロータリ・ドレッサの形態とされている。
【0044】
図示の実施形態のロータリ・ドレス工具21は、図3に示すように、上記砥石車10の外径砥石面(端面研削部10a、内径研削部10b、奥端面研削部10c)に対応して、その外周ドレス部21aが結合材料により結合されてなるダイヤモンドやCBN等の超砥粒により構成されたロータリ・ダイヤの形態とされている。なお、上記ロータリ・ドレス工具21の外周ドレス部21aを構成する砥粒としては、ドレッシング対象である砥石車10の砥石層が一般砥石層の場合には、一般砥粒が用いられる場合もある。
【0045】
このロータリ・ダイヤ21は従来公知の一般的基本構造を備えており、ドレッサ駆動部25により、所定の回転速度をもって回転駆動されるとともに、砥石車10に対して相対的にトラバース移動しながら切込み送りされる構成とされている。
【0046】
具体的には、ロータリ・ダイヤ21は、ドレス軸22に取外し可能に取付け固定され、このドレス軸22がドレス台23に回転可能に軸承されるとともに、伝動プーリ24a、動力伝動ベルト24bおよび伝動プーリ24cからなる動力伝動機構24を介して、上記ドレッサ駆動部25のダイヤ回転部26に駆動連結されている。このダイヤ回転部26はロータリ・ダイヤ駆動モータで、装置制御部4のドレス制御部30(図5参照)に電気的に接続されている。
【0047】
また、ロータリ・ダイヤ21は、ドレッサ駆動部25のダイヤ切込み駆動部27により、上記砥石車10の外径砥石面(端面研削部10a、内径研削部10b、奥端面研削部10c)に対して相対的に切込み動作するとともに、この外径砥石面10a、10b、10cに沿って平行な方向へ相対的に移動(トラバース)可能とされている。
【0048】
図示の実施形態においては、砥石ドレス装置3はコラム6の定位置に固定的に設けられており、上記ダイヤ切込み駆動部27としては、前述したように、研削砥石装置2の砥石切込み駆動部19が機能を兼務する構成とされている。
【0049】
すなわち、ドレス装置3のロータリ・ダイヤ21は、上記ドレス制御部30にプログラムされたドレスプログラムに従って、砥石車10の外径砥石面10a、10b、10cのプロフィールを回復維持するように駆動制御される。
【0050】
具体的には、上記ダイヤ切込み駆動部27としての研削砥石装置2の砥石切込み駆動部19(15、17)が、上記ドレス制御部30にプログラムされたドレスプログラムに従って、砥石車10を、定位置で回転駆動しているロータリ・ダイヤ21に対して、所定の移動軌跡に沿ってトラバース移動(X軸方向およびY軸方向へ複合的に移動)させ、これにより、砥石車の外径砥石面10a、10b、10cの輪郭形状がロータリ・ダイヤ21により修正されて、所定のプロフィールを回復維持される。
【0051】
次に、研削砥石装置2と砥石ドレス装置3の協働により、砥石軸11の伸縮による砥石車10の外径砥石面10a、10b、10cへの影響を除去する駆動制御について説明する。
【0052】
この制御系は、図5に示すような制御構成とされており、具体的には、前記砥石切込み制御部18およびドレス制御部30の基本制御構成に加えて、ドレス量差測定部35と砥石切込み量補正部36を備えてなる。
【0053】
ドレス量差測定部35は、ドレッサ駆動部25による砥石ドレッサ20のドレッシング工程において、上記砥石車10の内径研削部10bと端面研削部10a、10cとのドレス量の差を検出測定するもので、具体的には、接触検知部(接触接触検出手段)37からの検知信号、つまり砥石ドレッサ20と砥石車10の内径研削部10bおよび端面研削部10a、10cとのそれぞれの接触の有無検出信号に基づいて、上記ドレス量の差を演算測定する。
【0054】
この接触の有無を検出する接触検出手段37として、本実施形態においては、上記砥石ドレッサ側に設けられたAE(アコースティック ・ エミッション)センサが使用されている。AEセンサ37は、具体的には、ドレス軸22の端部に取り付けられている。
【0055】
砥石切込み量補正部36は、ドレス量差測定部35の測定結果に基づいて、砥石切込み量(X軸方向の切込み量とY軸方向の切込み量)の補正量を演算する。
【0056】
以下、この補正量を用いた砥石車10の具体的な切込み制御について説明する。
【0057】
本実施形態においては、砥石ドレス装置3による砥石車10のドレッシング加工自体は、砥石軸11の伸縮の有無に関わらず、砥石軸11の伸縮ゼロの時のドレッシング基本動作(砥石ドレッサ20のドレス工具21が所定の基準砥石面輪郭(基準軌跡)に沿って相対的にトラバース移動しながらドレッシング加工する動作)であり、このドレッシング基本動作によるドレッシング加工時に検出した砥石車10の内径研削部10bと端面研削部10a、10cとのドレス量の差に基づいて、砥石車10のワークWに対する切込み量を補正することで、ワークWの内径面Wbと端面Wa、Wcを正寸(所定の仕上寸法)に研削する構成とされている。
【0058】
すなわち、砥石軸11が伸縮した場合の砥石車10と砥石ドレッサ20のドレス工具21のトラバース移動軌跡との関係について図4を用いて説明する。
【0059】
図4には、砥石軸11が伸び縮みしていないとき(通常時)の砥石面輪郭が実線で示され、砥石軸11が伸びた時の砥石面輪郭が一点鎖線で示され、また砥石軸11が縮んだ時の砥石面輪郭が二点鎖線で示されており、砥石軸11が伸びた場合は、通常時に比べ端面研削部10a、10cがドレス工具21に対して接近する方向(前方向)へ移動し、内径研削部10bがドレス工具21に対して離隔する方向(後方向)へ移動し、逆に、砥石軸11が縮んだ場合は、端面研削部10a、10cがドレス工具21に対して離隔する方向(後方向)へ移動し、内径研削部10bがドレス工具21に対して接近する方向(前方向)へ移動する。
【0060】
上記ドレッシング基本動作とは、砥石ドレッサ20のドレス工具21が図4の実線で示される砥石面輪郭(所定の基準砥石面輪郭(基準軌跡)に沿って相対的にトラバース移動しながらドレッシング加工する動作をいい、上記ドレス制御部30には、このドレッシング基本動作を行うドレスプログラムがプログラムされている。
【0061】
換言すれば、砥石ドレッサ20のロータリ・ダイヤ21による砥石車10の内径研削部10bおよび端面研削部10a、10cのドレッシング基本動作によるドレッシング加工は、砥石車10の内径研削部10bおよび端面研削部10a、10cに対して一定の切込み量dをもって、これら研削部10a〜10cの基準輪郭に対応する上記基準砥石面輪郭に沿った軌道(基準軌)を相対的にトラバース移動しながら行うドレッシング工程が所定回数繰返されてなる。
【0062】
したがって、ドレッシング基本動作するドレス工具21によりドレッシング加工された砥石車10によりワークWを研削すると、砥石軸11が伸び縮みすることにより所定の研削代を研削したつもりでも、ワークWは正寸(所定の仕上寸法)に研削されないことになる。
【0063】
例えば、砥石軸11が伸びた場合、図4を参照して、砥石ドレッサ20のドレス工具21は、ドレッシング工程初期において砥石車10の端面研削部10a、10cに接触し、内径研削部10bには接触しないことになる。つまり、AEセンサ37は、砥石車10の端面研削部10a、10cとの接触を検知できるが、内径研削部10bとの接触は検知できない、つまり、内径研削部10bに対していわゆる空振りすることになる。
【0064】
そこで、上記ドレス量差測定部35は、AEセンサ37の検知結果から、この一連のドレッシング工程の各工程において、砥石ドレッサ20のロータリ・ダイヤ21と砥石車10の内径研削部10bおよび端面研削部10a、10cとのそれぞれの接触の有無を検出するとともに、ロータリ・ダイヤ21とこれら研削部10a、10b、10cとのいずれかで検出した非接触状態の回数に基づいて(AEセンサ37が空振りした回数(量)nをカウントして)、内径研削部10bと端面研削部10、11cとのドレス量の差(d×n)を演算し検出する。
【0065】
続いて、砥石切込み量補正部36は、このドレス量差測定部35の演算結果(内径研削部10bと端面研削部10、11cとのドレス量の差(d×n))から砥石車10の砥石軸11の伸縮量Zを算出し、この伸縮量Zが砥石切込み制御部18に制御信号として送られて、砥石切込み制御部18は、この砥石軸11の伸縮量Zに応じて砥石切込み駆動部19(X軸方向切込み駆動部15およびY軸方向切込み駆動部17)を駆動制御し、これにより砥石車10の切込み量を補正する。
【0066】
砥石軸11の伸縮量Zは、下式で求められる。
Z=K/(tanθ+tan(90°−θ))
ここに、
θ:砥石車10の砥石軸11のワークWの回転軸Zに対する傾斜角度
K:砥石車10の内径研削部10bと端面研削部10a、10cとのドレス量の差(d×n)
【0067】
図示の実施形態においては、θ=30°であることから、Z=K/(tan30°+tan60°)で求められる。
【0068】
上記と逆に、砥石軸11が縮んだ場合は、砥石ドレッサ20のロータリ・ダイヤ21が砥石車10の内径研削部10bに接触して端面研削部10a、10cには接触しないことになる。この場合も、同様に、端面研削部の空振りした回数(量)をカウントし、その回数(量)に応じて、砥石車10の切込み量を補正して、ワークWを正寸に研削する。
【0069】
装置制御部4は、上述したワーク支持装置1、研削砥石装置2および砥石ドレス装置3の各駆動部の動作を相互に連動して自動制御するもので、具体的には、CPU,ROM,RAMおよびI/Oポートなどからなるマイクロコンピュータで構成されたCNC装置である。この制御装置4には、上述したアンギュラ研削工程(研削方法)を実行するための制御プログラムが、数値制御データとして、予めまたは図示しない操作盤のキーボード等により適宜選択的に入力設定される。
【0070】
しかして、以上のように構成されたアンギュラ研削装置において、ワーク支持装置1により回転支持されるワークWに対して、研削砥石装置2の砥石車10によるアンギュラ研削が行われるとともに、所定のインターバルをもって、または適宜、砥石ドレス装置3による砥石車10の外径砥石面(10a、10b、10c)に対するドレッシング(目立て・整形)が行われる。
【0071】
この場合、砥石ドレス装置3による砥石車10の内径研削部10bおよび端面研削部10a、10cのドレッシング加工は、砥石軸11の伸縮の有無にかかわらず、砥石ドレッサ20が砥石車10に対して所定の基準砥石面輪郭に沿って相対的にトラバース移動しながらドレッシング加工が行われるとともに、このドレッシング加工時に検出した砥石車10の内径研削部10bおよび端面研削部10a、10c間のドレス量の差Kに基づいて、砥石車10のワークWに対する切込み量を補正することで、ワークWの内径面Wbと端面Wa、Wbを所定の仕上寸法に研削するように構成されている。
【0072】
したがって、砥石軸11が熱変位等により伸縮した場合でも、ドレッシング加工の基本構成(基本動作)を改変することなく、また機械的構造を改変することもなく、ワークWを所定の仕上がり寸法に研削することができる。
【0073】
また、研削装置に対するワークWの搬入搬出を行う搬送装置(図示省略)に関連して、搬送装置の搬入側において、ノーワーク状態やフルワーク状態により、研削装置の研削加工自体が待機して、連続して行われる研削加工に空白状態が生じてしまっても、これに起因した砥石軸11の伸縮によるNGワークの発生排出が有効に防止され得る。
【0074】
さらに、装置トラブル等による機械停止後の立ち上がり時の砥石軸11の伸縮により、砥石ドレッサ20と砥石車10の位置関係が変化してしまっても、NGワークの発生排出を有効に防止することができる。
【0075】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれに限定されることなく、その範囲内において種々の設計変更が可能である。
【0076】
例えば、図示の実施形態においては、AEセンサが砥石ドレッサ20側に設けられているが、砥石車10側に設けられても良く、このように砥石車10側に設けられる場合は、ワークWと砥石車10の接触も検知することが可能で、砥石車10とワークWの接触前の時間を短縮して研削工程サイクルタイムの短縮化が図れる。
【0077】
また、砥石ドレッサ20と砥石車10との接触検知部37は、図示の実施形態のようにAEセンサ等の特別なセンサを用いなくても、砥石軸11や砥石ドレッサ20の駆動モータの負荷電流や電力で代用することも可能である。
【0078】
また、本発明は、図示の実施形態のようなワークWの形状構成およびこれに対応する砥石車10の外径砥石面の形状構成に限定されることなく、種々のアンギュラ研削に適用可能である。
【0079】
さらに、図示の実施形態は、立型研削装置について説明したが、本発明は、横型研削装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
W ワーク
Wa ワークの端面
Wb ワークの内径面
Wc ワークの奥端面
θ 砥石車の傾斜角度
1 ワーク支持装置
2 研削砥石装置
3 砥石ドレス装置
4 装置制御部
10 砥石車
10a 砥石車の端面研削部
10b 砥石車の内径面研削部
10c 砥石車の奥端面研削部
11 砥石軸
15 移動手段(X軸方向切込み駆動部)
17 移動手段(Y軸方向切込み駆動部)
18 砥石切込み制御部
19 砥石切込み駆動部
20 砥石ドレッサ
21 ロータリ・ダイヤ(ドレス工具)
22 ドレス軸
25 ドレッサ駆動部
26 ロータリ・ダイヤ駆動モータ(ドレッサ駆動部のダイヤ回転部)
27 ダイヤ切込み駆動部
30 ドレス制御部
35 ドレス量差測定部
36 砥石切込み量補正部
37 AEセンサ(接触検知部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の内径面を研削する内径研削部と端面を研削する端面研削部を有する砥石車を用いて、工作物の内径面および端面を同時に研削するアンギュラ研削方法であって、
前記砥石車の内径研削部および端面研削部を、砥石ドレッサが所定の基準砥石面輪郭に沿って相対的にトラバース移動しながらドレッシング加工するとともに、このドレッシング加工時に検出した前記砥石車の内径研削部と端面研削部とのドレス量の差に基づいて、前記砥石車の工作物に対する切込み量を補正することで、工作物の内径面と端面を所定の仕上寸法に研削するようにした
ことを特徴とするアンギュラ研削方法。
【請求項2】
前記砥石ドレッサによる前記砥石車の内径研削部および端面研削部のドレッシング加工は、前記砥石車の内径研削部および砥石研削部に対して一定の切込み量をもって、これら研削部の基準輪郭に対応する前記基準砥石面輪郭に沿った軌道を相対的にトラバース移動しながら行うドレッシング工程を所定回数繰返してなり、
この一連のドレッシング工程の各工程において、前記砥石ドレッサと前記砥石車の内径研削部および端面研削部とのそれぞれの接触の有無を検出するとともに、前記砥石ドレッサとこれら研削部とのいずれかで検出した非接触状態の回数に基づいて前記内径研削部と端面研削部とのドレス量の差を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載のアンギュラ研削方法。
【請求項3】
前記砥石ドレッサと前記砥石車の内径研削部および端面研削部とのそれぞれの接触の有無を検出する接触検出手段が、前記砥石ドレッサ側に設けられたAEセンサである
ことを特徴とする請求項2に記載のアンギュラ研削方法。
【請求項4】
前記砥石ドレッサと前記砥石車の内径研削部および端面研削部とのそれぞれの接触の有無を検出する接触検出手段が、前記砥石車側に設けられたAEセンサである
ことを特徴とする請求項2に記載のアンギュラ研削方法。
【請求項5】
前記砥石車の工作物に対する切込み量の補正は、前記内径研削部と端面研削部とのドレス量の差から前記砥石車の砥石軸の伸縮量を算出し、この砥石軸の伸縮量に応じて前記砥石車の切込み量を補正する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のアンギュラ研削方法。
【請求項6】
前記砥石車の砥石軸の工作物の回転軸に対する傾斜角度をθとし、前記内径研削部と端面研削部とのドレス量の差をKとすると、
前記砥石軸の伸縮量Zは下式で求められることを特徴とする請求項5に記載のアンギュラ研削方法。
Z=K/(tanθ+tan(90°−θ))
【請求項7】
工作物の内径面および端面を同時に研削するアンギュラ研削装置であって、
工作物の内径面を研削する内径研削部と端面を研削する端面研削部を有し、回転駆動される砥石車と、
この砥石車を工作物に対して切込み送りする砥石切込み駆動部と、
前記砥石車の内径研削部と端面研削部をドレッシング加工する砥石ドレッサと、
この砥石ドレッサをドレッシング駆動するドレッサ駆動部と、
このドレッサ駆動部による砥石ドレッサのドレッシング工程において、前記砥石車の内径研削部および端面研削部とのドレス量の差を検出測定するドレス量差測定部と、
このドレス量差測定部の測定結果に基づいて前記砥石切込み駆動部を駆動制御する砥石切込み制御部とを備える
ことを特徴とするアンギュラ研削装置。
【請求項8】
前記砥石切込み制御部は、請求項1から5のいずれか一つに記載の研削方法を実行するように前記切込み送り駆動部を駆動制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項7に記載のアンギュラ研削装置。
【請求項9】
前記砥石ドレッサは、ドレス工具として、回転駆動されるロータリ・ドレス工具を備えるロータリ・ドレッサの形態とされている
ことを特徴とする請求項7に記載のアンギュラ研削装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−31889(P2013−31889A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167875(P2011−167875)
【出願日】平成23年7月30日(2011.7.30)
【出願人】(000167222)光洋機械工業株式会社 (85)
【Fターム(参考)】