説明

アンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法

【課題】 高コストの原料を使用せず、また濃縮操作も必要としない調製方法である。
【解決手段】 このアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法は、平均粒子径が4〜30nmの範囲にあり、ナトリウム又はカリウムを含有するシリカ系微粒子が溶媒に分散してなり、固形分濃度が10〜50質量%であるシリカ系ゾルについて、限外濾過を行いながら、アンモニア水溶液を添加することにより、ナトリウム又はカリウムとアンモニウムイオンの交換を行うことによって、該シリカ系微粒子に含まれるナトリウム又はカリウム量を低減させ、アンモニウム量を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム又はカリウム含有量が高く、固形分濃度の高いシリカ系ゾルについて、そのナトリウム又はカリウム濃度を低減させ、アンモニウム濃度を高めてなるアンモニウム含有シリカゾルの製造方法に関するものである。本発明の製造方法により得られるアンモニウム含有シリカゾルは、例えば、研磨用組成物の成分として好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の集積回路付基板の製造においては、例えばシリコンウェハー上に銅などの金属で回路を形成する際に凹凸あるいは段差が生じるので、これを研磨して表面の段差がなくなるように回路の金属部分を優先的に除去することが行われている。また、シリコンウェハー上にアルミ配線を形成し、この上に絶縁膜としてSiO2 等の酸化膜を設けると配線による凹凸が生じるので、この酸化膜を研磨して平坦化することが行われている。
【0003】
このような研磨方法として、化学機械研磨法(CMP)が良く知られている。同法は、凹凸を有する基板を回転している研磨パッドに押し付けると共に、基板自体も回転させながら研磨材スラリー中に浸漬することにより、該スラリー中に含まれる研磨用粒子が加重により凹凸を有する基板に押しつけられ、この結果、基板の凸部金属部分が除去されて平坦化されるものである。さらに、基板上に形成された酸化膜の表面を平坦化するため、または回路上に形成された絶縁膜(酸化膜)の凹凸を平坦化する目的等にも、同様の研磨が行われている。
【0004】
このとき、研磨用粒子としてはヒュームドアルミナあるいはヒュームドシリカ等の平均粒子径が200nm程度の球状粒子が用いられている。研磨材としては、このような研磨用粒子と共に、被研磨材の種類により、金属の研磨速度を高めるために過酸化水素等の酸化剤や、金属の腐食あるいは酸化を抑制するためにベンゾトリアゾール(BTA)や、更に酸等の化学的研磨材を加えた水系の研磨材スラリーが用いられている。
【0005】
このような基板の研磨においては、研磨後の表面は段差や凹凸がなく平坦で、さらにミクロな傷等もなく平滑であることが求められており、また研磨速度が速いことも必要である。さらに、半導体材料は電気・電子製品の小型化や高性能化に伴い高集積化が進展しているが、たとえばトランジスタ分離層に不純物等が残存すると性能が発揮できなかったり、不具合の原因となることがある。特に研磨した半導体基板、酸化膜表面にアルカリ金属の中でもナトリウムが付着すると拡散性が高く、酸化膜中の欠陥などに捕獲され、半導体基板に回路を形成しても絶縁不良を起こしたり回路が短絡することがあり、また誘電率が低下することがあった。このため使用条件や使用が長期にわたった場合に前記不具合を生じることがあった。
【0006】
ナトリウム又はカリウムの含有量を低減させたシリカゾルの製造方法としては、例えば、従来公知のゾルを製造する方法において、原料として通常用いられるケイ酸ナトリウム(ナトリウム水硝子)の代わりにナトリウム含有量の低いケイ酸カリウム(カリ水硝子)あるいは第4級アミンなど有機塩基にシリカを溶解した溶液を用いる方法が知られている。また、従来の方法で得たナトリウムを含むシリカ微粒子から酸などによってナトリウムを除去することによっても、ナトリウムの含有量を低減させたシリカゾルを得ることができる。
【0007】
しかしながらこれらの方法では、製造原料や製造工程に制約があり、経済性に劣るという欠点を有している。また、上記公知の製造方法では、特に平均粒子径が30nm以上の大きなシリカ粒子になると安定的してナトリウム含有量が低レベル(例えば、100ppm以下)のシリカ粒子を得ることが困難な場合があった。
【0008】
特許文献1(特開2003−109921号公報)には、平均粒子径が5〜300nmの範囲にあるシリカ粒子が分散した研磨用シリカ粒子分散液であって、該シリカ粒子中のナトリウム+イオン含有量が100ppm以下であり、ナトリウム+イオン以外のイオン含有量が300ppm〜2重量%の範囲にあることを特徴とする研磨用シリカ粒子分散液の製造方法として、核粒子分散液に酸性珪酸液を加え、核粒子を粒子成長させてシリカ粒子分散液を得る工程において、核粒子の表面積1m2 当りのナトリウム+イオンの個数で定義されるナトリウム+イオンの量(NS )が50×1017個/核粒子(m2 )以下、かつ、核粒子の表面積1m2 当りのナトリウム+イオン以外のイオンの個数で定義されるナトリウム+イオン以外のイオンの量(Nカリウム )が5×1017〜2000×1017個/核粒子(m2 )の範囲にあり、(Nカリウム )/(NS )が5以上の条件下で粒子成長させることを特徴とする研磨用シリカ粒子分散液の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献1記載の研磨用シリカ粒子分散液の製造方法においては、例えば、水硝子(シリカ濃度24質量%)を、5質量%に希釈した後、イオン交換樹脂にて脱アルカリすることにより、ナトリウム濃度を下げる操作を実施している。この操作により得られる酸性珪酸液は、pH2.2、シリカ濃度3質量%のものであり、後の工程で濃縮されて濃度30質量%のシリカ粒子分散液とされている。この製造方法では、イオン交換による、ナトリウムの減少によるゲル化を防ぐために希釈されており、その後に濃縮されて高濃度が図られている。この製造方法においては、ナトリウムを減少させ、実用的な濃度のシリカ粒子分散液を得るために、希釈操作と濃縮操作を必要とするものであった。特に30nm以下の分散液へアンモニア水溶液を添加して、蒸発濃縮する場合、加熱により、アンモニアの蒸発量が多く、pHが減少し、ゲル化する問題があった。このことを防止するために、連続的にアンモニア水溶液を添加しながら、濃縮する必要があった。
【0010】
特許文献2(特開2003−128413号公報)には、(a)アルカリ金属水酸化物水溶液および/または有機塩基水溶液に有機ケイ素化合物を加えてアルカリ金属珪酸塩水溶液および/または有機塩基珪酸水溶液を得、(b)該アルカリ金属珪酸塩水溶液および/または有機塩基珪酸水溶液からアルカリ金属カチオンおよび/または有機カチオンを除去して酸性珪酸液を調製し、(c)該珪酸液を塩基性の水性溶媒または塩基性の核粒子分散液に加えて珪酸を重合させることからなる、シリカゾルの製造方法において、得られるシリカゾル中のナトリウム量をイオン交換法により、5ppm以下とする製造方法が開示されている。
【0011】
特許文献2に記載のシリカゾルの製造方法においては、原料の一部として、ナトリウムを含有しない有機珪素化合物を使用するものであり、また、実施例においては、他の原料としてナトリウム含有量の低いカリウム水硝子を使用する技術を開示している。この製造方法では、ナトリウム濃度を低下させるために、高コストな原料(有機珪素化合物)を使用し、また、カリ水硝子を調製する工程を必要とするものであった。
【0012】
特許文献3(特開2003−213249号公報)には、平均粒子径が5〜300nmの範囲にあり、炭素含有量が0. 5〜5重量%であることを特徴とする研磨用シリカ粒子であり、10%圧縮弾性率が500〜3000kgf/mm2の範囲にあるものが開示されており、同号公報には、同研磨用シリカ粒子のナトリウム含有量は、ナトリウムとして100ppm以下であることが好ましい旨記載がある。また、同号公報には、同研磨用シリカ微粒子の製造方法として、テトラエトキシシランを原料とする製造方法が記載されている。
特許文献3に記載の研磨用シリカ微粒子の製造方法によれば、ナトリウム含有量は極めて低い水準にあるものの、高コストな原料(テトラエトキシシラン)を使用するため、研磨用シリカ微粒子の製造コストが高いものとなる。
【0013】
また、平均粒子径が30nm以下のシリカ系微粒子であってナトリウム又はカリウムを含有するシリカ系ゾルは、特に固形分濃度が10〜50質量%の場合、イオン交換によりナトリウム又はカリウムを減少させた場合、酸性化することによりシリカ系ゾルの凝集が発生するため、大量の純水などで希釈してからイオン交換する必要があり、工程上もコスト上も課題となっていた。
【0014】
【特許文献1】特開2003−109921号公報
【特許文献2】特開2003−128413号公報
【特許文献3】特開2003−213249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
研磨用のシリカ系ゾルは従来、前記したような方法で製造されており、高コストの原料を使用することなく、特に濃縮操作も必要とはしない研磨用のシリカ系ゾルの調製方法が求められている。
本発明は、ナトリウム又はカリウムを含有するシリカ系微粒子が溶媒に分散してなる高濃度シリカ系ゾル(平均粒子径4〜30nm)において、ゾルの安定性を損なうことなく、ナトリウム又はカリウム濃度を低減させ、アンモニウム含有シリカ系ゾルを調製することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法は、BET法により測定される比表面積から換算した平均粒子径が4〜30nmの範囲にあり、ナトリウム又はカリウムを含有するシリカ系微粒子が溶媒に分散してなり、固形分濃度が10〜50質量%であるシリカ系ゾルについて、限外濾過を行いながら、アンモニア水溶液を添加することにより、ナトリウム又はカリウムとアンモニウムイオンの交換を行うことによって、該シリカ系微粒子に含まれるナトリウム又はカリウム量を低減させ、アンモニウム量を増大させることを特徴とする。
【0017】
前記シリカ系微粒子は、シリカ微粒子、シリカ−アルミナ複合微粒子、シリカ−ジルコニア複合微粒子またはシリカ−チタニア複合微粒子から選ばれるものであることが好ましい。
前記アンモニウム含有シリカ系ゾル中のシリカ系微粒子におけるナトリウム又はカリウム含有量は、シリカ100質量部に対して、0.10〜1.00質量部であり、アンモニウム含有量が0.10〜50.0質量部であることが好ましい。
【0018】
本発明は、シリカ微粒子、シリカ−アルミナ複合微粒子、シリカ−ジルコニア複合微粒子またはシリカ−チタニア複合微粒子から選ばれるシリカ系微粒子が溶媒に分散してなるシリカ系ゾルであって、固形分濃度が10〜50質量%の範囲にあり、該シリカ系微粒子中に含まれるシリカ100質量部に対して、ナトリウム又はカリウム含有量が、0.10〜1.00質量部であり、アンモニウム含有量が、0.10〜50.0質量部であることを特徴とする。
【0019】
本発明の研磨材用シリカ系ゾルの製造方法は、前記したアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法からなることを特徴とする。
本発明の研磨用組成物は、前記したアンモニウム含有シリカ系ゾルを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法においては、ナトリウム又はカリウムとアンモニウムイオンとの交換により、最終的にシリカ系微粒子に含まれるナトリウム又はカリウムの低減を図るものであるのである。この製造方法によれば、ナトリウム又はカリウム量の低下に伴うpH低下が生じないため、固形分濃度が高濃度であっても、ゾルのゲル化が生じ難い。このため、特に固形分濃度が10〜50質量の高濃度シリカ系ゾルの場合であっても、ゲル化を招くことなく、ナトリウム又はカリウム濃度の低いアンモニウム含有シリカ系ゾルを調製することができる。
【0021】
また、本発明の製造方法により得られたアンモニウム含有シリカ系ゾルは、前記の通りナトリウム又はカリウムに代えて、アンモニウムイオンを含むものである。一般に珪酸液を原料として調製されたシリカ系ゾルをシリコンウェハーの研磨材として使用した場合、ナトリウム又はカリウムがシリコンウウェハーの珪素原子骨格中に入り込んで、汚染する現象が見られる。しかし、ナトリウム又はカリウムをアンモニウムイオンに置換してなる本発明のシリカ系ゾルによれば、ナトリウム又はカリウム量が低減されていることで汚染も生じ難い。このため、シリコンウェハーに対する研磨材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法について、以下に説明する。
〔原料シリカ系ゾル〕
本発明のシリカ系ゾルの製造方法において原料として使用されるシリカ系ゾルについては、本発明が、シリカ系ゾルに含まれるナトリウム又はカリウムを低減させることを目的としたものであるので、ナトリウム又はカリウムを含有したシリカ系ゾルであることが前提となる。ナトリウム又はカリウムの含有量については、該シリカ系ゾルの分散質であるシリカ系微粒子に含まれるシリカ100質量部に対して、1質量部を超えるものが好ましい。1質量部以下の場合であっても、本発明に係る製造方法の効果は得られるものの、他の方法によっても可能であり、本発明に係る製造方法を使用するメリットが少ない。
【0023】
この様なシリカ系ゾルの製造方法としては、次の1)、2)または3)の製造方法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
1) アルカリ金属珪酸塩、第3級アンモニウム珪酸塩、第4級アンモニウム珪酸塩またはグアニジン珪酸塩から選ばれる水溶性珪酸塩を、脱アルカリすることにより得られる珪酸液をアルカリ存在下で加熱することにより珪酸を重合する工程を含むシリカゾルの製造方法
2) 珪酸塩を酸で中和して得られるシリカヒドロゲルを洗浄して、塩類を除去し、アルカリを添加した後、加熱することによりシリカヒドロゲルを解膠する工程を含むシリカゾルの製造方法
3) 加水分解性基を有する珪素化合物を加水分解して、得られた珪酸を重合する工程を含むシリカゾルの製造方法
【0024】
原料となるシリカ系ゾルの固形分濃度については、10〜50質量%の範囲のものが使用される。固形分濃度10〜50質量%のシリカ系ゾルの場合、水素型強酸性イオン交換樹脂を用いて、ナトリウム又はカリウムの低減を図った場合、pHの低下によりゲル化が生じ易い。他方、本発明に係るアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法によれば、この範囲において、ゲル化を招くことなくアンモニウム含有シリカ系ゾルを調製することが可能となる。
【0025】
なお、固形分濃度が10質量%未満である場合については、固形分濃度が低いため、強酸性イオン交換樹脂によっても、ゲル化を招くことなく、ナトリウム又はカリウム濃度を低下させることが可能であるため、本発明の製造方法に適用する必要性が低い。原料となるシリカ系ゾルの固形分濃度については、本発明の効果が顕著に示される上で、好適には15〜50質量%、更に好適には30〜50質量%の範囲が推奨される。
原料となるシリカ系ゾルの特徴については、ナトリウム又はカリウムを含有することおよび固形分濃度以外には、格別に限定されるものではないが、典型的な範囲を以下に述べる。
【0026】
シリカ系微粒子の種類(組成)については、ナトリウム又はカリウムを含有するものであれば、格別限定されるものではない。具体的には、シリカ微粒子、シリカ−アルミナ複合微粒子、シリカ−ジルコニア複合微粒子またはシリカ−チタニア複合微粒子を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
シリカ系微粒子の形状については、球状、鎖状、針状、繊維状または数珠状などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
シリカ系微粒子の平均粒子径については、4nm〜30nmの範囲にあるシリカ系微粒子が溶媒に分散してなるシリカ系ゾルにおいて、本発明の効果は顕著となる。平均粒子径30nmを超える場合は、アンモニウムイオンとの交換により、ナトリウム又はカリウム濃度のみが低減し、酸性が強まった場合であっても、凝集する傾向は平均粒子径30nm以下の場合程、顕著ではないため、必ずしも本発明の製造方法は必要とはされない。また、シリカ系微粒子の平均粒子径が4nm未満の場合は、シリカ系ゾルの濃縮濃度が10%以上となるとナトリウム又はカリウムを含有するシリカ系ゾルであっても凝集するために、必然的に濃度を10質量%以下まで希釈する必要があるので、敢えて本発明を適用する必要性が高くない。
ここで平均粒子径については、BET法により測定された比表面積から換算された平均粒子径を意味する。
【0028】
〔アンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法〕
平均粒子径が4〜30nmの範囲にあり、ナトリウム又はカリウムを含有するシリカ系微粒子が溶媒に分散してなり、固形分濃度が10〜50質量%であるシリカ系ゾルについて、限外濾過を行いながら、アンモニア水溶液を添加することにより、ナトリウム又はカリウムとアンモニウムイオンの交換を行うことによって、該シリカ系微粒子に含まれるナトリウム又はカリウム量を低減されたアンモニウム含有シリカ系ゾルを調製することができる。具体的には、限外濾過膜を装備した装置に前記シリカ系ゾルを注入し、併せてアンモニア水溶液を前記装置に注入することにより行うことができる。
【0029】
限外濾過膜については、格別に制限されるものではないが、例えば、分画分子量1000〜60000のものが使用可能である。限外濾過膜での見掛け通過速度または平均濾過圧についても格別に制限されるものではなく、通常の限外濾過に使用される範囲で行なわれる。アンモニア水溶液の濃度についても格別に制限されるものではないが、通常は1〜28質量%のアンモニア水溶液が使用される。
【0030】
本発明の製造方法により得られるアンモニウム含有シリカ系ゾルについては、ナトリウム又はカリウムとアンモニウムイオンとの交換により、ナトリウム又はカリウム量は低減し、アンモニウム量は増加する。具体的には、アンモニウム含有シリカ系ゾルの分散質であるシリカ系微粒子に含まれるシリカ100質量部に対して、ナトリウム又はカリウムが0.10〜1.00質量部、アンモニウム含有量が0.10〜50.0質量部の範囲のものとなる。
【0031】
ナトリウム又はカリウムが1.00質量部を超える場合は、シリコンウェハーに対する研磨用途において、ナトリウム又はカリウムによる汚染が生じ易くなる。ナトリウムが0.10質量部未満の場合については、限外濾過工程だけでは到達することが容易ではないが、例えば、オートクレーブ等の熱処理工程により、粒子内ナトリウム又はカリウムイオンを溶出させることで限外濾過により、アンモニウムイオンと交換し低減することが出来る。
アンモニウム含有量が50質量部を超える場合については、安定化剤として粒子近傍に存在するアンモニウムイオン以外に溶媒中にフリーのアンモニウムイオンの割合が多くなり、乾燥して使用する用途においては、臭気が強く、現実的ではない。
【0032】
〔研磨用組成物〕
本発明のアンモニウム含有シリカ系ゾルは、研磨用組成物の成分として配合されて、優れた研磨効果を発揮するものである。本発明の研磨用シリカゾルは、アルミニウムディスク(アルミニウムまたはその基材上のメッキ層)や半導体多層配線基板のアルミニウム配線、光ディスクや磁気ディスク用ガラス基板、液晶ディスプレイ用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板、ガラス質材料の鏡面加工などへの研磨用途に適用する研磨用組成物の成分として使用することができる。
【0033】
研磨用組成物の組成については、本発明の研磨用シリカゾル(水系)を濃縮または、希釈して、更に必要に応じて他の成分を配合し、所望によりスラリー状にすることにより調製される。ここで、研磨用シリカゾルに添加される他の成分としては、研磨促進剤、界面活性剤、緩衝剤、安定剤、水系媒体などが挙げられる。また、本発明の研磨用シリカゾル以外の研磨剤を併用しても良い。
【0034】
本発明の研磨用組成物において、本発明の研磨用シリカゾルとともに使用される他の成分の例を以下に列挙するが、これらに限定されるものではない。
シリコンウエハ、アルミニウムディスク、ガラスディスクなどを対象とする研磨用組成物の場合、上記他の成分としては、研磨促進剤として、アルカリ系では、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウムなどの金属炭酸塩、アンモニア、モノエタノールアミン及びピペラジンなどのアミン類、テトラメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム水酸化物など、酸化物系では、過酸化水素、塩素化合物などが挙げられる。
【0035】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性の界面活性剤を使用することができる。
緩衝剤として利用されるイオンとしては、調整するpH範囲にもよるが、陽イオンが第四級アンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンの少なくとも1種以上であり、陰イオンが炭酸イオン、炭酸水素イオン、ホウ酸イオン、及びフェノールの少なくとも1種以上であることが好ましい。特に好適なのは炭酸イオンと炭酸水素イオンの混合物、あるいはホウ酸イオンなどを挙げることができる。
【0036】
安定剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース類、ポリビニルアルコールのような水溶性高分子類、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンのような水溶性アルコール類、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダなどの界面活性剤、ポリアクリル酸塩のような有機系ポリアニオン系物質、塩化マグネシウム、酢酸カリウムのような無機塩等を挙げることができる。
研磨用組成物における、SiO2濃度は、通常は3〜20重量%で使用されるが、必ずしもこの範囲に限定されるものではない。
【0037】
〔溶媒〕
本発明の製造方法によって得られるアンモニウム含有シリカ系ゾルは、減圧蒸留、限外濾過法などの公知の方法により、分散媒としての水を有機溶媒に置換してオルガノゾルとすることも可能である。
このような有機溶媒としては、アルコール類、グリコール類、エステル類、ケトン類、窒素化合物類、芳香族類などの溶媒を使用することができ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、などの有機溶媒を例示することができる。
また、ポリエチレングリコール、シリコーンオイルなどの高分子化合物を分散媒として用いることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について述べるが、その前に各金属におけるシリカ系ゾル中の含有量の測定方法について説明する。
【0039】
[1]Na、KまたはSiO2含有量の測定方法
1) 試料シリカ系ゾル約10gを白金皿に採取し、0.1mgまで秤量する。
2) 硝酸5mlと弗化水素酸20mlを加えて、サンドバス上で加熱し,蒸発乾固する。
3) 液量が少なくなったら、更に弗化水素酸20mlを加えてサンドバス上で加熱し、蒸発乾固する。
4) 室温まで冷却後、硝酸2mlと水を約50ml加えて、サンドバス上で加熱溶解する。
5) 室温まで冷却後、フラスコ(100ml)に入れ、水で100mlに希釈して試料溶液とする。
【0040】
6) 試料溶液中に存在する各金属の含有量を原子吸光分光光度計(株式会社日立製作所製、Z-5300、測定モード:原子吸光、測定波長:190〜900nm)で測定した。
この原子吸光分光光度計は、フレームにより試料を原子蒸気化し、その原子蒸気層に適当な波長の光を照射し、その際、原子によって吸収された光の強さを測定し、これにより試料中の元素濃度を定量するものである。Na元素の検出波長は589.0nmで、K元素の検出波長は766.5nmである。
【0041】
7) 試料シリカ系ゾル10gに50%硫酸水溶液2mlを加え、白金皿上にて蒸発乾固し、得られた固形物を1000℃にて1時間焼成後、冷却して秤量する。次に、秤量した固形物を微量の50%硫酸水溶液に溶かし、更にフッ化水素酸20mlを加えてから、白金皿上にて蒸発乾固し、1000℃にて15分焼成後、冷却して秤量する。これらの重量差よりシリカ含有量を求めた。
8) 上記6)と7)の結果からSiO2分に対する各金属の割合を算出した。NaまたはKについては、金属単体としてSiO2に対する割合を算出した。なお、試料シリカ系ゾル中のSiO2の量については、上記7)の方法で求めたシリカ含有量を使用した。
【0042】
[2]Al2O3含有量の測定方法
測定試料に硫酸とフッ酸を加えて蒸発乾固し、その乾燥品に塩酸と純水を加えて溶解させ、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコーインスツル株式会社製、SPS1200A)にて、Al2O3の含有量を測定した。
【0043】
[3]アンモニウム含有量測定方法
1)試料(シリカ濃度20質量%のシリカゾル3g)に水酸化ナトリウム20%水溶液10mLを加えケルダール蒸留装置にて蒸留する。
2)コニカルビーカに硫酸水溶液(硫酸濃度0.05mol%)10mLを入れ、留出液の受器とする。なお、メチルレッド溶液を1滴加える。
3)留出したアンモニアを前記硫酸水溶液に吸収させる。
4)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによりアンモニウム量を求めた。なお、滴定にあたっては、水酸化ナトリウム水溶液が滴下された留出液が黄色になるまで滴定する。
【0044】
[実施例1]
温度25℃のシリカゾル(固形分濃度41質量%、SiO2100質量部に対して、Na2Oが1.04質量部、アンモニウム(NH4 )が0質量部、平均粒子径17nm)1000gを、流通式限外濾過膜(旭化成化成株式会社製SIP−1013、分画分子量6000)を組込んだ装置に注入し、膜内の見掛け通過速度0.9m/sec,平均濾過圧2Kg/cm2で運転したところ、濾過水量は58L/hrであった。濾過水の排出速度と同一速度で28質量%アンモニア水溶液を装置に注入して、溶媒を該アンモニア水溶液に置換したシリカゾルを得た。
【0045】
得られたシリカゾルの組成は、固形分濃度41質量%、SiO2100質量部に対して、ナトリウムが0.16質量部、アンモニウム(NH4 )が1.34質量部の平均粒子径17nmのシリカゾルであり、アンモニウム濃度が増大し、ナトリウム濃度が減少したシリカゾルであることが確認された。このシリカゾルは、温度70℃で、170時間保持した後においても安定であった。
【0046】
[実施例2]
温度25℃のシリカ−アルミナ複合ゾル(固形分濃度17質量%、SiO2100質量部に対して、ナトリウムが17.31質量部、アンモニウム(NH4 )が0質量部、Al2O3が35.08質量部、平均粒子径25nm)1000gを流通式限外濾過膜(旭化成化成株式会社製SIP−1013、分画分子量6000)を組込んだ装置に注入し、膜内の見掛通過速度0.9m/sec,平均濾過圧2Kg/cm2で運転したところ、濾過水量は58L/hrであった。濾過水の排出速度と同一速度で28質量%アンモニア水溶液を装置に注入して、溶媒を該アンモニア水溶液に置換したシリカ−アルミナゾルを得た。
【0047】
得られたシリカ−アルミナ複合ゾルの組成は、固形分濃度17質量%、SiO2100質量部に対して、ナトリウムが0.57質量部、NH4が28.38質量部、Al2O3が35.81質量部で、平均粒子径25nmのシリカーアルミナ複合ゾルであり、アンモニウム濃度が増大し、ナトリウム濃度が減少したシリカーアルミナ複合ゾルであることが確認された。このシリカ−アルミナ複合ゾルは、温度70℃で、160時間保持した後においても安定であった。
【0048】
[比較例1]
温度25℃のシリカゾル(固形分濃度41質量%、SiO2100質量部、ナトリウム1.04質量部、アンモニウム(NH4 )0質量部、平均粒子径17nm)1000gを空間速度SV4.2にて、H型強酸性イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液したところ、ゲル状物となった。
[比較例2]
温度25℃のシリカゾル(固形分濃度20質量%、SiO2100質量部、ナトリウム3.5質量部、アンモニウム(NH4 )0質量部、平均粒子径5nm、製品名:カタロイドSI-550、触媒化成工業株式会社製)1000gを空間速度SV2.4にて、H型強酸性イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液したところ、ゲル状物となった。
【0049】
[比較例3]
温度25℃のシリカーアルミナ複合ゾル(固形分濃度17質量%、SiO2100質量部、ナトリウム46.9質量部、アンモニウム(NH4 )0質量部、Al2O342.3質量部、平均粒子径25nm、製品名:ファインカタロイドUSBB−120、触媒化成工業株式会社製)1000gを空間速度SV2.4にて、H型強酸性イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液したところ、ゲル状物となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法は、特にナトリウム又はカリウムの存在に適さない用途に適用するシリカ系ゾルの製造方法として好適である。この様な用途としては、研磨材用途、電子部材用途、化粧料用途などを挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法により測定される比表面積から換算した平均粒子径が4〜30nmの範囲にあり、ナトリウム又はカリウムを含有するシリカ系微粒子が溶媒に分散してなり、固形分濃度が10〜50質量%であるシリカ系ゾルについて、限外濾過を行いながら、アンモニア水溶液を添加することにより、ナトリウム又はカリウムとアンモニウムイオンの交換を行うことによって、該シリカ系微粒子に含まれるナトリウム又はカリウム量を低減させ、アンモニウム量を増大させることを特徴とするアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法。
【請求項2】
前記シリカ系微粒子が、シリカ微粒子、シリカ−アルミナ複合微粒子、シリカ−ジルコニア複合微粒子またはシリカ−チタニア複合微粒子から選ばれるものであることを特徴とする請求項1記載のアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法。
【請求項3】
前記アンモニウム含有シリカ系ゾル中のシリカ系微粒子におけるナトリウム又はカリウム含有量が、シリカ100質量部に対して、0.10〜1.00質量部であり、アンモニウム含有量が0.10〜50.0質量部であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアンモニウム含有シリカ系ゾルの製造方法。
【請求項4】
シリカ微粒子、シリカ−アルミナ複合微粒子、シリカ−ジルコニア複合微粒子またはシリカ−チタニア複合微粒子から選ばれるシリカ系微粒子が溶媒に分散してなるシリカ系ゾルであって、固形分濃度が10〜50質量%の範囲にあり、該シリカ系微粒子中に含まれるシリカ100質量部に対して、ナトリウム又はカリウム含有量が、0.10〜1.00質量部であり、アンモニウム含有量が、0.10〜50.0質量部であることを特徴とするアンモニウム含有シリカ系ゾル。
【請求項5】
請求項1、請求項2または請求項3記載の製造方法からなる研磨材用シリカ系ゾルの製造方法。
【請求項6】
請求項4記載のアンモニウム含有シリカ系ゾルを含むことを特徴とする研磨用組成物。

【公開番号】特開2009−143741(P2009−143741A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320115(P2007−320115)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】