説明

アーク溶接ロボットの制御装置及びプログラム

【課題】溶接線倣いが適用できないワークに対しても溶接トーチの少なくとも狙い角のトーチ姿勢の自動調整ができ、ロボット言語プログラミングが不要となり、1つの命令により、数値指定に基づいて所望のトーチ姿勢が得られるアーク溶接ロボットの制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置10は、1つの指令に応じてマニピュレータM1を駆動制御し、指定距離に基づいてレーザ変位センサLSを、第1センシング点から第2センシング点に移動させる。制御装置10は指令に応じてレーザ変位センサLSが取得した両センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、溶接線座標系に基づきマニピュレータM1の位置・姿勢を演算し、位置・姿勢に基づき逆演算してマニピュレータM1の各軸角度を求め記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク溶接ロボットの制御装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接ロボットにおいて、センシングを行うことにより、所望のトーチ姿勢を実現する手段としてはラインレーザセンサによる溶接線倣いがよく知られている。溶接線倣いでは、所望の狙い角、前進後退角を予め設定しておくと、倣いで得られる開先軌道及び開先情報に基づいて狙い位置とトーチ姿勢を開先に合わせてリアルタイムに調整できる技術が実現されている(特許文献1、特許文献2参照、以下、従来技術1という)。
【0003】
又、アーク溶接ロボットでは、アーク溶接用センサとしてタッチセンサを使用する従来技術(特許文献3参照)も広く知られている(以下、従来技術2という)。さらに、ラインレーザセンサにより、ワークの開先位置検出を行う技術も知られている(以下、従来技術3という)。なお、特許文献4は、出願時の技術水準を示す文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−98163号公報
【特許文献2】特開平5−123866号公報
【特許文献3】特開平5−200551号公報
【特許文献4】特開2008−221281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶接線倣いの従来技術1では、以下の2つの問題があり、この場合のアーク溶接では、位置倣いはもちろんのこと、トーチ姿勢制御も行えない。
(1) 溶接線倣いでは、特徴点をつなぎ合わせた溶接線軌道を得る必要があるが、前提としては、ある程度の溶接長が必要となるため、短ピッチ溶接には適用できない。なお、図13において、溶接トーチ100と前記溶接トーチ100に対してオフセットして取付けられたレーザセンサ110が、一対の金属板が重ね合わされて形成されたワークWの前記開先120に所定のピッチPiでアーク溶接を行う場合が示されている。前記オフセットは、倣いを行う場合のレーザセンサ110の先見距離Lとなる。先見距離Lは、溶接トーチ100の先端と溶接進行方向側に所定距離離間したツール座標系上のレーザポイント間の距離をいう。このような場合、配置された複数の溶接部位130において、各溶接部位130の溶接開始点と溶接終了点間のピッチPi(溶接長)が、溶接トーチ100とレーザセンサ110の先見距離Lよりも短いと、溶接線倣いのアーク溶接はできないことになる。
【0006】
(2) 図14に示すように、半径rがトーチ〜レーザ間の距離(先見距離L)の2〜3倍以下の円周溶接には適用できない。この理由は、倣いながら溶接を行おうとすると、レーザセンサ110の視野範囲から溶接開先が外れるためである。
【0007】
又、従来技術2では、上記(1)(2)のワークWに対して位置ずれを補正することができる。トーチ姿勢の補正については以下の第1の補正方法と、第2の補正方法の2種類に大別される。第1の補正方法は、トーチ姿勢については教示姿勢を保持するものである。第2の補正方法は、各点の位置ずれ量から溶接線の回転ずれを算出し、トーチ姿勢に反映するものである。
【0008】
ところが、第1の補正方法では、ワークが回転ずれを起こした場合に、溶接対象のワークに対してトーチ姿勢が所望の角度にならない場合がある。
又、第2の補正方法では、ワークが回転ずれを起こした場合にも回転ずれに応じた姿勢に修正することができる。しかし、姿勢を求めるためにはロボット言語プログラミングによる数十行の計算が溶接線毎に必要となり、実用的ではない。
【0009】
ワークの開先位置検出をラインレーザセンサにより行う従来技術3では、上記(1)(2)のワークに対して開先に対する二次元の位置ずれ補正を行うことができる。しかし、トーチ姿勢についてはタッチセンサを有する従来技術2と同様の問題がある。
【0010】
又、従来のラインレーザセンサによる開先位置検出で、溶接教示点とそこからずらした点の2点をそれぞれ教示した場合、当該2点でのそれぞれのセンシング結果を使い、溶接進行方向や開先に対する狙い角をその都度求めることを溶接教示点毎に行えば、所望のトーチ姿勢を求められる。しかし、従来は、1点毎にロボット言語プログラミングによる数十行の計算が必要となり、実用的ではない。 本発明の目的は、溶接線倣いが適用できないワークに対しても溶接トーチの少なくとも狙い角のトーチ姿勢の自動調整ができ、ロボット言語プログラミングが不要となり、1つの命令により、数値指定に基づいて所望のトーチ姿勢が得られるアーク溶接ロボットの制御装置及びプログラムを提供することにある。
【0011】
又、本発明の目的は、溶接線座標系を活用することにより、溶接区間へのアプローチ点や退避点のみならず、溶接線に対する狙いオフセットも数値で簡単に設定できるアーク溶接ロボットの制御装置及びプログラムを提供することにある。
【0012】
又、本発明の目的は、基準となる位置からの相対ずれではなく、センシングしているワークに対する絶対位置・姿勢が直接求めることにより、基準となるワーク、いわゆるマスターワークが不要となり、マスターワークの管理の手間を低減できるアーク溶接ロボットの制御装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、第1センシング点及び第2センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサと、前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角及び前進後退角を記憶する姿勢記憶手段と、第1・第2センシング点間の距離を記憶する距離記憶手段と、1つの指令に応じて、前記マニピュレータを駆動制御し、前記距離に基づいて前記位置センサを第1センシング点から第2センシング点に移動させる制御手段と、前記指令に応じて前記位置センサが取得した、第1、第2センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角及び前進後退角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段を備えることを特徴とするアーク溶接ロボットの制御装置を要旨とするものである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1において、前記姿勢記憶手段は、教示時に入力された狙い角及び前進後退角を記憶することを特徴とする。
請求項3の発明は、溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、第1センシング点及び第2センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサを備えたアーク溶接ロボットの制御装置に使用されるプログラムであって、コンピュータを、前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角及び前進後退角を記憶する姿勢記憶手段と、第1・第2センシング点間の距離を記憶する距離記憶手段と、1つの指令に応じて、前記マニピュレータを駆動制御し、前記距離に基づいて前記位置センサを第1センシング点から第2センシング点に移動させる制御手段と、前記指令に応じて前記位置センサが取得した、第1、第2センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角及び前進後退角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段として機能させるためのプログラムを要旨とするものである。
【0015】
請求項4の発明は、溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサと、前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角を記憶する姿勢記憶手段と、1つの指令に応じて前記位置センサが取得した、センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段を備えることを特徴とするアーク溶接ロボットの制御装置を要旨とするものである。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4において、前記姿勢記憶手段は、教示時に入力された狙い角を記憶することを特徴とする。
請求項6の発明は、溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサを備えたアーク溶接ロボットの制御装置に使用されるプログラムであって、コンピュータを、前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角を記憶する姿勢記憶手段と、1つの指令に応じて前記位置センサが取得した、2センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段として機能させるためのプログラムを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、請求項4の発明によれば、溶接線倣いが適用できないワークに対しても溶接トーチの少なくとも狙い角のトーチ姿勢の自動調整ができ、ロボット言語プログラミングが不要となり、1つの命令により、数値指定に基づいて所望のトーチ姿勢が得られる。
【0018】
又、請求項1、請求項4の発明によれば、溶接線座標系を活用しているため、溶接区間へのアプローチ点や退避点のみならず、溶接線に対する狙いオフセットも数値で簡単に設定できる。
【0019】
又、請求項1、請求項4の発明によれば、基準となる位置からの相対ずれではなく、センシングしているワークに対する絶対位置・姿勢が直接求められるため、基準となるワーク、いわゆるマスターワークが不要となり、マスターワークの管理の手間を低減できる。
【0020】
請求項2、請求項5の発明によれば、教示時に所望の溶接トーチの姿勢を設定することができる。
請求項3、請求項6の発明によれば、プログラムにより、請求項1、請求項4のアーク溶接のロボットの制御装置に記載の効果を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は一実施形態のロボットの制御装置のブロック図、(b)は同じくティーチペンダントTPの概略図。
【図2】(a)はツール座標系の説明図、(b)はレーザ変位センサLSの取付状態を示すレーザ変位センサLSの斜視図。
【図3】ロボット制御装置RCのブロック図。
【図4】開先の位置検出の説明図。
【図5】狙い角の説明図、
【図6】(a)は溶接線座標系の説明図、(b)は前進後退角の説明図。
【図7】ツール座標系、センサ座標系、メカニカルインターフェース座標系との関係の説明図。
【図8】教示作業プログラムの例を示す説明図。
【図9】教示モードの位置センサ、溶接トーチとの位置の説明図。
【図10】検出及び演算されたポーズの説明図。
【図11】第2実施形態の開先の位置検出の説明図。
【図12】第2実施形態の溶接線座標系の説明図。
【図13】短ピッチ溶接の説明図。
【図14】円弧半径が小さい場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るアーク溶接ロボット(以下、溶接ロボットという)の制御装置を具体化した一実施形態を図1〜9を参照して説明する。
図1は溶接ロボットの制御装置10の構成を示すブロック図である。溶接ロボットの制御装置10は、ワーク(作業対象物)Wに対してアーク溶接を自動で行うように制御するものである。溶接ロボットの制御装置10は、溶接作業を行うマニピュレータM1と、マニピュレータM1を制御するロボット制御装置RCと、ワークWの形状を検出する位置センサとしてのレーザ変位センサLSとを備える。
【0023】
又、ロボット制御装置RCには、可搬式操作部としてのティーチペンダントTPが接続されている。図1(a)に示すようにティーチペンダントTPにはテンキーや各種のキーからなるキーボード41及び液晶表示装置等からなるディスプレイ42が設けられている。前記キーボード41により各種の教示データがロボット制御装置RCに入力される。本実施形態のティーチペンダントTPは可搬式操作手段に相当する。
【0024】
マニピュレータM1は、フロア等に固定されるベース部材12と、複数の軸を介して連結された複数のアーム13とを備える。最も先端側に位置するアーム13の先端部には、溶接トーチ14が設けられる。溶接トーチ14は、溶加材としてのワイヤ15を内装し、図示しない送給装置によって送り出されたワイヤ15の先端とワークWとの間にアークを発生させ、その熱でワイヤ15を溶着させることによりワークWに対してアーク溶接を施す。アーム13間には複数のモータ(図示しない)が配設されており、モータの駆動によって溶接トーチ14を前後左右に自在に移動できるように構成されている。なお、前後とは、溶接トーチ14が溶接線に沿って進行する方向を前とし、その180度反対方向を後ろとする。又、左右とは進行する方向を人が向いたときを基準として、左右という。
【0025】
ロボット制御装置RCは、図3に示すようにコンピュータからなる。すなわち、ロボット制御装置RCはCPU(中央処理装置)20、マニピュレータM1を制御するための各種プログラムや、各種の開先形状に応じて用意された複数の画像解析プログラムを記憶する書換可能なEEPROM21や、作業メモリとなるRAM22、各種データを記憶する書換可能な不揮発性メモリからなる記憶部23を備える。CPU20は、制御手段、演算手段に相当する。記憶部23は、姿勢記憶手段、距離記憶手段、保存手段に相当する。
【0026】
記憶部23は、第1記憶領域23a、及び第2記憶領域23b等の記憶領域を有する。第1記憶領域23aはレーザ変位センサLSにて視野範囲FOV(図4参照)を測定して得られた距離情報(測距データ)を記憶するための領域である。第2記憶領域23bには、教示時にティーチペンダントTPのキーボード41にて入力された狙い角、前進後退角、第1センシング点と第2センシング点の距離、教示点の位置、及び教示位置において入力された位置決め命令、直線補間命令等の各種命令を含む教示データを記憶する。
【0027】
ロボット制御装置RCは、前記モータを駆動制御することにより、予め設定された教示データの主軌道に沿って溶接トーチ14を動作させる。又、ロボット制御装置RCは、溶接電流及び溶接電圧といった溶接条件を溶接電源WPSに対して出力し、溶接電源WPSからパワーケーブルPKを通じて供給される電力によって溶接作業を行わせる。
【0028】
レーザ変位センサLSは、レーザの発光及び受光によりワークWまでの距離を測定する走査型のレーザ変位センサであり、溶接トーチ14に搭載される。レーザ変位センサLSは、レーザをワークWに向けて発光する発光部と、ワークWで反射したレーザを受光する受光部等(ともに図示しない)を備える。前記発光部で発光されたレーザは、ワークWで乱反射され、受光部で受光される。受光部は、例えばCCDラインセンサ(ラインレーザセンサ)により構成されており、視野範囲FOVにおけるレーザ変位センサLSからワークWまでの距離を測定するようにされている。
【0029】
又、ロボット制御装置RCは、レーザ変位センサLSを駆動制御し、測定されるレーザ変位センサLSとワークW間の距離(距離情報)に基づいて開先位置を検出する。
レーザ変位センサLSは、レーザ照射方向がツール座標系のいずれかの軸と平行となるようにセンサヘッドLSaが取り付けられている。図2(a)にはツールである溶接トーチ14が示されている。ここでツール座標系は図2(a)のように、溶接トーチ14の軸心にZ軸を一致させたものとして表わされる。そして、本実施形態では、図2(b)に示すように溶接トーチ14に対して、レーザ変位センサLSのセンサヘッドLSaはレーザ照射方向がZ−方向となるように、かつ、溶接トーチ14の溶接進行方向がツール座標系のX軸になるように設定され、レーザ変位センサLSが前記X軸に平行になるように取り付けされる。レーザ変位センサLS(すなわち、図2(b)に示すセンサヘッドLSa)は、溶接トーチ14の先端から溶接進行方向側に所定距離離間した位置にレーザ照射するようにされている。溶接トーチ14の先端と溶接進行方向側に所定距離離間したツール座標系上のレーザポイント間の距離をセンサの先見距離Tという。
【0030】
又、ロボット制御装置RCには、溶接作業が行われる前に、溶接が行われる際のマニピュレータM1の動作及び溶接条件等を示す教示データがティーチペンダントTPを介して入力され記憶部23の第2記憶領域23bに記憶されている。なお、以下では、特に断らない限り、「教示する」とはティーチペンダントTPを使用して入力することをいう。
【0031】
(作用)
上記のように構成された溶接ロボットの制御装置10の作用を説明する。
まず、開先位置の検出を行うための教示方法について説明する。
【0032】
開先位置の検出を行うための教示は、教示点となるセンシング点に溶接トーチ14を位置させた状態で、位置決め命令又は直線補間命令を教示し、次に、「開先検出&ポーズ演算命令」、すなわち、開先検出とポーズ演算の処理命令を教示する。なお、開先検出は、開先位置検出と同義で使用する。
【0033】
そして、上記のように「開先検出&ポーズ演算命令」があった場合、センシング点において、開先位置の検出、トーチ姿勢(狙い角、前進後退角)の算出、及び溶接線座標系の算出がそれぞれ行われる。
【0034】
(1.開先検出)
開先検出は、図4に示すように、センシング点A1と、センシング点A1から指定距離だけセンサ取付け方向(すなわち、溶接進行方向)に平行移動した点A2においてそれぞれ開先位置の検出を行う。センシング点A1は第1センシング点、A2は第2センシング点に相当する。図4において、FOVは、レーザ変位センサLSの視野範囲を示している。レーザ変位センサLSは、この視野範囲FOVの測距データに基づいて開先位置を検出する。
【0035】
点A2のマニピュレータM1の位置・姿勢は、センシング点A1の位置と指定距離、及びセンシング点A1における姿勢に基づいてCPU20により自動演算される。前記指定距離は、予めティーチペンダントTPで入力され、記憶部23の第2記憶領域23bに記憶されている。指定距離は、ワーク形状により、ロボット動作範囲内で指定できる。もちろん、先見距離Tより短い距離でもよい。
【0036】
なお、開先検出中、すなわちセンシング点A1,点A2のそれぞれに溶接トーチ14が位置しているとき、マニピュレータM1は停止している。
CPU20は、センシング点A1、及び点A2を変換行列を使用して、センサ座標系に変換した後に、レーザ変位センサLSが出力した検出点座標分をシフトした点をA1’(サーチ1点目),A2’(サーチ2点目)とする。
【0037】
この開先位置の検出は、例えば溶接開始点、及び溶接終了点を検出するためにそれぞれ行われることになる。
ここで、前記変換行列について説明する。
【0038】
図7には、ツールとしての溶接トーチ14に関するツール座標系と、レーザ変位センサLS、センサ座標系及びメカニカルインターフェース座標系の関係を示している。なお、図7において、溶接トーチ14は出力フランジ40に対してブラケット50を介して取付けされている。レーザ変位センサLSで得られた開先位置に、指定したトーチ姿勢で移動できるロボットのポーズ(姿勢)を求めるためには、ツール座標系とセンサ座標系の前記変換行列が必要となる。
【0039】
図7において、マニピュレータM1が6軸ロボットを構成している場合、ロボットの第6軸の中心である出力フランジ40を原点とするメカニカルインターフェース座標系(X,Y,Z)から、センサ座標系(X,Y,Z)への変換行列は、J6である。又、メカニカルインターフェース座標系(X,Y,Z)から、ツール座標系(X,Y,Z)への変換行列は、J6である。ツール座標系からセンサ座標系の変換行列はである。
【0040】
このとき、ツール座標系から見たセンサ座標系への変換行列は、以下のようになる。
【0041】
【数1】

で求められる。
【0042】
(2.溶接線座標系の演算)
CPU20は、溶接線座標系の演算を行う。具体的には、CPU20は、図6(a)に示すように溶接進行方向として、点A1’、点A2’を含む進行方向ベクトル
【0043】
【数2】

を溶接線座標系のZ軸とし、X軸を前記Z軸を法線とする平面に対して前記測距データに基づいて前記画像解析プログラムにより公知の方法で求めた開先基準角を投影したものとする。又、CPU20は、溶接線座標系のY軸を右手系で決定する。
【0044】
なお、開先基準角の求め方は、公知であるため、簡単に説明するが、センシング点A1で測定した視野範囲FOVの測距データに基づいて特徴点を求め、特徴点をつなぎ合わせることにより、開先内の特徴線を得て、前記特徴線を開先基準角(開先法線ともいう)とする。
【0045】
(3.狙い角の反映)
CPU20は、センシング点A1において前記「開先検出&ポーズ演算命令」とともに教示データとして狙い角が教示される。図5に示すように狙い角は、溶接線座標系のY軸を基準(0度)として、Z軸左ネジ周りの角度で定義する。
【0046】
上記教示された狙い角を反映させるため、θUAを所望の狙い角、すなわち、教示データとして入力した値とし、θSAをセンサ座標系のZC軸に対する開先法線の前記平面に投影されたX軸の角度としたとき、CPU20は、溶接トーチ14の姿勢を溶接線座標系Z軸周りに -(θUASA -90) 度回転する。
【0047】
(4.前進後退角の反映)
又、CPU20は、センシング点A1において前記「開先検出&ポーズ演算命令」とともに教示データとして前進後退角が教示される。上記教示された前進後退角を反映させるため、CPU20は、図6(b)に示すように、溶接線座標系Z軸と垂直な姿勢を基準(0度)とし、Y軸右ネジ周りの角度で前進後退角(前進角又は後退角)を定義する。
【0048】
次にCPU20は、開先点A1’のツール座標系Z軸をZ軸とする。前記Z軸を溶接線座標系XZ平面に投影した軸をZ’軸とする。ここで、θULを所望の前進後退角、すなわち、教示データとして入力した値とし、θSLを溶接線座標系X軸に対するZ’のY軸周りの角度としたとき、CPU20はトーチ姿勢を溶接線座標系Y軸周りに(θUL−θSL)度回転する。
【0049】
上記のようにして前進後退角が反映される。
(プログラムの例)
次に、教示モードで教示が行われてCPU20が生成し、記憶部23に読み出し可能に記憶した教示作業プログラムの例を図8〜10を参照して説明する。なお、説明の便宜上、ワークWとして、一対の鉄板がL字状に配置された隅肉継手の場合を説明するが、継手の種類は限定されるものではない。
【0050】
教示モードでは、図9に示すように作業者は、ティーチペンダントTPを操作し、マニピュレータM1を駆動制御することにより、溶接トーチ14を原位置G、ワークWの開先を検出するセンシング点A、センシング点B、及び前記原位置Gの順にそれぞれの位置を教示点として教示するとともに、各教示点において、必要な教示データを入力したものとする。なお、各教示点での教示したデータについては後述する。
【0051】
センシング点AはワークWの開先における溶接開始点を検出するための溶接トーチ14の位置であり、この位置に溶接トーチ14を位置させた際、作業者は、位置決め命令(又は直線補間命令)及び「開先検出&ポーズ演算命令」をティーチペンダントTPのキーボード41を操作して入力する。センシング点BはワークWの開先における溶接終了点を検出するための溶接トーチ14の位置であり、この位置に溶接トーチ14を位置させた際、作業者は、位置決め命令(又は直線補間命令)及び「開先検出&ポーズ演算命令」をティーチペンダントTPのキーボード41を操作して入力する。
【0052】
図8は、図9のワークWに対して上記のように教示モードで教示されてCPU20が生成した教示作業プログラムである。この教示作業プログラムに従って、CPU20は、マニピュレータM1を駆動制御する。
【0053】
図8に示すステップ1では、CPU20は位置決め命令により原位置Gに溶接トーチ14を位置決め動作させる(図9参照)。ステップ2ではCPU20は、位置決め命令(又は直線補間命令)により、図10に示すP1の位置を検出するためのセンシング点A(図4ではA1、図9ではA(A1)で示す)に移動する。
【0054】
なお、図4は、開先検出のための説明図であり、後述する溶接終了点における開先検出の説明も行うために便宜上、合わせて図示している。溶接開始点の場合は、Aで表わし、溶接終了点の場合は、Bで区別している。なお、後記では、溶接開始点にP1を付与して説明することもある。
【0055】
ステップ3においては、センシング点A(A1)で、「開先検出&ポーズ演算命令」が教示されている。「開先検出&ポーズ演算命令」は、図8に示すように、例えば、[P1,前進角5度,狙い角135度,ユーザ座標系1]のように教示モードで教示データが入力されている。
【0056】
ここで、CPU20は、前述した(1.開先検出)、(2.溶接線座標系の演算)、(3.狙い角の反映)、及び(4.前進後退角の反映)を行う。上記の処理により、CPU20は、開先点A1’,及び点A2’を取得し、溶接線座標系を取得し、狙い角及び前進後退角を反映させる。そして、CPU20は、算出された、開先点A1’における位置・姿勢(反映された狙い角、前進後退角を含む)を、溶接開始点P1のポーズ変数として記憶部23の所定記憶領域に保存(格納)する。同時に、CPU20は、取得した溶接線座標系を、記憶部23の図示しないユーザ座標系1の記憶領域に格納する。
【0057】
又、CPU20は、マニピュレータM1の位置・姿勢(前記反映された狙い角及び前進後退角)に基づき、公知の方法により逆演算して、溶接開始点(開先点A1’)におけるマニピュレータM1の各軸角度を求め、求めた各軸角度を、記憶部23の所定領域に保存する。
【0058】
ステップ4ではCPU20は、位置決め命令(又は直線補間命令)により、図10に示すようにP2の位置、すなわちセンシング点B(図4ではB1、図9ではB(B1)で示す)に移動する。
【0059】
ステップ5では、図9に示すセンシング点B(B1)で、「開先検出&ポーズ演算命令」が教示されている。「開先検出&ポーズ演算命令」は、図8に示すように、例えば、[P2,前進角5度,狙い角135度,ユーザ座標系2]のように教示モードで教示データが入力されている。
【0060】
ここで、CPU20は、前述した(1.開先検出)、(2.溶接線座標系の演算)、(3.狙い角の反映)、及び(4.前進後退角の反映)を行う。上記の処理により、CPU20は、開先点B1’,及び点B2’を取得し、溶接線座標系を取得し、狙い角及び前進後退角を反映させる。そして、CPU20は、算出された、開先点B1’における位置・姿勢(反映された狙い角、前進後退角を含む)を、溶接終了点P2のポーズ変数として記憶部23の所定記憶領域に保存(格納)する。同時に、CPU20は、取得した溶接線座標系を、記憶部23の図示しないユーザ座標系2の記憶領域に格納する。
【0061】
なお、溶接終了点の開先位置の検出時において、溶接開始点の開先位置の検出と同様にセンシング点B1、B2が得られ、センシング点B1は第1センシング点、B2(図4参照)は第2センシング点に相当する。
【0062】
又、CPU20は、マニピュレータM1の位置・姿勢(前記反映された狙い角及び前進後退角)に基づき、公知の方法により逆演算して、溶接終了点(開先点B1’)におけるマニピュレータM1の各軸角度を求め、求めた各軸角度を、記憶部23の所定領域に保存する。
【0063】
ステップ6〜8は、溶接開始点P1(開先点A1’)でのポーズ変数を元に、アプローチ点P11を計算して作成する処理である。
ステップ6では、変数代入命令[P11,P1]の命令により、溶接開始点P1(開先点A1’)のポーズ変数を、アプローチ点P11に代入する。ポーズ成分代入命令は、指定したポーズ変数の成分を指定座標系上で変更する命令である。すなわち、ステップ7では、例えば、ポーズ成分代入命令[P11 M1,X+=50mm,ユーザ座標系1]は、マニピュレータM1用のアプローチ点P11を、溶接開始点(開先点A1’)からユーザ座標系1のX軸方向に50mm平行移動した位置を設定する。
【0064】
又、ステップ8では、例えば、ポーズ成分代入命令[P11 M1,Y−=50mm,ユーザ座標系1]となっているため、マニピュレータM1用のアプローチ点P11を、溶接開始点(開先点A1’)からユーザ座標系1のY軸方向に−50mm平行移動して設定する命令となる。なお、ステップ7、8の数値は例示であり、限定されるものではない。
【0065】
ステップ9〜11は、溶接終了点P2(開先点B1’)でのポーズ変数を元に、退避点P12を計算して作成する処理である。
ステップ9では、変数代入命令[P12,P2]の命令により、溶接終了点P2(開先点B1’)のポーズ変数を、退避点P12に代入する。
【0066】
ステップ10,11の処理は、P2,P12及びユーザ座標系2がステップ7,8の処理のP1,P11及びユーザ座標系1と異なるだけであり、ステップ7,8の処理の説明中、それぞれを置き換えて読めばステップ10,11の処理となるため、説明を省略する。なお、ステップ10,11数値は例示であり、限定されるものではない。
【0067】
ステップ12では、アプローチ点P11に移動する位置決め命令により、CPU20は、溶接トーチ14をアプローチ点P11に位置決めする。
ステップ13では、直線補間命令により、教示された移動速度(例えば、7200cm/min)で、溶接開始点P1に直線補間する。このとき、CPU20は、ステップ3で記憶部23の所定記憶領域に格納したマニピュレータM1の各軸角度で、すなわち、反映された狙い角及び前進後退角で、溶接トーチ14は溶接開始点P1に位置させるようにマニピュレータM1を移動制御する。
【0068】
ステップ14では、CPU20は、溶接開始命令(AS)により教示データである溶接電流(例えば200A)及び溶接電圧(例えば18.0V)、溶接速度(例えば、50cm/min)の命令を読込み、これらの溶接条件を溶接電源WPS及び図示しない図示しないワイヤ送給装置に対して出力する。溶接電源WPSは前記溶接電流、及び溶接電圧となるように電源制御するとともに図示しないワイヤ送給装置が、前記送り速度でワイヤ15を溶接トーチ14に送るように制御する。
【0069】
続く、ステップ15の直線補間命令により、CPU20は溶接終了点P2に直線補間して、教示データである溶接速度(例えば50cm/min)でマニピュレータM1を駆動制御して溶接トーチ14を移動させる。このとき、CPU20は、ステップ5で、記憶部23の所定記憶領域に格納したマニピュレータM1の各軸角度で、すなわち、反映された狙い角及び前進後退角で、溶接トーチ14は溶接終了点P2まで位置させるようにマニピュレータM1を移動制御する。
【0070】
ステップ16では、CPU20は、溶接終了命令(AE)により教示データである溶接電流(例えば180A)及び溶接電圧(例えば17.0V)などの命令を読込み、これらの溶接条件を溶接電源WPS及び図示しない、図示しないワイヤ送給装置に対して出力する。溶接電源WPSは前記溶接電流、及び溶接電圧となるように電源制御するとともに図示しないワイヤ送給装置によるワイヤ15の送給を停止する。
【0071】
ステップ17では、直線補間命令により、CPU20は退避点P12に直線補間して、教示データである動作速度(例えば7200cm/min)でマニピュレータM1を駆動制御して溶接トーチ14を移動させる。
【0072】
ステップ18では、CPU20は位置決め命令により、原位置GにマニピュレータM1を駆動制御して溶接トーチ14を移動させる。
本実施形態の溶接ロボットの制御装置10によれば、下記の特徴がある。
【0073】
(1) 本実施形態の制御装置10は、第1センシング点(A1,B1)及び第2センシング点(A2,B2)におけるワークWの開先位置のセンサ座標系上の座標及び開先に対する角度を検出結果として取得するレーザ変位センサLS(位置センサ)を備える。又、制御装置10は、溶接トーチ14の開先に対する狙い角及び前進後退角を記憶する記憶部23(姿勢記憶手段)を備えている。制御装置10は第1・第2センシング点間の距離(指定距離)を記憶する記憶部23(距離記憶手段)を備える。さらに、制御装置10は、開先検出&ポーズ演算命令(1つの指令)に応じて、マニピュレータM1を駆動制御し、前記距離に基づいてレーザ変位センサLS(位置センサ)を、第1センシング点(A1,B1)から第2センシング点(A2,B2)に移動させるCPU20(制御手段)を備えている。
【0074】
さらに、制御装置10は、前記指令に応じてレーザ変位センサLSが取得した、第1、第2センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、溶接線座標系に基づき狙い角及び前進後退角となるマニピュレータM1の位置・姿勢を演算し、マニピュレータM1の位置・姿勢に基づき、逆演算してマニピュレータM1の各軸角度を求めるCPU20(演算手段)を備える。そして、制御装置10は前記指令に応じて前記各軸角度を保存する記憶部23(保存手段)を備える。
【0075】
この結果、本実施形態によれば、第1・第2センシング点間の距離(指定距離)を先見距離Tよりも短く設定すれば、溶接線倣いが適用できないワークに対しても溶接トーチ14の狙い角、前進後退角のトーチ姿勢の自動調整ができ、ロボット言語プログラミングが不要となり、1つの命令により、数値指定に基づいて所望のトーチ姿勢が得られる。本実施形態によれば、溶接線座標系を活用しているため、溶接区間へのアプローチ点や退避点のみならず、溶接線に対する狙いオフセットも数値で簡単に設定できる。
【0076】
又、本実施形態によれば、基準となる位置からの相対ずれではなく、センシングしているワークWに対する絶対位置・姿勢が直接求められるため、基準となるワーク、いわゆるマスターワークが不要となり、マスターワークの管理の手間を低減できる。
【0077】
(2) 本実施形態の制御装置10では、記憶部23(姿勢記憶手段)が教示時に入力された狙い角及び前進後退角を記憶する。この結果、本実施形態によれば、教示時に所望の溶接トーチの姿勢を設定することができる。
【0078】
(3) 本実施形態の教示作業プログラムは、ロボット制御装置RC(コンピュータ)を、溶接トーチ14の開先に対する狙い角及び前進後退角を記憶する姿勢記憶手段とし、ロボット制御装置RCを第1・第2センシング点間の距離(指定)を記憶する距離記憶手段とする。又、教示作業プログラムは、開先検出&ポーズ演算命令(1つの指令)に応じて、マニピュレータM1を駆動制御し、前記距離に基づいてレーザ変位センサLSを第1センシング点から第2センシング点に移動させる制御手段とする。又、教示作業プログラムは、開先検出&ポーズ演算命令に応じてレーザ変位センサLSが取得した、第1、第2センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、溶接線座標系に基づき狙い角及び前進後退角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、マニピュレータM1の位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段とする。さらに、教示作業プログラムは、ロボット制御装置RCを前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段として機能させる。
【0079】
この結果、上記(1)の効果を容易に実現できる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図11、12を参照して説明する。第2実施形態の制御装置10のハード構成は、第1実施形態と同一であるため、前記実施形態と同一構成については、同一符号を付して重複説明を省略し、ソフト的な構成の相違を中心に説明する。なお、本実施形態では、記憶部23は教示時に狙い角を記憶する姿勢記憶手段、及び保存手段に相当する。又、CPU20は、演算手段に相当する。
【0080】
まず、開先位置の検出を行うための教示方法について説明する。
開先位置の検出を行うための教示は、教示点となるセンシング点に溶接トーチ14を位置させた状態で、位置決め命令又は直線補間命令を教示し、次に、「開先検出&ポーズ演算命令」、すなわち、開先検出とポーズ演算の処理命令を教示する。そして、上記のように「開先検出&ポーズ演算命令」があった場合、センシング点において、開先位置の検出、トーチ姿勢(狙い角)の算出、及び溶接線座標系の算出がそれぞれ行われる。
【0081】
(1.開先検出)
開先検出は、図11に示すように、センシング点A1において第1実施形態と同様に開先位置の検出を行う。なお、開先検出中は、すなわちセンシング点A1に溶接トーチ14が位置しているとき、マニピュレータM1は停止している。
【0082】
CPU20は、センシング点A1を第1実施形態と同様に変換行列を使用して、センサ座標系に変換した後に、レーザ変位センサLSが出力した検出点座標分をシフトした点をA1’とする。
【0083】
この開先位置の検出は、例えば溶接開始点、及び溶接終了点を検出するためにそれぞれ行われることになる。
(2.溶接線座標系の演算)
CPU20は、溶接線座標系の演算を行う。具体的には、CPU20は、図12に示すように、溶接線座標系のZ軸として、センサ座標系のX軸とする。従って、開先の延びる方向とは一致しない。
【0084】
又、CPU20は、溶接線座標系のX軸を、前記Z軸を法線とする平面に開先基準角を投影したものにする。又、CPU20は、溶接線座標系のY軸を右手系で決定する。
(3.狙い角の反映)
CPU20は、センシング点A1において前記「開先検出&ポーズ演算命令」とともに教示データとして狙い角が教示される。この狙い角の反映は、第1実施形態と同様にCPU20は行う。
【0085】
上記のように第2実施形態では、(1.開先検出)、(2.溶接線座標系の演算)及び(3.狙い角の反映)を行う。この処理は、例えば第1実施形態で説明した教示作業プログラム中、ステップ3、ステップ5の処理を、上記の処理に置き換えて行う。前記教示作業プログラムのステップ3、ステップ5を除く他のステップでは第1実施形態と同様に行う。なお、第2実施形態では、「開先検出&ポーズ演算命令」では、前進後退角は反映されないものとする。
【0086】
すなわち、ステップ13では、直線補間命令により、教示された移動速度で、溶接開始点P1に直線補間する。このとき、CPU20は、ステップ3で記憶部23の所定記憶領域に格納したマニピュレータM1の各軸角度で、すなわち、反映された狙い角で、溶接トーチ14は溶接開始点P1に位置させるようにマニピュレータM1を移動制御する。
【0087】
又、ステップ15の直線補間命令により、CPU20は溶接終了点P2に直線補間して、教示された溶接速度でマニピュレータM1を駆動制御して溶接トーチ14を移動させる。このとき、CPU20は、ステップ5で、記憶部23の所定記憶領域に格納したマニピュレータM1の各軸角度で、すなわち、反映された狙い角、溶接トーチ14は溶接終了点P2まで位置させるようにマニピュレータM1を移動制御する。
【0088】
このように第2実施形態は、1回の検出動作で開先位置の検出と狙い角を指定できるようにした。第2実施形態の位置決め精度は第1実施形態と同等となるが、サーチ回数が1回のため第1実施形態よりタクトタイムを短縮できる。この場合、サーチ点数が1点のため、特に、ワークWの回転ずれが少ない場合には概ね所望どおりの狙い角となる。なお、進行方向が求められないため前進後退角は設定できないものとなる。
【0089】
本実施形態では下記の特徴がある。
(4) 本実施形態の制御装置10は、センシング点A1におけるワークWの開先位置のセンサ座標系上の座標及び開先に対する角度を検出結果として取得するレーザ変位センサLS(位置センサ)を備える。制御装置10は、溶接トーチ14の開先に対する狙い角を記憶する記憶部23(姿勢記憶手段)を備える。又、制御装置10は、開先検出&ポーズ演算命令(1つの指令)に応じてレーザ変位センサLS(位置センサ)が取得した、センシング点A1の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、溶接線座標系に基づき狙い角となるマニピュレータM1の位置・姿勢を演算し、マニピュレータM1の位置・姿勢に基づき、逆演算してマニピュレータM1の各軸角度を求めるCPU20(演算手段)を備える。又、開先検出&ポーズ演算命令(1つの指令)に応じて前記各軸角度を保存する記憶部23(保存手段)を備える。この結果、本実施形態によれば、溶接線倣いが適用できないワークに対しても溶接トーチ14の狙い角のトーチ姿勢の自動調整ができ、ロボット言語プログラミングが不要となり、1つの命令により、数値指定に基づいて所望のトーチ姿勢が得られる。本実施形態によれば、溶接線座標系を活用しているため、溶接区間へのアプローチ点や退避点のみならず、溶接線に対する狙いオフセットも数値で簡単に設定できる。又、本実施形態によれば、基準となる位置からの相対ずれではなく、センシングしているワークWに対する絶対位置・姿勢が直接求められるため、基準となるワーク、いわゆるマスターワークが不要となり、マスターワークの管理の手間を低減できる。
【0090】
(5) 本実施形態の制御装置10は、記憶部23(姿勢記憶手段)は、教示時に入力された狙い角を記憶する。この結果、第1実施形態の(2)と同様な効果を奏する。
(6) 本実施形態の教示作業プログラムは、コンピュータ(ロボット制御装置RC)を、溶接トーチ14の開先に対する狙い角を記憶する姿勢記憶手段としての機能させる。又、教示作業プログラムでは、コンピュータ(ロボット制御装置RC)を、開先検出&ポーズ演算命令(1つの指令)に応じて位置センサが取得した、センシング点A1の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、溶接線座標系に基づき狙い角となるマニピュレータM1の位置・姿勢を演算し、マニピュレータM1の位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段として機能させる。又、教示作業プログラムは、開先検出&ポーズ演算命令(1つの指令)に応じて前記各軸角度を保存する保存手段として機能させる。この結果、上記(4)の効果を容易に実現できる。
【0091】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、下記のように構成してもよい。
・ 前記実施形態のレーザ変位センサLSは、ラインレーザセンサを使用したが、レーザをミラーに当てて走査するスキャニング型のレーザ変位センサに代えてもよい。
【0092】
・ 前記実施形態では、図2(b)に示すように溶接トーチ14に対して、レーザ変位センサLSのセンサヘッドLSaはレーザ照射方向がZ−方向となるように、かつ、溶接トーチ14の溶接進行方向がツール座標系のX軸になるように設定され、レーザ変位センサLSが前記X軸に平行になるように取り付けした。取り付け方法が「数1」で表すことができれば、レーザ変位センサLSのセンサヘッドLSaは前記実施形態以外の方向に取り付けてもよい。例えば、レーザ照射方向がZ−方向となるように、かつ、溶接トーチ14の溶接進行方向がツール座標系のY軸になるように設定され、レーザ変位センサLSが前記Y軸に平行になるように取り付けてもよい。
【0093】
・ 図8で示すプログラムでは、アプローチ点、退避点を算出したが、アプローチ点、退避点の算出は省略してもよい。
・ 前記実施形態において、直線補間命令に代えて、円弧補間命令等の他の補間命令であってもよい。
【0094】
・ 第1実施形態では、図4に示すサーチ2点目は、サーチ1点目から溶接方向に変位させているが、180度反対の反溶接方向に変位させてもよい。
・ 第1実施形態では、指定距離は、予めティーチペンダントTPで入力するようにしたが、予め変数としてプログラム等に書込みされ、記憶部23に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
M1…マニピュレータ、LS…レーザ変位センサ(位置センサ)、
RC…ロボット制御装置(制御手段、演算手段、姿勢記憶手段、距離記憶手段、保存手段)、A,B,A1,B1…センシング点、W…ワーク、
10…制御装置、13…アーム、14…溶接トーチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、第1センシング点及び第2センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサと、前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角及び前進後退角を記憶する姿勢記憶手段と、第1・第2センシング点間の距離を記憶する距離記憶手段と、1つの指令に応じて、前記マニピュレータを駆動制御し、前記距離に基づいて前記位置センサを第1センシング点から第2センシング点に移動させる制御手段と、前記指令に応じて前記位置センサが取得した、第1、第2センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角及び前進後退角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段を備えることを特徴とするアーク溶接ロボットの制御装置。
【請求項2】
前記姿勢記憶手段は、教示時に入力された狙い角及び前進後退角を記憶することを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接ロボットの制御装置。
【請求項3】
溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、第1センシング点及び第2センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサを備えたアーク溶接ロボットの制御装置に使用されるプログラムであって、
コンピュータを、
前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角及び前進後退角を記憶する姿勢記憶手段と、
第1・第2センシング点間の距離を記憶する距離記憶手段と、
1つの指令に応じて、前記マニピュレータを駆動制御し、前記距離に基づいて前記位置センサを第1センシング点から第2センシング点に移動させる制御手段と、
前記指令に応じて前記位置センサが取得した、第1、第2センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角及び前進後退角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、
前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段として機能させるためのプログラム。
【請求項4】
溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサと、
前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角を記憶する姿勢記憶手段と、
1つの指令に応じて前記位置センサが取得した、センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、
前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段を備えることを特徴とするアーク溶接ロボットの制御装置。
【請求項5】
前記姿勢記憶手段は、教示時に入力された狙い角を記憶することを特徴とする請求項4に記載のアーク溶接ロボットの制御装置。
【請求項6】
溶接トーチとともにマニピュレータのアームに対して設けられ、センシング点におけるワークの開先位置のセンサ座標系上の座標及び前記開先に対する角度を検出結果として取得する位置センサを備えたアーク溶接ロボットの制御装置に使用されるプログラムであって、
コンピュータを、
前記溶接トーチの前記開先に対する狙い角を記憶する姿勢記憶手段と、
1つの指令に応じて前記位置センサが取得した、前記センシング点の検出結果に基づき溶接線座標系を演算し、前記溶接線座標系に基づき前記狙い角となるマニピュレータの位置・姿勢を演算し、前記マニピュレータの位置・姿勢に基づき、逆演算して前記マニピュレータの各軸角度を求める演算手段と、
前記指令に応じて前記各軸角度を保存する保存手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−138275(P2011−138275A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297138(P2009−297138)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】