説明

アーク溶解設備及びアーク溶解設備を用いた溶湯の製造方法

【課題】アーク溶解設備において、溶解期に冷鉄源を溶解室にスムーズに供給しながら、昇温期に溶解室への冷鉄源の供給を停止させる。
【解決手段】冷鉄源5を溶解する溶解室2と、溶解室に供給する冷鉄源を予熱するために溶解室に直結して設けられるシャフト型の予熱室4と、溶解室内に供給される冷鉄源を溶解するために溶解室内に設けられる電極3a、3bと、を具備するアーク溶解設備1であって、予熱室の下部には、予熱室から供給される冷鉄源を溶解室の方向に移動させる押し出し装置6が設けられ、シャフト間口寸法Hを冷鉄源の最大長さAに対して、A≦H≦4Aの関係を満たす最適値に設定して、押し出し装置を駆動すると予熱室から溶解室内に冷鉄源が供給され、押し出し装置の駆動を停止すると予熱室から溶解室内への冷鉄源の供給が停止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄スクラップ、直接還元鉄等の冷鉄源をアークにより溶解して溶湯を製造する、アーク溶解設備及びアーク溶解設備を用いた溶湯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクラップ等の冷鉄源の溶解を行うアーク溶解炉のうち、バッチ式のアーク溶解炉では、処理するスクラップは通常2〜3回に分けてバケットにより溶解炉本体に装入される。スクラップ装入後、黒鉛電極によりアークを発生させ、アークの熱によりスクラップの溶解を行う。溶解を促進させるために、酸素とカーボンなどを炉内に吹込み、化学反応熱を付加することにより溶解時間の短縮を図り、生産性を向上させている。このとき溶解炉からは高温かつ未燃成分を含んだ排ガスが系外に排出されるが、アーク溶解炉では多くの電力を消費するため、この高温かつ未燃成分を含んだ排ガスを利用して、装入するスクラップを予熱し熱回収を行い、電力使用量を削減する溶解設備の開発が要請されている。しかし、バッチ式溶解炉の場合には、予熱効率を高めることが困難であるという問題がある。また、バッチで一度に大量のスクラップを炉内に供給すると、アーク放電がスクラップに対して行われるため、フラットバス溶解となる期間が短く、電力効率が低下する。
【0003】
バッチ式と異なり、スクラップ等の冷鉄源の供給を連続的に行ない、かつ装入する冷鉄源を排ガスを用いて予熱するアーク溶解設備として、例えば、特許文献1に開示されている冷鉄源の溶解設備(アーク溶解設備)が知られている。この溶解設備は、冷鉄源を溶解するための溶解室と、溶解室の上部に直結し、溶解室で発生する排ガスにて冷鉄源を予熱する予熱室と、溶解室内で冷鉄源を溶解するためのアーク発生用電極と、予熱室へ冷鉄源を供給する冷鉄源供給手段と、予熱室内を出入り可能として予熱室の下部に設けられたプッシャーと、溶解室に設けられた出鋼口とを具備することを特徴とする。特許文献1に記載の溶解設備では、冷鉄源が予熱室と溶解室とに連続して存在する状態を保つように冷鉄源を連続的又は断続的に予熱室へ供給しながら、冷鉄源が充填された予熱室内にプッシャーを出入りさせて予熱室内の冷鉄源を溶解室へ供給し、溶解室内の冷鉄源をアークにて溶解して溶解室に溶鋼が溜まった時点で、プッシャーを停止し、次いで、アークにて溶鋼を加熱して昇温した後、冷鉄源が予熱室と溶解室とに連続して存在する状態で溶鋼を出鋼する。
【0004】
上記の連続供給式の溶解炉においては、スクラップ等の冷鉄源を溶解する際に、冷鉄源を固体の状態から液体の状態(溶湯)へと変化させる時期(以下、「溶解期」と記載する。)と、得られた溶湯を次の工程に必要な温度まで昇温させる時期(以下、「昇温期」と記載する。)とが必要である。出湯される溶湯の温度が低いと、出湯時に出湯口での凝固地金付着により出湯が阻害されるおそれがあるため、昇温期には、冷鉄源の融点よりも十分に高い温度まで昇温を行う。しかしながら、特許文献1に記載のような連続して冷鉄源の供給を行う溶解炉(以下、「シャフト型予熱装置を有するアーク溶解設備」と記載する。)では、溶解期においては炉内への冷鉄源の供給を連続してスムーズに行う必要があるが、昇温期においては炉内への冷鉄源の供給を抑制する必要があり問題となる。
【0005】
すなわち、シャフト型予熱装置を有するアーク溶解設備では、冷鉄源が溶解室と予熱室(予熱シャフト)に連続して存在する状態を保つように予熱室へ冷鉄源を連続的または断続的に供給しつつ溶解室内の冷鉄源をアークにより溶解するものである。そのため、昇温・出湯の際にも予熱室内および溶解室内には冷鉄源が存在し、次チャージの冷鉄源の予熱が可能であり、極めて熱効率良く冷鉄源の溶解を実現することができる。しかし、昇温期にも溶解室内への冷鉄源の供給が続くと溶湯の昇温が効率よく行えないため、冷鉄源の溶解室内への供給を一時的に抑制した状態で溶解室内溶湯の昇温を行う必要がある。特許文献1に記載の溶解設備では、冷鉄源を予熱室下部から溶解室中央部に向けて押し出す装置であるプッシャーの稼動を停止することで、冷鉄源の溶解室内への供給量を減少させることができるが、冷鉄源の供給がスムーズに行える炉形状であればあるほど、プッシャーの稼動を停止しても冷鉄源の溶湯への流れ込み、崩れ落ちが発生して、昇温が困難となる。予熱されているとはいえ固体の冷鉄源が昇温中の溶湯中に供給されると、溶湯を昇温する際の熱効率(昇温効率)が低下するためである。
【0006】
なお、溶湯とは溶融状態の金属のことであり、溶鋼、溶銑等を含む概念である。
【0007】
特許文献1に記載の溶解設備においては、溶鋼の昇温の際に溶解室を傾動させることで、溶鋼と溶解室内の冷鉄源との接触面積を減少させて、溶鋼温度をより早く上昇させることを可能としている。溶解室をそのまま傾動させると、冷鉄源の溶鋼中への崩れ落ちが激しくなり、昇温がより困難となるが、溶解室の傾動時に溶解室に設けた冷鉄源保持手段(邪魔板)にて溶解室内の冷鉄源を保持することで、冷鉄源の溶鋼側への移動が阻害される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−257859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の、傾動時に用いられる高温の溶解室内に設置される冷鉄源保持手段は、水冷等を行わないと熱変形を起こしたり溶融したりする危険がある一方で、水冷等を行うことで予熱の熱効率が低下する点から、冷鉄源保持手段のような機構は設置しないことが望ましい。しかし上記したように、冷鉄源保持手段を用いずに溶解室の傾動を行えば、冷鉄源の溶鋼への流れ込み、崩れ落ちが促進されて、昇温が著しく困難となる。
【0010】
このように冷鉄源の溶解の際に必要な電力を極力少なくするように冷鉄源が溶解室と予熱室に連続して存在する状態を保つように冷鉄源を供給する設計のシャフト型予熱装置を有するアーク溶解設備において、溶解期には冷鉄源を溶解室にスムーズに供給しながら、昇温期には溶解室への冷鉄源の供給を停止することは相反する要求であり、従来技術を用いては、昇温期に冷鉄源の溶解室への供給を停止して、溶湯の昇温を熱効率よく行うことは困難である。
【0011】
本発明は、従来のアーク溶解設備が有する上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、冷鉄源の溶解を熱効率よく行うとともに、予熱室から溶解室への冷鉄源の供給を制御可能な、新規かつ改良されたアーク溶解設備、及び当該アーク溶解設備の操業方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、冷鉄源を溶解する溶解室と、該溶解室に供給する前記冷鉄源を予熱するために前記冷鉄源が前記溶解室と連続して存在する状態を保つように直結して設けられるシャフト型の予熱室と、前記溶解室内に供給される前記冷鉄源を溶解するために前記溶解室内に設けられる電極と、を具備するアーク溶解設備であって、前記溶解室の底面に連続した前記予熱室の底面の少なくとも一部が水平方向に対して傾斜する傾斜底面として形成され、前記予熱室と前記溶解室とが接する部分のうち最も高い位置と、前記溶解室の底面に連続した前記予熱室の底面との、前記予熱室内での最短距離であるシャフト間口寸法Hが前記冷鉄源の供給制御の最適値に設定され、前記予熱室の下部には、前記予熱室から供給される前記冷鉄源を前記電極の方向に移動させる押し出し装置が設けられ、前記押し出し装置を駆動すると前記予熱室から前記溶解室内に前記冷鉄源が供給され、前記押し出し装置の駆動を停止すると前記予熱室から前記溶解室内への前記冷鉄源の供給が停止されることを特徴とするアーク溶解設備に関係する。
【0013】
本発明の一態様によれば、押し出し装置の駆動制御によって溶解室への冷鉄源の供給のオン・オフが切り替えられるので、例えば昇温期等の所望のタイミングで冷鉄源の溶解室への供給を停止することによって、冷鉄源の溶解を熱効率よく行えるようになる。
【0014】
このとき、本発明の一態様では、前記シャフト間口寸法Hの前記最適値として、前記シャフト間口寸法Hが、前記冷鉄源の最長辺の長さAに対して、A≦H≦4Aの関係を満たすように設定されることとしてもよい。
【0015】
このようにすれば、押し出し装置の駆動を停止して予熱室から溶解室への冷鉄源の供給を停止した場合に、昇温期に冷鉄源の溶湯への流れ込み、崩れ落ちの発生を防止して溶解室への冷鉄源の供給を停止できる。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記傾斜底面の傾斜角度が、水平方向に対して15〜45度であることとしてもよい。
【0017】
このようにすれば、冷鉄源の供給を停止するために、例えば昇温期に押し出し装置の駆動を停止させた際に、冷鉄源の溶湯への流れ込み、崩れ落ちの発生を抑制するので、確実に溶解室への冷鉄源の供給が停止されて、冷鉄源の溶解を熱効率よく行えるようになる。
【0018】
また、本発明の一態様では、予熱室と溶解室とが接する部分のうち最も高い位置と、電極との最短距離Lが、前記冷鉄源の最大長さAに対して、0.2A≦L≦5Aを満たすこととしてもよい。
【0019】
このようにすれば、冷鉄源を溶解室に供給する際の、電極折損の発生を防止できる。
【0020】
また、本発明の他の態様は、上記の何れかに記載のアーク溶解設備を用いた溶湯の製造方法であって、溶解室で発生する排ガスを予熱室に導入して該予熱室内の冷鉄源を予熱する工程と、前記冷鉄源を予熱する前記予熱室の下部に配置される押し出し装置を駆動して前記冷鉄源を前記予熱室から前記溶解室に供給する工程と、前記冷鉄源が前記予熱室と前記溶解室に存在する状態を保つように前記冷鉄源を前記溶解室に供給しながら、前記溶解室でアーク加熱にて前記冷鉄源を溶解して溶湯とする工程と、前記押し出し装置の駆動を停止して前記溶湯を昇温する工程と、を含むことを特徴とするアーク溶解設備を用いた溶湯の製造方法に関係する。
【0021】
本発明の他の態様によれば、所望のタイミングで冷鉄源を溶解室に供給できるようになる。このため、例えば、溶解期には冷鉄源が溶解室にスムーズに供給され、昇温期には冷鉄源の供給を止めて溶解室内の溶湯の昇温させる際における熱効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鉄スクラップ等の冷鉄源を使用して溶湯を製造する際に、冷鉄源の予熱室から溶解室への供給を任意に停止可能(オン・オフ可能)にできるので、昇温期に溶湯を効率良く昇温することができる。これにより、溶解期の冷鉄源の予熱効率を高くしたまま、操業時間を短縮し、電力使用量も削減した操業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のアーク溶解設備の一実施形態であり、アーク溶解設備の縦断面概略図である。
【図2】本発明のアーク溶解設備の一実施形態であり、アーク溶解設備の水平断面概略図である。
【図3】操業時間(1/生産性)とシャフト間口寸法Hの関係を示すグラフである。
【図4】操業時間と予熱室の傾斜底面角度の関係を示すグラフである。
【図5】電極折損発生頻度と、最高部と電極との最短距離Lの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0025】
本発明の発明者らは、上記のような冷鉄源が溶解室と予熱室に連続して存在する状態を保つように冷鉄源を供給することでエネルギー効率よく冷鉄源を溶解して溶湯を製造できるアーク溶解設備として、予熱室から溶解室に冷鉄源をアーク電極の方向に移動させる押し出し装置を予熱室の下部に設け、当該押し出し装置の駆動を制御することによって、上記の課題を解決できることを見出した。具体的には、押し出し装置を駆動すると予熱室から溶解室内に冷鉄源が供給され、押し出し装置の駆動を停止すると予熱室から溶解室内への冷鉄源の供給が停止されることで上記の課題を解決できることを見出した。
【0026】
また、冷鉄源の溶解室への供給を任意のタイミングで行うためには、予熱室で予熱した冷鉄源を溶湯中へと供給する溶解室の間口部分の寸法であるシャフト間口寸法を適切な寸法となる最適値に設定することが重要であることを見出した。そして、シャフト間口寸法を押し出し装置を稼動しない状態では、シャフト間口寸法を冷鉄源が供給されないように適切な寸法にすることにより、比較的小さいものとして、押し出し装置を稼動した場合のみ冷鉄源が供給されるようにすることで、押し出し装置の制御のみで冷鉄源の供給がオン・オフ可能となり、昇温期には冷鉄源の溶湯中への供給を停止して、冷鉄源の溶湯への流れ込み、崩れ落ちの発生を防止して、熱効率よく昇温できることを見出し、本発明を完成した。また、シャフト間口寸法に加えて、予熱室の底面の少なくとも一部の傾斜底面の傾斜角度を適切な角度に調整することが重要であることも見出した。また同時に、間口と電極との距離を冷鉄源の寸法に合わせることも重要であることを見出した。なお、上記した従来技術では溶解室の上部に予熱室が位置するように記載されているが、以下に説明する本発明の一実施形態においては、冷鉄源が溶湯中に装入されない状態で予熱されるシャフト部分の全体を予熱室としているため、予熱室と溶解室とが隣り合う状態で配置されているように記載される。これは予熱室と溶解室とが連続しているため、どこで区分しているかだけの違いであり、以下に記載の本発明の一実施形態の説明では、主に溶湯が存在する部分を溶解室として定義している。
【0027】
以下、図面を用いてこのような本発明の一実施形態を説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0028】
図1、2は本発明のアーク溶解設備の一実施形態であり、図1は縦断面概略図、図2は水平断面概略図である。
【0029】
本実施形態のアーク溶解設備1は、冷鉄源の溶解室2と、溶解室内で冷鉄源を溶解するための電極3(3a、3b)と、冷鉄源を予熱するために溶解室2の横に配置され、溶解室2に直結するシャフト型の予熱室4とを具備しており、予熱室4の下部には、冷鉄源5を溶解室2の方向に移動させるための押し出し装置6が設けられている。また、図示した以外に、溶解室2内に酸素ガスを吹き込むためのランスや、炭材を吹き込むためのランスが、炉蓋8を貫通して設けられている。
【0030】
なお、図1、2においては、直流アーク溶解炉の場合の電極配置を示しているが、溶解室2に設けられる電極は、図1、2に示される配置、本数に限定されず、例えば、交流アーク溶解炉の場合では、炉底電極3bが無く、炉頂側の電極3aが3本となる。
【0031】
押し出し装置6は、予熱室4から供給される冷鉄源5を溶解室2の方向に移動させる図示しない駆動装置を有しており、当該駆動装置は、不図示の制御装置によって動作制御されている。押し出し装置6は、予熱室4から供給される冷鉄源5を効率よく溶解室2に供給するために、予熱室4の最下部に設置することが好ましい。具体的には、図1に示すように、予熱室4の傾斜底面7aに沿うように、予熱室4から溶解室2に冷鉄源5を供給するシャフト間口近傍に設置することが好ましい。また、押し出し装置6の移動方向は、予熱室4の傾斜底面7aに沿った方向とすることが好ましいが、押し出し装置6に押し出し角度調整機構を設けて、移動方向を変更可能とすることもできる。
【0032】
また、押し出し装置6の駆動装置は、上記の制御装置によって、冷鉄源を溶解して溶湯を製造する溶解期に、押し出し装置6が駆動するように制御され、溶湯を次工程に必要な温度まで昇温させる昇温期に、押し出し装置の駆動を停止するように制御されることが好ましい。
【0033】
このようなシャフト型の予熱室を溶解炉本体に直結した構成のアーク溶解設備を用いることで、冷鉄源5が溶解室2と予熱室4に連続して存在する状態を保つように冷鉄源5を溶解室2に供給することができる。このため、冷鉄源5を溶解室2で発生する排ガスで連続的に予熱しながら、溶解室2で熱効率よく溶解することができるようになる。また、昇温期においても予熱室(シャフト)内に次チャージの冷鉄源を保持することにより、より連続的に冷鉄源の供給を行うことができ、生産性が向上し、かつ排ガスの熱回収効率を高めることができ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0034】
なお、冷鉄源とは、鉄スクラップ、直接還元鉄、鉄鉱石等のアーク溶解設備における溶解処理対象物であり、鉄スクラップは、例えば、ステンレス屑、銑鉄、ミルスケール、伸鉄材等で、鉄鋼メーカーでの製鋼や加工過程、工場での鉄製品使用時の加工過程、あるいは建物や自動車、家電、橋梁等が解体されたときなどに発生するものである。このような鉄スクラップは、スクラップ業者等が圧縮、切断、破砕などの各種加工処理を行い、所定形状として取引されるのが通常である。
【0035】
溶解期には冷鉄源5が溶解室にスムーズに供給され、昇温期には冷鉄源5の供給を止めてすばやく溶湯9を昇温するために、本発明では予熱室4と溶解室2とが接する部分の高さ方向距離であって、予熱室4と溶解室2とが接する部分のうち最も高い位置である最高部Xと、溶解室2の底面7に連続した予熱室4の底面との、予熱室4内での最短距離であるシャフト間口寸法Hが、冷鉄源5の最大長さAに対して、A≦H≦4Aの関係を満たすような適切な寸法となる最適値に設定されることを特徴としている。
【0036】
シャフト間口寸法Hを大きくすると、冷鉄源の溶解室への供給はスムーズであるが、溶湯の昇温中に、押し出し装置の駆動を停止して使用を停止しても、冷鉄源が溶湯中に崩れ落ちてしまい、溶湯の昇温の熱効率が低下し、アーク効率も低下し、生産効率も低下する。また、シャフト間口寸法Hが大きければ、大きな冷鉄源が溶解室に供給され、電極折損の危険が増大する。電極折損が発生すると、操業停止して電極を交換する必要があるので、生産性が低下する。なお、生産効率が低下するのは、上記のように昇温期に冷鉄源の溶湯中への崩れ落ちがあると、溶解室内の溶湯の量が所定の溶湯量よりも増加してしまうために、次工程で要求される出湯温度まで溶湯を昇温するための昇温時間が増加するためである。このため、Hは4A以下(冷鉄源の最大長さAの4倍以下)とする必要がある。
【0037】
また、一方でシャフト間口寸法Hが小さすぎると、冷鉄源の溶解室への供給が困難となり、生産効率、熱効率ともに悪化する。その一例として、HがA未満となると、間口部分が閉塞して、操業に支障をきたす場合がある。このため、本発明の一実施形態においては、押し出し装置6を用いて冷鉄源を溶湯中に供給する構成としているが、シャフト間口寸法Hを最適な範囲(A≦H≦4A)とすることで、押し出し装置6の駆動の停止時には、冷鉄源の崩落が防止され、押し出し装置6を用いたときのみ冷鉄源を新たに溶湯中に供給することができるようにしている。これにより、冷鉄源の予熱室から溶解室への供給を任意に停止可能(オン・オフ可能)とすることができる。
【0038】
なお、冷鉄源の最大長さAとは、溶解に用いる冷鉄源の最大長さを基準として決定される。ここで言及する最大長さとは、冷鉄源の長さをあらゆる方向から測定した場合の最大値であり、冷鉄源の外接球の直径と定義されるものであり、冷鉄源の投影最大長さに相当する。冷鉄源となるスクラップについては、例えばJIS G 2401や、(社)日本鉄源協会の定めた規格があり、品種や寸法に応じて、厚さ3〜6mm×幅500mm以下×長さ1200mm以下や、3辺の総和1800mm以下等に分類され、サイズがある程度決まっている。本実施形態では、上述の規格で定められる溶解するスクラップの最大長さAを用いて、シャフト間口寸法Hを決定するが、状況の変化や、各国での規格の違い等の各種要因によって、市場に流通するスクラップの最大長さAの値は変動するので、スクラップの最大長さAに合わせて、シャフト間口寸法Hを適宜決定することになる。
【0039】
アーク溶解炉を設置後に、冷鉄源のサイズが小さくなるように変更された場合には、シャフト間口寸法を調整するために、予熱室と溶解室との境界部の、間口部分上部(図1におけるXの部分)に、間口調整部品を取り付けて、シャフト間口寸法をより小さく調整することも可能である。または、冷鉄源のサイズをシャフト間口寸法に合わせて加工して変更する方法を用いることができる。
【0040】
図3を用いて上記の原理を説明する。図3は、本実施形態におけるアーク溶解設備の操業時間(1/生産性)とシャフト間口寸法Hの関係を定性的に示すグラフである。図3に示すように、シャフト間口寸法Hが小さいほど溶解室への冷鉄源の供給がスムーズでなくなるので溶解期に要する溶解時間は長くかかり、シャフト間口寸法Hが大きいほど冷鉄源の供給が容易で溶解時間は短時間となる。一方、昇温期の昇温時間は、シャフト間口寸法Hが小さいほど冷鉄源の溶湯への転がり落ちが発生しないので短時間で済み、大きいほど冷鉄源の溶湯への流れ込み・崩落により長くかかる。このため、シャフト間口寸法Hの増加に伴って、減少する溶解時間と、増加する昇温時間との双方の変化が相殺される結果として、操業時間が最短となる最適なシャフト間口寸法Hの範囲が存在することとなる。
【0041】
本発明者らは種々の検討の結果、シャフト間口寸法Hが、冷鉄源5の最大長さAに対して、A≦H≦4Aの関係を満たす範囲内の場合が最適値であることを見出した。
【0042】
また、本実施形態のアーク溶解設備は、溶解室2の底面7に連続した予熱室4の底面の少なくとも一部が傾斜底面7aとして形成され、傾斜底面7aの傾斜角度が、水平方向に対して15〜45度であることが好ましい。予熱室4下部の傾斜底面7aの角度が緩やかであると(水平方向に対する角度が小さいと)、冷鉄源を効率的に溶解室の方向へ供給するのが困難であり、溶解期の操業時間が長くなる。したがって、傾斜底面7aの傾斜角度を15度以上とすることが好ましい。一方で、予熱室4下部の傾斜底面7aの角度が急であると、溶解室への冷鉄源の移動は容易となり、冷鉄源を溶解室の電極方向へスムーズに供給することができるが、急になりすぎると押し出し装置の稼動を停止しても、冷鉄源の崩落が発生する場合がある。したがって、傾斜底面7aの傾斜角度を45度以下とすることが好ましい。
【0043】
図4を用いて上記の原理を説明する。図4は、本実施形態におけるアーク溶解設備の操業時間(1/生産性)と傾斜底面角度の関係を定性的に示すグラフである。図4に示すように、溶解期に要する溶解時間は、傾斜底面角度が小さいほど長くかかり、大きいほど冷鉄源の供給が容易で短時間となる。これに対して、昇温期の昇温時間は、傾斜底面角度が小さいほど短時間で済み、大きいほど冷鉄源の溶湯への流れ込み・崩落により長くかかる。このことから、本実施形態のアーク溶解設備を操業するに際して、図4に示すように、傾斜底面角度の大きさの増加に伴って、減少する溶解時間と、増加する昇温時間との双方の変化が相殺される結果として、操業時間が最短となる最適な傾斜底面角度が存在することとなる。
【0044】
本発明者らは種々の検討の結果、シャフト間口寸法Hが前述のように最大長さAに対して、A≦H≦4Aの関係を満たす条件の炉においては、傾斜底面の傾斜角度を水平方向に対して15〜45度の範囲とすることが操業時間の短縮のためには好ましく、特に傾斜角度が25〜35度程度が好ましいことが分かった。
【0045】
上記の結果をまとめて表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1において、θは傾斜底面の傾斜角度であり、傾斜角度θとシャフト間口寸法Hとをそれぞれ変化させた場合の、予熱室から溶解室への冷鉄源の供給のオン・オフ切替制御性能を示し、具体的には、予熱室から溶解室への冷鉄源の供給の円滑性や、昇温期における冷鉄源の溶解室内の溶湯への流れ込み・崩落の発生の状態を示している。×△○は、予熱室から溶解室への冷鉄源の供給の円滑性や、冷鉄源の流れ込み・崩落の発生の防止のレベルを示し、×は予熱室から溶解室への冷鉄源の供給が円滑に進まずに滞っている場合や、冷鉄源の溶湯への流れ込み・崩落が発生している場合で、△○の順に冷鉄源の供給の円滑性や、冷鉄源の溶湯への流れ込み・崩落発生の防止のレベルが向上する。

表1に示すように、シャフト間口寸法HがA≦H≦4Aの範囲内が最適値であり、この範囲であれば溶解期での予熱室から溶解室内への冷鉄源の供給はスムーズであり、昇温期には予熱室から溶解室内への冷鉄源の供給が停止される。しかし、A≦H≦4Aの範囲内であっても、傾斜底面の傾斜角度(θ)が、水平方向に対して45度超えであると、冷鉄源は崩れやすい状態であり、一方15度未満だと冷鉄源の状態によっては溶解室への供給がスムーズに行えない場合が生じることもある。したがって、傾斜底面の傾斜角度(θ)が15度以上、45度以下であれば、十分に冷鉄源の流れ込み・崩落の発生が防止できかつ冷鉄源の供給もスムーズにできるため、最も好ましい(表1にはその状態を◎で示した。)。 さらに、予熱室と溶解室とが接する部分のうち最も高い位置である最高部(図1におけるX)と、電極3との最短距離L(Xと電極3aとの距離)が、冷鉄源の最大長さAに対して、0.2A≦L≦5Aの関係を満たすことが好ましい。シャフト間口と電極との距離Lが短すぎると、冷鉄源供給の際に電極折損が発生しやすい。上記のように電極折損が発生すると、操業停止して電極を交換する必要があるので、生産性が低下する。また電極下に冷鉄源が存在すると、アーク効率も低下する。このため、Lは0.2A以上とすることが好ましい。なお、間口と電極との距離Lが長すぎると、電極と冷鉄源との距離が大きくなり、アーク効率が低下するので、Lは5A以下とすることが好ましい。
【0048】
図5を用いて上記の原理を説明する。図5は、本実施形態におけるアーク溶解設備を操業させた際における電極折損発生頻度と、予熱室と溶解室とが接する部分のうち最も高い位置である最高部Xと電極との最短距離Lの関係を示すグラフであり、すなわち、冷鉄源装入間口と電極との距離Lによる、電極折損発生頻度の変化を示すものである。図5に示すように、電極折損発生頻度は、Lが0.2A未満であると急激に上昇し、Aに対して長いほど低下することから、Lは0.2A以上とするのが好ましいことが分かる。また、シャフト間口寸法Hとの関係では、図5に示すように、H=4Aのときは、Lを0.2A以上にすると電極折損発生頻度が0.5回/月以下と発生頻度が低く保たれるのに対して、H>4Aの場合としてH=4.5Aのときは、Lを0.2A以上にしても電極折損発生頻度が10回/月以上と多くなることが分かる。このことから、シャフト間口寸法Hが冷鉄源5の最大長さAに対して、H≦4Aの関係を満たす範囲内で設定されることが、電極折損発生を防止する観点からも好ましいことが分かる。また、図5に示すように、HがAに対して大きすぎると、Lを大きくしても電極折損発生頻度が10回/月以上と高くなり、スクラップをアーク溶解する際の電力効率が下がることが分かる。
【0049】
以上より、本実施形態では、予熱室と溶解室とが接する部分のうち最も高い位置である最高部Xと電極3aとの最短距離Lが、冷鉄源の最長辺の長さAに対して、0.2A≦L≦5Aの関係を満たすように設定することによって、冷鉄源供給の際における電極折損の発生およびアーク効率の低下を抑制できるようになる。
【0050】
次に、上記のようなアーク溶解設備を用いた溶湯の製造方法を、図1を用いて説明する。
【0051】
本操業方法は、溶解室2で発生する排ガスを予熱室4に導入して予熱室4内の冷鉄源5を予熱する工程と、冷鉄源5を予熱する予熱室4の下部に配置される押し出し装置6を駆動して冷鉄源5を予熱室4から溶解室2に供給する工程と、冷鉄源5が予熱室4と溶解室2に存在する状態を保つように冷鉄源5を溶解室2に供給しながら、溶解室2でアーク加熱にて冷鉄源5を溶解して溶湯9とする工程と、押し出し装置6の駆動を停止して溶湯9を昇温する工程と、を含むことを特徴とする。これにより冷鉄源を用いて溶鋼等の、金属溶湯を製造することができる。
【実施例1】
【0052】
図1および図2に示すアーク溶解設備と同様の、炉容量が約200トンの設備で、スクラップを溶解して溶鋼を製造する試験を行った。
【0053】
スクラップとして最大長さ1200mm以下に処理した鉄くずスクラップを用いることとした(最大長さA=1200mm)。
【0054】
アーク溶解設備のシャフト間口寸法Hは5000mm(4A<H)、予熱室下部の傾斜底面の水平方向からの角度は30度とした。予熱室と溶解室とが接する部分のうち最も高い位置である最高部と、電極との最短距離Lは約2.5mであった。
【0055】
予熱室にスクラップを複数回にわたって装入し、溶解期には押し出し装置を駆動させて、溶解室に連続的にスクラップを供給した。シャフトへの所定量のスクラップ装入が終了したので押し出し装置の駆動を停止した。このときの経過時間は約40分で、積算投入電力量は約40MWhであった。押し出し装置の駆動を停止したところ、スクラップの溶解室への供給は完全には停止されず、少量のスクラップの溶解室への流入が続き、溶鋼の昇温を約1650℃まで行うのに10分を要した。このときの電力使用量は、10MWhであり、また、押し出し装置の駆動のオン・オフは、制御装置を用いて行った。
【0056】
次に、アーク溶解設備の間口部分上部(図1におけるXの部分)に設置された図示しない間口調整部品を取り替えて、シャフト間口寸法HをA≦H≦4Aのシャフト開口寸法範囲内の一数値となる3000mmに調整した。
【0057】
上記と同様にスクラップの溶解を行ったところ、40MWh、40分後に溶解室内の溶鋼量が所定の値となったので、押し出し装置の駆動を停止した。すると、スクラップの溶解室への供給は停止されて、溶鋼の昇温を約1650℃まで行う時間は5分であり、このときの電力使用量は5MWhであった。
【0058】
以上の実施例では、シャフト間口寸法Hを本発明の範囲とすることで、予熱室から溶解室へのスクラップの供給が制御可能となり、昇温効率が向上した結果、生産性も10%向上した。すなわち、シャフト間口寸法Hを本発明のシャフト間口寸法Hの最適値の範囲外となるH=5000mmで実施した場合では、押し出し装置の駆動を停止しても、スクラップの溶解室への供給が完全に停止されず、溶鋼の昇温の際の熱効率が良好なものとならなかった。これに対して、シャフト間口寸法Hを本発明のシャフト間口寸法Hの最適値の範囲内の数値に設定してH=3000mmで実施した場合には、押し出し装置の駆動を停止すると、スクラップの溶解室への供給を完全に停止でき、溶鋼の昇温の際の熱効率向上が図れた。
【0059】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0060】
1 アーク溶解設備
2 溶解室
3 電極
3a 炉頂側の電極
3b 炉底電極
4 予熱室
5 冷鉄源
6 押し出し装置
7 溶解室の底面
7a 傾斜底面
8 炉蓋
9 溶湯
10 出湯口
11 排滓口
H シャフト間口寸法
L Xと電極との最短距離
X 最高部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷鉄源を溶解する溶解室と、前記冷鉄源が前記溶解室に供給される前に予熱されるように前記溶解室に直結して設けられるシャフト型の予熱室と、該予熱室から供給される前記冷鉄源を溶解するために前記溶解室内に設けられる電極と、を具備するアーク溶解設備であって、
前記溶解室の底面に連続した前記予熱室の底面の少なくとも一部が水平方向に対して傾斜する傾斜底面として形成され、
前記予熱室と前記溶解室とが接する部分のうち最も高い位置と、前記溶解室の底面に連続した前記予熱室の底面との前記予熱室内での最短距離であるシャフト間口寸法Hが、前記冷鉄源の供給制御の最適値に設定され、
前記予熱室の下部には、前記予熱室から供給される前記冷鉄源を前記溶解室の方向に移動させる押し出し装置が設けられ、前記押し出し装置を駆動すると前記予熱室から前記溶解室内に前記冷鉄源が供給され、
前記押し出し装置の駆動を停止すると前記予熱室から前記溶解室内への前記冷鉄源の供給が停止されることを特徴とするアーク溶解設備。
【請求項2】
前記シャフト間口寸法Hの前記最適値として、前記シャフト間口寸法Hが、前記冷鉄源の最大長さAに対して、
A≦H≦4Aの関係を満たすように設定されることを特徴とする請求項1に記載のアーク溶解設備。
【請求項3】
前記傾斜底面の傾斜角度が、水平方向に対して15〜45度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアーク溶解設備。
【請求項4】
予熱室と溶解室とが接する部分のうち最も高い位置と、前記電極との最短距離Lが、前記冷鉄源の最大長さAに対して、
0.2A≦L≦5Aの関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシャフト型予熱装置を有するアーク溶解設備。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のアーク溶解設備を用いた溶湯の製造方法であって、
溶解室で発生する排ガスを予熱室に導入して該予熱室内の冷鉄源を予熱する工程と、
前記冷鉄源を予熱する前記予熱室の下部に配置される押し出し装置を駆動して前記冷鉄源を前記予熱室から前記溶解室に供給する工程と、
前記冷鉄源が前記予熱室と前記溶解室に存在する状態を保つように前記冷鉄源を前記溶解室に供給しながら、前記溶解室でアーク加熱にて前記冷鉄源を溶解して溶湯とする工程と、
前記押し出し装置の駆動を停止して前記溶湯を昇温する工程と、
を含むことを特徴とするアーク溶解設備を用いた溶湯の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−33217(P2011−33217A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177225(P2009−177225)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(501120122)スチールプランテック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】