説明

イオンビーム照射装置

【課題】装置の簡略化および小型化を図ることができるイオンビーム分析装置を提供すること。
【解決手段】試料8にイオンビーム7を照射して、前記試料8から放射される放射エネルギーを検出するイオンビーム照射装置1であって、基端部から先端部に向かって先細となるように形成されて、その内周面側に到達した前記イオンビーム7を集光させるキャピラリー5と、前記キャピラリー5の外周面側および先端側を取り囲むとともに、前記試料8と当接させられる先端が、前記キャピラリー5の先端から前記試料8の側に向かって所定距離L離間するように構成されたキャピラリーガイド6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、加速器によって得られるイオンビームを試料に照射し、発生するγ線、α線、中性子等の放射エネルギーを検出することによって当該試料を分析するイオンビーム分析法が知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−300454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されているイオンビーム分析装置では、試料を真空雰囲気中に置く必要があり、試料を真空雰囲気中に置くのに収容容器(チャンバ)が必要となり、装置が複雑化および大型化してしまうといった問題点があった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、装置の簡略化および小型化を図ることができるイオンビーム分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係るイオンビーム照射装置は、試料にイオンビームを照射して、前記試料から放射される放射エネルギーを検出するイオンビーム照射装置であって、基端部から先端部に向かって先細となるように形成されて、その内周面側に到達した前記イオンビームを集光させるキャピラリーと、前記キャピラリーの外周面側および先端側を取り囲むとともに、前記試料と当接させられる先端が、前記キャピラリーの先端から前記試料の側に向かって所定距離離間するように構成されたキャピラリーガイドとを備えている。
【0006】
本発明に係るイオンビーム照射装置によれば、キャピラリーの先端に形成された開口端の内径が微小(1μm程度)であるため、この開口端を境にキャピラリーの内側(内部)を真空に保つことができて、キャピラリーにより集められたイオンビームを大気中に引き出すことができる。すなわち、大気中に置かれた試料を分析することができる。これにより、試料を真空雰囲気中に置く必要がなくなり、従来、試料を真空雰囲気中に置くのに必要とされた収容容器(チャンバ)をなくすことができ、装置の簡略化および小型化を図ることができる。
また、キャピラリーガイドの先端とキャピラリーの先端とが、所定距離(例えば、1μm)離間するように構成されているので、キャピラリーガイドの先端を試料の表面に当接させる(押し付ける)だけでキャピラリーの先端と試料の表面との距離を知る(規定する)ことができて、より正確な分析を行うことができる。
【0007】
上記イオンビーム照射装置において、前記キャピラリーと前記キャピラリーガイドとの間に形成された空間内に、ヘリウムガスを供給するガス供給手段が設けられているとさらに好適である。
【0008】
このようなイオンビーム照射装置によれば、分析中、キャピラリーとキャピラリーガイドとの間に形成された空間内に、軽くて(分子量が小さくて)減衰が少ないヘリウムガスが供給され、空間内がヘリウムガスで満たされることとなるので、キャピラリーの先端から出て試料の表面に到達するまでのイオンビームのエネルギー損失を正確に予測することができ、分析誤差を低減させることができ、より正確な分析を行うことができる。
【0009】
上記イオンビーム照射装置において、前記キャピラリーガイドに可視光導入窓が設けられており、前記可視光導入窓を通して前記キャピラリーと前記キャピラリーガイドとの間に形成された空間内に可視光が入射させられ、前記キャピラリーガイド内で反射させられた後、前記キャピラリーガイドの先端から前記試料の表面に向けて前記可視光が照射されるように構成されているとさらに好適である。
【0010】
このようなイオンビーム照射装置によれば、試料の表面上に照射された可視光の位置と、試料の表面に照射されるイオンビームの位置とが同じ(略同じ)とされ、試料の表面に照射された可視光の位置にイオンビームが照射されることとなるので、イオンビームを試料の所望位置に容易に照射することができ、分析作業の効率化を図ることができる。
【0011】
上記イオンビーム照射装置において、前記キャピラリーガイドの先端と前記試料の表面との当接を視覚的または聴覚的に知らせる報知手段が設けられているとさらに好適である。
【0012】
このようなイオンビーム照射装置によれば、キャピラリーガイドの先端が試料の表面に当接すると、表示灯が点灯したり音声案内等が流れ、作業者に知らせるようになっているので、キャピラリーガイドの先端と試料の表面との当接を視覚的または聴覚的に確認することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置の簡略化および小型化を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るイオンビーム照射装置の第1実施形態について、図1および図2を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部概略構成図であり、図2は図1の要部拡大断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係るイオンビーム照射装置1は、第1の差動排気室2と、第2の差動排気室3と、シンチレータ4と、キャピラリー5と、キャピラリーガイド6とを備えている。
【0016】
第1の差動排気室2および第2の差動排気室3は、イオンビーム(例えば、Liイオンビームや15Nイオンビーム等)7の上流側から下流側に向かって、第1の差動排気室2および第2の差動排気室3の順に設けられている。また、第1の差動排気室2には、イオンビーム7を通過させるための第1の開口2aが設けられており、第2の差動排気室3には、イオンビーム7を通過させるとともに、第1の開口2aよりも小さい内径を有する第2の開口3aが設けられている。
なお、Liイオンビームを用いると水素の分布が分かり、15Nイオンビームを用いると重水素の分布が分かる。
【0017】
第1の差動排気室2および第2の差動排気室3はそれぞれ、独立に真空排気されるようになっており、各差動排気室2,3の真空度を異ならせた差動排気が実現されるようになっている。また、それぞれの真空排気には、図示しないターボ分子ポンプやドライポンプ等が用いられる。ただし、所望の真空度を得ることができるのであれば、真空排気手段の形式は適宜変更することができる。
【0018】
シンチレータ4は、試料8の近傍に配置されて、共鳴核反応によって放出されるγ線、X線、電子、荷電粒子等を検知するものである。また、試料8としては、例えば、仏像等が供される。
【0019】
図2に示すように、キャピラリー5は、その基端部が第2の差動排気室3の一端部(図1において右側の端部)に接続されて(取り付けられて)、第2の開口3aを通過してキャピラリー5の半径方向内側(内周面側)に到達した(入った)イオンビーム7の直径(外径)を1μm程度まで集光する(絞る)ものであり、基端部から先端部に向かって先細となるように形成されている。そして、このキャピラリー5は、例えば、鉛ガラスを材料として作られている。
【0020】
キャピラリーガイド6は、キャピラリー5の半径方向外側(外周面側)および先端側(試料8と対向する側)を取り囲む(覆う)部材であり、その先端は、キャピラリー5の先端から試料8の側に向かって所定距離(例えば、1μm)L離間するように構成されている。そして、このキャピラリーガイド6は、例えば、ステンレスを材料として作られている。
【0021】
本実施形態に係るイオンビーム照射装置1によれば、キャピラリー5の先端に形成された開口端の内径が微小(1μm程度)であるため、この開口端を境にキャピラリー5の内側(内部)を真空に保つことができて、キャピラリー5により集められたイオンビーム7を大気中に引き出すことができる。すなわち、大気中に置かれた試料8を分析することができる。これにより、試料8を真空雰囲気中に置く必要がなくなり、従来、試料8を真空雰囲気中に置くのに必要とされた収容容器(チャンバ)をなくすことができ、装置の簡略化および小型化を図ることができる。
また、キャピラリーガイド6の先端とキャピラリー5の先端とが、所定距離(例えば、1μm)L離間するように構成されているので、キャピラリーガイド6の先端を試料8の表面に当接させる(押し付ける)だけでキャピラリー5の先端と試料8の表面との距離を知る(規定する)ことができて、より正確な分析を行うことができる。
【0022】
本発明に係るイオンビーム照射装置の第2実施形態を図3に基づいて説明する。
図3は、本発明の第2実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2と同様の図である。
本実施形態に係るイオンビーム照射装置21は、キャピラリー5とキャピラリーガイド6との間に形成された空間S内に、ヘリウム(He)ガスGを供給するガス供給手段22が設けられているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0023】
ガス供給手段22は、加圧されたヘリウムガスGが充填されたガス供給源(図示せず)と、その一端がキャピラリーガイド6に接続され、その他端がガス供給源に接続されるとともに、キャピラリー5とキャピラリーガイド6との間に形成された空間S内と、ガス供給源内とを連通する配管23と、配管23の途中に接続されたバルブ24とを備えている。そして、このバルブ24が開放されることにより空間S内にヘリウムガスGが供給され、閉塞されることにより空間S内へのヘリウムガスGの供給が停止されるようになっている。また、ヘリウムガスGの流量は、バルブ24の開度を調整することにより行われる。
【0024】
本実施形態に係るイオンビーム照射装置21によれば、分析中、キャピラリー5とキャピラリーガイド6との間に形成された空間S内に、軽くて(分子量が小さくて)減衰が少ないヘリウムガスGが供給され、空間S内がヘリウムガスGで満たされることとなるので、キャピラリー5の先端から出て試料8の表面に到達するまでのイオンビーム7のエネルギー損失を正確に予測することができ、分析誤差を低減させることができ、より正確な分析を行うことができる。
その他の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0025】
本発明に係るイオンビーム照射装置の第3実施形態を図4に基づいて説明する。
図4は、本発明の第3実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2および図3と同様の図である。
本実施形態に係るイオンビーム照射装置31は、キャピラリーガイド6に可視光導入窓(レーザー光導入窓)32が設けられているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0026】
本実施形態では、可視光導入窓32を通して弱い可視光(例えば、He−Neレーザー光やLED等の可視光)Laが入射させられ、キャピラリーガイド6内で反射させられて、キャピラリーガイド6の先端から試料8の表面に可視光Laが照射されるようになっている。
【0027】
本実施形態に係るイオンビーム照射装置31によれば、試料8の表面上に照射された可視光Laの位置と、試料8の表面に照射されるイオンビーム7の位置とが同じ(略同じ)とされ、試料8の表面に照射された可視光Laの位置にイオンビーム7が照射されることとなるので、イオンビーム7を試料8の所望位置に容易に照射することができ、分析作業の効率化を図ることができる。
【0028】
本発明に係るイオンビーム照射装置の第4実施形態を図5に基づいて説明する。
図5は、本発明の第4実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2から図4と同様の図である。
本実施形態に係るイオンビーム照射装置41は、上述した第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせたものである。
【0029】
本実施形態に係るイオンビーム照射装置41によれば、キャピラリー5の先端に形成された開口端の内径が微小(1μm程度)であるため、この開口端を境にキャピラリー5の内側(内部)を真空に保つことができて、キャピラリー5により集められたイオンビーム7を大気中に引き出すことができる。すなわち、大気中に置かれた試料8を分析することができる。これにより、試料8を真空雰囲気中に置く必要がなくなり、従来、試料8を真空雰囲気中に置くのに必要とされた収容容器(チャンバ)をなくすことができ、装置の簡略化および小型化を図ることができる。
また、キャピラリーガイド6の先端とキャピラリー5の先端とが、所定距離(例えば、1μm)L離間するように構成されているので、キャピラリーガイド6の先端を試料8の表面に当接させる(押し付ける)だけでキャピラリー5の先端と試料8の表面との距離を知る(規定する)ことができて、より正確な分析を行うことができる。
【0030】
さらに、本実施形態に係るイオンビーム照射装置41によれば、分析中、キャピラリー5とキャピラリーガイド6との間に形成された空間S内にヘリウムガスGが供給され、空間S内がヘリウムガスGで満たされることとなるので、キャピラリー5の先端から出て試料8の表面に到達するまでのイオンビーム7のエネルギー損失を正確に予測することができ、分析誤差を低減させることができ、より正確な分析を行うことができる。
さらにまた、試料8の表面上に照射された可視光Laの位置と、試料8の表面に照射されるイオンビーム7の位置とが同じ(略同じ)とされ、試料8の表面に照射された可視光Laの位置にイオンビーム7が照射されることとなるので、イオンビーム7を試料8の所望位置に容易に照射することができ、分析作業の効率化を図ることができる。
【0031】
本発明に係るイオンビーム照射装置の第5実施形態を図6に基づいて説明する。
図6は、本発明の第5実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2から図5と同様の図である。
本実施形態に係るイオンビーム照射装置51は、キャピラリーガイド6の先端と試料8の表面との当接を視覚的または聴覚的に知らせる(報知する)報知手段52が設けられているという点で上述した第4実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第4実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第4実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0032】
報知手段52は、例えば、キャピラリーガイド6の先端と試料8の表面とが電気的に接続された場合に、キャピラリーガイド6の先端と試料8の表面とが当接したことを光や音等で作業者に知らせる(報知する)ものである。
【0033】
本実施形態に係るイオンビーム照射装置51によれば、キャピラリーガイド6の先端が試料8の表面に当接すると、表示灯が点灯したり音声案内等が流れ、作業者に知らせるようになっているので、キャピラリーガイド6の先端と試料8の表面との当接を視覚的または聴覚的に確認することができる。
その他の作用効果は、上述した第4実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0034】
なお、キャピラリーガイド6は、ステンレスから作られたものに限定されるものではなく、その内周面が可視光Laを反射するものであればいかなるものであっても良い。
また、キャピラリー5とキャピラリーガイド6との間に形成された空間S内に供給されるガスは、上述した実施形態ではヘリウムガスを用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他のガス(例えば、窒素ガス)を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部概略構成図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2と同様の図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2および図3と同様の図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2から図4と同様の図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係るイオンビーム照射装置の要部拡大断面図であり、図2から図5と同様の図である。
【符号の説明】
【0036】
1 イオンビーム照射装置
5 キャピラリー
6 キャピラリーガイド
7 イオンビーム
8 試料
21 イオンビーム照射装置
22 ガス供給手段
31 イオンビーム照射装置
32 可視光導入窓
41 イオンビーム照射装置
51 イオンビーム照射装置
52 報知手段
G ヘリウムガス
La 可視光
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にイオンビームを照射して、前記試料から放射される放射エネルギーを検出するイオンビーム照射装置であって、
基端部から先端部に向かって先細となるように形成されて、その内周面側に到達した前記イオンビームを集光させるキャピラリーと、
前記キャピラリーの外周面側および先端側を取り囲むとともに、前記試料と当接させられる先端が、前記キャピラリーの先端から前記試料の側に向かって所定距離離間するように構成されたキャピラリーガイドとを備えていることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項2】
前記キャピラリーと前記キャピラリーガイドとの間に形成された空間内に、ヘリウムガスを供給するガス供給手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム照射装置。
【請求項3】
前記キャピラリーガイドに可視光導入窓が設けられており、前記可視光導入窓を通して前記キャピラリーと前記キャピラリーガイドとの間に形成された空間内に可視光が入射させられ、前記キャピラリーガイド内で反射させられた後、前記キャピラリーガイドの先端から前記試料の表面に向けて前記可視光が照射されるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のイオンビーム照射装置。
【請求項4】
前記キャピラリーガイドの先端と前記試料の表面との当接を視覚的または聴覚的に知らせる報知手段が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオンビーム照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−256388(P2008−256388A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96138(P2007−96138)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人科学技術振興機構「水素のナノスケール顕微鏡(イオン源・加速器・試料槽の開発と実環境化計測への適用)委託研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】