説明

イオンミリング装置

【課題】イオン源の条件を変えた場合でも、均一ビーム照射が可能なイオンミリング装置を提供することにある。
【解決手段】高周波イオン源から引き出されたイオンビーム9を基板12に照射せしめることによりイオンビームによる基板の微細加工を行わせる。複数のファラデーカップ20は、複数の試料基板12を乗せた円板状試料ホルダ11の半径方向に一列に並べて配置され、イオンビーム電流を測定する。電流積算器16は、各ファラデーカップの電流値を時間的に積算する。高周波電源5は、高周波イオン源のコイルに高周波電力を供給するとともに、その高周波電力値が可変である。電力調整器19は、複数のファラデーカップを2つの群の領域に分け、かつそれぞれの群の積算値の平均値の差に基づいて高周波電源からコイル4に供給する高周波電力を調整する。表示装置17には、電流積算器により算出された電流積算値が表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置に係り、特に、イオン源として高周波イオン源を備えたものに用いるに好適なイオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置のイオンビームとしては、近年、CH(パーフルオロカーボン(PFC)といわれる)やCHF、Cl(塩素ガス)、0(酸素ガス)等の放電ガスからのイオンビームが用いられる。そのためのイオン源としては、高周波放電を使ってガスをプラズマ化し、このプラズマからイオンビームを引き出す高周波イオン源が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0003】
一方、イオンミリング装置では試料基板の微細加工にあたって、基板の均一加工を得るために、イオンビームの均一照射が重要である。均一加工を行うことで基板に作られる複数の素子の歩留まりが向上する。
【0004】
そこで、均一照射を行うためにイオンビームを引き出す多孔型引出電極間の間隔を調整したり、孔の大きさを変えたりすることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特公平7−75152号公報
【特許文献2】特開平8−106996号公報
【特許文献3】特開2005−174569号公報
【非特許文献1】Review of Scientific Instruments, vol.69, No.2 (1998), V.Kanarov, pp.874-876
【非特許文献2】Review of Scientific Instruments, vol.71, No.2(2000), VOIImer, pp.939-942
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の多孔型引出電極によるビームの均一照射においては、電極間隔や引き出し孔径の調整で得られる均一ビームの条件は、特定のプラズマ分布に対して成り立つため、イオンビーム電流やイオン引出電圧等を変えると均一照射が行えないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、イオン源の条件を変えた場合でも、均一ビーム照射が可能なイオンミリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、真空に引かれた石英円筒管の大気側外周に高周波電流を流すためのコイルを巻き、石英円筒室にガスを流すことによりプラズマを生成し、かつこの石英円筒管の大気側の周方向に永久磁石を多極にして配置せしめて高密度プラズマを生成し、このプラズマから電圧印加された多孔型引出電極を使ってイオンビームを引出す高周波イオン源と、該高周波イオン源から引き出されたイオンビームを基板に照射せしめることによりイオンビームによる基板の微細加工を行わせるイオンミリング装置であって、複数の試料基板を乗せた円板状試料台の半径方向に一列に並べて配置され、イオンビーム電流を測定する複数のファラデーカップと、各ファラデーカップの電流値を時間的に積算する電流積算器と、該電流積算器により算出された電流積算値を表示する表示装置と、前記高周波イオン源のコイルに高周波電力を供給するとともに、その高周波電力値が可変な高周波電源とを備えるようにしたものである。
かかる構成により、イオン源の条件を変えた場合でも、均一ビーム照射が可能となる。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記高周波イオン源は、前記石英円筒管に直結して配置されるとともに、永久磁石を周方向に多極に配置したプラズマ拡張室を備える構造であり、前記石英円筒管内に生成したプラズマを前記プラズマ拡張室に導入し、かつ前記引出電極が、前記プラズマ拡張室に設けられてイオンビームを引き出すものである。
【0010】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記高周波イオン源は、前記石英円筒に入る放電ガス導入口に、前記石英円筒の内径よりわずかに小さい直径を持つ石英円板を備えるようにしたものである。
【0011】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記試料基板は回転可能である。
【0012】
(5)また、上記目的を達成するために、本発明は、真空に引かれた石英円筒管の大気側外周に高周波電流を流すためのコイルを巻き、石英円筒室にガスを流すことによりプラズマを生成し、かつこの石英円筒管の大気側の周方向に永久磁石を多極にして配置せしめて高密度プラズマを生成し、このプラズマから電圧印加された多孔型引出電極を使ってイオンビームを引出す高周波イオン源と、
該高周波イオン源から引き出されたイオンビームを基板に照射せしめることによりイオンビームによる基板の微細加工を行わせるイオンミリング装置であって、複数の試料基板を乗せた円板状試料台の半径方向に一列に並べて配置され、イオンビーム電流を測定する複数のファラデーカップと、各ファラデーカップの電流値を時間的に積算する電流積算器と、前記高周波イオン源のコイルに高周波電力を供給するとともに、その高周波電力値が可変な高周波電源と、前記複数のファラデーカップを2つの群の領域に分け、かつそれぞれの群の積算値の平均値の差に基づいて前記高周波電源から前記コイルに供給する高周波電力を調整する調整器を備えるようにしたものである。
かかる構成により、イオン源の条件を変えた場合でも、均一ビーム照射が可能となる。
【0013】
(6)上記(5)において、好ましくは、前記複数のファラデーカップの全ての積算電流平均値が、予め設定された予測積算電流値になると、前記高周波電源をオフする停止制御器を備えるようにしたものである。
【0014】
(7)上記(5)において、好ましくは、前記高周波イオン源は、前記石英円筒管に直結して配置されるとともに、永久磁石を周方向に多極に配置したプラズマ拡張室を備える構造であり、前記石英円筒管内に生成したプラズマを前記プラズマ拡張室に導入し、かつ前記引出電極が、前記プラズマ拡張室に設けられてイオンビームを引き出すものである。
【0015】
(8)上記(5)において、好ましくは、前記高周波イオン源は、前記石英円筒に入る放電ガス導入口に、前記石英円筒の内径よりわずかに小さい直径を持つ石英円板を備えるようにしたものである。
【0016】
(9)上記(5)において、好ましくは、前記試料基板は回転可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イオン源の条件を変えた場合でも、均一ビーム照射が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜図4を用いて、本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1及び図2を用いて、本実施形態によるイオンミリング装置の全体構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置の全体構成図である。図2は、図1のC−C’断面図である。
【0019】
最初に、本実施形態によるイオンミリング装置の基本構成について説明する。
【0020】
高周波イオン源のプラズマ室は、高周波(RF)プラズマ室1と、これに直結するプラズマ拡張室3で構成される。高周波(RF)プラズマ室1は、真空に引かれた石英円筒管2の外周にコイル4が巻回されている。高周波(RF)プラズマ室1には、外部から放電ガスが供給される。高周波(RF)プラズマ室1に供給される放電ガスの流量は、ガス流量調整器6によって調整される。また、コイル4には、高周波電源5から高周波電力が供給される。高周波電力の周波数は、例えば、2MHzである。高周波電源5からコイル4に供給する高周波電力は、可変である。以上の構成の高周波(RF)プラズマ室1において、コイル4に高周波電流を供給することでガスを放電させてプラズマを生成する。ガスは、例えば、アルゴンを用いる。拡張室3の外周には、図2に示すように、多極の永久磁石7が配置されている。
【0021】
拡張室3から、多孔型引き出し電極8を用い、イオンビーム9が引き出され、処理室14に導かれる。引き出し電極8は、加速一減速方式の3枚電極で、第1,第2,第3電極から構成される。各電極には、円板内に多数の小孔が設けられている。電極の材質は、モリブデンである。第1電極には、加速電源が接続される。第2電極には、減速電源が接続される。第3電極は、接地もしくは接地に対して−100V未満の電圧が印加されている。引出電圧(加速電圧)は500〜2000V、減速電圧は一100〜一500Vの間としている。
【0022】
引出し電極8の下流には、マイクロ波プラズマニュートライザー15が配置されている。マイクロ波プラズマニュートライザー15は、引出し電極8の下流に、マイクロ波放電によるプラズマを生成する。このプラズマは、試料12にイオンビーム9が当り帯電するのを防止するための電子供給源として用いられる。
【0023】
処理室14は、真空排気装置10により、真空排気されている。処理室14には、円板状の試料ホルダ11が回転可能に設置されている。なお、試料ホルダ11は、静止状態で用いることもできる。試料ホルダ11には、複数の試料12が装着されている。
【0024】
さらに、本実施形態においては、試料ホルダ14には、半径方向に沿って一列に、複数のイオンビーム電流測定用の小孔ファラデーカップ20が配置されている。
【0025】
ここで、図3を用いて、本実施形態によるイオンミリング装置に配置するファラデーカップ20の構成について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置に配置するファラデーカップの構成を示す断面図である。なお、図3において、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0026】
試料ホルダ11には、複数の穴が形成されている。試料ホルダ11の背面側(イオン源1から見て背面側)には、穴の位置に対応して、複数のファラデーカップ20が配置されている。また、試料ホルダ11とファラデーカップ20の間には、小孔の設けられたサプレッサー電極21が配置されている。サプレッサー電極21には、負の電圧が印加される。ここで、マイクロ波ニュートラライザー15には、ニュートラライザー15からのプラズマ電子を試料基板の帯電防止のために効率良く流入させる負電圧が一般に印加される。この場合、ニュートラライザー15は、前述の第3電極と電気的に接続させて、第3電極と同電位の負電圧が印加された状態としても良い。サプレッサー電極21に印加される負の電圧は、ニュートラライザー15に印加される負の電圧以上の大きさの負電圧(好ましくは一20Vから一100V)が印加される。これにより、ファラデーカップ20には、プラズマ電子は入らずイオンビームのみが流入するので、正しい電流測定が可能となる。
【0027】
ファラデーカップ20の外周は、カバー23により覆われている。また、ファラデーカップ20からの電流検出信号は、電流導入端子22を介して、図1に示すように、試料ホルダ11の回転軸から、電流積算器16に接続されている。また、電流積算器16の出力である電流積算値は、表示装置17に表示可能となっている。
【0028】
なお、図1には、電力調整器19及び停止制御器18が図示されているが、これらは、第2の実施形態に用いるものであり、これらについては、後述する。
【0029】
次に、図4及び図5を用いて、本実施形態によるイオンミリング装置において、均一ビーム照射を可能とするための原理について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置におけるイオンビームの半径方向分布の説明図である。図5は、本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置における均一ビーム照射の原理説明図である。
【0030】
ここで、プラズマ生成室周辺に多極の永久磁石を配置したプラズマ源からイオンビームを引き出す構造のイオン源である場合、通常の多孔型引出電極を使い、イオンビームを引き出すと均一なビーム領域は中央部分に限られる。
【0031】
それに対して、本願発明者らは、引出し試験を行った結果、引出したビームの半径方向分布が高周波電力により変化することを見出した。
【0032】
図4は、高周波コイルに供給する高周波電力と、引き出されたイオンビームの半径方向の電流分布の関係を示している。
【0033】
図4において、横軸は中心からの距離を示し、縦軸はビーム電流値を示している。
【0034】
前述したように、電極間隔や引き出し孔径を調整することで、実線Aで示すように、ほぼ均一な電流分布を得ることができる。なお、この場合でも、実線Aに示すように、均一なビーム領域は中央部分に限られ、外周側では、わずかにビーム電流値が低下する。
【0035】
この状態で、高周波コイル4に加える高周波電力を変えると、引出したビームの半径方向分布が変化することが本願発明者の引出し試験により見出された。例えば、実線Aで示される場合の高周波電力値を1kWとすると、これよりも、高周波電力値を低くすると、実線Bで示すように、外周側におけるビーム電流値がさらに低下し、ビーム電流値の半径方向分布は均一な状態ではなくなる。
【0036】
また、高周波電力値を高くすると、実線Cで示すように、外周側におけるビーム電流値が高くなり、ビーム電流値の半径方向分布は均一な状態ではなくなる。
【0037】
いずれにしても、高周波コイル4に加える高周波電力を変えると、引出したビームの半径方向分布が変化することが見出された。
【0038】
なお、図4に実線Aで示したように、中央部分は比較的均一であるものの、周辺領域は一様度が悪いことが分かる。したがって、試料12のイオンビーム加工の量は、試料ホルダーを回転させない加工では、加工均一性が悪かった。また試料ホルダーを回転させた場合でも、均一なイオンビーム加工が行える試料サイズは直径150mm程度の小さいものに限られていた。
【0039】
最近試料の大きさの大型化が検討されており、直径200mmや、300mmの試料が検討されている。このような大型試料に対しては、図4に実線Aで示すような均一度のビームでは、加工精度を高めることはできないものである。
【0040】
このような問題を解決するため、本実施形態では、小孔ファラデーカップ20と、電流積算器16と、表示装置17とを備えるとともに、コイル4に供給する高周波電力の電力値を可変できる高周波電力源5を備えている。
【0041】
図1及び図2に示した複数のイオンビーム電流測定用の小孔ファラデーカップ20は、試料ホルダ11の半径方向に沿って一列に配置されている。イオンミリングの操作中のファラデーカップに流入する各電流値は、複数のファラデーカップ20によりそれぞれ測定される。電流積算器16は、イオンミリングの操作中のファラデーカップに流入する各電流値を、各ファラデーカップ毎に積算する。積算された電流値は、半径方向の電流分布として、表示装置17に表示される。表示装置17に表示された積算電流分布を見ながら、手動にて高周波電源5の出力を調整することで、イオンミリング加工終了時の積算電流分布を一様化できる。
【0042】
ここで、図5を用いて、本実施形態によるイオンミリング装置における均一ビーム照射の原理について説明する。
【0043】
図5において、横軸は中心からの距離を示し、縦軸は積算電流値を示している。
【0044】
図5において、実線Aは、イオンミリング加工終了時の積算電流分布を示している。積算電流値Xは既定値であり、積算電流分布は半径方向に均一に加工されたことを示している。
【0045】
ここで、イオンミリング加工を開始して、時間t経過した時点における積算電流値が、実線Bのように、表示装置17に表示されている場合は、均一に加工が継続しているので問題はない。しかしながら、破線Cで示すように、外周側での積算電流値が中央部よりも低い場合には、高周波電力源5の出力電力を手動で高くして、コイル4に供給する高周波電力値を高くする。これにより、ビーム電流値は、図4に実線Cで示すように、外周側で高くなるため、この状態で、イオンミリング加工を継続すると、外周側での積算電流値を矢印C’方向に大きくでき、最終的には、実線Aで示すイオンミリング加工終了時の積算電流分布のように、半径方向に均一に加工できる。なお、実線Aは説明のため直線で示したが、実際のイオンミリングでは実線Aは、±3%程度の凹凸が含まれても均一なミリングとみなされて実用に供されている。
【0046】
また、破線Dで示すように、外周側での積算電流値が中央部よりも高い場合には、高周波電力源5の出力電力を手動で低くして、コイル4に供給する高周波電力値を低くする。これにより、ビーム電流値は、図4に実線Bで示すように、外周側で低くなるため、この状態で、イオンミリング加工を継続すると、外周側での積算電流値を矢印D’方向に小さくでき、最終的には、実線Aで示すイオンミリング加工終了時の積算電流分布のように、半径方向に均一に加工できる。
【0047】
従来は±3%以上の加工不均一性が試料に見られたが、手動操作によっても±3%以下に改善することができた。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、高周波イオン源からの引出しビーム分布が高周波電力により変わることを利用して、試料基板半径方向の照射電流積算値分布を均一化させるので、極めて均一なイオンビーム加工が可能となる。
【0049】
次に、図1を用いて、本発明の第2の実施形態によるイオンミリング装置の構成及び動作について説明する。
【0050】
本実施形態では、図1に示した電力調整器19及び停止制御器18を用いて、自動で、加工均一性を向上できるようにしたものである。なお、本実施形態において、表示装置17は必ずしも必要ではないが、加工の均一性の途中経過を監視するためには必要なものである。
【0051】
本実施形態では、ファラデーカップ20を、図1及び図3に示すように、外周側のA群と、内周側のB群に分ける。積算器16は、A群のファラデーカップ20の積算電流の平均値と、B群のファラデーカップ20積算電流の平均値とをそれぞれ算出し、出力する。
【0052】
電力調整器19は、コンパレータ19Aと、電力指令器19Bとを備えている。コンパレータ19Aは、A群のファラデーカップ20の積算電流の平均値と、B群のファラデーカップ20積算電流の平均値との差を出力する。電力指令器19Bは、A群のファラデーカップ20の積算電流の平均値と、B群のファラデーカップ20積算電流の平均値との差に応じて、高周波電力値を上下する。具体的には、A群のファラデーカップ20の積算電流の平均値が、B群のファラデーカップ20積算電流の平均値よりも大きい場合には、高周波電力値を下げるように指令値を変えると共に、その際、A群とB群の差分が大きいほど、高周波電力値を下げる割合を大きくする。また、A群のファラデーカップ20の積算電流の平均値が、B群のファラデーカップ20積算電流の平均値よりも小さい場合には、高周波電力値を上げるように指令値を変えると共に、その際、A群とB群の差分が大きいほど、高周波電力値を上げる割合を大きくする。
【0053】
このように、自動的に高周波電力値を可変することで、A群、B群での積算電流値が一様になるように調整可能となり、直径150mm以上の,例えば、直径200mmや、300mmの大型な試料に対しても、試料の面内均一性で±3%以下の値が安定に得られた。その結果、加工精度を高めることができる。
【0054】
停止制御器18は、イオンビーム加工の終了を自動的に判定し、高周波電力のコイルへの供給を停止するものである。所定の加工を得るためのイオンビーム加工時間は、電流値や基板材料により異なるものの、その積算電流値により決まる。したがって、電力調整器19からの出力で高周波電力を変えると、分布だけでなく引き出されるイオンビーム電流値も変わる。イオンビーム電流値の変化に応じて加工時間を調整するか、若しくは、高周波電力の変化に応じてイオンビーム電流値を調整することで、制御が簡単で容易となる。
【0055】
一般にイオンビーム加工される試料は量産時には大量となるため、この試料に所定の加工を行うための積算電流値は、経験的に事前に決めておくことができる。停止制御器18は、この予測積算電流値Xと実測される全ファラデーカップ積算電流平均値Yを比較し、Y値がX値に達すれば、高周波電源5にオフ信号を出力して、高周波電源5がオフされてプラズマが消え、加工処理が終了する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、高周波イオン源からの引出しビーム分布が高周波電力により変わることを利用して、自動的に、試料基板半径方向の照射電流積算値分布を均一化させるので、極めて均一なイオンビーム加工が可能となる。
【0057】
次に、図6を用いて、本発明の第3の実施形態によるイオンミリング装置の構成及び動作について説明する。
図6は、本発明の第3の実施形態によるイオンミリング装置の全体構成図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0058】
本実施形態では、図1に示した実施形態とは、イオン源の構成が異なるものである。高周波電力は、石英円筒管2の外に巻かれ、かつ高周波プラズマ室1に永久磁石7が設けられている。その磁石配置に関する断面形状は、図2と同じである。
【0059】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、ファラデーカップ20の積算電流値を表示装置17に表示し、手動にて、高周波電源5の出力電力を調整することで、同等の試料均一加工が行える。また、第2の実施形態と同様に、ファラデーカップ20の積算電流値を用いて、電力調整器19と、停止制御器18により、自動にて、高周波電源5の出力電力を調整することで、同等の試料均一加工が行える。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、高周波イオン源からの引出しビーム分布が高周波電力により変わることを利用して、自動的に、試料基板半径方向の照射電流積算値分布を均一化させるので、極めて均一なイオンビーム加工が可能となる。
【0061】
次に、図7を用いて、本発明の第4の実施形態によるイオンミリング装置の構成及び動作について説明する。
図7は、本発明の第4の実施形態によるイオンミリング装置に用いるイオン源の構成図である。なお、本実施形態によるイオンミリング装置の全体構成は、図1と同様である。また、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0062】
本実施形態では、図1に示した実施形態とは、イオン源の構成が異なるものである。高周波(RF)プラズマ室1へのガスの導入にあたり、ガス導入口に図に示すように円筒石英管2の内径よりも1〜2mm程度口径の小さい石英円板24を設けている。本実施形態により、ガスは円筒石英管の周辺から内部に流入する結果、周辺プラズマが高密度になり易く、図3において周辺で引出し電流分布がピークを示すイオン源動作圧力範囲が広がった。また、周辺にピークを示す高周波電力の値もそれまでは1000W以上であったが、600W程度以上でもピークを持つようになった。これにより電流積算値の一様化の制御が容易になると共に制御可能な運転範囲が広がった。
【0063】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、ファラデーカップ20の積算電流値を表示装置17に表示し、手動にて、高周波電源5の出力電力を調整することで、同等の試料均一加工が行える。また、第2の実施形態と同様に、ファラデーカップ20の積算電流値を用いて、電力調整器19と、停止制御器18により、自動にて、高周波電源5の出力電力を調整することで、同等の試料均一加工が行える。
【0064】
また、図7に示した実施例と同様な石英円板を図6に示したイオン源に適用しても同様な効果が得られることは明らかである。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、高周波イオン源からの引出しビーム分布が高周波電力により変わることを利用して、自動的に、試料基板半径方向の照射電流積算値分布を均一化させるので、極めて均一なイオンビーム加工が可能となる。
【0066】
なお、以上の各実施形態では、ガスとしては主にアルゴンガスを使い、アルゴンイオンビームにより効果が確かめられたが、発明の本質からして別のガス種(CF、CHF、0等)でも同様な均一イオンビーム加工が可能になる。
【0067】
また、試料ホルダー11に取り付けるファラデーカップ20は、半径方向に一列に並べたが、周方向に分散させて配置しても良いことは発明の本質からして明らかである。
【0068】
以上、本発明に基づく試料ホルダーの半径方向に設けたファラデーカップ列によりイオンビーム加工時の電流積算値を測定、表示すると共にその積算分布に応じて高周波電力を制御すれば、イオンビームのミリング加工終了時に試料面内で極めて均一な微細加工が可能となる。イオンビームを使った材料の微細加工を行う産業分野に対し実用に供しその効果は著しく大である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置の全体構成図である。
【図2】図1のC−C’断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置に配置するファラデーカップの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置におけるイオンビームの半径方向分布の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態によるイオンミリング装置における均一ビーム照射の原理説明図である。
【図6】本発明の第3の実施形態によるイオンミリング装置の全体構成図である。
【図7】本発明の第4の実施形態によるイオンミリング装置に用いるイオン源の構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1…高周波(RF)プラズマ室
2…円筒石英管
3…プラズマ拡張室
4…高周波コイル
5…高周波電源
6…ガス流量調整器
7…永久磁石
8…多孔型引出し電極系
9…イオンビーム
10…真空排気装置
11…試料ホルダー
12…試料
14…処理室
15…マイクロ波プラズマニュートラライザー
16…積算器
17…表示装置
18…停止制御器
19…電力調整器
20…ファラデーカップ
21…サプレッサー電極
22…電流導入端子
23…カバー
24…石英円板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空に引かれた石英円筒管の大気側外周に高周波電流を流すためのコイルを巻き、石英円筒室にガスを流すことによりプラズマを生成し、かつこの石英円筒管の大気側の周方向に永久磁石を多極にして配置せしめて高密度プラズマを生成し、このプラズマから電圧印加された多孔型引出電極を使ってイオンビームを引出す高周波イオン源と、
該高周波イオン源から引き出されたイオンビームを基板に照射せしめることによりイオンビームによる基板の微細加工を行わせるイオンミリング装置であって、
複数の試料基板を乗せた円板状試料台の半径方向に一列に並べて配置され、イオンビーム電流を測定する複数のファラデーカップと、
各ファラデーカップの電流値を時間的に積算する電流積算器と、
該電流積算器により算出された電流積算値を表示する表示装置と、
前記高周波イオン源のコイルに高周波電力を供給するとともに、その高周波電力値が可変な高周波電源とを備えることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項2】
請求項1記載のイオンミリング装置において、
前記高周波イオン源は、前記石英円筒管に直結して配置されるとともに、永久磁石を周方向に多極に配置したプラズマ拡張室を備える構造であり、
前記石英円筒管内に生成したプラズマを前記プラズマ拡張室に導入し、かつ前記引出電極が、前記プラズマ拡張室に設けられてイオンビームを引き出すものであることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項3】
請求項1記載のイオンミリング装置において、
前記高周波イオン源は、前記石英円筒に入る放電ガス導入口に、前記石英円筒の内径よりわずかに小さい直径を持つ石英円板を備えることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項4】
請求項1記載のイオンミリング装置において、
前記試料基板は回転可能であることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項5】
真空に引かれた石英円筒管の大気側外周に高周波電流を流すためのコイルを巻き、石英円筒室にガスを流すことによりプラズマを生成し、かつこの石英円筒管の大気側の周方向に永久磁石を多極にして配置せしめて高密度プラズマを生成し、このプラズマから電圧印加された多孔型引出電極を使ってイオンビームを引出す高周波イオン源と、
該高周波イオン源から引き出されたイオンビームを基板に照射せしめることによりイオンビームによる基板の微細加工を行わせるイオンミリング装置であって、
複数の試料基板を乗せた円板状試料台の半径方向に一列に並べて配置され、イオンビーム電流を測定する複数のファラデーカップと、
各ファラデーカップの電流値を時間的に積算する電流積算器と、
前記高周波イオン源のコイルに高周波電力を供給するとともに、その高周波電力値が可変な高周波電源と、
前記複数のファラデーカップを2つの群の領域に分け、かつそれぞれの群の積算値の平均値の差に基づいて前記高周波電源から前記コイルに供給する高周波電力を調整する調整器を備えることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項6】
請求項5記載のイオンミリング装置において、
前記複数のファラデーカップの全ての積算電流平均値が、予め設定された予測積算電流値になると、前記高周波電源をオフする停止制御器を備えることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項7】
請求項5記載のイオンミリング装置において、
前記高周波イオン源は、前記石英円筒管に直結して配置されるとともに、永久磁石を周方向に多極に配置したプラズマ拡張室を備える構造であり、
前記石英円筒管内に生成したプラズマを前記プラズマ拡張室に導入し、かつ前記引出電極が、前記プラズマ拡張室に設けられてイオンビームを引き出すものであることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項8】
請求項5記載のイオンミリング装置において、
前記高周波イオン源は、前記石英円筒に入る放電ガス導入口に、前記石英円筒の内径よりわずかに小さい直径を持つ石英円板を備えることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項9】
請求項5記載のイオンミリング装置において、
前記試料基板は回転可能であることを特徴とするイオンミリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−118290(P2010−118290A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291984(P2008−291984)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(506391679)AE機器エンジニアリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】