イオン注入方法およびイオン注入装置
【課題】
基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の形状によらず、不所望なドーズ量分布である遷移領域を小さくするとともに、イオン注入処理に要する時間を短縮させることのできるイオン注入方法を提供する。
【解決手段】
このイオン注入方法は、イオンビーム3と基板11との相対的な位置関係を変更させることによって、基板11へのイオン注入を実施するイオン注入方法である。そして、基板11上に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と基板11上に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、第二のイオン注入処理時に基板11上に照射されるイオンビーム3の断面寸法が、第一のイオン注入処理時に基板11上に照射されるイオンビーム3の断面寸法よりも小さい。
基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の形状によらず、不所望なドーズ量分布である遷移領域を小さくするとともに、イオン注入処理に要する時間を短縮させることのできるイオン注入方法を提供する。
【解決手段】
このイオン注入方法は、イオンビーム3と基板11との相対的な位置関係を変更させることによって、基板11へのイオン注入を実施するイオン注入方法である。そして、基板11上に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と基板11上に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、第二のイオン注入処理時に基板11上に照射されるイオンビーム3の断面寸法が、第一のイオン注入処理時に基板11上に照射されるイオンビーム3の断面寸法よりも小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成するイオン注入方法およびイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の製造工程の1つであるイオン注入工程では、基板(例えば、ウエハやガラス基板)の面内に注入されるイオンの注入量(ドーズ量とも言う)分布が不均一となるようにイオン注入処理が実施される場合がある。
【0003】
例えば、半導体基板の製造工程において、1枚の基板上に製造される半導体デバイスの特性が基板の面内で不均一となる問題がある。
【0004】
このような不均一な半導体デバイスの特性分布を補償する手段として、従来からイオン注入工程において基板に注入されるドーズ量を基板の面内で不均一な分布にするという手法が用いられてきた。
【0005】
特許文献1にはその具体的な手法が開示されている。ここでは、Y方向への基板の往復駆動と、Y方向と直交するX方向にスポット状のイオンビームを電界あるいは磁界によって走査させることで、基板へのイオン注入を実現するイオン注入装置が開示されている。このタイプのイオン注入装置は、ハイブリッドスキャン方式と呼ばれており、このイオン注入装置を用いて、基板上でのイオンビームの位置に応じてイオンビームの走査速度を切り替えることで、基板の面内に不均一なドーズ量分布が形成される。
【0006】
一方、半導体基板の製造工程にて、基板の利用効率を向上させる為に、1枚の基板上の異なる領域に特性の異なる半導体デバイスを製造することが行われてきた。この例が特許文献2に開示されている。
【0007】
特許文献2では、特許文献1と同じくハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置を用いて、基板へのイオン注入が行われている。まず、基板の中央部を挟んで、2つの異なるドーズ量分布を形成する為に、基板の中央部をイオンビームが横切る際に、イオンビームの走査速度と基板の駆動速度のいずれか一方の速度を別の速度に切り替えて基板へのイオン注入を行う。次に、基板を90度回転させて、再び基板の中央部をイオンビームが横切る際に、イオンビームの走査速度と基板の駆動速度のいずれか一方の速度の値を切り替えてイオン注入を行う。これによって、基板上に異なるドーズ量分布をもつ4つの領域が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−118235号公報(図3〜10、図12〜18)
【特許文献2】特開2003−132835号公報(図1〜10、段落0062〜0064、段落0096)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2の段落0062〜0064や段落0096に記載されているように、イオンビームの走査速度や基板の駆動速度が所望の値に切り替わるまでに、短時間ではあるが時間を要する。所望する速度に切り替わるまでの間に基板にイオンビームが照射されると、基板に遷移領域と呼ばれる不所望なドーズ量分布の領域が形成される。
【0010】
図11(A)〜(F)には、遷移領域の形成される様子が記載されている。図11(A)には、これから基板の面内に形成しようとするドーズ量分布が描かれている。ここでは、同心円状のドーズ量分布を例に挙げており、中央領域にドーズ量D2、外周領域にドーズ量D1の領域を形成することを目的にしている。図11(B)には、図11(A)に記載の線分A−Aで基板を切断した時のドーズ量分布の様子が描かれている。なお、図11(B)〜(E)のグラフでの横軸は、線分A−A上での位置を表していて、図11(A)、図11(F)に記載の線分A−Aは、基板の中央を通り、基板を2分している。
【0011】
この例では、説明を簡単に行う為に、ハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置で、イオンビームの電流密度と基板の駆動速度が常に一定であるものとしている。この場合、基板に注入されるドーズ量は、イオンビームの走査速度に反比例する。その為、図11(B)に示すドーズ量分布を得るには、図11(C)のようにイオンビームの走査速度を変更する必要がある。
【0012】
ただし、走査速度の切り替えには若干の時間がかかるので、実際には図11(D)に示されるようにイオンビームの走査速度の切り替えが行われる。その結果、図11(E)に示すようなドーズ量分布が線分A−A上に形成される。最終的に基板の面内に形成されるドーズ量分布は、図11(F)に描かれるようにドーズ量D1、ドーズ量D2の領域以外に遷移領域Rが形成されることになる。
【0013】
このような遷移領域が大きいと、半導体デバイスの特性分布の補償が不十分となる等の問題が発生する。その為、この遷移領域はできるだけ小さなものにすることが望まれる。そこで、特許文献2では、このような遷移領域を小さくする為に、イオンビームの寸法を小さくすることが提案されている。具体的には、基板の中央部でX方向に走査されるイオンビームの走査速度を切り替える場合、イオンビームのX方向の寸法であるWXを小さくしておく。イオンビームの寸法を小さくすると、その分のビーム電流が減少する。その為、このようなイオンビームを用いて基板へのイオン注入処理を行うと、所望のドーズ量分布を達成するまでに要する時間が長くなってしまう。この対策として、X方向と直交するY方向のイオンビームの寸法であるWYを大きくし、おおよそ楕円形状のイオンビームを用いてイオン注入処理を行うことでイオンビームのビーム電流の減少を抑制することが提案されていた。
【0014】
ただし、特許文献1や図11に示される円形状のドーズ量分布を基板上に形成する場合、特許文献2で提案されているような楕円形状のイオンビームを用いたとしても、遷移領域を小さくし、かつ、ビーム電流の減少を抑制してイオン注入処理に要する時間を短くするといった効果を奏することはできない。
【0015】
特許文献1や図11に記載の円形状のドーズ量分布では、イオンビームがX方向に沿って基板上に走査される際に、Y方向においてもドーズ量の分布が変化する。その為、Y方向においても遷移領域を小さくすることを考えなければならないので、特許文献2で提案されている楕円形状のイオンビームを用いるだけでは不十分となる。
【0016】
そこで、本発明では基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の形状によらず、不所望なドーズ量分布である遷移領域を小さくするとともに、イオン注入処理に要する時間を短縮することのできるイオン注入方法およびイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入方法において、前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、前記第二のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法よりも小さいことを特徴とする。
【0018】
このように、基板の面内に不均一な注入分布を形成する際に、大きな断面寸法を有するイオンビームを用いたイオン注入処理と小さな断面寸法を有するイオンビームを用いたイオン注入処理とを組み合わせるようにしたので、基板上に形成される遷移領域を十分に小さなものにするだけでなく、イオン注入処理に要する時間を短くすることが期待できる。
【0019】
また、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うようにすることが望ましい。
【0020】
第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理でイオン注入装置の運転パラメーターを変更する場合、上記した構成にしておけば、運転パラメーターを変更する回数が1回で済む。その為、運転パラメーターの変更に伴って装置を再運転させるまでに要する待ち時間をほとんど考慮する必要がないので、その分、イオン注入処理をより短時間に済ませることが期待できる。
【0021】
さらに、イオン注入装置としては、イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入装置において、前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、前記第二のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法よりも小さくなるように制御する機能を有する制御装置を備えていることを特徴としている。
【0022】
また、前記制御装置は、前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うように制御する機能を有していることが望ましい。
【0023】
このような装置構成にしておけば、先述のイオン注入方法と同等の効果を奏することができる。
【0024】
さらに、次のような装置構成を採用しても良い。前記イオン注入装置には、前記基板に照射されるイオンビームを整形するビーム整形マスクが備えられており、前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理に応じて、前記ビーム整形マスクの位置調整を行う機能を有していることが望ましい。
【0025】
このようにビーム整形マスクを利用すると、イオンビームの断面寸法の調整を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の形状によらず、不所望なドーズ量分布である遷移領域を小さくするとともに、イオン注入処理に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に関するイオン注入装置の一例を表す平面図である。
【図2】本発明に関する不均一注入処理の一例を表すフローチャートである。
【図3】本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理で基板上に照射されるイオンビームの断面寸法の関係を表す。
【図4】本発明に関する不均一注入処理の別の例を表すフローチャートであり、図5のAに続く。
【図5】本発明に関する不均一注入処理の別の例を表すフローチャートであり、図4のAからの続きである。
【図6】本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を用いて基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の一例を表す。
【図7】本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を用いて基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の別の例を表す。
【図8】本発明のイオン注入装置に備えられた加速管の一例を表す。
【図9】本発明のイオン注入装置に備えられた四重極レンズの一例を表す。
【図10】本発明のイオン注入装置に備えられたビーム整形マスクの一例を表す。
【図11】遷移領域が形成される様子を描いた説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の図面に記載されているX、Y、Z軸の方向は、互いに直交しており、Z方向はイオンビームの進行方向を、X方向はイオンビームの走査方向を示している。
【0029】
本発明に関するイオン注入装置1の一例が図1に示されている。図1に記載のX、Y、Zの各軸は後述する処理室14内での方向を指す。このイオン注入装置1は、いわゆるハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置であり、特許文献1や特許文献2に示されているイオン注入装置と同等の機能を有している。
【0030】
各部の構成を簡単に説明する。イオン源2から射出されたスポット状のイオンビーム3は、質量分析マグネット4で偏向され、図示されない分析スリットでイオンビーム3より所望する成分のイオンのみが抽出される。その後、イオンビーム3は加速管5を通過することで、所望するエネルギーを有するイオンビーム3に変換される。
【0031】
加速管5を通過後、イオンビーム3は四重極レンズ6でその形状が整形され、エネルギー分離器7に入射する。エネルギー分離器7は、例えば質量分析マグネット4と同様に電磁石で構成されており、イオンビーム3を所定の偏向量をもって偏向させることで、イオンビーム3から中性粒子や不要なエネルギー成分を分離する。
【0032】
イオンビーム3はX方向において基板11よりも長い幅を有するように、走査器8によってX方向に磁界あるいは電界によって走査される。
【0033】
走査器8によって走査されたイオンビーム3は、コリメーターマグネット9でその外形がZ方向に平行なイオンビーム3となるように偏向される。その後、イオンビーム3はビーム整形マスク10を通過し、処理室14内に配置された基板11に照射される。
【0034】
基板11はプラテン12上に静電吸着によって保持されていて、プラテン12はY方向に延設された図示されないスキャン軸に連結されている。駆動装置13には、モーターが設けられており、このモーターによってスキャン軸をY方向に沿って往復駆動させることで、基板11の全面に対するイオンビーム3の照射が行われる。
【0035】
このようなイオン注入装置1には、制御装置30が設けられている。この制御装置30は、各種電源を制御する機能を有しており、基板11に照射されるイオンビーム3の断面寸法を調整する為に、例えば、イオン源2、加速管5、四重極レンズ6、ビーム整形マスク10の駆動装置の各々に備えられた電源との間で、有線あるいは無線により、電気信号(S)のやり取りが行えるように構成されている。そして、後述する第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理との切り替えに応じて、この制御装置30によりこれらの電源が制御される。
【0036】
なお、この制御装置30に上記した機能以外に、走査器8でイオンビーム3を走査する走査速度を制御したり、基板11を駆動させる駆動速度を制御したりする機能やその他の光学要素(質量分析マグネット4やエネルギー分離器8等)を制御する機能を備えるようにしておいても良い。さらに、図示されない搬送機構により、処理室14内に基板11を搬送して所定の注入位置に配置する機能や注入位置より基板11を取り出して、処理室14外に搬出する機能を備えるようにしておいても良い。また、別の制御装置を設けておき、その制御装置に先述した走査器8等を制御する機能を設けるようにしても良い。その場合、2つの制御装置間で電気信号の通信が行える状態にしておくとともに、一方が他方を制御するような関係にしておくことが考えられる。
【0037】
特許文献2に記載されているように、遷移領域を小さくするだけであれば基板11に照射されるイオンビーム3の寸法を小さくすれば良い。ただし、イオンビーム3の寸法を小さくすると、基板11の面内に所望する不均一なドーズ量分布を形成させるのに時間を要してしまう。一方で、イオンビーム3の寸法を大きくしておくと、基板11の面内に所望する不均一なドーズ量分布を達成させる時間を短くすることができるが、遷移領域が大きくなってしまう。
【0038】
上記の点を考慮し、本発明では基板に照射される断面寸法の異なるイオンビームを用いて2種類のイオン注入処理を行うことを特徴としている。図2には、本発明の不均一注入処理の一例を表すフローチャートが記載されている。以下、これについて説明する。
【0039】
図2のフローチャートでは、複数枚の基板を一枚ずつ注入位置に配置させ、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を連続して行った後、処理済の基板を注入位置より取り出し、処理対象とする基板がなくなるまでこの一連の処理を繰り返す手法が記載されている。
【0040】
より詳細には、まず、第一のイオン注入処理で、大きな断面寸法のイオンビームを用いて基板11の面内に均一なイオン注入処理を施す。続いて、第二のイオン注入処理で、第一のイオン注入処理で用いたイオンビーム3よりも小さな断面寸法のイオンビーム3を用いて基板11の面内に不均一なイオン注入処理を施す。最終的に、基板11の面内に形成されるドーズ量分布は、個々のイオン注入処理によって形成されたドーズ量分布を足し合わせたものになる。なお、ここで言う、均一、不均一とは、基板の面内におけるドーズ量が全面に渡って一定の値となる(均一)か、そうでないか(不均一)という意味で用いられている。
【0041】
このようにして、異なるイオン注入処理によるドーズ量分布を足し合わせることで、遷移領域を小さくするとともに、短時間で基板11の面内に所望する不均一なドーズ量分布を形成することができる。なお、第一のイオン注入処理に続いて第二のイオン注入処理を行う例について述べたが、これらの関係は逆であっても良い。つまり、第二のイオン注入処理に続いて第一のイオン注入処理を行うようにしても良い。
【0042】
図3(A)〜(D)には、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理で基板上に照射されるイオンビームの断面寸法の関係を表す例が示されている。図3(A)は第一のイオン注入処理で使用されるイオンビーム3の断面形状であり、図3(B)〜(D)にはその外形が破線で描かれている。また、図3(B)〜(D)の実線は第二のイオン注入処理で使用されるイオンビーム3の断面形状が描かれている。
【0043】
本発明では、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法の方が、第一のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法に比べて小さいことを特徴としている。ここで言う断面寸法の大小関係については、次のように考える。基板11に照射されるイオンビーム3の断面形状を考えた場合、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面形状が第一のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面形状に包含されている。この場合、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法が、第一のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法に比べて小さいという。
【0044】
より具体的に言えば、図3(B)〜(D)に挙げられているように、第一のイオン注入処理で用いられるイオンビームの断面形状(破線)が、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビームの断面形状(実線)を包含しているものである。
【0045】
図4および図5には、本発明に関する不均一注入処理のフローチャートを表す別の例が示されている。図2の例との違いとして、この例では複数枚の基板に対して第一のイオン注入処理を連続して行った後に、第二のイオン注入処理が連続して行われる。なお、図2の例と同じく、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を行う順番を逆にしても良い。
【0046】
各イオン注入処理において、イオンビーム3の断面寸法を変更するに当たって、イオン注入装置1のイオン源2や各種マグネット等の運転パラメーターの変更が行われる。例えば、図2の例では、1枚の基板を処理する度に、少なくとも各注入処理の間でこれらの運転パラメーターを変更しなければならない。さらに、運転パラメーター変更の後、基板11に所望する断面寸法のイオンビーム3が照射されているかどうかをモニターして、所望する寸法でない場合にそれらの運転パラメーターの値を修正するといった処理が行われると、余計に時間がかかってしまう。
【0047】
その為、図4、図5に例示したように、複数枚の基板に対して各々のイオン注入処理を連続して行った方が、イオン注入処理に要する時間を短縮させることが期待できる。なお、ここでいう複数枚の基板とは、例えばロット単位での集合を意味している。
【0048】
図6には、本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を用いて基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の一例が開示されている。ここでは、基板11の一部に略リング形状を成すドーズ量が多い領域が形成される。
【0049】
例えば、第一のイオン注入処理で基板11の全面にドーズ量D0の均一なイオン注入を行う。その後、所定の領域にD10あるいはD20のドーズ量が注入されるようにイオンビーム3の基板11上での位置に応じて、イオンビーム3の走査速度や基板11の駆動速度が制御される。
【0050】
図7には、基板11の中央部分でドーズ量の異なる領域が2分されている様子が描かれている。ここに示されるようなドーズ量分布を有するものであっても、図6に示されたドーズ量分布に対して行ったイオン注入処理と同様にして、2つのイオン注入処理を行うことで小さな遷移領域を有する不均一なドーズ量分布を基板11の面内に短時間で形成させることが可能となる。
【0051】
基板11へのイオン注入を行う際、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理の各イオン注入処理でどれほどのドーズ量の注入を行うのかについては、次のようにして求める。
【0052】
図6、図7において第二のイオン注入処理で注入されるドーズ量に着目する。低いドーズ量の部分(ドーズ量D10)に対して高いドーズ量の部分(ドーズ量D20)がどの程度の割合(ドーズ倍率と呼ぶ。数1においてXで表す。)となるのかについて、次の数1のように表すことができる。
【0053】
【数1】
【0054】
この数1を変形すると、数2のように表すことができる。
【数2】
【0055】
この数2を更に変形すると、数3のように表すことができる。
【数3】
【0056】
ドーズ倍率Xは、半導体デバイスの特性を補償するにあたってどの程度の遷移領域が許容できるのか、あるいは、イオン注入装置1に備えられたイオンビーム3の走査速度や基板11の駆動速度を切り替える際の応答特性等の条件によって許容できる値の範囲が決定される。
【0057】
イオン注入処理の時間を短くするという観点から、ドーズ倍率Xは許容範囲内で最大に近い値が選択されることが望ましい。これはドーズ倍率Xが大きくなるほど、第一のイオン注入処理によってより多くのイオン注入がなされることになるからである。同じドーズ量の注入を行うにあたって、大きな断面寸法のイオンビーム3を用いる第一のイオン注入処理と小さな断面寸法のイオンビーム3を用いる第二のイオン注入処理では、第一のイオン注入処理を用いた方が、注入処理に要する時間が短い。その為、全体の注入処理に要する時間を短くするには、第一のイオン注入処理によるイオン注入をできるだけ長時間行う方が望ましい。
【0058】
上述した点を考慮して、適切なドーズ倍率Xの値が決定されると、ドーズ量D1とドーズ量D2は所望する不均一なドーズ量分布によって決定される既知の値であることから、第一のイオン注入処理で注入されるべきドーズ量D0の値を求めることができる。こうして求められたドーズ量D0を用いて、第一のイオン注入処理が行われる。
【0059】
イオンビームの断面寸法を調整する手法としては、様々な手法が考えられる。これについていくつかの具体例を以下に述べる。
【0060】
図8には、図1のイオン注入装置に備えられた加速管5の一例が開示されている。この加速管5は、Z方向に沿って、高電圧側電極16、フォーカス電極18、大地側電極17の電位の異なる3枚の管状電極を有しており、各電極間には絶縁ガラス15が配置されている。高電圧側電極16と大地側電極17との間には、加速減速電源19が接続されており、この電源を調整することで加速管5を通過するイオンビーム3のエネルギーの調整がなされている。そして、高電圧側電極16とフォーカス電極18との間にはフォーカス電源20が接続されており、このフォーカス電源20を調整することによって各電極間に所望の電界を発生させて、そこを通過するイオンビーム3を収束あるいは発散させるように構成されている。このような構成の加速管5を用いて、第一のイオン注入処理、第二のイオン注入処理に応じて、適宜、イオンビームの断面寸法の調整を行うようにしておいても良い。
【0061】
図9には、図1のイオン注入装置に備えられた四重極レンズ6の一例が開示されている。ここでは、電磁石を用いた四重極レンズ6の例が記載されている。この四重極レンズ6は、4つの磁極27のそれぞれにコイル28が巻き回されている。そして、各コイル28に電流Iを流すことによって、各磁極27の先端部に4つの極性が形成される。各磁極27の先端部間には、磁界Bが発生しており、そこを通過するイオンビーム3にはローレンツ力Fが発生する。図9の例では、このローレンツ力Fによって、イオンビーム3がX方向に沿って短く、Y方向に沿って長くなるように整形される。具体的には、図中に描かれる実線のイオンビーム3の形状が破線で描かれているように楕円形状に変形される。この四重極レンズ6で楕円形状に整形されたイオンビーム3の長手方向を図10に描かれるビーム整形マスク10を用いて除去してやることで、イオンビーム3の寸法を小さくすることが考えられる。なお、ここではイオンビーム3として、正の電荷を有するものを想定している。また、四重極レンズ6は図9に示された電磁石ではなく、静電レンズで構成されていても良い。
【0062】
図10(A)〜(C)には、図1のイオン注入装置に備えられたビーム整形マスク10の例が開示されている。この図10(A)〜(C)において、X、Y、Z軸の方向は共通している。図10(A)のビーム整形マスク10には、大口径のスリット21と小口径のスリット22が設けられている。図1で示したようにこのビーム整形マスク10が走査器8の下流側(走査器8よりも基板11側)に設けられている為、マスクに設けられた開口部は、この図のようにイオンビーム3の走査方向に長く伸びたスリット形状となっている。
【0063】
図10(A)の例では、第一のイオン注入処理を行う際には、大口径のスリット21をイオンビーム3が通過するようにしておく。一方、第二のイオン注入処理を行う際には、小口径のスリット22をイオンビーム3が通過するようにしておく。例えば、ビーム整形マスク10はシャフト24に連結されており、このシャフト24が駆動装置23によってY方向に移動可能に支持されている。このような機構を用いて、イオン注入処理の種類に応じてビーム整形マスク10の位置調整がなされる。
【0064】
図10(B)には、1つのスリット29を備えたビーム整形マスク10の例が開示されている。第一のイオンビーム処理を行う場合、ビーム整形マスク10はイオンビーム3が照射されない位置に移動される。この例の場合では、Y方向逆側に図示されない駆動装置によってイオンビーム3の経路より退避させられる。そして、第二のイオン注入処理を行う場合に、イオンビーム3がスリット29を通過するようにビーム整形マスク10の位置調整がなされる。
【0065】
図10(C)には、2つの丸孔を有するビーム整形マスク10の例が開示されている。例えば、このビーム整形マスク10は、図1の走査器8の上流側(走査器8よりもイオン源2側)に配置しておき、走査前にイオンビームの形状を整形するようにしておく。2つの丸孔の切り替えは、図10(A)の例と同じく、大口径の丸孔25を第一のイオン注入の際に用いて、小口径の丸孔26を第二のイオン注入の際に用いる。また、丸孔を1つにしておいて、図10(B)に示される1つのスリット29の例と同じように取り扱っても良い。なお、このビーム整形マスク10は、図9の四重極レンズ6と組み合わせて用いても良いし、イオン注入装置に備えられた四重極レンズ6とは別の光学要素と組み合わせて用いても良い。さらに、ビーム整形マスク10を単独で用いてイオンビーム3の断面寸法を調整するようにしても良い。
【0066】
<その他の変形例>
上記実施形態では、加速管5や四重極レンズ6、あるいは、ビーム整形マスク10を用いて、イオンビーム3の断面寸法を調整する手法について述べたが、それ以外の手法を用いても良い。例えば、イオン源2の各種パラメーター(引出電極に印加する電圧値や引出電極の位置や傾き等)を調整して、基板11に照射されるイオンビーム3の断面寸法を調整するようにしても良い。
【0067】
さらに、これまでの実施形態では、ハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置について述べてきたが、本発明はこの種のタイプのイオン注入装置以外への適用も可能である。例えば、基板11を固定させておき、イオンビームを直交する2方向に走査する、ラスタースキャン方式のイオン注入装置にも適用させることは可能である。この場合、基板11の面内に不均一なドーズ量分布を形成する為に、イオンビームの2方向における走査速度を、基板11上の位置に応じて、適宜、調整するように構成しておけばいい。その上で、先の実施形態で述べた、異なるイオンビームの断面寸法を用いた第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理とを行うようにすれば良い。なお、ラスタースキャンの方式としては、基板の固定に代えて、イオンビームを固定しておき、基板を直交する2方向に駆動させる方式を採用しても良い。
【0068】
また、1枚ずつ基板を処理する枚葉式の注入機構ではなく、複数枚の基板を一気に処理するバッチ式の注入機構を採用しても良い。その場合、図2や図4、図5で示したフローチャートにおいて、1枚ずつ基板が処理されるのではなく、複数枚の基板がまとめて処理されることになる。
【0069】
一方で、イオン注入装置を2台用いるようにして、インライン方式で基板を連続処理するようにして良い。例えば、一方のイオン注入装置を第一のイオン注入処理に対応した運転パラメーターで運転させておき、他方のイオン注入装置を第二のイオン注入処理に対応した運転パラメーターで運転させておく。その上で、両装置の処理室を連結させておき、真空を破らずに異なる装置間に基板を連続搬送させ、順次に基板を処理していく構成とすることが考えられる。
【0070】
その他、イオン源よりスポット状のイオンビームを射出させ、これを走査する方式のイオン注入装置について述べてきたが、イオン源よりリボン状(略長方形状)のイオンビームを射出させ、これを一平面内で基板の寸法よりも大きくなるように拡大させてから、基板に照射するといった方式のイオン注入装置にも本発明は適用できる。また、イオンビームを途中で拡大するのではなく、大きなイオン源を用意しておいて、始めから一平面内で基板の寸法よりも大きなリボン状のイオンビームを発生させる方式のイオン注入装置にも本発明は適用できる。
【0071】
これらのイオン注入装置の場合、イオンビームの広がり方向に対して略直交する方向、つまり略長方形状のイオンビームの短辺方向に沿って、基板を駆動されることで、基板の全面に対してイオン注入が行われる。これらのイオン注入装置で、基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成するには、基板の駆動速度を変更すれば良い。
【0072】
そして、基板上に照射されるイオンビームの断面形状はおおよそ長方形状となるので、先の実施形態で述べた加速管や四重極レンズ、ビーム整形マスクを用いて、基板に照射されるリボン状のイオンビームの短辺方向の幅を制御することによって、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理とで基板に照射されるイオンビームの断面寸法を調整するように構成すれば良い。
【0073】
また、第一のイオン注入処理が完全に終了する前に、当該注入処理を一旦停止させておき、第二のイオン注入に切り替えて、第二のイオン注入処理の完了させた後、再び、第一のイオン注入処理の続きを行うといった順番でイオン注入処理を行っても良い。
【0074】
その他、前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0075】
1.イオン注入装置
2.イオン源
3.イオンビーム
4.質量分析マグネット
5.加速管
6.四重極レンズ
7.エネルギー分離器
8.走査器
9.コリメーターマグネット
10.ビーム整形マスク
11.基板
12.プラテン
13.駆動装置
14.処理室
30.制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成するイオン注入方法およびイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の製造工程の1つであるイオン注入工程では、基板(例えば、ウエハやガラス基板)の面内に注入されるイオンの注入量(ドーズ量とも言う)分布が不均一となるようにイオン注入処理が実施される場合がある。
【0003】
例えば、半導体基板の製造工程において、1枚の基板上に製造される半導体デバイスの特性が基板の面内で不均一となる問題がある。
【0004】
このような不均一な半導体デバイスの特性分布を補償する手段として、従来からイオン注入工程において基板に注入されるドーズ量を基板の面内で不均一な分布にするという手法が用いられてきた。
【0005】
特許文献1にはその具体的な手法が開示されている。ここでは、Y方向への基板の往復駆動と、Y方向と直交するX方向にスポット状のイオンビームを電界あるいは磁界によって走査させることで、基板へのイオン注入を実現するイオン注入装置が開示されている。このタイプのイオン注入装置は、ハイブリッドスキャン方式と呼ばれており、このイオン注入装置を用いて、基板上でのイオンビームの位置に応じてイオンビームの走査速度を切り替えることで、基板の面内に不均一なドーズ量分布が形成される。
【0006】
一方、半導体基板の製造工程にて、基板の利用効率を向上させる為に、1枚の基板上の異なる領域に特性の異なる半導体デバイスを製造することが行われてきた。この例が特許文献2に開示されている。
【0007】
特許文献2では、特許文献1と同じくハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置を用いて、基板へのイオン注入が行われている。まず、基板の中央部を挟んで、2つの異なるドーズ量分布を形成する為に、基板の中央部をイオンビームが横切る際に、イオンビームの走査速度と基板の駆動速度のいずれか一方の速度を別の速度に切り替えて基板へのイオン注入を行う。次に、基板を90度回転させて、再び基板の中央部をイオンビームが横切る際に、イオンビームの走査速度と基板の駆動速度のいずれか一方の速度の値を切り替えてイオン注入を行う。これによって、基板上に異なるドーズ量分布をもつ4つの領域が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−118235号公報(図3〜10、図12〜18)
【特許文献2】特開2003−132835号公報(図1〜10、段落0062〜0064、段落0096)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2の段落0062〜0064や段落0096に記載されているように、イオンビームの走査速度や基板の駆動速度が所望の値に切り替わるまでに、短時間ではあるが時間を要する。所望する速度に切り替わるまでの間に基板にイオンビームが照射されると、基板に遷移領域と呼ばれる不所望なドーズ量分布の領域が形成される。
【0010】
図11(A)〜(F)には、遷移領域の形成される様子が記載されている。図11(A)には、これから基板の面内に形成しようとするドーズ量分布が描かれている。ここでは、同心円状のドーズ量分布を例に挙げており、中央領域にドーズ量D2、外周領域にドーズ量D1の領域を形成することを目的にしている。図11(B)には、図11(A)に記載の線分A−Aで基板を切断した時のドーズ量分布の様子が描かれている。なお、図11(B)〜(E)のグラフでの横軸は、線分A−A上での位置を表していて、図11(A)、図11(F)に記載の線分A−Aは、基板の中央を通り、基板を2分している。
【0011】
この例では、説明を簡単に行う為に、ハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置で、イオンビームの電流密度と基板の駆動速度が常に一定であるものとしている。この場合、基板に注入されるドーズ量は、イオンビームの走査速度に反比例する。その為、図11(B)に示すドーズ量分布を得るには、図11(C)のようにイオンビームの走査速度を変更する必要がある。
【0012】
ただし、走査速度の切り替えには若干の時間がかかるので、実際には図11(D)に示されるようにイオンビームの走査速度の切り替えが行われる。その結果、図11(E)に示すようなドーズ量分布が線分A−A上に形成される。最終的に基板の面内に形成されるドーズ量分布は、図11(F)に描かれるようにドーズ量D1、ドーズ量D2の領域以外に遷移領域Rが形成されることになる。
【0013】
このような遷移領域が大きいと、半導体デバイスの特性分布の補償が不十分となる等の問題が発生する。その為、この遷移領域はできるだけ小さなものにすることが望まれる。そこで、特許文献2では、このような遷移領域を小さくする為に、イオンビームの寸法を小さくすることが提案されている。具体的には、基板の中央部でX方向に走査されるイオンビームの走査速度を切り替える場合、イオンビームのX方向の寸法であるWXを小さくしておく。イオンビームの寸法を小さくすると、その分のビーム電流が減少する。その為、このようなイオンビームを用いて基板へのイオン注入処理を行うと、所望のドーズ量分布を達成するまでに要する時間が長くなってしまう。この対策として、X方向と直交するY方向のイオンビームの寸法であるWYを大きくし、おおよそ楕円形状のイオンビームを用いてイオン注入処理を行うことでイオンビームのビーム電流の減少を抑制することが提案されていた。
【0014】
ただし、特許文献1や図11に示される円形状のドーズ量分布を基板上に形成する場合、特許文献2で提案されているような楕円形状のイオンビームを用いたとしても、遷移領域を小さくし、かつ、ビーム電流の減少を抑制してイオン注入処理に要する時間を短くするといった効果を奏することはできない。
【0015】
特許文献1や図11に記載の円形状のドーズ量分布では、イオンビームがX方向に沿って基板上に走査される際に、Y方向においてもドーズ量の分布が変化する。その為、Y方向においても遷移領域を小さくすることを考えなければならないので、特許文献2で提案されている楕円形状のイオンビームを用いるだけでは不十分となる。
【0016】
そこで、本発明では基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の形状によらず、不所望なドーズ量分布である遷移領域を小さくするとともに、イオン注入処理に要する時間を短縮することのできるイオン注入方法およびイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入方法において、前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、前記第二のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法よりも小さいことを特徴とする。
【0018】
このように、基板の面内に不均一な注入分布を形成する際に、大きな断面寸法を有するイオンビームを用いたイオン注入処理と小さな断面寸法を有するイオンビームを用いたイオン注入処理とを組み合わせるようにしたので、基板上に形成される遷移領域を十分に小さなものにするだけでなく、イオン注入処理に要する時間を短くすることが期待できる。
【0019】
また、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うようにすることが望ましい。
【0020】
第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理でイオン注入装置の運転パラメーターを変更する場合、上記した構成にしておけば、運転パラメーターを変更する回数が1回で済む。その為、運転パラメーターの変更に伴って装置を再運転させるまでに要する待ち時間をほとんど考慮する必要がないので、その分、イオン注入処理をより短時間に済ませることが期待できる。
【0021】
さらに、イオン注入装置としては、イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入装置において、前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、前記第二のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法よりも小さくなるように制御する機能を有する制御装置を備えていることを特徴としている。
【0022】
また、前記制御装置は、前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うように制御する機能を有していることが望ましい。
【0023】
このような装置構成にしておけば、先述のイオン注入方法と同等の効果を奏することができる。
【0024】
さらに、次のような装置構成を採用しても良い。前記イオン注入装置には、前記基板に照射されるイオンビームを整形するビーム整形マスクが備えられており、前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理に応じて、前記ビーム整形マスクの位置調整を行う機能を有していることが望ましい。
【0025】
このようにビーム整形マスクを利用すると、イオンビームの断面寸法の調整を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の形状によらず、不所望なドーズ量分布である遷移領域を小さくするとともに、イオン注入処理に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に関するイオン注入装置の一例を表す平面図である。
【図2】本発明に関する不均一注入処理の一例を表すフローチャートである。
【図3】本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理で基板上に照射されるイオンビームの断面寸法の関係を表す。
【図4】本発明に関する不均一注入処理の別の例を表すフローチャートであり、図5のAに続く。
【図5】本発明に関する不均一注入処理の別の例を表すフローチャートであり、図4のAからの続きである。
【図6】本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を用いて基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の一例を表す。
【図7】本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を用いて基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の別の例を表す。
【図8】本発明のイオン注入装置に備えられた加速管の一例を表す。
【図9】本発明のイオン注入装置に備えられた四重極レンズの一例を表す。
【図10】本発明のイオン注入装置に備えられたビーム整形マスクの一例を表す。
【図11】遷移領域が形成される様子を描いた説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の図面に記載されているX、Y、Z軸の方向は、互いに直交しており、Z方向はイオンビームの進行方向を、X方向はイオンビームの走査方向を示している。
【0029】
本発明に関するイオン注入装置1の一例が図1に示されている。図1に記載のX、Y、Zの各軸は後述する処理室14内での方向を指す。このイオン注入装置1は、いわゆるハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置であり、特許文献1や特許文献2に示されているイオン注入装置と同等の機能を有している。
【0030】
各部の構成を簡単に説明する。イオン源2から射出されたスポット状のイオンビーム3は、質量分析マグネット4で偏向され、図示されない分析スリットでイオンビーム3より所望する成分のイオンのみが抽出される。その後、イオンビーム3は加速管5を通過することで、所望するエネルギーを有するイオンビーム3に変換される。
【0031】
加速管5を通過後、イオンビーム3は四重極レンズ6でその形状が整形され、エネルギー分離器7に入射する。エネルギー分離器7は、例えば質量分析マグネット4と同様に電磁石で構成されており、イオンビーム3を所定の偏向量をもって偏向させることで、イオンビーム3から中性粒子や不要なエネルギー成分を分離する。
【0032】
イオンビーム3はX方向において基板11よりも長い幅を有するように、走査器8によってX方向に磁界あるいは電界によって走査される。
【0033】
走査器8によって走査されたイオンビーム3は、コリメーターマグネット9でその外形がZ方向に平行なイオンビーム3となるように偏向される。その後、イオンビーム3はビーム整形マスク10を通過し、処理室14内に配置された基板11に照射される。
【0034】
基板11はプラテン12上に静電吸着によって保持されていて、プラテン12はY方向に延設された図示されないスキャン軸に連結されている。駆動装置13には、モーターが設けられており、このモーターによってスキャン軸をY方向に沿って往復駆動させることで、基板11の全面に対するイオンビーム3の照射が行われる。
【0035】
このようなイオン注入装置1には、制御装置30が設けられている。この制御装置30は、各種電源を制御する機能を有しており、基板11に照射されるイオンビーム3の断面寸法を調整する為に、例えば、イオン源2、加速管5、四重極レンズ6、ビーム整形マスク10の駆動装置の各々に備えられた電源との間で、有線あるいは無線により、電気信号(S)のやり取りが行えるように構成されている。そして、後述する第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理との切り替えに応じて、この制御装置30によりこれらの電源が制御される。
【0036】
なお、この制御装置30に上記した機能以外に、走査器8でイオンビーム3を走査する走査速度を制御したり、基板11を駆動させる駆動速度を制御したりする機能やその他の光学要素(質量分析マグネット4やエネルギー分離器8等)を制御する機能を備えるようにしておいても良い。さらに、図示されない搬送機構により、処理室14内に基板11を搬送して所定の注入位置に配置する機能や注入位置より基板11を取り出して、処理室14外に搬出する機能を備えるようにしておいても良い。また、別の制御装置を設けておき、その制御装置に先述した走査器8等を制御する機能を設けるようにしても良い。その場合、2つの制御装置間で電気信号の通信が行える状態にしておくとともに、一方が他方を制御するような関係にしておくことが考えられる。
【0037】
特許文献2に記載されているように、遷移領域を小さくするだけであれば基板11に照射されるイオンビーム3の寸法を小さくすれば良い。ただし、イオンビーム3の寸法を小さくすると、基板11の面内に所望する不均一なドーズ量分布を形成させるのに時間を要してしまう。一方で、イオンビーム3の寸法を大きくしておくと、基板11の面内に所望する不均一なドーズ量分布を達成させる時間を短くすることができるが、遷移領域が大きくなってしまう。
【0038】
上記の点を考慮し、本発明では基板に照射される断面寸法の異なるイオンビームを用いて2種類のイオン注入処理を行うことを特徴としている。図2には、本発明の不均一注入処理の一例を表すフローチャートが記載されている。以下、これについて説明する。
【0039】
図2のフローチャートでは、複数枚の基板を一枚ずつ注入位置に配置させ、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を連続して行った後、処理済の基板を注入位置より取り出し、処理対象とする基板がなくなるまでこの一連の処理を繰り返す手法が記載されている。
【0040】
より詳細には、まず、第一のイオン注入処理で、大きな断面寸法のイオンビームを用いて基板11の面内に均一なイオン注入処理を施す。続いて、第二のイオン注入処理で、第一のイオン注入処理で用いたイオンビーム3よりも小さな断面寸法のイオンビーム3を用いて基板11の面内に不均一なイオン注入処理を施す。最終的に、基板11の面内に形成されるドーズ量分布は、個々のイオン注入処理によって形成されたドーズ量分布を足し合わせたものになる。なお、ここで言う、均一、不均一とは、基板の面内におけるドーズ量が全面に渡って一定の値となる(均一)か、そうでないか(不均一)という意味で用いられている。
【0041】
このようにして、異なるイオン注入処理によるドーズ量分布を足し合わせることで、遷移領域を小さくするとともに、短時間で基板11の面内に所望する不均一なドーズ量分布を形成することができる。なお、第一のイオン注入処理に続いて第二のイオン注入処理を行う例について述べたが、これらの関係は逆であっても良い。つまり、第二のイオン注入処理に続いて第一のイオン注入処理を行うようにしても良い。
【0042】
図3(A)〜(D)には、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理で基板上に照射されるイオンビームの断面寸法の関係を表す例が示されている。図3(A)は第一のイオン注入処理で使用されるイオンビーム3の断面形状であり、図3(B)〜(D)にはその外形が破線で描かれている。また、図3(B)〜(D)の実線は第二のイオン注入処理で使用されるイオンビーム3の断面形状が描かれている。
【0043】
本発明では、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法の方が、第一のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法に比べて小さいことを特徴としている。ここで言う断面寸法の大小関係については、次のように考える。基板11に照射されるイオンビーム3の断面形状を考えた場合、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面形状が第一のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面形状に包含されている。この場合、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法が、第一のイオン注入処理で用いられるイオンビーム3の断面寸法に比べて小さいという。
【0044】
より具体的に言えば、図3(B)〜(D)に挙げられているように、第一のイオン注入処理で用いられるイオンビームの断面形状(破線)が、第二のイオン注入処理で用いられるイオンビームの断面形状(実線)を包含しているものである。
【0045】
図4および図5には、本発明に関する不均一注入処理のフローチャートを表す別の例が示されている。図2の例との違いとして、この例では複数枚の基板に対して第一のイオン注入処理を連続して行った後に、第二のイオン注入処理が連続して行われる。なお、図2の例と同じく、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を行う順番を逆にしても良い。
【0046】
各イオン注入処理において、イオンビーム3の断面寸法を変更するに当たって、イオン注入装置1のイオン源2や各種マグネット等の運転パラメーターの変更が行われる。例えば、図2の例では、1枚の基板を処理する度に、少なくとも各注入処理の間でこれらの運転パラメーターを変更しなければならない。さらに、運転パラメーター変更の後、基板11に所望する断面寸法のイオンビーム3が照射されているかどうかをモニターして、所望する寸法でない場合にそれらの運転パラメーターの値を修正するといった処理が行われると、余計に時間がかかってしまう。
【0047】
その為、図4、図5に例示したように、複数枚の基板に対して各々のイオン注入処理を連続して行った方が、イオン注入処理に要する時間を短縮させることが期待できる。なお、ここでいう複数枚の基板とは、例えばロット単位での集合を意味している。
【0048】
図6には、本発明の第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理を用いて基板の面内に形成される不均一なドーズ量分布の一例が開示されている。ここでは、基板11の一部に略リング形状を成すドーズ量が多い領域が形成される。
【0049】
例えば、第一のイオン注入処理で基板11の全面にドーズ量D0の均一なイオン注入を行う。その後、所定の領域にD10あるいはD20のドーズ量が注入されるようにイオンビーム3の基板11上での位置に応じて、イオンビーム3の走査速度や基板11の駆動速度が制御される。
【0050】
図7には、基板11の中央部分でドーズ量の異なる領域が2分されている様子が描かれている。ここに示されるようなドーズ量分布を有するものであっても、図6に示されたドーズ量分布に対して行ったイオン注入処理と同様にして、2つのイオン注入処理を行うことで小さな遷移領域を有する不均一なドーズ量分布を基板11の面内に短時間で形成させることが可能となる。
【0051】
基板11へのイオン注入を行う際、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理の各イオン注入処理でどれほどのドーズ量の注入を行うのかについては、次のようにして求める。
【0052】
図6、図7において第二のイオン注入処理で注入されるドーズ量に着目する。低いドーズ量の部分(ドーズ量D10)に対して高いドーズ量の部分(ドーズ量D20)がどの程度の割合(ドーズ倍率と呼ぶ。数1においてXで表す。)となるのかについて、次の数1のように表すことができる。
【0053】
【数1】
【0054】
この数1を変形すると、数2のように表すことができる。
【数2】
【0055】
この数2を更に変形すると、数3のように表すことができる。
【数3】
【0056】
ドーズ倍率Xは、半導体デバイスの特性を補償するにあたってどの程度の遷移領域が許容できるのか、あるいは、イオン注入装置1に備えられたイオンビーム3の走査速度や基板11の駆動速度を切り替える際の応答特性等の条件によって許容できる値の範囲が決定される。
【0057】
イオン注入処理の時間を短くするという観点から、ドーズ倍率Xは許容範囲内で最大に近い値が選択されることが望ましい。これはドーズ倍率Xが大きくなるほど、第一のイオン注入処理によってより多くのイオン注入がなされることになるからである。同じドーズ量の注入を行うにあたって、大きな断面寸法のイオンビーム3を用いる第一のイオン注入処理と小さな断面寸法のイオンビーム3を用いる第二のイオン注入処理では、第一のイオン注入処理を用いた方が、注入処理に要する時間が短い。その為、全体の注入処理に要する時間を短くするには、第一のイオン注入処理によるイオン注入をできるだけ長時間行う方が望ましい。
【0058】
上述した点を考慮して、適切なドーズ倍率Xの値が決定されると、ドーズ量D1とドーズ量D2は所望する不均一なドーズ量分布によって決定される既知の値であることから、第一のイオン注入処理で注入されるべきドーズ量D0の値を求めることができる。こうして求められたドーズ量D0を用いて、第一のイオン注入処理が行われる。
【0059】
イオンビームの断面寸法を調整する手法としては、様々な手法が考えられる。これについていくつかの具体例を以下に述べる。
【0060】
図8には、図1のイオン注入装置に備えられた加速管5の一例が開示されている。この加速管5は、Z方向に沿って、高電圧側電極16、フォーカス電極18、大地側電極17の電位の異なる3枚の管状電極を有しており、各電極間には絶縁ガラス15が配置されている。高電圧側電極16と大地側電極17との間には、加速減速電源19が接続されており、この電源を調整することで加速管5を通過するイオンビーム3のエネルギーの調整がなされている。そして、高電圧側電極16とフォーカス電極18との間にはフォーカス電源20が接続されており、このフォーカス電源20を調整することによって各電極間に所望の電界を発生させて、そこを通過するイオンビーム3を収束あるいは発散させるように構成されている。このような構成の加速管5を用いて、第一のイオン注入処理、第二のイオン注入処理に応じて、適宜、イオンビームの断面寸法の調整を行うようにしておいても良い。
【0061】
図9には、図1のイオン注入装置に備えられた四重極レンズ6の一例が開示されている。ここでは、電磁石を用いた四重極レンズ6の例が記載されている。この四重極レンズ6は、4つの磁極27のそれぞれにコイル28が巻き回されている。そして、各コイル28に電流Iを流すことによって、各磁極27の先端部に4つの極性が形成される。各磁極27の先端部間には、磁界Bが発生しており、そこを通過するイオンビーム3にはローレンツ力Fが発生する。図9の例では、このローレンツ力Fによって、イオンビーム3がX方向に沿って短く、Y方向に沿って長くなるように整形される。具体的には、図中に描かれる実線のイオンビーム3の形状が破線で描かれているように楕円形状に変形される。この四重極レンズ6で楕円形状に整形されたイオンビーム3の長手方向を図10に描かれるビーム整形マスク10を用いて除去してやることで、イオンビーム3の寸法を小さくすることが考えられる。なお、ここではイオンビーム3として、正の電荷を有するものを想定している。また、四重極レンズ6は図9に示された電磁石ではなく、静電レンズで構成されていても良い。
【0062】
図10(A)〜(C)には、図1のイオン注入装置に備えられたビーム整形マスク10の例が開示されている。この図10(A)〜(C)において、X、Y、Z軸の方向は共通している。図10(A)のビーム整形マスク10には、大口径のスリット21と小口径のスリット22が設けられている。図1で示したようにこのビーム整形マスク10が走査器8の下流側(走査器8よりも基板11側)に設けられている為、マスクに設けられた開口部は、この図のようにイオンビーム3の走査方向に長く伸びたスリット形状となっている。
【0063】
図10(A)の例では、第一のイオン注入処理を行う際には、大口径のスリット21をイオンビーム3が通過するようにしておく。一方、第二のイオン注入処理を行う際には、小口径のスリット22をイオンビーム3が通過するようにしておく。例えば、ビーム整形マスク10はシャフト24に連結されており、このシャフト24が駆動装置23によってY方向に移動可能に支持されている。このような機構を用いて、イオン注入処理の種類に応じてビーム整形マスク10の位置調整がなされる。
【0064】
図10(B)には、1つのスリット29を備えたビーム整形マスク10の例が開示されている。第一のイオンビーム処理を行う場合、ビーム整形マスク10はイオンビーム3が照射されない位置に移動される。この例の場合では、Y方向逆側に図示されない駆動装置によってイオンビーム3の経路より退避させられる。そして、第二のイオン注入処理を行う場合に、イオンビーム3がスリット29を通過するようにビーム整形マスク10の位置調整がなされる。
【0065】
図10(C)には、2つの丸孔を有するビーム整形マスク10の例が開示されている。例えば、このビーム整形マスク10は、図1の走査器8の上流側(走査器8よりもイオン源2側)に配置しておき、走査前にイオンビームの形状を整形するようにしておく。2つの丸孔の切り替えは、図10(A)の例と同じく、大口径の丸孔25を第一のイオン注入の際に用いて、小口径の丸孔26を第二のイオン注入の際に用いる。また、丸孔を1つにしておいて、図10(B)に示される1つのスリット29の例と同じように取り扱っても良い。なお、このビーム整形マスク10は、図9の四重極レンズ6と組み合わせて用いても良いし、イオン注入装置に備えられた四重極レンズ6とは別の光学要素と組み合わせて用いても良い。さらに、ビーム整形マスク10を単独で用いてイオンビーム3の断面寸法を調整するようにしても良い。
【0066】
<その他の変形例>
上記実施形態では、加速管5や四重極レンズ6、あるいは、ビーム整形マスク10を用いて、イオンビーム3の断面寸法を調整する手法について述べたが、それ以外の手法を用いても良い。例えば、イオン源2の各種パラメーター(引出電極に印加する電圧値や引出電極の位置や傾き等)を調整して、基板11に照射されるイオンビーム3の断面寸法を調整するようにしても良い。
【0067】
さらに、これまでの実施形態では、ハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置について述べてきたが、本発明はこの種のタイプのイオン注入装置以外への適用も可能である。例えば、基板11を固定させておき、イオンビームを直交する2方向に走査する、ラスタースキャン方式のイオン注入装置にも適用させることは可能である。この場合、基板11の面内に不均一なドーズ量分布を形成する為に、イオンビームの2方向における走査速度を、基板11上の位置に応じて、適宜、調整するように構成しておけばいい。その上で、先の実施形態で述べた、異なるイオンビームの断面寸法を用いた第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理とを行うようにすれば良い。なお、ラスタースキャンの方式としては、基板の固定に代えて、イオンビームを固定しておき、基板を直交する2方向に駆動させる方式を採用しても良い。
【0068】
また、1枚ずつ基板を処理する枚葉式の注入機構ではなく、複数枚の基板を一気に処理するバッチ式の注入機構を採用しても良い。その場合、図2や図4、図5で示したフローチャートにおいて、1枚ずつ基板が処理されるのではなく、複数枚の基板がまとめて処理されることになる。
【0069】
一方で、イオン注入装置を2台用いるようにして、インライン方式で基板を連続処理するようにして良い。例えば、一方のイオン注入装置を第一のイオン注入処理に対応した運転パラメーターで運転させておき、他方のイオン注入装置を第二のイオン注入処理に対応した運転パラメーターで運転させておく。その上で、両装置の処理室を連結させておき、真空を破らずに異なる装置間に基板を連続搬送させ、順次に基板を処理していく構成とすることが考えられる。
【0070】
その他、イオン源よりスポット状のイオンビームを射出させ、これを走査する方式のイオン注入装置について述べてきたが、イオン源よりリボン状(略長方形状)のイオンビームを射出させ、これを一平面内で基板の寸法よりも大きくなるように拡大させてから、基板に照射するといった方式のイオン注入装置にも本発明は適用できる。また、イオンビームを途中で拡大するのではなく、大きなイオン源を用意しておいて、始めから一平面内で基板の寸法よりも大きなリボン状のイオンビームを発生させる方式のイオン注入装置にも本発明は適用できる。
【0071】
これらのイオン注入装置の場合、イオンビームの広がり方向に対して略直交する方向、つまり略長方形状のイオンビームの短辺方向に沿って、基板を駆動されることで、基板の全面に対してイオン注入が行われる。これらのイオン注入装置で、基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成するには、基板の駆動速度を変更すれば良い。
【0072】
そして、基板上に照射されるイオンビームの断面形状はおおよそ長方形状となるので、先の実施形態で述べた加速管や四重極レンズ、ビーム整形マスクを用いて、基板に照射されるリボン状のイオンビームの短辺方向の幅を制御することによって、第一のイオン注入処理と第二のイオン注入処理とで基板に照射されるイオンビームの断面寸法を調整するように構成すれば良い。
【0073】
また、第一のイオン注入処理が完全に終了する前に、当該注入処理を一旦停止させておき、第二のイオン注入に切り替えて、第二のイオン注入処理の完了させた後、再び、第一のイオン注入処理の続きを行うといった順番でイオン注入処理を行っても良い。
【0074】
その他、前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0075】
1.イオン注入装置
2.イオン源
3.イオンビーム
4.質量分析マグネット
5.加速管
6.四重極レンズ
7.エネルギー分離器
8.走査器
9.コリメーターマグネット
10.ビーム整形マスク
11.基板
12.プラテン
13.駆動装置
14.処理室
30.制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入方法において、
前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、
前記第二のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法よりも小さいことを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うことを特徴とする請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項3】
イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入装置において、
前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、前記第二のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法よりも小さくなるように制御する機能を有する制御装置を備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うように制御する機能を有していることを特徴とする請求項3記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記イオン注入装置には、前記基板に照射されるイオンビームを整形するビーム整形マスクが備えられており、前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理に応じて、前記ビーム整形マスクの位置調整を行う機能を有していることを特徴とする請求項3または4記載のイオン注入装置。
【請求項1】
イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入方法において、
前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、
前記第二のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板上に照射される前記イオンビームの断面寸法よりも小さいことを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うことを特徴とする請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項3】
イオンビームと基板との相対的な位置関係を変更させることによって、前記基板へのイオン注入を実施するイオン注入装置において、
前記基板の面内に均一なドーズ量分布を形成する第一のイオン注入処理と前記基板の面内に不均一なドーズ量分布を形成する第二のイオン注入処理とを予め決められた順番に従って行うとともに、前記第二のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法が、前記第一のイオン注入処理時に前記基板に照射されるイオンビームの断面寸法よりも小さくなるように制御する機能を有する制御装置を備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理とを用いて複数枚の基板を処理する際、複数枚の基板に対して一方のイオン注入処理を連続して行った後に、他方のイオン注入処理を連続して行うように制御する機能を有していることを特徴とする請求項3記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記イオン注入装置には、前記基板に照射されるイオンビームを整形するビーム整形マスクが備えられており、前記制御装置は、前記第一のイオン注入処理と前記第二のイオン注入処理に応じて、前記ビーム整形マスクの位置調整を行う機能を有していることを特徴とする請求項3または4記載のイオン注入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−160386(P2012−160386A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20362(P2011−20362)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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