説明

インクジェット塗布装置

【課題】ヘッドが熱の影響を受けた場合であっても、熱膨張によるノズルの位置ずれから生じる吐出位置のずれを補正してインクの塗布精度の低下を抑えることできるインクジェット塗布装置を提供する。
【解決手段】基板を載置するステージと、前記ステージ上の基板に対して相対的に移動し、インクを吐出するノズルを有するヘッドを複数有する塗布ユニットを備え、塗布ユニットを相対的に移動させつつノズルから基板の所定位置にインクを着弾させることにより、基板上にインクを塗布するインクジェット塗布装置であって、前記塗布ユニットは、前記複数のヘッドを一体的に取付けて支持するヘッドケース部と、このヘッドケース部を所定の位置に位置決めする位置決め機構と、前記ヘッドケース部の現在位置を計測する位置計測部と、を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のノズルからインクを着弾させて基板上にインクを塗布するインクジェット塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、色形成の中核を成す部材としてカラーフィルタが用いられている。カラーフィルタは、ガラス基板上に微細なR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3色の多数の画素が所定パターン(RGBパターン)に並べられることによって形成されている。
【0003】
近年、このカラーフィルタを効率よく製造する装置として、インクジェット塗布装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このインクジェット塗布装置は、基板を載置するステージと、インクを吐出する複数ノズルを備える塗布ユニットとを有しており、この塗布ユニットからインクを吐出させて基板に着弾させるように構成されている。すなわち、この塗布ユニットは、ノズルを有する複数のヘッドと、これらのヘッドを一体的に支持するヘッドケース部とを有しており、塗布ユニットが移動することにより、このヘッドケース部を基板に対して相対的に移動させ、基板に形成された画素内を通過するノズルのみからインクを吐出させることにより、所定の画素内にインクを精度よく塗布できるようになっている。
【0004】
このようなインクジェット塗布装置では、実際に基板上に塗布を行う前に、塗布シミュレーションが行われる。この塗布シミュレーションは、多数のノズルの中から特定の画素に対してインクを吐出するノズルを選択するものであり、それぞれの画素とノズルの吐出位置との関係から、画素それぞれに対して実際にインクを吐出するノズルを選択し、選択したノズルによって所定のRGBパターンを形成できるか否について判断するものである。
【0005】
具体的には、全てのノズルについて、予めノズルごとの吐出位置情報が取得されている。この吐出位置情報と、基板上に形成された多数の画素についての位置情報から、所定の画素について、その画素内を通過するノズルであって、その画素の液滴領域内にインクを吐出できるノズルが選択される。そして、この塗布シミュレーションが行われた後、実際に塗布を行うことにより、画素からインクがはみ出して混色などを生じることなく、画素内に精度よくインクを塗布できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−242058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のインクジェット塗布装置では、精度よく塗布することができない場合があった。すなわち、ヘッドケース部に取付けられたヘッドは、ピエゾ素子を駆動させてインクを吐出する構成を有しており、このピエゾ素子を駆動制御する基板が設けられている。そして、ヘッドケース部には、多くのヘッドが取付けられているため、それぞれのヘッドが熱を帯び始めると、ヘッドケース部がこの熱の影響を受け、ヘッドケース部自体が熱膨張することにより、ヘッドケース部に支持されているヘッドの取付位置が、熱膨張により変位する。
【0008】
すなわち、ノズルの吐出位置情報は、メンテナンスやヘッド交換時など、ヘッドをヘッドケース部に搭載した時にのみ行われるため、実際の塗布が行われるまでには、大きな時間の差が生じている。したがって、予め取得したノズルの吐出位置情報による吐出位置と、実際に塗布を行う際の吐出位置との間に熱膨張分の誤差が生じている。その結果、塗布シミュレーションにより吐出位置情報と基板の画素位置情報とに基づいて、それぞれの画素についてインクを吐出するノズルを選択しても、熱膨張による吐出位置にずれが発生しているため、塗布シミュレーションに基づいて塗布を行っても隣接する画素間にインクが吐出されてしまうなど、インクの塗布精度が低下してしまうという問題があった。
【0009】
また、実際に塗布する前に、基板1枚ごとにノズルの吐出位置情報を取得することも考えられるが、ノズルの吐出位置情報取得には、多大な時間がかかるため、基板1枚を塗布するタクトタイムが長期化し、結果としてカラーフィルタの製造コストが高くなってしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ヘッドが熱の影響を受けた場合であっても、熱膨張によるノズルの位置ずれから生じる吐出位置のずれを補正することによりインクの塗布精度の低下を抑えることができるインクジェット塗布装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明のインクジェット塗布装置は、基板を載置するステージと、前記ステージ上の基板に対してインクを吐出するノズルを有するヘッドを複数有する塗布ユニットを備え、塗布ユニットと基板とを相対的に移動させつつ前記ノズルから基板の所定位置にインクを着弾させることにより、基板上にインクを塗布するインクジェット塗布装置であって、前記塗布ユニットは、前記複数のヘッドを一体的に取付けて支持するヘッドケース部と、このヘッドケース部を所定の位置に位置決めする位置決め機構と、
前記ヘッドケース部の現在位置を計測する位置計測部と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
上記インクジェット塗布装置によれば、ヘッドケース部の現在位置を計測する位置計測部を設けたため、ヘッドの熱の影響を受けてノズルの位置にずれが生じ、ひいてはインクの吐出位置が変化した場合であっても、必要以上の時間をかけることなく熱膨張後の吐出位置情報を得ることができる。具体的には、ノズルからのインクの吐出位置情報(初期吐出位置情報)を取得する際、位置決め機構によりヘッドケース部を原点復帰させた状態で吐出位置情報を取得し、さらに、位置計測部により、このときのヘッドケース部の現在位置を取得する。そして、実際に塗布を行う直前の塗布シミュレーションを行う前に、再度、位置計測部によりヘッドケース部の現在位置を計測する。そして、このヘッドケース部の現在位置と、初期吐出位置情報を取得した時のヘッドケース部の現在位置との差分を算出することにより、ヘッドの熱の影響を受けて熱膨張したヘッドケース部の熱膨張分、すなわちヘッドケース部の変形量を計測する。すなわち、ヘッドケース部に取付けられたヘッドの各ノズルは、熱膨張の影響により、この変形量に応じた位置ずれを生じていることになるため、各ノズルの吐出位置情報に、この変形量を加味することにより、実際に塗布を行う時の吐出位置情報を容易に得ることができる。したがって、最初に吐出位置情報を得た後、実際の塗布が行われるまでに大きな時間の差が生じることによりヘッドの熱の影響を受けた場合であっても、塗布直前の吐出位置を容易に補正できるため、タクトタイムが長期化することなく吐出位置情報を得ることができ、ヘッドの熱の影響によるインクの塗布精度の低下を抑えることできる。
【0013】
具体的には、前記ノズルにより吐出されるインクの吐出位置情報を記憶する制御装置をさらに備えており、前記制御装置は、塗布直前に前記位置計測部により計測したヘッドケース部の現在位置と、前記吐出位置情報を取得したときの前記位置計測部により計測したヘッドケース部の現在位置との差から、ヘッドケース部の変形量を算出し、この変形量を用いて前記吐出位置情報を補正する構成とすることができる。
【0014】
また、前記ヘッドケース部は、一方向に長尺な矩形形状を有しており、前記位置計測部は、前記ヘッドケース部の長尺方向における変形量を計測する構成としてもよい。
【0015】
この構成によれば、熱膨張の影響は、ヘッドケース部の長尺方向に大きく生じるため、この影響の大きいヘッドケース部の長尺方向における位置を計測し、その変形量を計測すれば、熱膨張の影響による吐出位置のずれをほぼ補正することができる。
【0016】
また、前記塗布ユニットは、ステージ上の基板よりも外側に配置される脚部と、これらの脚部を連結し前記基板と対向する石材製のビーム部材とを有しており、このビーム部材に前記ヘッドケース部が設けられ、前記変位量計測部は、前記ビーム部材に取付けられたスケールと、前記ヘッドケース部に取付けられ前記スケールを読み取る位置検出ヘッドとによって形成されている構成としてもよい。
【0017】
この構成によれば、熱膨張係数が小さく熱膨張の影響が少ない石材製のビーム部材にスケールが取付けられているため、スケールが受ける熱膨張の影響は小さい。したがって、この熱膨張の影響が少ないスケールをヘッドケース部に取付けられた位置検出ヘッドで読み取る構成にすることにより、ヘッドケース部の熱膨張分、すなわち、熱膨張による吐出位置のずれを正確に計測することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のインクジェット塗布装置によれば、ヘッドの熱の影響を受けた場合であっても、熱膨張によるノズルの位置ずれから生じる吐出位置のずれを補正することによりインクの塗布精度の低下を抑えることできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態におけるインクジェット塗布装置を示す斜視図である。
【図2】上記インクジェット塗布装置を示す概略的な上面図である。
【図3】上記インクジェット塗布装置のヘッドケース部の一部を示す概略図である。
【図4】上記ヘッドケース部が熱の影響を受ける前と後の様態を示す概略図である。
【図5】初期吐出位置情報を取得するときの動作を示すフローチャートである。
【図6】塗布動作を行うときの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のインクジェット塗布装置に係る実施の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、インクジェット塗布装置の実施の一形態を示す斜視図であり、図2は、インクジェット塗布装置を上方から見た概略上面図である。インクジェット塗布装置は、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各インクを基板Wに対して吐出することで、例えばカラー液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに用いられるカラーフィルタを製造することができる。インクジェット塗布装置は、図1、図2に示すように、装置本体8と、この装置本体8における各種動作を制御する制御装置(図示せず)とを備えている。装置本体8は、基台1、当該基台1上に設けられたステージ2、塗布ユニット3、カメラユニット4を備えている。
【0022】
ステージ2は、基板Wを載置するものであり、載置された基板Wが水平な姿勢を維持した状態で載置されるようになっている。具体的には、ステージ2の表面(基板載置面)は、平坦に形成されており、その表面には、吸引孔が複数形成されている。この吸引孔には真空ポンプが接続されており、ステージ2の表面に基板Wを載置した状態で真空ポンプを作動させることにより、吸引孔に吸引力が発生し、基板Wが水平な姿勢でステージ2の表面に吸着保持できるようになっている。また、ステージ2には、基板位置決め装置(不図示)が設けられており、この基板位置決め装置により、搬入された基板Wがステージ2の所定の位置に位置決めされるようになっている。本実施形態では、基板Wが基板位置決め装置によって位置決めされた状態では、その基板W上に形成された多数の画素m(図4参照)の位置情報が後述の制御装置により把握できるようになっている。したがって、塗布ユニット3を駆動制御することにより、所定のノズル5a(図4参照)から基板W上の特定の画素mに精度よくインクを吐出させることができるようになっている。
【0023】
また、塗布ユニット3は、基板W上にインクを着弾させて塗布するものであり、インクを吐出するヘッドケース部31と、このヘッドケース部31を支持する塗布ガントリ30とを有している。この塗布ガントリ30は、ステージ2に載置された基板WのX軸方向両外側に配置される脚部30aと、これらの脚部30aを連結しY軸方向に延びる石材製のビーム部材30bとを有する略門型形状に形成されている。そして、このビーム部材30bにヘッドケース部31が取付けられており、塗布ガントリ30は、ステージ2をY軸方向に跨いだ状態でX軸方向に移動可能に取り付けられている。本実施形態では、基台1のY軸方向両端部分にはそれぞれX軸方向に延びるレール22が設置されており、脚部30aがこのレール22にスライド自在に取り付けられている。そして、脚部30aにはリニアモータが取り付けられており、このリニアモータを駆動制御することにより、塗布ガントリ30がX軸方向に移動し、任意の位置で停止できるようになっている。
【0024】
また、脚部30aにはリニアスケールが設けられており、このリニアスケールにより塗布ユニット3の位置情報を取得できるようになっている。具体的には、レール22には、図示しないスケールがレール22の延びる方向に沿って設けられており、このスケールを読み取る検出ヘッドが脚部30aに取付けられている。したがって、塗布ガントリ30が移動するにしたがって、検出ヘッドにより出力されたスケールの読取り信号が制御装置に入力されることにより、塗布ガントリ30の位置情報を得ることができるようになっている。
【0025】
また、ビーム部材30bは、両脚部30aを連結する柱状部材であり、石材で形成されている。このビーム部材30bには、ヘッドケース部31が取付けられている。具体的には、ビーム部材30bの一方側の側面に、ヘッドケース部31に設けられたヘッド5のノズル5a(図3参照)がステージ2の表面に向く姿勢で取付けられている。したがって、塗布ガントリ30がX軸方向に移動又は停止するにしたがって、ヘッドケース部31もそれに付随して移動又は停止を行うことができ、塗布ガントリ30の移動量を調節することにより、ステージ2の表面に載置された基板W上にヘッドケース部31を位置させて基板W上にインクを吐出できるようになっている。
【0026】
また、ヘッドケース部31は、図3に示すように、複数のヘッド5を固定するアルミニウム製のケース部材であり、複数のヘッド5を整列させた状態で一体的に固定できるようになっている。具体的には、インクを吐出する複数のノズル5aを有するヘッド5が複数整列した状態でフレーム部材51に取付けられることによりヘッド体50が構成されており、このヘッド体50がネジ止めにより固定できるようになっている。本実施形態では、5つのヘッド5がフレーム部材51に取付けられてヘッド体50を構成しており、ヘッドケース部31には、このヘッド体50が複数取付けられている(図2参照)。そして、ヘッド体50は、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)のうち、いずれか一色のインクが吐出されるヘッド5を複数有していることにより、ヘッド体50ごとにR(赤色)、G(緑色)、B(青色)のうち、一色のインクが吐出されるように構成されている。そして、各色インクを吐出するヘッド体50がフレーム部材51を介してヘッドケース部31に所定パターンで配置されて固定されている。これにより、ヘッドケース部31には、複数のヘッド5が一体的に取付けられて支持されている。
【0027】
また、これらのヘッド5は、ピエゾ素子を駆動させてインクを吐出する構成を有しており、このピエゾ素子を駆動制御する基板(不図示)が各ヘッド5に設けられている。そして、これらの基板と制御装置とが接続されており、制御装置からインクを吐出する信号を受けると、ピエゾ素子が駆動し所定のノズル5aからインクを吐出できるようになっている。
【0028】
また、ヘッドケース部31は、ビーム部材30bに対して、図示しないY軸方向駆動装置によりビーム部材30bに沿ってY軸方向に移動できるように取付けられている。これにより、Y軸方向に配置され隣り合うヘッド5同士の領域にはノズル5aがない領域が存在するが、ヘッドケース部31をY軸方向に移動させることにより、当該領域にノズル5aを位置させてインクを塗布することができるようになっている。
また、ヘッドケース部31は、このビーム部材30bに図示しない昇降機構により昇降自在に取付けられている。これにより、インクの塗布時には、基板Wとノズル5aとを適切な距離に調節して塗布動作が行われ、塗布を行わない待避状態等の場合には、ノズル5aの損傷を防止するため、ノズル5a位置を安全な高い位置に位置させることができるようになっている。
【0029】
これにより、塗布ガントリ30を移動させてヘッドケース部31をX軸方向に移動させることにより、ヘッド5のノズル5a位置をX軸方向に移動させることができる。また、ヘッドケース部31をY軸方向に移動させることにより、ヘッド5のノズル5a位置をY軸方向に移動させることができる。したがって、ステージ2に載置された基板W上の所定の画素にノズル5aを移動させ、インクを吐出させることにより、基板W上に所定のRGBパターンでインクを塗布することができるようになっている。
【0030】
また、塗布ユニット3には、ヘッドケース部31を位置決めする位置決め機構6が設けられている(図2参照)。具体的には、ビーム部材30bの一方端部(図2において左端部)にリニアスケール60のスケール61が取付けられており、このスケール61と対向するヘッドケース部31にリニアスケール60の読取ヘッド62が取付けられている。これにより、読取ヘッド62により読み取られた位置情報が制御装置に入力され、ヘッドケース部31の位置が検出される。本実施形態では、Y軸方向駆動装置を駆動制御することにより、ヘッドケース部31の原点復帰を行うことができるとともに、特定のノズル5aがY軸方向の所定位置に位置させることができるようになっている。なお、この位置決め機構6の読取ヘッド62は、ヘッドケース部31の一方端部(図2の左端部)に取り付けられており、この読取ヘッド62が所定の原点位置に位置したときにヘッドケース部31が原点に位置していると判断される。
【0031】
さらに、塗布ユニット3には、ヘッドケース部31の現在位置を計測する位置計測部7が設けられている。この位置計測部7は、ヘッドケース部31のY軸方向における現在位置を取得するものである。本実施形態では、ヘッドケース部31の端部(図2において右端部)の現在位置を計測するように構成されている。具体的には、上述の位置決め機構6とは別のリニアスケール70が取付けられており、これによりヘッドケース部31の端部の位置が計測される。すなわち、ビーム部材30bの他方端部(図2において右端部)には、位置決め機構6のスケール61とは別のスケール71が取付けられており、このスケール71と対向するヘッドケース部31の端部にリニアスケール70の位置検出ヘッド72が取付けられている。これにより、位置検出ヘッド72により読み取られた位置情報が制御装置に入力され、ヘッドケース部31のY軸方向における現在位置を取得することができる。
【0032】
そして、この位置計測部7によって得られた位置情報により、熱膨張によるヘッドケース部31の変形量を取得することができる。すなわち、位置決め機構6により原点復帰させたヘッドケース部31の現在位置を位置計測部7によって取得する。これを先の位置情報とする。その後、ある程度時間が経過した後、再度位置決め機構6により原点復帰させたヘッドケース部31の現在位置を位置計測部7によって取得する。これを後の位置情報とする。そして、先の位置情報と後の位置情報との差を算出することにより、熱膨張等が生じた場合のヘッドケース部31の変形量を取得することができる。すなわち、この変形量に応じてノズル5aの位置も変位しているため、この変形量をノズル5aの位置情報に加味することにより、ノズル5aの現在位置を得ることができる。なお、位置検出ヘッド72は、ヘッドケース部31の他方端部、すなわち、位置決め機構6の読取ヘッド62が取り付けられた位置とは長手方向反対位置(図2の右端部)に取り付けられている。これにより、ヘッドケース部31が熱膨張した場合に、最も変形量が大きい位置で取得することができ、ヘッドケース部31の熱膨張による変形量がわずかであっても、確実にその変形量を取得できるようになっている。
【0033】
また、カメラユニット4は、ノズル5aから吐出された基板W上のインクを撮像するものであり、カメラガントリ40と、これに取付けられたカメラ41とを有している。カメラガントリ40は、塗布ガントリ30と同様に、脚部40aとビーム部40bとを有しており、このビーム部40bにカメラ41が取付けられている。
【0034】
カメラガントリ40は、脚部40aとビーム部40bとによって、略門型形状に形成されている。そして、レール22上にスライド自在に取付けられており、図示しないリニアモータによりX軸方向に移動可能に取付けられている。すなわち、リニアモータを駆動制御することにより、カメラガントリ40がX軸方向に移動し、任意の位置で停止できるようになっている。また、カメラガントリ40には、塗布ガントリ30と同様に、リニアスケール(不図示)が設けられており、このリニアスケールにより塗布ユニット3の位置情報を取得できるようになっている。したがって、カメラガントリ40が移動するにしたがって、リニアスケールの読取り信号が制御装置に入力されることにより、カメラガントリ40のX軸方向における位置情報を得ることができるようになっている。
【0035】
また、カメラ41は、CCDカメラ41であり、カメラガントリ40のビーム部40bに撮像範囲が下向きになるように取付けられている。そして、カメラ41は、ビーム部40bに図示しないサーボモータ等の駆動装置によってビーム部40bに沿ってY軸方向に移動可能に取付けられている。そして、サーボモータからの出力信号が制御装置に入力されることにより、カメラ41のY軸方向の位置情報を得ることができるようになっている。
【0036】
すなわち、カメラガントリ40からのX軸方向の位置情報と、サーボモータからのY軸情報からの位置情報とによって、インクをカメラ41で撮像することにより、そのインクの位置情報を得ることができるようになっている。
【0037】
制御装置(不図示)は、予め記憶されたプログラムに従って一連の塗布動作を実行すべく、各ユニットのサーボモータ、リニアモータ等の駆動装置を駆動制御するとともに塗布動作に必要な各種演算を行うものである。本実施形態では、各ノズルから吐出されるインクの吐出位置(着弾位置)が記憶されており、ヘッドケース部31の熱膨張による変形量から、一度取得されたインクの吐出位置情報(初期吐出位置情報という)を補正して、塗布動作前の正確な吐出位置情報(現在吐出位置情報という)を算出することができる。そして、得られた現在吐出位置情報を用いて、塗布シミュレーションを行うことができる。すなわち、基板W上に所定のRGBパターンを形成するには、基板W上に形成された画素mのうち、どの位置の画素mにどのノズル5aからインクを吐出すれば、すべてのインクを画素m内に吐出して形成できるかを演算により算出する。
【0038】
次にこのインクジェット塗布装置における動作について、図5、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。ここで、図5は、初期吐出位置情報を求めるときのフローチャートを示しており、図6は塗布動作を行うときのフローチャートを示している。
【0039】
まず、初期吐出位置情報を取得する。すなわち、基板W上に実際にインクを塗布する場合や、塗布シミュレーションを行う場合には、各ノズル5aから吐出されるインクの吐出位置を正確に把握しておく必要がある。そのため、インクジェット塗布装置を据え付けたり、モジュールヘッドを交換した時などは、ヘッドケース部31に取り付けたヘッド5の状態により、インクの吐出位置が微妙に変化するため、ヘッド5を搭載した状態での吐出位置を取得する必要がある。
【0040】
この初期吐出位置情報の取得には、図5のフローチャートに基づいて行われる。
【0041】
まず、ステップS1により、テスト基板の搬入が行われる。すなわち、搬送されたテスト基板がステージ2上に載置され、ステージ2の基板位置決め装置により位置決めされる。ここで、テスト基板は、製品基板Wとは異なり、基板W上に画素mが形成されておらず、その表面全体がインクに対する撥液性を有するように形成されている。すなわち、テスト基板上にインクを吐出すると、テスト基板の表面上に広がらずインクの液滴が粒状形状に維持される。したがって、ノズル5aから吐出されたインクの液滴の位置を計測することで、それぞれのノズル5aからの吐出位置を計測することができる。
【0042】
次に、ステップS2により、ヘッドケース部31の原点復帰が行われる。すなわち、位置決め機構6により、ヘッドケース部31の原点位置への移動が行われる。具体的には、Y軸方向駆動装置を駆動により、ヘッドケース部31を原点位置に移動させる。そして、位置決め機構6の読取ヘッド62からの信号によりヘッドケース部31が原点位置に到達すると、Y軸駆動装置を停止させる。これにより、ヘッドケース部31が原点位置で停止する。
【0043】
次に、ステップS3より、HC位置取得が行われる。すなわち、ステップS2において原点復帰させたヘッドケース部31の現在位置の取得が行われる。具体的には、位置計測部7によりヘッドケース部31のY軸方向における現在位置が読み取られ、この現在位置が初期現在位置として記憶される。
【0044】
次に、ステップS4により、インク吐出動作が行われる。具体的には、塗布ガントリ30をX軸方向に移動させて、初期吐出位置を計測するための設定基準位置まで移動させる。そして、設定基準位置に塗布ガントリ30を停止させた状態で、各ノズル5aから1滴ずつ吐出させる。これにより、テスト基板上には、多数の粒状のインクが配列した状態で塗布される。すなわち、吐出できない不良ノズル5aを除く各ノズル5aから吐出されたインクが、ヘッド5のノズル5a配列状態とほぼ一致した状態で配置される。
【0045】
次に、ステップS5より、初期吐出位置が取得される。すなわち、テスト基板上に吐出されたインクの液滴の位置をカメラユニット4により取得する。具体的には、カメラガントリ40をX軸方向に移動させてインクが塗布された領域付近で停止させる。そして、テスト基板上に塗布されたインクに対して、カメラ41をY軸方向に移動させつつ、1滴のインクごとに撮像し、そのインク位置を取得する。そして、Y軸方向に配列されたインクの位置の取得が終了すると、X軸方向にカメラガントリ40を移動させ、再度カメラ41をY軸方向に移動させてインクの吐出位置の取得を行う。これを繰り返すことにより、テスト基板上に塗布されたすべてのインクの吐出位置を取得する。これにより、塗布ガントリ30を特定位置に停止させたときに、すべてのヘッド5から吐出されるインクの吐出位置がすべて取得されることになる。すなわち、これらのインクの吐出位置情報が初期吐出位置情報として記憶される。
【0046】
次に、実際の製品の基板Wにインクを塗布する場合の塗布動作について、図6に示すフローチャートに基づいて行われる。
【0047】
まず、ステップS11において、基板Wの搬入が行われる。具体的には、搬送されてきた基板Wがステージ2上に載置され、ステージ2の基板位置決め装置により位置決めされる。すなわち、製品の基板Wには、その表面に多数の画素mが形成されており、基板位置決め装置により位置決めされた状態では、これらの画素mそれぞれの位置が制御装置に記憶された基板の種類ごとの画素位置情報とが一致するようになっている。
【0048】
次に、ステップS12からステップS14により、ステップS15による現在吐出位置の取得に必要な動作が行われる。すなわち、上述の初期吐出位置情報を取得した時から塗布動作が行われるまでに長時間が経過することにより、ヘッド5の基板から熱が発生する。この熱の影響により、ヘッドケース部31が熱膨張を起こすため、ヘッドケース部31に固定されているヘッド5のノズル5a位置が微小変位する。その結果、現在の吐出位置は、初期吐出位置情報に基づく吐出位置からずれが生じている。したがって、熱の影響を受けた状態での現在の吐出位置を求めるため、ステップS12からステップS15を行うことにより、現在吐出位置情報を取得する。
【0049】
まず、ステップS12において、原点復帰が行われる。すなわち、位置決め機構6により、ヘッドケース部31の原点位置への移動が行われる。具体的には、Y軸方向駆動装置を駆動により、ヘッドケース部31を原点位置に移動させる。そして、位置決め機構6の読取ヘッド62からの信号によりヘッドケース部31が原点位置に到達すると、Y軸駆動装置を停止させる。これにより、ヘッドケース部31が原点位置で停止する。
【0050】
次に、ステップS13より、HC位置取得が行われる。すなわち、ステップS12において原点復帰させたヘッドケース部31の現在位置の取得が行われる。具体的には、位置計測部7によりヘッドケース部31のY軸方向における現在位置が読み取られ、この現在位置が塗布前現在位置として記憶される。
【0051】
次に、ステップS14により、延び量t(図4参照)の算出が行われる。具体的には、ステップS13により取得された塗布前現在位置(実線)と、ステップS3により取得された初期現在位置(2点鎖線)との差を演算することにより、熱膨張により変位したヘッドケース部31の延び量tが算出される。この延び量tが熱膨張によるノズル5a位置にずれを与え、初期吐出位置にずれを生じさせている。
【0052】
次に、ステップS15により、塗布前吐出位置が取得される。すなわち、塗布直前における吐出位置が取得される。具体的には、ステップS14により取得された延び量tを加味して初期吐出位置が補正されることにより、塗布前吐出位置が取得される。すなわち、各ノズル5aに対応する初期吐出位置それぞれについて、ヘッドケース部31のY軸方向寸法L、位置決め機構6の読取ヘッド62位置から各ノズル5aまでのY軸方向寸法をRyとすると、各ノズル5aの初期吐出位置に(t・Ry/L)を加算することにより現在吐出位置が補正される。これにより算出された現在吐出位置は、塗布前吐出位置として記憶される。
【0053】
次に、ステップS16により、塗布シミュレーションが行われる。すなわち、実際に塗布を行う前に、吐出可能なノズル5aを用いて仮想的に塗布を行うことにより、所定のRGBパターンを形成できるか否かが判断される。具体的には、ステップS15によって算出された塗布前吐出位置情報と、基板W上に形成された各画素mの位置情報から、塗布ガントリ30を走査させて塗布を行うことにより、どの液敵領域に対して、どのノズル5aで吐出を行えば、すべての画素mの色、インク量が同じになるかが演算される。このとき、ステップS5における初期吐出位置情報で、インクが吐出されなかったノズル5aは演算から除外され、あくまでも、吐出可能なノズル5aで所定のRGBパターンに塗布できるか否かが判断される。ここで、RGBパターンが計算できない場合には、エラーの警告表示が行われ、装置が停止する。
【0054】
次にステップS17により塗布動作が行われる。すなわち、ステップS16により、RGBパターンが形成できると判断された場合には、製品の基板Wにインクの塗布が行われる。具体的には、塗布ガントリ30を走査させることにより、塗布シミュレーションにより選択したノズル5aが、吐出すべき画素m上に位置したときにインクを吐出させることにより塗布を行う。塗布ガントリ30のX軸方向の移動、および、ヘッドケース部31のY軸方向の移動を制御することにより、特定の画素mに対し、選択したノズル5aからインクを吐出させることにより、基板W上に所定のRGBパターンを形成する。
【0055】
次に、ステップS18により、基板Wの排出が行われる。ステップS17により、基板W上に所定のRGBパターンが形成されると、ステージ2から基板Wが排出され、次工程の乾燥工程に搬送される。
【0056】
上記インクジェット塗布装置によれば、ヘッドケース部31の現在位置を計測する位置計測部7を設けたため、ヘッド5の熱の影響を受けてノズル5aの位置にずれが生じることによりインクの吐出位置が変化した場合であっても、新たにインクを基板Wに吐出することによる吐出位置情報を取得することなく、熱膨張後の吐出位置情報を得ることができる。具体的には、ノズル5aからのインクの吐出位置情報を取得する際、位置決め機構6によりヘッドケース部31を原点復帰させた状態で吐出位置情報(初期吐出位置)を取得するとともに、位置計測部7でヘッドケース部31の現在位置を取得する。そして、実際に塗布を行う直前の塗布シミュレーションを行う前に、再度、位置計測部7によりヘッドケース部31の現在位置を計測する。そして、このヘッドケース部31の現在位置と、初期吐出位置情報を取得した時のヘッドケース部31の現在位置との差分を算出することにより、ヘッド5の熱の影響を受けて熱膨張したヘッドケース部31の熱膨張分、すなわちヘッドケース部31の変形量を計測することができる。すなわち、ヘッドケース部31に取付けられたヘッド5の各ノズル5aは、熱膨張の影響により、この変形量に応じた位置ずれを生じていることになるため、各ノズル5aの吐出位置情報に、この変形量を加味することにより、実際に塗布を行う時の吐出位置情報を容易に得ることができる。したがって、最初に吐出位置情報を得た後、実際の塗布が行われるまでに大きな時間の差が生じることによりヘッド5の熱の影響を受けた場合であっても、タクトタイムが長期化することなく吐出位置情報を得ることができ、ヘッド5の熱の影響によるインクの塗布精度の低下を抑えることできる。
【0057】
また、上記実施形態では、位置決め機構6、及び、位置計測部7がヘッドケース部31の長手方向(Y軸方向)にのみ対応する例について説明したが、位置決め機構6及び、位置計測部7がX軸方向にも対応するものであってもよい。これにより、取得される吐出位置の補正精度を向上させることができる。ただし、熱膨張による影響は、長手方向寸法に大きく影響するため、ヘッドケース部31が矩形形状であり、長手方向寸法が短手方向寸法より十分に長い場合には、長手方向のみ熱膨張の影響を考慮するものであっても、十分な補正制度を得ることができ、インクジェット塗布装置を簡素化することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、塗布前吐出位置の取得において、ヘッドケース部31全体の熱膨張による延び量tを長手方向寸法Lで比例配分することにより補正する例について説明したが、他の補正方法を用いてもよく、ヘッドケース部31の実際の熱延びの影響から、経験則により補正するものであってもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、吐出位置情報を記憶し、演算する制御装置が、インクジェット塗布装置に備えられている例について説明したが、インクジェット塗布装置が備えずとも、制御装置をインクジェット塗布装置とは別体として設けてもよく、たとえば、このインクジェット塗布装置を含む基板処理装置全体を統括的に制御する制御装置により吐出位置情報を記憶し、演算する構成にしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、ビーム部材30bが石材である場合について説明したが、カーボンコンポジットや金属など、熱膨張率の小さい部材であればよい。すなわち、熱膨張率の小さい部材にスケール61、スケール71を取付けることにより、ヘッドケース部31を精度よく位置決めし、熱膨張等が生じた場合のヘッドケース部31の変形量を精度よく取得することができる。
【0061】
また、上記実施形態では、ステージ2に対して塗布ユニット3が移動する例について説明したが、塗布ユニット3が固定され、ステージ2が塗布ユニット3に対して移動するものであってもよい。すなわち、ステージ2が塗布ユニット3に対してX軸方向に移動し、ヘッドケース部31が塗布ユニット3の塗布ガントリ30に対してY軸方向に移動する構成であっても吐出位置を補正してヘッドの熱の影響によるインクの塗布精度の低下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0062】
2 ステージ
3 塗布ユニット
4 カメラユニット
5 ヘッド
6 位置決め機構
7 位置計測部
31 ヘッドケース部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置するステージと、前記ステージ上の基板に対してインクを吐出するノズルを有するヘッドを複数有する塗布ユニットを備え、塗布ユニットと基板とを相対的に移動させつつ前記ノズルから基板の所定位置にインクを着弾させることにより、基板上にインクを塗布するインクジェット塗布装置であって、
前記塗布ユニットは、前記複数のヘッドを一体的に取付けて支持するヘッドケース部と、
このヘッドケース部を所定の位置に位置決めする位置決め機構と、
前記ヘッドケース部の現在位置を計測する位置計測部と、
を備えていることを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項2】
前記ノズルにより吐出されるインクの吐出位置情報を記憶する制御装置をさらに備えており、前記制御装置は、塗布直前に前記位置計測部により計測したヘッドケース部の現在位置と、前記吐出位置情報を取得したときの前記位置計測部により計測したヘッドケース部の現在位置との差から、ヘッドケース部の変形量を算出し、この変形量を用いて前記吐出位置情報を補正することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット塗布装置。
【請求項3】
前記ヘッドケース部は、一方向に長尺な矩形形状を有しており、前記位置計測部は、前記ヘッドケース部の長尺方向における位置を計測することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット塗布装置。
【請求項4】
前記塗布ユニットは、ステージ上の基板よりも外側に配置される脚部と、これらの脚部を連結し前記基板と対向する石材製のビーム部材とを有しており、このビーム部材に前記ヘッドケース部が設けられ、前記位置計測部は、前記ビーム部材に取付けられたスケールと、前記ヘッドケース部に取付けられ前記スケールを読み取る位置検出ヘッドとによって形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−215173(P2011−215173A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80151(P2010−80151)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】