インクジェット装置
【課題】高精度な吐出量制御が可能で、装置信頼性が高いインクジェット装置を提供すること。
【解決手段】インクを吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、圧力室に圧力を加える圧電素子、圧電素子に電圧を印可して駆動する駆動回路を有するインクジェット装置において、前記駆動回路は、同一の圧電素子に少なくとも二つの駆動回路が接続されており、さらにそれぞれの駆動回路の駆動電圧が異なり、駆動電圧の低い駆動回路の信号が先に印可されるよう構成する。
【解決手段】インクを吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、圧力室に圧力を加える圧電素子、圧電素子に電圧を印可して駆動する駆動回路を有するインクジェット装置において、前記駆動回路は、同一の圧電素子に少なくとも二つの駆動回路が接続されており、さらにそれぞれの駆動回路の駆動電圧が異なり、駆動電圧の低い駆動回路の信号が先に印可されるよう構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年インクジェット技術を用いて電子デバイスを製造する方法が注目を集めている。
【0003】
インクジェット技術による製造は、蒸着技術などに比べ設備構成がシンプルで安価な製造が可能である。また、インクジェット技術は、直接パターニング技術であるため蒸着技術におけるマスクが不要で大型化が可能である。例えば、表示電子デバイスにおいては大画面への市場要求が高まり、インクジェット塗布による電子デバイス製造技術への期待は高まっている。
【0004】
以下、有機ELディスプレイを例に塗布による製造技術について説明する。
【0005】
図1に有機ELディスプレイの構造を示す。
【0006】
同図において、有機ELディスプレイは、基板1、陰極32、発光層301R、発光層301G、発光層301B、陽極33、及び、隔壁31からなる。なお、基板1にはディスプレイを駆動するためのTFTが内蔵されているが、ここでは図示しない。また、陰極32の上層には封止膜やカラーフィルターなどが適宜配置されるが図示していない。
【0007】
有機ELディスプレイの場合、発光層としてRGBの3色に対応した3種類があり、それぞれを301R、301G,301Bで表している。
【0008】
隔壁31は次の製造工程の説明において述べるインクジェット塗布において各画素に塗布するインクのパターニングに使用される。
【0009】
また、インクとは、発光層材料を溶媒に溶かした溶液のことを言う。有機ELの発光層の原料としては、ポリフルオレン系、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系、アルコキシベンゼン、アルキルベンゼンなどの高分子材料が挙げられ、溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキシルベンゼン等の単独または混合溶媒が挙げられる。隔壁31を形成しているので、塗布されたインクは所望の画素領域に留まり、混色することなく高品位なディスプレイを実現できる。隔壁31としては、フッ素を含む樹脂が使用され撥インク性を持っている。
【0010】
このように構成されたデバイスは、陰極32からの電子と陽極からの正孔が発光層内で結合し発光することで、ディスプレイとしての機能を果たす。
【0011】
図2は、有機ELの平面図である。有機発光層の高さの断面を示している。RGBともピクセル状にパターニングしてある例を示している。
【0012】
それぞれのピクセル(「画素」ともいう)を発光させることで、テレビ等の表示装置として機能することができる。このピクセルが形成されている領域を表示領域という。画素の幅およびピッチは、50〜100μmと微細であるので、インクジェットのような精密塗布技術が必要となる。
【0013】
次に有機ELディスプレイの製造工程について説明する。
【0014】
まず、フォトリソグラフィの技術を用いて基板1上に陽極が形成される。次に、フォトリソグラフィの技術を用いて隔壁が作成される。その後、インクジェット印刷法によりRGBの発光層のインクが塗布される。塗布されたインクは、塗布工程および次の工程で乾燥され、発光層のパターンが形成される。更にその後、発光層の上にスパッタリングなどの方法で陰極が形成される。
【0015】
以下、インクジェット装置によるインクの塗布について説明する。
【0016】
図3は、インクジェット装置(または液滴吐出装置)の概観図である。
【0017】
図3に示すように、インクジェット装置は、架台41とその上に設置された、基板搬送ステージ42、ステージに対向するノズルヘッド50からなる。ノズルヘッドは基板搬送ステージ42を跨ぐ門型のガントリー43に設置されている。塗布される基板1の大きさは、いわゆる第8世代のガラスではおよそ2m×2.5mである。
【0018】
図4にノズルヘッドの構造の主要部を示す。
【0019】
ノズルヘッドは、インクを吐出する複数のノズル100、ノズルに連通する圧力室110、圧力室の一部をなす振動板111、振動板を振動させる圧電素子130、圧電素子を挟む共通電極120、個別電極121を有する。他に図示しないインクの導入口を有する。また、インクを循環する種類のインクジェットヘッドにおいては、図示しないインクの排出口を有する。ノズルヘッドが有するノズルは、直径20〜50μmで、100〜500μmのピッチで100〜300穴並んでいる。
【0020】
このように構成されたインクジェットヘッドは、次のように動作する。
【0021】
共通電極120と、個別電極121の間に電圧を印加すると、圧電素子が変形する。圧電素子が変形すると、圧力室の容積が変化し、インクに圧力を加えることができる、その圧力でインクを吐出させている。
【0022】
次に、インクジェット装置の塗布動作について説明する。
【0023】
基板搬送ステージは図3(a)から図3(b)のように移動する、この時基板搬送ステージ上に載置された基板1に向けて、ノズルヘッドからインクが吐出され、基板1の塗布領域44にインクが塗布される。搬送ステージの速度は20〜400mm/sである。また、インクの吐出周波数は、1〜50kHzである。ステージの位置を検出し吐出タイミングを制御することでピクセルパターンの塗布を行う。
【0024】
有機ELパネルの発光層は均一でなければならない。なぜなら、発光層が均一でないと、パネルとして輝度ムラが発生してしまうからである。それゆえ、各ノズルか均一にインクを吐出することが要求される。しかしながら、ノズルの加工精度や各部品の組立精度のバラツキから、各ノズルに同じ電圧を印可しても、均一に吐出できないので、ノズルごとに個別に印可する電圧を変える必要がある。更に、生産途中においてもノズル付近のインクの乾燥により、吐出量が変化することがあるので、ノズルごとに印可する電圧を変えていく必要がある。
【0025】
そこで、特許文献1には、ノズルごとに電圧を変化させて吐出量を制御する技術が開示されている。特許文献2には、ノズルごとに電圧を切り替えることで吐出量を制御する技術が開示されている。しかしながら、従来技術では、駆動電圧の全体を変化させるので、駆動回路への負担が大きく信頼性が低かった。
【0026】
図5、及び、図6を用いて、この点を説明する。
【0027】
図5は、特許文献2に記載の駆動電圧である。特許文献2においては、圧電素子の印加する電圧を、COM1〜COM4の中から選択している。
【0028】
このように駆動電圧を制御するための駆動回路の原理図を図6に示す。
【0029】
図4と同様に、120が共通電極、130が圧電素子、121が個別電極で、それぞれ一つのノズルに対応している。図6では、ノズル2つの場合の構成で例示している。
【0030】
図6において、450は電圧電源、430は抵抗ユニットである。ノズルごとに電圧を変えて吐出量を制御するためには個別制御部が必要となる。一般に駆動波形は図6のように抵抗ユニット430で分割された信号を選択スイッチ420で選択することによって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2011−008936号公報
【特許文献2】特開2010−217827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
しかしながら、駆動電圧全体を抵抗素子R1,抵抗素子R2,抵抗素子R3で分割するので後述する本発明のインクジェット装置に比べて発熱が大きい。また、それぞれの回路部品に印加される電圧も、後述する本発明のインクジェット装置に比べて高くなる。これらの理由によって、インクジェット装置は経年劣化し信頼性が低いという問題があった。
【0033】
そこで本願は、上記従来の問題を鑑み、その対策を提供するもので、発熱などによる経年劣化が抑制された信頼性が高いインクジェット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記目的を達成するために、本発明のインクジェット装置は、インクを吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、圧力室に圧力を加える圧電素子、圧電素子に電圧を印加して駆動する駆動回路を有するインクジェット装置であって、前記駆動回路は、同一の圧電素子に少なくとも二つの駆動回路が接続されており、更に、それぞれの駆動回路の駆動電圧が異なり、駆動電圧の低い駆動回路の信号が先に印可されるよう構成することを特徴とする。
【0035】
このような構成により、前振動の駆動電圧は低いので、吐出量を制御するための回路からの発熱を抑制できる。その結果、駆動回路の負担が小さく信頼性を高めることを可能とする。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明によれば、吐出量を制御するための回路からの発熱を抑制できるので、装置信頼性が高いインクジェット装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】有機ELパネルの断面図
【図2】有機ELパネルの平面図
【図3】インクジェット装置の概観図
【図4】インクジェットヘッドの概略図
【図5】特許文献2記載の駆動波形を示す図
【図6】従来の駆動回路の原理図
【図7】本発明実施の形態1の駆動回路の原理図
【図8】本発明の駆動波形を示す図
【図9】本発明の駆動波形を示す図
【図10】本発明実施の形態2の駆動回路の原理図
【図11】本発明実施の形態2に関わるノズル配置図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0039】
(実施の形態1)
図7は、本発明の実施の形態における駆動回路の構成原理図である。
【0040】
図7において、130は圧電素子、120は共通電極、121は個別電極である。
【0041】
圧電素子は各ノズルに対応している。共通電極は接地されている。また、520は選択スイッチである。530は前振動電圧を分割する抵抗ユニットである。端子521は圧電素子に接続されている。端子522,端子523,端子524,端子525は、抵抗ユニットに接続されている。前振動に関しては後述する。
【0042】
また、540は前振動電圧を供給するための電圧源であり、550は主振動電圧を供給するための電圧源である。主振動に関しては後述する。
【0043】
561,562は前振動のタイミングスイッチである。571,572は主振動のタイミングスイッチである。
【0044】
次に、本発明のインクジェット装置の動作について説明する。
【0045】
図8は、本発明において、ノズルから一滴のインクを吐出する際、圧電素子に印加される駆動波形を表す。図8において横軸は時間、縦軸は個別電極121に印加する電圧である。
【0046】
本発明のインクジェット装置において、個別電極に2回の電圧を印加する。
【0047】
先に印可する電圧V1を前振動駆動電圧と呼ぶことにする。電圧V1は0〜50Vである。後から印可する電圧V2を主振動駆動電圧と呼ぶことにする。電圧V2は20〜100Vである。前振動駆動電圧を印可すると、圧電素子130が変形し、図4のノズル100において、インクメニスカスが振動する。これを前振動と呼ぶ。前振動は、インクがノズルから吐出しない程度に行われる。
【0048】
前振動の後に主振動駆動電圧を印加して圧電素子を変形させることにより、ノズルからインクを吐出させる。前振動を発生させて後、主振動によりインクを吐出させると、前振動の分だけインクを押し出す力を補助することができる。よって、前振動の大きさを変えることで、吐出させるインクの液滴量を変化させることができる。電圧V1は0〜50V、電圧V2は20〜100Vで制御することで、4〜20plの液滴量制御が可能である。
【0049】
図9は、各ノズル毎のばらつきを抑制するために調整された駆動波形を表す。
【0050】
図9(a)、図9(b)の駆動波形で比較すると、前振動駆動電電圧の大きい図9(b)の駆動波形の方が吐出させたインクの液滴の量が大きい。
【0051】
次に、図7のインクジェット装置の駆動回路において、図8の駆動波形を生成する方法について述べる。
【0052】
まず、端子521と端子522,端子523,端子524,端子525のいずれかをスイッチで結ぶ。スイッチ522,スイッチ523,スイッチ524,スイッチ525の順に前振動波形の電圧は高くなる。次に、前振動タイミングスイッチ561,562を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」することにより、前振動駆動波形を生成する。
【0053】
次に、主振動タイミングスイッチ571,572を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」することにより、主振動駆動波形を生成する。
【0054】
その際、前振動によるノズルメニスカス振動に同期させて、主振動でノズルメニスカス振動をさらに増幅させるために、主振動タイミングスイッチ571,572の「on/off」それぞれの切り替えを行うとより効果的である。
【0055】
以上のようにして図8の駆動波形を生成する。前振動の電圧は、吐出検査により、決定される。すなわち、製品となる基板に塗布する前に、インクを各ノズルより吐出させ各ノズルからの吐出量を測定する。そして、その測定値に応じて、前振動駆動波形の電圧をスイッチの切り替えで選択する。例えば、吐出量が少ないノズルの圧電素子に対しては、高電圧側のスイッチを選択し、吐出量が多いノズルの圧電素子に対しては、低電圧側のスイッチを選択する。
【0056】
このようにして、すべてのノズルからの吐出量を均一にすることができるので、ムラのにない高品位な有機ELパネルを製造することができる。
【0057】
本発明においては、各ノズルからの液滴量の制御を、前振動専用の駆動回路(選択スイッチ520,抵抗ユニット530,前振動電圧源540で構成)で制御している。前振動の電圧は低いので抵抗ユニット530(電圧制御部)に流れる電流は小さく、発熱が小さい。このことにより、駆動回路系の経年劣化を抑制し信頼性の高いインクジェット装置を提供することができる。
【0058】
また、主振動における「on/off」スイッチ切り替えタイミングを調整することによって、各ノズルからの吐出量を調整することもできる。例えば、前振動によるノズルメニスカス振動に同期させて主振動を駆動すると吐出量を多くすることができ、振動周期や位相を意図的にずらして主振動を駆動すると吐出量を少なくすることができる。
【0059】
なお、以上の説明で使用したスイッチや電圧制御部の構成部品とし、トランジスタやダイオードやデジタル信号処理用のICを使用できることは言うまでもない。
【0060】
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2の駆動回路の原理構成図である。図10において、図7と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。なお、実施の形態2は、複数の圧電素子が前振動駆動回路を共有している点が、実施の形態1と異なる。
【0061】
前振動タイミングスイッチ561,562は個別に設けられるが、選択スイッチ520(切り換えスイッチ)と電圧を分割する抵抗ユニット530と前振動電圧電源を共有している。この構成は、各ノズルが同時の吐出するタイミングが発生しない構成において可能となる。
【0062】
図11は、実施の形態2におけるノズルヘッド配置図を表す。
【0063】
例えば、図11に示すようにノズルヘッド50を基板1の相対移動方向に対して傾斜させて、ノズルヘッドと基板を相対移動させ、塗布領域31に対して順次吐出する構成をとる場合、各ノズル100が同時の吐出するタイミングが発生しない。
【0064】
図10に示される駆動回路は次のように動作する。
【0065】
塗布領域31に到達したノズルに対して、
(1)まず、端子521と端子522,端子523,端子524,端子525のいずれかをスイッチで結ぶ。
(2)スイッチ522,スイッチ523,スイッチ524,スイッチ525の順に前振動波形の電圧は高くなる。
(3)次に、前振動タイミングスイッチ561を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」にすることにより、前振動駆動波形を生成する。
(4)次に、主振動タイミングスイッチ571を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」にすることにより、主振動駆動波形を生成する。
【0066】
このように、塗布領域に到達したノズルからインクが吐出される。
【0067】
次に、ノズルに引き続き塗布領域に到達したノズルに対して同様の動作(1)から(4)を実施し、ノズルからインクを吐出させる。すべてのノズルに対して一つの前振動駆動回路を使用するのではなく、同時に吐出しない複数のノズル群に対して一つの前振動駆動回路を使用してもよい。
【0068】
このような実施の形態2の駆動回路構成によると、各ノズルからの液滴量の制御を、前振動専用の駆動回路で制御している。前振動の電圧は低いので電圧制御部に流れる電流は小さく、発熱が小さい。このことにより、駆動回路系の経年劣化を抑制し信頼性の高いインクジェット装置を提供することができる。
【0069】
加えて、実施の形態2の構成では、前振動駆動回路の数を減らせるので、駆動回路の間隔を実施の形態1よりも広く取った配置が可能になり、放熱を促進することができる。
【0070】
このことによって、さらに発熱による経年劣化を抑制できるので、インクジェット装置の信頼性を向上することができる。
【0071】
なお、以上の説明で使用したスイッチや電圧制御部の構成部品とし、トランジスタやダイオードやデジタル信号処理用のICを使用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、有機ELの発光層の塗布やカラーフィルターの色材料の塗布に使用されるインクジェット装置に適用できる。
【符号の説明】
【0073】
120 共通電極
121 個別電極
130 圧電素子
420,520 選択スイッチ
430,530 抵抗ユニット
540 前振動電圧源
550 主振動電圧源
561 前振動タイミングスイッチ
571 主振動タイミングスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年インクジェット技術を用いて電子デバイスを製造する方法が注目を集めている。
【0003】
インクジェット技術による製造は、蒸着技術などに比べ設備構成がシンプルで安価な製造が可能である。また、インクジェット技術は、直接パターニング技術であるため蒸着技術におけるマスクが不要で大型化が可能である。例えば、表示電子デバイスにおいては大画面への市場要求が高まり、インクジェット塗布による電子デバイス製造技術への期待は高まっている。
【0004】
以下、有機ELディスプレイを例に塗布による製造技術について説明する。
【0005】
図1に有機ELディスプレイの構造を示す。
【0006】
同図において、有機ELディスプレイは、基板1、陰極32、発光層301R、発光層301G、発光層301B、陽極33、及び、隔壁31からなる。なお、基板1にはディスプレイを駆動するためのTFTが内蔵されているが、ここでは図示しない。また、陰極32の上層には封止膜やカラーフィルターなどが適宜配置されるが図示していない。
【0007】
有機ELディスプレイの場合、発光層としてRGBの3色に対応した3種類があり、それぞれを301R、301G,301Bで表している。
【0008】
隔壁31は次の製造工程の説明において述べるインクジェット塗布において各画素に塗布するインクのパターニングに使用される。
【0009】
また、インクとは、発光層材料を溶媒に溶かした溶液のことを言う。有機ELの発光層の原料としては、ポリフルオレン系、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系、アルコキシベンゼン、アルキルベンゼンなどの高分子材料が挙げられ、溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキシルベンゼン等の単独または混合溶媒が挙げられる。隔壁31を形成しているので、塗布されたインクは所望の画素領域に留まり、混色することなく高品位なディスプレイを実現できる。隔壁31としては、フッ素を含む樹脂が使用され撥インク性を持っている。
【0010】
このように構成されたデバイスは、陰極32からの電子と陽極からの正孔が発光層内で結合し発光することで、ディスプレイとしての機能を果たす。
【0011】
図2は、有機ELの平面図である。有機発光層の高さの断面を示している。RGBともピクセル状にパターニングしてある例を示している。
【0012】
それぞれのピクセル(「画素」ともいう)を発光させることで、テレビ等の表示装置として機能することができる。このピクセルが形成されている領域を表示領域という。画素の幅およびピッチは、50〜100μmと微細であるので、インクジェットのような精密塗布技術が必要となる。
【0013】
次に有機ELディスプレイの製造工程について説明する。
【0014】
まず、フォトリソグラフィの技術を用いて基板1上に陽極が形成される。次に、フォトリソグラフィの技術を用いて隔壁が作成される。その後、インクジェット印刷法によりRGBの発光層のインクが塗布される。塗布されたインクは、塗布工程および次の工程で乾燥され、発光層のパターンが形成される。更にその後、発光層の上にスパッタリングなどの方法で陰極が形成される。
【0015】
以下、インクジェット装置によるインクの塗布について説明する。
【0016】
図3は、インクジェット装置(または液滴吐出装置)の概観図である。
【0017】
図3に示すように、インクジェット装置は、架台41とその上に設置された、基板搬送ステージ42、ステージに対向するノズルヘッド50からなる。ノズルヘッドは基板搬送ステージ42を跨ぐ門型のガントリー43に設置されている。塗布される基板1の大きさは、いわゆる第8世代のガラスではおよそ2m×2.5mである。
【0018】
図4にノズルヘッドの構造の主要部を示す。
【0019】
ノズルヘッドは、インクを吐出する複数のノズル100、ノズルに連通する圧力室110、圧力室の一部をなす振動板111、振動板を振動させる圧電素子130、圧電素子を挟む共通電極120、個別電極121を有する。他に図示しないインクの導入口を有する。また、インクを循環する種類のインクジェットヘッドにおいては、図示しないインクの排出口を有する。ノズルヘッドが有するノズルは、直径20〜50μmで、100〜500μmのピッチで100〜300穴並んでいる。
【0020】
このように構成されたインクジェットヘッドは、次のように動作する。
【0021】
共通電極120と、個別電極121の間に電圧を印加すると、圧電素子が変形する。圧電素子が変形すると、圧力室の容積が変化し、インクに圧力を加えることができる、その圧力でインクを吐出させている。
【0022】
次に、インクジェット装置の塗布動作について説明する。
【0023】
基板搬送ステージは図3(a)から図3(b)のように移動する、この時基板搬送ステージ上に載置された基板1に向けて、ノズルヘッドからインクが吐出され、基板1の塗布領域44にインクが塗布される。搬送ステージの速度は20〜400mm/sである。また、インクの吐出周波数は、1〜50kHzである。ステージの位置を検出し吐出タイミングを制御することでピクセルパターンの塗布を行う。
【0024】
有機ELパネルの発光層は均一でなければならない。なぜなら、発光層が均一でないと、パネルとして輝度ムラが発生してしまうからである。それゆえ、各ノズルか均一にインクを吐出することが要求される。しかしながら、ノズルの加工精度や各部品の組立精度のバラツキから、各ノズルに同じ電圧を印可しても、均一に吐出できないので、ノズルごとに個別に印可する電圧を変える必要がある。更に、生産途中においてもノズル付近のインクの乾燥により、吐出量が変化することがあるので、ノズルごとに印可する電圧を変えていく必要がある。
【0025】
そこで、特許文献1には、ノズルごとに電圧を変化させて吐出量を制御する技術が開示されている。特許文献2には、ノズルごとに電圧を切り替えることで吐出量を制御する技術が開示されている。しかしながら、従来技術では、駆動電圧の全体を変化させるので、駆動回路への負担が大きく信頼性が低かった。
【0026】
図5、及び、図6を用いて、この点を説明する。
【0027】
図5は、特許文献2に記載の駆動電圧である。特許文献2においては、圧電素子の印加する電圧を、COM1〜COM4の中から選択している。
【0028】
このように駆動電圧を制御するための駆動回路の原理図を図6に示す。
【0029】
図4と同様に、120が共通電極、130が圧電素子、121が個別電極で、それぞれ一つのノズルに対応している。図6では、ノズル2つの場合の構成で例示している。
【0030】
図6において、450は電圧電源、430は抵抗ユニットである。ノズルごとに電圧を変えて吐出量を制御するためには個別制御部が必要となる。一般に駆動波形は図6のように抵抗ユニット430で分割された信号を選択スイッチ420で選択することによって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2011−008936号公報
【特許文献2】特開2010−217827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
しかしながら、駆動電圧全体を抵抗素子R1,抵抗素子R2,抵抗素子R3で分割するので後述する本発明のインクジェット装置に比べて発熱が大きい。また、それぞれの回路部品に印加される電圧も、後述する本発明のインクジェット装置に比べて高くなる。これらの理由によって、インクジェット装置は経年劣化し信頼性が低いという問題があった。
【0033】
そこで本願は、上記従来の問題を鑑み、その対策を提供するもので、発熱などによる経年劣化が抑制された信頼性が高いインクジェット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記目的を達成するために、本発明のインクジェット装置は、インクを吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、圧力室に圧力を加える圧電素子、圧電素子に電圧を印加して駆動する駆動回路を有するインクジェット装置であって、前記駆動回路は、同一の圧電素子に少なくとも二つの駆動回路が接続されており、更に、それぞれの駆動回路の駆動電圧が異なり、駆動電圧の低い駆動回路の信号が先に印可されるよう構成することを特徴とする。
【0035】
このような構成により、前振動の駆動電圧は低いので、吐出量を制御するための回路からの発熱を抑制できる。その結果、駆動回路の負担が小さく信頼性を高めることを可能とする。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明によれば、吐出量を制御するための回路からの発熱を抑制できるので、装置信頼性が高いインクジェット装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】有機ELパネルの断面図
【図2】有機ELパネルの平面図
【図3】インクジェット装置の概観図
【図4】インクジェットヘッドの概略図
【図5】特許文献2記載の駆動波形を示す図
【図6】従来の駆動回路の原理図
【図7】本発明実施の形態1の駆動回路の原理図
【図8】本発明の駆動波形を示す図
【図9】本発明の駆動波形を示す図
【図10】本発明実施の形態2の駆動回路の原理図
【図11】本発明実施の形態2に関わるノズル配置図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0039】
(実施の形態1)
図7は、本発明の実施の形態における駆動回路の構成原理図である。
【0040】
図7において、130は圧電素子、120は共通電極、121は個別電極である。
【0041】
圧電素子は各ノズルに対応している。共通電極は接地されている。また、520は選択スイッチである。530は前振動電圧を分割する抵抗ユニットである。端子521は圧電素子に接続されている。端子522,端子523,端子524,端子525は、抵抗ユニットに接続されている。前振動に関しては後述する。
【0042】
また、540は前振動電圧を供給するための電圧源であり、550は主振動電圧を供給するための電圧源である。主振動に関しては後述する。
【0043】
561,562は前振動のタイミングスイッチである。571,572は主振動のタイミングスイッチである。
【0044】
次に、本発明のインクジェット装置の動作について説明する。
【0045】
図8は、本発明において、ノズルから一滴のインクを吐出する際、圧電素子に印加される駆動波形を表す。図8において横軸は時間、縦軸は個別電極121に印加する電圧である。
【0046】
本発明のインクジェット装置において、個別電極に2回の電圧を印加する。
【0047】
先に印可する電圧V1を前振動駆動電圧と呼ぶことにする。電圧V1は0〜50Vである。後から印可する電圧V2を主振動駆動電圧と呼ぶことにする。電圧V2は20〜100Vである。前振動駆動電圧を印可すると、圧電素子130が変形し、図4のノズル100において、インクメニスカスが振動する。これを前振動と呼ぶ。前振動は、インクがノズルから吐出しない程度に行われる。
【0048】
前振動の後に主振動駆動電圧を印加して圧電素子を変形させることにより、ノズルからインクを吐出させる。前振動を発生させて後、主振動によりインクを吐出させると、前振動の分だけインクを押し出す力を補助することができる。よって、前振動の大きさを変えることで、吐出させるインクの液滴量を変化させることができる。電圧V1は0〜50V、電圧V2は20〜100Vで制御することで、4〜20plの液滴量制御が可能である。
【0049】
図9は、各ノズル毎のばらつきを抑制するために調整された駆動波形を表す。
【0050】
図9(a)、図9(b)の駆動波形で比較すると、前振動駆動電電圧の大きい図9(b)の駆動波形の方が吐出させたインクの液滴の量が大きい。
【0051】
次に、図7のインクジェット装置の駆動回路において、図8の駆動波形を生成する方法について述べる。
【0052】
まず、端子521と端子522,端子523,端子524,端子525のいずれかをスイッチで結ぶ。スイッチ522,スイッチ523,スイッチ524,スイッチ525の順に前振動波形の電圧は高くなる。次に、前振動タイミングスイッチ561,562を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」することにより、前振動駆動波形を生成する。
【0053】
次に、主振動タイミングスイッチ571,572を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」することにより、主振動駆動波形を生成する。
【0054】
その際、前振動によるノズルメニスカス振動に同期させて、主振動でノズルメニスカス振動をさらに増幅させるために、主振動タイミングスイッチ571,572の「on/off」それぞれの切り替えを行うとより効果的である。
【0055】
以上のようにして図8の駆動波形を生成する。前振動の電圧は、吐出検査により、決定される。すなわち、製品となる基板に塗布する前に、インクを各ノズルより吐出させ各ノズルからの吐出量を測定する。そして、その測定値に応じて、前振動駆動波形の電圧をスイッチの切り替えで選択する。例えば、吐出量が少ないノズルの圧電素子に対しては、高電圧側のスイッチを選択し、吐出量が多いノズルの圧電素子に対しては、低電圧側のスイッチを選択する。
【0056】
このようにして、すべてのノズルからの吐出量を均一にすることができるので、ムラのにない高品位な有機ELパネルを製造することができる。
【0057】
本発明においては、各ノズルからの液滴量の制御を、前振動専用の駆動回路(選択スイッチ520,抵抗ユニット530,前振動電圧源540で構成)で制御している。前振動の電圧は低いので抵抗ユニット530(電圧制御部)に流れる電流は小さく、発熱が小さい。このことにより、駆動回路系の経年劣化を抑制し信頼性の高いインクジェット装置を提供することができる。
【0058】
また、主振動における「on/off」スイッチ切り替えタイミングを調整することによって、各ノズルからの吐出量を調整することもできる。例えば、前振動によるノズルメニスカス振動に同期させて主振動を駆動すると吐出量を多くすることができ、振動周期や位相を意図的にずらして主振動を駆動すると吐出量を少なくすることができる。
【0059】
なお、以上の説明で使用したスイッチや電圧制御部の構成部品とし、トランジスタやダイオードやデジタル信号処理用のICを使用できることは言うまでもない。
【0060】
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2の駆動回路の原理構成図である。図10において、図7と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。なお、実施の形態2は、複数の圧電素子が前振動駆動回路を共有している点が、実施の形態1と異なる。
【0061】
前振動タイミングスイッチ561,562は個別に設けられるが、選択スイッチ520(切り換えスイッチ)と電圧を分割する抵抗ユニット530と前振動電圧電源を共有している。この構成は、各ノズルが同時の吐出するタイミングが発生しない構成において可能となる。
【0062】
図11は、実施の形態2におけるノズルヘッド配置図を表す。
【0063】
例えば、図11に示すようにノズルヘッド50を基板1の相対移動方向に対して傾斜させて、ノズルヘッドと基板を相対移動させ、塗布領域31に対して順次吐出する構成をとる場合、各ノズル100が同時の吐出するタイミングが発生しない。
【0064】
図10に示される駆動回路は次のように動作する。
【0065】
塗布領域31に到達したノズルに対して、
(1)まず、端子521と端子522,端子523,端子524,端子525のいずれかをスイッチで結ぶ。
(2)スイッチ522,スイッチ523,スイッチ524,スイッチ525の順に前振動波形の電圧は高くなる。
(3)次に、前振動タイミングスイッチ561を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」にすることにより、前振動駆動波形を生成する。
(4)次に、主振動タイミングスイッチ571を「on」にし、所定の時間をおいて、「off」にすることにより、主振動駆動波形を生成する。
【0066】
このように、塗布領域に到達したノズルからインクが吐出される。
【0067】
次に、ノズルに引き続き塗布領域に到達したノズルに対して同様の動作(1)から(4)を実施し、ノズルからインクを吐出させる。すべてのノズルに対して一つの前振動駆動回路を使用するのではなく、同時に吐出しない複数のノズル群に対して一つの前振動駆動回路を使用してもよい。
【0068】
このような実施の形態2の駆動回路構成によると、各ノズルからの液滴量の制御を、前振動専用の駆動回路で制御している。前振動の電圧は低いので電圧制御部に流れる電流は小さく、発熱が小さい。このことにより、駆動回路系の経年劣化を抑制し信頼性の高いインクジェット装置を提供することができる。
【0069】
加えて、実施の形態2の構成では、前振動駆動回路の数を減らせるので、駆動回路の間隔を実施の形態1よりも広く取った配置が可能になり、放熱を促進することができる。
【0070】
このことによって、さらに発熱による経年劣化を抑制できるので、インクジェット装置の信頼性を向上することができる。
【0071】
なお、以上の説明で使用したスイッチや電圧制御部の構成部品とし、トランジスタやダイオードやデジタル信号処理用のICを使用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、有機ELの発光層の塗布やカラーフィルターの色材料の塗布に使用されるインクジェット装置に適用できる。
【符号の説明】
【0073】
120 共通電極
121 個別電極
130 圧電素子
420,520 選択スイッチ
430,530 抵抗ユニット
540 前振動電圧源
550 主振動電圧源
561 前振動タイミングスイッチ
571 主振動タイミングスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に圧力を加える圧電素子と、前記圧電素子に電圧を印可して駆動する駆動回路と、を有するインクジェット装置であって、
前記駆動回路は、同一の圧電素子に少なくとも二つの駆動回路が接続されており、それぞれの駆動回路の駆動電圧が異なると共に、駆動電圧の低い駆動回路の信号が先に印加されること、を特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記駆動電圧の低い駆動回路は、複数の圧電素子によって共有されている、請求項1記載のインクジェット装置。
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に圧力を加える圧電素子と、前記圧電素子に電圧を印可して駆動する駆動回路と、を有するインクジェット装置であって、
前記駆動回路は、同一の圧電素子に少なくとも二つの駆動回路が接続されており、それぞれの駆動回路の駆動電圧が異なると共に、駆動電圧の低い駆動回路の信号が先に印加されること、を特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記駆動電圧の低い駆動回路は、複数の圧電素子によって共有されている、請求項1記載のインクジェット装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−45821(P2013−45821A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181243(P2011−181243)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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