説明

インクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】 BTJのヒータボードプロセス(単層配線対応)で、ヒータ保護膜として最適な膜厚と、異方性エッチングストップ層として必要な膜厚を実現するためのインクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録ヘッド・プロセスを提案する。
【解決手段】 p−SiNxをヒータ保護膜として必要な膜厚まで成膜し、その後にヒータ上部にTaの耐キャビテェーション層を形成後、p−SiNxを再度メンブレンとして必要な膜厚まで成膜する。
次に、2層目のp−SiNxをTaをエッチングストップ層として削りこみ、ヒータ保護膜それぞれに必要な膜厚を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に外部からエネルギーを加えることによって、所望の液体を吐出するインクジェット記録ヘッド、およびインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドに関しては、特開昭54−51837号公報に記載されているインクジェット記録ヘッドは、熱エネルギーを液体に印加し、この熱エネルギーを受けた液体が加熱されて気泡を発生し、この気泡発生に基づく作用力によって、記録ヘッド部先端のオリフィスから液滴が吐出され、この液滴が被記録部材に付着して情報の記録が行われるということを特徴としている。
【0003】
この記録法に適用される記録ヘッドは、一般に液体を吐出するために設けられたオリフィスと、このオリフィスに連通して液滴を吐出するための熱エネルギーが液体に作用する部分である熱作用部を構成の一部とする液流路とを有する液吐出部及び熱エネルギーを発生する手段である熱変換体としての発熱抵抗層とそれをインクから保護するヒータ保護層及び、キャビテーションから保護する耐キャビテーション層と蓄熱するための蓄熱層(下部層)を具備している。
【0004】
また、特開平9−11479号公報にインク供給口を異方性エッチングで形成する方法が提案されている。さらに、インク供給口を異方性エッチングで精度良く形成する方法が特開平10−181032号公報に提案されている。
【0005】
プロセスを簡単に記すと、
1)シリコン基板を熱酸化により基板表面に二酸化シリコン膜を形成する、
2)次に、二酸化シリコン膜上に発熱抵抗体を形成し、
3)所定の場所の二酸化シリコン膜を除去し、
4)二酸化シリコンを除去した部分にpoly−Si膜を成膜、形成し犠牲層とした、
5)更に、発熱抵抗体と埋め込み犠牲層上に窒化シリコン膜からなるパッシベーション層を形成、
6)この後、後工程により流路形成層、ノズル形成層を形成し、
7)裏面よりTMAHにてシリコンの異方性エッチングを行い、
8)二酸化シリコン膜を除去し、更に、TMAHにて犠牲層を除去し、
9)インク供給口のパッシベーション膜をRIEにて除去してインクジェット記録ヘッドを作成している。
【特許文献1】特開昭54−51837号公報
【特許文献2】特開平9−11479号公報
【特許文献3】特開平10−181032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、特開平10−181032号公報でインクジェット記録ヘッドを形成する方法において、TMAHにて犠牲層をエッチングして除去し窒化シリコン膜からなるパッシベイション層の一部からなるメンブレンを形成している。パッシベイション層とメンブレンは、同一工程で成膜・形成されている為、膜厚は同じ厚さである。
【0007】
ところが、発熱抵抗体上に形成される保護膜の膜厚は、インク吐出効率の関係より膜厚は信頼性を確保できる膜厚があればよく、必要以上厚くならない方が望ましい。信頼性を確保する為ならば、少なくとも250nm以上あれば良い。
【0008】
一方、異方性エッチングによりインク供給口を形成する工程で、メンブレンとなるパッシベイション層の膜厚は、工程内でのメンブレン割れ不良を低減するためには、500nm以上の膜厚が必要であり、望ましくは1000nm以上の膜厚を確保する必要がある。
【0009】
インク吐出効率を向上させる事を優先すると、メンブレン(パッシベイション層)の膜厚は薄くなり、異方性エッチング時にメンブレンが割れて、歩留まりが良くなくなるという問題があり、一方、異方性エッチング時のメンブレンが割れを防止するために、パッシベイション層の膜厚を厚くすることにより、発熱抵抗体での消費電力に比しインクの吐出効率が劣化するとともに、駆動の高速化の障害となる問題があった。
【0010】
なお、図9は、従来例によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、本発明では、インクを吐出する複数の発熱抵抗体を保護するヒータ保護膜が形成されており、さらに耐キャビテーション膜が形成された発熱抵抗体を備え、エッチングによりインク供給口を形成するインクジェット記録ヘッド用基板において、ヒータ保護膜とエッチングストップ層が同一材料であり、ヒータ保護膜の膜厚がエッチングストップ層の膜厚より薄くすることを特徴とする事によって、ヒータ保護膜として最適な膜厚と、エッチングストップ層としての最適な膜厚をおのおの設定できる為、
エッチングストップ層の膜厚が薄く異方性エッチング時にメンブレンが割れて、歩留まりが良くなくなるという問題と、発熱抵抗体上に形成される保護膜の膜厚が厚くなり、インク吐出効率が良くなくなるという問題が解決できる。
【0012】
本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法においては、ヒータ上に形成された耐キャビテーション膜であるTaの上層部に成膜された第二のエッチングストップ層をドライエッチングにより除去する工程で、耐キャビテーション膜をドライエッチングストップ層とすることにより、選択的に第二のエッチングストップ層が除去できる。
【0013】
この工程により、ヒータ保護膜として最適な膜厚と、エッチングストップ層としての最適な膜厚をおのおの設定が可能となる。
『実験』
[実験1]
エッチングストップ層としてのプラズマCVDによる窒化シリコン膜(p-SiNx)の成膜条件依存性と応力、耐アルカリ性、耐BHF性の関係
プラズマCVDによる窒化シリコン膜(p-SiNx)の成膜条件依存性と応力、耐アルカリ性、耐BHF性の関係について調べた。
【0014】
膜応力の測定は、5インチΦ、厚さ625μmの基板面方位(100)のシリコンウエハに、膜厚5000Åで組成をそれぞれ変化させ、ZYGOの干渉変位計を用いて膜変形を測り、応力を算出した。
【0015】
また、耐アルカリ性は、シリコンウエハに、膜厚5000Åで組成をそれぞれ変化させた膜を形成し、20%のTMAH水溶液(エッチャント温度は83℃)に浸漬し、エッチングレートを測定した。
【0016】
基板方位100のSiのエッチングレートは30から50μm/hrであった。
【0017】
また、耐BHF性は、上記耐アルカリ性検討試料と同様な試料を作成し、BHFに浸漬しエッチングレートを測定した。BHFは、ダイキン工業製 BHF63Uを用いた。HF:6mass%、NH4F30.1mass%、残りH2Oである。
【0018】
本実験で使用したBHFでの熱酸化SiO2膜のエッチングレートは900から1000Å/minであった。
【0019】
尚、プロセス上、TMAHのエッチングレートは500Å/hr以下、BHFのエッチングレートは200Å/min以下が必要である。
【0020】
プラズマCVDによる窒化シリコン膜は、原料ガスとして、SiH4/NH3/N2を用い、SiH4は200sccm、N2は2000sccm、基板温度は300℃、圧力は1500mTorr、固定とし、NH3ガス流量とRFパワーをパラメータとしてp-SiNxの膜応力を変化させた。
【0021】
(表1-1はRFパワー1500Wにおける、NH3ガス流量と応力、エッチングレートの関係を示したものである。)
(表1-2、表1-3、表1-4は、RFパワー1000W、750W,500Wにおける、NH3ガス流量と応力、エッチングレートの関係を示したものである。)
1)RFパワー1500Wで堆積させたp―SiNx膜の膜応力はNH3流量が増加するに従って、圧縮から引っ張りに変化するが、TMAH、BHFのエッチングレートも急増する。TMAHのエッチングレートが500Å/hr以下、且つBHFエッチングレートが200Å/min以下であるp−SiNxの膜応力は圧縮の−5×109dyne/cm2以上である。
【0022】
2)表1−2、表1−3、表1−4にRFパワーを変えて、同様な実験を行った結果を示す。
【0023】
低RFパワー、低NH3流量領域で膜応力、TMAH、BHFエッチングレートの要求スペックを満足するプラズマCVDによる窒化シリコン膜を得る事ができた。(表1−2のNo2、表1−3のNo1、2、表1−4のNo1)
従って、プラズマCVDの成膜パラメータを制御することにより低膜応力で、TMAH、BHFエッチングレートの要求スペックを満足する窒化シリコン膜(p-SiNx)が得られることが分かった。
【0024】
表1―1 (RFパワー 1500W)
SiH4(200sccm)、N2(2000sccm)、Press_1.5Torr、RFpower_1500w
No NH3 膜応力 TMAHエッチングレート BHFエッチングレート
Sccm dyne/cm2 Å/hr Å/min
1 0 −9×109 95 80
2 100 −8×109 110 160
3 300 −5×109 140 530
4 500 −2×109 150 650
5 700 −2×109 220 1000
6 1000 −0.5×109 300 1500
7 1200 +2×109 650 3000
8 1500 +5×109 1000 5000
表1―2 (RFパワー 1000W)
SiH4(200sccm)、N2(2000sccm)、Press_1.5Torr、RFpower_1000w
No NH3 膜応力 TMAHエッチングレート BHFエッチングレート
Sccm dyne/cm2 Å/hr Å/min
1 0 −5×109 120 80
2 50 −3×109 120 100
3 100 −2×109 130 190
4 300 +3×109 190 1400
5 500 +4×109 230 3100
表1―3 (RFパワー 750W)
SiH4(200sccm)、N2(2000sccm)、Press_1.5Torr、RFpower_500w
No NH3 膜応力 TMAHエッチングレート BHFエッチングレート
Sccm dyne/cm2 Å/hr Å/min
1 0 −1×109 125 105
2 50 +3×109 130 190
3 100 +4×109 250 220
4 300 +7×109 720 5200
表1―4 (RFパワー 500W)
SiH4(200sccm)、N2(2000sccm)、Press_1.5Torr、RFpower_500w
No NH3 膜応力 TMAHエッチングレート BHFエッチングレート
Sccm dyne/cm2 Å/hr Å/min
1 0 +1×109 150 100
2 50 +3×109 200 300
3 100 +5×109 450 920
4 300 +7×109 720 7200
[実験2]
エッチングストップ層の破れが発生しない膜応力範囲
図1−bは、本発明によるインクジェット記録ヘッドの製造工程の途中の部分の素子断面略図である。図1−cは、さらにSi基板に異方性エッチで基板下部から穴加工を施したものである。エッチングは犠牲層103までを除去する。異方性エッチのエッチャントはエッチングストップ層106で阻止され、上部の樹脂でできたノズル部や流路形成材はエッチャントから保護されている。このエッチングストップ層に要求されるのは、耐エッチャント性とメンブレンとしての強度である。そこで、エッチングストップ層としてp−SiNxを6000Å積層してサンプルを作製し、Si基板の異方性エッチング後に、上部の樹脂層などがエッチャントの浸入によってダメージを受けていないかどうか、顕微鏡によって観察した。
【0025】
その結果を表2に示す。膜応力が、-3×10-9dyne/cm2以上の圧縮応力、3×10-9dyne/cm2以上の引っ張り応力時、エッチングストップ層に破れが生じる場合があることが判った。
【0026】
即ち、膜応力が-3×10-9dyne/cm2から3×10-9dyne/cm2の範囲内でエッチングストップ層の割れが発生しないことが分かった。
表2
No 積層膜の膜応力 破れの発生状況
1 -5 ×109dyne/cm2 100% 破れ発生
2 -4 ×109dyne/cm2 50% 破れ発生
3 -3 ×109dyne/cm2 0% 破れ発生
4 -0.5×109dyne/cm2 0% 破れ発生
5 +3 ×109dyne/cm2 0% 破れ発生
6 +4 ×109dyne/cm2 30% 破れ発生
7 +5 ×109dyne/cm2 100% 破れ発生
[実験3]
上記の実験2の破れの発生していない#3〜5のp−SiNx膜を使って、膜厚を1000Åから2μmまで変化させて、実験2と同様の評価を行った。その結果、膜厚が2000Åで一部割れが発生し、5000Å以上でエッチング層の膜破れが発生しないことが判った。
表3
膜厚 割れの発生状況
1000Å 100%
2000Å 20%
3000Å 10%
5000Å 0%
6000Å 0%
8000Å 0%
10000Å 0%
20000Å 0%
30000Å 0%
[実験4]
積層窒化シリコン膜の応力
第1層目の窒化シリコン膜として実験1の表1−2のNo3(NH3 100sccm、RFパワー1000W、膜応力−2×109dyne/cm2)膜を用い、2層目の窒化シリコン膜として膜応力+3×109dyne/cm2の窒化シリコンを積層し、積層膜としての膜応力を測定した。
No 1層目膜応力/膜厚 2層目膜応力/膜厚 積層膜の応力/膜厚
1 -2E9dyne/cm2、3000Å +3E9dyne/cm2、3000Å +0.6E9dyne/cm2、6000Å
2 -2E9dyne/cm2、3000Å +3E9dyne/cm2、5000Å +1E9dyne/cm2、8000Å
3 -2E9dyne/cm2、2000Å +3E9dyne/cm2、4000Å +1.5E9dyne/cm2、6000Å
第1層目の窒化シリコン膜として実験1の表1−2のNo1(NH3 0sccm、RFパワー1000W、膜応力−5×109dyne/cm2)膜を用い、2層目の窒化シリコン膜として膜応力+3×109dyne/cm2、+5×109dyne/cm2の窒化シリコンを積層し、積層膜としての膜応力を測定した。
【0027】
積層構成の場合、第一の窒化シリコン膜の応力が大きくても、第二の窒化シリコン膜で応力制御を行い、積層膜として膜応力を圧縮の−3×109dyne/cm2から引っ張りの+3×109dyne/cm2に制御している。
No 1層目膜応力/膜厚 2層目膜応力/膜厚 積層膜の応力/膜厚
1 -5E9dyne/cm2、3000Å +3E9dyne/cm2、7000Å +0.6E9dyne/cm2、10000Å
2 -5E9dyne/cm2、3000Å +3E9dyne/cm2、9000Å +1E9dyne/cm2、 12000Å
3 -5E9dyne/cm2、3000Å +5E9dyne/cm2、5000Å +1.25E9dyne/cm2、8000Å
従って、積層膜として膜応力制御が可能であることが分かった。
[実験5]
プラズマCVDによる窒化シリコン膜の膜応力、耐BHF性の基板温度依存性について調べた。
【0028】
プラズマ窒化シリコン堆積条件1)
原料ガスとして、SiH4/NH3/N2を用い、各流量はSiH4/200sccm、NH3/500sccm、N2/2000sccm、圧力 1500mTorr、RFパワー 1500Wとし、基板温度を200℃から500℃まで変えてp-SiNxを堆積させて、膜応力、BHFエッチングレートを測定した。
表5―1 基板温度と膜応力、BHFエッチングレート1
SiH4(200sccm)、NH3(500sccm)、N2(2000sccm)、Press_1.5Torr、RFpower_1500w
No 基板温度 膜応力 BHFエッチングレート
℃ dyne/cm2 Å/min
1 200 −1×109 8000
2 300 −2×109 650
3 400 −3×109 250
4 500 −4×109 100
プラズマ窒化シリコン堆積条件2)
原料ガスとして、SiH4/N2を用い、各流量はSiH4/200sccm、N2/2000sccm、圧力1500mTorr、RFパワー1000Wとし、基板温度を200℃から500℃まで変えてp-SiNxを堆積させて、膜応力、BHFエッチングレートを測定した。
表5―2 基板温度と膜応力、BHFエッチングレート1
SiH4(200sccm)、N2(2000sccm)、Press_1.5Torr、RFpower_1000w
No 基板温度 膜応力 BHFエッチングレート
℃ dyne/cm2 Å/min
1 200 −3×109 190
2 300 −5×109 80
3 400 −6×109 60
4 500 −7×109 50
以上のように、プラズマ窒化シリコンの堆積条件を、変える事により基板温度が200℃から500℃において、膜応力、耐BHF性が要求スペックを満足するp-SiNxを得る事が出来た。
【0029】
特に、低NH3流量領域(0sccmを含む)で基板温度を低下させても、BHFのエッチングレートを早めることなく膜応力の制御が可能となった。
[実験6]
プラズマCVDによる窒化シリコン膜を、ヒータ保護膜として用いた場合の膜厚とヒータに印加する投入エネルギーとインク吐出の効率について検討を行った。
【0030】
表6にヒータ保護膜の膜厚と吐出開始エネルギーの関係を示す。
【0031】
ヒータ保護膜の膜厚と吐出の成否の関連は明らかであり、p−SiNx膜厚が5000Å以上ではインク吐出が不安定であったり、また、ヒータへの投入エネルギーが大きく、この状態でヒータへの通電するとヒータが断線が発生する。
【0032】
従って、ヒータ保護膜としての膜厚は、4000Å以下である必要がある。
表6 ヒータ保護膜の膜厚と吐出開始エネルギーの関係
No p−SiNx膜厚 インク吐出
1 1000 OK
2 2000 OK
3 3000 OK
4 4000 OK
5 5000 NG
6 7000 NG
7 10000 NG
[実験7]
プラズマ窒化シリコン膜(p-SiNx)と耐キャビテーション膜であるTaのSF6、O2ガスを用いたRIEでのエッチングレートの検討を行った。
【0033】
表7にO2添加濃度とp-SiNxとTaのそれぞれのエッチングレートを示した。
【0034】
Taのエッチングレートは、O2を添加することにより急激に減少し、p-SiNxのエッチングレートの比、即ち選択比は格段に向上する。10%以上添加することにより選択比は20以上となり、Taをエッチングストップ層としてp-SiNxのエッチングが可能となる。
表7
No O2添加濃度 p-SiNx Ta 選択比
1 0% 1200Å 1100Å 1.1
2 5% 1100Å 200Å 5.5
3 10% 1000Å 50Å 20
4 20% 900Å 10Å 90
5 30% 800Å 10Å 80
6 50% 600Å 10Å 60
【発明の効果】
【0035】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、以上説明した構成をとることにより、以下の効果をもたらす。
1)高信頼性、高歩留まりが達成された。
2)ヒータ保護膜の薄膜化が可能となる為、インク吐出に関する電力利用効率が向上することにより、電力消費が低減化され、インクジェット記録ヘッドの寿命が延長される。
3)方性エッチング時のストップ層がヒータ保護膜の膜厚に関係なく充分厚く形成できるため、異方性エッチング時の歩留まりが向上し、高歩留まりのインクジェット記録ヘッドの製造が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0037】
以下に、本発明によるインクジェット記録ヘッドの他の製造方法について、順を追って説明する。
【0038】
図1−aは本発明による実施態様例を示すインクジェット記録ヘッドのベース基板の模式図である。基板としては基板面方位が(100)または(110)のシリコンウエハが用いられる。基板の中心部にインクを裏面から供給するための貫通穴115があけられている。
【0039】
図1−bは本発明によるインクジェット記録ヘッドの製造方法で、ベース基板上にインク加熱用のヒーター104と配線電極103を形成し、エッチングストップ層(110)としてプラズマCVDにより窒化シリコン(p−SiN)を堆積させたものの断面の模式図である。図1−cはさらに、ベース基板上に樹脂等でインクジェット記録ノズルを形成し、Si基板にノズルと逆側から異方性エッチングでエッチングストップ層までインク流路115を形成したものの断面図である。
【0040】
次に、本発明によるインクジェット記録ノズルのプロセスを図2〜図5を使って説明する。
【0041】
厚さ625μmで5インチΦの基板面方位(110)または(100)のシリコン(Si)基板101(この断面図では基板方位(100)基板を使って説明する)に、絶縁膜として熱酸化により熱酸化膜(SiO2)102を20000Å形成し(図2−a)、フォトリソ技術を使って供給口開口部(エッチングストップ層を形成する部分)の熱酸化膜を除去した。(図2−b)
尚、本実施例では、5インチΦのシリコン基板を使って説明するが、ウエハ形状や大きさが限定されるもので無く、角型、長方形形状のシリコン基板でも良く大きさも限定されない。
【0042】
前記絶縁膜は、熱酸化膜(SiO2)の他に窒化シリコン(SiN)などを用いても良い。また、製法は、熱酸化法に限定されるもので無く、LPCVD法や常圧CVD法などでも良い。
【0043】
スパッタ-でAlCu膜を2000Å堆積し、ファトリソ技術によって図2−cのようにパターニングして犠牲層103を形成した。犠牲層の幅は120μm、長辺方向は15mmとした。
【0044】
この犠牲層は、裏面からエッチングが進行してエッチャントが犠牲層に到達するとシリコンウエハよりエッチングレートが格段に速いので短時間にエッチングされ、犠牲層パターンに対応した開口部を開けることができるものである。
【0045】
本実施例では、犠牲層として、AlCuを用いて説明したが、AlとCuとSiの合金、プラズマCVDによるアモルファスシリコン、多結晶シリコン、陽極酸化による多孔質シリコン、多孔質シリコンを酸化した二酸化シリコン等を用いても良い。
【0046】
次にスパッタ−により、TaSiNを500Å、AlCuを2500Å連続成膜し、次にパターニングを行い、インク吐出圧力発生素子としてヒーター部104と電極105を形成した(図2−d)。
【0047】
ヒーター材料としては、TaSiN以外にTa、TaN、HfB2等などの金属膜をスパッターや真空蒸着等によって堆積してもよい。さらに電力供給用の電極105としてAlCu以外にMo、Ni等の金属膜を同様にして形成しても良い。
【0048】
また、ヒータ及び電極とシリコンウエハの間には、熱酸化膜102が20000Åあり蓄熱層としての機能をはたしいている。
【0049】
次に、ヒーターの耐久性の向上を目的として、プラズマCVDにて窒化シリコン膜を3000Å堆積し、ヒータ保護膜106を形成した(図3−a)。この窒化シリコン膜はヒータ保護膜だけでなくインク供給口形成時の一層目のエッチングストップ層106Aとしての機能も果たす。
【0050】
犠牲層を覆うように形成される窒化シリコン膜は、後述するようにシリコン基板をTMAH等により異方性エッチングを行う場合のストップ層として機能する為、エッチングストップ層と記述する。
【0051】
ヒータ保護層の膜厚は、1500Åから4000Åであり、より好ましくは2500Åから3500Åである。
【0052】
また、ヒータ保護層および第一のエッチングストップ層としてのプラズマCVD窒化シリコン膜の膜応力は、圧縮応力−5×109dyne/cm2から引っ張り応力+3×109dyne/cm2で、より好ましくは、圧縮応力−5×109dyne/cm2から引っ張り応力+1×109dyne/cm2で、最適には、圧縮応力−3×109dyne/cm2から圧縮応力−1×109dyne/cm2である。
【0053】
また、膜応力が上記の範囲内でしかも、TMAH(22%、83℃)のエッチングレートが500Å/hr以下で、BHFのエッチングレートが200Å/min以下である窒化シリコン膜をプラズマCVDにより成膜した。
【0054】
本実施例での、プラズマCVDによる窒化シリコン膜の成膜条件を、記述する。
【0055】
原料ガスとしてSiH4、NH3、N2を用い、流量はそれぞれ200、100、2000sccm、放電圧力1.5Torr、RFパワー1000W、堆積温度は300℃で行った。
【0056】
窒化シリコンの膜応力は、圧縮の−2×109dyne/cm2、TMAH(22%、83℃)のエッチングレートが130Å/hrで、BHFのエッチングレートが190Å/minであった。
【0057】
本実施例では、プラズマCVDによる窒化シリコンの成膜条件の一例を示したが、膜応力とTMAH(22%、83℃)のエッチングレート、BHFのエッチングレートが該記述の条件を満たすものであれば良い。尚、エッチングストップ層の他の具体的な成膜条件の例を、前記した実験の項目で記述した。
【0058】
更に、堆積温度は好ましくは250〜450℃、最適には300〜350℃である。また、プラズマCVDによる窒化シリコン膜の原料ガスは、本実施例で説明したSiH4、NH3、N2の組み合わせに限定されるもので無く、SiH4、NH3、N2、H2の組み合わせ(SiH4/NH3/N2/H2、SiH4/NH3/N2、SiH4/NH3/H2、SiH4/N2、SiH4/H2/N2、SiH4/NH3)を用いてもかまわない。
【0059】
次に、Taをスパッタリングにより成膜し、耐キャビテーション膜107を形成した。続いて、フォトリソグラフィ技術により図3−bに示すようにヒーター部とその近傍に残すようにパターニングした。
【0060】
次に、プラズマCVDにて窒化シリコン膜108を10000Å堆積し、2層目のエッチングストップ層を形成した。(図3−c)
2層目のエッチングストップ層の膜厚は、2000Åから30000Åであり、より好ましくは5000Åから17000Åである。
【0061】
エッチングストップ層の膜厚は、第一のエッチングストップ層と第二のエッチングストップ層との積層膜厚となり、13000Åとなる。
【0062】
2層目のエッチングストップ層の膜応力は、圧縮応力−3×109dyne/cm2から引っ張り応力+5×109dyne/cm2で、より好ましくは、圧縮応力−2×109dyne/cm2から引っ張り応力+2×109dyne/cm2で、最適には、圧縮応力−1×109dyne/cm2から引っ張り応力+1×109dyne/cm2である。
【0063】
エッチングストップ層の膜応力は、2層の合計値として、圧縮応力−3×109dyne/cm2から引っ張り応力+3×109dyne/cm2である。従って、1層めのエッチングストップが強い圧縮膜である場合には、2層めのエッチングストップ層を引っ張り応力膜として2層の膜応力の合計値が上記の範囲内であればよい。
【0064】
続いて、フォトリソグラフィー技術、ドライエッチング技術によりヒータ部上の2層目のエッチングストップ層を除去するようにパターニングを行い、2層目のエッチングストップ層をエッチングにより除去109する。(図3−d)
例えば、RIE(Reactive Ion Etching)装置を用い、エッチングガスとしてはSF6 200 sccm、O2 40sccmを導入し、ガス圧力 30mTorr RF電力 800Wでエッチングを行うとTa(タンタル)のエッチングレートにたいするp−SiNxのエッチングレートの比、いわゆる選択比を90にすることができ、耐キャビテーション層107のTaをRIE時のRIE・エッチングストップ層として、2層目のp−SiNxを除去することができる。
【0065】
尚、本実施例では、エッチングガスとしてSF6/O2を用いたが、CHF3/O2ガスを用いてもかまわない。
【0066】
次にフォトリソ技術を使ってシリコン基板裏面の熱酸化膜102を除去し、ウエハ面を露出させ、裏面のインク供給部分110を形成し、ヒーターボードが完成した。(図4−a)
次に、感光性樹脂としてポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化ODUR−1010)を20μm塗布してパターニングして、インク流路型材111を形成した。更に、図4−bに示すように感光性樹脂層112を10μm塗布しパタ−ニングして、インク吐出口113を形成した。
【0067】
尚、感光性樹脂は
1)エポキシ樹脂(oクレゾール型エポキシ樹脂
油化シェル社エピコート180H65) 100部
2)光カチオン重合開始剤(44‘ジtブチルフェニールヨードニウム
ヘキサフルオロアンチモーネート) 1部
3)シランカップリング剤 日本ユニカーA187 10部
である。
【0068】
ノズル形成面側を保護するために、ゴム系レジスト(東京応化製 OBC)で保護膜114を形成した。(図4−b)
この基板を20%のTMAH水溶液に浸漬して異方性エッチングした。エッチャント温度は83℃、エッチング時間は12時間とした。これは基板の厚み625μmをジャストエッチする時間に対して10%のオーバーエッチ時間とした。
【0069】
本実施例では、異方性エッチング液としてTMAHを使用したが、水酸化カリウム水溶液、EDP、ヒドラジン等のエッチング液を用いても良い。
【0070】
エッチングは図4−cのように進み、第一のエッチングストップ層106Aの前で止まっている。この時、エッチングストップ層に亀裂はなく、流路形成樹脂層111やノズル部112へのエッチング液の浸入は見られなかった。
【0071】
シリコン基板裏面の熱酸化膜のバリをBHFにてエッチング除去し(図5−a)、次に、エッチングストップ層106A,108であるp−SiNをRIEによって除去した。エッチング条件は、SF6/O2 200/40sccm RF800W、圧力20mTorrであった。次に、メチルイソブチルケトンに浸漬後、キシレン中で超音波を掛け保護膜114を除去した。
【0072】
更に、乳酸メチル中で超音波を掛け樹脂111を除去して、インク流路115を形成し、インクジェット記録ヘッドができた。(図5−b)
本実施例の場合、異方性エッチングのストップ層を割れが発生しない様に充分厚く、また、ヒータ保護膜を必要以上厚くする必要がないため、高歩留まりのインクジェット記録ヘッドが製造が可能となった。また、ヒータへの投入電力が必要以上でなくなるためヒータの寿命が延び、信頼性が向上した。
【0073】
更に、このインクジェット記録ヘッドを使って、吐出周波数10KHzで印字テストを行ったが、15mm幅全域にわたって、印字のカスレ、濃度ムラ、インクの不吐出のない高品位な印字物が得られた。
【実施例2】
【0074】
以下に、本発明の他の実施例を説明する。
【0075】
厚さ625μmで5インチΦの基板方位(110)面のSiウエハ201の上を熱酸化して、SiO2層102を14000Å形成した。次に、SiO2をパターニングして供給口開口部を形成した。スパッターでAlCu合金膜を2000Å堆積した。フォトリソ技術によって図7−aのようにパターニングして犠牲層103を形成した。犠牲層の幅は120μm、長辺方向は15mmとした。
【0076】
犠牲層の平面形状は、シリコンウエハの面方位(100)基板を用いるときは、パターンは図6−aのように長方形に配置する。また、基板面方位(110)基板を用いるときは、パターンは基板に対して垂直にエッチング穴があくように、図6−bのように狭角が70.5度をなす平行四辺形とし、平行四辺形の長辺および短辺は(111)と等価の面に平行になるように配置する。
【0077】
次にスパッタ−により、TaSiNを500Å、AlCuを2000Å連続成膜し、次にパターニングを行い、インク吐出圧力発生素子としてヒーター部104と電極105を形成した。
【0078】
次に、ヒーターの耐久性の向上を目的として、プラズマCVDにて窒化シリコン膜を2500Å堆積し、ヒータ保護膜106と第一のエッチングストップ層106Aを形成した(図7−b)。この窒化シリコン膜はヒータ保護膜だけでなくインク供給口形成時の一層目のエッチングストップ層106Aとしての機能も果たす。
【0079】
本実施例でヒータ保護膜106および第一のエッチングストップ層106Aとして形成したプラズマCVD窒化シリコンは、膜応力が−5×109dyne/cm2でTMAHのエッチングレートが120Å/hr、BHFのエッチングレートが80Å/minである膜を用いた。
【0080】
プラズマCVDによる窒化シリコン膜の成膜条件は、原料ガスとしてSiH4、N2を用い、流量はそれぞれ200、2000sccm、放電圧力 1.5Torr、RFパワー1000W、堆積温度は300℃で行った。
【0081】
ヒータ保護膜および第一のエッチングストップ層としての膜応力は、圧縮応力−5×109dyne/cm2から引っ張り応力+3×109dyne/cm2で、より好ましくは、圧縮応力−5×109dyne/cm2から引っ張り応力+2×109dyne/cm2で、最適には、圧縮応力−5×109dyne/cm2から−1×109dyne/cm2である。
【0082】
次に、Taをスパッタリングにより成膜し、耐キャビテーション膜107を形成した。続いて、フォトリソグラフィ技術によりヒーター部104とその近傍に残すようにパターニングした。
【0083】
次に、プラズマCVDにて窒化シリコン膜 を17500Å堆積し、2層目のエッチングストップ層108を形成した。(図7−c)
本実施例で形成したプラズマ窒化シリコン膜は、引っ張り応力膜を用いた。膜応力は+3×109yne/cm2である膜を用いた。
【0084】
第一のエッチングストップ層と第二のエッチングストップ層の積層膜としての膜応力は引っ張り応力で+2×109dyne/cm2であった。
【0085】
エッチングストップ層の膜応力は、2層の合計値として、圧縮応力−3×109dyne/cm2から引っ張り応力+3×109dyne/cm2であればよい。従って、1層目のエッチングストップが強い圧縮膜である場合には、2層目のエッチングストップ層を引っ張り応力膜として2層の膜応力の合計値が上記の範囲内であればよい。
【0086】
続いて、フォトリソグラフィー技術、ドライエッチング技術によりヒーター部上の2層目のエッチングストップ層108を除去するようにパターニングを行い、2層目のエッチングストップ層108をエッチングにより除去する。(図7−d)
例えば、エッチングガスとしてはSF6、O2ガスを用い、耐キャビテーション層310のTaをRIE時のRIE・エッチングストップ層として、2層目のp−SiNxを除去した。
【0087】
次にフォトリソ技術を使ってシリコン基板裏面の熱酸化膜102を除去し、ウエハ面を露出させ、裏面のインク供給部分110を形成し、ヒーターボードが完成した。
【0088】
次に、実施例1と同様に、インク流路型材111を形成し、更に、感光性樹脂層を塗布、パタ−ニングして、インク吐出口113を形成した。
【0089】
ノズル形成面側を保護するために、ゴム系レジストで保護膜114を形成した。(図8−a)
次に裏面のインク供給口パターン部の平行四辺形の窓の狭角の部分に、図8−bのようにYAGレーザで非貫通のエッチング先導孔202を開けた。この時の孔の径は30〜35μm、深さは550〜600μmであった。
【0090】
この基板を20%のTMAH水溶液に浸漬して異方性エッチングした。エッチャント温度は83℃、エッチング時間は8時間とした。これは基板の厚み625μmをジャストエッチする時間に対して10%のオーバーエッチ時間とした。
【0091】
エッチングは図8−cのように進み、エッチングストップ層106Aの前で止まっている。この時、エッチングストップ層に亀裂はなく、流路形成樹脂層111やノズル部112へのエッチング液の浸入は見られなかった
本実施例の場合、異方性エッチングのストップ層を割れが発生しない様に充分厚く、また、ヒータ保護膜を必要以上厚くする必要がないため、高歩留まりのインクジェット記録ヘッドが製造が可能となった。また、ヒータへの投入電力が必要以上でなくなるためヒータの寿命が延び、信頼性が向上した。
【0092】
更に、このインクジェット記録ヘッドを使って、吐出周波数10KHzで印字テストを行ったが、15mm幅全域にわたって、印字のカスレ、濃度ムラ、インクの不吐出のない高品位な印字物が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】(a)本発明によるインクジェット記録ヘッドの基板を示す概略図、(b、c)本発明によるインクジェット記録ヘッドの製造工程途中の基板断面を示す概略。
【図2】(a〜d)本発明(実施例1)によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図。
【図3】(a〜d)本発明(実施例1)によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図。
【図4】(a〜c)本発明(実施例1)によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図。
【図5】(a〜b)本発明(実施例1)によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図。
【図6】(a、b)本発明のインクジェット記録ヘッドの犠牲層形状を説明する平面図。
【図7】(a〜d)本発明(実施例2)によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図。
【図8】(a〜c)本発明(実施例2)によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図。
【図9】(a〜d)従来例によるインクジェット記録ヘッドの製造工程フローを示す図。
【符号の説明】
【0094】
101 シリコン基板
102 絶縁膜、熱酸化膜(SiO2
103 犠牲層(AlCu)
104 ヒーター部(TaSiN)
105 電極(AlCu)
106 ヒータ保護膜、第一のエッチングストップ層(p−SiNx)
106A 第一のエッチングストップ層(p−SiNx)
107 耐キャビテーション膜(Ta)
108 第二のエッチングストップ層(p−SiNx)
109 除去されたエッチングストップ層部分
110 裏面のインク供給部分
111 インク流路型材
112 感光性樹脂層
113 インク吐出口
114 保護膜
115 インク流路
201 シリコン基板
202 先導孔
301 犠牲層形状
302 犠牲層形状
500 シリコン基板
501 二酸化シリコン
503 発熱抵抗体
504 流路形成層
505 ノズル形成層
506 吐出口
507 流路
509 インク供給口
511 犠牲層
516 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の発熱抵抗体を保護するヒータ保護膜が形成されており、前記ヒータ保護膜上に耐キャビテーション膜が形成された発熱抵抗体を備え、エッチングによりインク供給口の寸法を規定する為の犠牲層が形成され、さらに犠牲層上にエッチングストップ層が形成されていて、エッチングによりインク供給口を形成するインクジェット記録ヘッド用基板を備えるインクジェット記録ヘッドにおいて、
ヒータ保護膜とエッチングストップ層が同一材料であり、ヒータ保護膜の膜厚がエッチングストップ層の膜厚より薄い事を特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記エッチングストップ層は2層以上の積層膜からなり、第一のエッチングストップ層は、前記ヒータ保護膜と同一であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記ヒータ保護膜とエッチングストップ層がプラズマCVDにより形成された窒化シリコン膜であることを特徴とする請求項1又は、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記ヒータ保護膜の膜厚が150nm以上400nm以下で、エッチングストップ層の膜厚が500nm以上である事を特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記プラズマCVDによる形成される第一のエッチングストップ層としての窒化シリコン膜は、膜応力が圧縮−5×109dyne/cm2から引っ張り+3×109dyne/cm2であり、且つ、アルカリエッチング液に対するエッチング速度が基板方位(100)面のSiウエハのエッチング速度の1/1000以下、且つ、BHFに対するエッチング速度が熱酸化のSiO2のエッチング速度に対して1/5以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記プラズマCVDによる形成される積層膜としてのエッチングストップ層としての膜応力が圧縮−3×109dyne/cm2から引っ張り+3×109dyne/cm2であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記犠牲層は、Al,AlCu合金、プラズマCVDによるアモルファスシリコン、多結晶シリコン、陽極酸化による多孔質シリコン、多孔質シリコンを酸化した二酸化シリコンからなる事を特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
インクを吐出する複数の発熱抵抗体を保護するヒータ保護膜が形成されており、前記ヒータ保護膜上に耐キャビテーション膜が形成された発熱抵抗体を備え、エッチングによりインク供給口の寸法を規定する為の犠牲層が形成されており、さらに犠牲層上にエッチングストップ層が形成されていて、エッチングによりインク供給口を形成するインクジェット記録ヘッド用基板を備えるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
1)シリコン基板上に酸化シリコン膜あるいは窒化シリコン膜を形成する工程、
2)インク供給口を形成する部分の前記酸化シリコン膜あるいは窒化シリコン膜を除去する工程、
3)前記酸化シリコン膜あるいは窒化シリコン膜を除去した部分に犠牲層を形成する工程、
4)前記シリコン基板上の酸化シリコン膜あるいは窒化シリコン膜上にインク吐出圧発生素子を形成する工程、
5)前記インク吐出圧発生素子および前記犠牲層上にヒータ保護膜および第一のエッチングストップ層を形成する工程、
6)耐キャビテーション膜をその上に形成する工程、前記インク吐出圧発生素子の少なくとも発熱部領域上に前記耐キャビテーション膜を残すようにパターン形成する工程、
7)前記耐キャビテーション膜および前記第一のエッチングストップ層上に第二のエッチングストップ層を形成する工程、
8)耐キャビテーション膜をエッチングストップ層として少なくとも発熱部領域上の第二のエッチングストップ層をエッチングにより除去する工程を含む事を特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記ヒータ保護膜とエッチングストップ層がプラズマCVDにより形成された窒化シリコン膜であることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記耐キャビテーション膜をエッチングストップ層として少なくとも発熱部領域上の第二の窒化シリコン膜をエッチングにより除去する工程において、エッチングをSF6、O2の混合ガス、あるいはCHF3、O2の混合ガスを用い、O2の混合比が10%以上50%の範囲でドライエッチングによって行う事を特徴とする請求項8又は、請求項9に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記プラズマCVDによる第一のエッチングストップ層としての窒化シリコン膜は、膜応力が圧縮−5×109dyne/cm2から引っ張り+3×109dyne/cm2であり、且つ、アルカリエッチング液に対するエッチング速度が基板方位(100)面のSiウエハのエッチング速度の1/1000以下、且つ、BHFに対するエッチング速度が熱酸化のSiO2のエッチング速度に対して1/5以下であることを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記プラズマCVDによる形成される積層膜としてのエッチングストップ層としての膜応力が圧縮−3×109dyne/cm2から引っ張り+3×109dyne/cm2であることを特徴とする請求項8〜請求項11のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記プラズマCVDによるエッチングストップ層としての窒化シリコン膜を、成膜時のガス構成が、SiH4:NH3:N2=1:0〜1:5〜20、ガス圧力1から2Torr、RFパワー密度 0.2〜2W/cm2、基板温度200〜500℃の範囲で堆積した事を特徴とする請求項8〜請求項12のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記犠牲層は、金属膜から成りAl,AlCu合金、プラズマCVDによるアモルファスシリコン、多結晶シリコン、陽極酸化による多孔質シリコン、多孔質シリコンを酸化した二酸化シリコンからなる事を特徴とする請求項8〜請求項13のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記アルカリエッチング液は、KOH、EDP、TMAH、ヒドラジンの結晶面によるエッチング速度差を生じるエッチング液であることを特徴とする請求項8〜請求項14のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−148941(P2009−148941A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327566(P2007−327566)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】