説明

インクジェット記録装置及びこれが有するインクジェットヘッドの製造方法

【課題】インク噴射領域の隣接領域を被記録媒体の配置面に近づけて、被記録媒体がインク噴射領域に接触するのを防止する。
【解決手段】インクジェットプリンタは、キャリッジとともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3と、インクジェットヘッド3の下方に配置されて、搬送面8aに沿って搬送方向に記録用紙Pを搬送する搬送機構とを有している。インクジェットヘッド3の流路ユニット6の一部を構成するノズルプレートのヘッド下面16は、搬送面8aから離れる方向に凹むように湾曲している。そして、ヘッド下面16の中央部の複数のノズル15が形成されたインク噴射領域16aに比べて、ヘッド下面16のインク噴射領域16aの全周を取り囲み、ノズル15が形成されていない隣接領域16bは、搬送面8aとの距離が小さくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びこれが有するインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクジェットヘッドの下方を平らな搬送面に沿って用紙が搬送され、搬送面と対向するインクジェットヘッドの下面に複数のノズルが開口したインクジェットプリンタについて開示されている。この特許文献1に記載のインクジェットプリンタにおいては、インクジェットヘッドの複数のノズルが開口する下面は搬送面と平行な平面になっており、この下面と搬送面とのギャップは面方向のどの位置においても同じになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2009−241459号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ノズルからのインクの着弾位置のずれを小さくして、印字品質を向上させるなどの理由から、搬送面と対向するインクジェットヘッドの対向面と、搬送面との間のギャップは狭くなっている。このようにギャップが狭いと、例えば、被記録媒体が大量のインクを吸収して沿ったり、折れ曲がっていたりして、搬送面から浮き上がって搬送された場合に、被記録媒体がインクジェットヘッドの対向面に接触し、対向面に形成されたノズルの開口縁を損傷してしまうおそれがある。また、仮に、インクジェットヘッドの対向面にインクの付着を防止するために撥液膜が形成されている場合には、被記録媒体が撥液膜に接触し、撥液膜を損傷してしまうおそれもある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、インク噴射領域の隣接領域を被記録媒体の配置面に近づけて、被記録媒体がインク噴射領域に接触するのを防止したインクジェット記録装置及びこれが有するインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェット記録装置は、被記録媒体にインクを噴射するインクジェットヘッドを備え、前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体とが、相対移動可能であり、前記インクジェットヘッドは、前記被記録媒体の配置面と隙間をあけて対向する面に、ノズルが開口したインク噴射領域と、このインク噴射領域の、少なくとも前記インクジェットヘッドから見て前記被記録媒体が相対移動して近づいてくる側に隣接する隣接領域とを有しており、前記インク噴射領域と前記隣接領域とは、同一部材に形成され、前記隣接領域と前記配置面との距離が、前記インク噴射領域と前記配置面との距離よりも小さい。
【0007】
本発明のインクジェット記録装置によると、隣接領域が、インク噴射領域の、少なくともインクジェットヘッドから見て被記録媒体が相対移動して近づいてくる側に配置されているため、インクジェットヘッド側に浮き上がった被記録媒体はインク噴射領域よりも先に隣接領域に接触する。そして、被記録媒体は隣接領域に押さえつけられて、それ以上浮き上がるのを抑制される。このとき、隣接領域はインク噴射領域よりも配置面に近づいて配置されているため、被記録媒体は、隣接領域と配置面との距離以上に浮き上がるのを抑制された状態で、隣接領域よりも配置面から遠い位置に配置されたインク噴射領域を通過する。これにより、被記録媒体がインク噴射領域に接触するのを防止することができる。また、被記録媒体が隣接領域に接触したとしても、インク噴射領域と隣接領域は同一部材で形成されているため、部材の隣接領域の部分だけが脱落することはない。また、別部材で形成する場合に比べて、組み付け誤差が生じることがなく、精度よく形成することができる。
【0008】
また、前記配置面に沿った所定の搬送方向に前記被記録媒体を搬送する搬送手段をさらに備え、前記隣接領域が、前記インク噴射領域の前記搬送方向上流側に隣接していることが好ましい。
【0009】
これによると、インクジェットヘッド側に浮き上がった状態で搬送方向に搬送された被記録媒体は、インク噴射領域よりも先に搬送方向上流側の隣接領域と接触し、隣接領域と配置面との距離以上に浮き上がるのを抑制される。これにより、インクジェットヘッドに対して搬送方向に搬送される被記録媒体がインク噴射領域に接触するのを防止することができる。
【0010】
さらに、前記隣接領域が、前記搬送方向上流側とともに、前記インク噴射領域の前記搬送方向下流側にも隣接していることが好ましい。
【0011】
これによると、仮に、インク噴射領域の幅よりも搬送方向に関して大きな幅で撓んだ被記録媒体が搬送されてきたときに、2つの隣接領域が大きく撓んだ被記録媒体に接触して、被記録媒体がインク噴射領域に接触するのを防止することができる。また、仮に、インクジェットヘッドに対して搬送される被記録媒体の後端が浮き上がったとしても、被記録媒体の浮き上がりの基端側が隣接領域に接触することで、被記録媒体の後端はそれ以上に浮き上がるのを抑制される。したがって、被記録媒体の後端がインク噴射領域に接触するのを防止することができる。
【0012】
また、前記配置面に沿った所定の搬送方向に前記被記録媒体を搬送する搬送手段をさらに備え、前記インクジェットヘッドが、前記配置面と平行で且つ前記搬送方向と交差する走査方向に移動可能であり、前記隣接領域が、前記インク噴射領域を挟んで前記走査方向両側に隣接していてもよい。
【0013】
これによると、インク噴射領域を挟んだ走査方向両側に位置する隣接領域が配置面に近づいて配置されているため、インクジェットヘッドが走査方向に移動したときに、インクジェットヘッド側に浮き上がった被記録媒体は、インク噴射領域よりも先に隣接領域に接触し、隣接領域と配置面との距離以上に浮き上がるのを抑制される。したがって、走査方向に移動するインクジェットヘッドのインク噴射領域に対して被記録媒体が接触するのを防止することができる。
【0014】
また、前記隣接領域が、前記インク噴射領域を取り囲んだ全周に隣接していてもよい。
【0015】
これによると、インク噴射領域を取り囲んで隣接領域が配置面に近づいて配置されているため、インク噴射領域に被記録媒体が接触するのを全周囲から防止することができる。
【0016】
また、前記隣接領域が、前記インク噴射領域と連続的に繋がっていることが好ましい。
【0017】
これによると、例えば、配置面と対向するインクジェットヘッドの面にワイパを接触させた状態で、ワイパをインクジェットヘッドに対して相対移動させて、この面を払拭する場合に、隣接領域とインク噴射領域との境界が滑らかに湾曲していると、ワイパが引っかかることがなくスムーズに払拭することができ、ワイパに付着したインクの飛び散りを防止し、ワイパの摩耗を低減することができる。
【0018】
さらに、前記インク噴射領域が、前記配置面から離れる方向に凹むように湾曲していることが好ましい。
【0019】
これによると、インク噴射領域は外側に向かうにつれて滑らかに配置面に近づいている。したがって、インク噴射領域のある1つのノズルに着眼したときに、そのすぐ外側の領域が配置面に近づいているため、仮に、インク噴射領域に被記録媒体が接触したとしても、上記外側の領域が上記ノズルよりも先に被記録媒体に接触して押さえつけて、被記録媒体がそれ以上浮き上がるのを抑制する。これにより、インク噴射領域が平らな場合には、インク噴射領域に被記録媒体が接触して搬送されると全てのノズルに接触するが、インク噴射領域が凹むように湾曲していることで、仮に、インク噴射領域に被記録媒体が接触したとしても、被記録媒体が接触するノズルの数を最小限に留めることができる。
【0020】
加えて、前記複数のノズルが所定のノズル配列方向に沿ってノズル列を形成し、このノズル列が平行に複数並んで配置されており、前記インク噴射領域には、前記ノズル配列方向に沿った複数の前記ノズル列の両側に、前記ノズル配列方向に沿って凸部がそれぞれ形成されており、前記ノズル列と前記凸部が交互に並んで配置されていることが好ましい。
【0021】
これによると、仮に、被記録媒体がインク噴射領域に接触したとしても、インク噴射領域において、被記録媒体はノズルよりも配置面に近づいた凸部の先端に接触するため、被記録媒体がノズル列に接触するのを防止することができる。
【0022】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、ノズルが開口する面を湾曲させたインクジェットヘッドの製造方法であって、前記インクジェットヘッドは、前記ノズルが開口したノズルプレートと、前記ノズルプレートに接合され、前記ノズルに連通するインク流路が形成された流路構造体とを有し、前記ノズルプレートと、前記ノズルプレートよりも線膨張係数が小さい材料からなる前記流路構造体とを積層した状態で加熱押圧して接着する加熱押圧工程と、前記加熱押圧工程の後、押圧を解除した状態で冷却する冷却工程と、を備えている。
【0023】
本発明におけるインクジェットヘッドの製造方法によると、流路構造体がノズルプレートよりも線膨張係数が小さい材料からなるため、加熱押圧工程において加熱押圧して接着した流路構造体とノズルプレートは、その後の冷却工程において押圧を解除した状態で環境温度まで冷却(強制冷却や自然冷却を含む)するときの温度変化によって、流路構造体よりもノズルプレートが大きく収縮しようとして、ノズルプレートは流路構造体側に凹むように湾曲する。これにより、容易にノズルプレートを流路構造体側に凹むように湾曲させることができる。
【0024】
このとき、前記ノズルプレートがポリイミドからなり、前記流路構造体が金属材料からなることが好ましい。
【0025】
これによると、ノズルプレートよりも流路構造体の線膨張係数が小さくなる。
【発明の効果】
【0026】
インク噴射領域よりも隣接領域を被記録媒体の配置面に近づけていることで、被記録媒体がインク噴射領域に接触するのを防止することができる。また、被記録媒体が隣接領域に接触したとしても、インク噴射領域と隣接領域は同一部材で形成されているため、部材の隣接領域の部分だけが脱落することはない。また、別部材で形成する場合に比べて、組み付け誤差が生じることがなく、精度よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略平面図である。
【図2】(a)はインクジェットヘッドを下方から見た斜視図であり、(b)はインクジェットヘッドを搬送方向から見た図である。
【図3】(a)は図2(a)のA部拡大図であり、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】(a)は事例1におけるインクジェットヘッド近傍を走査方向から見た図であり、(b)は事例2におけるインクジェットヘッド近傍を走査方向から見た図である。
【図5】インクジェットヘッド近傍を搬送方向から見た図である。
【図6】流路ユニットの製造工程を説明する図である。
【図7】変形例1におけるインクジェットヘッドを下方から見た斜視図である。
【図8】変形例2におけるインクジェットヘッドを下方から見た斜視図である。
【図9】変形例3におけるインクジェットヘッド近傍を走査方向から見た図である。
【図10】変形例4におけるインクジェットヘッド近傍の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態は、インクジェットヘッドから記録用紙に対してインクを噴射することにより、記録用紙に所望の文字や画像などを記録するインクジェットプリンタに本発明を適用した一例である。
【0029】
まず、本実施形態のインクジェットプリンタの概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略平面図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1(インクジェット記録装置)は、所定の走査方向(図1の左右方向)に沿って往復移動可能に構成されたキャリッジ2と、このキャリッジ2に搭載されたインクジェットヘッド3と、記録用紙P(被記録媒体)を走査方向と直交する搬送方向(図1の上方から下方)に搬送する搬送機構4と、搬送機構4により搬送される記録用紙Pを下面から支持するプラテン8と、インクジェットヘッド3のインク噴射性能を回復させるメンテナンス機構5などを有している。
【0030】
キャリッジ2は、走査方向に平行に延びる2本のガイド軸6、7に支持され、2本のガイド軸6、7に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には無端ベルト9が連結されており、図示しないモータによって無端ベルト9が走行駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト9の走行にともなって走査方向に移動するようになっている。
【0031】
このキャリッジ2には、インクジェットヘッド3が搭載されている。インクジェットヘッド3は、その下面(図1の紙面向こう側の面)に多数のノズル15(図2(a)参照)を有している。このインクジェットヘッド3は、搬送機構4により図1の下方(搬送方向)に搬送される記録用紙Pに対して、図示しないインクカートリッジから供給されたインクを多数のノズル15から噴射するように構成されている。
【0032】
搬送機構4は、インクジェットヘッド3よりも搬送方向上流側(図1の上方)に配置された給紙ローラ10と、インクジェットヘッド3よりも搬送方向下流側に配置された排紙ローラ11とを有している。給紙ローラ10と排紙ローラ11は、それぞれ、給紙モータ12と排紙モータ13により回転駆動される。そして、この搬送機構4は、給紙ローラ10により、記録用紙Pを図1の上方からインクジェットヘッド3に供給するとともに、排紙ローラ11により、インクジェットヘッド3によって文字や画像などが記録された記録用紙Pを図1の下方へ排出するように構成されている。
【0033】
プラテン8は、搬送方向に関する給紙ローラ10と排紙ローラ11の間において、キャリッジ2の下方(図1の紙面奥方向)に配置されている。そして、プラテン8のインクジェットヘッド3と対向する上面が、記録用紙Pが搬送される搬送面8a(配置面)となっており、記録用紙Pは搬送面8aに支持されながら、搬送面8aに沿って搬送される。
【0034】
次に、インクジェットヘッド3について説明する。図2(a)は、インクジェットヘッドを下方から見た斜視図であり、図2(b)は、インクジェットヘッドを搬送方向から見た図である。図3(a)は、図2(a)のA部拡大図であり、(b)は、(a)のB−B線断面図である。なお、図3(a)においては、後述するヘッド下面16に形成された凸部30の図示を省略している。図2(a)、(b)及び図3(a)、(b)に示すように、インクジェットヘッド3は、ノズル15や圧力室24を含むインク流路が形成された流路ユニット6と、圧力室24内のインクに圧力を付与する圧電アクチュエータ17とを有している。
【0035】
まず、流路ユニット6について説明する。図3(a)、(b)に示すように、流路ユニット6はキャビティプレート20、ベースプレート21、マニホールドプレート22、ノズルプレート23、撥液膜29及び凸部30を有しており、4枚のプレート20〜23が積層状態で熱硬化性接着剤で接合されている。このうち、キャビティプレート20、ベースプレート21及びマニホールドプレート22は、それぞれ、金属材料(本実施形態ではステンレス鋼:SUS430)からなる平面視で略矩形状の板である。また、ノズルプレート23は、3枚のプレート20〜22と同じ略矩形状の板であり、例えば、高分子合成樹脂材料(本実施形態ではポリイミド)により形成され、マニホールドプレート22の下面に熱硬化性接着剤で接合される。
【0036】
これら3枚のプレート20〜22が、金属材料で形成されていることで、例えばエッチングにより後述するマニホールド27や圧力室24などの比較的大きな孔からなるインク流路を容易に形成することができるようになっている。また、ノズルプレート23が、高分子合成樹脂材料で形成されていることで、金属材料の場合に比べて、例えばレーザ加工により後述する微細なノズル15を形成しやすい。
【0037】
図3(a)、(b)に示すように、4枚のプレート20〜23のうち、最も上方に位置するキャビティプレート20には、平面に沿って配列された複数の圧力室24がキャビティプレート20を厚み方向に貫通する孔により形成されている。また、複数の圧力室24は、搬送方向(図2の上下方向)に4列に配列されている。また、図3(b)に示すように、複数の圧力室24は上下両側から後述の振動板40及びベースプレート21によりそれぞれ覆われている。さらに、各圧力室24は、平面視で走査方向(図3(a)の左右方向)に長い、略楕円形状に形成されている。
【0038】
ベースプレート21の、平面視で圧力室24の長手方向両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔25、26が形成されている。また、マニホールドプレート22には、平面視で、圧力室24の連通孔25側の部分と重なるように、搬送方向に延びる4つのマニホールド27が形成されている。これら4つのマニホールド27は、図示しないインク供給口に連通しており、図示しないインクタンクからインク供給口を介してマニホールド27へインクが供給される。さらに、マニホールドプレート22の、平面視で複数の圧力室24のマニホールド27と反対側の端部と重なる位置には、それぞれ、複数の連通孔26に連なる複数の連通孔28も形成されている。
【0039】
さらに、ノズルプレート23の、平面視で複数の連通孔28にそれぞれ重なる位置には、複数のノズル15が形成されている。図2(a)に示すように、複数のノズル15は、搬送方向に配列され、走査方向に並ぶ4列のノズル列を構成しており、4列に配列された複数の圧力室24の、マニホールド27と反対側の端部とそれぞれ重なるように配置されている。そして、4列のノズル列にそれぞれ属するノズル15からは、インクジェットヘッド3の往動方向(主走査方向)上流側から、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの、合計4色のインクがそれぞれ噴射される。以下、この複数のノズル15が形成されたノズルプレート23の下面を、搬送面8aと対向するヘッド下面16と称す。
【0040】
また、ノズルプレート23のヘッド下面16は、撥液膜29で覆われている。この撥液膜29は、ポリイミドなどで形成されたノズルプレート23よりも、撥液性の高い材料(例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系樹脂)で形成されている。そのため、ノズル15から噴射されたインクの一部がヘッド下面16に付着しても、撥液膜29の高い撥液性によりノズル15の周囲にインクが滞留しにくくなり、ヘッド下面16に付着したインクが、その後にノズル15から噴射されるインクに悪影響を及ぼすこと(噴射曲がりの発生など)が防止される。
【0041】
そして、図3(b)に示すように、マニホールド27は連通孔25を介して圧力室24に連通し、さらに、圧力室24は、連通孔26、29を介してノズル15に連通している。このように、流路ユニット6内には、マニホールド27から圧力室24を経てノズル15に至るインク流路が複数形成されている。
【0042】
また、撥液膜29で覆われたノズルプレート23のヘッド下面16には、搬送面8aに向かって突出した複数の凸部30が形成されている。凸部30の突出方向は、ノズルプレート23の真下方向に向けて延びている。これは、後述するインクジェットヘッドの製造方法においてノズルプレート23を湾曲させたあとに凸部30を形成するためであるが、ノズルプレート23の湾曲前に凸部30を形成すれば、凸部30は曲率中心を向くことになる。複数の凸部30は、例えば、ポリイミドなどの高分子合成樹脂材料からなり、搬送方向に延在して、走査方向に並んで複数列(本実施形態では5列)に配列されている。凸部30のヘッド下面16からの高さは、搬送方向に亘って同じである。そして、複数の凸部30は、走査方向に関してノズル列と交互に配置されており、全てのノズル列は、走査方向両側を凸部30によりそれぞれ挟まれた構成となっている。
【0043】
そして、図2(a)、(b)に示すように、ノズルプレート23のヘッド下面16は、搬送面8aから離れる方向に凹むように湾曲している。すなわち、ヘッド下面16の中央部の複数のノズル15が形成されたインク噴射領域16aに比べて、ヘッド下面16の、インク噴射領域16aの全周を取り囲み、ノズル15が形成されていない隣接領域16bは、搬送面8aとの距離が小さくなっている。
また、インク噴射領域16aにおいても、中央部分よりも走査方向外方の隣接領域16bに向かうほど、ヘッド下面16が搬送面8aに近づくように湾曲している。
【0044】
具体的には、ヘッド下面16(隣接領域16b)の最も搬送面8aに近い位置(ヘッド下面16端部)と搬送面8aとの距離X1は、約1.5mmとなっている。そして、ヘッド下面16(隣接領域16b)の最も搬送面8aに近い位置(ヘッド下面16端部)とヘッド下面16(インク噴射領域16a)の最も搬送面8aから遠い位置(ヘッド下面16中央部)との距離X2は、0.02〜0.5mmとなっている。また、凸部30の突出長さX3は、3.5μmとなっている。すなわち、凸部30の先端は、ヘッド下面16(隣接領域16b)の最も搬送面8aに近い位置(ヘッド下面16端部)よりも搬送面8a側に突出していない。
【0045】
なお、ヘッド下面16を湾曲させている曲率は非常に小さい(走査方向40mm、搬送方向50mmのノズルプレートに対し、30〜50μm程度の湾曲)ので、ノズル15から記録用紙Pへのインクの着弾位置のずれは非常に微小なもので、印字品質に影響するものではない。仮に、着弾位置のずれが大きい場合には、インクの噴射タイミングを着弾位置のずれに応じて適宜制御すれば問題ない。
【0046】
次に、圧電アクチュエータ17について説明する。図3(b)に示すように、圧電アクチュエータ17は、複数の圧力室24を覆うように流路ユニット6(キャビティプレート20)の上面に配置された振動板40と、この振動板40の上面に、複数の圧力室24と対向するように配置された圧電層41と、圧電層41の上面に配置された複数の個別電極42と、を有している。
【0047】
振動板40は、平面視で略矩形状の金属板であり、例えば、フェライト系ステンレス鋼(SUS430)などの強磁性金属材料からなる。この振動板40は、キャビティプレート20の上面に複数の圧力室24を覆うように配設された状態で、キャビティプレート20に接合されている。また、導電性を有する振動板40の上面は、圧電層41の下面側に配置されることによって、上面の複数の個別電極42との間で圧電層41に厚み方向の電界を生じさせる、共通電極を兼ねている。この共通電極としての振動板40は、圧電アクチュエータ17を駆動するヘッドドライバ(図示省略)のグランド配線に接続されて、常にグランド電位に保持される。
【0048】
圧電層41は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料からなる。この圧電層41は、振動板40の上面において、複数の圧力室24に跨って連続的に形成されている。また、この圧電層41は、少なくとも圧力室24と対向する領域において厚み方向に分極されている。
【0049】
圧電層41の上面の、複数の圧力室24と対向する領域には、複数の個別電極42がそれぞれ配置されている。各々の個別電極42は圧力室24よりも一回り小さい略楕円形の平面形状を有し、圧力室24の中央部と対向している。また、複数の個別電極42の端部からは、複数の接点部45が個別電極42の長手方向に沿ってそれぞれ引き出されている。これら複数の接点部45は、図示しないフレキシブルプリント配線板を介してヘッドドライバ(図示省略)と電気的に接続されている。これにより、ヘッドドライバから複数の個別電極42に対して、所定の駆動電位とグランド電位の2種類の電位のうち、何れか一方の電位を選択的に付与することが可能となっている。
【0050】
次に、インク噴射時における圧電アクチュエータ17の作用について説明する。ある個別電極42に対して、ヘッドドライバから所定の駆動電位が付与されたときには、この駆動電位が付与された個別電極42とグランド電位に保持されている共通電極としての振動板40との間に電位差が生じ、個別電極42と振動板40の間に挟まれた圧電層41に厚み方向の電界が作用する。この電界の方向は圧電層41の分極方向と平行であるから、個別電極42と対向する領域(活性領域)の圧電層41が厚み方向と直交する面方向に収縮する。ここで、圧電層41の下側の振動板40はキャビティプレート20に固定されているため、この振動板40の上面に位置する圧電層41が面方向に収縮するのに伴って、振動板40の圧力室24を覆う部分が圧力室24側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。このとき、圧力室24内の容積が減少するために圧力室24内のインク圧力が上昇し、この圧力室24に連通するノズル15からインクが噴射される。
【0051】
図1に戻って、メンテナンス機構5は、走査方向に関するキャリッジ2の移動範囲のうち、搬送面8aの記録用紙Pと対向する領域よりも外側(図1の右側)の領域(以下、メンテナンス領域と称する)に配置されており、インクジェットヘッド3のヘッド下面16に密着してキャッピングする吸引キャップ31と、吸引キャップ31と接続された吸引ポンプ33と、ヘッド下面16を払拭するワイパ32などを有している。
【0052】
吸引キャップ31は、ゴムや合成樹脂などの可撓性を有する材料で形成されており、図示しない昇降機構により昇降可能となっており、インクジェットヘッド3のヘッド下面16から離接した退避位置に位置する。そして、吸引キャップ31は、昇降機構により退避位置から上昇して、キャッピング位置に移動すると停止する。このキャッピング位置にある吸引キャップ31は、インクジェットヘッド3がメンテナンス領域にあり、ヘッド下面16と対向しているときには、このヘッド下面16に密着し、複数のノズル15を覆う。
【0053】
そして、吸引キャップ31がインクジェットヘッド3のヘッド下面16の湾曲に沿って密着してノズル15を覆っている状態で、吸引ポンプ33の吸引動作が行われたときには、吸引キャップ31とヘッド下面16によって形成される密閉空間内の空気が吸引されて圧力が低下し、ノズル15からインクが吸引キャップ31へ排出される。これにより、水分が蒸発して粘度が高くなった(増粘した)ノズル15内のインクや、インクジェットヘッド3内のインク流路に混入している気泡やゴミを、インクとともにノズル15から排出して、インクの噴射特性を回復させる、いわゆる吸引パージが可能となっている。
【0054】
ワイパ32は、メンテナンス領域において、吸引キャップ31よりも走査方向に関する印刷領域側に吸引キャップ31と隣接して配置されている。また、ワイパ32は、ゴムなどの弾性を有する材料で形成されており、搬送方向にノズル列よりも長く延在しており、その先端が上方を向いている。
【0055】
上述した吸引パージ後、吸引キャップ31がインクジェットヘッド3のヘッド下面16から離間したときには、ヘッド下面16にはノズル15から排出されたインクの一部が付着している。そこで、ワイパ32を図示しない昇降機構により、ヘッド下面16よりも上方に突出する位置まで移動させた後、インクジェットヘッド3をキャリッジ2とともに走査方向に移動させて、ワイパ32によりヘッド下面16に付着したインクを拭き取るようになっている。このとき、隣接領域16bとインク噴射領域16aとの境界も含めて、ヘッド下面16が滑らかに湾曲しているため、ワイパ32が引っかかることがなくヘッド下面16をスムーズに払拭することができ、ワイパ32に付着したインクの飛び散りを防止し、ワイパ32の摩耗を低減することができる。
【0056】
ここで、例えば、記録用紙Pが、記録時にインクジェットヘッド3から噴射されたインクを大量に吸収して沿ったり、折れ曲がっていたりして、搬送面8aからインクジェットヘッド3側に浮き上がってしまうことがある。また、折れ曲がった記録用紙Pが搬送機構4により搬送されてしまうことがある。また、搬送機構4が複数枚の記録用紙Pを誤って重ねて搬送してしまい、記録用紙Pの走査方向端部が折れ曲がってしまうことがある。そして、仮に、ヘッド下面16が搬送面8aから離れる方向に凹んで湾曲せず、搬送面8aと平行に平らな場合には、搬送面8aの記録用紙Pとインクジェットヘッド3のヘッド下面16の間のギャップは面方向のどの位置でも同じ距離で微小であるため、浮き上がった記録用紙Pがヘッド下面16に接触して、ヘッド下面16に形成されたノズル15や撥液膜29を損傷してしまうおそれがある。
【0057】
そこで、本実施形態においては、ノズルプレート23のヘッド下面16を搬送面8aから離れる方向に凹むように湾曲させている。そして、ヘッド下面16のインク噴射領域16aに比べて、ヘッド下面16のインク噴射領域16aと隣接する隣接領域16bの搬送面8aとの距離を小さくしている。
【0058】
これにより、記録用紙Pのヘッド下面16側に浮き上がった部分が、インクジェットヘッド3に向かって搬送されてきた際に、インク噴射領域16aではなく搬送面8aに近い位置に配置された隣接領域16bに接触して押さえつけられて、それ以上浮き上がるのを抑制される。したがって、記録用紙Pがインク噴射領域16aに接触するのを防止することができる。
【0059】
より具体的に、図4(a)、(b)及び図5を参照して説明する。図4(a)は、事例1におけるインクジェットヘッド近傍を走査方向から見た図であり、図4(b)は、事例2におけるインクジェットヘッド近傍を走査方向から見た図である。図5は、インクジェットヘッド近傍を搬送方向から見た図である。まず、搬送面8aから浮き上がった記録用紙Pがインクジェットヘッド3に搬送されてきた場合について説明する(事例1)。一例として、記録用紙Pが搬送面8aを搬送されると、記録用紙Pの先端については排紙ローラ11に挟持されるまでフリーの状態となっており、浮き上がりやすい。
【0060】
この場合、ヘッド下面16の、隣接領域16bがインク噴射領域16aよりも搬送方向上流側に配置されているため、浮き上がった記録用紙Pはインク噴射領域16aよりも先に搬送方向上流側の隣接領域16bに接触する。そして、記録用紙Pは隣接領域16bに押さえつけられて、それ以上浮き上がるのを抑制される。このとき、隣接領域16bがインク噴射領域16aよりも搬送面8aに近づいているため、図4(a)に示すように、記録用紙Pは、隣接領域16bと搬送面8aとの距離以上に浮き上がるのを抑制された状態で、隣接領域16bよりも搬送面8aから遠い位置にあるインク噴射領域16aの下方を通過する。したがって、記録用紙Pがインク噴射領域16aに接触するのを防止することができる。
【0061】
また、図4(b)に示すように、搬送方向に関してインク噴射領域16aの幅よりも大きく撓んだ記録用紙Pが搬送されてきたときに、搬送方向に関してインク噴射領域16aを挟んで2つの隣接領域16bが搬送面8aに近づいているため、2つの隣接領域16bに撓んだ記録用紙Pが接触して、インク噴射領域16aに接触するのを防止することができる。さらに、ヘッド下面16のインク噴射領域16aよりも搬送方向下流側の隣接領域16bが搬送面8aに近づいて配置されているため、例えば、記録用紙Pの後端が給紙ローラ10からの挟持が解除されてフリーになった状態で、記録動作によりインクを吸収して浮き上がったとしても搬送方向下流側の隣接領域16bに接触して押さえつけられてインク噴射領域16aに接触するのを防止することができる。
【0062】
また、上述したようなシリアル式のインクジェットヘッド3であると、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するため、ヘッド下面16のインク噴射領域16aが浮き上がった記録用紙Pに走査方向両側のいずれかから接触するおそれがある。そこで、図5に示すように、インク噴射領域16aを挟んだ走査方向両側に位置する隣接領域16bが搬送面8aに近づいているため、インクジェットヘッド3が走査方向に移動したときに、浮き上がった記録用紙Pは、インク噴射領域16aよりも走査方向に関して隣接する隣接領域16bに先に接触して押さえつけられる。したがって、走査方向に移動するインクジェットヘッド3のインク噴射領域16aに対して記録用紙Pが接触するのを防止することができる。
【0063】
このように、本実施形態においては、ヘッド下面16の隣接領域16bが、インク噴射領域16aを取り囲んだ全周に隣接して配置されているため、インク噴射領域16aに記録用紙Pが接触するのを全周囲から防止することができる。
【0064】
また、隣接領域16bがインク噴射領域16aよりも搬送面8aに近づいているのに加えて、インク噴射領域16aが、搬送面8aから離れる方向に凹むように湾曲して、インク噴射領域16aは外側に向かうにつれて滑らかに搬送面8aに近づいている。したがって、インク噴射領域16aのある1つのノズル15に着眼したときに、そのすぐ外側の領域が搬送面8aに近づいているため、仮に、インク噴射領域16aに記録用紙Pが接触していたとしても、上記外側の領域が上記ノズル15よりも先に記録用紙Pに接触して押さえつけて、記録用紙Pがそれ以上浮き上がるのを抑制する。これにより、インク噴射領域16aが平らな場合には、インク噴射領域16aに記録用紙Pが接触して搬送されると全てのノズル15に接触するが、インク噴射領域16aが凹むように湾曲していることで、仮に、インク噴射領域16aに記録用紙Pが接触したとしても、ノズル15への接触を最小限に留めることができる。
【0065】
さらに、インク噴射領域16aのノズル列の両側に凸部30がそれぞれ形成されていることで、仮に、記録用紙Pがインク噴射領域16aに接触したとしても、インク噴射領域16aにおいて、記録用紙Pはノズル15よりも搬送面8aに近づいた凸部30の先端に接触するため、記録用紙Pがノズル列に接触するのを防止することができる。
【0066】
また、仮に、記録用紙Pが隣接領域16bに接触したとしても、インク噴射領域16aと隣接領域16bはノズルプレート23に一体的に形成されているため、隣接領域16bの部分だけが脱落することはない。また、ノズルプレート23とは別部材に隣接領域16bを形成する場合に比べて、組み付け誤差が生じることがなく、インク噴射領域16aと隣接領域16bを精度よく形成することができる。
【0067】
次に、インクジェットヘッド3の製造方法について説明する。図6は、流路ユニットの製造工程を説明する図である。まず、流路ユニット6を構成する4枚のプレート20〜23のうち、SUS430からなるキャビティプレート20、ベースプレート21、及び、マニホールドプレート22の3枚のプレートに、圧力室24やマニホールド27などのインク流路を構成する孔を、エッチングにより形成する。また、ポリイミドからなるノズルプレート23にレーザ加工により複数のノズル15を形成する。さらに、ノズルプレート23のノズル開口側の表面に塗布などにより撥液膜29を形成する。
【0068】
なお、ノズルプレート23の厚みは、0.05mmであり、3枚のプレート20〜22の合計の厚みは、0.7mmとなっている。そして、図6(a)に示すように、4枚のプレート20〜23を互いに積層した状態で熱硬化性接着剤で接合し、積層方向両側から熱硬化性接着剤の硬化温度以上(本実施形態では約150度)の加熱温度で約1時間加熱押圧する(加熱押圧工程)。
【0069】
その後、押圧を解除した、拘束していないフリー状態で4枚のプレート20〜23の積層体を環境温度まで冷却する(冷却工程)。なお、冷却は自然冷却であってよいし、ファンによる送風や環境温度よりも低い温度に設定された恒温層内での強制冷却のいずれであってもよい。すると、ポリイミドの線膨張係数は3.6×10−5、SUS430の線膨張係数は10〜11×10−6であるため、図6(b)に示すように、加熱温度から環境温度までの温度変化によって、3枚のプレート20〜22よりもノズルプレート23が大きく収縮しようとして、ノズルプレート23は3枚のプレート20〜22側に凹むように湾曲する。これにより、容易にノズルプレート23を3枚のプレート20〜22側に凹むように湾曲させることができる。なお、上述した加熱押圧工程における加熱温度を変更することで、ノズルプレート23の湾曲形状を適宜変更することは可能である。
【0070】
続いて、図6(c)に示すように、ノズルプレート23の撥液膜29が形成された面の、ノズル列の両側に塗布などにより凸部30をそれぞれ形成し、流路ユニット6を完成させる。そして、従来公知の技術で作製された圧電アクチュエータ17と流路ユニット6を積層して金属拡散接合などで接合することで、インクジェットヘッド3を完成させる。
【0071】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0072】
本実施形態においては、インク噴射領域16aよりも搬送面8aに近い位置にある隣接領域16bは、インク噴射領域16aの全周囲を取り囲んで形成されていたが、インクジェットヘッド3から見た相対移動する記録用紙Pの近づいてくる側にあればよい。例えば、図7に示すように、インクジェットヘッド103のヘッド下面116が搬送方向に関して凹んで湾曲していてもよい(変形例1)。このとき、ヘッド下面116のインク噴射領域116aを搬送方向に関して挟む両側が、インク噴射領域116aよりも搬送面8aに近い位置となった隣接領域116bとなる。なお、隣接領域116bは、搬送方向両側ではなく、搬送方向上流側にのみ配置されていてもよい。このような変形例が好適なのは、例えば、記録用紙Pの幅以上の幅を有しており、固定されたインクジェットヘッドに対して、記録用紙Pが搬送される、いわゆるライン式のヘッドが挙げられる。
【0073】
図8に示すように、インクジェットヘッド203のヘッド下面216が走査方向に関して凹んで湾曲していてもよい(変形例2)。このとき、ヘッド下面216のインク噴射領域216aを走査方向に関して挟む両側が、インク噴射領域216aよりも搬送面8aに近い位置となった隣接領域216bとなる。なお、変形例1と変形例2とを比較したときに、凸部の延在方向とインク噴射領域を挟む2つの隣接領域の並び方向が交差している変形例1の方が、ノズルを両方向から保護することができる。
【0074】
また、本実施形態においては、インクジェットヘッド3のヘッド下面16全面が凹んで湾曲していたが、図9に示すように、インク噴射領域316aは平面になっており、インク噴射領域316aに対して隣接領域316bが搬送面8a側に折れ曲がって、搬送面8aに近づいていてもよい(変形例3)。この場合、ノズルプレートを含む複数枚のプレートの折り曲げたい部分を他のプレートに比べて張り出しておくことで、折り曲げやすくなる。なお、折り曲げる場合には、ノズルプレート23は、高分子合成樹脂材料よりも3枚のプレート20〜22と同様の金属である方が折り曲げた形状を保持しやすい。
【0075】
さらに、本実施形態においては、記録用紙Pは直線的に搬送されていたが、図10に示すように、例えば、記録用紙Pが湾曲した搬送面408を搬送される、いわゆるドラム式のヘッドにも本発明を適用することができる(変形例4)。この場合、搬送面408の屈曲率よりも、インクジェットヘッド403のヘッド下面416の屈曲率を大きくすることで、複数のノズル415が開口するインク噴射領域416aと搬送面408との距離(X10)よりも、インク噴射領域416aと隣接する隣接領域416bと搬送面408との距離(X11)を小さくすることができる。
【0076】
また、本実施形態においては、インクジェットヘッド3のヘッド下面16が撥液膜29により覆われていたが、ヘッド下面16は撥液膜29により覆われていなくてもよい。
【0077】
さらに、本実施形態においては、インクジェットヘッド3のヘッド下面16に凸部30が形成されていたが、凸部は形成されていなくてもよい。
【0078】
また、本実施形態においては、流路ユニット6と圧電アクチュエータ17とを別々に作製していたが、圧電アクチュエータだけあらかじめ作製しておき、上述したように4枚のプレート20〜23を加熱押圧して接合するときに、キャビティプレート20の上面に振動板40を配置させて圧電アクチュエータ17もともに接合してもよい。この場合、
圧電層41の材料であるPZTの線膨張係数は3〜4×10−6であり、ノズルプレート23の材料であるポリイミドと、3枚のプレート20〜22の材料であるSUS430と線膨張係数を比較すると、ポリイミド>SUS430>PZTとなっている。したがって、上述した冷却工程における加熱温度から環境温度までの温度変化によって、3枚のプレート20〜22よりもノズルプレート23が大きく収縮し、さらに圧電層41よりも3枚のプレート20〜22が大きく収縮しようとして、ノズルプレート23は3枚のプレート20〜22側に凹むように大きく湾曲する。これにより、容易にノズルプレート23を3枚のプレート20〜22側に凹むように湾曲させることができる。
【0079】
さらに、本実施形態においては、加熱押圧工程の後の冷却工程時に積層された4枚のプレート20〜23の押圧状態を解除することで、4枚のプレート20〜23の線膨張係数の差による収縮率の差でノズルプレート23を湾曲させていたが、機械的にプレスして湾曲させてもよい。この場合、プレス量で湾曲高さを自由にコントロールすることができる。また、任意の形状に湾曲させたり折り曲げたりすることができる。なお、プレスにより湾曲させる場合には、上述したように、ノズルプレート23は、高分子合成樹脂材料よりも3枚のプレート20〜22と同様の金属である方が割れにくく、折り曲げた形状を保持しやすい。また、ノズルプレート23を射出成型により湾曲させて形成してもよい。どの場合においても、インク噴射領域16aと隣接領域16bを別部材に形成する場合に比べて、組み付け誤差が生じることなく、精度よく形成することができる。
【0080】
また、本実施形態では、搬送機構4により記録用紙Pが搬送方向に搬送される構成であったが、インクジェットヘッド3が走査方向に移動するだけでなく、走査方向と交差する方向(搬送方向)にも移動可能に構成され、インクジェットヘッド3が記録用紙Pに対して移動することによって、記録用紙Pとインクジェットヘッド3との間に相対的な搬送が実現される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 インクジェットプリンタ
3 インクジェットヘッド
4 搬送機構
8a 搬送面
15 ノズル
16 ヘッド下面
16a インク噴射領域
16b 隣接領域
P 記録用紙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体にインクを噴射するインクジェットヘッドを備え、
前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体とが、相対移動可能であり、
前記インクジェットヘッドは、前記被記録媒体の配置面と隙間をあけて対向する面に、ノズルが開口したインク噴射領域と、このインク噴射領域の、少なくとも前記インクジェットヘッドから見て前記被記録媒体が相対移動して近づいてくる側に隣接する隣接領域とを有しており、
前記インク噴射領域と前記隣接領域とは、同一部材に形成され、
前記隣接領域と前記配置面との距離が、前記インク噴射領域と前記配置面との距離よりも小さいことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記配置面に沿った所定の搬送方向に前記被記録媒体を搬送する搬送手段をさらに備え、
前記隣接領域が、前記インク噴射領域の前記搬送方向上流側に隣接していることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記隣接領域が、前記搬送方向上流側とともに、前記インク噴射領域の前記搬送方向下流側にも隣接していることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記配置面に沿った所定の搬送方向に前記被記録媒体を搬送する搬送手段をさらに備え、
前記インクジェットヘッドが、前記配置面と平行で且つ前記搬送方向と交差する走査方向に移動可能であり、
前記隣接領域が、前記インク噴射領域を挟んで前記走査方向両側に隣接していることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記隣接領域が、前記インク噴射領域を取り囲んだ全周に隣接していることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記隣接領域が、前記インク噴射領域と連続的に繋がっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記インク噴射領域が、前記配置面から離れる方向に凹むように湾曲していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記複数のノズルが所定のノズル配列方向に沿ってノズル列を形成し、このノズル列が平行に複数並んで配置されており、
前記インク噴射領域には、前記ノズル配列方向に沿った複数の前記ノズル列の両側に、前記ノズル配列方向に沿って凸部がそれぞれ形成されており、
前記ノズル列と前記凸部が交互に並んで配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
ノズルが開口する面を湾曲させたインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記インクジェットヘッドは、前記ノズルが開口したノズルプレートと、前記ノズルプレートに接合され、前記ノズルに連通するインク流路が形成された流路構造体とを有し、
前記ノズルプレートと、前記ノズルプレートよりも線膨張係数が小さい材料からなる前記流路構造体とを積層した状態で加熱押圧して接着する加熱押圧工程と、
前記加熱押圧工程の後、押圧を解除した状態で冷却する冷却工程と、を備えていることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記ノズルプレートがポリイミドからなり、
前記流路構造体が金属材料からなることを特徴とする請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245774(P2012−245774A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121902(P2011−121902)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】