説明

インサート成形品の製造方法

【課題】インサート成形品の樹脂材料からなる部分にヒケが発生することを防止もしくは抑制しつつ、離型性の向上を図ることができるインサート成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質材料からなりインサート成形品の樹脂成形部を成形する空間部分が成形された入れ子部材531,532を着脱可能に装着された成形型5を用い、あらかじめ入れ子部材531,532に離型剤を浸透させておき、インサート成形品の樹脂成形部13に埋め込まれる所定の部材(=端子金具11と電線12)を成形型5の内部に配設し、ヒケや気泡が発生しない圧力条件で樹脂材料を射出および保圧して所定の部材(=端子金具11と電線12)を樹脂成形部13の内部に埋め込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形品の製造方法に関するものであり、たとえば、金属の部材が樹脂材料に覆われた構成を有するインサート成形品の製造に好適なインサート成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種機構部品の成形方法として、インサート成形が用いられることがある。インサート成形は、金属からなる部材や、その他所定の材質の部材などを樹脂材料に埋め込む成形方法である。インサート成形は、たとえば、樹脂材料からなる各種機構部品に金属からなるネジやボスを埋め込んだり、ウレタンなどからなる靴底にセラミックからなるスパイクを埋め込んだりするなどの成形例が挙げられる。
【0003】
一般に、インサート成形においては、埋め込まれる部材が埋め込む樹脂材料に密着して、成形された樹脂材料から抜け落ちないようにする必要がある(=埋め込まれた部材と埋め込む樹脂材料とが、所定の結合強度を有している必要がある)。このため、インサート成形においては、埋め込まれる部材の材質と、埋め込む樹脂材料の材質とは、互いに密着性の良好な組合せが選択される。
【0004】
しかしながら、埋め込まれる部材の材質と、成形型の材質とが同じであると、成形品の離型性が低下するという問題が生じる。たとえば、金属との密着性が良好な樹脂材料によって、金属からなる部材を埋め込む場合においては、金属からなる成形型を用いると、樹脂材料と成形型とが密着して、インサート成形品(=固化した樹脂材料)の離型性が悪化する。
【0005】
成形品の離型性の向上を図る方法(または、離型性の低下を防止もしくは抑制する方法)としては、成形型に離型剤を塗布するという方法が用いられることがある。しかしながら、成形型に離型剤を塗布する方法では、成形型に離型剤を(所定回数の成形をめやすにして)定期的に塗布する必要があり、成形品の製造に必要となる工程が増加する。このため、製造コストの上昇や、生産性の低下を招くおそれがある。
【0006】
また、インサート成形品を製造する場合には、埋め込まれる部材を覆う樹脂材料の寸法(特に厚さ寸法)が、所定の寸法を有するようにする必要がある。成形品の用途によって寸法精度の要求は異なるが、この所定の寸法の精度が重要となる場合があり、その場合にたとえば、インサート成形を含む樹脂の射出成形においては、射出された樹脂材料が固化する際に収縮し、成形品の表面に「ヒケ」と称されるくぼみが発生することがあり、寸法精度を悪化させるという問題がある。ヒケが発生すると、当該ヒケの箇所においては、埋め込まれる部材を覆う樹脂材料の厚さが薄くなる。そうすると、所定の結合強度や電気的な絶縁性が確保できなくなることがある。ヒケの発生を防止する方法としては、たとえば、樹脂材料を、ヒケが発生しない、比較的に高い圧力条件で射出および保圧をする方法が用いられることがある。しかしながら、樹脂材料の射出時の圧力を高くすると、射出された樹脂材料が成形型の内周面に押し付けられることになるから、樹脂材料が成形型に密着し、さらに離型性が悪化する。
【0007】
なお、ヒケを制御する構成としては、たとえば、特開平9−314608号公報(特許文献1)に記載の構成がある。特許文献1に記載の構成は、成形型の内周面のうち、成形品の外観に出ない部分を成形する部分に離型剤を浸透させた多孔質材料を適用し、樹脂材料を「ヒケ限界圧力以下」で射出するというものである。このような構成によれば、離型剤を浸透させた多孔質材料は、他の部分に比較して離型性が高くなる。このため、離型剤を浸透させた多孔質材料に接している部分にヒケの発生が誘発されるというものである。
【0008】
しかしながら、特許文献1の構成は、次のような問題を有することがある。まず、特許文献1の構成は、特定の箇所にヒケを誘発させる構成であるから、表面のいずれの箇所にもヒケを発生させてはならない成形品には適用できない。また、ヒケの発生の原因は、射出された樹脂材料の温度分布や、その他種々の要因がある。特に、インサート成形においては、埋め込まれる部材の形状や寸法なども、ヒケの発生の位置や寸法に影響を与えることがある。このため、単に、金型の特定の部分の離型性を他の部分よりも良好にしたという構成では、ヒケを確実に特定の箇所に誘発させることは困難である。
【0009】
また、特許文献1の構成は、成形型の一部に離型剤を浸透させた多孔質材料を適用することで、ヒケを誘発させたい部分とそれ以外との部分とで、樹脂材料の離型性を異ならせる構成である。換言すると、ヒケを発生させたくない部分は、樹脂材料と成形型の離型性を低くする構成である。このような構成では、全体として、成形品の離型性がよくないという問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−314608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、成形される成形品の材質と成形型とが密着性が良好な材質の組合せとなった場合であっても離型性を向上させることができる(もしくは離型性を低下させない)インサート成形品の製造方法を提供すること、インサート成形品の樹脂材料からなる部分にヒケが発生することとを防止できるインサート成形品の製造方法を提供すること、インサート成形品の樹脂材料からなる部分にヒケが発生することを防止もしくは抑制しつつ、離型性の向上を図ることができる(もしくは離型性を低下させない)インサート成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、所定の部材の所定の部分が樹脂材料により成形される樹脂成形部の内部に埋め込まれたインサート成形品の製造方法であって、少なくとも前記インサート成形品の前記樹脂成形部の外形を成形する部分が多孔質材料からなる成形型を用い、前記多孔質材料に離型剤または離型作用を有する油性液体を浸透させ、前記成形型の内部に前記インサート成形品の前記所定の部材の所定の部分を配設し、前記成形型にヒケが発生しない圧力条件で樹脂材料を射出および保圧して前記所定の部材を前記樹脂成形部の内部に埋め込むことを要旨とするものである。
【0013】
前記インサート成形品は端子金具と電線とを備える端子金具付き電線が適用できる。すなわち、前記所定の部材は端子金具と電線であり、前記所定の部分は前記端子金具と前記電線の芯線とが結合している部分である構成に好適に適用できる。
【0014】
そして、前記樹脂材料は、ポリアミドが好適に適用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂成形部の外形を成形する部分が多孔質材料により成形されており、離型剤(または離型作用を有する油性液体)が浸透されている。このため、成形された樹脂成形部の成形型からの離型性が良好であり、成形された樹脂成形部(すなわちインサート成形品)を成形型から容易に取り外すことができる。
【0016】
そして、このような構成であると、埋め込まれる部材との密着性が良好な樹脂材料により樹脂成形部を成形することが容易となる。
【0017】
すなわち、従来の一般的な方法では、埋め込まれる部材との密着性が良好な樹脂材料により樹脂成形部を成形すると、成形型に射出された樹脂材料と成形型との密着性も高くなるから、成形された樹脂成形部の離型性が悪化する。特に、ヒケを発生しないようにするために「ヒケ限界圧力」以上の圧力で樹脂材料を射出し、かつ保圧を加えると(=樹脂材料の射出圧力を高くすると)、射出された樹脂成形部が成形型に密着するから、樹脂成形部の離型性がさらに低下する。
【0018】
これに対して本発明によれば、成形型は、樹脂成形部の外形を成形するための空間部分が多孔質材料に成形されており、この多孔質材料には離型剤が浸透されている。このため、埋め込まれる部材との密着性が良好な樹脂材料を射出した場合であっても、樹脂成形部の離型性の向上を図ることができる(または、離型性の低下を防止することができる)。そうすると、樹脂成形部にヒケが発生することを防止しつつ(または発生を抑制しつつ)、樹脂成形部の離型性の向上(または離型性の低下の防止)を図ることができる。
【0019】
そして、樹脂材料を「ヒケ限界圧力」以上の圧力で射出し、かつ保圧するから、製造されるインサート成形品の樹脂成形部にヒケや気泡が発生することを防止または抑制できる。このため、樹脂成形部の寸法および形状の制御が容易となる。以上をまとめると、ヒケ等を抑制して樹脂成形部の高い寸法精度を維持しつつ、また埋め込まれる部材との良好な密着性を確保しつつ、離型性が低下することのない成形が可能である。
【0020】
本発明によれば、離型剤は多孔質材料に浸透しているから、離型剤による離型性の効果の持続時間が長くなる。たとえば、従来のように、成形型の表面に離型剤を塗布する方法では、離型剤は成形型の表面にのみ存在する構成となるから、塗布された離型剤の消尽が早い。このため、離型剤の塗布を頻繁に行う必要があり、インサート成形品の製造に手間を要する。これに対して、本発明によれば、離型剤は多孔質材料の内部に浸透しているから、表面の離型剤が消尽した場合には、内部に浸透している離型剤が表面に染み出してくる。このため、離型剤による離型性の効果の持続時間が長くなる。そして、離型性の効果の持続時間が長くなるから、離型剤の補充作業(=多孔質材料に離型剤を浸透させる作業。従来の方法における離型剤を塗布する作業に相当する)を行う回数を少なくすることができる。したがって、インサート成形品の製造の手間を削減することができる。
【0021】
そして、本発明を端子金具付き電線の製造に適用すると、次のような作用効果を奏することができる。
【0022】
本発明によれば、樹脂成形部にヒケや気泡が発生することを防止または抑制できる。このため、樹脂成形部の寸法(特に厚さ。すなわち、端子金具や電線の芯線から樹脂成形部の表面までの距離)が局所的に小さくなることを防止または抑制できる。したがって、端子金具と電線との結合部の防水の効果が低下することを防止または抑制できる。また、樹脂成形部の寸法が小さくなることが防止できるから、樹脂成形部の電気的な絶縁性能の低下を防止または抑制できる。
【0023】
また、端子金具と電線の芯線(=樹脂成形部に埋め込まれる部材)との密着性が良好な樹脂材料を樹脂成形部の材料に適用しても、樹脂成形部の離型性が低下しない(または低下が抑制される)。換言すると、射出される樹脂にどのような材質の樹脂が適用されても、成形された樹脂成形部と成形型(=多孔質材料)との離型性を確保することができる(離型性の向上を図ることができる。または、離型性の低下を防止もしくは抑制できる)。このため、射出する樹脂として、端子金具と電線の芯線との密着性が良好な樹脂材料を適用し、端子金具と電線の芯線との密着性が良好な樹脂成形部を成形しつつ、樹脂成形部の離型性の向上を図ること(または、離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。
【0024】
たとえば、樹脂成形部に、金属材料との密着性(換言すると、接着性)が良好なポリアミドを適用することによって、端子金具と電線との結合部分の防水性や結合強度の向上を図りつつ、製造工程においては離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。さらに、金属材料との密着性(換言すると、接着性)が良好なポリアミドを適用する場合であっても、成形される樹脂成形部にヒケや気泡が発生することを防止もしくは抑制しつつ、製造工程においては離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。
【0025】
このように、本発明によれば、インサート成形品の樹脂成形部にヒケや気泡が発生することを防止もしくは抑制しつつ、離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。そして、埋め込まれる部材との密着性が良好な樹脂材料によって樹脂成形部を成形する場合であっても、樹脂成形部の離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法を用いて製造される端子金具付き電線(=インサート成形品)の構成を、模式的に示した外観斜視図であり、(a)は、電線と端子金具とを結合する前の状態を示した図、(b)は、電線と端子金具とを結合した状態を示した図、(c)は、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によりインサート成形された状態を示した図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法において用いられる成形型の構成を、模式的に示した断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法の工程を模式的に示した断面図であり、(a)は、成形型の内部に端子金具付き電線を配設する工程を示した図、(b)は、樹脂材料を射出する工程を示した図、(c)は、インサート成形された端子金具付き電線を成形型から取り出す工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法により製造されるインサート成形品として、端子金具付き電線1を示して説明する。図1は、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法により製造される端子金具付き電線1の構成を、模式的に示した外観斜視図である。それぞれ、図1(a)は、電線12と端子金具11とを結合する前の状態を示した図であり、図1(b)は、電線12と端子金具11とを結合した状態を示した図であり、図1(c)は、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によりインサート成形された状態を示した図である。なお、説明の便宜上、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法により成形される樹脂の部分を、単に「樹脂成形部13」と称することがある。
【0029】
本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法により製造される端子金具付き電線1(以下、単に「端子金具付き電線1」と称することがある)の構成は、次のとおりである。端子金具付き電線1は、端子金具11と電線12とを備える。端子金具11および電線12の構成は限定されるものではないが、たとえば、図1(a)に示すように、端子金具11は、電線12の芯線121と結合するバレル112と、相手方の端子金具(図略)と結合する本体部111とを備える構成のものが適用できる。一方、電線12は、導体からなる芯線121と絶縁体からなる被覆材122とを備え、芯線121が被覆材122に被覆される構成のものが適用できる。そして、図1(a)、(b)に示すように、電線12の端部の被覆材122が剥がされて芯線121が露出され、露出した芯線121が端子金具11のバレル112によりかしめられる。これにより、端子金具11と電線12の芯線121とが物理的に結合するとともに電気的に接続する。
【0030】
そして、図1(c)に示すように、端子金具11と電線12とが結合している部分(すなわち、端子金具11のバレル112と、露出させた電線12の芯線121)とが、樹脂成形部13の内部に埋め込まれる。樹脂成形部13は、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法により成形される部分であり、樹脂材料からなる部分である。すなわち、端子金具11と電線12とが結合している部分を樹脂成形部13の内部に埋め込む工程に、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法が適用される。
【0031】
このような構成の端子金具付き電線1は、端子金具11と電線12との結合部分が樹脂成形部13の内部に埋め込まれるから、当該結合部分に防水性を持たせることができる。このため、絶縁不良や短絡の発生を防止できる。また、端子金具11と電線12とが接触している箇所に液体が付着することが防止されるから、たとえば、端子金具11と電線12の芯線121とが異なる材質である場合でも、異種金属接触腐食の発生を防止できる。さらに、端子金具11と電線12とが、樹脂成形部13の内部に埋め込まれて一体化するから、端子金具11と電線12との結合強度の向上を図ることができる。
【0032】
なお、前記端子金具11および電線12の構成は一例であり、端子金具付き電線1の構成は、前記構成に限定されるものではない。また、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法により製造されるインサート成形品は、端子金具付き電線1に限定されるものではない。
【0033】
次に、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法において使用する成形型5(以下、単に「本成形型5」と称することがある)について説明する。図2は、本成形型5の要部の構成を、模式的に示した断面図である。
【0034】
図2に示すように、本成形型5は、固定型51と可動型52とを備える。そして、固定型51と可動型52のそれぞれには、入れ子部材531,532が着脱可能に装着される。具体的には、固定型51と可動型52のそれぞれの互いに対向する面に凹部511,521が成形され、それぞれの凹部511,521に、入れ子部材531,532が嵌め込まれる態様で装着される。
【0035】
入れ子部材531,532には、インサート成形品の樹脂成形部13の外形を成形するための空間部分533(換言すると、射出した樹脂材料が充填される空間)が形成される。ただし、樹脂成形部13を成形するための空間部分533以外の箇所には、樹脂材料を充填可能な空間が成形されない。また、固定型51および可動型52にも、射出された樹脂材料が接触する部分が形成されない。そして、入れ子部材531,532を固定型51と可動型52のそれぞれに装着し、成形型5の内部(=固定型51と可動型52の内部)に端子金具付き電線1を収容し、固定型51と可動型52とを結合すると、端子金具付き電線1の端子金具11と電線12との結合部分が、樹脂成形部13の外形を成形するための空間部分533に収まる。したがって、端子金具付き電線1の端子金具11と電線12との結合部分の周囲には、樹脂材料を充填可能な空間が形成されるが、それ以外の箇所には、樹脂材料が進入可能な空間は形成されない。
【0036】
入れ子部材531,532の形状や寸法は特に限定されるものではない。たとえば、インサート成形品の樹脂成形部13の外形を成型するための空間部分533の寸法および形状は、成形する樹脂成形部13の寸法および形状に応じて設定される。また、それ以外の部分の寸法および形状は、端子金具11や電線12の寸法および形状に応じて設定される。
【0037】
入れ子部材531,532は、多孔質材料により形成される。多孔質材料には、たとえば、多孔質金属、多孔質セラミックスなどが適用できる。なお、この多孔質材料は、内部に成形される孔どうしが連通している構成のものが適用される。すなわち、入れ子部材531,532には、流体を透過可能な構成を有する多孔質材料が適用される。多孔質材料に成形される孔の径は、離型剤(=液体)は透過可能であるが、射出された樹脂材料は透過できない(=樹脂材料は射出の圧力によっては透過できない)径が適用される。したがって、多孔質材料の孔の径は、成形する樹脂材料の種類や射出圧力などに応じて設定される。
【0038】
このように、本成形型5は、インサート成形品の樹脂成形部13の外形を成形するための空間部分が、多孔質材料に成形される構成を有する。なお、本成形型5が、入れ子部材531,532を備えず、固定型51と可動型52のそれぞれの全体が多孔質材料により成形される構成であってもよい。要は、本成形型5の一部または全部が多孔質材料からなり、インサート成形品の樹脂成形部13の外形を成形するための空間部分が多孔質材料に成形される構成であればよい。
【0039】
なお、本成形型は、インサート成形品の樹脂成形部13の外形を成形するための空間部分が多孔質材料に成形される構成であることを除いては、一般的な射出成形用の金型と同じ構成が適用できる。すなわち、本成形型5を、一般的な射出成形用金型に対応させて説明すると、入れ子部材531,532がキャビティとコアに相当し、固定型51と可動型52がそれぞれキャビティリテーナとコアリテーナに相当する。さらに、本成形型5は、射出成形の成形型として必要な機構や部品(たとえば、イジェクタピンやガイドピンなど)を備える。これらには、一般的な射出成形型と同じ構成が適用できるため、図示および説明は省略する。
【0040】
次に、前記本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法の工程について説明する。図3は、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法の工程を模式的に示した断面図である。それぞれ、図3(a)は、本成形型5の内部に端子金具付き電線1を配設する工程を示した図であり、図3(b)は、本成形型5に樹脂材料を射出する工程を示した図であり、図3(c)は、インサート成形された(=樹脂成形部13が成形された)端子金具付き電線1を本成形型5から取り出す工程を示した図である。
【0041】
まず、端子金具付き電線1(=インサート成形品)を製造するにあたり、前もって、入れ子部材531,532に離型剤を浸透させておく。そして、離型剤を浸透させた入れ子部材531,532を、固定型51と可動型52のそれぞれに装着する(=凹部511,521に嵌め込む)。入れ子部材531,532に離型剤を浸透させる方法は、特に限定されるものではない。たとえば、入れ子部材531,532を離型剤に沈めておく方法が適用できる。さらに、入れ子部材531,532の内部に離型剤を浸透させるため、減圧雰囲気下または真空中で、入れ子部材を離型剤に沈めておく方法であってもよい。
【0042】
なお、離型剤の種類は特に限定されるものではなく、多孔質材料に浸透できる離型剤であればよく(=多孔質材料の孔に浸透できる粘度を有する液体の離型剤であればよく)、公知の各種離型剤が適用できる。一般的な離型剤にはフッ素系のものなどがあるが、多孔質材料に浸透させることから、一般的な離型剤以外にたとえば離型作用を有する油なども適用できる。つまり、金型と成形品の間に膜を形成できるものであればよい。また、多孔質材料の孔径に適した粘度の液体を浸透させるとよい。つまり、成形樹脂の粘度によって、成形樹脂の入り込みを防止するための多孔質材料の孔径が決まってくるが、その孔径に対して十分に浸透できる粘度の液体を選定するとよい。
【0043】
次いで、端子金具付き電線1を固定型51または可動型52に配設し、可動型52を移動させて固定型51と可動型52とを結合させる。これにより、図3(a)に示すように、端子金具付き電線1が入れ子部材531,532や固定型51や可動型52に成形される空隙の内部に収まる。特に、端子金具11と電線12との結合部分(=端子金具11のバレル112と露出した電線12の芯線121)が、樹脂成形部13の外形を成形するための空間部分533の内部に収まる。
【0044】
次いで、図3(b)に示すように、射出成型機のノズル601を可動型52のスプルー522に押し当て、入れ子部材531,532に成形される樹脂成形部の外形を成形するための空間部分533に樹脂材料を射出(=注入)する。樹脂材料の射出時の圧力(=注入の圧力)および保圧時の圧力は、いずれも「ヒケ限界圧力」以上の圧力とする。「ヒケ限界圧力」とは、射出された樹脂材料(=注入された樹脂材料)が固化した場合に、ヒケや気泡が発生しない圧力の下限をいうものとする。
【0045】
射出する樹脂材料は、埋め込まれる部材(=端子金具11および電線12の芯線121)との密着性が良好な樹脂材料が適用できる。たとえば、端子金具および電線の芯線が金属からなるものであれば、金属との密着性が良好なポリアミドが適用できる。
【0046】
樹脂材料が射出されると(=注入されると)、端子金具11と電線12の結合部分(=端子金具11のバレル112と電線12の芯線121)とが、射出された樹脂材料の内部に埋まる。換言すると、端子金具11と電線12の結合部の周囲が、射出された樹脂材料に覆われる。
【0047】
次いで、図3(c)に示すように、射出した樹脂材料(=注入した樹脂材料)が固化した後、可動型52を移動させて固定型51と可動型52とを分離し、端子金具付き電線1を成形型5から取り出す。
【0048】
以上の工程を経て、端子金具付き電線1が製造される。本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法により製造された端子金具付き電線1は、端子金具11と電線12の結合部が、樹脂成形部13の内部に埋め込まれた構成を有する。
【0049】
本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によれば、次のような作用効果を奏することができる。
【0050】
入れ子部材531,532(=樹脂成形部13の外形を成形する部分)は多孔質材料により成形されており、離型剤が浸透されている。このため、成形された樹脂成形部13の本成形型5からの離型性が良好であり、成形された樹脂成形部13(すなわちインサート成形品)を本成形型5から容易に取り外すことができる。
【0051】
そして、このような構成であると、埋め込まれる部材(ここでは、端子金具11と電線12)との密着性が良好な樹脂材料により樹脂成形部13を成形することが容易となる。
【0052】
すなわち、従来の一般的な方法では、埋め込まれる部材との密着性が良好な樹脂材料により樹脂成形部を成形すると、成形型に射出された樹脂材料と成形型との密着性も高くなるから、成形された樹脂成形部の離型性が悪化する。特に、ヒケを発生しないようにするために「ヒケ限界圧力」以上の圧力で樹脂材料を射出し、かつ保圧を加えると(=樹脂材料の射出圧力を高くすると)、射出された樹脂成形部が成形型に密着するから、樹脂成形部の離型性がさらに低下する。
【0053】
これに対して本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によれば、本成形型5のうち、樹脂成形部13の外形を成形するための空間部分533が多孔質材料に成形されており、この多孔質材料には離型剤が浸透されている。このため、埋め込まれる部材との密着性が良好な樹脂材料を射出した場合であっても、樹脂成形部13の離型性の向上を図ることができる(または、離型性の低下を防止することができる)。そうすると、樹脂成形部13にヒケが発生することを防止しつつ(または発生を抑制しつつ)、樹脂成形部13の離型性の向上(または離型性の低下の防止)を図ることができる。
【0054】
そして、樹脂材料を「ヒケ限界圧力」以上の圧力で射出し、かつ保圧するから、製造されるインサート成形品の樹脂成形部にヒケや気泡が発生することを防止または抑制できる。このため、樹脂成形部の寸法および形状の制御が容易となる。
【0055】
本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によれば、離型剤は入れ子部材531,532(=多孔質材料)に浸透しているから、離型剤による離型性の効果の持続時間が長くなる。たとえば、従来のように、成形型の表面に離型剤を塗布する方法では、離型剤は成形型の表面にのみ存在する構成となるから、塗布された離型剤の消尽が早い。このため、離型剤の塗布を頻繁に行う必要があり、インサート成形品の製造に手間を要する。これに対して、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によれば、離型剤は入れ子部材531,532の内部に浸透しているから、表面の離型剤が消尽した場合には、内部に浸透している離型剤が表面に染み出してくる。このため、離型剤による離型性の効果の持続時間が長くなる。そして、離型性の効果の持続時間が長くなるから、離型剤の補充作業(=入れ子部材531,532に離型剤を浸透させる作業。従来の方法における離型剤を塗布する作業に相当する)を行う回数を少なくすることができる。したがって、インサート成形品の製造の手間を削減することができる。
【0056】
そして、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によれば、インサート成形品の生産効率の向上を図ることができる。たとえば、入れ子部材531,532に離型剤を浸透させる作業は、インサート成形品を製造しない間(インサート成形品を製造する設備が稼動していない間)に行うことができる。また、複数の入れ子部材531,532を用意しておくことにより、ある入れ子部材を成形型5に装着してインサート成形品を製造している間に、他の入れ子部材531,532に離型剤を浸透させる作業を行うことができる。このように、インサート成形品を製造している間には入れ子部材531,532に離型剤を浸透させる作業を行う必要がないから、インサート成形品の製造サイクルの短縮を図ることができ、生産効率の向上を図ることができる。
【0057】
そして、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法を端子金具付き電線1の製造に適用すると、次のような作用効果を奏することができる。
【0058】
本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によれば、樹脂成形部13にヒケや気泡が発生することを防止または抑制できる。このため、樹脂成形部13の寸法(特に厚さ。すなわち、端子金具11や電線12の芯線121から樹脂成形部13の表面までの距離)が局所的に小さくなることを防止または抑制できる。したがって、端子金具11と電線12との結合部の防水の効果が低下することを防止または抑制できる。また、樹脂成形部13の寸法が小さくなることが防止できるから、樹脂成形部13の電気的な絶縁性能の低下を防止または抑制できる。
【0059】
また、端子金具11と電線12の芯線121(=樹脂成形部13に埋め込まれる部材)との密着性が良好な樹脂材料を樹脂成形部13の材料に適用しても、樹脂成形部13の離型性が低下しない(または低下が抑制される)。換言すると、射出される樹脂にどのような材質の樹脂が適用されても、成形された樹脂成形部13と成形型5(=入れ子部材531,532)との離型性を確保することができる(離型性の向上を図ることができる。または、離型性の低下を防止もしくは抑制できる)。このため、射出する樹脂として、端子金具11と電線12の芯線121との密着性が良好な樹脂材料を適用し、端子金具11と電線12の芯線121との密着性が良好な樹脂成形部13を成形しつつ、樹脂成形部13の離型性の向上を図ること(または、離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。
【0060】
そして、樹脂成形部13の材質に、端子金具11と電線12の芯線121との密着性が良好な樹脂材料が適用できるから、端子金具11と電線12の芯線121との結合部の防水性の向上を図ることができる(または、防水性の低下を防止もしくは抑制することができる)。さらに、端子金具11と電線12の芯線121との密着性が良好な樹脂材料が適用できるから、端子金具11と電線12の芯線121(すなわち、埋め込まれる部材)と樹脂成形部13との結合強度の向上を図ることができる(または、結合強度の低下を防止もしくは抑制することができる)。
【0061】
たとえば、樹脂成形部13に、金属材料との密着性(換言すると、接着性)が良好なポリアミドを適用することによって、端子金具11と電線12との結合部分の防水性や結合強度の向上を図りつつ、製造工程においては離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。さらに、金属材料との密着性(換言すると、接着性)が良好なポリアミドを適用する場合であっても、成形される樹脂成形部13にヒケや気泡が発生することを防止もしくは抑制しつつ、製造工程においては離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。
【0062】
このように、本発明の実施形態にかかるインサート成形品の製造方法によれば、インサート成形品の樹脂成形部にヒケや気泡が発生することを防止もしくは抑制しつつ、離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。そして、埋め込まれる部材との密着性が良好な樹脂材料によって樹脂成形部を成形する場合であっても、樹脂成形部の離型性の向上を図ること(または離型性の低下を防止もしくは抑制すること)ができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能である。
【0064】
端子金具付き電線の製造に適用する構成を例に示したが、インサート成形であればよく、適用対象が限定されるものではない。また、前記実施形態においては、インサート成形により埋め込まれる部材が金属からなり、埋め込む樹脂材料がポリイミドである構成を示したが埋め込まれる部材の材質や、射出成形する樹脂材料の種類は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0065】
1 端子金具付き電線(インサート成形品)
11 端子金具
111 本体部
112 バレル
12 電線
121 芯線
122 被覆材
13 樹脂成形部
5 成形型
51 固定型
511 凹部
52 可動型
521 凹部
522 スプルー
531,532 入れ子部材
533 樹脂成形部の外形を成形するための空間部分
601 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の部材の所定の部分が樹脂材料により成形される樹脂成形部の内部に埋め込まれたインサート成形品の製造方法であって、
少なくとも前記インサート成形品の前記樹脂成形部の外形を成形する部分が多孔質材料からなる成形型を用い、前記多孔質材料に離型剤または離型作用を有する油性液体を浸透させ、前記成形型の内部に前記インサート成形品の前記所定の部材の所定の部分を配設し、前記成形型にヒケが発生しない圧力条件で樹脂材料を射出および保圧して前記所定の部材を前記樹脂成形部の内部に埋め込むことを特徴とするインサート成形品の製造方法。
【請求項2】
前記インサート成形品は端子金具と電線とを備える端子金具付き電線であり、前記所定の部材は端子金具と電線であり、前記所定の部分は前記端子金具と前記電線の芯線とが結合している部分であることを特徴とする請求項1に記載のインサート成形品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂材料は、ポリアミドであることを特徴とする請求項2に記載のインサート成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−56428(P2013−56428A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194699(P2011−194699)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】