説明

インサート金具及びその製造方法

【課題】抜け止め効果及び回り止め効果がより一層優れた係止突起を有するインサート金具及びその製造方法を提供する。
【解決手段】軸体の側面に、軸体の軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げられた係止突起C1を有するインサート金具Cとする。製造は、第1のダイとそれに対応する第1のパンチとによって軸体の側面に半加工係止突起を形成する第1の工程と、第2のダイとそれに対応する第2のパンチとによって前記第1の工程において形成した半加工係止突起を扁平に押し広げる第2の工程とによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被埋設体に埋設するインサート金具に関し、回り止め及び抜け止め加工を施したインサート金具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形品やコンクリート成形品等(以下、被埋設体という)を成型する際に、抜け止め及び回り止め加工を施したインサート金具を埋設し、当該インサート金具を介してネジ部材や軸棒等を取り付けるといった施工が行われている。このようなインサート金具としては、本願の発明者が発明した特許文献1及び2に示されているものが知られている。
【0003】
特許文献1に示すものは、図6に示すように、軸体において、その側面に、外方に突出した係止突起と係止突起を形成すると同時に形成される溝とを有するインサート金具であり、被埋設体を成型する成型材料によって係止突起及び溝が埋設固定されることにより回り止め及び抜け止めがなされるようになっている。当該インサート金具は、ダイとパンチとにより断面略円形状をなす中空あるいは中実の軸材料を加工して製造されたものである。ダイとしては、軸材料を軸心方向に挿入可能な穴が形成され、該穴を形成する内周面に断面略角形の突起形成用突条が突設されたものが採用されている。前記係止突起は、軸材料をダイの穴に挿入し、パンチによる押圧により軸材料の一端面における側縁部が突起形成用突条により寄せ上げられることで、軸材料の側面が外方に隆起するように塑性変形することにより形成される。溝は、軸材料の側面の一部が突起形成用突条に押しやられて(突起形成用突条の移動に伴って)形成されたものである。つまり、係止突起及び溝は突起形成用突条の押圧による軸材料の塑性変形により形成されたものである。
【0004】
そして、回り止め及び抜け止め効果を大きくすべく係止突起を大きくするには、ダイの突起形成用突条の突出量を大きくすることで、軸材料に対する押圧面積を大きくして軸材料の側面部分における押し上げ量を多くする方法や、突起形成用突条の突出量を大きくすることなく、軸材料とダイとの相対移動量を大きくすることで、軸材料の側面部分における軸心方向に押しやる量を多くしたりする方法により調整される。したがって、上記構成のインサート金具は、軸材料をダイに押しやる工程のみで、係止突起及び溝が形成されるので、低コストでの提供を可能としたものである。
【0005】
しかしながら、上記インサート金具の製造方法においては、被埋設体に対する抜け止め効果を向上させるべく係止突起を大きくするための方法として、ダイの穴における内周面からの突起形成用突条の突出量を大きくして、軸材料を押圧する押圧面積(塑性変形させる領域)を大きくする方法を行う場合には、肉薄の中空軸材料に対してはその厚みがさらに薄くなるので、当該方法を採用することができない。また、ダイの穴における内周面からの突起形成用突条の突出量を小さくし、軸材料とダイとの相対移動量を大きくして突起形成用突条による軸材料の変形量を増やす方法を行う場合には、軸材料の軸心方向の長さが短い場合には、当該方法を採用することができない。
【0006】
そこで、本発明者は、特許文献2に示されるように、軸材料として薄肉の中空軸材料を採用しても、抜け止め効果及び回り止め効果の優れた大きな係止突起を形成することができるインサート金具を開発した。
【0007】
すなわち、ダイ押圧面を直線状のエッジにしたことにより、軸材料の側面に、当該軸材料の側面上で軸心方向に延びる両側端を有する平面状の規制面を形成するようにしたものである。ダイに形成された押圧面のエッジが直線状であることで、軸材料の側面の部分が相対移動方向に押し寄せられるに際し、押圧面のエッジが軸材料の断面に対して側面の二点上を通過あるいは交差するように移動することとなって、軸材料の側面上に両側端を有する平面状の規制面が形成されることとなる。したがって、軸材料の側面からなる外周線と、該外周線の両端を結んだ線分とで包囲した広い領域が、ダイの押圧面で押圧して軸方向かつ外側に塑性変形させる対象となるので、係止突起を形成するのに無駄な部分を残すことなく軸材料の側面の一部分を有効的に塑性変形させることとなる。このように、上記インサート金具の製造方法によれば、軸材料とダイの押圧面との重なり量が少なくても、大きな係止突起を形成することができるので、軸材料として肉薄の中空軸を採用しても、回り止め及び抜け止め効果の優れた大きな係止突起を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−91843号公報
【特許文献2】特開2004−290981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に示すインサート金具の製造方法により係止突起を形成する場合においても、肉薄の中空軸に対して係止突起を設けると、その規制面における厚みは当然薄くなるので、当該方法を採用するにおいて中空軸の厚みが制限されることは否めない。
【0010】
そこで、本発明者は、上記の実情に鑑み、特許文献1及び2の方法で形成された係止突起をさらに加工して係止突起を拡大することを考え出した。
【0011】
本発明は、抜け止め効果及び回り止め効果がより一層優れた係止突起を有するインサート金具及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るインサート金具は、軸体の側面に、軸体の軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げた係止突起を有してなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係るインサート金具の製造方法は、第1のダイとそれに対応する第1のパンチとによって軸体の側面に半加工係止突起を形成する第1の工程と、第2のダイとそれに対応する第2のパンチとによって前記第1の工程において形成した半加工係止突起を扁平に押し広げる第2の工程とにより、軸体の側面に、軸体の軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げた係止突起を有してなるインサート金具を製造することを特徴とするものである。
【0014】
さらにまた、本発明に係るインサート金具の製造方法は、第1の工程における第1のダイは、軸状材料が挿入可能な受け孔を有し、該受け孔は、その内周壁に奥部から入り口側に向かう突起形成用突部を備え、第1のパンチは軸状材料を第1のダイに押し込む棒状のものであって、軸状材料を第1のダイの受け孔に挿入して第1のパンチにより軸状材料を第1のダイの受け孔方向に押圧することにより、突起形成用突部が軸状材料の側面を寄せ上げて隆起させ、これにより側面に半加工係止突起を形成した半加工軸状材料を形成し、第2の工程における第2のダイは、前記の半加工軸状材料が挿入可能で、半加工係止突起を受け止める周縁部で囲まれた受け孔を有し、第2のパンチは半加工係止突起を押圧する押圧部を有しており、第2のダイに半加工軸状材料を挿入して第2のパンチにより第2のダイの受け孔方向に半加工軸状材料を押圧することにより、半加工軸状材料の半加工係止突起が、第2のダイの周縁部と第2のパンチの押圧部との間に挟まれて、半加工軸状材料の軸芯と交差する方向に扁平に押しつぶされ、以上の工程により、半加工軸状材料の側面に、半加工軸状材料の軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げた係止突起を有してなるインサート金具を製造することを特徴とするものである。
【0015】
上記のように構成したことにより、係止突起が軸状材料の側面を寄せ上げて隆起させただけではなく、軸体の軸芯と交差する方向に押し広げた扁平な係止突起とすることにより、係止突起が拡大される。
【0016】
なお、本発明における「軸体」は、軸状材料、半加工軸状材料、インサート金具等の軸芯を有する軸の上位概念とする。また、本発明における「軸状材料」とは、中実の軸状材料を含むことは勿論のこと、筒状をなす中空の軸状材料を含む。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係るインサート金具及びその製造方法によれば、その拡大された係止突起により、軸状材料として薄肉の中空軸を採用しても、抜け止め効果及び回り止め効果がより一層優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかるインサート金具を形成するための軸状材料を示し、図中(a)は斜視図、図中(b)は平面図、図中(c)は中央縦断面図、図中(d)は底面図である。
【図2】第1の工程における第1のダイと第1のパンチとの内部構造図である。
【図3】第1の工程において、軸状材料に半加工係止突起が形成される箇所における第1のダイと第1のパンチとの断面を示す一部省略断面図である。
【図4】図3に示す状態において、第1のダイに第1のパンチを押し込んで軸状材料に半加工係止突起が形成された箇所における一部省略断面図である。
【図5】第1の工程において、軸状材料に半加工係止突起が形成されない箇所における第1のダイと第1のパンチとの断面を示す一部省略断面図である。
【図6】図5に示す状態において、第1のダイに第1のパンチを押し込んで軸状材料に半加工係止突起が形成されなかった箇所における一部省略断面図である。
【図7】第1の工程により半加工係止突起が形成された半加工軸状材料を示し、図中(a)は斜視図、図中(b)は平面図、図中(c)は中央縦断面図、図中(d)は底面図である。
【図8】第2の工程における第2のダイと第2のパンチとの内部構造図である。
【図9】第2の工程において、半加工軸状材料に係止突起が形成される箇所における第2のダイと第2のパンチとの断面を示す一部省略断面図である。
【図10】図9に示す状態において、第2のダイに第2のパンチを押し込んで半加工軸状材料に係止突起が形成される直前の箇所における一部省略断面図である。
【図11】図10に示す状態において、第2のダイに第2のパンチを押し込んで半加工軸状材料に係止突起が形成された箇所における一部省略断面図である。
【図12】第2の工程により係止突起が形成されたインサート金具を示し、図中(a)は斜視図、図中(b)は平面図、図中(c)は中央縦断面図、図中(d)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態にかかるインサート金具の製造方法について、添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0020】
本実施例におけるインサート金具の製造方法は、クランクプレスの一種である圧造成型機(いわゆる、フォーマー)を使用して金属製の軸状材料を加工する製造方法であり、クランクシャフトを介して往復運動するラムに取り付けた稼働側のパンチと、パンチの押圧力を受けるダイブロックに取り付けた静止側のダイとで、ダイに配した軸状材料をパンチによる押圧力により成形加工を行うものである。なお、フォーマーを使用せず、パンチとダイとによりプレス加工する方法であればよい。
【0021】
図1に示す軸状材料Aは、軸芯を中心とした中央部を貫通する貫通穴A1を有する中空軸状をなす円筒体である。当該軸状材料Aは、下記に詳述する第1の工程に先立って、公知のダイ及びパンチを備えたフォーマーにより形成し、同じくフォーマーに組み込まれている第1の工程及び第2の工程に移行するようになっている。なお、中空軸状ではなく、中実軸状であってもよい。
【0022】
以下、この軸状材料Aを使用し、第1の工程において半加工係止突起を形成した半加工軸状材料Bを製造する方法について説明する。なお、この工程における半加工係止突起B1を形成するまでの製造方法は、特開平4−91843号公報に詳細に説明されている。
【0023】
図2は、第1の工程における第1のダイ及び第1のパンチの全体構成を示す。図2において、10はダイブロックであり、11はダイブロック10に取り付けられた第1のダイであり、20は第1のパンチである。第1のダイ11と第1のパンチ20との間に挟まっているのが半加工軸状材料Bである。
【0024】
第1のダイ11は、図3に示すように、軸状材料Aが挿入可能な円形内周面を有する受け孔12を有し、該受け孔12は、その内周壁13に奥部から入り口側に向かう突起形成用突部14を備えている。この突起形成用突部14は、これを備えている部分と備えていない部分とが交互になっており、突起形成用突部14を備えている部分により軸状材料Aに半加工係止突起B1が形成される。第1のパンチ20は、軸状材料Aを第1のダイ11に押し込む押圧部21を備えている。
【0025】
そして、第1のダイ11の受け孔12に軸状材料Aを挿入配置し、第1のパンチ20の押圧部21により軸状材料Aを第1のダイ11の受け孔方向に押し込んで押圧することにより、図4に示すように、突起形成用突部14が軸状材料Aの側面を寄せ上げて隆起させ、これにより、軸状材料Aの側面に半加工係止突起B1が形成される。一方、図5に示すように、突起形成用突部14を備えていない部分については、図6に示すように、第1のパンチ20の押圧部21により軸状材料Aが第1のダイ11の奥部に押し込まれるだけで、軸状材料Aの側面には半加工係止突起B1が形成されない。このようにして、図7に示すように、軸状材料Aは、その側面に軸芯と交差する方向に突出させた半加工係止突起B1が交互に形成された半加工軸状材料Bが製造される。
【0026】
図8は、第2の工程における第2のダイ及び第2のパンチの全体構成を示す。図8において、30はダイブロックであり、31はダイブロック30に取り付けられた第2のダイであり、40は第2のパンチである。第2のダイ31と第2のパンチ40との間に挟まっているのが製造目的物であるインサート金具Cである。
【0027】
第2のダイ31は、図8に示すように、受け孔32を有している。該受け孔32は、図9に示すように、前記の半加工軸状材料Bが挿入可能で、半加工係止突起B1を受け止める周縁部33で囲まれている。第2のパンチ40は、該受け孔32に挿入可能であって半加工係止突起B1を押圧する押圧部41を有している。
【0028】
そして、図10に示すように、第2のダイ31の受け孔32に半加工軸状材料Bを挿入して第2のパンチ40により挟み込み、さらに図11に示すように第2のパンチ40の押圧部41を第2のダイ31の受け孔32の方向に押圧することにより、半加工軸状材料Bの半加工係止突起B1が、第2のダイ31の周縁部33と第2のパンチ40の押圧部41との間に挟まれながら半加工軸状材料Bの軸芯と交差する方向に扁平に押しつぶされ、これによって半加工軸状材料Bの側面に形成されていた半加工係止突起B1が、半加工軸状材料Bの軸芯と交差する方向に扁平に押し広げた係止突起C1に変形する。これによって、図12に示すように、軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げた係止突起C1を有してなるインサート金具Cが製造される。
【0029】
以上の第2の工程を経た結果、図7に示す半加工軸状材料Bにおける半加工係止突起B1が、図12のインサート金具Cにおける係止突起C1のように拡大され、したがって、この拡大された係止突起C1により、軸状材料として薄肉の中空軸を採用しても、抜け止め効果及び回り止め効果がより一層優れたものとなる。
【0030】
なお、本発明に係るインサート金具及びその製造方法は、上記の実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を逸脱しない範囲における様々な実施形態が可能である。
【符号の説明】
【0031】
A……軸状材料 A1…貫通穴
10…ダイブロック 11…第1のダイ
12…受け孔 13…内周壁
14…突起成形用突部
20…第1のパンチ 21…押圧部
B……半加工軸状材料 B1…半加工係止突起
30…ダイブロック 31…第2のダイ
32…受け孔 33…周縁部
40…第2のパンチ 41…押圧部
C……インサート金具 C1…係止突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体の側面に、軸体の軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げた係止突起を有してなることを特徴とするインサート金具。
【請求項2】
第1のダイとそれに対応する第1のパンチとによって軸体の側面に半加工係止突起を形成する第1の工程と、第2のダイとそれに対応する第2のパンチとによって前記第1の工程において形成した半加工係止突起を扁平に押し広げる第2の工程とにより、軸体の側面に、軸体の軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げた係止突起を有してなるインサート金具を製造することを特徴とするインサート金具の製造方法。
【請求項3】
第1の工程における第1のダイは、軸状材料が挿入可能な受け孔を有し、該受け孔は、その内周壁に奥部から入り口側に向かう突起形成用突部を備え、第1のパンチは軸状材料を第1のダイに押し込む棒状のものであって、軸状材料を第1のダイの受け孔に挿入して第1のパンチにより軸状材料を第1のダイの受け孔方向に押圧することにより、突起形成用突部が軸状材料の側面を寄せ上げて隆起させ、これにより側面に半加工係止突起を形成した半加工軸状材料を形成し、
第2の工程における第2のダイは、前記の半加工軸状材料が挿入可能で、半加工係止突起を受け止める周縁部で囲まれた受け孔を有し、第2のパンチは半加工係止突起を押圧する押圧部を有しており、第2のダイに半加工軸状材料を挿入して第2のパンチにより第2のダイの受け孔方向に半加工軸状材料を押圧することにより、半加工軸状材料の半加工係止突起が、第2のダイの周縁部と第2のパンチの押圧部との間に挟まれて、半加工軸状材料の軸芯と交差する方向に扁平に押しつぶされ、
以上の工程により、半加工軸状材料の側面に、半加工軸状材料の軸芯と交差する方向に突出し、かつ、扁平に押し広げた係止突起を有してなるインサート金具を製造することを特徴とするインサート金具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−55903(P2012−55903A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198944(P2010−198944)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(510240125)株式会社サンテックパーツ (1)
【Fターム(参考)】