説明

インシュレーションゴム組成物、空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法

【課題】ユニフォミニティに優れた空気入りタイヤが提供できるビードインシュレーションゴム組成物の提供。
【解決手段】加硫剤を含み加硫可能で、未加硫時におけるJIS硬度Aが室温下70〜99、加硫時におけるJIS硬度Aが室温下90〜99であり、前記ビードワイヤを被覆する工程での温度における未加硫時のムーニー粘度が60以下であることを要旨とする。未加硫時、室温における硬度を大きくしているので、製造工程時にビードコアに捻り方向の外力が加わってもビードワイヤの配列に対する影響が少なくなり、本来発揮すべき性能が発揮できる。また、加硫後の硬度も適正にすることで最終的に空気入りタイヤに適用した場合に充分に高い性能が発揮できる。更に未加硫時におけるムーニー粘度を60以下にすることで、未加硫時における成形性・取扱性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのビードコアのビードワイヤを包囲するインシュレーションゴム組成物に関し、そのインシュレーションゴム組成物を採用した空気入りタイヤ並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な空気入りタイヤにおけるビードコアとしては、所謂、ストランドビードや六角ビードなどが知られている。ストランドビードは複数本のビードワイヤを長手方向に平行に並べてインシュレーションゴム組成物にて被覆したリボン状ストリップを複数回巻回して製造される。六角ビードはインシュレーションゴム組成物にて被覆した1本のビードワイヤを所望の断面形状(例えば、六角形状)になるように連続して複数回巻回して製造される。
【0003】
ここで、図6及び7に示すように、生タイヤを加硫成型する際には、加硫金型に入れて、内部に圧力Pを加えながら加熱する。生タイヤは内部からの圧力によって金型に密着する。この際に、ボディプライ101が変形してビード部102が矢印Zで示すように相対的に移動する。
【0004】
なお、図6には、理解を容易にするために、タイヤとしてボディプライ101、ビード部102、ビードフィラー107のみが描かれているが、実際にはインナーライナー、サイドウォール、トレッド等のタイヤ躯体を有する。この加硫時には、前記圧力Pにより、ビード部102におけるボディプライ101のタイヤ内腔側の部分101aは、トレッドへ向かう方向(矢印X方向)へ移動させられ、外側(折り返し側)の部分101bは、前記タイヤ内腔側の部分101aとは反対の方向(矢印Y方向)へ移動させられる。
【0005】
従って、このボディプライ101の移動に伴い、ビードコア104全体に対して断面略中心回りの捩り回転運動が生じるので、ビードコア104を形成する各ビードワイヤ100の加硫後の配列状態は、加硫前の配列状態から乱れることとなる。ビードワイヤ100の配列状態に乱れが生じると、タイヤのユニフォミニティを充分に高いものにすることが困難になる。
【0006】
ビードワイヤの配列の乱れを抑制する従来技術としては、図7に示すように、ビードコア104をコードカバー106によって被覆したビードが知られている。そして、この図7に示した従来のビードにおいて、ビードコアの外周面にコードカバーをその幅端部が重なるように巻き付けたビードにおいて、前記コードカバーの幅端部の重ね合わせ部が、ビードコアの内径側に位置するように構成するものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−175180号公報(第3頁、図3、4)
【特許文献2】特開平7−26067号公報(第2頁の0003〜0005段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のビードコアにおいてはコードカバーによるビードコアの被覆を行う工程が煩雑である問題がある。また、コードカバーを設けた場合でもビードコアに外力が加わるとビードコア自身は変形してビードワイヤの配列が乱れるおそれがあった。
【0008】
ここで、タイヤのビード部は繊維や鋼線からなるプライコードの端部を巻き付けて固定すると共に、タイヤの内周寸法を規定し、タイヤの操縦安定性を高め、ビードコア形状を設計通りに維持して、リムとのフィットネスを高める重要部分である。これら目標を達成することを目的として、製品状態において高硬度のビードフィラーやビードインシュレーションゴム組成物が配設されている。
【0009】
ビードインシュレーションゴム組成物は、ゴム硬度を高めるために、硫黄、カーボンブラックを多量に配合している。その結果、加硫後のゴム硬度としてはJIS硬度Aが90を超えるものも存在する。しかし、ビードワイヤへのゴム被覆の工場における作業性の問題からカーボンブラックの配合量には限度があり、特許文献2に見られるように、未加硫ゴムの粘度を抑えながら、加硫後のゴムの硬度を上げる検討が行われている。
【0010】
タイヤの製造工程においてタイヤの性能に及ぼす硬度としては、以下に示す3つの段階における硬度が考えられる。
【0011】
1.未加硫ゴムの室温近傍での硬度
ゴム放置時、各工程作業初期に影響する硬度で、作業初期のゴム熱入れ作業性に影響を及ぼす。
【0012】
2.未加硫ゴムの100℃近傍での硬度
圧延、押出工程でのゴムの流動性を決める硬度で、工場での製品製造上での作業性に大きく影響を及ぼす。例えば、インシュレーションゴム組成物にてビードワイヤを被覆する作業を行う工程の作業性に影響を与える。
【0013】
3.加硫後の硬度
製品タイヤ性能に大きく影響を及ぼす。
【0014】
従来技術におけるビードインシュレーションゴム組成物における硬度の検討は上述の2.及び3.の硬度に限られており、ユニフォミニティや操縦安定性の向上には限界があることを本発明者らは発見した。
【0015】
つまり、未加硫時硬度の値が小さいとビードコアの形状が乱れ、設計形状とは異なる形状になる箇所が周方向上に幾つも存在することで、周方向の均一性が低下して、ユニフォミニティやリムとのフィットネスが低下することになると考えられる。
【0016】
本発明は上記実情に鑑み完成されたものであり、ビードコアに適用することで、空気入りタイヤの製造工程においてビードコアのビードワイヤの配列が乱れ難いインシュレーションゴム組成物を提供することを解決すべき課題とする。また、そのインシュレーションゴム組成物を採用したビードコアをもち、ユニフォミニティに優れた空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行い以下の知見を得た。すなわち、製造工程中、ビードコアに捩れ方向の外力が加わるときの硬度を大きくすることで、ビードコアに発生する捩れの絶対量を小さくしてビードワイヤの配列乱れ発生を抑制するものである。ここで、製造工程中、ビードコアに対して捩れ方向の外力が加わるときの温度としては生タイヤを成形後、加硫を行うことを目的として加硫金型内にて加圧ガスを注入するときである。従って、ビードコアの温度は室温乃至室温から僅かに加熱された程度の温度であるので、室温近傍の硬度を大きくするものとした。
【0018】
つまり、従来技術におけるインシュレーションゴム組成物は、室温における硬度を考慮することなく組成を決定しているので、成形性などを向上する目的で含有させていた軟化剤などの影響で室温における硬度が小さくなっていた。そのため、空気入りタイヤの製造工程においてビードコアに加わる外力による変形が大きくなっていた。
【0019】
このように未加硫時において室温下の硬度を適正範囲に制御した上で、ビードワイヤの被覆などの作業性を考慮して、加熱した場合の粘度を小さくすることで原料の取り扱いやビードワイヤのインシュレーションゴム組成物による包囲が容易になる。
【0020】
以上説明したように、ビードワイヤを被覆する工程(例えば100℃〜130℃程度に加熱)においては軟化乃至流動化して容易にビードワイヤの周りを被覆できるようにした上で、室温付近では高い硬度を保ち外力による変形を抑制し、更に高い温度での加熱によって加硫が進行する材料を採用することで、加硫初期におけるビード乱れを抑制してタイヤのユニフォミニティを向上し、ビードワイヤの被覆を容易に行うことができ、充分な加硫により硬度が上昇して操縦安定性やリムへのフィットネスが向上できる。
【0021】
本発明のインシュレーションゴム組成物は上記知見に基づき完成したものであり、請求項1に記載の発明においては、加硫剤を含み加硫可能なゴム組成物であって、未加硫時におけるJIS硬度Aが室温下70〜99、加硫時におけるJIS硬度Aが室温下90〜99であって、前記ビードワイヤを被覆する工程での温度における未加硫時のムーニー粘度が60以下であることを要旨とする。
【0022】
室温近傍における具体的な硬度は「JIS硬度A」として測定された測定値である。本明細書中における「JIS硬度A」とはJIS K6253に準じ、A型デュロメータを用い、押針の押し込み深さから決定される硬度である。試験試料は標準試料を用いた。更に、本明細書中における「室温」とは25℃を示す。
【0023】
そして、未加硫時の粘度は「ムーニー粘度」として測定された値である。本明細書における「ムーニー粘度」はJIS K6300−1に準じて測定した値(ML(1+4))である。つまり、L形ロータを用い、予熱時間を1分間、ロータの回転時間を4分間、所定の試験温度での試験条件にて測定した値である。試験装置としてはSMV−201(島津製作所製)を用いた。
【0024】
請求項2に記載の発明においては、請求項1において、前記ゴム組成物が、融点及び/又は軟化点が室温超、前記ビードワイヤを被覆する工程での温度未満である特性改善材料を含むことを要旨とする。
【0025】
前記特性改善材料としては、請求項3に記載の発明のように、質量基準で50%以上のスチレンを含むSBR(スチレン・ブタジエンゴム)であるスチレン高含有SBRや、請求項6に記載の発明のように、前記特性改善材料としては熱硬化性樹脂を例示することができる。前記スチレン高含有SBRは、請求項4に記載のように、構成材料のうちのゴム成分全体の質量を基準として、30質量%以上含有させることや、請求項5に記載のように、構成材料のうちのゴム成分全体の質量を基準として50%以下含有させることが望ましい。
【0026】
ここで、「構成材料のうちのゴム成分全体の質量」とは本発明のインシュレーションゴム組成物中に含有される構成材料のうちでゴム成分に分類される材料の質量で判断する。具体的には加硫促進剤、軟化剤、酸化防止剤、補強剤、充填材などの添加剤の質量を除外したもので判断する。
【0027】
上記課題を解決する請求項7に記載の本発明の空気入りタイヤは、請求項1〜6のいずれかに記載のビードインシュレーションゴム組成物を加硫した加硫後インシュレーションゴム組成物と、該加硫後インシュレーションゴム組成物にて包囲されるビードワイヤとをもつビードコアを有することを要旨とする。
【0028】
上記課題を解決する請求項8に記載の本発明の空気入りタイヤの製造方法は、請求項1〜6のいずれかに記載のビードインシュレーションゴム組成物と該ビードインシュレーションゴム組成物にて包囲されたビードワイヤとからなるビードコアを形成する工程と、
前記ビードコアをもつ生タイヤを成形する工程と、
前記生タイヤ内に加圧ガスを注入した状態で加熱することで加硫する加硫工程とを有する空気入りタイヤの製造方法であって、
前記生タイヤ成形工程後、前記加硫工程前に、前記ビードインシュレーションゴム組成物が軟化する温度以上、前記加硫が進行する温度未満に加熱しながら該生タイヤ内に前記加圧ガスを注入する工程を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に係るビードインシュレーションゴム組成物は、未加硫時、室温における硬度を大きくしているので、製造工程時におけるボディプライなどの変形によりビードコアに捻り方向の外力が加わってもビードワイヤの配列に対する影響が少なくなって、ビードコアが本来発揮すべき性能が発揮できるようになる。また、加硫後の硬度も適正にすることで最終的に空気入りタイヤに適用した場合に充分に高い性能を発揮することができる。更に前記ビードワイヤを被覆する工程での温度における未加硫時のムーニー粘度が60以下であることにより、未加硫時におけるビードワイヤ製造工程におけるワイヤへの被覆操作における作業性に優れることになる。
【0030】
請求項2に係るビードインシュレーションゴム組成物は、前記ゴム組成物が、融点及び/又は軟化点が室温超、前記ビードワイヤを被覆する工程での温度未満である特性改善材料を含むことを要旨とすることで、ビードコアに発生する捩れ低減と被覆操作における作業性とを両立することができる。
【0031】
請求項3に係るビードインシュレーションゴム組成物は、請求項2に係るビードインシュレーションゴム組成物における前記特性改善材料が、質量基準で50%以上のスチレンを含むSBRであるスチレン高含有SBRであるので、空気入りタイヤに採用されるゴム成分との間における親和性に優れており、信頼性が高い空気入りタイヤを提供できる。
【0032】
請求項4に係るビードインシュレーションゴム組成物は、前記スチレン高含有SBRが構成材料のうちのゴム成分全体の質量を基準として、30質量%以上含有することで、加硫前後の室温における硬度を適正な範囲に制御することができる。更に、請求項5に係るビードインシュレーションゴム組成物は、前記スチレン高含有SBRを含有させる量の上限を全体の質量を基準として50%以下にすることで、充分な効果が発揮できる硬度を保ちながら適度な柔軟性を保つことが可能になる。
【0033】
また、請求項6に記載のビードインシュレーションゴム組成物は、前記特性改善材料が熱硬化性樹脂であるので、室温における未加硫時硬度と被覆作業時におけるムーニー粘度とを両立できるばかりではなく、加硫後に熱硬化性樹脂自身も硬化させることで、加硫後硬度を制御できる幅が大きくなる。
【0034】
請求項7に係る空気入りタイヤは、請求項1〜6のいずれかに係るビードインシュレーションゴム組成物を加硫した加硫後インシュレーションゴム組成物と、該加硫後インシュレーションゴム組成物にて包囲されるビードワイヤとをもつビードコアを有することで、その製造過程において生ずるビードワイヤの配列乱れ発生が低減され、設計された所望の性能の実現が可能になる。
【0035】
請求項8に係る空気入りタイヤの製造方法は、請求項1〜6のいずれかに係るビードインシュレーションゴム組成物と該ビードインシュレーションゴム組成物にて包囲されたワイヤとからなるビードコアを形成する工程と、
前記ビードコアをもつ生タイヤを成形する工程と、
前記生タイヤ内に加圧ガスを注入した状態で加熱することで加硫する加硫工程とを有する空気入りタイヤの製造方法であって、
前記生タイヤ成形工程後、前記加硫工程前に、前記ビードインシュレーションゴム組成物が軟化する温度以上、前記加硫が進行する温度未満に加熱しながら該生タイヤ内に前記加圧ガスを注入する工程を有することで、その製造過程において生ずるビードワイヤの配列乱れ発生が低減され、設計された所望の性能の実現が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(インシュレーションゴム組成物)
以下、本発明のビードインシュレーションゴム組成物について実施形態に基づき詳細に説明する。本実施形態のビードインシュレーションゴム組成物は空気入りタイヤのビードコアにおけるビードワイヤを包囲してビードワイヤの間の間隙を充填する部材である。
【0037】
本実施形態のビードインシュレーションゴム組成物は加硫可能なゴム組成物であり加硫剤を含む。含有されているゴム成分としては特に限定しないが、天然ゴム、SBR、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム(ハロブチルゴム)、架橋ポリエチレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムが例示でき、これらのゴム成分を1種で又は2種以上混合して用いることができる。加硫剤としては特に限定されず、硫黄や、過酸化物などの一般的な加硫剤を採用可能である。更に、加硫促進剤、軟化剤、酸化防止剤、補強剤、充填材などの添加剤を含有させることができる。
【0038】
そして、未加硫時におけるJIS硬度A(以下、「未加硫時硬度」と称する)が室温下で70以上であり75以上更には78超であることが望ましい。そして、未加硫時硬度は取扱性向上の観点から99以下であり、95以下であることが望ましく、93以下であることがより望ましく、90以下であることが更に望ましい。加硫後のJIS硬度A(以下、「加硫後硬度」と称する)が90〜99であり、95以下であることが望ましい。
【0039】
そして、ビードワイヤを被覆する工程での温度における未加硫時のムーニー粘度が60以下である。ムーニー粘度がこれらの範囲内にあると、ビードワイヤへの被覆作業性が高くなる。ここで、被覆作業を行う温度としては室温超、加硫温度未満であれば特に限定しないが、ゴム焼けなどの問題を避けるために110℃以下の温度範囲にて被覆作業を行うことが望ましい。更に、ムーニー粘度は58以下、55以下にすることもできる。ムーニー粘度がこの範囲内であると、優れた成形性を示す。
【0040】
室温下における未加硫時硬度及び加硫後硬度を適正な範囲に制御する方法としては特に限定しないが、インシュレーションゴム組成物中に融点及び/又は軟化点(以下、「融点等」と称する)が室温超、加硫温度未満(望ましくはビードワイヤを被覆する工程での温度未満、例えば70℃未満)である特性改善材料を含ませることでも実現できる。つまり、この特性改善材料は単なる軟化剤とは異なり、室温においては軟化させる作用は発揮せず、室温においては融点などに達していないので高い硬度を保つことができ、加熱することで融点などに到達して柔らかくなって被覆の作業性が向上する。ここで、70℃とは未加硫時における成型操作を行う温度の下限として想定される温度である。例えば、インシュレーションゴム組成物にてビードワイヤを包囲するときの成形操作を行う温度として110℃を採用することができる。
【0041】
特性改善材料としてはスチレンの含有量が高いSBR(本明細書においては、「スチレン高含有SBR」と称する)であるスチレン高含有SBRや熱硬化性樹脂が例示される。
【0042】
スチレン高含有SBRは、SBRにおける共重合体組成のうち、スチレンの含有量を高くしたことで融点以下の温度である室温下における硬度が向上できる。スチレン高含有SBRは空気入りタイヤを構成するゴム組成物との親和性が高い上、空気入りタイヤに要求される特性を有するので望ましい。
【0043】
スチレン高含有SBRは、例えば、全体の質量を基準としてスチレンを50%以上含有する(望ましくは60%以上、更に望ましくは80%以上)ものである。スチレン高含有SBRは組成物に含まれるゴム成分全体の質量を基準として30%以上(更には40%以上)含有させることが望ましい。スチレン高含有SBRの含有量の上限としては特に限定しないが、組成物全体の質量を基準として50%程度を採用することができる。50%程度以下の含有量であっても室温下の未加硫時硬度を充分に高いものにすることができるからである。
【0044】
熱硬化性樹脂は特に限定されないが、特に加硫時の加熱により硬化する材料、すなわち、熱硬化温度が加硫操作を行う温度以下の温度である熱硬化性樹脂を採用することが望ましい。加硫時に硬化する熱硬化性樹脂を採用することで、加硫後の安定性、耐久性などが向上できる。更には、ビードワイヤを包囲するときなどのような、未加硫時の成型操作時などにおいては硬化が進行しないように、硬化温度がその成型操作時の温度よりも高い熱硬化性樹脂を採用することが望ましい。熱硬化性樹脂の種類としては特に限定されないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタンなど一般的な熱硬化性樹脂から融点を考慮して選択することができる。特にフェノール樹脂を採用することが望ましく、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ノボラック型レゾルシン樹脂が挙げられる。
【0045】
特性改善材料としては、スチレン高含有SBR、熱硬化性樹脂を採用する以外にも、室温下における未加硫時硬度を大きくする目的を実現するにはブタジエンと一般的な熱可塑性樹脂を構成する単量体との共重合体を採用することも考えられる。
【0046】
これらの特性改善材料は単独で本実施形態のインシュレーションゴム組成物中に含ませることが可能であるほか、複数種類を混合して含ませることも可能である。
【0047】
(空気入りタイヤ及びその製造方法)
本発明の空気入りタイヤについて、空気入りラジアルタイヤに係る実施形態に基づき以下詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態の空気入りラジアルタイヤ11は、ボディプライ16に沿ってトレッド部12と、そのトレッド部12の両端部のそれぞれに連なりサイド部を構成するサイドウォール部13と、そのサイドウォール部13のタイヤ内径側に連なるビード部14とを備えている。そして、このラジアルタイヤ11は両側のビード部14において、車両のホイールのリム15のリムフランジ15aに嵌合装着されるようになっている。
【0048】
トレッド部12は、スチールコードよりなる2枚のベルト17及び周方向に巻回添着された1枚のキャップベルト18を配置することによって補強されている。
【0049】
また、トレッド部12の両側のショルダ部は、ショルダプライ19を周方向に巻回添着することによって補強されている。両ビード部14にはビードコア30が埋設配置され、そのビードコア30は、上述の本実施形態のインシュレーションゴム組成物にて被覆されたビードワイヤ23を内径側から3回、4回、5回、4回、そして3回の順に巻回積層して断面六角形としたものである。
【0050】
ビードワイヤ23は鋼線の周囲に上述したインシュレーションゴム組成物を被覆したものである。この被覆作業は室温超、加硫温度未満に加熱して行う。例えば、インシュレーションゴム組成物を鋼線と共に押し出し成型することで被覆作業を行うことができる。
【0051】
各ビードコア30のタイヤ外径側には硬質ゴムよりなる断面ほぼ三角形状のビードフィラー21が添着配置されている。そして、ボディプライ16の両端部がビードコア30及びビードフィラー21の外周面に沿って折り返されて、ボディプライ16によりビード30が包被されている。
【0052】
さて、加硫が行われる前には、図2に示すように、加硫金型(図略)に生タイヤを入れ、加熱しながら生タイヤ内部に圧力Pが加えられる(加圧ガス注入工程)と共に、矢印Cで示すように、全体がタイヤ形状をなすようにビード部14(ビードコア30)が狭められる。なお、図2においてはボディプライ16とビード部14との記載を省略して示している。
【0053】
従って、ビード部14が矢印Cで示す方向に移動すると共に、ビード部14におけるボディプライ16のタイヤ内腔側の部分16aは、トレッド部12へ向かう方向(矢印A方向)へ移動させられる。このため、ボディプライ16の外側(折り返し側)の部分16bは前記タイヤ内腔側の場合とは反対の方向(矢印B方向)へ移動させられる。従って、このボディプライ16の移動に伴い、ビードコア30に断面略中心回りに捩り回転運動が生じる。
【0054】
しかしながら、ビードコア30を構成する部材のうちのインシュレーションゴム組成物の未加硫時硬度が高いので変形が抑制されてビードワイヤ23の配列状態の乱れ発生が防止できる。その後、生タイヤを加熱することで加硫が完了する(加硫工程)。
【実施例】
【0055】
(ビードインシュレーションゴム組成物の調製)
表1に示す組成にて種々のゴム組成物を常法にて調製し各試験例のビードインシュレーションゴム組成物とした。それぞれ各試験例のビードインシュレーションゴム組成物には、更に、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン製)を100質量部、軟化剤を25質量部、炭酸カルシウムを25質量部、タルクを10質量部、ステアリン酸を2質量部、亜鉛華を5質量部、加硫化剤としての硫黄を8質量部、加硫促進剤を1質量部を添加した。なお、試験例10のビードインシュレーションゴム組成物が従来技術の組成を示す。
【0056】
ここで、ハイスチレンSBRとはスチレン高含有SBRの1つであり、ハイスチレンSBR(1)が日本ゼオン製、Nipol2057SS(スチレン含有量65%)、ハイスチレンSBR(2)が日本ゼオン製、Nipol2007J(スチレン含有量85%)である。熱硬化性樹脂(3)とは、スミライトレジンPR217(住友ベークライト製;フェノール樹脂)を用いた。表1に示す組成はすべて質量部である。
【0057】
【表1】

(試験及び結果)
・ユニフォミニティ:RFV値(低速UNIF及び高速UNIF)の測定
自動車規格JASO C607の「自動車タイヤのユニフォミニティ試験方法」に準じて測定した。具体的には各試験例のビードインシュレーションゴム組成物にて被覆したビードワイヤを用いて製造したビードコアを用いて製造したタイヤサイズ215/45ZR17の空気入りラジアルタイヤについて試験を行った。試験条件としては内圧0.2MPa、荷重1903N、速度7km/h(低速UNIF)、128km/h(高速UNIF)とした。
・加硫前後のJIS硬度Aの測定
未加硫時硬度は調製したインシュレーションゴム組成物に対して加硫を行う前に測定を行い、加硫後硬度は調製したインシュレーションゴム組成物を空気入りタイヤの製造時と同様の条件にて加硫した後のインシュレーションゴム組成物について測定を行った。
【0058】
測定方法としてはJIS K6253に準じ、A型デュロメータを用い、押針の押し込み深さから決定した。試験装置としてはA型硬度計(ASKER製)を用い、測定温度は室温(25℃)とした。
・ビード部におけるビードワイヤ配列の乱れ
ユニフォミニティ試験と同様の空気入りラジアルタイヤについて、ビード部の断面を4箇所目視にて観察を行った。設計値通りのビードワイヤの配列が実現される場合には5、従来技術(試験例10)のインシュレーションゴム組成物を採用した空気入りラジアルタイヤにおける配列乱れを1として5段階にて評価した。
・ムーニー粘度の測定
各試験例のビードインシュレーションゴム組成物について未加硫時に測定を行った。具体的には、JIS K6300−1に準じて測定した値(ML(1+4)130℃)を採用した。試験装置としてはSMV−201(島津製作所製)を用いた。
【0059】
測定結果を表2並びに図3〜5に示す。
【0060】
【表2】

表2より明らかなように、本試験例のビードインシュレーションゴム組成物はすべて適正なムーニー粘度を有しており、ビードワイヤの被覆作業が容易であった。また、加硫後硬度としては従来技術のビードインシュレーションゴム組成物(試験例10)よりも大きな値を示しており、空気入りタイヤに適用可能な充分な硬度を発揮できることが分かった。特に、試験例1〜9、11及び12は加硫後硬度が90以上と非常に大きな値を示した。
【0061】
表2並びに図3〜5より明らかなように、未加硫時硬度の値とユニフォミニティ及びビードワイヤ配列との間には良い相関が認められた。加硫後硬度及びムーニー粘度と各測定値との間には未加硫時硬度のような顕著な相関が認められなかった。
【0062】
図3及び4より明らかなように、未加硫時硬度の値が大きいほどユニフォミニティ性に優れることが分かった。低速UNIFにおいては未加硫時硬度の値が70付近に臨界値が存在することが明らかであり、未加硫時硬度の値が70以上(更には75以上)になるとユニフォミニティ性に優れることが分かった。同様に、高速UNIFにおいても未加硫時硬度の値が70付近と78付近に臨界値が存在することが明らかであり、未加硫時硬度の値が70以上(更には78超)になるとユニフォミニティ性が優れることが分かった。
【0063】
この要因としては、図5より明らかなように、未加硫時硬度の値とビードワイヤ配列の乱れの大きさの値との関係が、ほぼ直線的であることが挙げられる。つまり、未加硫時硬度の値が大きくなるとビードワイヤの配列乱れが少なくなって設計通りの配列に近づくことで、ビード部とリムとの密着性が向上してユニフォミニティが向上するものと考えられる。
【0064】
ここで、ユニフォミニティの値が望ましい範囲となった未加硫時硬度の値が70以上の範囲を示す試験例は、試験例1〜9であった。試験例1〜9の組成から明らかなように、スチレン高含有SBR及び熱硬化性樹脂の配合量は樹脂由来の成分(天然ゴム、SBR1500、ハイスチレンSBR(1)及び(2)、熱硬化性樹脂)の質量を基準として、30質量%(以下「PHR」と称する)以上であることが望ましいことが分かった。
【0065】
その中でも、試験例2、3、4及び9は、未加硫時硬度の値が90〜95と非常に大きくユニフォミニティ性に非常に優れることが明らかになった。この中でも試験例2及び3は未加硫時硬度の値が90と未加硫時における取扱性にも優れていた。
【0066】
つまり、ハイスチレンSBR(1)は40PHR含有させることが望ましく、ハイスチレンSBR(2)は30PHR含有させることが望ましいことが分かった。両者の適正含有量の相違はそれぞれのスチレン含有量が異なることに起因するものと考えられる。つまり、ハイスチレンSBR(2)がハイスチレンSBR(1)よりもスチレンを多く含有することからスチレン含有の硬化が低い量から発揮されたものと考えられる。
【0067】
また、試験例7及び8の結果から分かるように、ハイスチレンSBRは熱硬化性樹脂と合わせて使用する場合であっても30PHR以上含有させることでユニフォミニティ性に優れることが分かった。
【0068】
なお、ハイスチレンSBR(1)を30質量部PHR含有させている試験例1ではユニフォミニティ性に優れ且つ高い未加硫時硬度を示すのに対して、ハイスチレンSBR(1)を20PHRしか含有しない試験例11では未加硫時硬度の値が65となり充分なユニフォミニティ性を得られなかった。また、ハイスチレンSBR(1)が10PHR、熱硬化性樹脂(3)が10PHRで合わせて20PHR含有させている試験例14でも未加硫時硬度の値が60になって充分なユニフォミニティ性を得られなかった。
【0069】
ハイスチレンSBR(2)及び熱硬化性樹脂についても同様であって、ハイスチレンSBR(2)を20PHRしか含有しない試験例12、熱硬化性樹脂(3)を約17PHRしか含有しない試験例13はいずれも未加硫時硬度の値が70未満になって充分なユニフォミニティ性を得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態における空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
【図2】ビード部におけるビードコアに外力が加わる機構を示した概念模式図である。
【図3】本実施例におけるユニフォミニティの未加硫時硬度依存性を示すグラフである。
【図4】本実施例におけるユニフォミニティの未加硫時硬度依存性を示すグラフである。
【図5】本実施例におけるビードワイヤの配列乱れの未加硫時硬度依存性を示すグラフである。
【図6】従来技術におけるビードワイヤの配列乱れが生ずる機構を示す概念模式図である。
【図7】従来技術におけるビードワイヤの配列乱れが生ずる機構を示す概念模式図である。
【符号の説明】
【0071】
11…空気入りタイヤ(ラジアルタイヤ)、12…トレッド部、13…サイドウォール部、14…ビード部、15…リム、15a…リムフランジ、16…ボディプライ、17…ベルト、18…キャップベルト、19…ショルダプライ、21…ビードフィラー、23…ビードワイヤ、30…ビードコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤのビードワイヤを包囲するビードインシュレーションゴム組成物であって、加硫剤を含み加硫可能で、未加硫時におけるJIS硬度Aが室温下70〜99、加硫時におけるJIS硬度Aが室温下90〜99であり、
前記ビードワイヤを被覆する工程での温度における未加硫時のムーニー粘度が60以下であることを特徴とする空気入りタイヤのビードワイヤを包囲するビードインシュレーションゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム組成物は、融点及び/又は軟化点が室温超、前記ビードワイヤを被覆する工程での温度未満である特性改善材料を含む請求項1に記載のインシュレーションゴム組成物。
【請求項3】
前記特性改善材料は、質量基準で50%以上のスチレンを含むSBRであるスチレン高含有SBRである請求項2に記載のインシュレーションゴム組成物。
【請求項4】
前記スチレン高含有SBRは構成材料のうちのゴム成分全体の質量を基準として、30質量%以上含有する請求項3に記載のインシュレーションゴム組成物。
【請求項5】
前記スチレン高含有SBRは構成材料のうちのゴム成分全体の質量を基準として50%以下含有する請求項3又は4に記載のインシュレーションゴム組成物。
【請求項6】
前記特性改善材料は、熱硬化性樹脂である請求項2〜5のいずれかに記載のインシュレーションゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のビードインシュレーションゴム組成物を加硫した加硫後インシュレーションゴム組成物と、該加硫後インシュレーションゴム組成物にて包囲されるビードワイヤとをもつビードコアを有する空気入りタイヤ。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のビードインシュレーションゴム組成物と該ビードインシュレーションゴム組成物にて包囲されたビードワイヤとからなるビードコアを形成する工程と、
前記ビードコアをもつ生タイヤを成形する工程と、
前記生タイヤ内に加圧ガスを注入した状態で加熱することで加硫する加硫工程とを有する空気入りタイヤの製造方法であって、
前記生タイヤ成形工程後、前記加硫工程前に、前記ビードインシュレーションゴム組成物が軟化する温度以上、前記加硫が進行する温度未満に加熱しながら該生タイヤ内に前記加圧ガスを注入する工程を有することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−208348(P2010−208348A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174533(P2007−174533)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(591032356)不二精工株式会社 (9)
【Fターム(参考)】