説明

インタークーラおよびインタークーラ付き内燃機関

【課題】既燃ガスがインタークーラを流れたとしても、該インタークーラの腐食を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】一対のタンクと、該一対のタンクを連通する複数のチューブ13とを備えるインタークーラであって、チューブ13は、基材131と、チューブ13の内壁面において基材131の表面に形成され且つ基材よりも電位の卑な犠牲層132と、チューブ13の内壁面において犠牲層132の表面に形成され且つ犠牲層132よりも撥水性が高い撥水層133と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気を冷却するためのインタークーラおよびインタークーラ付き内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
インタークーラ等の熱交換器においてチューブの内壁面に犠牲層を配置し、該インタークーラ等の腐食を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、排気通路にタービンを有し且つ吸気通路にコンプレッサを有するターボチャージャを備え、タービンよりも下流の排気の一部をコンプレッサよりも上流の吸気通路へ還流する低圧EGR通路を備える低圧EGR装置が知られている。
【0004】
この低圧EGR装置により還流されるEGRガス(以下、低圧EGRガスと称する。)は、コンプレッサよりも下流に備えられるインタークーラを通過する。ここで、低圧EGRガスは、燃料が燃焼した後のガスであるため、水分を多く含んでいる。すなわち、燃料が燃焼すると、二酸化炭素(CO)と水(HO)とが発生する。そして、水は高温のために水蒸気となっている。そして、インタークーラでEGRガスの温度が低下されると、水が凝縮する。ここで、低圧EGRガス中には硫黄成分等が含まれているため、凝縮水中にこれらの成分が取り込まれる。これらの成分はインタークーラを腐食させるため、該インタークーラの性能を低下させる。
【0005】
ここで、犠牲層は自らが腐食することにより基材の腐食を抑制するものであるため、犠牲層が全て腐食してしまうと基材が腐食してしまう。そして、前記従来技術では、インタークーラに低圧EGRガスを流すと、犠牲層が直ぐに腐食してしまうので、インタークーラの機能低下が早期に起こるおそれがある。
【特許文献1】特開平5−148571号公報
【特許文献2】特開平9−88614号公報
【特許文献3】特開平10−259732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、既燃ガスがインタークーラを流れたとしても、該インタークーラの腐食を抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために本発明によるインタークーラは、以下の手段を採用した。すなわち、本発明によるインタークーラは、
一対のタンクと、該一対のタンクを連通する複数のチューブとを備えるインタークーラであって、
前記チューブは、
基材と、
前記チューブの内壁面において前記基材の表面に配置され且つ前記基材よりも電位の卑な犠牲層と、
前記チューブの内壁面において前記犠牲層の表面に配置され且つ前記犠牲層よりも撥水性が高い撥水層と、
を具備することを特徴とする。
【0008】
インタークーラに流入するガスは、先ず一方のタンクに流入し、その後複数のチューブ内を流れて他方のタンクに流入する。そして、ガスは他方のタンクからインタークーラ外に流出する。
【0009】
犠牲層は、チューブの基材よりも電位が卑な素材(犠牲材)を含んでなる。この犠牲層は、チューブの基材の腐食を防止するため、その表面を被覆している。そして、犠牲層は、自ら腐食することによりチューブの基材を腐食から守る。
【0010】
撥水層は、少なくとも犠牲層よりも撥水性が高い。すなわち、撥水層は犠牲層よりも水を弾く。この撥水層は、犠牲層の表面に配置されているため、この撥水層がチューブ内のガスに臨んでいる。
【0011】
チューブの内壁面では、該チューブ内のガスが冷却されることにより、凝縮水が発生することがある。そして、この凝縮水は、チューブ内のガスに臨んでいる撥水層の表面で発生する。そのため、凝縮水は撥水層の表面上を流れる。ここで、撥水層は撥水性が高いので、凝縮水がより流れやすい。そして、チューブ内をガスが流れることにより、凝縮水がこのガスの流れとともにチューブ内から排出される。これにより、チューブ内に凝縮水が留まる時間が短くなるので、チューブ内部の腐食が抑制される。
【0012】
ここで、仮に犠牲層のみを配置し、撥水層を配置しなかった場合を考える。犠牲層で腐食が始まると、その腐食は犠牲層で進行するが、該犠牲層が全て腐食するまでは腐食が基材に進行することが抑制される。そして、犠牲層が全て腐食した後に、基材で腐食が始まる。すなわち、犠牲層を配置することにより、基材に腐食が進行するまでの時間を長くすることができる。しかし、撥水層を配置していないと、犠牲層の至る所で腐食が始まるため、該犠牲層の腐食が早く進行する。したがって、撥水層を配置することにより、犠牲層の腐食の進行を抑制できる。
【0013】
ところで、撥水層は犠牲層の表面に配置されているが、犠牲層を完全に覆うことが困難で、極小部分で犠牲層が露出して既燃ガスに晒されることがある。そして、仮に撥水層のみを配置し、犠牲層を配置しなかった場合には、基材が直接既燃ガスに晒されることになる。この場合、腐食は基材の板厚方向に進行するので、腐食が基材の外気側に達するまでの時間が短い。
【0014】
しかし、犠牲層を配置している場合には、極小部分から始まる腐食は犠牲層を進行する。そして、腐食が始まる極小部分以外の他の部分では、撥水層により腐食が抑制されている。そのため、極小部分から始まる腐食が犠牲層の全体に拡がるまでに、かなりの時間がかかる。つまり、撥水層を配置することにより、犠牲層の寿命を延ばすことができる。これにより、基材に腐食が進行するまでにかかる時間を長くすることができる。
【0015】
また、上記課題を達成するために本発明によるインタークーラ付き内燃機関は、以下の手段を採用した。すなわち、本発明によるインタークーラ付き内燃機関は、
前記インタークーラを内燃機関の吸気通路に備え、
燃料が燃焼した後のガスを前記インタークーラよりも上流の吸気通路から導入する既燃ガス導入手段を更に備えることを特徴とする。
【0016】
既燃ガス導入手段は、例えばEGRガス、ブローバイガス、燃焼式ヒータからの排気等をインタークーラよりも上流から吸気通路へ導入する。これらのガスには水蒸気が含まれているため、インタークーラでガスの温度が低下されると、水が凝縮する。そして、凝縮水に硫黄成分等が取り込まれると、インタークーラを腐食させるおそれがある。しかし、
インタークーラが撥水層および犠牲層を有することにより、該インタークーラの腐食を抑制することができる。
【0017】
また、本発明においては、内燃機関の排気通路にタービンを有し且つ吸気通路にコンプレッサを有するターボチャージャと、
前記タービンよりも下流の排気通路と前記コンプレッサよりも上流の吸気通路とを接続し内燃機関からの排気の一部を吸気通路に還流させる低圧EGR装置と、
を備え、
前記既燃ガス導入手段は、前記低圧EGR装置を含むことができる。
【0018】
この低圧EGR装置により還流される低圧EGRガスは、タービンよりも上流の排気通路とコンプレッサよりも下流の吸気通路とを接続し内燃機関からの排気の一部を吸気通路に還流させる高圧EGR装置により還流される高圧EGRガスよりも温度が低い。そのため、低圧EGRガスがインタークーラを通過すると、該インタークーラ内で凝縮水が発生し易い。
【0019】
このような場合であっても、前記インタークーラを備えることにより、チューブの腐食を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既燃ガスがインタークーラを流れたとしても、該インタークーラの腐食を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るインタークーラおよびインタークーラ付き内燃機関の具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本実施例に係るインタークーラ1の概略構成を示す図である。インタークーラ1には、入口側タンク11と、出口側タンク12と、の一対のタンクが備えられている。入口側タンク11と、出口側タンク12と、は複数のチューブ13により連通されている。複数のチューブ13は夫々が他のチューブ13と離間されて備えられており、隣り合うチューブ13との間には冷却フィン14が設けられている。この冷却フィン14は、隣り合うチューブ13の間を入口側タンク11から出口側タンク12までの間、複数回往復しつつ該隣り合うチューブ13に夫々接している。
【0023】
入口側タンク11には、ガスの入口となる入口接続部15が設けられている。また、出口側タンク12には、ガスの出口となる出口接続部16が設けられている。
【0024】
このように構成されたインタークーラ1では、入口接続部15、入口側タンク11、チューブ13、出口側タンク12、出口接続部16の順にガスが流れる。ここで、隣り合うチューブ13の間を外気が流れ、該チューブ13および冷却フィン14の温度を低下させる。これにより、チューブ13内を流れるガスの温度が低下される。すなわち、外気と、チューブ13内のガスと、で熱交換が行なわれる。
【0025】
次に、図2は、チューブ13の縦断面図である。すなわち、チューブ13内のガスの流れ方向と平行に該チューブ13切断したときの断面図である。
【0026】
チューブ13は、基材131と、犠牲層132と、撥水層133とを備えて構成されている。外気と接する側には、基材131が配置され、チューブ13の内側すなわち吸気が
通過する側に向かって、犠牲層132、撥水層133が順に配置されている。なお、図2における各部材の厚さの比率は説明のために、実際と異なる比率にて表している。
【0027】
基材131としては、JIS 3003(Al−0.15%Cu− 1.1%Mn)合金を用いることができる。基材131の厚さは、例えば0.4mmとする。また犠牲層132としては、JIS 7072(Al−1%Zn),Al−1%Zn− 0.5%Mg合金,純Al,Al−In合金,Al−Sn合金,Al−Zn−In−Sn合金等、基材131の電位より卑な合金であれば、如何なる合金も使用できる。犠牲層132の厚さは例えば10〜50μmの範囲とする。このように、基材131より電位の卑な犠牲層132をクラッドし、基材131を保護している。
【0028】
撥水層133は、例えばフッ素樹脂コーティングを用いることができる。この撥水層133は、犠牲層132よりも撥水性の高いものであれば良い。
【0029】
なお、入口側タンク11および出口側タンク12では、積極的に熱交換を行なっていないため、熱交換の効率を上げる必要がない。したがって、入口側タンク11および出口側タンク12に用いられる合金の板圧は、チューブ13に用いられる合金の板圧よりも厚くすることができる。そのため、入口側タンク11および出口側タンク12は腐食しても穴が開き難い。したがって、本実施例では、腐食により穴の開き易いチューブ13にのみ犠牲層132および撥水層133を配置している。しかし、チューブ13と同様にして入口側タンク11および出口側タンク12にも犠牲層132および撥水層133を配置しても良い。
【0030】
次に図3は、本実施例に係るインタークーラ1を備える内燃機関21とその吸・排気系の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関21は、4つの気筒22を有する水冷式の4サイクル・ディーゼルエンジンである。
【0031】
内燃機関21には、吸気通路23および排気通路24が接続されている。吸気通路23の途中には、排気のエネルギを駆動源として作動するターボチャージャ25のコンプレッサハウジング25aが設けられている。
【0032】
コンプレッサハウジング25aよりも下流の吸気通路23には、吸気と大気とで熱交換を行うインタークーラ1が設けられている。
【0033】
一方、排気通路24の途中には、前記ターボチャージャ25のタービンハウジング25bが設けられている。また、タービンハウジング25bよりも下流の排気通路24には、パティキュレートフィルタ(以下、単にフィルタという。)26が設けられている。このフィルタ26にはNOx触媒が担持されていてもよい。
【0034】
そして、内燃機関21には、排気通路24内を流通する排気の一部を低圧で吸気通路23へ再循環させる低圧EGR装置30が備えられている。この低圧EGR装置30は、低圧EGR通路31、低圧EGR弁32、および低圧EGRクーラ33を備えて構成されている。
【0035】
低圧EGR通路31は、フィルタ26よりも下流側の排気通路24と、コンプレッサハウジング25aよりも上流の吸気通路23と、を接続している。この低圧EGR通路31を通って、排気が低圧で再循環される。そして、本実施例では、低圧EGR通路31を通って再循環される排気を低圧EGRガスと称している。また、低圧EGR弁32は、低圧EGR通路31の通路断面積を調整することにより、該低圧EGR通路31を流れる低圧EGRガスの量を調整する。さらに、低圧EGRクーラ33は、該低圧EGRクーラ33
を通過する低圧EGRガスと、内燃機関21の冷却水とで熱交換をして、該低圧EGRガスの温度を低下させる。
【0036】
このような構成では、低圧EGR通路31から低圧EGRガスを吸気通路23へ流すと、該低圧EGRガスがインタークーラ1へ流入する。この低圧EGRガスは水分を多く含んでいるので、チューブ13内を通過するときに該低圧EGRガスが冷却されると、該チューブ13内で水が凝縮する。しかし、チューブ13には、撥水層133が形成されているので、凝縮水が吸気や低圧EGRガスにより流されて、該チューブ13内には凝縮水が滞留し難くなる。これにより、チューブ13の基材131が腐食することが抑制される。
【0037】
また、撥水層133の効果によってもチューブ13内の凝縮水を排除することができない場合であっても、先ず犠牲層132が腐食するので、基材131の腐食が抑制される。すなわち、撥水層133に覆われていない極小部分に凝縮水が付着しても、その極小部分から犠牲層132の全体へ腐食が拡がるには時間がかかる。そのため、基材131に腐食が進行するまでにも時間がかかることになる。
【0038】
なお、本実施例においては、チューブ13の軸線が地面と垂直になるように且つ入口側タンク11が出口側タンク12よりも上となるように、インタークーラ1を設置してもよい。このようにすることで、チューブ13内で発生した凝縮水は、ガスの流れによる力と重力による力とを受けることになるので、チューブ13内の凝縮水をチューブ13の下流に流しやすくすることができる。これにより、凝縮水と撥水層133との接触時間がより短くなるので、腐食をより抑制することができる。
【0039】
そして、凝縮水は出口側タンク12に溜まるが、この凝縮水は例えば減速時にスロットルを開閉することにより吸気通路23内に負圧を発生させて該出口側タンク12から吸い出すことができる。
【0040】
以上説明したように、本実施例によれば、基材131の腐食が抑制されるので、インタークーラ1の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例に係るインタークーラの概略構成を示す図である。
【図2】チューブの縦断面図である。
【図3】実施例に係るインタークーラを備える内燃機関とその吸・排気系の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 インタークーラ
11 入口側タンク
12 出口側タンク
13 チューブ
14 冷却フィン
15 入口接続部
16 出口接続部
21 内燃機関
22 気筒
23 吸気通路
24 排気通路
25 ターボチャージャ
25a コンプレッサハウジング
25b タービンハウジング
26 フィルタ
30 低圧EGR装置
31 低圧EGR通路
32 低圧EGR弁
33 低圧EGRクーラ
131 基材
132 犠牲層
133 撥水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のタンクと、該一対のタンクを連通する複数のチューブとを備えるインタークーラであって、
前記チューブは、
基材と、
前記チューブの内壁面において前記基材の表面に配置され且つ前記基材よりも電位の卑な犠牲層と、
前記チューブの内壁面において前記犠牲層の表面に配置され且つ前記犠牲層よりも撥水性が高い撥水層と、
を具備することを特徴とするインタークーラ。
【請求項2】
請求項1に記載のインタークーラを内燃機関の吸気通路に備え、
燃料が燃焼した後のガスを前記インタークーラよりも上流の吸気通路から導入する既燃ガス導入手段を更に備えることを特徴とするインタークーラ付き内燃機関。
【請求項3】
内燃機関の排気通路にタービンを有し且つ吸気通路にコンプレッサを有するターボチャージャと、
前記タービンよりも下流の排気通路と前記コンプレッサよりも上流の吸気通路とを接続し内燃機関からの排気の一部を吸気通路に還流させる低圧EGR装置と、
を備え、
前記既燃ガス導入手段は、前記低圧EGR装置を含むことを特徴とする請求項2に記載のインタークーラ付き内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−19797(P2008−19797A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192764(P2006−192764)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】