説明

インプリント方法およびインプリント装置

【課題】モールドの変形リスクが少なくモールド寿命を大幅に延ばすことができるとともに、高スループットでインプリントでき量産性に優れたインプリント方法を提供する。
【解決手段】基板の両面にレジストを塗布し、前記基板およびレジストを加熱し、前記基板の両面に、加熱したレジストの温度より低温のモールドを配置し、前記レジストにモールドをプレスしてインプリントすることを特徴とするインプリント方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント方法およびインプリント装置に関し、特にディスクリートトラック型パタンド媒体の製造に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)に組み込まれる磁気記録媒体において、隣接トラック間の干渉によりトラック密度の向上が妨げられるという問題が顕在化している。特に記録ヘッド磁界のフリンジ効果による書きにじみの低減は重要な技術課題である。
【0003】
このような問題に対して、磁気記録層を加工して記録トラック間を物理的に分離するディスクリートトラック型パタンド媒体(DTR媒体)が提案されている。DTR媒体では、記録時に隣接トラックの情報を消去するサイドイレース現象、再生時に隣接トラックの情報を読み出すサイドリード現象などを低減できるため、トラック密度を高めることができる。したがって、DTR媒体は高記録密度を提供しうる磁気記録媒体として期待されている。
【0004】
DTR媒体では、記録トラックのパタンに加えて、サーボ領域(プリアンブル、アドレス、バースト)のパタンを形成する必要がある。しかし、1枚ずつの基板に対して電子ビーム(EB)描画によりレジストにパタンを転写し、レジストパタンをマスクとして磁気記録層を加工する方法は、コスト面で非常に不利であり実用化できない。そこで、EB描画を用いてパタンを形成したモールドを作製し、磁気記録層上に塗布したレジストにモールドをインプリントしてレジストにパタンを転写し、レジストパタンをマスクとして磁気記録層を加工する方法が提案されている。このようなインプリント法でモールドを多数回使用すれば、DTR媒体の大量生産が可能になる。
【0005】
インプリント法は、光インプリント、室温での高圧インプリント、熱インプリントの3種に分類される。
【0006】
光インプリントは、光を透過する材料(石英、ダイヤモンドなど)からなるモールドを用いて光硬化性樹脂にインプリントする方法であり、形状転写性に優れている。しかし、光を透過するモールドを作製するのは困難であり、量産には不向きである。
【0007】
室温での高圧インプリントは、モールドにNiを使用することができ、モールドの作製が容易であるため量産性の点で有利である。また、プレス装置に特殊な機構を組み込む必要がなく、大面積にナノメーターサイズのパタンを良好に転写できる専用金型(モールド支持体)を用いることができる。しかし、良好にパタン転写するためには180MPa程度の圧力をかけることが必要であるが、Niの降伏点(変形圧力)が200MPa程度であるため、Niモールド自身が変形するおそれがある。また、インプリントによりレジストを充分に弾性変形させるのに1分程度の時間がかかる。
【0008】
熱インプリントも、モールドにNiを使用することができるので量産性の点で有利であり、高い圧力をかける必要がないのでモールドの変形を避けられる点でも有利である。しかし、従来の熱インプリントでは、基板/レジストとモールドの両方を加熱した状態でインプリントを行った後に冷却して離型している(特許文献1および特許文献2参照)。このような方法では、モールドおよびモールド支持体の熱容量が大きく、加熱・冷却に時間がかかるため、満足な量産性を達成することができなかった。そこで、プレス装置にモールド支持体を強制冷却する機構を設けることが考えられる。しかし、大面積の基板上にナノメーターサイズのパタンを良好に転写するには、基板の全面を均一にインプリントできるように専用設計された金型が必要になり、このような金型に強制冷却機構を組み込むのは困難である。
【0009】
また、従来は、磁気ディスクのようにディスクの両面にパタンを形成するための具体的なインプリント方法は提案されていなかった。
【特許文献1】米国特許第5,772,905号明細書
【特許文献2】特開2006−88517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、モールドの変形リスクが少なくモールド寿命を大幅に延ばすことができるとともに、高スループットでインプリントでき量産性に優れたインプリント方法およびインプリント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係るインプリント方法は、基板の両面にレジストを塗布し、前記基板およびレジストを加熱し、前記基板の両面に、加熱したレジストの温度より低温のモールドを配置し、前記レジストにモールドをプレスしてインプリントすることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の態様に係るインプリント装置は、両面にレジストが塗布された基板を鉛直に保持して搬送するキャリアと、前記基板およびレジストを加熱する加熱チャンバーと、前記基板の両面に、加熱したレジストの温度より低温のモールドを配置し、前記レジストにモールドをプレスしてインプリントするインプリントチャンバーとを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モールドの変形リスクが少なくモールド寿命を大幅に延ばすことができるとともに、基板の両面に対して高スループットでインプリントでき量産性に優れたインプリント方法およびインプリント装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係るインプリント装置を上方から見た上面図である。このようなインプリント装置は、たとえばキャノンアネルバ製C3010装置を改造することによって作製することができる。このインプリント装置は、ロード/アンロード(L/UL)チャンバー10、基板およびレジストを加熱する加熱チャンバー11、基板の両面にモールドを配置しレジストにモールドをプレスしてインプリントするインプリントチャンバー12、ICPプラズマ発生チャンバー13、ECRイオンガンチャンバー14、スパッタチャンバー15、保護膜形成チャンバー16を有する。それぞれのチャンバーでの操作については、以下においてより詳細に説明する。
【0016】
本発明の実施形態に係るインプリント方法は以下のようにして実施する。
まず、インプリント装置の前段で、ガラス製のHDD用ディスク基板(たとえば1.8インチ径)の両面にレジストを塗布する。図2は、ディスク基板の両面にレジストを塗布している状態を上方から見た斜視図である。図2に示すように、ディスク基板1をスピンドルモータ21に取り付けて鉛直に保持し、ディスク基板1の両面にディスペンサーノズル22を配置してレジストをスピンコートする。具体的には、ディスク基板1の内径をチャックして回転させる。回転数は6000rpmまで任意に変更できる。たとえば500rpmの低速回転中に、ディスペンサーノズル22をディスク基板1の内径にレジストが当たる位置まで動かし、レジストを噴射する。その後、レジストを噴射しながらディスク外周までディスペンサーノズル22を動かし、レジスト噴射を止める。最後に、回転数を6000rpmまで上げ、レジストの振り切り乾燥を行う。
【0017】
レジストを塗布したディスク基板1を、図1のインプリント装置のL/ULチャンバー10にセットする。インプリント装置内には、ディスク基板のキャリアが設けられている。図3にキャリアを正面から見た正面図を示す。図3に示すように、キャリア30の中央にはディスク基板1がセットされる孔が形成され、ディスク基板1の周縁部を両側から爪31で把持できるようになっている。ディスク基板1はキャリア30によって鉛直に保持された状態で搬送される。
【0018】
ディスク基板1を加熱チャンバー11へ搬送する。図4は加熱チャンバー11内におけるディスク基板1と赤外線ランプ40との配置を上方から見た斜視図である。赤外線ランプ40は約1600Wの高出力タイプである。ランプ加熱を行い、レジストをそのガラス転移点(Tg)から(Tg+10℃)までの温度に加熱する。このような温度範囲は、約10秒間のランプ加熱で達成できるので、プロセス時間を短縮することができる。
【0019】
ディスク基板1をインプリントチャンバー12へ搬送してインプリントする。図5はインプリントチャンバー12内におけるディスク基板1とその両面に配置された金型51、52を上方から見た斜視図である。金型51、52の内側の面にはゴム系接着剤によりモールド(図5には図示せず)が装着されている。金型51、52はディスク基板1の全面に均一な荷重がかかるように専用設計されている。表面の金型51にはセンターピン51aが突出して形成され、裏側の金型52にはセンターピン51aを受け入れる穴52aが設けられている。センターピン51aの直径は、たとえば1.8インチ径ディスク基板の場合には12.0mm−0.01mm(マイナス誤差)である。表面の金型52の穴52aに円滑にセンターピン51aが挿入されるように、センターピン51aには若干のテーパをつけることが好ましい。
【0020】
金型51、52およびモールドは、加熱チャンバー11で加熱されたレジストの温度より低温に設定されている。金型51、52およびモールドは室温に保持すればよいが、ある程度加熱してもよい。また、ディスク基板1の全面に均一な荷重をかけることができるという条件を満足できれば、金型51、52に強制冷却機構を内蔵させて金型51、52およびモールドを室温以下に冷却してもよい。
【0021】
インプリントチャンバー12におけるインプリントの手順は以下の通りである。ディスク基板1をキャリアで搬送して、ディスク基板1の中心穴を、表面の金型51のセンターピン51aの位置に対応させる。なお、インプリント装置の内部は真空になっているので、加熱チャンバー11からの搬送中に、ディスク基板1およびレジストの温度が低下することはない。つづいて、表面の金型51のセンターピン51aをディスク基板1の中心穴に挿入する。この際に、クリアランスが小さすぎるとディスク基板1が破損しやすいため、この点でもセンターピン51aにテーパをつけることが望ましい。これと同時に、ディスク基板1の周縁部を把持していたキャリアの爪31が外れるようにすることで、ディスク基板1の破損を防ぐ。ディスク基板1は表裏からモールドに挟まれ、インプリントが行われる。このとき、ガラス転移点(Tg)以上に加熱されたレジストは、モールドに接触することによって変形しながら急激に温度が低下してTg以下になり、レジストの変形が終了する。その結果、モールドの凹凸がレジストへ転写される。その後、再びディスク基板1の周縁部をキャリアの爪31で把持し、表裏から金型51、52およびモールドを離型することによってインプリントを終了する。
【0022】
インプリント時にレジストに高圧をかける必要はなく、原理的にはレジストへの圧力は5MPa程度で十分である。ただし、HDD用ガラスディスク基板にはゆがみがあるため、ゆがみを除去する目的で、ある程度の高圧(たとえば150MPaまで)をかけてもよい。
【0023】
図6に、インプリントシークエンス(変位量および圧力の時間変化)の一例を示す。金型51、52を内側へ変位させ微速調整して停止する。金型51、52からディスク基板1へかける圧力を上昇させて所定圧力で所定時間にわたって保持した後、圧力を解放する。金型51、52を外側へ変位させて離型し、金型51、52を初期位置へ戻す。
【0024】
図1のインプリント装置におけるインプリントチャンバー12以降の、ICPプラズマ発生チャンバー13、ECRイオンガンチャンバー14、スパッタチャンバー15、保護膜形成チャンバー16は、DTR媒体の製造に用いられる各種の膜を加工したり成膜したりするためのチャンバーである。これらのチャンバーにおける処理を概略的に説明する。
【0025】
ICPプラズマ発生チャンバー13はレジストの処理に用いるチャンバーである。チャンバー内にO2、CF4などのガスを導入し、プラズマ放電させることで、RIE(反応性イオンエッチング)を行う。基板バイアスを印加することができ、コイル部に発生したプラズマと基板バイアスで誘導結合プラズマ(ICP)を発生させることができる。
【0026】
ECRイオンガンチャンバー14は磁気記録層および磁気記録層の凹部に埋め込まれる非磁性材料(埋め込み材)のエッチングに用いるチャンバーである。ECR(電子サイクロトロン共鳴)で発生したプラズマ中でAr、O2、CF4などのガスをイオン化し、グリッドで加速して基板表面に原子を衝突させてエッチングする。
【0027】
スパッタチャンバー15は、埋め込み材のスパッタ成膜に用いるチャンバーである。DCまたはRF放電が可能であり、C、SiO2、SiC、Ti、Cuなど、どのような物質でもスパッタできる。
【0028】
保護膜形成チャンバー16は、表面保護膜の形成に用いるチャンバーである。原料ガスにC24などを用いたCVD(化学気相堆積法)でC保護膜を形成するのが好適であるが、簡便なDCスパッタ法でC保護膜をスパッタ成膜してもよい。
【0029】
これらのチャンバーについては、以下、図7(a)〜(h)を参照しながら、ディスクリートトラック媒体の製造方法と関連づけてより詳細に説明する。なお、簡略化のために、図7は基板の一方の面にのみ媒体膜およびレジストを形成して加工するように図示しているが、上述したように本発明においては基板の両面にパタンを形成する。
ディスク基板1上に、たとえば厚さ120nmのCoZrNbからなる軟磁性下地層、厚さ20nmのRuからなる配向制御層、厚さ20nmのCoCrPt−SiO2からなる垂直記録層2、厚さ4nmのTiからなる保護層3を順次成膜する。ここでは、簡略化のために、軟磁性下地層および配向制御層は図示していない(図7a)。
【0030】
図2に示した縦置き両面スピンコーターを用いて、保護層3上にたとえば厚さ100nmのレジスト4をスピンコーティングする。レジストを塗布した基板を、図1に示したインプリント装置にロードし、加熱チャンバー11へ搬送してランプ加熱を行った後、インプリントチャンバー12へ搬送し、レジスト4に対向するように、金型(図示せず)に取り付けたモールド60を配置する。このモールド60には記録トラック、プリアンブル、アドレス、バーストのパタンが形成されている(図7b)。このモールド60を用いてインプリントを行い、モールド60の凹凸パタンをレジスト4に転写する(図7c)。
【0031】
基板をICPプラズマ発生チャンバー13へ搬送し、酸素プラズマによってレジストの凹部の底に残っているレジスト残渣を除去する(図7d)。
【0032】
基板をECRイオンガンチャンバー14へ搬送し、レジストパタンを耐エッチングマスクとしてイオンミリングを行い、保護層3および垂直記録層2をエッチングする(図7e)。
【0033】
基板をICPプラズマ発生チャンバー13へ戻し、酸素プラズマで残っているレジストパタンを剥離した後、基板をスパッタチャンバー15へ搬送し、垂直記録層2の凹部に非磁性材料(埋め込み材)を埋め込む(図7f)。
【0034】
基板をECRイオンガンチャンバー14に戻し、埋め込まれた非磁性材料5をエッチバックする(図7g)。
【0035】
基板を保護膜形成チャンバー16へ搬送し、CVDによりカーボン(C)を堆積して保護層6を形成する(図7h)。さらに、保護層56上に潤滑剤を塗布してディスクリートトラック媒体を得る。
【実施例】
【0036】
実施例1
以下のようにしてインプリントを行った。図2に示した縦置き両面スピンコーターを用いて、HDD用の1.8インチ径ガラスディスク基板の両面に、レジストとしてシクロオレフィンポリマーCOP(日本ゼオン株式会社、ZEONEX[登録商標]、Tg〜約140℃)を膜厚110nmになるように塗布した。基板を回転数5000rpmで回転させ、ディスペンサーノズルをディスクの内周から外周へ向かって移動させることにより、基板上に均一にCOPを塗布することができた。
【0037】
次に、赤外線ランプを用いて1000Wで10秒間ランプ加熱した。サーモラベルによってレジスト(COP)の表面温度を測定したところ、145℃であった。基板を10秒かけてインプリントチャンバーまで搬送した。インプリントチャンバーには、Niモールドをゴム系接着剤で取り付けた金型が基板を挟むように設置されている。Niモールドには、DTR媒体の記録トラック、プリアンブル、アドレス、バーストに対応する凹凸パタンが形成されている。金型およびモールドの温度は室温である。基板の両面から金型を50MPaの圧力で30秒間押し付けた。その後、金型を離型してインプリントを終了した。
【0038】
原子間力顕微鏡(AFM)により基板上のレジスト(COP)の形状を評価したところ、基板の両面で記録トラック、プリアンブル、アドレス、バーストが良好に形成されていた。
【0039】
また、インプリント時間を変化させた実験を行ったところ、10秒のインプリント時間でパタンを良好に転写できることがわかった。
【0040】
比較例1
ランプ加熱の条件を1600W、10秒に変更した以外は実施例1と同様にしてインプリントを行った。ランプ加熱の結果、レジストであるCOPの表面温度は200℃になった。インプリント時間をさまざまに変化させたが、2分以下では良好なパタン転写ができなかった。
【0041】
これは、COPの冷却に時間がかかるからである。室温のモールドを加熱したCOPに接触させる場合、1℃あたりの降温時間は約2秒になる。このため、COP(Tg〜約140℃)を200℃まで加熱すると、Tgまで冷却するのに120秒(2分)かかる。このため、2分以上時間をかけてインプリントした場合は良好にインプリントできるが、2分以下では良好なパタン転写ができなかったものと考えられる。
【0042】
実施例2
レジストとして、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはノボラック系フォトレジスト(シプレー社、S1801)を用い、実施例1と同様にインプリントを行った。
【0043】
ランプ加熱の条件を1600W、10秒に設定し、レジスト表面温度を200℃にしてインプリントしたところ、全てのレジストについて5分以上のインプリント時間で良好にインプリントできた。
【0044】
次に、インプリント時間を10秒に固定し、ランプ加熱条件を変化させることによりレジスト表面温度を変化させてインプリントを行った。良好なインプリント形状が得られる最大温度を調べたところ、PCで160℃、PMMAで120℃、PETで75℃、S1801で130℃であった。各レジストのTgはPCで150℃、PMMAで110℃、PETで65℃、S1801で120℃である。したがって、各レジストを(Tg+10℃)の温度までランプ加熱することにより、高スループット(短インプリント時間)のインプリントが可能となる。レジストを(Tg+10℃)を超える温度に加熱すると、レジストが冷却するまでに時間がかかり、インプリントのスループットの点で不利になる。
実施例3
以下のようにして本実施例のインプリント方法を実施してDTR媒体を作製した。1.8インチ径のガラスディスク基板上に軟磁性下地層、垂直記録層(CoCrPt−SiO2)、表面保護膜(Ti、膜厚4nm)を成膜した。図2に示した縦置き両面スピンコーターを用いて、この基板の両面にレジストとしてノボラック系フォトレジスト(シプレー社、S1801、Tg〜120℃)を塗布した。回転数を5000rpmに設定して、レジストの膜厚を110nmにした。
【0045】
図1に示したインプリント装置のL/ULチャンバー10に、レジストを塗布したディスク基板をセットした。量産性を考慮して、1工程(1チャンバー処理)でのプロセス時間を統一的に10秒に設定した。
【0046】
レジストを塗布したディスク基板の周縁部を、キャリアの爪で把持して加熱チャンバー11へ搬送し、800W、10秒の条件でランプ加熱を行った。この結果、S1801レジストの表面温度は130℃になった。
【0047】
次に、ディスク基板をインプリントチャンバー12へ搬送した。インプリントチャンバー12には、記録トラック、プリアンブル、アドレス、バーストのパタンが形成されたNiモールドをゴム系接着剤で取り付けた金型が基板を挟むように設置されている。ディスク基板の両面から金型を100MPaの圧力で10秒間押し付けた。インプリント圧力を100MPaに設定した理由は、HDD用ガラスディスク基板がゆがんでいるため、ある程度の圧力をかけてゆがみを緩和させるためである。金型は基部を循環水で冷却しているが、強制冷却機構は内蔵していない。
【0048】
次に、ディスク基板をICPプラズマ発生チャンバー13へ搬送し、酸素プラズマによってレジストの凹部の底に残っているレジスト残渣を除去した。この処理は、基板バイアスパワー200W、コイルパワー200W、チャンバー圧力0.05Pa、10秒の条件で行った。
【0049】
次に、ディスク基板をECRイオンガンチャンバー14へ搬送し、垂直記録層をエッチングした。この処理は、加速電圧1000V、チャンバー圧力0.05Pa、マイクロ波パワー1000W、エッチングガスAr、10秒の条件で行った。
【0050】
次に、ディスク基板をICPプラズマ発生チャンバー13へ戻し、酸素プラズマでレジスト剥離を行った。この処理は、基板バイアスなし、コイルパワー400W、チャンバー圧力9.0Pa、10秒の条件で行った。基板バイアスを印加しなかった理由は、垂直記録層にダメージを与えることなくレジスト(S1801)を剥離するためである。
【0051】
次に、ディスク基板をスパッタチャンバー15へ搬送し、垂直記録層の凹部に非磁性材料5(埋め込み材)としてSiOCを埋め込んだ。この処理は、ターゲットとしてSiCを用い、スパッタリングガスとしてAr流量80sccm、O2流量20sccmの混合ガスを用いてチャンバー圧力1.0Paとし、DCスパッタリングでパワー1000W、10秒の条件で行った。埋め込まれたSiOCの膜厚は60mであった。
【0052】
次に、ディスク基板をECRイオンガンチャンバー14に戻し、埋め込まれた非磁性材料5(SiOC)のエッチバックを行った。この処理は、加速電圧1000V、チャンバー圧力1.0Pa、マイクロ波パワー1000W、エッチングガスArの条件で行った。また、四重極式質量分析計(Q−MASS)による終点検出でプロセス時間を10〜20秒程度に決定した。
【0053】
最後に、ディスク基板を保護膜形成チャンバー16へ搬送し、原料ガスとしてC24を用い、CVDを10秒間行いダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなる保護膜6を4nm形成した。このようにしてDTR媒体を作製した。
【0054】
作製したDTR媒体をハードディスクドライブ(HDD)に組み込んでBER(ビット誤り率)を測定した。その結果、10-6オーダーの良好なBERが得られた。このように、本発明に係るインプリント方法を用いて、DTR媒体を搭載したHDDを作製できることがわかった。
【0055】
上記の方法でDTR媒体を量産し、同一のモールドを用いて1回目および1000回目に作製したDTR媒体をHDDに組み込んで評価したところ、両者とも10-6オーダーの良好なBERが示した。
【0056】
比較例2
インプリント方法をレジストの加熱なし、インプリント圧180MPaという常温高圧インプリントに変更した以外は実施例3と同様の方法でDTR媒体を量産した。この場合、同一のモールドを用いて200回目に作製したDTR媒体にインプリント不良と思われる欠陥が見え始めた。
【0057】
1回目および200回目に作製したDTR媒体をHDDに組み込んで評価した。その結果、1回目のDTR媒体では10-6オーダーの良好なBERが得られたが、200回目のDTR媒体ではトラッキングサーボがかからず、BERを取得することができなかった。
【0058】
実施例3と比較例2の対比から、本発明のインプリント方法を用いることによって、インプリントに用いるモールドの寿命が5倍以上に延びることがわかる。
【0059】
次に、本発明の実施形態において用いられる材料について説明する。
【0060】
<基板>
基板としては、たとえばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板、酸化表面を有するSi単結晶基板などを用いることができる。ガラス基板としては、アモルファスガラスおよび結晶化ガラスが用いられる。アモルファスガラスとしては、汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスが挙げられる。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスが挙げられる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが挙げられる。基板としては、上述した金属基板や非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。
【0061】
なお、以下においては、基板上への薄膜の形成方法としてスパッタリング法のみを説明しているが、真空蒸着法や電解メッキ法などを用いても同様の効果を得ることができる。
【0062】
<軟磁性下地層>
軟磁性下地層(SUL)は、垂直磁磁気記録層を磁化するための単磁極ヘッドからの記録磁界を水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁界の記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる作用を有する。軟磁性下地層には、Fe、NiまたはCoを含む材料を用いることができる。このような材料として、FeCo系合金たとえばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金たとえばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金たとえばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金たとえばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金たとえばFeZrNなどを挙げることができる。Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造または微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることもできる。軟磁性下地層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、TiおよびYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることもできる。Co合金には80at%以上のCoが含まれることが好ましい。このようなCo合金は、スパッタ法により成膜した場合にアモルファス層が形成されやすい。アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示すとともに、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、たとえばCoZr、CoZrNbおよびCoZrTa系合金などを挙げることができる。
【0063】
軟磁性下地層の下に、軟磁性下地層の結晶性の向上または基板との密着性の向上のために、さらに下地層を設けてもよい。こうした下地層の材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。軟磁性下地層と記録層との間に、非磁性体からなる中間層を設けてもよい。中間層は、軟磁性下地層と記録層との交換結合相互作用を遮断し、記録層の結晶性を制御する、という2つの作用を有する。中間層の材料としては、Ru、Pt、Pd、W、Ti、Ta、Cr、Si、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。
【0064】
スパイクノイズ防止のために軟磁性下地層を複数の層に分け、0.5〜1.5nmのRuを挿入することで反強磁性結合させてもよい。また、CoCrPt、SmCo、FePtなどの面内異方性を持つ硬磁性膜またはIrMn、PtMnなどの反強磁性体からなるピン層と軟磁性層とを交換結合させてもよい。交換結合力を制御するために、Ru層の上下に磁性膜(たとえばCo)または非磁性膜(たとえばPt)を積層してもよい。
【0065】
<磁気記録層>
垂直磁気記録層としては、Coを主成分とし、少なくともPtを含み、さらに酸化物を含む材料を用いることが好ましい。垂直磁気記録層は、必要に応じて、Crを含んでいてもよい。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化チタンが好適である。垂直磁気記録層は、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)が分散していることが好ましい。この磁性粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性粒子の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)を得ることができる。このような構造を得るためには、含有させる酸化物の量が重要となる。
【0066】
垂直磁気記録層の酸化物含有量は、Co、Cr、Ptの総量に対して、3mol%以上12mol%以下であることが好ましく、5mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。垂直磁気記録層の酸化物含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁気記録層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子を分離させ、微細化させることができるためである。酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)が得られなくなるため好ましくない。
【0067】
垂直磁気記録層のCr含有量は、0at%以上16at%以下であることが好ましく、10at%以上14at%以下であることがより好ましい。Cr含有量として上記範囲が好ましいのは、磁性粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるためである。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子の結晶性、配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。
【0068】
垂直磁気記録層のPt含有量は、10at%以上25at%以下であることが好ましい。Pt含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁性層に必要なKuが得られ、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるためである。Pt含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。Pt含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性に十分なKuが得られないため好ましくない。
【0069】
垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、酸化物のほかに、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進し、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性、配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0070】
垂直磁気記録層としては、CoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi、ならびにPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することもできる。
【0071】
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは5ないし60nm、より好ましくは10ないし40nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置を作製することができる。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向がある。垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上とすることが好ましい。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態に係るインプリント装置を上方から見た上面図。
【図2】ディスク基板の両面にレジストを塗布している状態を上方から見た斜視図。
【図3】キャリアを正面から見た正面図。
【図4】ディスク基板と赤外線ランプとの配置を上方から見た斜視図。
【図5】ディスク基板とその両面に配置された金型を上方から見た斜視図。
【図6】インプリントシークエンスの一例を示す図。
【図7】ディスクリートトラック媒体の製造方法を示す断面図。
【符号の説明】
【0073】
1…ディスク基板、2…垂直記録層、3…保護層、4…レジスト、5…非磁性材料、6…保護層、10…ロード/アンロード(L/UL)チャンバー、11…加熱チャンバー、12…インプリントチャンバー、13…ICPプラズマ発生チャンバー、14…ECRイオンガンチャンバー、15…スパッタチャンバー、16…保護膜形成チャンバー、21…スピンドルモータ、22…ディスペンサーノズル、30…キャリア、31…爪、40…赤外線ランプ、51、52…金型、51a…センターピン、52a…穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の両面にレジストを塗布し、
前記基板およびレジストを加熱し、
前記基板の両面に、加熱したレジストの温度より低温のモールドを配置し、前記レジストにモールドをプレスしてインプリントする
ことを特徴とするインプリント方法。
【請求項2】
前記基板およびレジストをランプ加熱することを特徴とする請求項1に記載のインプリント方法。
【請求項3】
前記レジストを、そのガラス転移点(Tg)から(Tg+10℃)までの温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載のインプリント方法。
【請求項4】
両面にレジストが塗布された基板を鉛直に保持して搬送するキャリアと、
前記基板およびレジストを加熱する加熱チャンバーと、
前記基板の両面に、加熱したレジストの温度より低温のモールドを配置し、前記レジストにモールドをプレスしてインプリントするインプリントチャンバーと
を具備したことを特徴とするインプリント装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−114379(P2008−114379A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296958(P2006−296958)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】