説明

インホイールシステムを用いた車両制御方法

【課題】 車両の旋回安定性を確保しながらも、回転半径を最小化させることのできるインホイールシステムを用いた車両制御方法を提供する。
【解決手段】車両の各ホイールの内部にモータを装着して制御するインホイールシステムを用いた車両制御方法において、車両走行情報を基に車両の旋回モードを判断するステップと、旋回モードに対する車両の現在のアッカーマン率を計算するステップと、現在のアッカーマン率を基に制御命令を生成するステップと、制御命令を用いて各ホイールのモータをそれぞれ制御するステップと、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインホイールシステムを用いた車両制御方法に係り、より詳しくは、アッカーマン性向の操向原理を用いて、車両の旋回安定性を確保しながらも、回転半径を最小にさせることのできるインホイールシステムを用いた車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、インホイールシステム(In−wheel system)は、電気モータが車輪のホイール内に装着されて駆動力を直接各ホイールにおいて制御するシステムであり、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車及び電気自動車など電気モータをホイールの駆動源として用いる自動車に用いられる。
一般に、車両の操向装置は、運転者に車両の進行方向を任意に操作させる装置であり、リンク機構を介してギア機構の作動を前輪に伝達する役割を果たし、左右車輪の関係位置を正しく支持する部分であり、タイロッド及びナックルアームにより構成されている。
【0003】
上記操向装置は、一般に、アッカーマン性向の操向原理に従う。運転者が入力した操向角によって発生するラックストロークとタイヤ角度との間にはアッカーマンジオメトリー条件が成立し、このような条件下で、下記のようにアッカーマン角及びアッカーマン率を定義することができる。
アッカーマン角は、操向状態で前輪及び後輪の法線が両方とも旋回の中心を通過するときの外輪タイヤ角として定義し、アッカーマン率は、操向状態で発生する実際のタイヤ角と理論的なアッカーマン角との間の比率(%)として定義する。
アッカーマン角及びアッカーマン率は、図1に示す式によって計算することができる。
【0004】
アッカーマン率が100%となると最も理想的であるが、その他のリンク部との制限条件によって、実際の操向システムの設計に際して、アッカーマン率は、操向角によって約40〜80%程度に設計される。
アッカーマン率が適当に適用されなければ、車両のタイヤ引き現象が現れたり操向感が鈍くなる問題が発生する恐れがある。
従来の技術の場合、図1に示すように、車両が一般旋回走行をするときに車両に遠心力が働き、タイヤにはこれを打ち消すためのコーナリング力が車両のタイヤに働いてタイヤスリップが発生する。
このようなタイヤスリップによって旋回中心点Oが上向きに移動O’することにより、アッカーマンジオメトリー条件を満たすことができないため、タイヤ引き現象や操向感低下が発生するという問題があった。
【0005】
また、このような車両の一般旋回走行時に操向角の範囲は低い領域に含まれるため、図2に示すように、アッカーマン率が低下するという問題があった。
一方、車両が、最小回転半径が求められる旋回走行をするときには、回転半径の最小化のためには、外輪タイヤ角(外輪角)が大きいほど有利である。
この場合、車両の回転半径を最小にさせるためには操向角を大きくする必要があり、操向角が大きくなると、図2に示すように、アッカーマン率も大きくなる。
しかしながら、図1に示すアッカーマン率の計算式によれば、アッカーマン率が大きくなる条件は、内輪角が外輪角よりも大きくなる領域となる。要するに、アッカーマン率を大きくするためには、外輪角が小さい必要があり、これは回転半径の最小化に不利になるため、従来の技術の場合に、旋回安定性を維持しながら回転半径を最小化させることが困難という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−139561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術における問題を解決するためになされたものであって、その目的は、アッカーマン性向を用いて旋回安定性の向上及び回転半径の最小化を両立させることのできるインホイールシステムを用いた自動車制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両の各ホイールの内部にモータを装着して制御するインホイールシステムを用いた車両制御方法において、車両走行情報を基に車両の旋回モードを判断するステップと、旋回モードに対する車両の現在のアッカーマン率を計算するステップと、現在のアッカーマン率を基に制御命令を生成するステップと、制御命令を用いて各ホイールのモータをそれぞれ制御するステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
前記旋回モードが旋回安定性向上モードである場合に、車両の現在のヨーレートを車両の現在のアッカーマン率による目標のヨーレートと比較して制御命令を生成することが好ましい。
【0010】
前記旋回モードが回転半径最小化モードである場合に、現在のアッカーマン率の最小回転半径数値を計算し、これをアッカーマン率が100%である場合の最小回転半径数値と比較して制御命令を生成することが好ましい。
【0011】
前記車両走行情報は、操向角、操向角速度、車速及びヨーレートのうちの少なくとも1以上を含むことが好ましい。
【0012】
前記現在のアッカーマン率は、車両のラックギア比、タイヤ角、操向角及び車両諸元のうちの少なくとも1以上を考慮して計算することが好ましい。
【0013】
前記目標のヨーレートは、車両の現在のアッカーマン率、操向角及び車速を考慮して計算することが好ましい。
【0014】
前記現在のアッカーマン率の最小回転半径数値は、ラックギア比、タイヤ角、操向角及び車両諸元のうちの少なくとも1以上を考慮して計算することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インホイールモータを用いて、内輪及び外輪のトルクを独立して制御することができるので、高いアッカーマン率を維持して旋回安定性を確保することができ、しかも、回転半径を最小にさせることができる。
また、本発明によれば、各ホイールのモータのトルクを独立して調節することができるので、車両の走行性能が向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アッカーマン角及びアッカーマン率の計算式を示す図である。
【図2】操向角とアッカーマン率との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態によるインホイールシステムを用いた自動車制御方法のフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態によるインホイールシステムを示す図である。
【図5】アッカーマン率と目標のヨーレートとの間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づき、本発明の好適な実施形態について詳述する。
図3は、本発明の実施形態によるインホイールシステムを用いた自動車制御方法のフローチャートである。
図3に示すように、本発明の実施形態によるインホイールシステムを用いた自動車制御方法は、車輪の各ホイールの内部にモータ(以下、「インホイールモータ」と称する。)を装着して制御するインホイールシステムを用いた車両制御方法において、車両走行情報を基に旋回モードを判断するステップ(S10)と、旋回モードに対する車両の現在のアッカーマン率を計算するステップ(S13、S23)と、現在のアッカーマン率を基に制御命令を生成するステップ(S16、S26)と、制御命令を用いて各ホイールのモータを制御するステップ(S17、S27)と、を含む。
【0018】
インホイールシステムは、電気モータが車輪のホイール内に装着されて駆動力を直接的に各ホイールにおいて制御するシステムであって、図4に示す実施形態によれば、車両の前輪及び後輪の左右のホイールの両方にモータ200をそれぞれ装着し、モータのトルクをそれぞれ制御する。
一つまたは多数の実施形態において、インホイールシステム10は、図4に示すように、ホイールを駆動する出力軸と共に回転するホイールハブ100と、出力軸に連結された入力軸を回転させるようにホイール内に配設されるモータ200と、入力軸及び出力軸の間に設けられて入力軸の回転数を減らして出力軸に伝達する減速機300と、を備える。
【0019】
このような構成によれば、各ホイールに装着されたモータ200を独立して駆動及び制御することにより、車両の前後左右のホイールのモータトルクを適切に配分することができるので、車両の走行性能が向上する効果がある。
例えば、車両の左右のインホイールモータのトルク差分を調節して横力を発生することにより、駆動による操向可能である。
図3に示すように、車両の走行情報を基に旋回モードを判断する(S10)。
一つまたは多数の実施形態において、旋回モードは、旋回安定性向上モード(S12)と回転半径最小化モード(S22)とに分れられる。
旋回安定性向上モード(S12)は、車両が一般旋回走行状態(S11)にある場合に適用される。
【0020】
すなわち、車両が曲線道路などにおいて通常の旋回走行状態にある場合に適用される旋回モードである。
これに対し、回転半径最小化モード(S22)は、駐車状況やUターンのように車両が低速にて運行(S21)しながら、狭い空間において回転半径を最小化させて旋回する必要があるときに適用される旋回モードである。
旋回モードを判断するのに必要な車両の走行情報は、車両の操向角、操向角速度、車速及びヨーレート(回転角速度)のうちの少なくとも1以上を含むことが好ましい。
【0021】
車速と操向角操向角速度などは、センサーを用いて測定することができる。
ヨーレートは、車両の旋回による旋回の度合いを示す値であり、これもまた車両の内部に設けられたヨーレートセンサーなどによって測定することができる。
一般に、旋回安定性向上モード(S12)に比べて、回転半径最小化モード(S22)の場合に、操向角と、操向加速度及びヨーレートが大きくて車速は小さい。
ステップS10においては、このような車両走行情報を基に車両の旋回モードを判断する。
車両の旋回モードが決定されると、当該旋回モード別に現在のアッカーマン率を計算し(S13、S23)、現在のアッカーマン率を基に制御命令を生成し(S16、S26)、これにより車両に装着されたそれぞれのインホイールモータを制御する(S17、S27)。
【0022】
まず、旋回モードが旋回安定性向上モード(S12)である場合に、車両の現在のアッカーマン率を計算する(S13)。
アッカーマン率とは、操向状態で発生する実際のタイヤ角及び理論的なアッカーマン角との間の割合を意味し、アッカーマン角とは、操向状態で前輪及び後輪の法線が両方とも旋回の中心を通過するときの外輪タイヤ角を意味する。
車両の現在のアッカーマン率は、車両のラックギア比、タイヤ角、操向角及び車両諸元などを考慮して計算することができる。
一般に、車両の操向装置の操向軸の端部は、ピニオンギアと、このピニオンギアに噛合して連動して左右側に水平移動してホイールの方向を操作するラックギアと、からなるが、ここで、ラックギア比とは、このようなラックギアとピニオンギアとの間のギア比を意味する。
【0023】
また、車両の現在のアッカーマン率は、図1に示すアッカーマン角及びアッカーマン率式によって計算することもできる。
次いで、車両の現在のヨーレート(S14)と、現在のアッカーマン率による目標のヨーレート(S15)とを比較して制御命令を生成する(S16)。
車両の現在のヨーレート(S14)は、現在の車両の旋回による旋回の度合いを示す値であり、車両の内部に設けられたヨーレートセンサーなどによって測定することができる。
そして、車両の目標のヨーレート(S15)は、車両の現在のアッカーマン率によって定められる。
【0024】
目標のヨーレートは、車両の現在のアッカーマン率と、操向角及び車速情報のうちの少なくとも一つを考慮して計算することができ、図5に示す実施形態のように、アッカーマン率と目標のヨーレートとの間の関係について、車速、操向角など情報を考慮して3次元マップで予め設定することもできる。
目標のヨーレートと現在のヨーレートとを比較して制御命令を生成する(S16)。
具体的に、制御命令は、車両の前輪及び後輪の左右のホイールの内部に装着されたモータのトルクをそれぞれ制御する命令である。
一つまたは多数の実施形態において、現在のヨーレートが目標のヨーレートに追従するように制御命令を生成することができる。
【0025】
生成された制御命令を用いて車両の前輪及び後輪にそれぞれ装着された4つのインホイールモータをそれぞれ別々に制御することにより、現在のヨーレート値が目標のヨーレート値になるように制御する(S17)。
すなわち、モータは、現在のヨーレートと目標のヨーレートとの間の差分を打ち消すようにそれぞれ制御される。
一つまたは多数の実施形態において、制御命令を用いて車両の外輪のインホイールモータのトルクは増加させ、内輪のインホイールモータのトルクはそのまま維持したり減少する方向に制御(S17)すると、車両の現在のヨーレートと目標のヨーレート値との間の差分が小さくなって旋回安定性が確保されるという効果がある。
【0026】
一方、旋回モードが回転半径最小化モードである場合(S22)にも、図3に示すように、車両の現在のアッカーマン率を計算する(S23)。
車両の現在のアッカーマン率は、車両のラックギア比、タイヤ角、操向角及び車両諸元などを考慮して計算することができる。
次いで、現在のアッカーマン率の最小回転半径数値を計算する(S24)。
現在のアッカーマン率の最小回転半径数値は、車両のラックギア比、タイヤ角、操向角及び車両諸元のうちの少なくとも一つを考慮して計算することができる。
車両の最小回転半径数値が計算されると(S24)、これをアッカーマン率が100%であるときの車両の最小回転半径数値(S25)と比較して制御命令を生成する(S26)。
【0027】
制御命令は、車両の前輪及び後輪の左右のホイールの内部に装着されたインホイールモータのトルクをそれぞれ制御する命令である。
一つまたは多数の実施形態において、現在の最小回転半径数値が、アッカーマン率が100%であるときの車両の最小回転半径数値に追従するように制御命令を生成することができる(S26)。
生成された制御命令を用いて、車両の前輪及び後輪にそれぞれ装着された4つのインホイールモータをそれぞれ別々に制御することにより、現在最小回転半径数値がアッカーマン率が100%であるときの最小回転半径数値になるように制御する(S27)。
【0028】
すなわち、車両の現在の最小回転半径数値と、アッカーマン率が100%であるときの最小回転半径数値との間の差分がないようにインホイールモータをそれぞれ制御する。
一つまたは多数の実施形態において、制御命令を用いて車両の外輪のインホイールモータのトルクは増加させ、内輪のインホイールモータのトルクはそのまま維持したり減少する方向に制御(S27)すると、車両の回転半径が最小化されるという効果がある。
【0029】
一般に、回転半径最小化モード(S22)が要求される走行状況は、主として、駐車時やUターン時のように車両の速度が低い場合となる(S21)。
従来の技術によれば、このときには、比較的に高いアッカーマン率が適用されて旋回性能は安定的であるが、回転半径を最小化させる上では不利であった。高いアッカーマン率が適用されることにより、外輪のタイヤ角が内輪のタイヤ角よりも小さくなり、外輪のタイヤ角が小さくなると、回転半径を最小化させることが困難であるためである。
【0030】
しかしながら、本発明の場合には、回転半径最小化モード(S22)において、インホイールモータの内輪及び外輪のトルクを独立して制御することができるので、高いアッカーマン率によって旋回安定性の効果及び回転半径最小化の効果を両立させることができる。
本発明の実施形態によるインホイールシステムを用いた車両制御方法によれば、一般走行時に車両の旋回安定性を確保することができ、駐車時やUターン時に回転半径を最小化させて旋回することができるという効果がある。
【0031】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の属する技術分野を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0032】
10:インホイールシステム
100:ハブ
200:インホイールモータ
300:減速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各ホイールの内部にモータを装着して制御するインホイールシステムを用いた車両制御方法において、
車両走行情報を基に車両の旋回モードを判断するステップと、
前記旋回モードに対する前記車両の現在のアッカーマン率を計算するステップと、
前記現在のアッカーマン率を基に制御命令を生成するステップと、
前記制御命令を用いて前記各ホイールのモータをそれぞれ制御するステップと、
を含むことを特徴とするインホイールシステムを用いた車両制御方法。
【請求項2】
前記旋回モードが旋回安定性向上モードである場合に、前記車両の現在のヨーレートを前記車両の現在のアッカーマン率による目標のヨーレートと比較して前記制御命令を生成することを特徴とする請求項1に記載のインホイールシステムを用いた車両制御方法。
【請求項3】
前記旋回モードが回転半径最小化モードである場合に、前記現在のアッカーマン率の最小回転半径数値を計算し、これをアッカーマン率が100%である場合の最小回転半径数値と比較して前記制御命令を生成することを特徴とする請求項1に記載のインホイールシステムを用いた車両制御方法。
【請求項4】
前記車両走行情報は、操向角、操向角速度、車速及びヨーレートのうちの少なくとも1以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のインホイールシステムを用いた車両制御方法。
【請求項5】
前記現在のアッカーマン率は、前記車両のラックギア比、タイヤ角、操向角及び車両諸元のうちの少なくとも1以上を考慮して計算することを特徴とする請求項1に記載のインホイールシステムを用いた車両制御方法。
【請求項6】
前記目標のヨーレートは、前記車両の現在のアッカーマン率、操向角及び車速を考慮して計算することを特徴とする請求項2に記載のインホイールシステムを用いた車両制御方法。
【請求項7】
前記現在のアッカーマン率の最小回転半径数値は、ラックギア比、タイヤ角、操向角及び車両諸元のうちの少なくとも1以上を考慮して計算することを特徴とする請求項3に記載のインホイールシステムを用いた車両制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−99242(P2013−99242A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142223(P2012−142223)
【出願日】平成24年6月25日(2012.6.25)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【Fターム(参考)】