説明

ウインド部材の補修方法

【課題】樹脂基材層上にハードコート層を備えた窓部材に適用可能であり、かつ適用した場合に、基材層の性状や基材層とハードコート層との間の密着性に悪影響を与えることのない補修方法を提供する。
【解決手段】ハードコート層1に生じた傷3を基材層2に達するまで加工する第一工程と、熱可塑性樹脂を主成分とする傷補修剤4を加工後の傷3aに充填する第二工程と、赤外線を透過する形状保持用シート5をハードコート層1上に配置する第三工程と、形状保持用シート5上から加工後の傷3aを含む部位に赤外線レーザー7を照射する第四工程と、を備えることを特徴とするウインド部材の補修方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインド部材の補修方法、さらに詳しくは、樹脂製基材層の表層部にハードコート層を備えた窓部材の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート等に代表される透明樹脂材料は、比重が小さく、加工が容易で、無機ガラスに比べて衝撃に強いという特徴を生かし、耐衝撃性ガラスとして、自動車用の窓ガラスや内装材に使用されている。かかる場合、透明樹脂材料は長期にわたって太陽光に曝されることが多いため、被膜を形成することにより基材層の光劣化を抑制している。特許文献1には、樹脂基材層の表面に形成される、樹脂プライマーからなるプライマー層と、その上に可撓性付与剤を含むトップ層(ハードコート層)とを備えた被覆部材が開示されている。
【0003】
一方、自動車に装着されるガラスは走行中、例えば他車が跳ね上げた小石などにより、クラック等の傷が生じることが知られている。特許文献2〜6には、このようなガラスの傷の補修方法が開示されている。また特許文献7には、自動車のサイドシル部に生じた傷の補修方法に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−240294号公報
【特許文献2】特開2004−210617号公報
【特許文献3】特開平11−246242号公報
【特許文献4】特開平11−61099号公報
【特許文献5】特開平10−120984号公報
【特許文献6】特開2003−335132号公報
【特許文献7】特開平1−306351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2〜6に記載されている技術は、珪酸を主成分とする無機質のガラスに生じた傷を補修する技術に関するものであり、樹脂基材層を使用する窓部材にただちに適用することはできない。また、特許文献7に記載された技術は、樹脂材料の表面に生じた傷の補修に関するものではあるものの、樹脂製傷補修剤にワックス成分、あるいは金属塩成分が含まれているため、樹脂基材層に表面割れが生じるおそれがある。また樹脂基材層とハードコート層との界面にワックスの溶剤成分が浸透して、界面の密着力が阻害されるおそれがある。さらに、傷が樹脂基材層まで達していない場合に、ハードコート層の有する防汚性のために、傷補修剤がハードコート層から剥離して脱落するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、樹脂基材層上にハードコート層を備えた窓部材に適用可能であり、かつ適用した場合に、基材層の性状や基材層とハードコート層との間の密着性に悪影響を与えることのない補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
請求項1に記載の発明は、赤外線吸収剤を含有する光透過性樹脂を主成分として形成した基材層の表面にハードコート層を備えるウインド部材の、ハードコート層に生じた傷の補修方法であって、
ハードコート層に生じた傷を基材層に達するまで加工する第一工程と、
熱可塑性樹脂を主成分とする傷補修剤を加工後の傷に充填する第二工程と、
赤外線を透過する形状保持用シートを前記ハードコート層上に配置する第三工程と、
形状保持用シート上から前記加工後の傷を含む部位に赤外線レーザーを照射する第四工程と、
を備えることを特徴とするウインド部材の補修方法により前記課題を解決しようとするものである。
【0007】
ここに、本発明における「光」とは、波長1mm以下の赤外線をいうものである。
【0008】
また、本発明において「主成分とする」とは、樹脂中に酸化防止剤、耐候性剤、等の機能を有する添加剤や、フィラー等を含むことを許容する趣旨で、樹脂が全量の70質量%以上あることを示す。好ましくは90質量%以上である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のウインド部材の補修方法において、光透過性樹脂は、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、赤外線吸収剤を含有するポリカーボネート樹脂を主成分とする基材層の表面にハードコート層を備えた自動車用ウインド部材を提供して前記課題を解決しようとするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のウインド部材が自動車のサンルーフに使用されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、赤外線レーザー光の照射を受けた基材層中の赤外線吸収剤が発熱し、加工により基材層の深さまで達している傷の内部に充填された傷補修剤の熱可塑性樹脂、及び基材層の樹脂が溶融して両樹脂が溶着して一体化する。これによりいわゆるアンカー効果が生じ、堅固な補修部が形成される。また、ハードコート層は形状保持用シートに覆われているので、溶融した傷補修剤は、溶融固化してハードコート層表面と一体となる平滑面を形成する。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、光透過性を有する比較的入手の容易な汎用樹脂により、基材層を形成することができる。
【0014】
請求項3、あるいは請求項4に記載の発明によれば、かかる自動車用ウインド部材を備えた自動車は走行中に他車により跳ね上げられた小石等により、ウインド部材にクラック等の傷が生じても、請求項1又は2に記載の方法により容易かつ確実堅固な補修が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第一の形態は、赤外線吸収剤を含有する光透過性樹脂を主成分として形成した基材層の表面にハードコート層を備えるウインド部材の、ハードコート層に生じた傷の補修方法であって、
ハードコート層に生じた傷を基材層に達するまで加工する第一工程と、
熱可塑性樹脂を主成分とする傷補修剤を加工後の傷に充填する第二工程と、
赤外線を透過する形状保持用シートを前記ハードコート層上に配置する第三工程と、
形状保持用シート上から前記加工後の傷を含む部位に赤外線レーザーを照射する第四工程と、
を備えることを特徴とするウインド部材の補修方法である。
【0016】
また、本発明の他の形態は、赤外線吸収剤を含有するポリカーボネート樹脂を主成分とする基材層の表面にハードコート層を備えた自動車用ウインド部材である。以下本発明を具体的に説明する。まず、基材層、ハードコート層、傷補修剤、及び形状保持用シートの構成を説明し、その後、補修方法について述べる。
【0017】
(基材層)
本発明のウインド部材の補修方法、又はウインド部材において、基材層は赤外線吸収剤を含有する光透過性樹脂を主成分として形成する。光透過性樹脂は、ウインドとしての光透過率と遮光率との良好なバランスを図るため、光を15%〜80%程度透過するものが好ましい。本発明においては、後述するように赤外線レーザーにより、樹脂を効率的に加熱溶融させる工程を有する。従って、光透過性樹脂は赤外線をも透過するものであることが必要である。このような光透過性樹脂として、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリメタクリレート(PMMA)樹脂等の、透明熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらの中でも、窓部材としての機械的特性、加工性、耐候性等の点で、ポリカーボネート(PC)樹脂を使用することが好ましい。
【0018】
「主成分とする」とは、樹脂中に酸化防止剤、耐候性剤、等の機能を有する添加剤や、フィラー等を含むことを許容する趣旨である。樹脂の占める比率が全量基準で70質量%以上、好ましくは90質量%以上である。
【0019】
基材層を構成する樹脂中には赤外線吸収剤が含まれる。本発明における赤外線吸収剤は、補修時に外部から赤外線レーザーを照射したときに、該赤外線レーザーを吸収して発熱する機能を有するものである。かかる機能を有する赤外線吸収剤であれば本発明においては特に限定するものではないが、赤外線を吸収しやすいという観点から、無機材料としては、酸化ジルコニア(ZrO)、酸化インジウム(In)、酸化アンチモン(Sb)、酸化スズ(SnO)、有機材料として、フタロシアニン系物質、シアニン系物質、ジチオール金属錯体、アミニウム系物質、インモニウム系物質等が挙げられる。光吸収剤の基材層全体に対する好ましい含有比率は、質量基準で、0.01%〜2.0%である。かかる含有率により、レーザー光透過率を15%〜95%程度に調整することができる。
【0020】
(ハードコート層)
本発明におけるハードコート層は、基材層への密着性や、耐クラック性に優れるものであれば特に限定されない。例えば、特開2006−240294号に開示されているような、樹脂基材の表面に形成された樹脂プライマー層と、この樹脂プライマー層の上に形成された可撓性付与剤を含むトップ層をと有し、プライマー層とトップ層は紫外線吸収材を含む層構成を有するものを挙げることができる。さらに具体的には、プライマー層として、熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂と紫外線吸収剤とを含むものが挙げられ、トップ層としては、ポリシロキサン等のシリコーン系樹脂に、シリカゾル、紫外線吸収剤を加えたものが挙げられる。
【0021】
(傷補修剤)
本発明のウインド部材の補修方法における傷補修剤は、熱可塑性樹脂を主成分とすることを必須とする。補修時に赤外線レーザーを照射された際に、自ら溶融して同時に溶融された基材層樹脂と溶融混合し一体化される必要があるからである。このような熱可塑性樹脂として、ポリメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。これらの中でも、相溶性(密着性)、及びすぐれた耐候性、耐傷性の点で、ポリメタクリレート(PMMA)樹脂が好ましい。さらに、傷跡を目立たなくするという観点から、傷補修剤用の樹脂は、基材に使用されている樹脂と可視光線透過率が同率となるように調整されていることが好ましい。
【0022】
傷補修剤は、ハードコート層、基材層に生成した傷の内部まで密に充填するため、液状、あるいは紛体状であることが好ましい。さらに、ハードコート層の上面と補修後の傷の上面とを一致させる必要があり、このため傷補修剤をハードコート層上面すれすれに充填する事が好ましく、かかる作業上の観点から傷補修剤は粉体であることが好ましい。また、傷補修剤が粉体である場合傷の大きさ、形状に応じた粒径分布を備えた粉体である事が好ましく、かかる観点から粉体の平均粒径は5μm〜80μmである事が好ましい。なお、傷補修剤中に上記基材樹脂中に含まれるものと同様の赤外線吸収剤を含有させてもよい。
【0023】
(形状保持用シート)
本発明のウインド部材の補修方法における形状保持用シートは、ハードコート層及び基材層の傷に埋め込まれた傷補修剤が、ハードコート層表面と面一となるようにハードコート層上を被覆して配置されるものである。形状保持用シートは補修時にその上部に配置されたレーザー光源から照射された赤外線レーザーが、形状保持用シートを透過して、下方に配置された傷補修剤、基材層樹脂に達する必要がある。従って、形状保持用シートは、赤外線を透過する性質を有する材料により形成されている必要がある。また、補修後、溶融固化した傷補修剤から容易に剥離されることが必要である。かかる観点から、形状保持用シートを形成する材料として、シリコーン樹脂、THVなどの透明フッ素系樹脂等が好ましく使用される。
【0024】
(補修方法)
次に、図1を参照しつつ、本発明のウインド部材の補修方法に付き、説明する。図1(a)は、ハードコート層1と、基材層2との断面を深さ方向に概略的に示す図である。いま、図1(a)においては、ハードコート層1に傷3が生じた場合が示されている。
【0025】
図1(b)は、ハードコート層1に生じた傷を基材層2に達するまで加工する第一工程を示す図である。傷を基材層2に達するまで加工して、人工的な傷3aまで生成するのは、以下の理由による。すなわち、ハードコート層1は、防汚性を確保する観点から、他の材料との接着性を低くしている場合があり、傷補修剤との良好な接着を期待できない場合がある。そこで、傷補修剤と基材層とを強固に接合させて、いわゆるアンカー効果を得るため、両樹脂を溶融混合するのである。さらに、補修時に新たに傷を加工することにより、基材層、ハードコート層に新生面を露出させ、傷表面に付着した汚染物質による接着への悪影響を取り除く意義もある。なお、傷がすでに基材層まで達している場合には、第一工程を省略しても良いが、さらに加工を施して基材層に改めて新生面を露出させ、傷補修剤と基材層との確実な接合を図る事が好ましい。
【0026】
次いで、人工的な傷3aに、熱可塑性樹脂を主成分とする傷補修剤4を充填する(図1(c);第二工程)。傷補修剤4は、溶融固化後その上面が、ハードコート層1上面と一面を形成するようその充填量を調整する。次に、赤外線を透過する形状保持用シート5をハードコート層1上に配置する(図1(d)第三工程)。
【0027】
さらに、形状保持用シート5上にレーザー光照射装置6を配置し、人工的な傷(加工後の傷)3aを含む部位に赤外線レーザー7を照射する(図1(e)第四工程)。なお、レーザー光照射装置6は、ロボットアームに装着し、ロボットの走査速度により可変に構成することが好ましい。赤外線レーザーは、赤外線吸収剤を効果的に発熱させる。走査速度として、強い溶着強度を得つつ、良好な作業効率を得るという観点から100cm/分〜1000cm/分である事が好ましい。さらに好ましくは、300cm/分〜800cm/分である。同様な観点から、レーザー出力は50W〜500W、焦点径は1.0mm〜5.0mmであることが好ましい。
【0028】
溶融した基材層2、傷補修剤4が固化するのを待って、形状保持用シート5をハードコート層1上から除去し(図1(f))、傷の内部に補修部8が形成されて、補修は完了する。なお、必要に応じて、形状保持用シート5を取り去った後の、補修部8を含むハードコート層1表面を洗浄してもよい。
【実施例】
【0029】
窓部材として下記構成を有する基材層、及びその表面にハードコート層を備えたものを用意した。
基材層:ポリカーボネート樹脂に赤外線吸収剤として酸化ジルコニア(ZrO)を0.3質量%含有するもの。
ハードコート層:基材層の表面に形成された樹脂プライマー層と、この樹脂プライマー層の上に形成された可撓性付与剤を含むトップ層をと有する。プライマー層として、熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂と紫外線吸収剤とを含むもの。トップ層として、ポリシロキサン、シリカゾルに紫外線吸収剤を加えたもの。
【0030】
上記構成の窓部材のハードコート層に生じた傷(1mm×90mm×10μm)を基材層に達する人工的な傷(3mm×100cm×100μm)に加工した。この加工した傷に補修剤として平均粒径20μmのポリメタクリレート(PMMA)樹脂紛体20mgを充填した。なお、PMMA樹脂は、レーザー光透過率が90%となるよう調整した。次いで、レーザー光透過率90%のシリコーン樹脂製形状保持用シートをハードコート層上に配置し、その直上から赤外線レーザーを照射した。レーザー出力装置は、ロフィン社の半導体(ダイオード)レーザーを使用した。レーザー出力100W、レーザー波長は940nm、焦点径5.0mm、焦点距離150mm、焦点φ5mm、走査速度約500cm/分、照射時間約1.2秒で照射を行った。照射後、形状保持用シートを取り去り、ハードコート層表面を洗浄した。かかる補修作業により、強固な傷補修部が形成され、また傷補修部は目視上、目立たないものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】傷補修方法の各工程を順に概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ハードコート層
2 基材層
3 傷
3a 加工後の傷(人工的な傷)
4 傷補修剤
5 形状保持用シート
6 レーザー光照射装置
7 赤外線レーザー
8 補修部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線光吸収剤を含有する光透過性樹脂を主成分として形成した基材層の表面にハードコート層を備えるウインド部材の、前記ハードコート層に生じた傷の補修方法であって、
前記ハードコート層に生じた傷を前記基材層に達するまで加工する第一工程と、
熱可塑性樹脂を主成分とする傷補修剤を加工後の傷に充填する第二工程と、
赤外線を透過する形状保持用シートを前記ハードコート層上に配置する第三工程と、
前記形状保持用シート上から前記加工後の傷を含む部位に赤外線レーザーを照射する第四工程と、
を備えることを特徴とするウインド部材の補修方法。
【請求項2】
前記光透過性樹脂は、ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載のウインド部材の補修方法。
【請求項3】
赤外線吸収剤を含有するポリカーボネート樹脂を主成分とする基材層の表面にハードコート層を備えた自動車用ウインド部材。
【請求項4】
自動車のサンルーフに使用されることを特徴とする請求項3に記載のウインド部材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−132446(P2008−132446A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321210(P2006−321210)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】