説明

ウォーターポンプにおけるインペラ

【目的】ウォーターポンプの低速回転では吐出性能を高くし、高速回転では吐出性能を低くできると共に他の部材で吐出性能を低下させないこと。
【構成】放射方向に長溝12aが底部円板12上に複数形成された収納ケース1と、放射方向に羽根摺動長孔23が形成され且つ収納ケース1上に固定するインペラベース2と、単位羽根板31が立設された摺動板32の下面には摺動軸33が設けられた羽根体3と、両側に切欠き長溝41が形成され且つ下端に長溝12aを摺動する摺動角軸43が設けられたウェイト4とからなること。収納ケース1内に複数収納されたウェイト4が遠心力を圧縮ばね5で弾発構成し、羽根体3の摺動板32は各羽根摺動長孔23に対応しつつ摺動可能に設けられ、摺動軸33はウェイト4の切欠き長溝41を摺動可能に設けられ、圧縮ばね5の弾発力にてエンジンの低回転領域には摺動軸33がインペラベース2の外側に位置するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーターポンプの低速回転では、吐出性能を高くし、高速回転では、吐出性能を低くできると共に、他の部材で吐出性能を低下させないようにしたウォーターポンプにおけるインペラに関する。
なお、本明細書では、ウォーターポンプの吐出性能とは単位回転数あたりの吐出流量のことを意味し、ウォーターポンプの吐出流量とは単位時間あたりのウォーターポンプが吐出する冷却水の流量のことを意味する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の低燃費化に対する要請は益々高まってきている。それに対応するため、車両に搭載された各構成部品の高効率化に対する要望も益々高まってきている。車両に搭載された構成部品の中で、ウォーターポンプはエンジンや各種電子回路やヒータコア等の温度を調整し、最適な温度に保つという大事な機能を有する部品である。
【0003】
ウォーターポンプには大きく分けて、機械駆動式のウォーターポンプと電気駆動式のウォーターポンプの2種類が存在する。電気駆動式のウォーターポンプは近年採用が増加しつつあるが、価格が高価であるため、使用されている割合としては機械駆動式のウォーターポンプの方が多いというのが現状である。
【0004】
ウォーターポンプの吐出性能への寄与が大きいものとして羽根部材の外径の大きさが挙げられる。その羽根部材の外径の大きさを可変にすることによってポンプの吐出性能を可変にした文献として特許文献1が挙げられる。特許文献1の羽根部材13は第1のワックスタイプサーモスタット15及び第2のワックスタイプサーモスタット19によって径方向に移動させられるため、羽根部材13の移動のトリガーとしては冷却水の水温の高低を使用している。
【0005】
さらに、特許文献1の構成としては次の通りである。羽根部材13の根元側に円板状のディスク部材11が配置される。そのディスク部材11の外周部には90度間隔に半径方向の切欠溝11Aが設けられている。切欠溝11Aにはそれぞれ直方体形状の羽根部材13が径方向に摺動自在に設けられている。羽根部材13の内周側には棒状のガイドロッド13Aが設けられており、ポンプインペラ部材10の中心近傍まで達している。ディスク部材11の中心部には内部空間である環状室11Cが形成され、第1のワックスタイプサーモスタット15が内蔵されている。
【0006】
ディスク部材11の切欠溝11Aの回転方向の側面の近傍には柱状空間11Bが形成されて、柱状空間11Bを回動中心とするレバー部材16が設けられる。レバー部材16の回動中心には戻しばね17が取り付けられ、レバー部材16の先端部16Bが係合する羽根部材13を中心方向(径方向内周側)に付勢している。羽根部材13の軸方向反対側で、且つディスク部材11に組み合わさるようにカバー部材12が配置される。カバー部材12の中心部にも第2のワックスタイプサーモスタット19が内蔵されている。
【0007】
このような構成で、冷却水の水温が低い場合には、第1のワックスタイプサーモスタット15及び第2のワックスタイプサーモスタット19共にワックスが収縮するため、戻しばね17の付勢力によって羽根部材13は径方向内周側に移動し、羽根部材13の外径は小さくなる。これにより冷却水の水温が低い場合でのウォーターポンプの吐出性能を低くすることができる。これにより冷却水の水温が低い場合は、無駄仕事が削減される。
【0008】
逆に、このような構成で、冷却水の水温が高い場合には、第1のワックスタイプサーモスタット15及び第2のワックスタイプサーモスタット19共にワックスが膨張するため、戻しばね17の付勢力よりもワックスの力の方が上回り、羽根部材13は径方向外周側に移動し、羽根部材13の外径は大きくなる。これにより冷却水の水温が高い場合のポンプの吐出性能を高くすることができる。これにより冷却水の水温が高い時に懸念されるオーバーヒートが抑制される。
【0009】
特許文献1では、エンジンの冷却水の水温が低い場合はポンプの吐出性能を低くすることで無駄仕事を削減し、エンジンの冷却水の水温が高い場合ではポンプの吐出性能を高くすることでオーバーヒートを抑制している。しかしながら、特許文献1では次のような課題が残されている。つまり、特許文献1では、冷却水の水温に関連しており、エンジン回転数には関連していないことに重大な問題がある。
【0010】
一般には、エンジン回転数をトリガーとしてポンプの吐出性能を可変させる場合は、エンジン回転数が低回転領域ではポンプの吐出流量自体が少ないので冷却水の流量を確保するためにポンプの吐出性能を高くし、エンジン回転数が高回転領域ではポンプの吐出流量自体が多いのでキャビテーションを抑制するためにポンプの吐出性能を低くした方が良いとされている。
【0011】
ところで、特許文献1での羽根部材13には遠心力が働くため、一般的に考えれば、エンジン回転数が低回転領域では遠心力は小さいため羽根部材13は中心方向(径方向内周側)に移動し、エンジン回転数が高回転領域では遠心力は大きいため羽根部材13は径方向外周側に移動する。すると、エンジン回転数が低回転領域ではポンプの吐出性能は一層低くなり、エンジン回転数が高回転領域ではポンプの吐出性能は一層高くなるため、所望の制御と逆となってしまい使用できない重大な欠点が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−321797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このため、本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的等)は、遠心力が作用しながらも、エンジン回転数が低回転領域では吐出性能を高くし、エンジン回転数が高回転領域では吐出性能を低くすると共に、確実に動作するようにしたウォーターポンプのインペラの開発を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、放射方向に長溝が底部円板上に複数形成された収納ケースと、放射方向に複数の羽根摺動長孔が形成され且つ前記収納ケース上に固定するインペラベースと、単位羽根板が立設された摺動板の下面には摺動軸が設けられた羽根体と、両側に切欠き長溝が形成され且つ下端に前記長溝を摺動する摺動角軸が設けられたウェイトとからなり、前記ウェイトが前記収納ケース内に複数収納され、前記ウェイトと該ウェイトが遠心力にて放射方向に摺動する側と前記収納ケースの外側間には圧縮ばねが介在され、前記羽根体の摺動板は前記インペラベースの各羽根摺動長孔に対応しつつ摺動可能に設けられると共に、前記摺動軸は前記ウェイトの切欠き長溝を摺動可能に設けられてなり、前記圧縮ばねの弾発力にてエンジンの低回転領域には前記摺動軸が前記インペラベースの外側に位置するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラとしたことにより、前記課題を解決した。
【0015】
請求項2の発明を、請求項1において、エンジンの高回転領域には前記ウェイトに加わる圧縮ばねの弾発力に抗して前記摺動角軸が前記長溝を放射方向に外方に摺動すると共に、前記羽根体の摺動板は前記インペラベースの羽根摺動長孔の内側に摺動するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラとしたことにより、前記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記インペラベースの隣接する羽根摺動長孔間の角度よりは、前記両切欠き長溝間の角度が小さくなるように形成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラとしたことにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明では、エンジン回転数が低回転領域ではインペラを径方向外周側に位置させて、吐出性能を高くでき、エンジン回転数が高回転領域ではインペラを通常とは逆方向の動作である径方向内周側に移動させることにより、ウォーターポンプの吐出性能を低下させることができる。これによりキャビテーションの抑制とウォーターポンプの無駄仕事の削減が達成できる。
【0017】
また、本発明では、インペラ部分だけで構成されており、インペラ部分以外のウォーターポンプ部分は全く変更する必要が無いため、既存品への適応も容易に行える利点がある。他の部材で吐出性能を低下させないようにできる利点がある。さらに、請求項2及び3の発明においては、請求項1と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は羽根体全体が最小径となった本発明の斜視図、(B)は羽根体全体が最大径となっており、且つ左右側が異なる箇所とした本発明の断面図、(C)はウェイト箇所に左右側の羽根体が遊挿された状態の要部断面図である。
【図2】(A)は本発明の分解斜視図、(B)は(A)のP−P矢視断面図である。
【図3】(A)は低回転領域における本発明の平面図、(B)は(A)において圧縮ばねが作用してウェイトが動かない状態図、(C)は高回転領域における本発明の平面図、(D)は(C)において圧縮ばねに対抗しているウェイトが動いている状態図である。
【図4】(A)は本発明の主要部材の斜視図、(B)は低回転領域における本発明の動作状態図、(C)は高回転領域となる本発明の動作状態図である。
【図5】(A)は低回転領域における本発明の動作状態図、(B)は(A)の直後の本発明の動作状態図、(C)は本発明の動作状態を示す略示図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明すると、図1乃至図2は本発明の実施形態図である。本発明のウォーターポンプのインペラは、主に、収納ケース1,インペラベース2,羽根体3,ウェイト4,圧縮ばね5とから構成されている。前記収納ケース1は、中央のボス部11の下端より外方に底部円板12が形成され、該底部円板12の最外周囲に立上り部13が形成されている。前記ボス部11と立上り部13とは同等高さに形成されている。前記底部円板12は厚肉に形成されると共に、放射状に複数(実施形態では3本)の長溝12aが形成されている。
【0020】
前記ボス部11と底部円板12と立上り部13との収納箇所に、前記ウェイト4及び圧縮ばね5が収納される。前記ボス部11には、ウォーターポンプの回転軸が挿入固定される。ボス部11の孔部11aと回転軸との固定手段としては、インペラベースと同様に、キー止め若しくは圧入等であるが、キー止めの場合は前記ボス部11の孔部11a内にキー溝が設けられることもある。
【0021】
前記インペラベース2は、中央に膨出部21が形成されつつ周囲は円板部22が形成され、平面的には前記収納ケース1と同形状をなしている。前記円板部22には、放射方向に羽根摺動長孔23が形成されている。該羽根摺動長孔23を前記羽根体3が摺動するように構成されている。実施形態では、6枚の羽根体3が、円周を等間隔にした6本の羽根摺動長孔23にそれぞれ設けられている。前記羽根体3の摺動する距離は、図1(A)及び(B)に示すように、ストロークSとして構成されている。前記インペラベース2が前記収納ケース1の上側に載置されて蓋としての役割をなす。
【0022】
前記羽根体3は、傾斜形成された単位羽根板31が方形状の摺動板32の上面に一体形成されている。該摺動板32は、前記羽根摺動長孔23を摺動可能に設けられている。具体的には、前記摺動板32の両側の摺動側部32a,32aが、前記羽根摺動長孔23の摺動側壁23a,23aに摺動(スライド)可能に構成されている。さらに、前記摺動板32の下面には、摺動軸33が一体形成されている。
【0023】
前記ウェイト4は、インペラの回転に応じての遠心力にて放射方向にスライドする部材である。具体的には変形3の字状をなしている。切欠き長溝41,41が左右対称に設けられ、平面的に見てハの字状をなしている。この平面的に見た切欠き長溝41,41の角度βとする。実施形態では、45度となっている。両切欠き摺動溝41,41の中央には凹部42が形成され、ここに前記圧縮ばね5が介在される。前記ウェイト4の略中央下側には、断面方形状の摺動角軸43が設けられている。該摺動角軸43が前記底部円板12の長溝12aを摺動する。
【0024】
本発明の動作について説明する。まず、エンジン回転数が低回転領域では圧縮ばね5の弾発力(付勢力)の方がウェイト4の遠心力よりも大きいため、ウェイト4は径方向内周側(中心側)に位置している〔図1(B),図3(A)及び(B)参照〕。同時に、そのウェイト4に対応して前記羽根体3は径方向外周側に位置している〔図1(B),図3(A)及び(B)参照〕。つまり、前記羽根体3全体の外形円は最大径をなしている。エンジン回転数が低回転領域は元々ウォーターポンプの吐出流量は少ないため、本発明のようにウォーターポンプの吐出性能を高くすることで、冷却水不足を解消できる。
【0025】
また、エンジン回転数が高回転領域では圧縮ばね5の弾発力(付勢力)よりもウェイト4の遠心力の方が大きくなって、ウェイト4は径方向外周側に位置するようになる〔図3(B)から(C)状態〕。すると、ウェイト4の角度βの切欠き長溝41が図3(B)において上方に動くと前記羽根体3の摺動軸33が下方向に動く。この動作は、該摺動軸33に一体化された羽根体3は、角度αで摺動可能に構成された前記インペラベース2の羽根摺動長孔23を内方に動く。
【0026】
この点を、詳細に説明すると、図5(A)に示すように、前記摺動軸33の外形をかなり太径とし、該摺動軸33が遊挿されているウェイト4が径方向外周側に移動(実際には遠心力で図5(A)において上側移動)すると、角度βの切欠き長溝41ゆえに、下方向の力Pβとなるが、ここで前記摺動軸33に固着された前記羽根体3の摺動軸33は角度αで摺動可能に構成されているために、下方向の力Pαとなって角度α方向の下方側に進み、図5(B)の状態となり、さらにウェイト4が径方向外周側に移動(実際には遠心力で図5(B)において上側移動)すると、羽根体3は、摺動軸33は下方向の力Pαとなって角度α方向に進む。この様子を単純化すると、図5(C)の状態である。
【0027】
また、このような状態を簡略化すると、図4(A)において、遠心力にてウェイト4が向う側に移動すると、同時に羽根体3は手前側に移動するものである。つまり、図4(B)に示すように、エンジン回転数が低回転領域では圧縮ばね5の弾発力(付勢力)の方がウェイト4の遠心力よりも大きくなっており、前記羽根体3は径方向外周側に位置している。このとき前記インペラベース2の中心から摺動軸33までの距離は最大でLとなっている〔図4(B)参照〕。そして、高回転領域となると、圧縮ばね5の弾発力(付勢力)よりもウェイト4の遠心力の方が大きくなって、ウェイト4は径方向外周側に位置するようになる〔図4(B)から(C)状態〕。
【0028】
同時に、摺動軸33はβ角度の下方向と共に、羽根体3は角度αの下方向に進み、図4(C)の状態となり、該羽根体3は中心側に移動し、前記羽根体3全体の外形円は最小径をなす。このとき前記インペラベース2の中心から摺動軸33までの距離は少ない距離L´〔図4(C)参照〕となる。このようにエンジン回転数が高回転領域では、ウォーターポンプの吐出性能を低くすることで、キャビテーションを回避できる。
【0029】
ウォーターポンプの吐出性能を変更させる回転数となる所望の回転数を変更するためにはウェイト4の重さを変更するか、或いは圧縮ばね5のスプリングの強さを変えさえすれば良い。つまり、ウェイト4の重さや圧縮ばね5のスプリングの強さを適宜変更することで、ウォーターポンプの吐出性能の変更も容易にできる。
【符号の説明】
【0030】
1…収納ケース、12…底部円板、12a…長溝、2…インペラベース、
23…羽根摺動長孔、3…羽根体、31…単位羽根板、32…摺動板、33…摺動軸、
4…ウェイト、41…切欠き長溝、43…摺動角軸、5…圧縮ばね。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射方向に長溝が底部円板上に複数形成された収納ケースと、放射方向に複数の羽根摺動長孔が形成され且つ前記収納ケース上に固定するインペラベースと、単位羽根板が立設された摺動板の下面には摺動軸が設けられた羽根体と、両側に切欠き長溝が形成され且つ下端に前記長溝を摺動する摺動角軸が設けられたウェイトとからなり、前記ウェイトが前記収納ケース内に複数収納され、前記ウェイトと該ウェイトが遠心力にて放射方向に摺動する側と前記収納ケースの外側間には圧縮ばねが介在され、前記羽根体の摺動板は前記インペラベースの各羽根摺動長孔に対応しつつ摺動可能に設けられると共に、前記摺動軸は前記ウェイトの切欠き長溝を摺動可能に設けられてなり、前記圧縮ばねの弾発力にてエンジンの低回転領域には前記摺動軸が前記インペラベースの外側に位置するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラ。
【請求項2】
請求項1において、エンジンの高回転領域には前記ウェイトに加わる圧縮ばねの弾発力に抗して前記摺動角軸が前記長溝を放射方向に外方に摺動すると共に、前記羽根体の摺動板は前記インペラベースの羽根摺動長孔の内側に摺動するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記インペラベースの隣接する羽根摺動長孔間の角度よりは、前記両切欠き長溝間の角度が小さくなるように形成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214534(P2011−214534A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84694(P2010−84694)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】