説明

ウォームシャフト、ウォームシャフトの製造方法、および電動パワーステアリング装置

【課題】 噛合い率やウォームホイールの耐久性を低下させることなく、歯先と歯底との干渉を回避したウォームシャフトを提供する。
【解決手段】 ウォームシャフトの歯部は、その歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さに形成される低歯丈部を有し、ウォームホイールの回転中心を通り、基部の回転軸と直交する仮想線を定義し、低歯丈部は、仮想線と基部の回転軸との交点を含み、かつ他の領域よりも歯丈が短く形成されることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームシャフトおよびこのウォームシャフトを適用した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示される電動パワーステアリング装置は、減速器にウォーム歯車を使用している。このようなウォーム歯車の強度を向上させるために、ウォームホイールの歯丈を短くする、換言すれば、歯底を底上げした形状とすることができる。
【特許文献1】特開2007−331662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら歯底を底上げした形状とした場合、ウォームシャフトの歯先がウォームホイールの歯底と干渉するおそれがある。このように歯先と歯底が干渉するのは、ウォームシャフトの歯先のうち、最もウォームホイールに深く入り込む部分である。この干渉を防止するため、ウォームシャフトの歯先全てを短くした場合、噛合い率が低下したり、ウォームホイールの荷重入力点が歯元側から歯先側に偏倚し、ウォームホイールの耐久性が低下する、という問題があった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、噛合い率やウォームホイールの耐久性を低下させることなく、歯先と歯底との干渉を回避したウォームシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、ウォームシャフトの歯部は、その歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さに形成される低歯丈部を有し、ウォームホイールの回転中心を通り、基部の回転軸と直交する仮想線を定義し、低歯丈部は、仮想線と基部の回転軸との交点を含み、かつ他の領域よりも歯丈が短く形成されることとした。
【0006】
よって、噛合い率やウォームホイールの耐久性を低下させることなく、歯先と歯底との干渉を回避したウォームシャフトを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のウォームシャフトおよび電動パワーステアリング装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は本願ウォーム歯車を適用した電動パワーステアリング装置のシステム構成図である。電動パワーステアリング装置は、モータ制御装置1、ステアリングホイールSW、ステアリングシャフトSS、トルクセンサTS、入力軸IN、ラック&ピニオン(操舵機構:ラックR、ピニオンP)、転舵輪FL,FR、およびECU300を有する。モータ制御装置1内にはモータMが設けられ、電源BATTにより駆動される。
【0009】
運転者によりステアリングホイールSWが操舵されると、ステアリングシャフトSSおよび入力軸INを介して操舵トルクがトルクセンサTSにより検出される。検出された操舵トルクに基づき、ECU300はモータMに対し駆動信号を出力し、モータ制御装置1内のモータMが駆動されてピニオンPが回転し、ラックRを軸方向移動させて操舵アシストを行う。
【0010】
[軸方向断面図]
図2はモータ制御装置1の軸方向断面図、図3は径方向部分断面図である。モータ制御装置1は、トルクセンサTS、モータハウジング6、ウォームハウジング7、モータMを有する。
【0011】
入力軸INの軸方向をy軸とし、ピニオンPと反対方向を正とする。また、モータMから入力軸IN側をx軸正方向とする。なお、ウォームホイール100の回転中心を通り、基部200aの回転軸Lと直交する仮想線Kを定義する。
【0012】
本願ではウォームホイール100の歯にかかる圧力を低減するため、ウォームホイール100およびウォームシャフト200は一般的なインボリュート歯形ではなく、歯面210aを曲面とするニーマン歯形とする。すなわち、ウォームシャフト200の歯面210aを凹曲面とし、ウォームホイール100の歯面はインボリュート歯面よりも外側に凸である曲面とする。
【0013】
このため、ウォームホイール100およびウォームシャフト200の噛合いにおける圧力角は噛合い位置で変化し、ウォームホイール100の歯にかかる曲げ応力が低減される。また、ウォームシャフト200の歯面210aの断面形状を凹形状とすることにより、ウォームホイール100の歯面210aの断面形状をその分太らせてウォームホイール100の強度を向上させる。
【0014】
トルクセンサハウジング5内には入力軸INが設けられ、ウォームハウジング7内にはピニオンPが設けられている。モータハウジング6内には、ブラシレスタイプのモータMが収装され、入力軸IN及びピニオンPに対し径方向から組み付けられている。なお、モータMはブラシレスタイプでなくともよい。
【0015】
入力軸INとピニオンPはトーションバー3により一体とされ、ピニオンPにはウォームホイール100が組み付き、y軸正方向からウォームハウジング7に格納されている。また、ウォームハウジング7にはモータハウジング6が組み付けられている。
【0016】
ウォームシャフト200はモータMの出力軸とカップリング機構9によって接続するとともに、ウォームホイール100と噛合う。また、ウォームシャフト200は軸受15および第1与圧機構400(付勢機構)によってz軸方向位置をほぼ固定されつつモータハウジング6に支持される。
【0017】
軸受15はカップリング機構9のz軸正方向側に隣接して設けられ、ウォームシャフト200のz軸負方向側端部を支持する。また、第1与圧機構400はウォームシャフト200のz軸正方向側端部を支持する。
【0018】
第1与圧機構400は与圧を発生させてウォームシャフト200をx軸正方向側に付勢する機構であり、これによりウォームシャフト200とウォームホイール100間のバックラッシュを低減する。
【0019】
入力軸INはトルクセンサハウジング5に支持されるとともに、ピニオンPの端部によって相対回転可能に支持される。トルクセンサハウジング5の内周にはトルクセンサTSが格納され、運転者の操舵によりトーションバー3が捩れて入力軸INとピニオンPが相対回転すると、トルクセンサ信号を出力する構成となっている。
【0020】
ピニオンPはウォームハウジング7に支持される。このピニオンPの外周側はウォームホイール100が設けられ、モータMに接続されたウォームシャフト200と噛合う。
【0021】
ECU300はマイクロコンピュータを有し、各種車両信号、トルクセンサTS、モータMの制御回路を一体とした回路基板であって、モータMの制御を行う。ECU300にはモータMの回転を検出する回転位置センサ130が設けられている。
【0022】
[ウォームシャフトの詳細]
図4はウォームシャフト200の径方向正面図である。上述のように本願ウォームシャフト200はニーマンウォームであり、棒状の基部200aに歯部210が設けられている。歯部210の直角方向断面における歯面形状は凹円弧形状である。
【0023】
また、ウォームシャフト200のz軸方向略中央部であってウォームホイール100と噛み合う部分は、他の部分よりも低い歯丈に設けられている。噛合い部分の歯丈を低く設けることで、バックラッシュを低減するものである。詳細は後述する。
【0024】
[ウォームホイールの詳細]
(正面図及び断面図)
図5はウォームホイール100の径方向部分断面図である。ウォームホイール100は金属歯車である芯金101に樹脂で形成された被覆部102を施した歯車であり、被覆部102は芯金101の歯部全周にわたって被覆されている。
【0025】
芯金101を設けることでウォームホイール100全体としての高強度化と滑らかな噛合いを実現するものである。なお、芯金101は切削により形成してもよいし、焼結により形成してもよい。
【0026】
このウォームホイール100の歯部110はニーマン形状であるウォームシャフト歯部210の凹円弧形状に対応する凸円弧形状の歯型を有する。これにより、ウォームホイール100とウォームシャフト200とでニーマンウォームを形成する。
【0027】
[与圧機構]
図6は第1与圧機構400のz軸負方向正面図、図7は図6のI−I断面図、図8は組み付け時における第1与圧機構400付近のz軸方向断面図である。第1与圧機構400は樹脂等の弾性材料で形成されたカップ状部材であり、底部410にx軸方向の切欠440を設けることで固定部420および付勢部430を形成する。
【0028】
切欠440は第1与圧機構400の外周401からx軸正方向側に形成される。このため第1与圧機構400のx軸負方向側部分はy軸方向に3分割され、外径側の固定部420と内径側の付勢部430が形成される。付勢部430における外周401は外周401における他の部分とは分割され、付勢部外周401aとなる。
【0029】
外周401および付勢部外周401aにはそれぞれOリング450を収装する周方向の溝403、403aが設けられている。この溝403,403aにOリング450を嵌め込むことで、付勢部外周401aはOリング450の弾性力により内周方向(x軸正方向側)に付勢される。
【0030】
ウォームシャフト200は外周401および付勢部外周401aの内径側に軸受16を介して組みつけられるため(図8参照)、Oリング450の付勢力により付勢部430とともにウォームシャフト200もx軸正方向側に付勢される。ウォームシャフト200のx軸正方向側にはウォームホイール100が設けられており、これによりウォームシャフト200がウォームホイール100に対し付勢される。
【0031】
[ウォームホイール分解斜視図]
図9はウォームホイール100の分解斜視図である。ウォームホイール100は本体である歯部110と、歯部110をy軸両方向側から挟持する第1、第2フランジ120,130から形成される。第1フランジ120はy軸正方向側に設けられ、第2フランジ130はy軸負方向側に設けられる。また、第2フランジ130は歯部110の内周側に挿入される挿入部130aを有する。
【0032】
歯部110にはy軸方向の貫通孔111が複数設けられている。一方、第1フランジ120であって歯部110の貫通孔111と互いに対応する位置には、y軸方向の貫通孔121が複数設けられている。この貫通孔111,121にボルトBを挿通し、第2フランジ130のボルト締結孔132に締結することで、第1、第2フランジ120,130によって歯部110を挟持する。
【0033】
また、第2フランジ130にも歯部110の貫通孔111と対応する位置に貫通孔131が設けられ、ボルトBを第1フランジ120のボルト締結孔122に締結することにより、第1、第2フランジ120,130により歯部110を挟持する。
【0034】
歯部110における貫通孔111の内周には第2与圧機構140(付勢機構)が挿入される。この第2与圧機構140は弾性体で形成され、ボルトBを挿通可能な円筒形状であって、歯部110に挿入されてボルトBと歯部110との緩衝を行う。
【0035】
また、ウォームシャフト200が第1与圧機構400によりx軸正方向側に付勢される際はウォームシャフト200からの押圧力がウォームホイール100に対して作用するが、第2与圧機構140の弾性変形によりウォームシャフト200からの押圧力が緩衝されて噛合いに悪影響を及ぼすことがない。
【0036】
また、第2与圧機構140自体の弾性力によってウォームホイール100がウォームシャフト200側に付勢されるため、第1与圧機構400に加えて第2与圧機構140によってもバックラッシュを低減することが可能な構成となっている。
【0037】
[ウォームシャフトの詳細]
図10は歯切り前と歯切り後におけるウォームシャフト200の模式図である。説明のためニーマン歯形ではなく通常の歯型とする。ウォームシャフト200のピッチ円径は一定である。
【0038】
歯切り前のウォームシャフト200は、歯部210が形成される未加工部201のうち、z軸方向略中央部202はあらかじめ他の部分よりも小径に設けられている。したがって加工後の歯部210のうち、x軸方向略中央部は他の部分よりも歯丈が低い低歯丈部220となる。
【0039】
この低歯丈部220は、ウォームホイール100の回転中心を通って回転軸Lと直交する仮想線Kとの交点Hを含んで形成される。また、低歯丈部220の歯先は、z軸に平行であって基部200aの回転軸Lと平行な面とほぼ一致するように形成される。これにより、低歯丈部220を容易に形成するものである。
【0040】
また、x軸方向略中央部202に低歯丈部220を形成することで、歯部210であってウォームホイール100と噛み合わない部分に低歯丈部220が形成されることがなく、無駄な加工を省略する。
【0041】
[低歯丈部形成工程]
低歯丈部220を有するウォームシャフト200は、以下の工程を経て形成される。
【0042】
(第1工程:凹部形成)
棒状の素材である未加工部201のうち、歯部210と噛み合うウォームホイール100の回転中心を通り、回転軸Lと仮想線Kとの交点Hを含むz軸方向略中央部202を、未加工部201の他の部分よりも小径に加工して凹部を形成する。加工は切削でもよいし、型形成でもよい。
【0043】
(第2工程:歯型形成)
未加工部201に歯型を形成する。これにより未加工部201に歯部210が形成され、あらかじめ小径に設けられたz軸方向略中央部202は、低歯丈部220となる。従来のウォームシャフト200の製造方法に対し、棒状の素材の外周に凹部を設ける工程を追加するのみで低歯丈部220を設けることが可能である。
【0044】
[ウォームの噛合い]
図11はウォームシャフト200とウォームホイール100の噛合い部分の拡大断面図である。なお、上述のようにウォームシャフト200のピッチ円径は一定であり、このピッチ円はz軸に平行な直線である。
【0045】
ウォームホイール100は回転により噛み合う歯が順次移動する一方、ウォームシャフト200はz軸方向位置がほぼ固定されている(図2参照)。そのため、ウォームシャフト200の歯部210においては常に同じ3歯がウォームホイール100と噛み合う。
【0046】
ウォームシャフト200において常時噛み合う歯をz軸負方向側から順に第1歯211、第2歯212、および第3歯213とする。本願ウォームシャフト200の歯部210のうちx軸方向略中央部には低歯丈部220が形成されるため、真ん中の第2歯212は、両脇の第1、第3歯211,213よりも歯丈が低い。
【0047】
ここで、低歯丈部220を設けず、第1〜第3歯211〜213の歯丈を全て同じ高さとした場合、ウォームホイール100に最も深く入り込む歯は真ん中の第2歯212'(図中11の破線)である。したがって強度を向上させるためにウォームホイール100の歯丈を短くした場合、第2歯212がウォームホイール100の歯底と干渉するおそれがある。
【0048】
一方、第2歯212の干渉を防止するためウォームシャフト200の歯部210全ての歯丈を短くした場合、噛合い率が低下するおそれがある。またウォームシャフト200の歯丈を短くすると、噛み合い点(噛み合い時の荷重入力点)がウォームホイール100およびウォームシャフト200ともに歯元側から歯先側に偏倚する。
【0049】
ニーマン歯形は通常のインボリュート歯形よりも歯先が細く形成されるため、噛み合い点が歯先側に移動することにより噛み合いが浅くなり、耐久性が低下してしまう。とりわけ浅く噛み合う第1、第3歯211,213においては、噛み合い点が歯先側に移動することによりさらに噛み合いが浅くなる。
【0050】
本願では低歯丈部220を設けることで第2歯212の歯丈を低く設定しているため、両脇の第1、第3歯211,213の歯丈は従来のままとなる。よって、第1、第3歯211,213の噛み合い率を低下させることなく第2歯212の干渉を回避する。
【0051】
また、ウォームホイール100であって、低歯丈部220の歯先と接する第1仮想円の半径rは、ウォームシャフト200とウォームホイール100の噛み合いピッチ円の半径R以下に設けられている。低歯丈部220の歯先は第1仮想円に沿って形成されるため、第1仮想円の半径rが噛み合いピッチ円の半径R以上であると低歯丈部220の歯丈が低くなりすぎ、噛み合い率が低下してしまう。
【0052】
したがって第1仮想円の半径rを噛み合いピッチ円の半径R以下とすることで、低歯丈部220はz軸方向中央部(第2歯212)で最も歯丈が低くなり、z軸方向両側(第1、第3歯211,213)で歯丈が高くなる。よって、低歯丈部220の軸方向両側におけるウォームシャフト200の歯丈を十分に確保する。
【0053】
なお、低歯丈部220の形成範囲は、基部200aの回転中心軸Lを中心として360°以内であって、ウォームシャフト200をz軸方向断面で見たとき、低歯丈部220は1枚の歯である第2歯212のみに形成され、その両側の歯である第1、第3歯211,213には形成されない。このため第1、第3歯211,213の歯丈が確保され、ウォームシャフト200とウォームホイール100との噛み合いを十分に確保するものである。
【0054】
また、ウォームシャフト200の歯先とウォームホイール100の歯底との間の隙間は、低歯丈部220の隙間がこの低歯丈部220の両側の隙間以上となるように形成されることとした。
【0055】
仮に、ウォームシャフト200とウォームホイール100との噛み合いが深くなった場合であっても、低歯丈部220においては歯先よりも歯面が先にウォームホイール100の歯面に当接する。このため低歯丈部220においてウォームシャフト200とウォームホイール100との歯底の干渉を防止しつつ、ウォームシャフト200とウォームホイール100との噛み合いを十分に確保する。
【0056】
なお、ウォームホイール100の歯は樹脂材料で形成されるため、樹脂の弾性変形により、ウォームシャフト200とウォームホイール100のバックラッシュが抑制される。
【0057】
また、ウォームホイール100を樹脂材料で形成した場合、ウォームホイール100の摩耗と第1、第2与圧機構400,140の付勢によりウォームシャフト200の噛み合い深さが深くなっていくが、この場合であっても、低歯丈部220によってウォームシャフト200の歯先とウォームホイール100の歯底との干渉が防止される。
【0058】
[実施例1の効果]
(1)棒状の基部200aと、この基部200aの外周側に設けられた螺旋状の歯部210と、から構成され、ウォームホイール100と噛み合うウォームシャフト200であって、
歯部210は、その歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さに形成される低歯丈部220を有し、
ウォームホイール100の回転中心を通り、基部200aの回転軸Lと直交する仮想線Kを定義し、
低歯丈部220は、仮想線Kと基部200aの回転軸Lとの交点を含み、かつ他の領域よりも歯丈が短く形成されることとした。
【0059】
低歯丈部220を設けることにより、ウォームシャフト200の歯先とウォームホイール100の歯底との干渉を防止することができる。また、低歯丈部220以外の領域においては歯丈が十分な高さに形成されているため、噛み合い率の低下やウォームホイール100の耐久性の低下を防止することができる。
【0060】
(2)歯部210であって、ウォームホイール100と噛み合う歯面210a(噛み合い部)の断面形状は凹型形状であることとした。
【0061】
ウォームシャフト200の歯面210aの断面形状を凹形状とすることにより、ウォームホイール100の歯面210aの断面形状をその分太らせることができる。よって、ウォームホイール100の強度を向上させることができる。
【0062】
(3)(9)ウォームホイール100であって、低歯丈部220の歯先と接する第1仮想円の半径rは、ウォームシャフト200とウォームホイール100の噛み合いピッチ円の半径R以下であることとした。
【0063】
第1仮想円の半径rを噛み合いピッチ円の半径R以下とすることで、低歯丈部220はz軸方向中央部(第2歯212)で最も歯丈が低くなり、z軸方向両側(第1、第3歯211,213)で歯丈が高くなる。よって、低歯丈部220の軸方向両側におけるウォームシャフト200の歯丈を十分に確保することができる。
【0064】
(4)低歯丈部220の歯先は、基部200aの回転軸Lと平行な面とほぼ一致するように形成されることとした。低歯丈部220の歯先を平らな面形状とすることにより、低歯丈部220を容易に形成することができる。
【0065】
(5)低歯丈部220は、歯部210の軸方向略中央部に形成されることとした。これにより、ウォームシャフト200の歯部210のうち、ウォームホイール100と噛み合わない部分に低歯丈部220を形成するための無駄な加工を省略することができる。
【0066】
(6)低歯丈部220の形成範囲は、基部200aの回転中心を中心として360°以内であることとした。
【0067】
ウォームシャフト200を軸方向断面で見たとき、低歯丈部220は1枚の第2歯212のみに形成され、その両側の第1、第3歯211,213には形成されていない。よって、第1、第3歯211,213の歯丈を確保し、ウォームシャフト200とウォームホイール100との噛み合いを十分に確保することができる。
【0068】
(7)ステアリングホイールSWの回転を転舵輪に伝達するラックRおよびピニオンP(操舵機構)と、
操舵機構に操舵アシスト力を付与する電動モータMと、
操舵機構に設けられたウォームホイール100と、
電動モータMの出力軸に設けられ、ウォームホイール100と噛み合うウォームシャフト200を有する電動パワーステアリング装置に、本願ウォームシャフト200を適用することとした。
【0069】
これにより、電動パワーステアリング装置にあっても、上記(1)と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(8)ウォームシャフト200の歯先とウォームホイール100の歯底との間の隙間は、低歯丈部220の隙間がこの低歯丈部220の両側の隙間以上となるように形成されることとした。
【0071】
仮に、ウォームシャフト200とウォームホイール100との噛み合いが深くなった場合であっても、低歯丈部220においては歯先よりも歯面が先にウォームホイール100の歯面に当接するため、低歯丈部220においてウォームシャフト200とウォームホイール100との歯底の干渉を防止しつつ、ウォームシャフト200とウォームホイール100との噛み合いを十分に確保することができる。
【0072】
(10)ウォームシャフト200をウォームホイール100側に付勢する第1与圧機構400(付勢機構)をさらに有することとした。
【0073】
ウォームシャフト200とウォームホイール100のバックラッシュを抑制することができる。また、ウォームホイール100を樹脂材料で形成した場合、ウォームホイール100の摩耗と付勢機構の付勢によりウォームシャフト200の噛み合い深さが深くなっていくが、この場合であっても、低歯丈部220によってウォームシャフト200の歯先とウォームホイール100の歯底との干渉を防止することができる。
【0074】
(11)ウォームホイール100をウォームシャフト200側に付勢する第2与圧機構140(付勢機構)をさらに有することとした。これにより、上記(10)と同様の効果を得ることができる。
【0075】
(12)ウォームホイール100の歯は樹脂材料で形成されることとした。
【0076】
樹脂の弾性変形により、ウォームシャフト200とウォームホイール100のバックラッシュを抑制することができる。また、ウォームホイール100を樹脂材料で形成した場合、ウォームホイール100の摩耗と第1、第2与圧機構400,140の付勢によりウォームシャフト200の噛み合い深さが深くなっていくが、この場合であっても、低歯丈部220によってウォームシャフト200の歯先とウォームホイール100の歯底との干渉を防止することができる。
【0077】
(13)棒状の基部200aと、この基部200aの外周側に設けられ、歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さを有する螺旋状の歯部210を形成する歯形成工程と、
歯部210と噛み合うウォームホイール100の回転中心を通り、基部200aの回転軸Lと直交する仮想線Kを定義し、
仮想線Kと基部200aの回転軸Lとの交点を含み、かつ他の領域よりも歯部210の歯丈が短くなるように形成する低歯丈部220の形成工程とを有することとした。
【0078】
これにより、上記(1)と同様の効果が得られる。
【0079】
(14)低歯丈部220の形成工程は、棒状の素材をこの素材の外径が所定の領域において他の領域よりも小さくなるように形成することによって行われ、この後、歯型形成工程が行われることとした。
【0080】
従来のウォームシャフト200の製造方法に対し、棒状の素材の外周に凹部を設ける工程を追加するのみで低歯丈部220を設けることができる。
【実施例2】
【0081】
実施例2につき説明する。基本構成は実施例1と同様である。実施例1ではウォームシャフト200の歯型形成前にあらかじめz軸方向略中央部202を小径に加工していたが、実施例2では歯型を形成した後、歯部210のうち低歯丈部220に相当する部分の歯丈を低く加工する点で異なる。
【0082】
[実施例2における低歯丈部形成工程]
図12は実施例2における低歯丈部220形成工程を示す図である。実施例2においては、あらかじめ全て同じ歯丈の歯部210を形成した後、低歯丈部220に相当する部分を切削することで低歯丈部220を形成する。
【0083】
(第1工程:歯型形成)
未加工部201に歯型を形成する。
【0084】
(第2工程:低歯丈部形成)
歯部210のうち、回転軸Lと仮想線Kとの交点Hを含むz軸方向略中央部202をカッター500により切削し、歯丈を低くして低歯丈部220を形成する。
【0085】
[実施例2の効果]
(17)低歯丈部220の形成工程は、歯部210の形成工程の後、歯部210の交点Hを含む所定範囲を切削することにより行われることとした。従来のウォームシャフト200の製造方法に対し、歯成形後の歯部210の一部を切削する工程を追記するのみで、低歯丈部220を設けることができる。
【0086】
(18)低歯丈部220の形成工程は、基部200aの回転軸Lと平行にカッター500をスライドさせることにより、歯部210の所定範囲を切削することで行われることとした。カッター500を単純なスライドという動きをさせるのみで低歯丈部220を形成することができる。
【0087】
(19)低歯丈部220の形成工程は、ウォームシャフト200の回転軸Lと平行な回転軸Lを中心に回転する円形のカッターにより歯部210の所定範囲を切削することで行われることとした。低歯丈部220を複数枚の歯(ウォームシャフト200を軸方向断面で見たとき)に一度に形成することができる。
【0088】
(20)円形のカッター500の半径rは、ウォームシャフト200とウォームホイール100の噛み合いピッチ円の半径R以下であることとした。これにより、上記(3)と同様の効果を得ることができる。
【0089】
(21)ウォームシャフト200における歯部210のピッチ円径は一定であって、このピッチ円の外径は回転軸Lに対し平行であることとした。これにより、上記(1)と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0090】
実施例3につき説明する。実施例2では切削により低歯丈部220を形成したが、実施例3では塑性変形により形成する点で異なる。塑性変形は、歯部210の表面仕上げと同時に行われる。
【0091】
[実施例3における低歯丈部形成工程]
図13は実施例3における低歯丈部220形成工程を示す図である。
(第1工程:歯型形成)
未加工部201に歯型を形成する。
【0092】
(第2工程:低歯丈部形成)
工具600により歯部210に表面仕上げを行う。また、歯部210のうち、回転軸Lと仮想線Kとの交点Hを含むz軸方向略中央部202に工具600を押し当てて塑性変形させ、歯丈を低くして低歯丈部220を形成する。
【0093】
[実施例3の効果]
(15)低歯丈部220の形成工程は、棒状の素材の表面仕上げと同じ工程において行われることとした。特に加工工程を追加することなく、低歯丈部220を形成することができる。
【0094】
(16)棒状の素材の外径が所定の領域において他の領域よりも小さくなるように形成する工程は、塑性加工によって行われることとした。塑性変形による材料の硬化により、歯部210の強度向上を図ることができる。とりわけ、熱処理しないウォームシャフト200における効果が大きい。
【0095】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本願ウォーム歯車を適用した電動パワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図2】モータ制御装置の軸方向断面図である。
【図3】モータ制御装置の径方向部分断面図である。
【図4】ウォームシャフトの径方向正面図である。
【図5】ウォームホイールの径方向部分断面図である。
【図6】第1与圧機構のz軸負方向正面図である。
【図7】図6のI−I断面図である。
【図8】組み付け時における第1与圧機構付近のz軸方向断面図である。
【図9】ウォームホイールの分解斜視図である。
【図10】歯切り前と歯切り後におけるウォームシャフトの模式図である。
【図11】ウォームシャフトとウォームホイールの噛合い部分の拡大断面図である。
【図12】実施例2における低歯丈部形成工程を示す図である。
【図13】実施例3における低歯丈部形成工程を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
100 ウォームホイール
140 第2与圧機構(付勢機構)
200 ウォームシャフト
200a 基部
210 歯部
210a 歯面(噛み合い部)
220 低歯丈部
400 第1与圧機構(付勢機構)
L 回転軸
K 仮想線
SW ステアリングホイール
R ラック(操舵機構)
P ピニオン
M 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の基部と、この基部の外周側に設けられた螺旋状の歯部と、から構成され、ウォームホイールと噛み合うウォームシャフトであって、
前記歯部は、その歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さに形成される低歯丈部を有し、
前記ウォームホイールの回転中心を通り、前記基部の回転軸と直交する仮想線を定義し、
前記低歯丈部は、前記仮想線と前記基部の回転軸との交点を含み、かつ他の領域よりも歯丈が短く形成されること
を特徴とするウォームシャフト。
【請求項2】
請求項1に記載のウォームシャフトにおいて、
前記歯部であって、ウォームホイールと噛み合う噛合い部の断面形状は凹型形状であること
を特徴とするウォームシャフト。
【請求項3】
請求項1に記載のウォームシャフトにおいて、
ウォームホイールであって、前記低歯丈部の歯先と接する第1仮想円の半径は、ウォームシャフトと前記ウォームホイールの噛合いピッチ円の半径以下であること
を特徴とするウォームシャフト。
【請求項4】
請求項1に記載のウォームシャフトにおいて、
前記低歯丈部の歯先は、前記基部の回転軸と平行な面とほぼ一致するように形成されること
を特徴とするウォームシャフト。
【請求項5】
請求項1に記載のウォームシャフトにおいて、
前記低歯丈部は、前記歯部の軸方向略中央部に形成されること
を特徴とするウォームシャフト。
【請求項6】
請求項1に記載のウォームシャフトにおいて、
前記低歯丈部の形成範囲は、前記基部の回転中心を中心として360°以内であること
を特徴とするウォームシャフト。
【請求項7】
ステアリングホイールの回転を転舵輪に伝達する操舵機構と、
前記操舵機構に操舵アシスト力を付与する電動モータと、
前記操舵機構に設けられたウォームホイールと、
前記電動モータの出力軸に設けられ、前記ウォームホイールと噛み合うウォームシャフトと
を有し、
前記ウォームシャフトは、棒状の基部と、この基部の外周側に設けられた螺旋状の歯部と、から構成され、
前記歯部は、その歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さに形成される低歯丈部を有し、
前記ウォームホイールの回転中心を通り、前記基部の回転軸と直交する仮想線を定義し、
前記低歯丈部は、前記仮想線と前記基部の回転軸との交点を含み、かつ他の領域よりも歯丈が短く形成されること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ウォームシャフトの歯先と前記ウォームホイールの歯底との間の隙間は、前記低歯丈部の隙間がこの低歯丈部の両側の隙間以上となるように形成されること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
請求項7に記載の電動パワーステアリング装置において、
ウォームホイールであって、前記低歯丈部の歯先と接する第1仮想円の半径は、ウォームシャフトと前記ウォームホイールとの噛合いピッチ円の半径以下であること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
請求項7に記載の電動パワーステアリング装置は、
前記ウォームシャフトを前記ウォームホイール側に付勢する付勢機構をさらに有すること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
請求項7に記載の電動パワーステアリング装置は、
前記ウォームホイールを前記ウォームシャフト側に付勢する付勢機構をさらに有すること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項12】
請求項7に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ウォームホイールの歯は樹脂材料で形成されること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項13】
ウォームシャフトの製造方法において、
棒状の基部と、この基部の外周側に設けられ、歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さを有する螺旋状の歯部を形成する歯形成工程と、
前記歯部と噛み合うウォームホイールの回転中心を通り、前記基部の回転軸と直交する仮想線を定義し、
前記仮想線と前記基部の回転軸との交点を含み、かつ他の領域よりも前記歯部の歯丈が短くなるように形成する低歯丈部形成工程と
を有することを特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のウォームシャフトの製造方法において、
前記低歯丈部形成工程は、棒状の素材をこの素材の外径が前記所定の領域において前記他の領域よりも小さくなるように形成することによって行われ、この後、前記歯型形成工程が行われること
を特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のウォームシャフトの製造方法において、
前記低歯丈部形成工程は、棒状の素材の表面仕上げと同じ工程において行われること
を特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載のウォームシャフトの製造方法において、
前記棒状の素材の外径が前記所定の領域において前記他の領域よりも小さくなるように形成する工程は、塑性加工によって行われること
を特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項17】
請求項13に記載のウォームシャフトの製造方法において、
前記低歯丈部形成工程は、前記歯型形成工程の後、前記歯部の前記所定範囲を切削することにより行われること
を特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載のウォームシャフトの製造方法において、
前記低歯丈部形成工程は、前記基部の回転軸と平行にカッターをスライドさせることにより、前記歯部の前記所定範囲を切削することで行われること
を特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項19】
請求項17に記載のウォームシャフトの製造方法において、
前記低歯丈部形成工程は、前記ウォームシャフトの回転軸と平行な回転軸を中心に回転する円形のカッターにより前記歯部の前記所定範囲を切削することで行われること
を特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載のウォームシャフトの製造方法において、
前記円形のカッターの半径は、ウォームシャフトと前記ウォームホイールの噛合いピッチ円の半径以下であること
を特徴とするウォームシャフトの製造方法。
【請求項21】
棒状の基部と、この基部の外周側に設けられた螺旋状の歯部と、から構成され、ウォームホイールと噛み合うウォームシャフトであって、
前記歯部は、その歯丈が軸方向においてほぼ同じ高さに形成される低歯丈部を有し、
前記ウォームホイールの回転中心を通り、前記基部の回転軸と直交する仮想線を定義し、
前記低歯丈部は、前記仮想線と前記基部の回転軸との交点を含み、かつ他の領域よりも歯丈が短く形成され、
前記歯部のピッチ円径は一定であって、このピッチ円の外径は前記回転軸に対し平行であること
を特徴とするウォームシャフト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−1937(P2010−1937A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160118(P2008−160118)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】