説明

エアバッグ及びエアバッグ装置

【課題】乗員が座席を前方にスライドさせて着座している場合にも、座席を前方にスライドさせずに着座している場合にも、効果的に乗員頭部を拘束することが可能なエアバッグと、このエアバッグを備えたエアバッグ装置とを提供する。
【解決手段】エアバッグ1内に、一端が乗員対向面1Fの凹部1H付近に接続され、他端がエアバッグ1の前端付近に接続された上部規制部材10と、一端が乗員対向面1Fの下部1K付近に接続され、他端がエアバッグ1の前端付近に接続された下部規制部材20とが設けられている。エアバッグ1が膨張開始してから10〜30m秒後に下部規制部材20が破断し、該下部規制部材20の破断後であって、エアバッグ1が膨張開始してから15〜40m秒後に、上部規制部材10が破断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ膨張時に、該エアバッグの乗員対向面のうち乗員の頭部と対面する頭部対面部に、乗員側から凹陥する凹部が形成されるように構成されたエアバッグに係り、特に、該頭部対面部の乗員側への膨出を規制する規制部材が設けられ、エアバッグ膨張時には、この規制部材によって該頭部対面部の乗員側への膨出が規制されることにより、前記凹部が形成されるように構成されたエアバッグに関する。また、本発明は、このエアバッグを備えたエアバッグ装置に関する。
【0002】
特に、本発明は、車両の助手席用として好適なエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。
【0003】
なお、本発明において、AF05型乗員ダミーとは、米国法規に規定されている小柄な5パーセンタイル成人女性を模した車両衝突実験用乗員ダミーをいい、AM50型乗員ダミーとは、それよりも大柄な50パーセンタイル成人男性を模した車両衝突実験用乗員ダミーをいう。
【0004】
また、本発明において、小柄な乗員とは、このAF05型乗員ダミーに対応する体格を有した乗員をいい、大柄な乗員とは、AM50型乗員ダミーに対応する体格を有した乗員をいう。
【背景技術】
【0005】
第25図に、一般的な助手席用エアバッグ装置の構成を示す。
【0006】
助手席用エアバッグ装置100は、エアバッグ101と、ケース102と、インフレータ103とを有している。このエアバッグ101は、折り畳まれてケース102内に収容され、インフレータ103によって膨張される。このケース102は、上面が開放した容器であり、その上面はインストルメントパネル104によって覆われている。インストルメントパネル104の上方にはウィンドシールド105が存在する。
【0007】
エアバッグ101は、インフレータ103からガスが供給されることによりインストルメントパネル104の上面から該インストルメントパネル104とウィンドシールド105との間及び助手席前方の空間を埋めるように膨張する。この膨張したエアバッグ101の車体後方側の面が助手席乗員に対面する乗員対向面101Fとなる。
【0008】
小柄な乗員は、座席をその後退限よりも前方へスライドさせて着座していることがある。これに対し、大柄な乗員は、座席を前方へスライドさせることなく着座していることが多い。
【0009】
一般的に、エアバッグ101は、乗員が座席を前方へスライドさせることなく着座している場合でも、膨張完了時に乗員対向面101Fがこの乗員の頭部に十分に接近しうる容積を有している。
【0010】
しかしながら、乗員が座席を前方へスライドさせて着座している場合には、第25図に示すように、乗員側へ膨出途中の乗員対向面101Fに乗員頭部が接触する可能性があり、この場合、乗員頭部に乗員対向面101Fが強く接触するおそれがある。
【0011】
特開2001−233157号公報には、エアバッグ膨張時に、該エアバッグの乗員対向面のうち乗員の頭部と対面する位置に凹部が形成されるように構成されたエアバッグが記載されている。同号公報では、エアバッグ膨張時において、この凹部の最深部が乗員の顎部よりも下方に位置し、この凹部の最深部よりも上側の斜面が乗員頭部(顔面)に対面するように構成されている。
【0012】
エアバッグ膨張時において、この凹部の最深部よりも上側の斜面は、エアバッグ上部側ほど車両後方となるように傾斜(オーバーハング)している。そのため、小柄な乗員が座席を前方にスライドさせて着座している場合でも、大柄な乗員が座席を前方にスライドさせずに着座している場合でも、エアバッグ膨張時には、この凹部の最深部よりも上側の斜面と乗員頭部との間には、同程度の距離が確保される。
【0013】
これにより、小柄な乗員が座席を前方へスライドさせて着座している場合に、乗員頭部に膨出途中の乗員対向面が強く接触することが防止される。
【0014】
同号公報には、エアバッグ内に、該エアバッグの乗員対向面と反乗員側とを連結する吊り紐を設け、エアバッグ膨張時に、この吊り紐によって乗員対向面が部分的にエアバッグ内に引っ張られることにより、該乗員対向面に凹部が形成されるように構成することが記載されている。
【特許文献1】特開2001−233157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記特開2001−233157号公報においては、小柄な乗員が座席を前方へスライドさせずに着座している場合には、膨張したエアバッグの乗員対向面と乗員頭部との間の距離が大きくなる。
【0016】
また、一般的に、ウィンドシールドは、第25図の如く上端側ほど車体後方側となるように傾斜しているので、エアバッグは、膨張したときに、このウィンドシールドの傾斜に沿ってその上部側ほど車体前後方向の厚みが小さくなる膨張形状を有している。そのため、吊り紐で乗員対向面の乗員側への膨出を規制すると、膨張したエアバッグの上部側の車体前後方向の厚みが不足するおそれがある。
【0017】
本発明は、乗員が座席を前方にスライドさせて着座している場合にも、座席を前方にスライドさせずに着座している場合にも、効果的に乗員頭部を拘束することが可能なエアバッグと、このエアバッグを備えたエアバッグ装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明(請求項1)のエアバッグは、エアバッグ膨張時において、該エアバッグの乗員対向面のうち乗員の頭部と対面する頭部対面部に、乗員側から凹陥する凹部が形成されるように構成されたエアバッグであって、該頭部対面部の乗員側への膨出を規制する規制部材が設けられており、エアバッグ膨張時には、該規制部材によって該頭部対面部の乗員側への膨出が規制されることにより前記凹部が形成されるように構成されたエアバッグにおいて、該規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから所定時間経過後に規制を解除するように構成されていることを特徴とするものである。
【0019】
請求項2のエアバッグは、請求項1において、前記所定時間は、エアバッグが膨張を開始してから15〜40m秒であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項3のエアバッグは、請求項1又は2において、前記規制部材は、エアバッグ内部に配置され、前記頭部対面部と、エアバッグの膨張時の反乗員側とを連結しており、
該規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから前記所定時間経過後に該規制部材に負荷される張力により破断して該頭部対面部と該反乗員側との連結を解除するように構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
請求項4のエアバッグは、請求項3において、前記規制部材に脆弱部が設けられており、該規制部材に前記張力が負荷されたときには、該脆弱部において該規制部材が破断するように構成されており、該脆弱部は、エアバッグ膨張時における該規制部材の前記反乗員側の端部から210〜240mm離隔していることを特徴とするものである。
【0022】
請求項5のエアバッグは、請求項4において、前記規制部材に開口が設けられており、該開口の周縁部が前記脆弱部となっていることを特徴とするものである。
【0023】
請求項6のエアバッグは、請求項4又は5において、前記規制部材は織布よりなり、該規制部材のうち少なくとも前記脆弱部において、該織布の糸目方向が前記張力方向に対し斜交方向となっていることを特徴とするものである。
【0024】
請求項7のエアバッグは、請求項6において、少なくとも前記規制部材のエアバッグ膨張時における反乗員側の端部及びその近傍においては、前記織布の糸目方向が前記張力方向と略平行方向となっていることを特徴とするものである。
【0025】
請求項8のエアバッグは、請求項1ないし7のいずれか1項において、エアバッグ内に、該エアバッグの膨張時における前記乗員対向面の下部と前記反乗員側とを連結した副規制部材が設けられており、該副規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから前記規制部材が規制を解除する前に破断して該乗員対向面の下部と該反乗員側との連結を解除するように構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
請求項9のエアバッグは、該副規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから10〜30m秒後に破断するように構成されていることを特徴とするものである。
【0027】
請求項10のエアバッグは、請求項8又は9において、前記副規制部材に脆弱部が設けられており、エアバッグが膨張を開始してから前記規制部材が規制を解除する前に、該副規制部材に負荷された張力により、該脆弱部において該副規制部材が破断するように構成されており、この副規制部材の脆弱部は、エアバッグ膨張時における該副規制部材の前記反乗員側の端部から190〜220mm離隔していることを特徴とするものである。
【0028】
請求項11のエアバッグは、請求項10において、前記副規制部材に開口が設けられており、該開口の周縁部が前記脆弱部となっていることを特徴とするものである。
【0029】
請求項12のエアバッグは、請求項10又は11において、前記副規制部材は織布よりなり、該副規制部材のうち少なくとも前記脆弱部において、該織布の糸目方向が前記張力方向に対し斜交方向となっていることを特徴とするものである。
【0030】
請求項13のエアバッグは、請求項12において、少なくとも前記副規制部材のエアバッグ膨張時における反乗員側の端部及びその近傍においては、前記織布の糸目方向が前記張力方向と略平行方向となっていることを特徴とするものである。
【0031】
本発明(請求項14)のエアバッグ装置は、請求項1ないし13のいずれか1項に記載のエアバッグと、該エアバッグを膨張させるインフレータとを備えてなるものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明(請求項1)のエアバッグ及び本発明(請求項14)のエアバッグ装置にあっては、規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから所定時間経過するまでは、該エアバッグの乗員対向面のうちエアバッグ膨張時に乗員の頭部に対面する頭部対面部の乗員側への膨出を規制している。そのため、例えば乗員が座席を前方にスライドさせて着座しており、エアバッグが膨張開始してから所定時間が経過する前に乗員頭部がエアバッグに接触した場合には、規制部材は該頭部対面部の乗員側への膨出を規制しているので、この乗員の頭部にエアバッグが強く接触することが防止される。このとき、該規制部材によりエアバッグの容積が減じられているので、エアバッグ内が速やかに昇圧し、乗員頭部が十分に受け止められる。
【0033】
エアバッグが膨張開始してから所定時間が経過すると、規制部材による規制が解除され、エアバッグの頭部対面部が十分に乗員側へ膨出する。そのため、例えば乗員が座席を前方へスライドさせることなく着座していても、この乗員の頭部は過度に前方移動する前にエアバッグによって受け止められるようになる。また、膨張したエアバッグの上部側の車体前後方向の厚みも十分に大きなものとなり、十分に乗員頭部の前方移動を拘束することができる。
【0034】
なお、本発明においては、規制部材は、膨張したエアバッグの乗員対向面のうち、小柄な乗員の頭部に対面する頭部対面部の乗員側への膨出を規制するように構成されていることが好ましい。このように構成することにより、小柄な乗員が座席を前方へスライドさせて着座している場合であっても、エアバッグ膨張時には、この小柄な乗員の頭部と対面する頭部対面部の乗員側への膨出が規制されるので、この乗員の頭部にエアバッグが強く接触することが防止される。また、これにより、エアバッグの上部側が小柄な乗員の頭部の上側に回り込んで頭部を圧迫することが防止される。
【0035】
また、乗員が座席を前方へスライドさせることなく着座している場合には、エアバッグが膨張開始してから所定時間が経過すると、規制部材による規制が解除され、前記頭部対面部が十分に乗員側へ膨出するので、乗員の頭部が過度に前方移動する前にエアバッグによって受け止められる。また、これにより、膨張したエアバッグの上部側の車体前後方向の厚みが十分に大きくなるので、重量の大きい大柄な乗員の頭部も十分に受け止めることができる。
【0036】
本発明においては、請求項2のように、規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから15〜40m秒(ミリ秒)後に規制を解除するように構成されていることが好ましい。
【0037】
請求項3の態様によれば、規制部材の構成を簡易なものとすることができる。
【0038】
請求項4の態様では、この規制部材の脆弱部は、エアバッグ膨張時における該規制部材の反乗員側の端部から210〜240mm離隔しているので、インフレータからの噴出ガスの熱の影響を受けにくい。
【0039】
請求項5の態様によれば、規制部材に開口を設けることにより、この規制部材に容易に脆弱部を形成することができる。また、この開口は規制部材の反乗員側の端部から離隔しているので、インフレータからの噴出ガスが規制部材に案内されて乗員側へ流れ易く、エアバッグが速やかに乗員側へ膨張するようになる。
【0040】
請求項6の態様にあっては、規制部材は織布よりなり、且つ少なくともその脆弱部において、該織布の糸目方向が規制部材の張力方向に対し斜交方向となっている。このような規制部材を織布から切り出した場合、少なくともその脆弱部において、この織布の縦糸及び横糸が該規制部材の両側辺に沿って切断されている。そのため、規制部材に所定以上の張力が負荷されたときには、該脆弱部において織布の縦糸及び横糸がそれぞれ織り組織から引き抜かれるようにしてこの織布の織りがほぐれ、これにより規制部材が破断する。
【0041】
かかる構成の規制部材にあっては、織布の縦糸及び横糸の少なくとも一方が切れることにより破断する規制部材に比べて、その破断強度がインフレータからの熱の影響を受けにくいため、規制部材の破断のタイミングにバラつきが生じにくい。
【0042】
請求項7の態様にあっては、少なくとも規制部材の反乗員側の端部及びその近傍においては、織布の糸目方向が前記張力方向と略平行方向となっているので、この部分の破断強度が高くなっており、規制部材が強固にエアバッグの反乗員側に接続される。
【0043】
請求項8の態様にあっては、エアバッグ内に、乗員対向面の下部と反乗員側とを連結した副規制部材が設けられているため、エアバッグ膨張時にエアバッグの下部がバタつくことが防止ないし抑制される。
【0044】
この場合、請求項9のように、エアバッグが膨張を開始してから10〜30m秒後に副規制部材が破断するように構成することにより、エアバッグ膨張時には、乗員が過度に前方移動する前に該エアバッグの下部側が十分に膨張して乗員を拘束するようになる。この際、副規制部材が破断しても、エアバッグの上部側はまだ規制部材によって膨張が規制されているので、エアバッグの下部側が迅速に膨張する。
【0045】
請求項10の態様によれば、副規制部材の構成を簡易なものとすることができる。また、この態様では、副規制部材の脆弱部は、エアバッグ膨張時における該副規制部材の反乗員側の端部から190〜220mm離隔しているので、インフレータからの噴出ガスの熱の影響を受けにくい。
【0046】
請求項11の態様によれば、副規制部材に開口を設けることにより、この副規制部材に容易に脆弱部を形成することができる。また、この開口は副規制部材の反乗員側の端部から離隔しているので、インフレータからの噴出ガスが副規制部材に案内されてエアバッグの下部側へ流れ易く、エアバッグの下部が速やかに膨張するようになる。
【0047】
請求項12の態様にあっては、副規制部材は織布よりなり、且つ少なくともその脆弱部において、該織布の糸目方向が副規制部材の張力方向に対し斜交方向となっている。そのため、請求項6の態様における規制部材と同様に、この副規制部材も、破断のタイミングにバラつきが生じにくいものとなる。
【0048】
請求項13の態様にあっては、少なくとも副規制部材の反乗員側の端部及びその近傍においては、織布の糸目方向が前記張力方向と略平行方向となっているので、この部分の破断強度が高くなっており、副規制部材が強固にエアバッグの反乗員側に接続される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0050】
第1図は本発明の実施の形態に係るエアバッグの膨張状態における斜視図、第2図(a)はこのエアバッグの膨張状態における側面図、第2図(b)は第2図(a)のB−B線矢視図、第3図は第2図(b)のIII−III線に沿う断面図、第4図(a)は上部規制部材の平面図、第4図(b)は上部規制部材の分解平面図、第5図(a)は下部規制部材の平面図、第5図(b)は下部規制部材の分解斜視図、第6図は規制部材の開口付近の平面図、第7図は規制部材破断時における第6図と同様部分の平面図、第8図はエアバッグ内における規制部材の配置を示す平面図、第9〜17図はエアバッグの折り畳み手順の説明図、第18図はエアバッグ折り畳み体の断面図、第19,20図はエアバッグ膨張途中状態における車室内の助手席付近の側面図、第21図は膨張したエアバッグに小柄な乗員が対面した状態を示す第19,20図と同様部分の側面図、第22図は膨張したエアバッグに大柄な乗員が対面した状態を示す第19〜21図と同様部分の側面図、第23図は膨張したエアバッグが大柄な乗員を受け止めた状態を示す側面図である。
【0051】
なお、第9〜12図において、(a)図はエアバッグの正面図であり、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。第13〜18図は、エアバッグの上下方向の断面図である。
【0052】
以下の説明において、前後方向及び左右方向は乗員にとっての前後方向及び左右方向をいう。
【0053】
この実施の形態におけるエアバッグ1は、車両の助手席用エアバッグである。
【0054】
第19〜23図に示すように、この実施の形態における助手席用エアバッグ装置Sは、このエアバッグ1と、ケース2と、インフレータ3等を有している。このエアバッグ1は、折り畳まれてケース2内に収容され、インフレータ3によって膨張される。このケース2は、上面が開放した容器であり、その上面は自動車のインストルメントパネル4によって覆われている。インストルメントパネル4の上方にはウィンドシールド5が存在する。
【0055】
このエアバッグ1は、第2図に示す通り、インフレータ3からガスが供給されることによりインストルメントパネル4の上面から該インストルメントパネル4とウィンドシールド5との間及び助手席前方の空間を埋めるように膨張する。この膨張したエアバッグ1の車体後方側の面が助手席乗員に対面する乗員対向面1Fとなる。
【0056】
第2図(a)に示すように、この実施の形態では、エアバッグ1が膨張した状態において、乗員対向面1Fのうち小柄な乗員の頭部付近と対面する領域がその周囲よりも反乗員側へ凹んだ凹部1Hとなるように構成されている。
【0057】
この実施の形態では、エアバッグ1は、その膨張時の乗員対向面1F並びに上面及び下面を一続きに構成するセンターパネル1aと、左右の側面をそれぞれ構成する1対のサイドパネル1b,1cとを縫合してなる。
【0058】
第2図(a)に示すように、各サイドパネル1b,1cは、車体後方側ほど上下方向の幅が大きくなる略三角形状となっている。各サイドパネル1b,1cには、それぞれベントホール6が設けられている。このサイドパネル1b,1cの後辺に沿ってセンターパネル1aによりエアバッグ1の乗員対向面1Fが形成され、サイドパネル1b,1cの上側の斜辺に沿ってセンターパネル1aによりエアバッグ1の上面が形成され、サイドパネル1b,1cの下側の斜辺に沿ってセンターパネル1aによりエアバッグ1の下面が形成される。センターパネル1aは、両端がサイドパネル1b,1cの車体前方側の角部付近に配置され、相互に縫合等により結合されている。符号1sは、パネル(基布)同士を縫合したシームを示している。
【0059】
各サイドパネル1b,1cの後辺のうちエアバッグ膨張時に小柄な乗員の頭部と対面する高さ付近は、部分的に車体前方側へ凹んでいる。エアバッグ膨張時には、このサイドパネル1b,1cの後辺の凹みに沿って乗員対向面1Fに前記凹部1Hが形成される。
【0060】
なお、エアバッグ1のパネル構成及び凹部1Hの形成方法はこれに限定されない。
【0061】
エアバッグ膨張時には、エアバッグ1の上面は、ウィンドシールド5の傾斜に沿って上端側ほど車体後方側となるように延在する。
【0062】
エアバッグ1の膨張時における下面の車体前方側の端部(前端)付近に、インフレータ挿入用の1対のスリット1d,1d(第8図)が設けられている。該スリット1d,1dは、左右に間隔をあけて互いに略平行に延設されている。
【0063】
エアバッグ1の内部側から該エアバッグ1の下面の前端部付近に、該エアバッグ1をケース2に固定するための固定プレート7(第9〜18図)が重ね合わされている。
【0064】
この固定プレート7は、略方形の平面視形状を有している。この固定プレート7の中央付近には、エアバッグ1の外部側へ膨出した略半円筒形状の膨出部7aが形成されている。この膨出部7aは、その軸心方向を略左右方向として形成されている。エアバッグ1の下面のスリット1d,1d同士の間の部分は、この膨出部7aの内周面に重なっており、該膨出部7aの左端及び右端がそれぞれ左右のスリット1d,1dに臨んでいる。また、固定プレート7のうち該膨出部7aよりも左端側及び右端側は、それぞれ、該膨出部7aと略同軸状にエアバッグ1の内部側へ張り出したC字形バンド部7bとなっている。各スリット1dの該膨出部7aと反対側の縁部は、それぞれ、各C字形バンド部7cの内周面に重なっている。
【0065】
この実施の形態では、前記インフレータ3は略円筒形のものであり、各スリット1d,1dを介してエアバッグ1内に挿入されている。このインフレータ3は、固定プレート7の膨出部7aに嵌め込まれ、両端が各C字形バンド部7bによって押え付けられることにより該固定プレート7に保持されている。
【0066】
固定プレート7の周縁部からは、エアバッグ1の外方へ向ってスタッドボルト7cが突設されている。このスタッドボルト7cは、エアバッグ1の下面に設けられたボルト挿通孔(図示略)を介してエアバッグ1の外部に延出している。このスタッドボルト7cによりエアバッグ1の下面の前端側がケース2の底面に連結されている。
【0067】
エアバッグ1の前端側において、センターパネル1a及び各サイドパネル1b,1cの外面には、このエアバッグ1の前端側を包み込むように補強布1eが取り付けられている。また、各ベントホール6の周縁部には、各ベントホール6を取り囲む環形の補強布6aが取り付けられている。
【0068】
エアバッグ1内には、前記スリット1d,1d付近のエアバッグ内面及びパネル1a,1b,1c同士の縫合部等を覆う防炎布1fが設けられている。
【0069】
このエアバッグ1内には、乗員対向面1Fのうちエアバッグ膨張時に小柄な乗員の頭部と対面する凹部1H付近とエアバッグ1の前端付近とを連結した規制部材10が設けられている。また、この実施の形態では、さらに、該乗員対向面1Fの下部(エアバッグ1の膨張時に凹部1Hよりも下方に位置する部分)1K付近とエアバッグ1の前端付近とを連結した副規制部材20が設けられている。
【0070】
この実施の形態では、規制部材10及び副規制部材20は、それぞれ太幅帯状のものとなっており、各々の幅方向が略左右方向となるように配設されている。これらの規制部材10及び副規制部材20のパネル構成については、後で詳しく述べる。
【0071】
符号1xは、規制部材10の一端側を凹部1H付近に縫着したシームを示し、符号1yは、副規制部材20の一端側を乗員対向面1Fの下部1K付近に縫着したシームを示し、符号1z(第3,8図)は、これらの規制部材10及び副規制部材20の他端側をそれぞれエアバッグ1の前端付近に縫着したシームを示している。なお、これらの規制部材10及び副規制部材20のエアバッグ1への接続方法は縫着に限定されない。
【0072】
以下、規制部材10を上部規制部材といい、副規制部材20を下部規制部材といい、これらを総称して規制部材10,20ということがある。
【0073】
エアバッグ1が膨張した状態において、上部規制部材10と乗員対向面1Fの凹部1Hとの接続部(シーム1x)から下部規制部材20と乗員対向面1Fの下部1Kとの接続部(シーム1y)までのセンターパネル1aの外面に沿う間隔D(第1図)は400〜440mm、特に410〜430mm程度であることが好ましい。
【0074】
上部規制部材10の長さは、エアバッグ1が第22図の如く規制部材10,20によって拘束されていない最大膨張形状まで膨張したときの前記凹部1H(シーム1x)から該エアバッグ1の前端部(シーム1z)までの直線距離の60〜80%、特に65〜75%程度であることが好ましい。また、下部規制部材20の長さは、このエアバッグ1が最大膨張形状まで膨張したときの乗員対向面1Fの下部1K(シーム1y)から該エアバッグ1の前端部(シーム1z)までの直線距離の40〜60%、特に45〜55%程度であることが好ましい。
【0075】
第4図(a)及び第5図(a)に示すように、各規制部材10,20の長手方向の途中部には、それぞれ、該規制部材10,20を厚み方向に貫通する開口11,21が設けられている。これらの開口11,21は、それぞれ、各規制部材10,20の幅方向の中間付近に配置されている。各規制部材10,20のうち、これらの開口11,21と該規制部材10,20の左右の側辺との間の部分は、それぞれ、該規制部材10,20の他の部分よりも幅が狭く、これにより該規制部材10,20の他の部分よりも破断強度が低い脆弱部10a,20aとなっている。
【0076】
開口11即ち脆弱部10aは、上部規制部材10がエアバッグ1内でピンと張った状態において、該上部規制部材10の前端(シーム1z)から210〜240mm、特に220〜230mm程度離隔していることが好ましい。
【0077】
開口21即ち脆弱部20aは、下部規制部材20がエアバッグ1内でピンと張った状態において、該下部規制部材20の前端(シーム1z)から190〜220mm、特に200〜215mm程度離隔していることが好ましい。
【0078】
第4図(a)及び第5図(a)の通り、上部規制部材10の各脆弱部10aの幅Wは、下部規制部材20の各脆弱部20aの幅Wよりも大きなものとなっている。これにより、上部規制部材10の各脆弱部10aは、該規制部材10に負荷される張力T(第6図)に対する破断強度が下部規制部材20の各脆弱部20aに比べて高いものとなっている。
【0079】
この脆弱部10aの幅Wは25〜30mm、特に27〜29mm程度であることが好ましく、脆弱部20aの幅Wは17〜23mm、特に19〜21mm程度であることが好ましい。
【0080】
下部規制部材20は、エアバッグ1の膨張時において、エアバッグ1が膨張開始してから好ましくは5〜35m秒後、特に好ましくは10〜30m秒後に、該規制部材20に負荷される張力により脆弱部20aが破断して、乗員対向面1Fの下部1Kとエアバッグ1の前端部との連結を解除するように構成されている。
【0081】
また、上部規制部材10は、エアバッグ1の膨張時において、該下部規制部材20の破断後であって、且つエアバッグ1が膨張開始してから好ましくは15〜40m秒後、特に好ましくは30〜40m秒後に、該規制部材10に負荷される張力により脆弱部10aが破断して、乗員対向面1Fの凹部1Hとエアバッグ1の前端部との連結を解除するように構成されている。
【0082】
以下に、この規制部材10,20の構成についてさらに詳細に説明する。
【0083】
この実施の形態では、規制部材10は、エアバッグ1内において、一端がシーム1xにより乗員対向面1Fの凹部1H付近に接続された第1ハーフパネル12と、一端がシーム1zによりエアバッグ1の下面の前端付近に接続された第2ハーフパネル13とを備え、これらの第1ハーフパネル12と第2ハーフパネル13との他端同士がシーム14によって結合されたものとなっている。
【0084】
また、規制部材20も、エアバッグ1内において、一端がシーム1yにより乗員対向面1Fの下部1K付近に接続された第1ハーフパネル22と、一端がシーム1zによりエアバッグ1の下面の前端付近に接続された第2ハーフパネル23とを備え、これらの第1ハーフパネル22と第2ハーフパネル23との他端同士がシーム24によって結合されたものとなっている。
【0085】
前記開口11,21は、それぞれ、該第1ハーフパネル12,22の該一端付近に設けられている。
【0086】
各ハーフパネル12,13,22,23は、それぞれ、縦糸及び横糸により織製された織布よりなる。
【0087】
この実施の形態では、該第1ハーフパネル12,22は、それぞれ、該織布の糸目方向(縦糸及び横糸の延在方向)が各規制部材10,20の長手方向即ち張力方向に対し斜交方向となるように、該織布から切り出されたものである。
【0088】
本発明においては、第6図の通り、この第1ハーフパネル12,22の織布の糸目方向と各規制部材10,20の張力方向Tとの角度、即ちこの織布の縦糸の延在方向Eと規制部材20の張力方向Tとの角度θ、及び織布の横糸の延在方向Eと規制部材20の張力方向Tとの角度θは、それぞれ、30〜60°、特に40〜50°であることが好ましい。
【0089】
各規制部材10,20の長手方向における開口11の幅W(第4図(a))及び開口21の幅W(第5図(a))は、それぞれ、各脆弱部10a,20aにおいて、織布の縦糸及び横糸がいずれも該脆弱部10a,20aの一端側から他端側まで連続せず、該脆弱部10a,20aの長手方向の途中で各規制部材10,20の左右の側辺又は開口11,21側の側辺に沿ってカットされて途切れたものとなるように設定されている。
【0090】
この開口11の幅Wは25〜30mm、特に27〜29mm程度であることが好ましく、開口21の幅Wは17〜23mm、特に19〜21mm程度であることが好ましい。
【0091】
第2ハーフパネル13,23は、この実施の形態では、それぞれ、織布の糸目方向が各規制部材10,20の長手方向即ち張力方向と略平行方向及び略直交方向となるように、該織布から切り出されている。これにより、該第2ハーフパネル13,23は、第1ハーフパネル12,22に比べて張力Tに対する破断強度が高いものとなっている。
【0092】
この実施の形態では、上部規制部材10の長手方向と直交方向の幅W(第4図(a))は、後述のように、エアバッグ1の折り畳み体の左右方向の幅W(第12図)と略同等となっている。なお、この実施の形態では、エアバッグ1は、前記固定プレート7の左右幅と略同等の左右幅となるように折り畳まれる。本発明においては、この上部規制部材10の幅Wは、100〜200mm、特に140〜160mm程度であることが好ましい。
【0093】
この実施の形態では、下部規制部材20も上部規制部材10と略同等の幅とされている。
【0094】
この実施の形態では、上部規制部材10の第1ハーフパネル12の前記一端側から該規制部材10の延長方向に延長部15が延出している。この延長部15が第1ハーフパネル12の前記他端側へ折り返されてシーム16により縫着されることにより、第1ハーフパネル12の該一端側が高強度となり、第1ハーフパネル12が乗員対向面1Fに対しシーム1xにより強固に結合されている。
【0095】
上部規制部材10の第1ハーフパネル12の長さ(シーム1x,14間の長さ)Lは270〜310mm、特に280〜300mm程度であることが好ましく、第2ハーフパネル13の長さ(シーム14,1z間の長さ)Lは20〜60mm、特に30〜50mm程度であることが好ましい。また、下部規制部材20の第1ハーフパネル22の長さ(シーム1y,24間の長さ)Lは210〜250mm、特に220〜240mm程度であることが好ましく、第2ハーフパネル23の長さ(シーム24,1z間の長さ)Lは50〜90mm、特に60〜80mm程度であることが好ましい。
【0096】
この実施の形態では、第3図に示すように、下部規制部材20の第2ハーフパネル23の前端側がエアバッグ1の下面の前端付近に重ね合わされ、その上に上部規制部材10の第2ハーフパネル13の前端側が重ね合わされ、さらにその上に前記防炎布1fが重ね合わされた後、これらが一体的にシーム1zにより該エアバッグ1の下面に縫着されている。詳しい図示は省略するが、これらの第2ハーフパネル13,23及び防炎布1fにも、それぞれ、エアバッグ1の下面の前記スリット1d,1d及びボルト挿通孔と重なるスリット及びボルト挿通孔が設けられている。
【0097】
前記固定プレート7は、この防炎布1fの上からエアバッグ1の下面に重ね合わされている。上部規制部材10は、この固定プレート7の後縁側から車体後方へ延出している。即ち、この実施の形態では、該上部規制部材10の前端側は、インフレータ3よりも車体後方側においてエアバッグ1の下面に連なったものとなっている。
【0098】
第8図に示すように、この実施の形態では、該防炎布1fは、その後縁側が上部規制部材10のハーフパネル12,13同士の結合部(シーム14)をも覆う大きさとなっている。
【0099】
この実施の形態では、少なくとも上部規制部材10の第1ハーフパネル12及び第2ハーフパネル13のエアバッグ膨張時における上面側に、耐熱樹脂コーティングが施されている。なお、この耐熱樹脂コーティングは、該第1ハーフパネル12及び第2ハーフパネル13の下面側にも施されてもよい。あるいは、該第1ハーフパネル12及び第2ハーフパネル13のうち必要な箇所に部分的に耐熱樹脂コーティングが施されていてもよい。下部規制部材20の第1ハーフパネル22及び第2ハーフパネル23にも耐熱樹脂コーティングが施されていてもよい。
【0100】
このように構成されたエアバッグ1は、折り畳まれて保形クロス30によって保形されて前記ケース2内に収容されている。この保形クロス30には、ミシン目状の破断予定部31が設けられており、保形クロス30は、エアバッグ膨張時にはこの破断予定部31において破断してエアバッグ折り畳み体の保形を解除するように構成されている。
【0101】
この実施の形態では、該保形クロス30は帯状のものであり、その一端側(基端側)がエアバッグ1の前端部に連結されている。この保形クロス30の他端側(先端側)には、前記スタッドボルト7cが挿通されるボルト挿通孔32が設けられている。
【0102】
以下に、このエアバッグ1の折り畳み方法について説明する。
【0103】
まず、第9図(a),(b)のように、乗員対向面1Fを上下左右に引き伸ばしつつ該乗員対向面1Fをエアバッグ1の前端側に接近させるようにして、エアバッグ1を平たく展延させる。符号1g,1h,1i,1jは、それぞれ、このように平たく展延したエアバッグ1の上端、下端、左端及び右端を示している。
【0104】
この際、エアバッグ1内において、上部規制部材10の後端側(乗員対向面1F側)付近をエアバッグ1の上端1g側へ引っ張り、この上部規制部材10がその前端側(エアバッグ1の前端側)から該後端側付近まで乗員対向面1Fに沿ってピンと張るようにする。
【0105】
次に、第10図(a),(b)のように、このエアバッグ1の左右方向の中央付近から右半側を左半側の乗員対向面1Fの上に折り返す。次いで、第11図(a),(b)のように、このエアバッグ1の該右半側を右端1jから所定幅ずつ右方へ折り返してロール折りする。さらに、第12図(a),(b)のように、エアバッグ1の左半側も、左端1iから所定幅ずつエアバッグ中央側へ折り返してロール折りする。この際、エアバッグ1の該右半側及び左半側のロール折り体の左右幅の合計Wが固定プレート7の左右幅と略同等となるようにする。
【0106】
なお、先にエアバッグ1の左半側を折り畳んでから右半側を折り畳んでもよい。
【0107】
第12図(b)のように、この実施の形態では、上部規制部材10の幅は、このエアバッグ1の折り畳み体の左右幅Wと略同等となっている。そのため、上部規制部材10は、このエアバッグ1の折り畳み体の内部において、該エアバッグ1内を上部規制部材10よりも上端1g側と下端1h側とに仕切るように延在した状態となる。以下、エアバッグ1内のうちこの上部規制部材10よりも上端1g側を上部室1Uと称し、下端1h側を下部室1Lと称する。
【0108】
前述の通り、この実施の形態では、上部規制部材10の前端側はインフレータ3よりも車体後方側においてエアバッグ1の下面に連なっているので、該インフレータ3は、第9図(b)の如く、この上部室1Uに臨んだものとなる。
【0109】
次に、第13図のように、エアバッグ1の下端1hからエアバッグ1の上下方向の中央よりも該下端1h側の所定位置まで、乗員対向面1Fと反対側へジグザグ状に折り畳む。次いで、第14図のように、このジグザグ折り部分を含むエアバッグ1の下半側を、該エアバッグ1の中央付近から上半側の乗員対向面1Fの上に折り返す。その後、第15図の通り、このエアバッグ1の下半側の残りの部分でジグザグ折り部分を包むように、エアバッグ1の下半側をエアバッグ1の中央側へロール折りする。
【0110】
次に、第16図のように、エアバッグ1の上端1gからエアバッグ1の上下方向の中央よりも該上端1g側の所定位置まで、乗員対向面1Fと反対側へジグザグ状に折り畳む。次いで、第17図のように、このジグザグ折り部分を、エアバッグ1の上半側の残りの部分で包みつつ、該エアバッグ1の下半側の折り畳み体の上に載置する。
【0111】
その後、第18図のように、保形クロス30をこのエアバッグ1の折り畳み体に巻回し、その先端側のボルト挿通孔32にスタッドボルト7cを挿通して該保形クロス30を掛止する。
【0112】
これにより、エアバッグ1の折り畳みが完了する。
【0113】
なお、上記の折り畳み方法は一例にすぎず、本発明においては、上記以外の折り畳み方法にてエアバッグ1が折り畳まれてもよい。
【0114】
次に、このように構成されたエアバッグ1を備えた助手席用エアバッグ装置Sの作動について説明する。
【0115】
この助手席用エアバッグ装置Sを搭載した車両の衝突時には、インフレータ3がガス噴出作動し、このインフレータ3からのガスによりエアバッグ1が膨張を開始する。このエアバッグ1は、前記リッドを押し開けて、インストルメントパネル4の上面から車室内に膨らみ出す。
【0116】
この際、前述の通り、エアバッグ1の折り畳み体の内部は、上部規制部材10により、該上部規制部材10よりも上側の上部室1Uと、下側の下部室1Lとに仕切られており、且つインフレータ3は該上部室1Uに臨んでいるので、このインフレータ3からのガスは、主として該上部室1Uに流入する。そのため、エアバッグ1は、該上部室1Uが迅速に膨張する。このとき、上部規制部材10の開口11は、該上部規制部材10の前端側から離隔しているので、インフレータ3からの噴出ガスが上部規制部材10に案内されて乗員側へ流れ易く、上部室1Uが速やかに乗員側へ膨張する。
【0117】
また、この際、エアバッグ1は、まず下半側が折り畳まれ、次いで上半側が折り畳まれて該下半側の折り畳み体の上に載置された状態となっているので、該上半側が下半側に先行して車室内に展開する。これにより、第19図の通り、エアバッグ1は、その上半側が速やかにインストルメントパネル4とウィンドシールド5との間、及び乗員頭部前方の空間を埋めるように膨張展開する。
【0118】
乗員対向面1Fは、該上部規制部材10がピンと張った状態となるまで乗員側へ膨出する。
【0119】
インフレータ3から該上部室1Uに流入したガスは、上部規制部材10の開口11及び該上部規制部材10とエアバッグ1の左右の側面との間を通って下部室1Lに流入する。これにより、第19図〜第20図の通り、エアバッグ1の下半側が乗員胴体部前方の空間を埋めるように膨張展開する。乗員対向面1Fの下部1K側は、該下部規制部材20がピンと張った状態となるまで乗員側へ膨出する。
【0120】
この際、エアバッグ1が膨張開始してから好ましくは5〜35m秒、特に好ましくは10〜30m秒経過するまでは、下部規制部材20は乗員対向面1Fの下部1Kとエアバッグ1の前端側とを連結している。これにより、エアバッグ1の膨張初期の段階においてエアバッグ1の下半側がバタつくことが防止ないし抑制される。また、この下部規制部材20によりエアバッグ1の下半側の容積が減じられているので、エアバッグ1内が速やかに昇圧する。
【0121】
エアバッグ1が膨張開始してから好ましくは5〜35m秒後、特に好ましくは10〜30m秒後に、下部規制部材20が破断する。これにより、第21図の通り、エアバッグ1の下半側がさらに乗員側へ膨張して乗員の下半身を拘束するようになる。
【0122】
この下部規制部材20の破断後であって、エアバッグ1が膨張開始してから好ましくは15〜40m秒後、特に好ましくは30〜40m秒後には、上部規制部材10が破断する。
【0123】
乗員が小柄であり、座席を前方へスライドさせて着座している場合には、エアバッグ1が膨張開始してから上部規制部材10が破断する前に、乗員頭部がエアバッグ1に接触することがある。この場合、まだ上部規制部材10は破断していないので、第21図の通り、乗員対向面1Fのうち小柄な乗員の頭部と対面する凹部1H付近は、該上部規制部材10により反乗員側へ引っ張られた状態となっている。そのため、この小柄な乗員の頭部に凹部1H付近が強く接触することが防止され、この小柄な乗員の頭部が比較的ソフトに受け止められる。
【0124】
乗員が座席を前方へスライドさせることなく着座している場合には、通常、上部規制部材10が破断した後に、乗員頭部がエアバッグ1に接触する。この場合、乗員頭部がエアバッグ1に接触する前に、上部規制部材10が破断し、これにより、エアバッグ1の上部側がさらに乗員側へ膨出し、エアバッグ1は、第23図の通り、最大膨張形状まで膨張展開するようになる。この結果、乗員の頭部は、過度に前方移動する前にエアバッグ1によって受け止められるようになる。また、膨張したエアバッグ1の上部側の車体前後方向の厚みも十分に大きなものとなり、第25図のように、十分に乗員頭部の前方移動を拘束することができる。
【0125】
なお、乗員が正規の着座位置よりも前方に位置した所謂アウトオブポジションの状態にあるときには、エアバッグ1が膨張開始した後、早期のうちにエアバッグ1に乗員が接触することがある。このエアバッグ1にあっては、その膨張初期の段階においては、各規制部材10,20により容積が減じられており、エアバッグ1内が速やかに昇圧するため、このアウトオブポジションの乗員もしっかりと受け止めることができる。
【0126】
この実施の形態では、各規制部材10,20の脆弱部10a,20aにおいては、織布の縦糸及び横糸の糸目方向が該規制部材10,20の張力方向Tに対し斜交方向となっており、これらの縦糸及び横糸は、いずれも、該脆弱部10a,20aの一端側から他端側まで連続せず、該脆弱部10a,20aの長手方向の途中で途切れたものとなっている。そのため、各規制部材10,20に所定以上の張力が負荷されると、各脆弱部10a,20aを構成する織布の縦糸及び横糸がそれぞれ織り組織から引き抜かれるようにしてこの織布の織りがほぐれ、これにより各脆弱部10a,20aが破断する。
【0127】
なお、脆弱部10a,20aを構成する織布の糸目方向が規制部材10,20の張力方向Tと略同一方向となっている場合には、脆弱部10a,20aの破断前には、この織布の縦糸及び横糸の一方が該脆弱部10a,20aの一端側から他端側まで連続した状態となっている。そのため、脆弱部10a,20aが破断する際には、この脆弱部10a,20aの一端から他端まで連続した糸が切れる必要がある。しかしながら、このように糸が切れることにより脆弱部10a,20aが破断するように構成されている場合には、この糸の破断強度は温度依存性が大きいため、インフレータ3からの噴出ガスの熱の影響を受け易く、インフレータ3の形状や配置等によってこの糸が切れるタイミング、即ち脆弱部10a,20aの破断のタイミングにバラつきが生じ易い。
【0128】
これに対し、この実施の形態のエアバッグ1にあっては、脆弱部10a,20aの破断時には、織布の縦糸及び横糸が切れることなく、該縦糸及び横糸が織り組織から引き抜かれるようにして織布の織りがほぐれることにより脆弱部10a,20aが破断するので、この脆弱部10a,20aの破断に際しインフレータ3からの噴出ガスの熱の影響を受けにくい。従って、このエアバッグ1にあっては、インフレータ3の形状や配置によって脆弱部10a,20aの破断のタイミングにバラつきが生じにくい。また、このエアバッグ1を備えたエアバッグ装置Sにあっては、インフレータ3の選択の自由度や、インフレータ3の配置の自由度が高い。
【0129】
この実施の形態では、脆弱部10a,20aを構成するための開口11,21が各規制部材10,20の前端側から十分に離隔しているので、これらの脆弱部10a,20aは、さらにインフレータ3からの噴出ガスの熱の影響を受けにくいものとなっている。
【0130】
この実施の形態では、各規制部材10,20のうちエアバッグ1の前端側の部分を構成する第2ハーフパネル13,23は、それぞれ織布の糸目方向が各規制部材10,20の張力方向Tと略平行方向及び略直交方向となっており、破断強度が高いので、各規制部材10,20が強固にエアバッグ1の前端側に接続されている。
【0131】
この実施の形態では、上部規制部材10の第1ハーフパネル12と第2ハーフパネル13とを連結したシーム14が防炎布1fによって覆われているので、インフレータ3からの熱によりこのシーム14が破断することが防止される。
【0132】
上記の第1〜23図の実施の形態では、上部規制部材10の前端側は、インフレータ3よりも車体後方側においてエアバッグ1の下面に連なっているが、本発明においては、上部規制部材10の前端側は、インフレータ3よりも車体前方側においてエアバッグ1の下面に連なっていてもよい。第24図は、このように構成されたエアバッグの縦断面図である。
【0133】
この実施の形態では、上部規制部材10をエアバッグ1の前端側に接続するに当り、該上部規制部材10の前端側を所定長さにわたって該上部規制部材10の下面側に折り返し、その折り目を車体前方側に向けた姿勢で、この折り返した部分をエアバッグ1の前端側の下面にシーム1zにより縫着している。この上部規制部材10の前端側の縫着部の上に防炎布1fを介して固定プレート7が重ね合わされ、該固定プレート7にインフレータ3が保持されている。上部規制部材10は、該固定プレート7の前縁側を回り込み、インフレータ3の上方を通って車体後方側へ延在している。これにより、上部規制部材10は、前端側がインフレータ3よりも車体前方側においてエアバッグ1の下面に連なったものとなり、インフレータ3は、この上部規制部材10よりも下側の下部室1L内に配置されたものとなっている。
【0134】
この実施の形態のその他の構成は前述の第1〜23図の実施の形態と同様であり、第24図において第1〜23図と同一符号は同一部分を示している。
【0135】
この実施の形態では、インフレータ3がエアバッグの下部室1L内に配置されているので、インフレータ3がガス噴出作動すると、該インフレータ3からのガスは、まず下部室1L内に流入する。そのため、エアバッグ膨張時には、該エアバッグ1の下部側が迅速に膨張展開する。
【0136】
上記の各実施の形態はいずれも本発明の一例を示すものであり、本発明は上記の各実施の形態に限定されない。
【0137】
例えば、上記の実施の形態では、乗員対向面1Fのうちエアバッグ1の膨張時に小柄な乗員の頭部付近と対面する凹部1Hをエアバッグ1の前端側に連結した上部規制部材10の他に、該乗員対向面1Fの下部1Kをエアバッグ1の前端側に連結した下部規制部材20が設けられているが、エアバッグ1に設けられる規制部材としての規制部材の本数や配置はこれに限定されない。
【0138】
上記実施の形態では、上部規制部材10は、凹部1Hの最深部に接続されているが、上部規制部材10の乗員対向面1Fへの接続位置はこれに限定されるものではなく、この凹部1Hの最深部以外の箇所(例えば凹部1Hの最深部よりも上側)において乗員対向面1Fに接続されてもよい。また、凹部1Hの最深部は、エアバッグ1の膨張時に小柄な乗員の頭部と対面する位置から(例えば下方に)ずれていてもよい。
【0139】
上記の実施の形態では、各規制部材10,20は、乗員対向面1F側の第1ハーフパネル12,22と、エアバッグ1の前端側の第2ハーフパネル13,23とを連結した構成となっているが、各規制部材10,20の構成はこれに限定されない。例えば、各規制部材10,20は、それぞれ一端側から他端側まで連続した1枚の織布により構成されてもよい。また、3枚以上のハーフパネルを連結した構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】実施の形態に係るエアバッグの膨張状態における斜視図である。
【図2】(a)はこのエアバッグの膨張状態における側面図、(b)は(a)のB−B線矢視図である。
【図3】図2(b)のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】(a)は上部規制部材の平面図、(b)は上部規制部材の分解平面図である。
【図5】(a)は下部規制部材の平面図、(b)は下部規制部材の分解斜視図である。
【図6】規制部材の開口付近の平面図である。
【図7】規制部材破断時における図6と同様部分の平面図である。
【図8】エアバッグ内における規制部材の配置を示す平面図である。
【図9】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図10】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図11】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図12】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図13】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図14】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図15】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図16】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図17】エアバッグの折り畳み手順の説明図である。
【図18】エアバッグ折り畳み体の断面図である。
【図19】エアバッグ膨張途中状態における車室内の助手席付近の側面図である。
【図20】エアバッグ膨張途中状態における図19と同様部分の側面図である。
【図21】膨張したエアバッグに小柄な乗員が対面した状態を示す図19,20と同様部分の側面図である。
【図22】膨張したエアバッグに大柄な乗員が対面した状態を示す図19〜21と同様部分の側面図である。
【図23】膨張したエアバッグが大柄な乗員を受け止めた状態を示す図19〜22と同様部分の側面図である。
【図24】別の実施の形態に係るエアバッグの縦断面図である。
【図25】従来例に係る助手席用エアバッグ装置を示す車室内の側面図である。
【符号の説明】
【0141】
1 エアバッグ
1F 乗員対向面
1H 凹部
10 規制部材
10a 脆弱部
11 開口
12 第1ハーフパネル
13 第2ハーフパネル
20 副規制部材
20a 脆弱部
21 開口
22 第1ハーフパネル
23 第2ハーフパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグ膨張時において、該エアバッグの乗員対向面のうち乗員の頭部と対面する頭部対面部に、乗員側から凹陥する凹部が形成されるように構成されたエアバッグであって、
該頭部対面部の乗員側への膨出を規制する規制部材が設けられており、
エアバッグ膨張時には、該規制部材によって該頭部対面部の乗員側への膨出が規制されることにより前記凹部が形成されるように構成されたエアバッグにおいて、
該規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから所定時間経過後に規制を解除するように構成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
請求項1において、前記所定時間は、エアバッグが膨張を開始してから15〜40m秒であることを特徴とするエアバッグ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記規制部材は、エアバッグ内部に配置され、前記頭部対面部と、エアバッグの膨張時の反乗員側とを連結しており、
該規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから前記所定時間経過後に該規制部材に負荷される張力により破断して該頭部対面部と該反乗員側との連結を解除するように構成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項4】
請求項3において、前記規制部材に脆弱部が設けられており、該規制部材に前記張力が負荷されたときには、該脆弱部において該規制部材が破断するように構成されており、
該脆弱部は、エアバッグ膨張時における該規制部材の前記反乗員側の端部から210〜240mm離隔していることを特徴とするエアバッグ。
【請求項5】
請求項4において、前記規制部材に開口が設けられており、該開口の周縁部が前記脆弱部となっていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記規制部材は織布よりなり、該規制部材のうち少なくとも前記脆弱部において、該織布の糸目方向が前記張力方向に対し斜交方向となっていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項7】
請求項6において、少なくとも前記規制部材のエアバッグ膨張時における反乗員側の端部及びその近傍においては、前記織布の糸目方向が前記張力方向と略平行方向となっていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、エアバッグ内に、該エアバッグの膨張時における前記乗員対向面の下部と前記反乗員側とを連結した副規制部材が設けられており、
該副規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから前記規制部材が規制を解除する前に破断して該乗員対向面の下部と該反乗員側との連結を解除するように構成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項9】
請求項8において、該副規制部材は、エアバッグが膨張を開始してから10〜30m秒後に破断するように構成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記副規制部材に脆弱部が設けられており、エアバッグが膨張を開始してから前記規制部材が規制を解除する前に、該副規制部材に負荷された張力により、該脆弱部において該副規制部材が破断するように構成されており、
この副規制部材の脆弱部は、エアバッグ膨張時における該副規制部材の前記反乗員側の端部から190〜220mm離隔していることを特徴とするエアバッグ。
【請求項11】
請求項10において、前記副規制部材に開口が設けられており、該開口の周縁部が前記脆弱部となっていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項12】
請求項10又は11において、前記副規制部材は織布よりなり、該副規制部材のうち少なくとも前記脆弱部において、該織布の糸目方向が前記張力方向に対し斜交方向となっていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項13】
請求項12において、少なくとも前記副規制部材のエアバッグ膨張時における反乗員側の端部及びその近傍においては、前記織布の糸目方向が前記張力方向と略平行方向となっていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載のエアバッグと、該エアバッグを膨張させるインフレータとを備えてなるエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−149594(P2010−149594A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327977(P2008−327977)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】