説明

エアバッグ用基布およびその製造方法

【課題】十分な機械的特性を満足し、かつ柔軟性および耐熱劣化性に優れたエアバッグ用基布およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも次の工程を順次経由することを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。
第一工程:単糸繊度1dtex以上、総繊度100〜500dtexの合成繊維からなるマルチフィラメント糸Aと、総繊度20〜150dtexのアルカリにより溶解する繊維Bを合糸撚糸する工程。
第二工程:得られた合糸撚糸をタテ糸およびヨコ糸に用いて製織する工程。
第三工程:pH12以上のアルカリ水溶液を用い、温度120℃以下、時間90分以下で繊維Bを溶出処理する工程。
第四工程:溶出処理した基布の少なくとも片面に5〜80g/mの樹脂を被覆する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時に乗員を保護するための安全部品のひとつであるエアバッグを構成する基布およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両衝突時の乗員保護のために、様々なエアバッグ、シートベルトが開発されており、その一つとして、エアバッグとシートベルトの機能を同時に兼ね備えたエアバッグ内臓シートベルト、つまりエアベルトが検討されている。
【0003】
エアベルトは、車両が衝突してから極めて短時間に膨張展開することにより、衝突時に発生する乗員の衝突エネルギーを吸収し、さらに座席に乗員を固定する仕組みになっている。つまり、広く使用されているシートベルトとそれを補助するエアバッグの役割を融合した仕組みになっている。このエアベルトを膨張させる装置としては、高出力、高温ガスを発生させるインフレーターが用いられており、エアベルトを構成するバッグ(本体基布)や縫製糸、カバーが上記ガスに耐えうる構造となっている。しかし、これまで提案されたエアベルトは、常に乗員の身体に触れるシートベルトに比べ風合いが硬く、重量も増し、嵩高いため、乗員への圧迫感、疲労感を増大させるという問題があった。
【0004】
かかる課題を解決するために、例えば特許文献1には、織糸の繊度を315d(デニール)以下、単繊維繊度を3.5d(デニール)以下とすることにより、折りたたんだ際の基布の厚さが薄く、表面平滑性に優れたエアベルト用バッグを得る方法が開示されている。しかし、この方法で得られたエアベルト用基布は基布の厚さが薄くなるだけで、風合いが硬く、乗員へ与える圧迫感、疲労感を解消させるものではなかった。さらに、薄地化かつ表面平滑性を向上させるために樹脂を被覆していない、いわゆるノンコート基布であることが前提であるため、バッグ展開時に、基布からエアー漏れがおこり、乗員を拘束させるのに十分な機能を満足するものではなかった。
【0005】
また、特許文献2には、極細繊維を用いることにより、エアベルトとして十分な装着性を満足し、内圧保持性と難燃性に優れたエアベルト用基布を得る方法が開示されている。確かに、極細繊維を用いることで、薄地かつ風合いが柔軟な基布を得ることができるが、極細繊維はマルチフィラメントの表面積の増加により、繊維表面が酸化劣化し、強度が低下するため、エアベルト展開時にバッグの破れを誘発する懸念があった。
【特許文献1】特開平11−348724号公報
【特許文献2】特開2006−161212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる背景技術に鑑み、十分な機械的特性、耐熱劣化性を満足し、かつ柔軟性に優れたエアバッグ用基布およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
特に、優れた柔軟性を有し、エアベルトとした時の装着感、乗員への圧迫感、疲労感を軽減することができる、エアベルト用基布として好適な基布およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明の一つは、少なくとも次の工程を順次経由することを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法である。
第一工程:単繊維繊度1dtex〜8dtexの合成繊維からなり、総繊度100〜500dtexのマルチフィラメント糸Aと、総繊度20〜150dtexのアルカリにより溶解する糸Bを合糸撚糸する工程。
第二工程:得られた合糸撚糸をタテ糸およびヨコ糸に用いて製織する工程。
第三工程:pH12以上のアルカリ水溶液を用い、温度120℃以下、時間90分以下でアルカリにより溶解する糸Bを溶出処理する工程。
第四工程:溶出処理した織物の少なくとも片面に5〜80g/mの樹脂を被覆する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な機械的特性を満足し、かつ柔軟性および耐熱劣化性に優れたエアバッグ用基布およびその製造方法を提供することができる。
【0010】
特に、優れた柔軟性を有することから、エアベルトとした時の装着感、乗員への圧迫感、疲労感を軽減することができるため、エアベルト用基布として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエアバッグ用基布及びその製造方法について、製造方法の工程順に説明する。
【0012】
本発明の特徴は、マルチフィラメント糸Aとアルカリにより溶解する糸Bの合糸撚糸によって得られた織物から糸Bを溶解し、マルチフィラメント糸Aの糸−糸間に適度な空隙を与えることにより、得られるエアバッグ用基布に優れた柔軟性を発現させることにある。そのため、
第一工程:マルチフィラメント糸Aとアルカリにより溶解する糸Bの合糸撚糸工程、
第二工程:合糸撚糸を用いた製織工程、
第三工程:糸Bの溶出工程、
第四工程:樹脂被覆工程、
を順次経由することが重要である。
【0013】
まず、第一工程では、単繊維繊度1dtex〜8dtexの合成繊維からなり総繊度100〜500dtexのマルチフィラメント糸Aと、総繊度20〜150dtexのアルカリにより溶解する糸Bを合糸撚糸する。
【0014】
ここで、マルチフィラメント糸Aは、単繊維繊度は1dtex以上の合成繊維からなり、総繊度は100〜500dtexであることが機械的特性と柔軟性を両立させるために重要である。単繊維繊度が1dtex以下、総繊度が100dtex未満であると、マルチフィラメント糸Aの強力が低く、エアバッグ用基布として十分な強度を得ることができない。また、単繊維繊度が8dtexを超える、または総繊度が500dtexを超えると、エアバッグ用基布としたときの柔軟性が悪く、特にエアベルトとした場合、装着感が悪く乗員に疲労感や圧迫感を与えることとなる。マルチフィラメント糸Aの総繊度は200dtex〜400dtexであることがより好ましい。
【0015】
マルチフィラメント糸Aの単繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば丸、扁平、三角、長方形、中空などが使用できるが、生産性やコストの点から丸断面が好ましい。
【0016】
マルチフィラメント糸Aを形成する合成繊維としては例えば、ポリアミド系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリサルホン系繊維、超高分子量ポリエチレン系繊維等を用いることができる。なかでも、大量生産性や経済性に優れ、アルカリにより溶解しないポリアミド系繊維が好ましい。
【0017】
ポリアミド系繊維としては例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維を挙げることができる。ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は耐衝撃性に特に優れており、好ましい。
マルチフィラメント糸Aを構成する繊維は、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、老化防止剤、耐熱剤、耐侯剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などを含有していることも好ましい。
【0018】
また、本発明におけるマルチフィラメント糸Aがポリアミド繊維からなる場合は、重量換算で10〜300ppmの銅が含有されてなることが耐環境性、特に耐熱性の面で好ましい。10ppm未満であると、十分な耐環境性あるいは耐熱老化性を得ることができず、また300ppmを超えるとマルチフィラメント糸Aを作成する際の操業性を悪化させることとなる。なお、銅は老化防止剤としての効果を発揮させるため、CuI、CuCl、CuCl等の銅塩として含有させることで、長期耐熱性を向上させることができる。これら銅塩は、マルチフィラメント糸Aの紡糸時に添加してもよいし、繊維形成後含浸等させることにより添加してもかまわない。
【0019】
アルカリにより溶解する糸Bは、アルカリにより溶解するものであれば、特に限定されるものではない。構成繊維としてはポリエチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維などが使用できるが、特に、融点が低く、低温での溶出処理が容易な点から、ポリ乳酸繊維が好ましい。
【0020】
また、アルカリにより溶解する糸Bの総繊度は20dtex〜150dtexであることが優れた柔軟性を発現させるためには重要である。20dtex未満では、本発明で最終的に得られるエアバッグ用基布の糸−糸間に十分な空隙を与えることができず、優れた柔軟性を発現することができない。また、150dtexを超えると糸−糸間の空隙が過度に大きくなり、最終的に得られるエアバッグ用基布の密度が低下するため、エアバッグ用基布として十分な強度を得ることができない。アルカリにより溶解する糸Bの総繊度は30〜100dtexであることがより好ましい。
【0021】
アルカリにより溶解する糸Bは、上記総繊度の範囲内であれば、その形態は特に限定されない。マルチフィラメント糸であっても紡績糸であっても良く、長短複合糸であってもかまわない。しかし、マルチフィラメント糸Aとの相性等の点から、マルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0022】
マルチフィラメント糸A及びアルカリにより溶解する糸Bは、通常の方法で紡糸、糸加工することで得ることができる。
【0023】
マルチフィラメント糸Aとアルカリにより溶解する糸Bを合糸撚糸する方法は、特に限定されるものではなく、ダウンツイスター、ダブルツイスター、合撚機などが使用できるが、特に合糸が容易な点から、ダウンツイスターを使用することが好ましい。また撚りの回数も特に限定されるものではないが、下式により求められる撚り係数Kが700〜3000の範囲であることが好ましい。撚りが過度に少ないと、撚糸の糸束が収束せず、製織のため、撚糸に熱セットなどの糸束を収束させる加工を施さなければならなくなり、近年エアバッグ用基布に求められる低コスト化の要求を達成できない。また、撚りが過度に多いと撚糸時に糸切れが起こり易くなり、操業性が悪くなる。
式 K=T×D1/2
(ここでK:撚り係数、T:撚り数[回/m]、D:糸の総繊度[dtex])
次に、第二工程では、第一工程により得られた合糸撚糸をタテ糸およびヨコ糸に用いて製織する。
【0024】
タテ糸およびヨコ糸は第一工程により得られた合糸撚糸であればよく、同じ糸である必要はない。
【0025】
合糸撚糸を製織する織機は、ウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルームなどを使用することができるが、特に生産性の面からウォータージェットルームが好ましい。
【0026】
織物の織組織としては、平組織、斜文組織および朱子組織などを採用することができ、中でも、均一な機械的特性、大量生産の容易さ、高速生産によるコストダウン、織組織構造の安定性等の点から、平組織が好ましい。
【0027】
合糸撚糸を用いて製織した織物は、下式により表されるカバーファクターCFが、1600〜2200の範囲であることが好ましい。カバーファクターが1600未満では、得られる織物の密度が低く、目ずれが大きくなるため、エアバッグ用基布として必要な内圧保持性を達成することができない恐れがある。また、カバーファクターが2200を超えると、織密度が高くなり、柔軟性が悪くなる。
式 CF=(D1×0.9)1/2×N1+(D2×0.9)1/2×N2
(ここでD1:タテ糸総繊度[dtex]、D2:ヨコ糸総繊度[dtex]、N1:タテ糸密度[本/2.54cm]、N2:ヨコ糸密度[本/2.54cm])
次に、第三工程では、第二工程によって得られた織物をpH12以上のアルカリ水溶液を用い、温度120℃以下、時間90分以下でアルカリにより溶解糸Bを溶出処理する。本発明のエアバッグ用基布の製造方法においては、この溶出過程が特に重要である。
【0028】
アルカリにより溶解する糸Bの溶出処理に使用するアルカリは特に限定されるものではなく、マルチフィラメント糸Aを溶解する成分でなければ使用できる。例えば、マルチフィラメント糸Aがナイロン66であれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどが使用できるが、アルカリ溶出に一般的に用いられる、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0029】
また、溶液の濃度はpH12以上のアルカリ水溶液を用いることが重要である。pH12未満であると、アルカリにより溶解する糸Bを完全に溶解するのに、多くの温度または時間を要するため、その結果、老化防止剤が流出してしまうこととなる。
【0030】
また、アルカリにより溶解する糸Bの溶出処理は温度120℃以下、時間90分以下とすることが耐環境性、特に耐熱性の面で重要である。溶出処理の温度が120℃を超える、または時間が90分を超えるとマルチフィラメント糸Aから老化防止剤が流出してしまい、耐環境劣化性が低下することとなる。特に、マルチフィラメント糸Aがポリアミドからなり、老化防止剤として銅塩を含有する場合、溶出処理による銅塩の流出は耐熱性の低下を招く。温度、時間が大きいほど、老化防止剤の流出量が増えるため、アルカリにより溶解する糸Bの溶出処理は温度100℃以下、時間60分以下であることが、より好ましい。
【0031】
溶出処理の方法としては、特に限定されるものではないが、織物の攪拌が十分に行われ、溶出処理が容易にできる点から、例えば液流染色機などを用いることができる。
【0032】
次に、第四工程では、第三工程によって得られた溶出処理した織物の少なくとも片面に樹脂を被覆する。
【0033】
表面に被覆する樹脂は特に限定されるものではないが、耐熱性、耐寒性、難燃性を有する点から、例えばシリコーン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂などが好ましい。中でもシリコーン樹脂は耐熱性、耐老化性、汎用性の点から特に好ましい。シリコーン樹脂としては、ジメチル系、メチルビニル系、メチルフェニル系、フロロ系等のシリコーンを用いることができる。
【0034】
樹脂の被覆量としては、5〜80g/mの範囲内にあることが好ましい。5g/m以上とすることで、低通気性、ひいては拘束装置に必要な高速展開性、内圧保持性を達成することができる。また、80g/m以下とすることで、エアベルト用途に適した柔軟性および収納性を得ることができる。
【0035】
また、本発明の製造方法によって得られる基布をエアベルトとして使用する場合、2枚の基布の縫製部からの空気漏れを防止するため、縫製部にシール材を使用するのが一般的であるが、該シール材と基布を十分に接着させるため、樹脂の被覆量は20〜70g/mであることがより好ましい。
【0036】
樹脂のコーティング方法としては、特に限定されるものではないが、少量の樹脂でも均一かつ平滑に薄く塗布できる点で、フローティングナイフコートが好ましい。
【0037】
また、樹脂コーティングは織物の両面に行ってもよいが、本発明によれば片側面のみの樹脂コートでもエアバッグ用基布として十分な低通気性、内圧保持性を満足できるので、片側面だけでもよい。
【0038】
以上のように、第一工程〜第四工程を経て、本発明のエアバッグ用基布を得ることができるが、本発明のエアバッグ用基布は以下に記載する特性を満たすものであることが好ましい。
【0039】
本発明のエアバッグ用基布の樹脂コーティング後の目付けは200g/m以下とすることで、軽量化の実効が得られるため好ましく、とりわけ、エアベルト用に用いる場合にも、乗員の肩に掛かる負担が軽減されるため好ましい。
【0040】
本発明のエアバッグ用基布の厚さは0.3mm以下とすることで、薄地化の実効が得られるため好ましく、とりわけ、エアベルトの用いる場合にも、バッグの収納部の厚みが薄くなることから、乗員への圧迫感を軽減できるだけでなく、商品性の面からも好ましい。
本発明のエアバッグ用基布の引張強力はタテ方向、ヨコ方向ともに250N/cm以上であることが好ましい。250N/cm未満ではエアバッグの展開に必要な機械的強度が不足し、乗員を保護できないおそれがある。
【0041】
本発明のエアバッグ用基布は、110℃、3000時間後の引張強力保持率がタテ方向、ヨコ方向80%以上であることが好ましい。110℃、3000時間後の強力が80%未満であると、長期間、例えば10年以上エアバッグが車載されていた場合において、エアバッグの展開に必要な機械的強度を維持できないおそれがある。この特性を満たすためには、マルチフィラメント糸Aがポリアミドであれば、前記のとおり、重量換算で10〜300ppmの銅を含有させることで達成することができる。
【0042】
本発明のエアバッグ用基布の引裂強力は100N以上であると、縫製部にシール剤を施さないエアバッグの展開において、必要な機械特性を有していると言える。縫製部シール剤を用いる場合には、シール剤が縫製部へ集中する応力を緩和できるため、100N以下のコート織物でも用いることができる場合がある。
【0043】
本発明のエアバッグ用基布は、ASTM D 4032−94:2001による剛軟度が8.0N以下であることがエアベルト用途に適した柔軟性を得るためには好ましい。剛軟度は6.0N以下であることがより好ましい。この特性を満たすためには、前記のとおり、本発明の第一工程〜第四工程を経て、本発明のエアバッグ用基布を得ることで達成することができる。
【0044】
本発明のエアバッグ用基布は、JIS K 6404−6により測定したもみ試験が4級以上とすることで、エアバッグ作成後に長期間保管しても、コーティング剤が剥がれることなく、低通気性を維持できるため好ましい。この特性を満たすためには、前記のとおり、溶出処理した織物に5〜80g/mの樹脂を被覆することで達成することができる。
【0045】
本発明のエアバッグ用基布は、JIS L 1096 A法に準じて試験差圧19.6kPaで測定した通気度が0.3L/cm/min以下とすることで、高速展開を要求される、カーテンエアバッグ、サイドエアバッグ等の側面衝突対応部位およびエアベルトにも好適に用いることができる。この特性を満たすためには、前記のとおり、溶出処理した織物に5〜80g/mの樹脂を被覆することで達成することができる。
【0046】
本発明のエアバッグ用基布は、FMVSS302法による燃焼速度が、80mm/min以下とすることで、自動車内装材として用いるために必要な法的要求事項を満足することができる。燃焼性は60mm/min以下であることがより好ましい。この特性を満たすためには、前記のとおり、溶出処理した織物に5〜80g/mの樹脂を被覆することで達成することができる。
【実施例】
【0047】
実施例により、本発明を更に詳しく説明する。
【0048】
[測定方法]
(1)繊度
JIS L1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5mの小かせをサンプル数3作り(n=3)、質量を測定し、その平均値(g)に10000/112.5をかけ、見掛け繊度に換算した。見かけ繊度から、以下の式基づいて正量繊度を算出した。
F0=D×(100+R0)/(100+Re)
ここに、F0:正量繊度(dtex)
D :見かけ繊度(dtex)
R0:公定水分率(%)
Re:平行水分率。
【0049】
(2)タテ糸・ヨコ糸の織物密度
JIS L 1096:1999 8.6.1に基づき測定した。
試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5か所について2.54cmの区間のタテ糸およびヨコ糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
【0050】
(3)織物目付け
JIS L 1096:1999 8.4.2に則り、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)に換算した。
【0051】
(4)織物厚さ
JIS L 1096:1999 8.5に則り、試料の異なる5か所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0052】
(5)引張強度
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に基づき測定した。
タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を3枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、これら試験片の中央部に100mm間隔の標線を付け、引張試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るまでの最大荷重を測定し、3で和って幅1cmあたりの引張強度を算出し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。また、110℃雰囲気下で3000時間放置後の引張強度保持率は、下記するように算出した。
式1(タテ)=T3(N/cm)/T1(N/cm)×100(%)
式2(ヨコ)=T4(N/cm)/T2(N/cm)×100(%)
T1: 処理前のタテ方向引張強度(N/cm)
T2: 処理前のタテ方向引張強度(N/cm)
T3: 110℃雰囲気下で3000時間放置後のタテ方向引張強度(N/cm)
T4: 110℃雰囲気下で3000時間放置後のヨコ方向引張強度(N/cm)。
【0053】
(6)破断伸度
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に基づき測定した。
タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を3枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、これら試験片の中央部に100mm間隔の標線を付け、引張試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、また、切断に至るときの標線間の距離を読み取り、次式により、破断伸度を算出し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
E=[(L−100)/100]×100
ここに、E:破断伸度(%)
L:切断時の標線間の距離(mm)。
【0054】
(7)引裂強力
JIS L 1096:1999 シングルタング法に準じて測定した。
長辺200mm、短辺76mmの試験片をタテ方向、ヨコ方向、両方にそれぞれ5個の試験片を採取し、試験片の短辺の中央に辺と直角に75mmの切込みを入れ、引張試験機にてつかみ間隔75mm、引張速度200mm/minで試験片が引ききるまで引裂き、その時の引裂き荷重(N)を測定した。得られた引裂き荷重のチャート記録線より、最初のピークを除いた極大点の中から大きい順に3点選び、その平均値をとった。最後にタテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、平均値を算出した。
【0055】
(8)剛軟度
ASTM D 4032−94:2001に則り、長辺204mm、短辺102mmの試験片をタテ、ヨコ、両方にそれぞれ5個の試験片を採取し測定した。得られた最大荷重(N)について、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
【0056】
(9)もみ試験
JIS K 6404−6:1999に則り、長辺100mm、短辺25mmの試験片をタテ、ヨコ両方にそれぞれ6個の試験片を採取した。スコット形もみ試験機を用いて、コーティング面同士を重ね併せ、つかみ間隔30mm、荷重1kg、つかみ具移動距離50mm、もみ速さ120回/分で500回もみ試験を行った。得られたサンプルについて等級区分した。等級区分は試験片のコーティング面の状態を目視判断した。
5級:コーティング剤の剥離なし。
4級:コーティング層の一部に削れあり、かつ、織物層の露出無し。
3級:コーティング層の一部に削れあり、かつ、織物層の露出有り。
2級:コーティング層の一部に剥離あり、かつ、織物層の露出有り。
1級:コーティング層の大部分に剥離あり、かつ、織物層の露出有り。
【0057】
(10)通気量
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて、試験差圧19.6kPaで試験したときの通気量を測定した。試料の異なる5か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、口径100mmの円筒の一端に試験片を取り付け、取り付け箇所から空気の漏れが無いように固定し、レギュレーターを用いて試験差圧19.6kPaに調整し、そのときに試験片を通過する空気量を流量計で計測し、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0058】
(11)燃焼性(FMVSS302)
FMVSS302法に基づき測定した。巾102mm、長さ356mmの試験片を織物のタテ方向およびヨコ方向のそれぞれについて5枚ずつ作成し、試験を行い、次式より燃焼速度を算出した。
B=60×(D/T)
B:燃焼速度(mm/min)
D:炎が進行した距離(mm)
T:炎がDmm進行するために要した時間(秒)
得られた燃焼速度の中で、最も速度の早い値を、本測定の燃焼速度とした。
【0059】
[実施例1]
(合糸撚糸)
総繊度235dtex、フィラメント数72本、銅量70ppmのナイロン66からなるマルチフィラメント糸Aと、単繊維繊度1.4dtex、総繊度56dtexのポリ乳酸よりなるマルチフィラメント糸Bを、ダウンツイスターにて100回/m(撚り係数K=1533)の条件にて合糸撚糸した。
【0060】
(製織)
得られた合糸撚糸をタテ糸及びヨコ糸として用い、ウォータージェットルームにて、タテ糸密度58本/2.54cm、ヨコ糸密度62本/2.54cmの平織りに製織した。
【0061】
(溶出処理)
得られた織物を液流染色機にて、95℃の濃度1.5質量%水酸化ナトリウム水溶液(pH=12.6)で30分間アルカリ溶出し、70℃の温度で湯洗いし、水洗し、130℃の温度で乾燥し、150℃にて1分間熱セットした。
【0062】
(コーティング)
次いでこの織物に、フローティングナイフコーターにより、粘度12Pa・sの無溶剤系メチルビニルシリコーン樹脂液を塗工量61.3g/mでコーティングし、次いで190℃で1分間加硫処理を行い、タテ糸密度65本/2.54cm、ヨコ糸密度63本/2.54cmのコート織物を得た。これについて各物性を評価し、結果を表1にまとめた。
【0063】
[実施例2]
マルチフィラメント糸Aに総繊度235dtex、フィラメント数36本、銅量70ppmのナイロン66からなるマルチフィラメントを用いた以外は、実施例1と同様の手段で、塗工量44g/m、タテ糸密度62本/2.54cm、ヨコ糸密度62本/2.54cmのコート織物を得た。これについて各物性を評価し、結果を表1にまとめた。
【0064】
[比較例1]
総繊度235dtex、フィラメント数72本、銅量70ppmのナイロン66からなるマルチフィラメント糸Aのみをタテ糸及びヨコ糸に用い、ウォータージェットルームにてタテ糸密度60本/2.54cm、ヨコ糸密度60本/2.54cmの平織りに製織した。次いで、該織物を80℃で精練、130℃で乾燥した後、180℃で1分間熱セットした後、実施例1と同様のコーティングを行い、塗工量41g/m、タテ糸密度65本/2.54cm、ヨコ糸密度55本/2.54cmのコート織物を得た。これについて各物性を評価し、結果を表1にまとめた。
【0065】
[比較例2]
総繊度235dtex、フィラメント数36本、銅量70ppmのナイロン66からなるマルチフィラメント糸Aのみをタテ糸及びヨコ糸に用い、ウォータージェットルームにてタテ糸密度60本/2.54cm、ヨコ糸密度60本/2.54cmの平織りに製織した。次いで、該織物を80℃で精練、130℃で乾燥した後、180℃で1分間熱セットした後、実施例1と同様のコーティングを行い、塗工量40g/m、タテ糸密度62本/2.54cm、ヨコ糸密度62本/2.54cmのコート織物を得た。これについて各物性を評価し、結果を表1にまとめた。
【0066】
[比較例3]
実施例1の溶出処理の工程を150℃の濃度1.5質量%水酸化ナトリウム水溶液で30分間アルカリ溶出した以外は、実施例1と同様の手段で、塗工量60g/m、タテ糸密度65本/2.54cm、ヨコ糸密度64本/2.54cmのコート織物を得た。これについて各物性を評価し、結果を表1にまとめた。
【0067】
[比較例4]
実施例1の溶出処理の工程を95℃の濃度1.5質量%水酸化ナトリウム水溶液で120分間アルカリ溶出した以外は、実施例1と同様の手段で、塗工量51g/m、タテ糸密度64本/2.54cm、ヨコ糸密度64本/2.54cmのコート織物を得た。これについて各物性を評価し、結果を表1にまとめた。
【0068】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のエアバッグ用基布およびその製造方法は、優れた柔軟性を有することから、エアベルトとした時の装着感、乗員への圧迫感、疲労感を軽減することができるため、エアベルト用基布として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも次の工程を順次経由することを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。
第一工程:単繊維繊度1dtex〜8dtexの合成繊維からなり、総繊度100〜500dtexのマルチフィラメント糸Aと、総繊度20〜150dtexのアルカリにより溶解する糸Bを合糸撚糸する工程。
第二工程:得られた合糸撚糸をタテ糸およびヨコ糸に用いて製織する工程。
第三工程:pH12以上のアルカリ水溶液を用い、温度120℃以下、時間90分以下でアルカリにより溶解する糸Bを溶出処理する工程。
第四工程:溶出処理した織物の少なくとも片面に5〜80g/mの樹脂を被覆する工程。
【請求項2】
前記第三工程において、温度100℃以下、時間60分以下でアルカリにより溶解する糸Bを溶出処理することを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項3】
マルチフィラメント糸Aが重量換算で10〜300ppmの銅を含有していることを特徴とする請求項1または2記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布の製造方法により製造されたエアバッグ用基布であって、剛軟度が8.0N以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項5】
110℃、3000時間後の引張強力保持率がタテ方向、ヨコ方向それぞれにおいて80%以上である請求項4記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
エアベルトに用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエアバッグ用基布。

【公開番号】特開2010−47872(P2010−47872A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213889(P2008−213889)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】