説明

エアバッグ装置

【課題】エアバッグ内圧制御に加え、エアバッグの基布に発生する張力をも低減する。
【解決手段】インフレータ2と、エアバッグ1を備えたエアバッグ装置である。エアバッグ1は、基布1aと、展開時、エアバッグ1に作用する荷重を受け持つローディングテープ1bを備える。基布1aは、長手方向がエアバッグ1の展開方向となるように並列配置された多数のゴア部1aaを含んでいる。ローディングテープ1bは、ゴア部1aaの隣り合う両側縁部を覆うように設けられてゴア部1aa同士を連結する。エアバッグ1の展開時には、ゴア部1aaがローディングテープ1bよりもエアバッグ1の外側に膨らみ、かつ外側に膨らんだ膨出部1cの曲率半径Rの中心Cが、ローディングテープ1bよりもエアバッグ1の外側に位置する。
【効果】エアバッグの展開圧力による乗員へのダメージを小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に設置されるエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車には、乗員の安全確保を目的として、幾つかの安全装置が設置されている。その1つであるエアバッグ装置は、常時はケース内に折り畳まれて収納されている。そして、衝突などの緊急時には、インフレータで発生させた膨張用ガスによってエアバッグが展開するようになっている。
【0003】
このようなエアバッグ装置では、展開したエアバッグによる乗員の拘束中、エアバッグの内圧は、エアバッグの大きさ、乗員の体格、乗員の拘束位置などによって刻々と変化している。
【0004】
また、近年は、自動車の衝突速度や、被衝突対象物差(コンパティビリティ)からくる衝突加速度が増加している。
【0005】
従って、乗員の拘束を適正に保ち、乗員障害値を下げるには、エアバッグ装置による拘束システムの最適化を今以上に考える必要がある。それには、エアバッグの内圧をあるレベルよりも上昇させず、乗員に対する抗力を最適に制御する必要がある。
【0006】
そこで、特許文献1では、2段インフレータによりエアバッグの内圧を制御するものが提案されている。なお、エアバッグの容積を制御することにより、またベント孔径を可変させることによっても、エアバッグの内圧を制御することができる。
【特許文献1】特開2004−131084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記展開状態のエアバッグによって乗員が拘束された場合、乗員がこのエアバッグによって受ける抗力は、以下の3つに分解できる。
1)エアバッグの内圧により発生する抗力(乗員が接触しているエアバッグの面積×エアバッグ内圧)
2)エアバッグの内圧によってエアバッグを形成する基布に発生する張力
3)乗員がエアバッグに侵入した量に比例した、エアバッグを形成する基布の張力ベクトルの増加分
【0008】
従って、これら3つに分解できる力のそれぞれを最適に制御することが、エアバッグによって乗員が受ける抗力の最適化を図る上で重要である。
【0009】
しかしながら、前記2)の張力や3)の張力ベクトルの増加分を制御することは非常に難しい。従って、特許文献1で提案されたエアバッグ装置では、前記1)の抗力を発生させるエアバッグの内圧を制御することだけで対応しているが、これでは乗員に対する抗力の制御を十分に行うことは難しい。
【0010】
本発明が解決しようとする問題点は、エアバッグの内圧を制御するだけの従来のエアバッグ装置では、乗員に対する抗力の最適制御が困難であるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のエアバッグ装置は、このような観点からなされたもので、
前記1)のエアバッグ内圧制御に加えて、前記2)のエアバッグの内圧によってエアバッグの基布に発生する張力をも低減可能にすることで、乗員に対する抗力の最適制御を実現するものである。
【0012】
すなわち、本発明のエアバッグ装置は、
インフレータと、エアバッグを備えたエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、展開時に乗員を保護する基布と、
展開時、エアバッグに作用する荷重を受け持つローディングテープを備え、
a) 前記基布は、長手方向が当該エアバッグの展開方向となるように並列配置された複数のゴア部を含み、
前記ローディングテープは、前記長手方向に並列配置されたゴア部の隣り合う両側縁部を覆うように設けられて前記並列配置されたゴア部同士を連結したものか、
又は
b) 前記基布は、長手方向が当該エアバッグの展開方向となるように並列配置された複数のゴア部を含む構成であり、
これら複数のゴア部のそれぞれの両側縁部を互いに接合してエアバッグ状となし、
前記ローディングテープは、前記接合部の近傍に接合部に沿ってゴア部上に設けられたものであり、
エアバッグの展開時には、前記ゴア部がローディングテープよりもエアバッグの外側に膨らみ、かつ外側に膨らんだ膨出部の曲率半径の中心が、ローディングテープよりもエアバッグの外側に位置するような構成であることを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、エアバッグが完全に展開した状態でも、インフレータからの展開ガス圧力を受けるローディングテープよりも外側に膨らんだゴア部には内圧による張力が発生しないので、エアバッグの展開圧力による乗員へのダメージを小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例について、図1〜図6を用いて説明する。
図1は運転席に備えた本発明例のエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を示す概略構成斜視図、図2は図1におけるエアバッグを平面と側面から見た図、図3は図2(a)のA−A断面図、図4は図3の矢視B−B図、図5はエアバッグの展開時と、乗員によって負荷されたエネルギーを吸収した後のゴア部の形状を模式化した説明図、図6は紡錘形状を説明する図である。
【0015】
1は本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグであり、展開時に乗員を保護する基布1aと、展開時に当該エアバッグ1に作用する荷重を受け持つ、例えば複数本のローディングテープ1bを備えている。
【0016】
前記基布1aは、例えば図2〜図5に示した例では、8枚のゴア部1aaを、長手方向が当該エアバッグ1の展開方向となるように並列配置して形成している。
【0017】
また、前記ローディングテープ1bは、インフレータ2からの展開ガス圧力を受け、エアバッグ1が完全に展開した状態でも、内圧によって基布1aにできるだけ張力が発生しないように設けるものである。
【0018】
従って、この目的を達成できるのであれば、設置する間隔、本数や材質は特に限定されないが、少なくとも4本以上、理想的には18本以上設けることが望ましい。
また、このローディングテープ1bは、基布1aの表面、あるいは、裏面のどちらに設けても良いが、製作作業の観点からは、表面に設けることが望ましい。
【0019】
さらに、このローディングテープ1bは、目的が達成できれば、どのような位置に設けても良い。例えば図面に示した例では、ゴア部1aaの隣り合う両側縁部を覆うように設け、このローディングテープ1bを介してゴア部1aa同士を連結するものを示している。しかしながら、それぞれの両側縁部を互いに接合したゴア部1aaの接合部近傍に、接合部に沿って設けたものでも良い。なお、ローディングテープ1bの取付けは、縫製や接着などによって行えばよい。
【0020】
ところで、本発明例では、各ゴア部1aaを、幅及び長さを大きく形成した三次元設計の紡錘形状としている(図6参照)。このような形状を採用すれば、エアバッグ1の展開時には、膨出部1cの曲率半径Rの中心Cが、ローディングテープ1bよりもエアバッグ1の外側に位置するようになり(図5参照)、ローディングテープ1bの円周軌跡LTでバランスする。
【0021】
このようにすることで、展開状態のエアバッグ1に乗員Pが突っ込んだ際も、乗員Pは基本的に基布1aに当たり、集中的に張力がかかっているローディングテープ1bに当たることがなくなる。
【0022】
そして、エネルギーを吸収した後のエアバッグ1は、膨出部1cの曲率半径Rの中心Caが、ローディングテープ1bの円周軌跡LTa上に位置するようになる。
このことから、本発明のエアバッグ装置では、エアバッグ1の展開から乗員Pのエネルギー吸収完了までの間、エアバッグ1の円周方向に作用する張力を最小にすることが可能になって、抗力を制限できるようになる。
【0023】
なお、エアバッグの内圧を負担する各ローディングテープ1bの張力の合成ベクトルと、前記内圧とができるだけ相殺されるような数学的な関数で表される形状であれば、ゴア部1aaの形状は紡錘形状に限らないことは言うまでもない。
【0024】
以上の構成のエアバッグ1においては、ローディングテープ1bの一端側を、例えば図1に示したリングブラケット3に固定し、このリングブラケット3をインフレータ2に固定する。
【0025】
一方、ローディングテープ1bの他端側は、図3に示すように、エアバッグ1の展開後の先鋒部分にまとめて取り付けることが望ましいが、必ず前記先鋒部分にまとめて取り付なければならないものではない。なお、図3中の1dは前記先鋒部分におけるローディングテープ1bの集合部を示す。
【0026】
本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグ1は上記の構成であるが、エアバッグ1の内圧が所定値以上になった時には、自動的にエアバッグ1内の空気を抜く空気抜き弁を備えさせれば、エアバッグ展開時の内圧調整の制御がより細かく行えるようになる。
【0027】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0028】
例えばローディングテープ1bの一端は、インフレータ2ではなく、エアバッグ1のケース、当該ケースの車両への取付け具、車両の一部の何れかに取り付けても良い。
【0029】
またローディングテープ1bの一端側の取り付けは、前記のリングブラケット3を用いたものに限らない。例えばリテーナリングをインフレータ2の外周側に配置し、前記ローディングテープ1bの一端側を、前記リテーナリングの周方向に沿って設けた複数(例えばローディングテープ1bと同数)のローディングテープ1b取付け部に取り付けたものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のエアバッグ装置は、自動車に設置して用いるが、車両以外に航空機や船舶等の乗物に設けることも可能であり、同様な効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】運転席に備えた本発明例のエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を示す概略構成斜視図である。
【図2】(a)は図1における展開した状態のエアバッグの平面から見た図、(b)は同じく側面から見た図である。
【図3】図2(a)のA−A断面図である。
【図4】図3の矢視B−B図である。
【図5】エアバッグの展開時と、乗員によって負荷されたエネルギーを吸収した後のゴア部の形状を模式化した説明図である。
【図6】紡錘形状を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
1 エアバッグ
1a 基布
1aa ゴア部
1b ローディングテープ
1c 膨出部
2 リングブラケット
3 インフレータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータと、エアバッグを備えたエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、展開時に乗員を保護する基布と、
展開時、エアバッグに作用する荷重を受け持つローディングテープを備え、
前記基布は、長手方向が当該エアバッグの展開方向となるように並列配置された複数のゴア部を含み、
前記ローディングテープは、前記長手方向に並列配置されたゴア部の隣り合う両側縁部を覆うように設けられて前記並列配置されたゴア部同士を連結し、
エアバッグの展開時には、前記ゴア部がローディングテープよりもエアバッグの外側に膨らみ、かつ外側に膨らんだ膨出部の曲率半径の中心が、ローディングテープよりもエアバッグの外側に位置するような構成であることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
インフレータと、エアバッグを備えたエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、展開時に乗員を保護する基布と、
展開時、エアバッグに作用する荷重を受け持つローディングテープを備え、
前記基布は、長手方向が当該エアバッグの展開方向となるように並列配置された複数のゴア部を含む構成であり、
これら複数のゴア部のそれぞれの両側縁部を互いに接合してエアバッグ状となし、
前記ローディングテープは、前記接合部の近傍に接合部に沿ってゴア部上に設けられ、
エアバッグの展開時には、前記ゴア部がローディングテープよりもエアバッグの外側に膨らみ、かつ外側に膨らんだ膨出部の曲率半径の中心が、ローディングテープよりもエアバッグの外側に位置するような構成であることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグは前記ローディングテープを複数本備え、
少なくとも前記ローディングテープの一端が、前記エアバッグのケース、当該ケースの車両への取付け具、インフレータ、または、車両の一部の何れかに取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
リテーナリングを前記インフレータの外周側に配置し、
前記ローディングテープの一端側を前記リテーナリングの周方向に沿って設けた複数のローディングテープ取付け部に取り付けたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記ローディングテープは、他端が、前記エアバッグの展開後の先鋒部分にまとめて接合されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−213678(P2008−213678A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54450(P2007−54450)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【Fターム(参考)】