説明

エキスパンションジョイント構造

【課題】従来のエキスパンションジョイント構造と比べてクリアランスをより小さく設定することができる新規なエキスパンションジョイント構造を提供する。
【解決手段】第1構造物10aと第2構造物10bとの間に画成されたクリアランス20を有するエキスパンションジョイント構造は、第1構造物のクリアランスに臨む部分と第2構造物の前記クリアランスに臨む部分とに夫々第1端と第2端とが連結されたダンパー装置22を備えている。このダンパー装置は、このダンパー装置の第1端と第2端との間の相対移動速度が大きいときに大きな抵抗力を発生することによって地震動及び強風などの動的外乱に起因する前記クリアランスの大きさの変化を抑制し、且つ、このダンパー蔵置の第1端と第2端との間の相対移動速度が小さいときに殆ど抵抗力を発生しないことによって温度変化に起因する前記クリアランスの大きさの変化を許容するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物のエキスパンションジョイント構造に関する。本発明は更に、エキスパンションジョイント構造を備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
長大な建築構造物では、温度変化により構造物が伸縮する際の構造物両端間の寸法変化も大きなものとなる。また、コンクリート造の構造物では、打設したコンクリートが硬化する際のコンクリートの収縮による構造物両端間の寸法変化も大きなものとなる。そのため、コンクリートの収縮や温度変化に起因する伸縮によって構造物が損傷しないように、構造物を適宜の箇所で切り離してそこにクリアランスを画成し、温度変化に起因する構造物の伸縮をそのクリアランスの大きさが縮小増大することで吸収するようにしており、この構造はエキスパンションジョイントと呼ばれている。ただし、温度変化に起因する構造物の伸縮量を吸収するためにエキスパンションジョイントを設ける場合であっても、そのクリアランスの大きさは、その温度変化に起因する構造物の伸縮量に対応した大きさとするだけでは不足である。即ち、地震動や強風などの外乱によって構造物が変形するときには、エキスパンションジョイントで切り離された両側の構造物部分が互いに異なった変形の仕方をするため、それによって両側の構造物部分どうしが衝突することがないように、温度変化により発生し得る伸縮量に更に地震動や強風による変形分を加えた大きさにクリアランスを設定しておかねばならない。
【0003】
特に多層建築物の上層階などのように、地震動や強風などの動的外乱により大きな変位を生じる部分に設けられるエキスパンションジョイントでは、そのクリアランスを非常に大きく設定しておく必要があった。更に、その多層建築物が例えば立体駐車場である場合などでは、エキスパンションジョイントを横切って大重量の車両が通行できるように、その大きなクリアランスを覆って、しかも大重量に耐え得るエキスパンションジョイントカバーが必要とされていた。しかしながら、そのようなエキスパンションジョイントカバーは市場に大量生産品として供給されていないため、特注品とせざるを得ず、そのため非常に高価であり、そのことが全体としての建築コストを押し上げていた。
【0004】
従来のエキスパンションジョイント構造を開示した文献としては、以下に列挙する特許文献1〜3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−303228
【特許文献2】特開2001−271514
【特許文献3】特開2008−202292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の事情に鑑み成されたものであり、本発明の目的は、従来のエキスパンションジョイント構造と比べて、クリアランスをより小さく設定することができる、新規なエキスパンションジョイント構造を提供することにある。本発明のもう1つの目的は、かかるエキスパンションジョイント構造を備えた建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係るエキスパンションジョイント構造は、第1構造物と第2構造物との間にクリアランスを画成し、温度変化に起因する前記第1構造物及び/または前記第2構造物の伸縮を前記クリアランスの大きさが増減することで吸収するようにしたエキスパンションジョイント構造において、前記第1構造物の前記クリアランスに臨む部分と前記第2構造物の前記クリアランスに臨む部分とに夫々第1端と第2端とが連結されたダンパー装置を備えており、該ダンパー装置は、該ダンパー装置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が大きいときに大きな抵抗力を発生することによって地震動及び強風などの動的外乱に起因する前記クリアランスの大きさの変化を抑制し、且つ、該ダンパー装置は、該ダンパー蔵置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が小さいときに殆ど抵抗力を発生しないことによって温度変化に起因する前記クリアランスの大きさの変化を許容するように構成されていることを特徴とする。
また、本発明に係るエキスパンションジョイント構造は、第1構造物と第2構造物との間にクリアランスを画成して成るエキスパンションジョイント構造において、前記第1構造物の前記クリアランスに臨む部分と前記第2構造物の前記クリアランスに臨む部分とに夫々第1端と第2端とが連結されたダンパー装置を備えており、該ダンパー装置は、該ダンパー装置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が大きいときに大きな抵抗力を発生することによって動的外乱に起因する前記クリアランスの大きさの変化を抑制し、且つ、該ダンパー装置は、該ダンパー蔵置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が小さいときに殆ど抵抗力を発生しないことによって準静的外乱に起因する前記クリアランスの大きさの変化を許容するように構成されていることを特徴とする。
また、本発明に係る建物は、かかるエキスパンションジョイント構造を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、地震動や強風などの動的外乱によって第1構造物と第2構造物との相対変位が発生するときには、ダンパー装置が大きな抵抗力を発生してクリアランスの大きさの変化を抑制することにより第1構造物と第2構造物との衝突が防止され、そのためクリアランスを小さく設定することができる。これによって、建物のエキスパンションジョイント部分における雨漏り防止や防火区画対応が容易になり、また、エキスパンションジョイントカバーの上を大重量の車両が走行する場合でも、低廉なエキスパンションジョイントカバーを使用することができ、エキスパンションジョイントカバーの破損リスクも低減する。また、クリアランスを小さくできることから、耐震設計をする上で第1構造物と第2構造物とを一体の構造物として取り扱うことが可能となり、そのことが設計期間の短縮、手間の削減につながるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係るエキスパンションジョイント構造を備えた構造物の骨組を示した図であり、(A)は伏図、(B)は側面図である。
【図2】本発明の別の好適な実施の形態に係るエキスパンションジョイント構造を備えた構造物の骨組を示した側面図である。
【図3】図2の実施の形態の第1の変更例に係るエキスパンションジョイント構造を備えた構造物の骨組を示した伏図である。
【図4】図2の実施の形態の第2の変更例に係るエキスパンションジョイント構造を備えた構造物の骨組を示した伏図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るエキスパンションジョイント構造を備えた構造物の骨組を示した図であり、(A)は伏図、(B)は側面図である。図示した構造物は鉄筋鉄骨コンクリート造の建物であり、図には建物の骨組しか示していないが、この建物を参照符号10で表している。建物10の骨組は柱12と大梁14とを備えており、柱12は杭16に支持された基礎18に立設されている。建物10は、クリアランス20を有するエキスパンションジョイント構造によって左方構造部分10aと右方構造部分10bとに切り離されている。以下の説明では、建物10の左方構造部分10aを第1構造物と称し、建物10の右方構造部分10bを第2構造物と称する。第1構造物10a及び第2構造物10bには、季節、時刻、天候による気温変化や、直射日光に曝露されることによる温度上昇などの、様々な温度変化に起因する伸縮が発生するが、この温度変化に起因する伸縮はエキスパンションジョイント構造のクリアランス20の大きさが増減することにより吸収される。また、この建物10を構築するために打設したコンクリートが硬化する際に収縮することによって、第1構造物10a及び第2構造物10bに寸法収縮が生じるが、そのような寸法収縮もクリアランス20の大きさが増大することにより吸収される。そのためこの建物10は、硬化に際してのコンクリートの収縮や温度応力に起因する変形などの静的な変形に対して応力フリーとなる構造となっている。
【0011】
図1に示したエキスパンションジョイント構造は更に、クリアランス20の近傍に配設された複数のダンパー装置22を備えている。各々のダンパー装置22は第1端及び第2端を有しており、第1端は、第1構造物10aのクリアランス20に臨む部分に連結されており、第2端は、第2構造物10bのクリアランス20に臨む部分に連結されている。より詳しくは、複数のダンパー装置22は、第1構造物10aの一部である大梁14aと第2構造物10bの一部である大梁14bとの間に列設されており、それらダンパー装置22の夫々の第1端が前者の大梁14aに連結されており、夫々の第2端が後者の大梁14bに連結されている。
【0012】
各々のダンパー装置22は、その第1端と第2端との間の相対移動速度が大きいときに大きな抵抗力を発生するように構成されている。ここでいう大きな相対移動速度とは、地震動や強風などの比較的変動の激しい動的外乱によって第1構造物10a及び/または第2構造物10bが変形するときに発生する第1端と第2端との間の相対移動速度に相当するものであって、その好適例は、1.0mm/秒またはそれ以上の速度である。また、ここでいう大きな抵抗力とは、地震動や強風などの比較的変動の激しい動的外乱によるクリアランス20の大きさの変化を小さく抑えることのできる大きさの抵抗力であり、その好適例は、ダンパー装置22が装備されていない場合に想定されるそれら動的外乱によるクリアランス20の大きさの変化量を、ダンパー装置22が装備されていることによって少なくともその50%以下にまで低減することのできる大きさの抵抗力である。これによってダンパー装置22は、地震動及び強風などの動的外乱に起因するクリアランス20の大きさの変化を、その大きな抵抗力によって抑制するものとなっている。
【0013】
ダンパー装置22は更に、その第1端と第2端との間の相対移動速度が小さいときに殆ど抵抗力を発生しないように構成されている。ここでいう小さな相対移動速度とは、気温の変動や日光の直射などの温度変化に起因する第1構造物10a及び/または第2構造物10bの伸縮により発生する第1端と第2端との間の相対移動速度や、それら構造物がコンクリート造のものである場合に、それら構造物を構築するために打設したコンクリートの収縮により発生する第1端と第2端との間の相対移動速度に相当するものであって、その好適例は、100μm/秒またはそれ以下の速度である。このように温度変化やコンクリートの収縮は、地震動や強風などの動的外乱と比べれば、それらによって発生するダンパー装置22の第1端と第2端との間の相対移動速度が格段に小さく、従ってそれらは建物10に対する、また第1構造物10a及び/または第2構造物に対する、準静的外乱というべきものである。また、ここで殆ど抵抗力を発生しないというのは、このダンパー装置22が、温度変化やコンクリートの収縮などの準静的外乱によるクリアランス20の大きさの変化に対して殆ど影響を及ぼさない抵抗力しか発生しないという意味であり、その好適例は、ダンパー装置22が装備されていない場合に想定される温度変化によるクリアランス20の大きさの変化量が、ダンパー装置22が装備されていることによって、多少は抑制されるにしてもその90%以下にまで抑制されずに済むような大きさの抵抗力である。これによってダンパー装置22は、準静的外乱である温度変化に起因するクリアランス20の大きさの変化を許容するものとなっている。
【0014】
第1構造物10aと第2構造物10bとは、エキスパンションジョイント構造により互いに切り離されているため、その各々が、地震動や強風などの動的外乱を受けたときの応答特性(変形特性)として、固有の特性を有している。しかるに、本発明によれば、地震動や強風などの動的外乱の影響を受けた第1構造物10aと第2構造物10bとが、各々固有の変形特性に従って変形しようとすることによって第1構造物10aのクリアランス20に臨む部分と第2構造物10bのクリアランス20に臨む部分との間に相対的変位が発生し始めたならば、それらの部分を互いに連結しているダンパー装置22が大きな抵抗力を発生するため、第1構造物10aと第2構造物10bとが実質的に剛結合された状態となり、それによって両者は略々一体的に挙動するようになる。このように、第1構造物10aのクリアランス20に臨む部分と、第2構造物10bのクリアランス20に臨む部分との間に発生する相対変位のうち、コンクリートの収縮や温度変化などに起因するものではない、地震動や強風などの動的外乱によって発生する相対変位が小さく抑えられることから、クリアランス20の設計寸法を小さな値に設定することが可能となっている。
【0015】
従来より、建物の制振構造として、建物の全体を動的外乱に対する応答特性が互いに異なる2つまたはそれ以上の建物部分に分割し、それらの建物部分の間にダンパーを架設した構造が数多く提案されている。それら制振構造はいずれも、地震道や強風などの動的外乱により誘起された建物の振動のエネルギーをそれらダンパーによって吸収ないし散逸させることにより、建物の振動を抑制ないし収束させるものであり、そのため、動的外乱により建物に振動が発生したときには、ダンパーの両端間に大きな変位が生じるように設計されていた。これに対して、本発明のエキスパンションジョイント構造では、動的外乱により建物に振動が発生したときには、ダンパーの両端間に小さな変位しか発生しないようにダンパーの特性が設定されており、その点において、従来の制振構造とは対照的な構成となっている。
【0016】
本発明によれば、エキスパンションジョイント構造のクリアランス20を小さく設定することができるため、建物のエキスパンションジョイント部分における雨漏り防止や防火区画対応が容易となっており、また、エキスパンションジョイントカバー(不図示)の上を大重量の車両が走行する場合でも、低廉なエキスパンションジョイントカバーを使用することができ、エキスパンションジョイントカバーの破損リスクも低減している。また更に、クリアランス20を小さくできることから、耐震設計をする上で第1構造物10aと第2構造物10bとを一体の構造物として取り扱うことができ、そのことが設計期間の短縮、手間の削減につながるものとなっている。
【0017】
図2に示したのは、本発明の別の好適な実施の形態に係るエキスパンションジョイント構造を備えた構造物の骨組の側面図である。図示した構造物は、図1の構造物と同様に、鉄筋鉄骨コンクリート造の建物であり、図には建物の骨組しか示していないが、この建物を参照符号10で表している。尚、図1の構造物と図2の構造物とで、互いに機能的に対応する構成要素には、同一の参照符号を付してある。図2の建物10の骨組は柱12と大梁14とを備えている。大梁14は左方部分14aと右方部分14bとに切り離されており、右方部分14bの左端は、不図示の滑り支承を介して、左方部分14aの右端により支持されている。そして、左方部分14aの右端と右方部分14bの左端との間にクリアランス20が画成されることで、右方部分14bは左方部分14aに対して相対的に水平方向に移動可能な状態とされている。更に、このクリアランス20の近傍にダンパー装置22が装備されることによって、本発明に係るエキスパンションジョイント構造が構成されている。
【0018】
図示した大梁14と並列な位置関係にある、同一階及び上下階の大梁(不図示)にも、図示したエキスパンションジョイント構造と対応する位置に同一構造のエキスパンションジョイント構造が構成されており、それらエキスパンションジョイント構造によって、この建物10の全体が左方構造部分10aと右方構造部分10bとに切り離されている。以下の説明では、建物10の左方構造部分10aを第1構造物と称し、建物10の右方構造部分10bを第2構造物と称する。図1の建物に関連して説明したのと同様に、この図2の建物10でも、第1構造物10a及び第2構造物10bには温度変化に起因する伸縮が発生し、また、この建物10を構築するために打設したコンクリートが硬化する際に寸法収縮が生じるが、そのような伸縮及び寸法収縮はクリアランス20によって吸収される。
【0019】
図2に示したダンパー装置22は図1に示したダンパー装置より大型のものであるが、図1に示したダンパー装置と同様に第1端及び第2端を有しており、第1端は、第1構造物10aのクリアランス20に臨む部分に連結されており、第2端は、第2構造物10bのクリアランス20に臨む部分に連結されている。また、図1に示したダンパー装置と同様に、図2に示したダンパー装置22も、その第1端と第2端との間の相対移動速度が大きいときに大きな抵抗力を発生するように構成されている。ここでいう大きな相対移動速度、並びに、大きな抵抗力とは、図1に示したダンパー装置に関連して説明した通りのものである。更に、この図2に示したダンパー装置22でも、その第1端と第2端との間の相対移動速度が小さいときに殆ど抵抗力を発生しないように構成されており、ここでいう小さな相対移動速度、並びに、殆ど抵抗力を発生しないということも、図1に示したダンパー装置に関連して説明した通りのものである。従って、この図2に示したエキスパンションジョイント構造によっても、図1のエキスパンションジョイント構造と同じ作用効果が得られる。
【0020】
図2に示したエキスパンションジョイント構造では、ダンパー装置22の第1端が第1構造物10aの一部である柱12に連結され、第2端が第2構造物10bの一部である大梁14の右方部分14bの左端に連結されているが、ダンパー装置22の連結箇所はこれ以外の様々な箇所とすることができる。図2のエキスパンションジョイント構造におけるダンパー装置22の連結箇所を変更した2つの変更例を、図3及び図4に、骨組12の伏図によって示した。図3及び図4に示した骨組12は、図2に示した骨組12と同一構成のものであり、対応する部分には同一の参照符号を付してある。図3に示した第1の変更例では、ダンパー装置22の第1端が第1構造物10aの一部である大梁14cの一端に連結されており、第2端が第2構造物10bの一部である大梁14の右方部分14bの左端に連結されている。また、図4に示した第2の変更例では、先に説明した図1のエキスパンションジョイント構造に装備されているものと同様の小型の複数のダンパー装置22が列設されており、それらダンパー装置22の夫々の第1端が第1構造物10aの一部である小梁24aに連結されており、夫々の第2端が第2構造物10bの一部である小梁24bに連結されている。ダンパー装置22の第1端及び第2端の連結箇所は、更にその他の箇所とすることも可能である。
【0021】
ダンパー装置22としては、その第1端と第2端との間の相対移動に応じて作動流体がオリフィスを通過して流動するように構成された流体ダンパーを用いることが好ましく、またその作動流体としては高粘性流体を用いることが好ましい。ただしダンパー装置22の構成は、このような流体ダンパーを用いたものに限られず、その他の構成とすることも可能である。
【0022】
その一例として、ダンパー装置22を、ダンパーと、そのダンパーを選択的に有効化する制御機構とから成るものとし、そのダンパーが有効化されたときにのみ、そのダンパーが発生する大きな抵抗力がダンパー装置22の第1端と第2端との間に作用する構成とすることも可能である。その場合の制御機構は、例えば、ダンパー装置22の第1端と第2端との間の相対移動速度がスレショルド値を超えると作動する機械式係脱機構、或いは、その相対移動速度を検出するセンサと、そのセンサの出力がスレショルド値を超えると作動する電動式クラッチとから成るものとし、その制御機構が、ダンパーの内部の抵抗力発生機構、または、ダンパーの外部の抵抗力伝達機構に作用することで、ダンパーの選択的な有効化を行えるようにするとよい。そのような制御機構を用いることによって、ダンパー装置22の第1端と第2端との間の相対移動速度が小さいとき(例えば100μm/秒以下のとき)には、ダンパー装置22の第1端と第2端との間にダンパーの抵抗力が作用しないようにし、その速度が大きいとき(例えば1.0mm/秒以上のとき)にのみ、ダンパー装置22の第1端と第2端との間にダンパーの大きな抵抗力が作用するようにすることができる。
【0023】
このような制御機構を備えた構成のダンパー装置22には、様々な種類のダンパーを使用することができる。例えば、オイルダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパーなどを使用することができ、また更に、応力度がひずみ速度に依存する性質を有する種々の金属材料ないし合金材料などを塑性変形部材として用いて構成した、変位速度が大きいほど大きな抵抗力を発生する速度依存性を有する様々な塑性ダンパーを使用するのもよい。
【0024】
また別の例として、本発明に用いるダンパー装置22を、そのダンパー装置22の第1端と第2端との間の相対移動速度が小さいとき(例えば100μm/秒以下のとき)には非常に小さな剛性しか発揮せず、その速度が大きいとき(例えば1.0mm/秒以上のとき)にのみ大きな剛性を発揮する可変剛性機構として構成することも考えられる。
【0025】
本発明に係る建物は、以上に説明した本発明に係るエキスパンションジョイント構造を備えて成る建物である。本発明に係る建物のうちには、長大な建物を本発明に係るエキスパンションジョイント構造によって切り離した建物も含まれ、また、建物本体とそれに付属する例えば渡り廊下などの付属部分とを本発明に係るエキスパンションジョイント構造を介して連結した建物も含まれ、更には、例えば第1構造物が先に構築された建物であって、第2構造物が本発明に係るエキスパンションジョイント構造を介してその第1構造物に連結された増築部分の建物である場合のように、第1構造物と第2構造物とがまったくの別建物での扱いとなるものも含まれ、更にその他の様々な建物も含まれる。
【符号の説明】
【0026】
10 建物
10a 建物の左方部分(第1構造物)
10b 建物の右方部分(第2構造物)
12 柱
14 大梁
14a 大梁の左方部分
14b 大梁の右方部分
14c 大梁
20 クリアランス
22 ダンパー装置
24a 小梁
24b 小梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造物と第2構造物との間にクリアランスを画成し、温度変化に起因する前記第1構造物及び/または前記第2構造物の伸縮を前記クリアランスの大きさが増減することで吸収するようにしたエキスパンションジョイント構造において、
前記第1構造物の前記クリアランスに臨む部分と前記第2構造物の前記クリアランスに臨む部分とに夫々第1端と第2端とが連結されたダンパー装置を備えており、該ダンパー装置は、該ダンパー装置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が大きいときに大きな抵抗力を発生することによって地震動及び強風などの動的外乱に起因する前記クリアランスの大きさの変化を抑制し、且つ、該ダンパー装置は、該ダンパー蔵置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が小さいときに殆ど抵抗力を発生しないことによって温度変化に起因する前記クリアランスの大きさの変化を許容するように構成されている、
ことを特徴とするエキスパンションジョイント構造。
【請求項2】
前記第1構造物及び前記第2構造物はコンクリート造の構造物であり、前記クリアランスは更に、前記第1構造物及び前記第2構造物を構築するために打設したコンクリートが硬化する際の収縮を該クリアランスの大きさが増大することで吸収するようにしてあることを特徴とする請求項1記載のエキスパンションジョイント構造。
【請求項3】
前記ダンパー装置は、該ダンパー装置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動に応じて作動流体がオリフィスを通過して流動するように構成された流体ダンパーであることを特徴とする請求項1又は2記載のエキスパンションジョイント構造。
【請求項4】
前記ダンパーは、作動流体として高粘性流体を用いた流体ダンパーであることを特徴とする請求項3記載のエキスパンションジョイント構造。
【請求項5】
前記ダンパー装置は、ダンパーと、該ダンパーを選択的に有効化する制御機構とから成り、該ダンパーが有効化されたときにのみ、該ダンパーが発生する抵抗力が前記ダンパー装置の前記第1端と前記第2端との間に作用するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のエキスパンションジョイント構造。
【請求項6】
前記ダンパーは、オイルダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、または速度依存性を有する塑性ダンパーであることを特徴とする請求項5記載のエキスパンションジョイント構造。
【請求項7】
第1構造物と第2構造物との間にクリアランスを画成して成るエキスパンションジョイント構造において、
前記第1構造物の前記クリアランスに臨む部分と前記第2構造物の前記クリアランスに臨む部分とに夫々第1端と第2端とが連結されたダンパー装置を備えており、該ダンパー装置は、該ダンパー装置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が大きいときに大きな抵抗力を発生することによって動的外乱に起因する前記クリアランスの大きさの変化を抑制し、且つ、該ダンパー装置は、該ダンパー蔵置の前記第1端と前記第2端との間の相対移動速度が小さいときに殆ど抵抗力を発生しないことによって準静的外乱に起因する前記クリアランスの大きさの変化を許容するように構成されている、
ことを特徴とするエキスパンションジョイント構造。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項記載のエキスパンションジョイント構造を備えたことを特徴とする建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−252313(P2011−252313A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126674(P2010−126674)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】