説明

エクストルージョン塗布装置及び塗布方法並びに塗布フィルムの製造方法

【課題】塗布厚みに寄らず端部の塗布形状を制御することができ、耳立ちを抑えることができるエクストルージョン塗布装置を提供する。
【解決手段】スリット16の両端部に塗布幅規制板24が挿入され、塗布液をスリット16の吐出口16Aから吐出するスリットダイ10と、ウエブ走行方向上流側を減圧するチャンバー26と、を有し、塗布幅規制板24には、ウエブ下流側に曲げられた、ウエブに対向する突出部24Aが設けられており、塗布幅規制板24の突出部24Aのウエブ対向面に塗布液をチャンバー26の減圧により染み出させた状態で塗布液をウエブに塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクストルージョン塗布装置及び塗布方法並びに塗布フィルムの製造方法に係り、特に、連続走行するウエブに塗布液を塗布するエクストルージョン塗布装置及び塗布方法並びに塗布フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクストルージョン塗布装置は、スロットダイ内のポケット部に供給した塗布液を、該ポケット部で塗布幅方向(ウエブ幅方向と同じ)に広流し、ポケット部に連通する狭隘な間隙を有するスリット(スロットともいう)先端から塗布液を吐出する。一方、塗布液が塗布されるウエブは、バックアップローラに巻き掛けられて走行すると共に、スロットダイ先端とウエブとの間のリップクリアランスにスリット先端から吐出された塗布液のビード(塗布液溜まり)を形成し、このビードを介してウエブに塗布液を塗布する。
【0003】
そして、ウエブに塗布される塗布液の塗布幅は、ウエブ幅に応じて変更する必要があり、スリットの幅方向(ウエブ幅方向と同じ)の両端部に挿入された塗布幅規制板(スペーサー)同士の距離によって規制される。
【0004】
かかるエクストルージョン塗布装置において、ダイの吐出口を均一な間隙にしたりしても、ビード幅方向端部におけるビードが安定化しないと、塗布された塗布膜の幅方向に膜厚分布が生じる。
【0005】
そこで、特許文献1では、少なくとも先端部を可撓性部材で形成すると共に先端部をスロット先端から突出させた塗布幅規制板を用いてビード両端部の状態を安定化することが開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、吐出する塗布液の分布が吐出口の長手方向にわたって変化するように、吐出口長手方向・塗布液吐出方向にわたって塗布液流路形状を変化させる形状のシムを有することで、表面張力その他の影響によって端部は厚く塗布される(耳立ち)を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−220025号公報
【特許文献2】特開2000−153199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、塗布膜の塗布厚みが薄いものを対象としたものであり、塗布膜端部の耳立ちを問題としておらず、耳立ちを抑えることができない。また、特許文献2では、両端部での塗布液の吐出量を少なくすることで耳立ちを抑えることはできるが、端部の塗布形状を制御できないという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗布厚みに寄らず端部の塗布形状を制御することができ、耳立ちを抑えることができるエクストルージョン塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するために、スリットの吐出口から塗布液を吐出するスリットダイを有し、連続走行するウエブに前記塗布液を塗布するエクストルージョン塗布方法であって、前記スリットの両端部に挿入され、ウエブ下流側に曲げられたウエブに対向する突出部が設けられた塗布幅規制板と、前記ウエブと、の間に前記塗布液をチャンバーの減圧により染み出させウエブに塗布液を塗布することを特徴とするエクストルージョン塗布方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記目的を達成するために、スリットの吐出口から塗布液を吐出するスリットダイを有し、連続走行するウエブに前記塗布液を塗布するエクストルージョン塗布装置であって、前記スリットの両端部に塗布幅規制板が挿入され、該塗布幅規制板には、ウエブ下流側に曲げられた、前記ウエブに対向する突出部が設けられており、該塗布幅規制板の突出部のウエブ対向面に、減圧により前記塗布液をウエブとウエブ対向面との間に染み出させるチャンバーを有することを特徴とするエクストルージョン塗布装置を提供する。
【0012】
本発明のエクストルージョン塗布方法及び装置は、ウエブに対向するウエブ下流側に曲げられた突出部が設けられた塗布幅規制板(スペーサーとも云う)を使用し、チャンバーで減圧することで、塗布厚みの如何に関わらず耳立ちを抑えることができる。特に塗布膜が厚い(概ね10μm以上の)場合には、表面張力の影響によって端部は厚くなって耳立ちが大きく生じてしまうが、塗布幅規制板をウエブに接触させた上で、端部の塗布液を減圧により塗布幅規制板側に引っ張り、塗布幅規制板とウエブとの間に塗布液を染み込ませて薄く塗布することで、効果的に耳立ちを抑えることができる。
【0013】
また、本発明では、塗布幅規制板を突出させ、ウエブと接触させて曲げているので、チャンバーの圧力、及び/又は、塗布幅規制板の突出部の厚みを調整することによって、塗布幅規制板とウエブとの間への塗布液の染み出しを制御することができ、塗布膜端部の膜厚形状を制御することができる。
【0014】
本発明に係る塗布幅規制板の突出部は、ウエブを傷つけぬよう、また塗布液が染み出し易いよう、可撓性材料で作られていることが好ましい。可撓性材料としては、テフロン(登録商標)が好適に用いられる。
【0015】
そして、本発明は、本発明の塗布方法で前記塗布液を塗布する工程を含むことを特徴とする塗布フィルムの製造方法を提供する。
【0016】
本発明のエクストルージョン塗布装置は、様々な塗布液で様々な塗布厚みの製品を製造する際に、耳立ちを抑えることができる。したがって、本発明の塗布方法及び塗布フィルムの製造方法によれば、耳立ちを抑えた塗布フィルムを提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明のエクストルージョン塗布装置によれば、塗布厚みに寄らず塗布端部の塗布形状を制御することができ、耳立ちを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のエクストルージョン塗布装置を上から見た平面図
【図2】本発明のエクストルージョン塗布装置の側面断面図
【図3】本発明のエクストルージョン塗布装置の斜視図
【図4】本発明のエクストルージョン塗布装置により塗布された塗布液の様子を示す斜視図
【図5】本発明による効果を説明する概念図
【図6】本発明の効果を示す実施例/比較例を示す表図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って、本発明に係るエクストルージョン塗布装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0020】
図1は、本発明のエクストルージョン塗布装置10を上から見た平面図であり、図2は側面断面図であり、図3は要部を示した斜視図である。
【0021】
これらの図に示すように、スロットダイ12は、ヘッド内部にポケット部14と、該ポケット部14に連通する狭隘なスリット16が形成されると共に、スリット16先端の塗布液吐出口がヘッド先端の略平坦なリップ面18(18a(上流側)、18b(下流側))に開口される。ポケット部14の貫通した両端開口部はスロットダイ12の両端面に設けられる側板30,32により閉塞される。
【0022】
そして、一方の側板32を貫通して塗布液をポケット部14に送る送液ライン31に接続される。なお、ポケット部14に塗布液を送る方法としては、ポケット部14の他端側を閉塞して一方側から供給する以外に、ポケット部14の中央部から供給して両側に分流させるタイプ、ポケット部14の一方側から供給し他方向から引き抜くタイプがあり、いずれを適用してもよい。
【0023】
図1〜3においては、バックアップローラ20がスロットダイ12のリップ面18に対向して近接配置され、塗布液Lが塗布されるウエブ22がバックアップローラ20に巻き掛け支持されて矢印方向に連続走行する。ダイ先端のリップ面18とバックアップローラ20との間のリップクリアランスは、通常、30μm〜300μmの範囲で設定され、塗布厚み、塗布速度、塗布液Lの物性(粘度等)等によって適宜設定される。
【0024】
これにより、スリット16から吐出した塗布液Lは、リップ面18とウエブ22との間に架橋してビードL1(塗布液溜まり、図2参照)を形成し、このビードL1を介して塗布液Lがウエブ22に塗布される。
【0025】
また、ウエブ22に塗布される塗布液Lの塗布幅Aは、図1に示すように、スリット16の幅方向(ウエブ幅方向と同じ)の両端部に挿入された一対のスペーサー24同士の間隔(距離)Bによって規制される。
【0026】
そして、スロットダイ12のポケット部14に供給された塗布液は、ポケット部14でウエブ幅方向に拡流された後、スリット16を上昇してスリット吐出口16Aから吐出される。吐出された塗布液は、塗布ヘッドのリップ面18と、該リップ面18に近接して走行するウエブ22との間でビードを形成しながらウエブ22に塗布される。即ち、スリット先端の吐出口16A(図2参照)から吐出された塗布液の吐出力とウエブ22が塗布ヘッド先端部を押圧する押圧力がバランスした状態で塗布液がウエブに塗布される。これにより、ウエブ面に極薄の塗布膜が形成される。
【0027】
ここで、スペーサー24は、本発明では、スリット16の先端から突出しており、バックアップローラ20に巻き掛けられたウエブ22の面に対向される。そして、本発明に係るスペーサー24は、ウエブ22に対向するウエブ下流側に曲げられた突出部24Aが設けられている。
【0028】
また、本発明では、図2に示すように、ビードL1の下方にはチャンバー26が設けられ、ビードL1のウエブ走行方向上流側を減圧する。チャンバー26は、箱状に形成され、箱の上面がウエブ幅方向に長尺状に開放される。そして、スロットダイ12のリップ片面12Aとバックアップローラ20に支持されたウエブ22の面とで密閉空間28を形成する。チャンバー26は、図示しない真空装置に連結される配管34が接続され、真空装置を駆動することにより、密閉空間28を減圧する。なお、図示しないが、チャンバー26と真空装置との間にバッファータンク(図示せず)を設けて、密閉空間28内の減圧度が変動しないようにすることが好ましい。
【0029】
本発明のように、ウエブに対向するウエブ下流側に曲げられた突出部24Aが設けられたスペーサー24を使用し、密閉空間28内を減圧することで、塗布厚みの如何に関わらず耳立ちを抑えることができる。即ち、図1や図4に示すように、端部の塗布液を減圧によりスペーサー24側に引っ張り、スペーサー底に染み込ませ薄く塗布することで、効果的に耳立ちを抑えることができる。
【0030】
図5は、本発明のエクストルージョン塗布装置と従来のエクストルージョン塗布装置での塗布膜端部の厚みを示す概念図である。従来では、塗布液の表面張力の影響によって端部は厚く塗布される(図1の<スペーサー24がない場合>も参照のこと)。本発明では、端部の塗布液をチャンバーによる減圧によりスペーサー側に引っ張り、塗布幅規制板とウエブとの間に染み込ませ薄く塗布することで耳立ちを抑えることができる(図1の<スペーサー24がある場合>も参照のこと)。特に塗布膜が厚い(概ね10μm以上の)場合には、塗布液の表面張力の影響によって耳立ちが大きく生じてしまうが、本発明では効果的に耳立ちを抑えることができる。
【0031】
図6は、本発明のエクストルージョン塗布装置で、チャンバー26での圧力とスペーサーの突出部24Aの幅及び厚みとを変更し、塗布膜端部での塗布膜厚みの状態を調べた結果を示した表である。条件1は、図5でも説明したように、本発明のウエブと接触して曲がる塗布幅規制板を使用しない条件であり、端部の耳立ちが5μmとなるため、後工程でニップロール間を搬送するなどの際、ウエブにシワが発生するレベルであり、問題である。条件2は本発明のウエブと接触して曲がる塗布幅規制板を使用しスペーサー底に塗布液を染み込ませることで端部の耳立ちを3μmに抑えることができる。耳立ちの許容限度レベルである。条件3は、条件2と比較し、スペーサーの突出部24Aの幅とチャンバー26での圧力を等しくし、スペーサーの突出部24Aの厚みを変更したものである。スペーサーの突出部24Aの厚みを厚くすることで端部の塗布膜の厚みは薄くなり、耳立ちを防止することができる。また条件4は、条件2に対し、スペーサーの突出部24Aの幅及び厚みを等しくし、チャンバー26の減圧力を変更したものである。チャンバー26の減圧力を上げることで、塗布液はより端部に濡れ広がり、端部の塗布膜の厚みは薄くなるので、条件3と同様に耳立ちを防止することができる。
【0032】
よって、図6から分かるように、本発明のエクストルージョン塗布装置では、減圧チャンバーの圧力やスペーサーの突出部の厚みを調整することで、塗布液の染み出しを制御することができ、塗布膜端部の膜厚形状を制御することができる。なお、塗布膜端部の膜厚が中央部の膜厚に比べて3μm以上厚くなると、例えば後工程でニップロール間を搬送する際にシワが発生してしまうので、塗布膜端部と中央部の膜厚差を3μm未満に抑えることが望ましい。
【0033】
本発明に係るスペーサー24の材料としては、少なくとも先端部24Aが可撓性材料であることが好ましい。具体的には、テフロン(登録商標)、ゴム、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の材質のように溶剤で変性しにくく、且つある程度の湾曲状態に可撓する性質を有するものがよい。また、ゴムを使用した場合には、ウエブ22との接触に対する滑り性、耐磨耗性の向上を図るように、テフロン(登録商標)コーティング、ウレタンコーティング、シリコンコーティング等のコーティングを行うことが好ましい。また、テフロン(登録商標)、ゴム材料、モリブデン、オイル等を混練することで、滑り性、耐磨耗性の向上を図ったものを使用することもできる。
【0034】
次に、上記の如く構成されたエクストルージョン塗布装置10の作用について説明する。
【0035】
スロットダイ12内のポケット部14に供給された塗布液Lは、該ポケット部14で塗布幅方向(ウエブ幅方向と同じ)に拡流し、一対のスペーサー24,24によって塗布幅規制されたスリット16を上昇してスリット先端から吐出される。これにより、スロットダイ12のリップ面18とウエブ22との間のリップクリアランスCに塗布液Lが架橋し、ビードL1(塗布液溜まり)が形成され、塗布液Lがウエブ22に塗布され塗布フィルムを製造する。
【0036】
かかる塗布において、特に塗布膜が厚い(概ね10μm以上の)場合には、表面張力の影響によって端部は厚くなって耳立ちが大きく生じてしまう。
【0037】
そこで、本発明では、ウエブに対向するウエブ下流側に曲げられた突出部24Aが設けられたスペーサー24を使用し、チャンバー26で減圧するようにした。端部の塗布液を減圧によりスペーサー24側に引っ張り、スペーサー24とウエブ22との間に染み込ませ薄く塗布することで、効果的に耳立ちを抑えることができる。
【0038】
本発明のエクストルージョン塗布方法及び装置は、様々な塗布液で様々な塗布厚みの製品を製造する際に、耳立ちを抑えることができる。また、本発明では、減圧チャンバーの圧力やスペーサーの突出部の厚みを調整することで、塗布液の染み出しを制御することができるので、塗布膜端部の膜厚形状を所望の形状にすることができる。
【0039】
なお、本実施の形態では、スペーサー24やチャンバー26等の好ましい態様を示したが、これに限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない形状は全て含まれる。
【符号の説明】
【0040】
10…エクストルージョン塗布装置、12…スロットダイ、14…ポケット部、16…スリット、16A…吐出口、18…リップ面、18a…上流側のリップ面、18b…下流側のリップ面、20…バックアップローラ、22…ウエブ、24…スペーサー(塗布幅規制板)、24A…突出部、26…チャンバー、28…密閉空間、30…側板、31…送液ライン、32…側板、34…配管、A…塗布幅、B…スペーサー同士の間隔、L…塗布液、L1…ビード、L’…スペーサーとウエブとの間に染み込ませ薄く塗布した塗布液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットの吐出口から塗布液を吐出するスリットダイを有し、連続走行するウエブに前記塗布液を塗布するエクストルージョン塗布方法であって、
前記スリットの両端部に挿入され、ウエブ下流側に曲げられたウエブに対向する突出部が設けられた塗布幅規制板と、前記ウエブと、の間に前記塗布液をチャンバーの減圧により染み出させウエブに塗布液を塗布することを特徴とするエクストルージョン塗布方法。
【請求項2】
前記塗布幅規制板の突出部は、可撓性材料で作られていることを特徴とする請求項1に記載のエクストルージョン塗布方法。
【請求項3】
前記チャンバーの圧力、及び/又は、前記塗布幅規制板の突出部の厚み、を調整することで、前記塗布液の染み出しを制御し、塗布膜端部の形状を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1に記載の塗布方法で前記塗布液を塗布する工程を含む塗布フィルムの製造方法。
【請求項5】
スリットの吐出口から塗布液を吐出するスリットダイを有し、連続走行するウエブに前記塗布液を塗布するエクストルージョン塗布装置であって、
前記スリットの両端部に塗布幅規制板が挿入され、該塗布幅規制板には、ウエブ下流側に曲げられた、前記ウエブに対向する突出部が設けられており、
該塗布幅規制板の突出部のウエブ対向面に、減圧により前記塗布液をウエブとウエブ対向面との間に染み出させるチャンバーを有することを特徴とするエクストルージョン塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−189280(P2011−189280A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57867(P2010−57867)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】