説明

エチレン低重合体の製造方法及び1−ヘキセンの製造方法

【課題】長期安定運転が可能なエチレン低重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】エチレン低重合体の製造方法において、溶媒及びクロム系触媒の存在下、反応器10中でエチレンを低重合する際に、反応器10内に導入されたエチレンとエチレンの低重合反応で生じる重合熱により反応器10内の液相の一部が気化した気化蒸気とを含む混合気体を熱交換器16aに供給し、熱交換器16aに供給された混合気体を冷却凝縮し、溶媒、エチレン及び生成したエチレン低重合体を含む凝縮液を反応器10に循環供給するエチレン低重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン低重合体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン等のα−オレフィンを原料とするα−オレフィン低重合体の製造方法が報告されている。
例えば、特許文献1には、クロム系触媒を用いて、1−ヘキセンを主体とするα−オレフィン低重合体を、高収率・高選択率に得られる製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、α−オレフィン重合体の製造方法において、発生する重合熱を凝縮器を用いて除去する際に、縦型凝縮器入口側管板の上部に予め準備した気化蒸気の凝縮液を噴霧する方法が記載されている。また、特許文献3及び特許文献4には、特許文献2に記載された縦型凝縮器を改良した還流凝縮器が記載されている。
さらに、特許文献5には、スチレンモノマー回収装置に使用される多管式凝縮器としてシエル&チューブ式コンデンサが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平08−239419号公報
【特許文献2】特公平07−017705号公報
【特許文献3】特開平11−322811号公報
【特許文献4】特開平11−322810号公報
【特許文献5】特開2004−244527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、エチレン低重合体を得る反応では、反応液中に副生ポリエチレンや失活触媒等の汚れ物質が存在する。このため、ジャケット、コイル又は外部循環冷却装置等の通常の除熱システムを採用すると冷却伝熱面が汚れ、長期運転できない問題が生じる。したがって、副生ポリエチレンや失活触媒等の汚れ物質が存在しない反応器内の気相を凝縮器により冷却凝縮し、凝縮液を反応系に還流させるシステムが、長期安定運転に有利であると考えられている。
しかし、通常、反応器内の気相のエチレンは再冷水冷却によって凝縮しない。このため、反応液を除熱するために潜熱(液体→気体)が利用できず、エチレンガスの顕熱のみを利用することとなる。
そうなると、反応装置には大型のエチレン循環ブロアーを設ける必要が生じ、このため、装置を建設するための費用及びこれを運転するための電気代が増大する等の理由により、現実的には、工業的に採用されていないのが現状である。
【0005】
本発明は、上述したエチレンの低重合体の製造方法における課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、長期安定運転が可能なエチレン低重合体の製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者の検討によれば、比較的高温で低重合反応を行うと、反応器の気相中にエチレンと生成物の1−ヘキセン等(エチレン低重合体)の蒸気及びより好ましくは、溶媒の蒸気とが混合し、これらの混合気体は冷却凝縮が可能となることを見出した。
かくして本発明によれば、クロム系触媒の存在下、反応器にてエチレンの低重合反応を行いエチレン低重合体を製造する際に、反応器内のガスを熱交換器に導入し、熱交換器の出口から得られる凝縮液及びガスを反応器に循環することを特徴とするエチレン低重合体
の製造方法が提供される。
【0007】
ここで、本発明が適用されるエチレン低重合体の製造方法において、反応器内の液相の一部を気化し、蒸気を発生させる工程を有することが好ましい。
また、熱交換器の出口から得られるガスの一部を気液分離器に導入し、凝縮液とガスとに分離する工程を更に有することが好ましい。
このとき、熱交換器が多管式熱交換器であることが好ましい。
また、反応器内における気相部のガス線速が0.1cm/s〜10cm/sであることが好ましい。
さらに、クロム系触媒を反応器内の液相部に供給することが好ましい。
【0008】
次に、本発明が適用されるエチレン低重合体の製造方法において、クロム系触媒が、クロム化合物(a)と、窒素含有化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)との組み合わせから構成されることが好ましい。
さらに、クロム系触媒が、ハロゲン含有化合物(d)を有することが好ましい。
【0009】
次に、本発明によれば、エチレンを原料とする1−ヘキセンの製造方法であって、溶媒及びクロム系触媒の存在下、反応器中でエチレンを低重合するエチレン低重合工程と、エチレン低重合工程において、反応器内に導入されたエチレンとエチレンの低重合反応で生じる重合熱により反応器内の液相の一部が気化した気化蒸気とを含む混合気体を熱交換器に供給する混合気体供給工程と、熱交換器に供給された混合気体を冷却凝縮し、凝縮液を反応器に循環供給する還流凝縮工程と、を有することを特徴とする1−ヘキセンの製造方法が提供される。
【0010】
ここで、本発明が適用される1−ヘキセンの製造方法において、混合気体が、溶媒及び1−ヘキセンの蒸気を含むことが好ましい。
また、凝縮液が、溶媒及び1−ヘキセンを含むことが好ましい。
さらに、溶媒がヘプタン、メチルシクロヘキサン又はシクロヘキサン並びにこれらの2種以上の混合物であることが好ましい。
また、エチレンを反応温度100℃〜200℃で低重合することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレン低重合体の製造プロセスにおける長期安定運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0013】
(エチレン)
初めに、本実施の形態において使用するエチレンについて説明する。
本実施の形態が適用されるエチレン低重合体の製造方法において、原料として使用するエチレンとしては、原料中にエチレン以外の不純物成分を含んでいても構わない。具体的な成分としては、メタン、エタン、アセチレン、二酸化炭素などが挙げられる。これらの成分は、原料のエチレンに対して0.1mol%以下であることが好ましい。
【0014】
(クロム系触媒)
次に、クロム系触媒について説明する。本実施の形態において使用するクロム系触媒と
しては、少なくとも、クロム化合物(a)、アミン、アミド及びイミドより成る群から選ばれる1種以上の窒素含有化合物(b)、アルミニウム含有化合物(c)との組み合わせから構成される触媒が挙げられる。
さらに、本実施の形態において使用するクロム系触媒には、必要に応じて、第4成分としてハロゲン含有化合物(d)が含まれる。以下、各成分について説明する。
【0015】
(クロム化合物(a))
本実施の形態で使用するクロム化合物(a)は、一般式CrXnで表される1種以上の化合物が挙げられる。ここで、一般式中、Xは、任意の有機基又は無機基もしくは陰性原子、nは1から6の整数を表し、2以上が好ましい。nが2以上の場合、Xは同一又は相互に異なっていても良い。
有機基としては、炭素数1〜炭素数30の炭化水素基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、β−ジケトナート基、β−ケトカルボキシル基、β−ケトエステル基、アミド基等が例示される。
また、無機基としては、硝酸基、硫酸基等のクロム塩形成基が挙げられる。また、陰性原子としては、酸素、ハロゲン等が挙げられる。ここで、ハロゲン含有クロム化合物は、後述するハロゲン含有化合物(d)には含まれない。
【0016】
クロム(Cr)の価数は0価乃至6価である。好ましいクロム化合物(a)としては、クロム(Cr)のカルボン酸塩が挙げられる。クロムのカルボン酸塩の具体例としては、例えば、クロム(II)アセテート、クロム(III)アセテート、クロム(III)−n−オクタノエート、クロム(III)−2−エチルヘキサノエート、クロム(III)ベンゾエート、クロム(III)ナフテネート等が挙げられる。これらの中でも、クロム(III)−2−エチルヘキサノエートが特に好ましい。
【0017】
(窒素含有化合物(b))
本実施の形態で使用する窒素含有化合物(b)は、アミン、アミド及びイミドから成る群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。アミンとしては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、又はこれらの混合物が挙げられる。アミドとしては、1級アミン化合物又は2級アミン化合物から誘導される金属アミド化合物又はこれらの混合物、酸アミド化合物が挙げられる。イミドとしては、1,2−シクロヘキサンジカルボキシミド、スクシンイミド、フタルイミド、マレイミド等及びこれらの金属塩が挙げられる。
【0018】
本実施の形態で使用する好ましい窒素含有化合物(b)としては、2級アミン化合物が挙げられる。2級アミン化合物の具体例としては、例えば、ピロール、2,4−ジメチルピロール、2,5−ジメチルピロール、2−メチル−5−エチルピロール、2,5−ジメチル−3−エチルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジクロロピロール、2,3,4,5−テトラクロロピロール、2−アセチルピロール等のピロール、又はこれらの誘導体が挙げられる(ここで、ハロゲンを含有するピロール化合物は、ハロゲン含有化合物(d)には含まない。)。これらの中でも、特に、2,5−ジメチルピロールが好ましい。
【0019】
(アルミニウム含有化合物(c))
本実施の形態で使用するアルミニウム含有化合物(c)は、トリアルキルアルミニウム化合物、アルコキシアルキルアルミニウム化合物、水素化アルキルアルミニウム化合物などの1種以上の化合物が挙げられる。具体的な化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムヒドリド等が挙げられる。中でも特に、トリエチルアルミニウムが好ましい。
【0020】
(ハロゲン含有化合物(d))
本実施の形態で使用するクロム系触媒には、必要に応じて第4成分としてハロゲン含有化合物(d)が含まれる。ハロゲン含有化合物(d)としては、例えば、ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物、3個以上のハロゲン原子を有する炭素数2以上の直鎖状ハロ炭化水素化合物、3個以上のハロゲン原子を有する炭素数3以上の環状ハロ炭化水素化合物等が挙げられる。但し、ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物は、前述したアルミニウム含有化合物(c)には含まれない。
具体的な化合物としては、例えば、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2,−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、1,2,3−トリクロロシクロプロパン、1,2,3,4,5,6−ヘキサクロロシクロヘキサン,1,4−ビス(トリクロロメチル)−2,3,5,6−テトラクロロベンゼン等が挙げられる。
【0021】
本実施の形態において、エチレンの低重合は、クロム化合物(a)とアルミニウム含有化合物(c)とが予め接触しない態様でα−オレフィンとクロム系触媒とを接触させるのが好ましい。上記のような接触態様により、選択的にエチレンの三量化反応を行わせ、原料のエチレンから選択率90%以上でエチレンの三量体である1−ヘキセンを得ることができる。さらに、この場合、ヘキセンに占める1−ヘキセンの比率を99%以上にすることができる。
ここで、「クロム化合物(a)とアルミニウム含有化合物(c)とが予め接触しない態様」とは、エチレンの低重合反応の開始時に限定されず、その後の追加的なエチレン及び触媒成分の、後述する図1に示す反応器10への供給においても、このような態様が維持されることを意味する。また、回分反応形式についても同様の態様を利用するのが望ましい。
【0022】
上記の連続反応形式における接触態様は、下記(1)〜(9)が挙げられる。
(1)触媒成分(a)、(b)及び(d)の混合物、触媒成分(c)をそれぞれ同時に反応器10に導入する方法。
(2)触媒成分(b)〜(d)の混合物、触媒成分(a)をそれぞれ同時に反応器10に供給する方法。
(3)触媒成分(a)及び(b)の混合物、触媒成分(c)及び(d)の混合物をそれぞれ同時に反応器10に供給する方法。
(4)触媒成分(a)及び(d)の混合物、触媒成分(b)及び(c)の混合物をそれぞれ同時に反応器10に供給する方法。
(5)触媒成分(a)及び(b)の混合物、触媒成分(c)、触媒成分(d)をそれぞれ同時に反応器10に供給する方法。
(6)触媒成分(c)及び(d)の混合物、触媒成分(a)、触媒成分(b)をそれぞれ同時に反応器10に供給する方法。
(7)触媒成分(a)及び(d)の混合物、触媒成分(b)、触媒成分(c)をそれぞれ同時に反応器10に供給する方法。
(8)触媒成分(b)及び(c)の混合物、触媒成分(a)、触媒成分(d)をそれぞれ同時に反応器10に供給する方法。
(9)各触媒成分(a)〜(d)をそれぞれ同時かつ独立に反応器10に供給する方法。
上述した各触媒成分は、通常、エチレンの低重合反応に使用される溶媒に溶解して反応器10に供給される。
【0023】
本実施の形態で使用するクロム系触媒の各構成成分の比率は、通常、クロム化合物(a)1モルに対し、窒素含有化合物(b)1モル〜50モル、好ましくは1モル〜30モルであり、アルミニウム含有化合物(c)1モル〜200モル、好ましくは10モル〜150モルである。又はハロゲン含有化合物(d)を含む場合は、クロム化合物(a)1モルに対し、ハロゲン含有化合物(d)は1モル〜50モル、好ましくは1モル〜30モルである。
【0024】
本実施の形態において、クロム系触媒の使用量は特に限定されないが、通常、後述する溶媒1リットルあたり、クロム化合物(a)のクロム原子あたり1.0×10−7モル〜0.5モル、好ましくは5.0×10−7モル〜0.2モル、更に好ましくは1.0×10−6モル〜0.05モルとなる量である。
【0025】
(溶媒)
本実施の形態が適用されるエチレン低重合体の製造方法で使用する溶媒は特に限定されず、通常の溶液重合で溶媒として使用されるものが挙げられる。具体的には、例えば、ブタン、ペンタン、3−メチルペンタン、ヘキサン、へプタン、2−メチルヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、デカリン等の炭素数1〜炭素数20の鎖状飽和炭化水素又は脂環式飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素等が使用される。また、エチレン低重合体である1−ヘキセンを溶媒として用いてもよい。これらの溶媒は、単独で使用する他、混合溶媒として使用することもできる。
特に、溶媒としては、炭素数4〜炭素数10の鎖状飽和炭化水素又は脂環式飽和炭化水素が好ましい。これらの中でも、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンがより好ましい。これらの溶媒を使用することにより、ポリエチレン等の副生ポリマーを抑制することができる。
【0026】
(エチレン低重合体の製造方法)
次に、本実施の形態が適用されるエチレン低重合体の製造方法として、エチレンを原料とする1−ヘキセン(エチレンの三量体)の製造方法を例に挙げて説明する。
図1は、本実施の形態における1−ヘキセンの製造フロー例を説明する図である。図1に示す製造フロー例1には、エチレンをクロム系触媒存在下で重合させる完全混合撹拌型の反応器10と、反応器10内のエチレンガス及び液相から気化した蒸気成分を冷却凝縮させる還流凝縮系2と、が主要装置として設けられている。
さらに、反応器10から抜き出された反応液から未反応エチレンガスを分離する脱ガス槽20と、脱ガス槽20から抜き出された反応液中のエチレンを溜出させるエチレン分離塔30と、エチレン分離塔30から抜き出された反応液中の高沸点物質(以下、HB(ハイボイラー)と記すことがある。)を分離する高沸分離塔40と、高沸分離塔40の塔頂から抜き出された反応液を蒸留し、1−ヘキセンを溜出させるヘキセン分離塔50とが示されている。
また、脱ガス槽20及びコンデンサ16において分離された未反応エチレンを、循環配管21を介して反応器10に循環させる圧縮機17とが設けられている。
【0027】
図1において、反応器10としては、例えば、撹拌機10a、バッフル、ジャケット等が付設された従来周知の形式のものが挙げられる。撹拌機10aとしては、パドル、ファウドラー、プロぺラ、タービン等の形式の撹拌翼が、平板、円筒、ヘアピンコイル等のバッフルとの組み合わせで用いられる。
【0028】
図1に示すように、エチレン供給管12aから圧縮機17及び第1供給管12を介して、反応器10にエチレンが連続的に供給される。他方、触媒供給管13aを介して第2供給管13からクロム化合物(a)及び窒素含有化合物(b)が供給され、第3供給管14からアルミニウム含有化合物(c)が供給され、第4供給管15からハロゲン含有化合物(d)が供給される。このとき、これらの触媒成分は、反応器10内の液相部に供給されることが好ましい。
また、第2供給管13からは、エチレンの低重合反応に使用する溶媒が反応器10に供
給される。
【0029】
本実施の形態において、反応器10の運転条件は、通常、80℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃、更に好ましくは120℃〜170℃である。
また、反応圧力としては、通常、常圧〜250kg/cm、好ましくは、5kg/cm〜150kg/cm、さらに好ましくは10kg/cm〜100kg/cmの範囲である。
【0030】
さらに、エチレンの三量化反応は、反応液中のエチレンに対する1−ヘキセンのモル比((反応液中の1−ヘキセン)/(反応液中のエチレン))が0.05〜1.5、特に0.10〜1.0となるように行うのが好ましい。即ち、連続反応の場合には、反応液中のエチレンと1−ヘキセンとのモル比が上記の範囲になるように、触媒濃度、反応圧力その他の条件を調節し、回分反応の場合には、モル比が上記の範囲にある時点において反応を中止させるのが好ましい。このようにすることにより、1−ヘキセンよりも沸点の高い成分の副生が抑制されて、1−ヘキセンの選択率が更に高められる傾向がある。
【0031】
ここで、本実施の形態において、反応器10内における気相部のガス線速が0.1cm/s〜10.0cm/sであることが好ましく、0.3cm/s〜7.0cm/sであることがより好ましく、0.4cm/s〜3.0cm/sであることが最も好ましい。反応器10の気相部のガス線速を上記範囲内に制御することにより、後述するように、反応器10内のエチレンガス及び液相から気化する蒸気成分を還流凝縮系2に送る際に、反応液の飛沫同伴が抑制される。このため、洗浄液を熱交換器16a内部に供給し、反応液の飛沫同伴の影響で汚れた熱交換器16a内部を洗浄する頻度が大幅に低減する。また、クロム系触媒は、高濃度触媒の飛沫同伴回避の観点から、反応器10内の液相部に供給する事が好ましい。その結果、1−ヘキセンの製造運転を長期間安定的に行うことができる。
【0032】
(還流凝縮系2)
次に、還流凝縮系2について説明する。
本実施の形態が適用される1−ヘキセンの製造方法では、反応器10内のエチレンガス及び液相から気化する蒸気成分を冷却凝縮させ、生じた凝縮液を反応器10中に還流させることにより、エチレンの低重合により発生する重合熱の除去が行われる。
図1に示すように、還流凝縮系2には、反応器10内から導入されたエチレンガス及び液相からの気化蒸気を冷却凝縮する熱交換器16aと、熱交換器16aの出口から得られる凝縮液及び未凝縮気体成分の一部を導入し、凝縮液と気体成分とに分離する気液分離器20aと、気液分離器20aにおいて分離された気体成分を反応器10に導入するブロアー17aとを備えている。
【0033】
ここで、熱交換器16aとしては、通常、被凝縮流体の冷却に使用される多管式の縦型又は横型の熱交換器が用いられる。これらは、一般的な還流凝縮器として知られ、本実施の形態では、縦型の多管式熱交換器が好ましい。
【0034】
熱交換器16aを構成する材料としては特に限定されず、通常の還流凝縮器を構成する材料として知られている炭素鋼、銅、チタン合金、SUS304、SUS316、SUS316L等が挙げられ、プロセスに応じて適宜選択される。
尚、熱交換器16aの伝熱面積は、除熱負荷の程度、負荷制御の方式等に応じて適宜決定される。
【0035】
次に、還流凝縮系2における作用について説明する。
反応器10内に導入されたエチレンガスと、反応器10内のエチレンの低重合反応で生じる重合熱により液相の一部が気化した気化蒸気との混合気体は、配管2aにより熱交換
器16aに供給される。熱交換器16aに供給された混合気体は再冷水(図示せず)により冷却凝縮され、凝縮液は配管2bにより再び反応器10に循環供給される。
また、熱交換器16aの出口から得られる気体成分の一部は、配管2cにより供給された気液分離器20aにおいてエチレンと凝縮液とに分離され、エチレンは配管2e及び第1供給管12を介し、ブロアー17aにより反応器10に循環供給される。尚、凝縮液は配管2dを介して反応器10に循環供給される。
【0036】
本実施の形態において、特に、反応器10におけるエチレンの反応温度が100℃以上、好ましくは120℃以上の場合、反応器10の気相中に、原料であるエチレンと、溶媒及び生成物の1−ヘキセンが気化した蒸気成分とが混合するようになる。このため、これらの蒸気成分が含まれる混合気体は、後述する還流凝縮系2において冷却凝縮が可能となる。
即ち、本実施の形態では、反応温度を高温にすることにより、反応器10の気相中にエチレン以外に溶媒及び生成物の1−ヘキセンの蒸気成分が存在するため、これらを冷却凝縮し、Uシール配管等で反応器10に循環させることにより、重合熱の除去が可能となる。
このように、凝縮液の潜熱が低重合反応の除熱に利用可能となることにより、未凝縮のエチレンガスが減少する。その結果、大型のエチレン循環ブロアーが不要となり、工業的に利用される可能性が拡がる。
【0037】
次に、反応器10において所定の転化率に達した反応液は、反応器10の底から配管11を介して連続的に抜き出され、脱ガス槽20に供給される。このとき、失活剤供給管11bから供給された失活剤の2−エチルヘキサノールによりエチレンの三量化反応が停止される。脱ガス槽20で脱ガスされた未反応エチレンは、脱ガス槽20の上部からコンデンサ16、循環配管21、圧縮機17及び第1供給管12を介して反応器10に循環供給される。また、未反応エチレンが脱ガスされた反応液は、脱ガス槽20の槽底から抜き出される。
脱ガス槽20の運転条件は、通常、温度60℃〜240℃、好ましくは、80℃〜190℃であり、圧力は常圧〜150kg/cm、好ましくは、常圧〜90kg/cmである。
【0038】
続いて、脱ガス槽20の槽底から抜き出された反応液は、配管22によりエチレン分離塔30に供給される。エチレン分離塔30では、蒸留により塔頂部からエチレンが溜出され、循環配管31及び第1供給管12を介して反応器10に循環供給される。また、塔底部からエチレンが除去された反応液が抜き出される。
エチレン分離塔30の運転条件は、通常、塔頂部圧力は常圧〜30kg/cm、好ましくは、常圧〜20kg/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜500、好ましくは、0.1〜100である。
【0039】
次に、エチレン分離塔30においてエチレンが溜出された反応液は、エチレン分離塔30の塔底部から抜き出され、配管32により高沸分離塔40に供給される。高沸分離塔40では、塔底部から配管42により高沸点成分(HB:ハイボイラー)が抜き出される。また、塔頂部から配管41により高沸点成分が分離された溜出物が抜き出される。
高沸分離塔40の運転条件は、通常、塔頂部圧力0.1kg/cm〜10kg/cm、好ましくは、0.5kg/cm〜5kg/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜100、好ましくは、0.1〜20である。
【0040】
続いて、高沸分離塔40の塔頂部から溜出物として抜き出された反応液は、配管41によりヘキセン分離塔50に供給される。ヘキセン分離塔50では塔頂部から蒸留による1−ヘキセンが配管51により溜出される。また、ヘキセン分離塔50の塔底部からヘプタ
ンが抜き出され、溶媒循環配管52を介して溶媒ドラム60に貯留され、さらに、ポンプ13bにより第2供給管13を介して反応溶媒として反応器10に循環供給される。
ヘキセン分離塔50の運転条件は、通常、塔頂部圧力0.1kg/cm〜10kg/cm、好ましくは、0.5kg/cm〜5kg/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜100、好ましくは0.1〜20である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図1に示すように、完全混合撹拌型の反応器10と、脱ガス槽20と、エチレン分離塔30と、高沸分離塔40と、ヘキセン分離塔50と、循環溶媒を貯蔵する溶媒ドラム60とを有したプロセスにおいて、エチレンの連続低重合反応(140℃×71kg/cm)を行った。第1供給管12からは、エチレン供給管12aから新たに供給されるエチレンと共に、脱ガス槽20及びエチレン分離塔30から分離された未反応エチレンを圧縮機17により反応器10の液相部に連続供給した。また、第2供給管13から、ヘキセン分離塔50にて分離された回収n−ヘプタン溶媒を、流量25kg/Hrで反応器10の液相部に連続供給した。次に、触媒供給管13aから、クロム(III)2−エチルヘキサノエート(a)(4g/L)と2,5−ジメチルピロール(b)とを含有するn−ヘプタン溶液を、流量0.03L/Hrで供給し、第2供給管13を介して反応器10の液相部に連続供給した。また、トリエチルアルミニウム(c)のn−ヘプタン溶液を、流量0.05L/Hrで、第3供給管14から反応器10の液相部に連続供給した。さらに、ヘキサクロロエタン(d)のn−ヘプタン溶液を、流量0.03L/Hrで、第4供給管15から反応器10の液相部に連続供給した。
【0043】
尚、触媒は、各成分のモル比が、(a):(b):(c):(d)=1:6:60:6となるように反応器10の液相部に連続供給した。
反応器10から連続的に抜き出された反応液は、失活剤供給管11bから、金属可溶化剤として2−エチルヘキサノールが流量0.008L/Hrで添加された後、順次、脱ガス槽20、エチレン分離塔30、高沸分離塔40、ヘキセン分離塔50にて処理された。
【0044】
反応器10内に導入されたエチレンガスと、反応器10内のエチレンの低重合反応で生じる重合熱により液相の一部が気化した気化蒸気との混合気体は、配管2aにより熱交換器16aに供給された。熱交換器16aに供給された混合気体は再冷水冷却水(図示せず)により反応器気相部の実際のガス線速が1cm/sになるように冷却し、凝縮液は配管2bにより再び反応器10に循環供給された。
【0045】
また、熱交換器16aの出口から得られる気体成分の一部は、配管2cにより供給された気液分離器20aにおいてエチレンガスと凝縮液とに分離され、エチレンガスは配管2e及び配管12を介し、ブロアー17aにより反応器10の液相部に循環供給された。尚、凝縮液は配管2dを介して反応器10に循環供給された。
30日間の連続運転後に開放点検した結果、熱交換器16aの冷却伝面(チューブ側)の汚れが、ほとんどない事を目視確認した。
【0046】
(実施例2)
反応器気相部の実際のガス線速を0.5cm/sにした以外は、実施例1と同様の条件で実施した。
50日間の連続運転後に開放点検した結果、熱交換器16aの冷却伝面(チューブ側)の汚れが、ほとんどない事を目視確認した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施の形態における1−ヘキセンの製造フロー例を説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
1…製造フロー例、2…還流凝縮系、2a,2b,2c,2d,2e,11,22,32,41,42,51…配管、10…反応器、10a…撹拌機、11b…失活剤供給管、12…第1供給管、12a…エチレン供給管、13…第2供給管、13a…触媒供給管、13b…ポンプ、14…第3供給管、15…第4供給管、16…コンデンサ、16a…熱交換器、17…圧縮機、17a…ブロアー、20…脱ガス槽、20a…気液分離器、21,31…循環配管、30…エチレン分離塔、40…高沸分離塔、50…ヘキセン分離塔、52…溶媒循環配管、60…溶媒ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム系触媒の存在下、反応器にてエチレンの低重合反応を行いエチレン低重合体を製造する際に、
前記反応器内のガスを熱交換器に導入し、当該熱交換器の出口から得られる凝縮液及び当該ガスを当該反応器に循環する
ことを特徴とするエチレン低重合体の製造方法。
【請求項2】
前記反応器内の液相の一部を気化し、蒸気を発生させる工程を有することを特徴とする請求項1に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項3】
前記熱交換器の出口から得られる前記ガスの一部を気液分離器に導入し、凝縮液と当該ガスとに分離する工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項4】
前記熱交換器が多管式熱交換器であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項5】
前記反応器内における気相部のガス線速が0.1cm/s〜10cm/sであることを特徴とする請求項1に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項6】
前記クロム系触媒を前記反応器内の液相部に供給することを特徴とする請求項1に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項7】
前記クロム系触媒が、クロム化合物(a)と、窒素含有化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)との組み合わせから構成されることを特徴とする請求項1に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項8】
前記クロム系触媒が、さらにハロゲン含有化合物(d)を有することを特徴とする請求項7に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項9】
エチレンを原料とする1−ヘキセンの製造方法であって、
溶媒及びクロム系触媒の存在下、反応器中で前記エチレンを低重合するエチレン低重合工程と、
前記エチレン低重合工程において、前記反応器内に導入された前記エチレンと当該エチレンの低重合反応で生じる重合熱により当該反応器内の液相の一部が気化した気化蒸気とを含む混合気体を熱交換器に供給する混合気体供給工程と、
前記熱交換器に供給された前記混合気体を冷却凝縮し、凝縮液を前記反応器に循環供給する還流凝縮工程と、を有する
ことを特徴とする1−ヘキセンの製造方法。
【請求項10】
前記混合気体が、前記溶媒及び前記1−ヘキセンの蒸気を含むことを特徴とする請求項9に記載の1−ヘキセンの製造方法。
【請求項11】
前記凝縮液が、前記溶媒及び前記1−ヘキセンを含むことを特徴とする請求項9に記載の1−ヘキセンの製造方法。
【請求項12】
前記溶媒がヘプタン、メチルシクロヘキサン又はシクロヘキサン並びにこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項9に記載の1−ヘキセンの製造方法。
【請求項13】
前記エチレンを反応温度100℃〜200℃で低重合することを特徴とする請求項9に記載の1−ヘキセンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−120588(P2009−120588A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264727(P2008−264727)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】