説明

エッチング方法、エッチング装置および記憶媒体

【課題】シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の高いエッチング選択比と、シリコン窒化膜の高いエッチングレートとを両立しうる技術を提供する。
【解決手段】エッチング方法は、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、加熱されたHSOを供給して基板を加熱するプリヒート工程と、その後、前記基板に、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給するエッチング工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に対してシリコン窒化膜を選択的にエッチングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造のための処理の一つとして、半導体ウエハ等の基板の表面に形成されたシリコン窒化膜をエッチング液によりエッチングするウェットエッチング処理がある。ウェットエッチング処理を行うにあたって、シリコン酸化膜を殆どエッチングすることなくシリコン窒化膜を選択的にエッチングしなければならない場合が多々あり、このような場合に、従来は、エッチング液としてリン酸溶液(HPO)が用いられていた。しかし、リン酸のために専用の供給系を設ける必要がある、リン酸によるクリーンルーム雰囲気の汚染防止に配慮する必要がある、そして、高純度のリン酸は高価である、等の理由により、最近では、リン酸を用いないエッチング液が使用されてきている。
【0003】
特許文献1には、そのようなリン酸を用いないエッチング液の一例として、硫酸、フッ化物および水を含有するエッチング液が記載されており、半導体等の電子デバイスの製造の用途には、前記フッ化物としてフッ化水素酸およびフッ化アンモニウムを用いることが好ましいことも記載されている。硫酸、フッ化物および水を含有するエッチング液においては、エッチング液中のフッ化物(例えばフッ酸)濃度を低くすることにより、シリコン酸化膜のエッチング量に対するシリコン窒化膜のエッチング量の比(以下「SiN/SiO選択比」とも称する)を高くすることができることが知られている。
【0004】
しかし、エッチング液中のフッ化物濃度を低くしすぎると、シリコン窒化膜のエッチングレートが、工業的に許容できないほど低くなってしまう。このため、高いSiN/SiO選択比と高い生産性を両立させることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−147304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の高いエッチング選択比と、シリコン窒化膜の高いエッチングレートとを両立しうる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、加熱されたHSOを供給して基板を加熱するプリヒート工程と、その後、前記基板に、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給するエッチング工程と、を備えたエッチング方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、基板を保持する基板保持部と、前記基板保持部に保持された基板に、加熱されたHSOを供給することができるように構成され、かつ、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給することができるように構成された薬液供給機構と、前記薬液供給機構を制御して、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、加熱されたHSOを供給して基板を加熱するプリヒート工程と、その後、前記基板に、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給するエッチング工程と、が実行されるようにする制御部と、を備えたエッチング装置を提供する。
【0009】
さらに本発明は、エッチング装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記エッチング装置は、基板に、加熱されたHSOを供給することができるように構成され、かつ、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給することができるように構成された薬液供給機構を有しており、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記エッチング装置を制御して、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、加熱されたHSOを供給して基板を加熱するプリヒート工程と、その後、前記基板に、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給するエッチング工程と、を実行させる、記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱されたHSOによりエッチング工程に先立ち基板をプリヒートすることにより、エッチング液を構成する混合液体中のHF、NHFまたはNHHFの濃度をかなり低くしたとしても、シリコン窒化膜のエッチングレートの低下を最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エッチング装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示すエッチング装置の概略平面図である。
【図3】エッチング対象基板の構造の一例を示す概略断面図である。
【図4】エッチング対象基板の構造の他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。
【0013】
まず、ウェットエッチング装置の構成について説明する。ウェットエッチング装置は、基板、本例では半導体ウエハWを概ね水平に保持して回転するスピンチャック10を有している。スピンチャック10は、基板の周縁部を保持する複数の保持部材12によって基板を水平姿勢で保持する基板保持部14と、この基板保持部14を回転駆動する回転駆動部16とを有している。基板保持部14の周囲には、ウエハWから飛散した処理液を受け止めるカップ18が設けられている。なお、図示しない基板搬送アームと基板保持部14との間でウエハWの受け渡しができるように、基板保持部14およびカップ18は相対的に上下方向に移動できるようになっている。
【0014】
ウェットエッチング装置はさらに、ウエハWに薬液を供給するための薬液ノズル20を有している。薬液ノズル20には、薬液供給機構22から薬液が供給される。薬液供給機構26は、硫酸供給系(第1の薬液供給系)30と、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つを水ここではDIW(純水)で希釈した水溶液を供給する供給系40(第2の薬液供給系)(以下、記載の簡略化のため「HF系薬液供給系40」と称する)とを有している。
【0015】
硫酸供給系30について説明する。濃硫酸(ここでは濃度98%のHSO、残部水(HO))を貯留する硫酸タンク31に循環管路32が接続され、循環管路32にポンプ33およびヒーター34が介設されている。硫酸は循環管路32内を常時循環しており、ヒーター34により加熱されることによって硫酸タンク31内の硫酸が所定温度、例えば150℃以上、好ましくは170℃以上に維持されている。なお、硫酸の温度は、硫酸供給系30の構成部品に問題となるレベルのダメージを与えない限り、なるべく高い温度とすることが好ましい。一例として、硫酸の温度は170℃とされる。硫酸タンク31は、硫酸管路35を介して薬液ノズル20に接続されており、硫酸管路35には、適当な流量調整器例えば流量調整弁36と、開閉弁37とが介設されている。また、硫酸タンク31に貯留される硫酸は、濃硫酸(90%以上のHSO、残部水)に限定されるものではなく、希硫酸(89%以下のHSO、残部水)であってもよい。但し、希硫酸に含まれる水の量が増すと沸点が低下してプリヒート液として使い難くなるため、希硫酸を用いる場合でもHSO含有量を高くすることが好ましい。なお、希硫酸を用いた場合には、希硫酸中の水含有量に応じて、後述するHF系薬液中の水含有量が減らされる。
【0016】
HF系薬液供給系40について説明する。HF系薬液タンク41には、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つを水(HO)ここではDIW(純水)で希釈した水溶液が貯留されている。HF系薬液タンク41に貯留されるHF系薬液の具体例として、(a)重量%で30.8%のNHHFおよび8.9%のHFを含む水溶液(ステラケミファ株式会社により提供されるLAL5000に相当)をさらに水(純水)で250〜500倍に希釈した溶液、および(b)重量%で7.1%のNHHFおよび15.4%のNHFを含む水溶液(ステラケミファ株式会社により提供されるLAL500に相当)をさらに水(純水)で50〜200倍に希釈した溶液などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。HF系薬液タンク41は、HF系薬液管路42を介して薬液ノズル20に接続されており、HF系薬液管路42には、適当な流量調整器例えば流量調整弁43と、開閉弁44とが介設されている。HF系薬液管路42は、薬液ノズル20の近くの位置にある合流点で硫酸管路35と合流している。
【0017】
薬液ノズル20は、ノズル移動機構50により駆動される。ノズル移動機構50は、ガイドレール51と、ガイドレール51に沿って移動可能な駆動機構内蔵型の移動体52と、その基端が移動体52に取り付けられるとともにその先端に薬液ノズル20を保持するノズルアーム53とを有している。ノズル移動機構50は、薬液ノズル20を、基板保持部14に保持されたウエハWの中心の真上の位置とウエハWの周縁の真上の位置との間で移動させることができ、また、薬液ノズル20を平面視でカップ18の外側の待機位置まで移動させることもできる。
【0018】
さらにウェットエッチング装置は、リンス処理のためにウエハWに純水(DIW)を供給するリンスノズル22と、乾燥処理のためにウエハWにイソプロピルアルコール(IPA)を供給するIPAノズル24とを有している。リンスノズル22には、DIW供給源から、適当な流量調整器例えば流量調整弁22aと開閉弁22bとが介設されたDIW管路22cを介してDIWが供給される。IPAノズル24には、IPA供給源から、適当な流量調整器例えば流量調整弁24aと開閉弁24bとが介設されたIPA管路24cを介してIPAが供給される。リンスノズル22およびIPAノズル24もノズルアーム53に取り付けられている。従って、リンスノズル22およびIPAノズル24も、基板保持部14に保持されたウエハWの中心の真上の位置とウエハWの周縁の真上の位置との間で移動させることができ、かつ、カップ18の外側の待機位置まで移動させることもできる。
【0019】
ウェットエッチング装置は、その全体の動作を統括制御する制御部100を有している。制御部100は、ウェットエッチング装置の全ての機能部品(例えば回転駆動部16、薬液供給機構22の弁36,37,43,44、ノズル移動機構50など)の動作を制御する。制御部100は、ハードウエアとして例えば汎用コンピュータと、ソフトウエアとして当該コンピュータを動作させるためのプログラム(装置制御プログラムおよび処理レシピ等)とにより実現することができる。ソフトウエアは、コンピュータに固定的に設けられたハードディスクドライブ等の記憶媒体に格納されるか、或いはCDROM、DVD、フラッシュメモリ等の着脱可能にコンピュータにセットされる記憶媒体に格納される。このような記憶媒体が参照符号101で示されている。プロセッサ102は必要に応じて図示しないユーザーインターフェースからの指示等に基づいて所定の処理レシピを記憶媒体101から呼び出して実行させ、これによって制御部100の制御の下でウェットエッチング装置の各機能部品が動作して所定の処理が行われる。
【0020】
なお、図示されたスピンチャック10の基板保持部14は、可動の保持部材12によってウエハWの周縁部を把持するいわゆるメカニカルチャックタイプのものであったが、これに限定されるものではなく、ウエハの裏面中央部を真空吸着するいわゆるバキュームチャックタイプのものであってもよい。また、図示されたノズル移動機構50は、ノズルを並進運動させるいわゆるリニアモーションタイプのものであったが、鉛直軸線周りに回動するアームの先端にノズルが保持されているいわゆるスイングアームタイプのものであってもよい。また、図示例では、3つのノズル20、22、24が共通のアームにより保持されていたが、それぞれ別々のアームに保持されて独立して移動できるようになっていてもよい。
【0021】
次に、上記のウェットエッチング装置を用いて行われる、エッチング処理を含む液処理方法の一連の工程について説明する。なお、以下に説明する一連の工程は、記憶媒体102に記憶されたプロセスレシピにおいて定義される各種のプロセスパラメータが実現されるように、制御部100がウェットエッチング装置の各機能部品を制御することにより実行される。
【0022】
処理対象となるウエハWは、その表面(「表面」とはウエハに形成された穴ないし凹部の内表面を含む)にSiN膜(シリコン窒化膜)とSiO膜(シリコン酸化膜)とが露出しているものであり、SiN膜を選択的に除去する必要があるものである。処理対象となるウエハWの断面構造としては、図3(a)に概略的に示すように、シリコン基板(Si)上に、熱酸化膜であるSiO膜とSiN膜とが積層されて、トレンチが形成されているものが例示され、この場合、図3(a)に示す状態からSiN膜が選択的にエッチングされて図3(b)に示す状態にされる。処理対象となるウエハWの他の断面構造としては、図4に概略的に示すように、ウエハWの表面であるウエハWの上面に、SiO膜およびSiN膜の両方が露出しているものであってもよい。
【0023】
まず、上記のような断面構造を有するウエハWが、図示しない搬送アームによりウェットエッチング装置に搬入されて、スピンチャック10の基板保持部14に保持される。
【0024】
[プリヒート工程]
次に、ノズル移動機構50により薬液ノズル20がウエハWの中心の真上に移動する。また、回転駆動部16が、ウエハWを所定回転数例えば100rpmで回転させる。この状態で、硫酸供給系30の流量調整弁36が所定開度に調整されるとともに開閉弁37が開かれ、これにより薬液ノズル20から所定温度例えば170℃に加熱された濃硫酸が所定流量例えば1L(1000mL)/minでウエハWの中心部に供給され、供給された濃硫酸は遠心力によりウエハ周縁部に拡散する。このとき、濃硫酸は、ウエハWの表面のSiN膜およびSiO膜の両方を実施的に侵さず、専らウエハWを加熱するための加熱媒体として作用する。濃硫酸の供給は、所定時間例えば10秒間継続され、これによってウエハWが予熱される。
【0025】
[エッチング工程]
次に、引き続きウエハを回転させ、かつ、硫酸供給系30による濃硫酸の供給を継続した状態で、HF系薬液供給系40の流量調整弁43が所定開度に調整されるとともに開閉弁44が開かれる。これにより、HF系薬液(これは常温である)がHF系薬液供給管路42を流れ、硫酸管路35を流れる濃硫酸に合流し、濃硫酸とHF系薬液とを混合してなる混合液体がエッチング液として薬液ノズル20に供給される。一例として、HF系薬液は、重量%で30.8%のNHHFおよび8.9%のHFを含む水溶液をさらに純水で500倍に希釈した水溶液であり、また、濃硫酸の流量は1L/min、HF系薬液の流量は250mL/minである。濃硫酸とHF系薬液が混合されることにより得られたエッチング液の温度は、混合に伴う発熱により例えば207℃まで上昇し、このような高温のエッチング液がウエハ中央の上方にある薬液ノズル20からウエハWに供給される。このエッチング工程は、所定時間例えば60秒間継続される。なお、プリヒート工程の終了後、一旦硫酸供給系30による濃硫酸の供給を停止し、その後、エッチング工程の開始時に、硫酸供給系30からの濃硫酸の供給およびHF系薬液供給系40からのHF系薬液の供給を同時に開始してもかまわない。なお、硫酸とHF系薬液との混合の結果得られる混合液体の組成は、上記の混合比から特定されるものに限定されず、例えば、重量%で、HSOが50〜90%、好ましくは60〜80%、HF系成分(HF、NHFおよびNHHFの含有量の和)が0.5%以下、好ましくは0.1%以下、HOが5〜50%好ましくは10〜30%とすることができる。
【0026】
エッチング工程の間、ノズル移動機構50により薬液ノズル20をウエハ半径方向に移動させて、ウエハ中心部の上方とウエハ周縁部の上方との間で1回または複数回往復(スキャン)させてもよい。エッチング工程においては、ウエハWの温度が供給されるエッチング液の温度より低いため、エッチング液がウエハWの中心部から周縁部に拡散する過程においてウエハにより冷却され、ウエハ中心部(高温の液でエッチングされる)と周縁部(低温の液でエッチングされる)とでエッチング条件が異なってしまう可能性がある。また、ウエハ中心部が未反応の新鮮な液でエッチングされる一方で、周縁部では反応生成物を含む液でエッチングされ、エッチング条件が異なってしまう可能性がある。薬液ノズル20を上記のように移動させることにより、上記の問題を解決して、より面内均一性の高い処理を行うことができる。なお、薬液ノズル20のスキャンを行う際には、例えば、エッチング工程の開始時においてウエハの中心にエッチング液が落ちる(衝突する)、すなわちエッチング液の供給位置がウエハ中心となる、第1のノズル位置(薬液ノズル20がウエハWの中心の真上にある)から、まず、ウエハ周縁から所定距離(例えば10mm)だけ半径方向内側の位置にエッチング液が落ちる第2のノズル位置に薬液ノズル20を移動させ、次に、ウエハ中心から所定距離(例えば15mm)だけ半径方向外側の位置にエッチング液が落ちる第3のノズル位置に薬液ノズル20を移動させ、その後、第2のノズル位置と第3のノズル位置との間で薬液ノズルを往復させることができる。薬液ノズル20を第1のノズル位置ではなく第3のノズル位置まで戻すという操作は、薬液ノズル20を第1のノズル位置までに戻した場合にウエハの中心部のエッチング量が過大になってしまう場合に有益であるが、そのような問題がない場合には、第1のノズル位置まで薬液ノズルを戻しても構わない。また、薬液ノズル20をウエハの周縁(エッジ)まで移動させずに上記第2の位置まで移動させることによりエッチング液の無駄をなくすことができるが、薬液ノズル20をウエハの周縁(エッジ)まで移動させても構わない。また、スキャンを行う際には、薬液ノズルは一定速度、例えば5〜30m/secで移動させることができる。
【0027】
[リンス工程]
次に、薬液ノズル20からの濃硫酸とHF系薬液とからなる上記混合液体(混合酸)の供給を停止するとともに、ウエハの回転を継続したままDIWノズル22からDIWをウエハの中心に供給する。これによりウエハ表面に残存する混合液体およびエッチング残渣を除去する。なお、DIWは、常温でもよいが、例えば80℃のホットDIWを用いることにより、リンス時間を短縮することができる。
【0028】
[乾燥工程]
次に、DIWノズル22からのDIWの供給を停止するとともに、ウエハの回転を継続したままIPAノズル24からIPAをウエハの中心に供給する。これによりウエハ表面に残存するDIWをIPAに置換する。次いで、ウエハの回転速度を増すとともにIPAの供給を停止し、ウエハ表面のIPAを除去する。なお、この乾燥工程時に、ドライエアの供給、あるいはNガスの供給を行い、ウエハの乾燥を促進させてもよい。また、IPAによるDIWの置換を行わずに、リンス工程の後直ちにスピン乾燥(振り切り乾燥)を行ってもよい。
【0029】
以上により、一連の液処理が終了する。処理済みのウエハWは、図示しない搬送アームによりウェットエッチング装置から搬出される。
【実施例】
【0030】
次に上記実施形態の効果を確認する試験の結果について説明する。表面にSiN膜とSiO膜とが露出した半導体ウエハを用意し、ウェットエッチング処理を行った。エッチング処理の流れは前述した実施例に記載した通り(但し条件1、2はプリヒート工程無し)である。プリヒート工程は、ウエハWを100rpmで回転させながら、170℃に加熱された濃硫酸(濃度98%)を、1L/minの流量で、10秒間、薬液ノズルからウエハ中心に吐出することにより行った。プリヒート工程は条件3の場合にのみ行った。エッチング工程は、ウエハWを100rpmで回転させながら、170℃に加熱された濃硫酸(濃度98%)を、1L/minの流量で薬液ノズルに供給し、かつ、前述したLAL5000を純水で250倍(条件1の場合)、500倍(条件2、3の場合)に希釈した水溶液を250mL/minでの流量で薬液ノズルに供給し、濃硫酸、LAL5000および純水の混合液体を1250mL/minでの流量で薬液ノズルからウエハに60秒間供給した。なお、薬液ノズルから吐出された混合液体の温度は、207℃であった。エッチング工程においては、薬液ノズルのスキャンを行い、薬液ノズルを前述した第1のノズル位置(ウエハ中心の真上)から第2のノズル位置(ウエハ周縁から10mm内側)に移動した後第3のノズル位置(ウエハ中心から15mm外側)に戻し、その後、第2のノズル位置と第3のノズル位置との間で往復させた。
【0031】
試験結果を下記表1に示す。なお、「エッチング均一性」とは、ウエハ上の複数箇所で測定されたエッチング量に基づいて、式「[(エッチング量の最大値−エッチング量の最小値)/(エッチング量の平均値×2)]×100」により算出されたものである。
【表1】

【0032】
条件1と条件2との相違は、LAL5000の希釈率のみであり、条件2の方がLAL5000の濃度が低い(すなわちエッチング液中のNHHFおよびHFの濃度が低い)。この相違により、条件2の方がSiN/SiO選択比が高くなっている一方で、SiN膜のエッチングレートの低下が認められた。この結果は、先行技術文献が教示する通りである。条件2と条件3との相違は、プリヒート工程の有無のみである。プリヒート工程のある条件3では、条件2と比較して、SiN膜のエッチングレートがかなり高くなった。また、条件3では、条件2と比較して、SiN/SiO選択比も高くなっており、かつ、SiN膜のエッチング均一性も高くなっていた。
【0033】
上記の試験結果より、プリヒート工程を設けることにより、SiN/SiO選択比を高めるためにHF系薬液の濃度を低くしても、比較的高いSiN膜のエッチングレートを確保することができることが分かった。また、プリヒート工程を設けることにより、HF系薬液の濃度を低くすることにより高められたSiN/SiO選択比およびSiN膜のエッチング均一性が向上するか、少なくとも悪影響を及ぼすことはないことが確認できた。
【0034】
上記の試験結果からも明らかなように、上記の実施形態によれば、エッチング工程に先立ち加熱された濃硫酸によりウエハを予備加熱するプリヒート工程を設けることにより、エッチング工程におけるSiN膜のエッチングレートを高めることができる。このため、SiN/SiO選択比を高めるためにエッチング工程で用いるHF系薬液の濃度を低くしたとしても、SiN膜のエッチングレートの低下を抑制し、スループットの低下を抑制することができる。また、濃硫酸は、沸点が純水より高いため、100℃以上でのウエハへの供給が可能であり、供給配管系の耐久温度以下であるならば、かなり高い温度でウエハに供給することができる。このため、ウエハを効率的に加熱することができる。しかも濃硫酸は、エッチング工程に用いるエッチング液の一成分であるため、プリヒート工程のために専用の加熱手段(加熱ランプ、ヒータ等)や専用の加熱流体の供給系を設ける必要はなく、また、中間工程(例えば硫酸を除去するリンス工程)を挟むことなくプリヒート工程からエッチング工程に直接移行することができる。
【0035】
上記実施形態においては、処理対象基板は半導体ウエハであったが、これに限定されるものではなく、SiN膜およびSiO膜を有する他の種類の基板、例えばFPD(フラットパネルディスプレイ)用の基板やMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)用の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 スピンチャック
14 基板保持部
16 回転駆動部
20 薬液ノズル
26 薬液供給機構
30 第1薬液供給系(硫酸供給系)
40 第2薬液供給系(HF系薬液供給系)
100 制御部
101 記憶媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、加熱されたHSOを供給して基板を加熱するプリヒート工程と、
その後、前記基板に、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給するエッチング工程と、
を備えたエッチング方法。
【請求項2】
前記プリヒート工程は、前記基板を水平姿勢で鉛直軸線周りに回転させながら、前記基板の中心部に前記加熱されたHSOを供給することにより実行され、
前記エッチング工程は、前記基板を水平姿勢で鉛直軸線周りに回転させながら、前記基板に前記混合液体を供給することにより実行される、請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記エッチング工程は、前記基板への前記混合液体の供給位置を基板中心部と基板周縁部との間で複数回往復させながら実行される、請求項2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記エッチング工程は、前記基板への前記混合液体の供給位置を基板中心と基板周縁との間で複数回往復させながら実行される、請求項3に記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記エッチング工程は、前記基板への前記混合液体の供給位置を基板中心から所定距離半径方向外側に離れた位置と基板周縁から所定距離半径方向内側に離れた位置との間で複数回往復させながら実行される、請求項3に記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記プリヒート工程において前記加熱されたHSOの供給と、前記エッチング工程における前記混合薬液の供給は同じ薬液ノズルにより行われる、請求項2または3に記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記エッチング工程は、前記プリヒート工程における前記加熱されたHSOの前記薬液ノズルへの供給を維持しつつ、前記薬液ノズルに供給されている前記加熱されたHSOに、HF、NHFおよびNHHFのうちの前記少なくともいずれか一つとHOとを混合して得られた前記混合薬液を前記薬液ノズルから吐出することにより実行される、請求項6に記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記加熱されたHSOの温度が150℃以上である、請求項1から7のうちのいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項9】
前記加熱されたHSOの温度が170℃以上である、請求項8に記載のエッチング方法。
【請求項10】
基板を保持する基板保持部と、
前記基板保持部に保持された基板に、加熱されたHSOを供給することができるように構成され、かつ、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給することができるように構成された薬液供給機構と、
前記薬液供給機構を制御して、
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、加熱されたHSOを供給して基板を加熱するプリヒート工程と、
その後、前記基板に、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給するエッチング工程と、
が実行されるようにする制御部と、
を備えたエッチング装置。
【請求項11】
前記基板保持部は基板を水平姿勢で保持するように構成されており、
前記エッチング装置は、前記基板保持部を鉛直軸線周りに回転させる回転駆動部をさらに備えており、
前記制御部は、前記プリヒート工程および前記エッチング工程において、基板を保持した前記基板保持部が回転するように前記回転駆動部を制御するように構成されている請求項10に記載のエッチング装置。
【請求項12】
前記薬液供給機構は、前記加熱されたHSOを供給することができるように構成された第1薬液供給系と、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つとHOとを供給することができるように構成された第2薬液供給系とを有しており、前記第1薬液供給系と前記第2薬液供給系は共通の薬液ノズルに接続され、前記第1の薬液供給系が前記加熱されたHSOを前記薬液ノズルに供給するとともに前記第2の薬液供給系がHF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つとHOとを前記薬液ノズルに供給していない第1の状態と、前記第1の薬液供給系が前記加熱されたHSOを前記薬液ノズルに供給するともに前記第2の薬液供給系がHF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとを前記薬液ノズルに供給している第2の状態とを切換可能に構成されている、請求項10または11に記載のエッチング装置。
【請求項13】
エッチング装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記エッチング装置は、基板に、加熱されたHSOを供給することができるように構成され、かつ、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給することができるように構成された薬液供給機構を有しており、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記エッチング装置を制御して、
シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が表面に露出した基板に、加熱されたHSOを供給して基板を加熱するプリヒート工程と、
その後、前記基板に、加熱されたHSOと、HF、NHFおよびNHHFのうちの少なくともいずれか一つと、HOとの混合液体を供給するエッチング工程と、を実行させる、記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−186221(P2012−186221A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46740(P2011−46740)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】